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検索対象: SFマガジン 1973年5月号
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1. SFマガジン 1973年5月号

べータトロン爆弾第 0 ゞ第義ド - A ゾ A を 0 ⅱ 0 ヤを 0 慶 0 に、 - 大・せ 1 マ 0 第はタま奮材をらをア H 第 OS ま が発射された を 0 Ⅳを代リし第第す 200 物ツを 0 に e 0 第ド みーし、アさ、 5 に朝ア 0 み用 0 取ー 0 い ていくのでることを、心の底では予測しているのである。だから、こ 、ある。 の、世界征服ゲームは、永久に未達成でなくてはならな 。ゲームが終った瞬間に、彼は、世界中に、自分しか存 そして、 世界征服者在しないことを、痛感するだろう。な・せなら、彼に服従し 、たちを、そてしまった人間は、すでに、人間ではないし、征服された の行動に駆世界は、そのとき、世界ではなくなるからだ。つまり、彼 にとって〈現実〉は、存在しなくなってしまう。 りたててい その恐怖から逃れるためには、自分と対等な、現実世界 るのは、そ からの敵を、いつも持たなければならないことを、彼は、 〒 ( : みの恐怖を、 ー・ノオは、エルンスト オなんとかご知っている。だからこそ、ドクタ ・スタヴロ・プロフェルドは、〇〇七号を、いつも歓迎す まかそうと するからでるのである。「おはよう、ジェイムズ・ポンド君」 はないの そのとき、世界征服者は、やっと、生気をとりもどす。 か。世界征彼は、自分の幻想を、もう、引き返し不可能の地点まで、 すみ 服者は、同追いつめてしまったことを、心の隅で気がついているが、 時に世界 ( 気がっかないには、彼は、あまりに賢明であるから ) し 編纖 ' 観察者であかし、自分で自分を安住させるための堅牢きわまる気違い って、俗世病院を築いてしまったうえで、もはや、その病院を破壊す 界に溺れるることは、恐ろしくて、できないのである。彼のエゴは、 0 簀 ことをためとほうもなくふくらんでしまっているので、全世界を、自 らい、離れ分の幻想に、つき合わせてしまおうとするのだ。彼は、現 て、高みか実感覚を、失っているのであり、ジェイムズ”ポンギたち ら観察しては、気違い病院の壁を壊して侵入してくる〈現実〉なので ある。 いる限り、 世界は、、 しつも、彼から逃げていく。世界とコミご一ヶイ だが、彼の自己に対する一抹の不安 ( 正気の部分 ) にも トするためには、彼としては、征服への努力を続けるほか かかわらず、彼に許せる現実は、〇〇七号どまりであっ に、道がなくなっているのだ。 て、気の毒にも、世界征服者は、世間の人たちのつまらな い、だが、確実な重みのある日々の行為ーーー恋人と喧嘩 しかし、真に世界を征服してしまったときには、さらに 深い絶望が、さらに恐ろしい孤独が、自分を待ちうけてい し、また、仲直りしたり、子どもの写真を友人に見せて得

2. SFマガジン 1973年5月号

屯圭円 睛』苑象 田島一一一島」井月 角冲、中新霸 ) 絵扉ト」一明ー ) 造隆 ラ朝 . 淵一〔 一・表 - 目・イ《岩佐 。 F ガジン 5 月号 ( 第 14 巻 5 号 ) \ 38 当ロ年 5 月 1 日印刷発行発行所東京都 ・・・ - イ弋田区神田多田丁 2 の 2 郵 1 0 1 早川書房 ・・・・・イ EL. 東京 ( 254 ) 1551 ~ 8 発行人早川清 編集人森優印刷所東年印・刷株式会社 . フ・アンタジイ & サイエンス・ , フィ . グジョ / 言志特約 眉村卓 遺跡の風。 たび重なる幽霊事件が、住民を。ハニック状態に落し入れ、司政官の真価が問われるー 新冲一載了、月考の憶え描き (J)LL スキャナー 人世世サ S 気界界イ F 大特 カ S み 工で 冫買画 タ報りスく 。・・を第第物物・、をスを を第第を・・ を物物第を第を・・ 藤島 正虫 喬実 1 2 6 1 5 9 162 120 連載読みもの 第四回日本月世界旅行譚 尸ゴミ之グズの世界一第世界征服者 巻末特選 / ヴェル好評司政官シリーズ第三作 早川書房刊行満十五年記念企画ーーー人小説〉〈漫画・劇画〉〈アート〉各」 三大コンテスト応募規定発表ー 5 3 9 8 4 3 2 0 3 2 2 8 てれぽーと : すべーす・たいむ・あんてな : ー横田順弥 189 1 7 8 1 64

3. SFマガジン 1973年5月号

ッドに並びながら、タ・ ( コをふかしているありさまが、見 えるーーそんなふうだったら、ほんとうに、おもしろいだ 1 チューインガムとしての地球 ろう。 私が、小学生の頃たったと思うけれど、少年雑誌のフロ 地球儀というのは、なぜ見ていて楽しいのだろうか。 どんなしろ 私たちの住んでいるこの世界が、ひとつのちつ。ほけな球クに、地球儀がついたことがある。いったし ものかと思っていたら、地球儀の台は、厚紙でできてい 形にとじこめられてしまって、山の起伏も、海の深さも、 て、それをくみたてる。そして、地球の本体は、たしか、 きめられた色彩に分離されていて、そこで、人間たちのい コムかなにかで、ふくらませるのだった。つまり、風船な となみが行われている都市は、たたの記号になってしまっ のだ。で、地球を風船にしちまって、手玉にとって遊ぶと ている。 いうのは、チャップリンが「独裁者」のなかで、やってし なるほど、世界とは、こんなぐあいものなのか。この地 まっているが、そうだ、いま思いついたのだが、こんなア 球儀が、もし、ほんとうに、あらゆる現実世界のミニチ、 ほら、フーセン・ガムというや アであって、顕微鏡でのそいてみれば、夜の部分の都市のイデアは、どうだろう つが、ありますね。少し大ぎめのガムで、ふっとふくらま あかりのなかに、そのカーテンの向う側で、男と女が、べ 連載■ LL コミックスの世界⑩ 世界征服者 今は地球、明日は宇宙だ ノ′ノ′ノ・ カット☆水野良太郎

4. SFマガジン 1973年5月号

そして、博士は、冷酷にも、デ・アプ 0 を、タイ、・と 0 て、世界征服など、なんの現実的意味もない、お笑い ~ シンをつかって、人類の死減した超未来の地球に送りこ草にしかすぎない。何が現実的かを、常に、本能的に嗅ぎ 8 み、ヴァレンシアを救いだす。「ヴァレンシア、わしらにわける女は、たとえば、ヒドラ皇帝の娘のように、あっさ りと父を裏切っても、平気である。そんなとき、女を責め : いっしょに取り戻す一生が、あるんだ」 てみたところで「あら、なによ。あんたのいうとおりして 「いや、触らないで」と女は答えた。 、こら、いまごろ、どうなってると隸うの ? たしナし 「なんだって ? わしは、きみのために、ディアプロを、 あたしがいなけりや、なにひとつできないくせに」などと ほうむったのじゃないか」 あたしは、この一瞬いわれて、男は、グウの音もでない。 「もし、それが信じられたら : そして、女は、世界征服なんか夢みないかわりに、それ を、ずっと待ち望んでいたわ。残酷非情のドクター・ドウ ・フォン・ドを夢みる男を、現実に、あっさりと征服してしまう。だ、 - 1 ムではなく、むかし知っていたヴィクター ドクダー ・ドウーム ゥームに愛される者として。でも、ディア・フロの運命を知たい、男というものは、 ( 破減博士ほどではないにして ったとき、そのむかしの男は、永久に去ってしまったのも ) 、なんらかの形で、世界征服を夢みるもので、そのた めに、「しようがないわね ! 」と、女をてこずらせている よ。それとも、あたしが違っているのかしら。ヴィクター ・フォン・ドウ 1 ム、言って ! 一度は愛した女のためのだ。 だが、たとえ、世界を征服してみたところで、女のここ に、あなたの高大な野心をすててくれると : : : 」 ろひとつ、捕えることができなかったとしたら、それが、 ドウーム博士は、答えない。 「その沈黙が、答えなのね。では、あたしは、去らなくてなんだというのか。 はならないわ」ヴァレンシアは、赤いマントをひるがえし て、男に背を向けた。「あたしたち、もう二度と、会うこ とはないでしよう」 暗黒のなかに、とり残された男は、じっと立っている。 ドウーム 世界が、破減と呼んでいるのは、そのすすけた鋼鉄のマス クでもなく、その背後の焼けただれた顔でもなく、彼の人 間そのもの、そのゆがみねじれた存在そのものであること に、ついに気づきながら。 考えてみると、世界征服を夢みるのは、きまって男性で あって、女性の世界征服者なんて、きいたことがない。 どんよく いつの場合にも、女は、生きることに貪欲であり、女に

5. SFマガジン 1973年5月号

にも実在していないのだ ! 幽霊はおまえたちの心が生んだ幻想に 過ぎない。分るか ? , 幽霊なんていやしないんだ ! 先住種族はも ペリコフスキーは正しかったか ? う減んだ。減んだものに、何の力もない ! 」 トマスは身をかがめて何かを拾いあげ、それをふりまわした。 本号のもう一つのこの欄で、天文あったが、結論はこういった当時の 神経破壊銃だった。 学上の比較的新らしい二つの説に対 ( いや、現在でも ) 天文学の常識を する学界の風当りの強さをご紹介し無視したものであった。しかも、そ 「ここを出ろ ! 」 た、ところで、今から二十年ばかり ういう議論からひき出した、太陽系 ~ 「ここを出て、家に帰り、考え直すんだ , トマスはわめいた。 前、世界の科学界の激しい批判と攻の各天体の物理的状況などに対する さあ出ハ撃の的となったべリコフスキーの異理論がまた常軌を逸したものだっ ! ここへ来ても何にもならない ! 幽霊などは存在しない た。たとえば、金星は、ほんの何千 ) 端の著「衝突する字宙」 ( 鈴木敬信 るんだ ! 出ない者は殺してしまうそ ! 」 ~ 訳。恒星社刊 ) に対する科学界の現年か前に木星から割れてとび出して 来たばかりの天体で、それ以後地球 カゼタは了解した。 在の立場はどうであろうか ? この著は、世界の古い記録やら文や他の天体と接触したりしているの トマスは、演説と銃のカで、タュネインの人々を動かそうとして 献にくわしいべリコフスキーが、世で、いまだに白熱状態にある : : : で いるのだ。自説にこだわるあまり、それを実行し実証しようとして 界各地の神話や伝説、地質学的や考あるとか、その上の大気は主に炭酸 古学的なデータなどを集めさらに古ガスから出来ている。また太陽系の いるのだ。 各天体の間には電気的な力が大きな 代文明に関する記録を克明に検討、 そんなことで、恐怖におびえ亡霊にすがろうとしている人々の心 役割を果している : : : など、当時の それらを綜合して解釈した結論とい うことである。それは、火星や金星天文学的な考え方とは真向から矛盾 が変わるはずがない。 のような大きな天体が地球に衝突せするものであった。その本は、一九 それどころか、へたをするとトマスは殺人をやるだろう。そうな んばかりに近づき、それほど遠くな五 0 年の発行前から、早くも科学界 ) の非難攻撃が開始され、発行後ほん い過去の地球に大激突が起ったとい ったら、人々の憎しみはトマスに集中する。 うのである。 の数週間でその本の発行権はダブル 危険だ。 ディ社に譲渡された。その本を出版 その最近の例は、紀元前八世紀の 終りから七世紀の初めにかけて火星したマグミラン社に二十五年間も勤 すでにカゼタたちの車は、ト = の立「台石の下、たち一 めていた担当者は、このことで即座 門が地球に衝突しかけて起ったもの の車のそばに着陸していた。 に首になってしまった。 で、その前は紀元前十五世紀ごろに 「やめろ ! 」 その後も、この本と学説に対する ~ ~ 起り、これは当時まだ彗星だった ( ! ) 金星が地球に衝突しかけたも圧迫はつづき、べリコフスキーの学 どなりながら、カゼタは車を飛び出した。 のだ、という。それ以前にも、そう説になかば好意的であった、当時へ イデン・プラネタリウムの所長で、 「あっちへ行け ! 」 ⅲした出来事は何度も起っており、そ の中には木星が地球に衝突しかけた米国自然科学博物館の天文部の部長 ~ トマスは銃をこちらに向けた。「堕落司政官は引っ込んでろ ! 」 ードン・アトウオターなど当 だったゴ こともある、というのだ ! 「やめろ、トマス ! 」 その立論の方法は、ちみつを極めは、好意的な書評を書こうとし、ま た彼のプラネタリウムでその説に基 たもので、非常に興味深いものでは 「うるさいそ ! 」

6. SFマガジン 1973年5月号

差違があるんだ。その違っているポイントのひとつが女房だ。つい ジ岡にそう命じた。キジ岡は暗いまっすぐな廊下の奥へ、ガタガタ さっき俺はそれに気づいたんだ」、「いいか、よく聞 % お前がどと駆け込んで行った。板ばりの廊下にキジ岡の木のサンダルの音 んな不幸の種になっているか、よく教えてやる。お前と別れたあが、いつまでも続いていた。「帰りなさい。うちの人が来ない問 と、あの人はどうなったと思う。知るまいが。あの人はお前と暮しに」と彼女は言った。「火事の町を通って、あのうちへ帰るのよ ていた時より、ずっとしあわせになったんだ。ここの院長夫人にな奥さんや坊やが待っているんでしよ」「うん」と俺は素直にうなず ったんだそ」「本当か、それは」俺はうろたえた。「そうさ、本当 いた。「帰りたいんだ。でも出口が判らない」「相変らずねえ」彼 さ。それなのにお前は舞い戻って来た。夢うつつの世界をさまよう女はさげすむでもなく、仕様がない、、と言った仕草で首を振ってみ 重病人のふりをしてな。院長だってお前に返すのが辛くないはずはせた。「もう二度と逃げだしちやダメよ」そう言って待合室の先き ない。あの人だって嫌だったろう。しかしこの世界で、一度だってにある大きな階段を指さした。俺は足音をしのばせて階段へ向っ お前は本当の今の女房を思い出したか。子供のことを考えたか。考た。「それから、二度とわたしの所へも来ないで。迷惑だわ」それ えまい。考えまい。考えないからこそ、あの人はお前の所で暮さな は、」そっとする程冷たい言い方だった。 ければならなくなったんだ。お前くらい薄情な男を、わたしは見た今までに、彼女だけに限らず、何十人、何百人の人間に、俺はそ ことも聞いたこともない。ひとでなし : : : 」キジ岡は吐きすてるよういう言われ方をしたことだろう。そのたびに、返す言葉もなくい うに言った。「判らなかったんだ。だがもう思い出した。だから俺そっと背を向け、打ちすえはしないという相手の最後の好意だけを は帰る。帰してくれ。ここから逃がしてくれ。逃けだしたいんだ」味わいながら、あてのない歩みをはじめたものだった。それを今も だがキジ岡は唇を歪めたまま笑いだした。「また逃げるのか。どこやっている。みんな俺に我慢をしてくれた 3 我慢に我慢を重ね、も からでもよく逃げだしたくなる奴だなあ。そんなに何もかもから逃うこれ以上どうにも我慢がならないという所まで我慢してくれた挙 げていて、よく今日までひとつの世界で生きていられたもんだ。お句、「二度と来ないで」と、最後の我慢をふりしぼって、感情を押 前は向うから逃げて来たんだそ。木の枝に腕をひっかけた時、どうし殺した声で言うのだった。相手が間達っていたことはただの一度 して自分のカでそれを外そうとしなかったんだ。お前はあの時、自もない。い つも悪いのは俺の方だった。そして、住みなれはじめた 分からこっちへ逃げて来てしまったんだぞ」その時、ガラスの扉の世界を逃げだし、新しい世界へ入ってまた人に我慢をさせるのだっ 外で、ガチャガチャと鍵をいじる音がした。やがて扉があき、白い だが今度は逃げるんじゃない。生れてはじめて帰るのだ。息子の カーテンが人がたにふくらんでうごめいた。 カーテンの裏側から女の姿が現われた。前の妻 : : : いや、今の妻いる世界へ・その母のいる世界へ。 か。とにかく現実世界では別れた前の妻だった女だ・「キジ岡さ俺は手さぐりで長い階段を昇り切り、上の廊下へ出た。何度もこ 3 ん、わたし帰って来たわ。うちの人に知らせて来て : : : 」彼女はの病院へ来たが、その二階ははじめてだった。いつも用は一階で済

7. SFマガジン 1973年5月号

。を 2 ををななン学 いる筈の日記帳が、二年も使っている筈の日記帳が、どの頁もまっ いのだ・あの火事の世界で俺が不条理を重ねすぎた時、俺のどこか 白だったのだ。 に睡っていた現実世界的な理性が覚醒して、それを打消そうとした 愕然とした。いったいこれはどういうことだ。俺はいったい・ のだ。そこでもっと辻つまの合う、医者が登場したのだ。今度は世 界を長つづぎさせる為に、俺を仕事なしの、のらくら男に仕たて、 目の前がまっくらになると同時に、俺は恐ろしいひとつの真相に極力辻つまを合わせようとしたのだ・たしかに俺は日記をつけつづ 思い当った・ けていた。だが、現実の行為のない日記が、その記事を残存させら 俺はまだインナー・ワールドにいる。 れるだろうか。 内宇宙は現実世界のように、時系列に従った連続などしてはいな ここはまだ俺の内宇宙なのだ : に 7

8. SFマガジン 1973年5月号

と、やってのけるてあり、そこから、四方八方へと、手が伸びている。ここ ことが、できる。 は、国際的陰謀団、ヒドラ党の地下本部、ヒドラ皇帝の指 たが、地球儀を、令室なのである。 じっと、いつまで「でも、お父さま、そんなこと、不可能だわ。全人類をう も、あきすにながちまかすなんて、そんなこと、できっこないわ。それに、 めているのは、必シールドのことは、どうなんですか . す、男であって、 「わしのペータトロン爆弾が、ひとたび軌道に乗って、地 女ではない。世界球上のいかなる地点でも一瞬にして吹きとはすことができ 地図のなかに、」 幺るようになれば、シールドの連中の反撃など、取るに足ら 想をみるのは、男ぬ。わがべータトロンは、この地球に向って、剣をつきっ たけなの けているようなものだ。それは、ただ、わしの命令によっ てのみ、作動するのじゃ。よいか、娘よ、おまえは、この 2 世界地図を 栄光の瞬間を、わしと共に、わかちあうのだ」ヒドラ皇 前にした男 帝の眼が、マスクの奥で、ひかった。「わしが、全人類の 工 うえに君臨する瞬間をな ! さめ、爆弾打ちあけの用意は 「どんな犠牲をは よしカー ハイル・ヒドラー・」 らったところで、 その価値があるの「待って、お父さん」ここで、金髪のヒドラ皇帝の娘は、 目に涙をうかべている。 た。なによりも、 偉大なのだ。わし「お父さん、どうして、世界を征服するなんて、気違いじ の計画が成功すれみた計画にとりつかれてるの ? そんなことしても、た ば、人類の歴史はた、お父さんもあたしも、不幸になるばかりよ」 じまって以来、だ 「おまえには、わかっていないのだな。娘よ。わしがやっ れが持ったよりていることは、すべて、おまえのためだということが」 も、はるかに大きな力を手にすることになるのだ。わがヒ 「うそよ、お父さん , 涙にぬれた顔で、娘は、きっと父親 ドラ党が、地球を支配するのだそ ! 」 を見つめた。「あたし、こんなこと、してほしくないわ。 異様なマスクで顔をかくし、ミドリのコスチュームに、 あたしが欲しいのは、ただの、まともな、あたりまえの生 大きく白い ( ヒドラ ) の文字を染め抜いた姿で、男は、活よ。あたりまえの女の子のような」 壁の前に立っている。その壁こよ、 、つ。よ、こ、世界地図 が描かれていて、その中むには、ヒドラ党のマスクがかけ この、世界地図を前にしての ( 一七八ページにつづく ) ドクター・ドゥームが行く

9. SFマガジン 1973年5月号

べてもらうといいでしよう。私は専門じゃないんで、はっきりした世界だった。あれは俺の内面の世界だったのか : そうだ、あれは俺の内宇宙なのだ。醒めてこの世界から見れば、 ことは申せませんが、仕事への圧迫感がおありになるんじゃありま せんか。それにだいたいあなたは血圧が高かったし : : : あなたの体実に不条理な事柄の積重ねではある。しかし、隅から隅まで鮮明に が自然に病気になって、いや、病気の形をとって、あなたの体を守記憶しているさっきの夢の中で、俺は一瞬たりとも不条理を感じな ろうとしているんです。いまあなたは四十八度五分あります。でかった。俺の内宇宙では、あれは不条理でも何でもなく、その中で も、そういうわけで、この熱はすぐ下るでしよう。風邪でもなんで俺は一生を過している筈なのだ。あのあと、火や警官に追われた俺 もないし、内臓にもこれと言って悪い所はありませんからね。だかの人生はどうなって行くのだろう。ああやって一生逃げつづけるの らと言って無理は禁物ですよ。このまま安静にして、しばらくのんか。それとも大火の納ったあと、望みどおり逃げのびて友人たちに びり神経を休めてください」 めぐり合い、体験談に花を咲かせるのだろうか。 「どのくらい寝てたらいいんです」 垣間見た俺自身の内宇宙に、俺は次第に憧れるようになった。妻 「一一、三日でいいでしよう。鎮静剤を差しあげますから、あとでとにかしずかれた寝たきりの数日間は、ほかにすることとてなく、俺 りに来てください」 の内宇宙への想いはいやが上にもつのって行った。何やらまがまが 医者は妻にそう言うと、器具を鞄に入れて立ちあがった。 しく、しかも俺にびったりの世界が、そこにはあるのだ。 「ただし、そのあとでも当分原稿書きなんかしてはいけませんよ。 日が経って、往診してくれた例の医者のいる病院へ、妻につきそ 無理をしたらとり返しのつかないことになります。様子を見けれわれて行った。それは芝生を植えた前庭のある、かなり大きな病院 ば判りませんし、専門医に診てもらってのことになりますが、多分で、小児科、内科、外科、神経科などがあった。 半年か一年は仕事のことを忘れて、のんびりしていただかないと・ : あの医者の言ったとおり、神経科で俺は向う一年間、原稿を書く ことをとめられた。散歩と病院がよいだけが仕事になり、のらくら ・ : ではお大事に」 妻は医者を送りに立ちあがり、立っ拍子に、ひょいと俺の胸へ軽と毎日遊んで暮した。 く手をあてて行った。それが、夫婦にだけ通じる情愛をあらわして それでも、長年の習性でペンを持たないことが淋しく、日記だけ いて、俺の心に泌々とした感情が拡がって行った。 は妻の目を盗んでこっそりとつけつづけた。 誰もいなくなって、俺はじっと天井を睨んでいた。 俺が使っている日記帳は、博文館の三年連用当用日記だった。も 俺は本を手にしたまま失神したのだという。だが、俺の意識にはう十数年もそれを愛用しており、今使っているのはおととしの暮に 一瞬の切れ目もなかった。あの火事の街は夢だったのだ。そしてそ買った奴だから、二年目、三段になった二段目をつけていること の夢の世界へ、俺は現実の世界から、実になめらかに移行して行っになる。 たのだ。それにしても、どこからどこまで、実に見事に構成された ところが、俺は或る夜とんでもないことに気づいた。毎日つけて

10. SFマガジン 1973年5月号

ヒドラ皇帝と娘 意になったり、そうした、他意のない現実に、自分を参加れは、世界を破壊できる。おれは、破「破減なのだ。こ させることは、できないのである。それを認めてしまっての惑星の最後の日を、いつでももたらすことができる。欲 は、自分を否定することになってしまう。 しくないものは破壊し、欲しいものは、取る ! 」 破減博士が、まだ、幻想の城を、強固に築きあげ、 uJ い、 0 し〕を、要、 34 る以前の恋人、ヴ , レンシアは、どうな 0 たのだろ うか。あるとき、同じく世界征服を狙う悪役ディア 0 下を材 ・フロが、成長したヴァレンシアを人質にして、博士 を脅迫したことがある。博士は、悩むーーー「わし は、冷酷で、無慈悲で、あらゆる人間の感情を越え 42 ア f.n ている。良心のとがめなしに、世界を破壊すること も、平気だ。だが、記憶の片隅に残っているひとり の女が危機に瀕している事実が、わしを、とまどわ = な、、、日靦 せる」 失われた楽園の夢、ことと次第によ 0 ては、彼と 0 訳 力いま送っていたかもしれない女との生活。 イ〔 ( 0 第響 や、それは、 いまからでも可能かもしれない。 し、この、長いあいた死んでいた夢を、しつかりと 掴みなおし、現実にしてみせたならーーー。 「いや、おれは、選択の余地があるように考えてい 7 料 5 たが「もう、とっくの昔に、選ぶ道は、決まってい たのだ。このスクのうしろの顔を見ろ ! おれ自ア巳 身すら、気が狂いそうになるこの顔を ! おれは、 夢を見ているのだ。夢なんて、鏡みたいなものだ。・声、し、 ただ、壊すためにあるのだ ! 」博士は、鏡を割る。 , ア日 王国じゅうの、すべての鏡を割っても、正常にはも どれない。ひとなみの感情など、持てやしない。 「いや、なぜ、おれは、ただ 0 男なそになろうとす、 , 8 るのか ! おれは、それ以上の存在ではないか。お ドクダー・ウーム