る。この時間を停止させることは自己の解放と共に死を ・ハリスンなど ) によるジェリー・コーネリアスを主人 も意味している。 公とした作品のアンソロジーも出版されている。 だがジェリー・ 彼はセックスにおいて解放を実現させようとするが、 0 ーネリアスはヒー 0 ーと呼ばれる存一 そこでも時間の介入を拒否することはできない。彼女と在とは遙かに遠く、この作品も彼自身の問題よりも状況 - の完全な合一が一瞬の幻覚にすぎないことを知り、宇宙の方に重点がおかれている。彼は万人に理解されたいと に対する自己の存在の狭小さを知覚しながらも彼は志向思いつつ、状況の中での意志は曖昧で結局は願望を果た しつづけなければならない。 この絶望的な闘争は独房とすことができない。状況の中でコミュニケイションを断 いう現実の状況によってさらに複合していく。独房から絶された人間というのは極めて現代的な実感を伴ってお の釈放は解放ではなく、都市の崩壊は死による解放であり、 - ここではさらに西欧と中国の断絶という今日的な問 り、解放を希求する現状は閉ざされている。解放と拘束題も関わって多重のディスコミュニケイションが表わさ とが対置物としてではなく表裏一体としてある人間存在れている。ただジェリーの曖昧さには全てを見通した諦 の状態を見事に描いた作品だといえるだろう。 感にも似たものが感じられ、いわゆる状況内人間という それにしてもラングドン・ジョーンズは極めて・観点のみで捕えるのはいささか安易な気がしないわけで ハラードに近いと思える。「音楽創造者」はむしろヴもない。事実この作品においても全てを包合する宇宙的 - アーミリオンサンズを想起させるが、「大時計」やこの意志の存在が示され、現代の終末が暗示されている。訳一 作品での時間の観念、・ハラードの車への関心と同様の機者がジェリーはキリストの・ハロデイだと思えると言って 械類に対するフェティシズム的な執念、セックスなど多 いたが、確かにジ = リーには宇宙的意志の決定のもとで一 くのイメージが・ハラードの作品にも見出される。むろん何もなしえずに終末世界を彷徨する神といった感があ 表現方法は異なっており、ジョーンズには・ハラードほどる。 まもなくジェリー・ の論理性はないがその情念的な文体は彼独自の世界をつ コーネリアス・シリーズの長篇 くりあげている。 "Final Programme" が翻訳されるはずで、それによっ てこの短篇の性格も少しは明瞭になるかもしれない。 「北京交点」マイクル・ムアコック ムアコックは既訳のある火星シリーズをはじめ多くの なお各作品の初掲誌は次の通り。 シリーズを書いているが、この作品もジェリー・ コーネ「創造性の問題」・・ディッシュ リアスを主人公としたシリーズの一作である。ジェリー Fantasy 陸 Science Fiction ( 1967. 4 ) ・コーネリアス・シリーズでは他のヒロイック・ファン 「時間機械」ラングドン・ジョーンズ Orbit 5 ( 1969 ) タジーと異なって現実的な社会問題や文明論と関わって おり、そうした結びつきのおもしろさからか他の作家た「北京交点」マイクル・ムアコック ち ( オールディス、ジョーンズ、スビンラッド、・ The New SF ( 1 ま 9 ) 解説・山田和子 9-
揺れている頭を。彼は眼を動かして彼女の顔のあらゆる部分を同時 態における反映された可触知性を発見するのである。 に理解しようとした。彼は笑った。そして彼女の顔に返答の微笑、盟 彼は本から目を上げた。そして彼女を見た。彼女は二人の・ ( ス乗彼自身の感情の反映を認めた。二人は長い間接吻した。そしてゆ 0 くりと離れた。 務員と話しながらロンドン・ハスはもう着いただろうかと尋ねてい 「家の状態はどうだい ? 」 た。彼が急いで本をしまって立ち上がった時、彼女は気づいた。里 「あまりよくないの。難しいわ」 い毛皮のコートを着た彼女、その顔は近づくにつれて彼自身の顔に 二人は歩き出し、互いの体に腕をまわして・ハス停車場を出た。 なっていく、毎朝髭を剃る顔のように見慣れた顔、彼が知っている 「ます何か飲みに行ってもいいかな ? 何か入れなくてはどうしょ 全ての顔の総和をも越える顔、彼自身の、両親の、友人たちの、こ れから発見するであろう他のいかなる顔をも越える顔。彼女の顔はうもないんだ」 「もちろんかまわないわ」 混乱していた。二人はゆっくりと歩みよっていった。前の出逢いの 時は溢れんばかりの歓喜に駈けよ 0 た。次の出逢いにおいては絶望二人は道路を渡 0 て『ザ・シ = イクス。ヒア』に入る。飲物を手に によ 0 て素速く行動するだろう、抱き合 0 て密閉される互いの腕のテー・フルにつくと、彼女は 0 ートを広げて灰色のドレスを見せる。 中から世界を閉め出してしまおうとして。彼は腕の中に優しく彼女彼は言う、とても素敵なドレスだ、そしてどちらからともなく「愛 を迎えた。静かにロづけを交し、そして抱き合う、互いを強く支えしている」と。普遍的な再保証、常に必要なもの。柔らかい唇が彼 合う。彼女が囁ゃいた彼の名は嘆息、沈んでいく音の変化は積み上の唇に。彼女の眼の奥の不幸。記憶においては多くのことは語られ 二の文が実際に言語とし げられてきた圧迫が突然解き放たれたことを暗示していた。今こそない。一つの文字が検討されてのち、一、 正しい、すべてが無限に正しいのだ。彼女の首すじに押しつけられて表わされる、その過程は絶えず変化するものであるが。「彼はす る彼の顔、鼻腔を満たす彼女の髪の香り、腕の中で暖かい彼女の肉べてを知性的に受け入れることができるの。そしてやめさせようと 体。今こそ彼は生きていた・永遠にこの状態から離れたくなか 0 もしない、私のためにね。私があなたと会 0 ていることも知「てい た。両手を彼女の背に走らせると彼女の唇を首すじに感じる。彼はるのよ」 完璧な存在状態の奥へ溶け込んでいった。耐え難い緊張と公式化し「わかっている」 、え、今日のことよ。彼は見送っていた、車で出かける私をみ 得ない欲望を内包する状態、そのために彼の呼吸は爆出し、自分が「いし 発する音を、一一人が発する音を聞きながら変化していく、白熱するつめていたわ」無言の恐怖感、それは言語パターンの変化にもかか 「生理やら何やらでエネルギーがなくな ォルガスムの搾出される二人の肉体の音声へと。彼の肉体を駈けめわらず動こうともしない。 ぐる圧力の波、頭が動き、唇が彼女の頬を、耳を、首をかすめ走っていくわ。最悪の精神分裂状態よ。私の一部は情事に関わってい る。彼は感しる、伝達し得ない情動の伝達というあり得ない波動にるという考えに耐えられなくて、残りの部分はあなた以外の何も望
のに相を変えてサイクルを再開する。このサイクルの連環が、諸段次元円環構造を形成しているのである。したがって、この円環のす 階の相関性によって機械の基礎的な結晶能力を供結するのである。 べての横断面がそれそれの『時間』点における宇宙をつくりだすは この装置にはまた粗雑な機構が備わっているが、これらの歯車やモすである。この『時間』とは単に自己の周囲の形状を観察している 1 ターやチェーンなどは変形の全段階における媒体のスムースな移生物の知覚でしかなく、それは形状の極めて小さな一部分しか意識 行に欠くべからざるものである。この機械は相関性とパターン、類しえない彼の存在にとっては当然である。彼の知覚は円環の別の部 似性を解決する。時間機械の幾つかの連環は形而上学的に存在して分にも絶えす無意識的に働きかけており、実際は静止している物体 いるといえるほどである。 に運動と活気の印象を与えると同時に時間的延長に関して誤った印 この機械が今日までに建造されたいかなる機械的構築物にも似て象を自己に与える。たとえば波型の線を引いて眼で辿ればそれは上 いないことは一目瞭然であろう。作動方式の詳細な分析は可能であ下に動いているように見えるが、一方知覚を拡張すれば直ちに完全 な不動物体として認識されうる。我々の経験する時間とは各自にと るが、そのような説明をしても読者は各サイクルの機能を完全には 理解できないはすである。また機械通の読者ならば直ちに、不必要ってのみ通用するものでしかなく、計測しうる物理的事実というよ りはむしろ内的心理的活動なのである。 かっ不経済的な構成要素があることに気づいてこう指摘することは 疑う余地のないところである、この機械を動かそうとするならばさ たとえば我々が部屋の一端に立って反対側まで歩いていく際の限 らに多くの要素が不可欠であり、現在の状態では全く何もする能力定された知覚は確かに運動の印象をもたらす。実際には運動も時間 力事 / し 、と。この時間機械は実際には無数の異った方法で作動させの一相であり、この運動が意識する人間の精神的印象でしかなく部 ることができる。また一方である者に対して、あるいは無数の観測屋を横切る肉体も静止した固体物質にすぎないことは知覚限定の欠 者の個人個人に対してより一般的な意味で作動することもありう如した人間にとっては明白なはすである。 る。しかもこの機械は観察されることなくそれ自身を完全に操作すここで、時間とはかって考えられていたような障碍ではないこ ることが可能であり、実行する。そして異なったあらゆる時間の点と、精神機構としての時間は根本的な変革も完全な破壊も可能であ ることが理解される。これが以前に認識されていなかったのは驚異 に存在する構築物の個別部分に対して一様に作用するのである。 時間が移行する流れでないことはやがて理解されるであろう。時であるが、『精神拡張』幻覚剤などの服用者によって観察された時 間とは連続体の副次的な一属性で、活動している生物にのみ通用す間拡大や時間破壊は、様々な通常の精神状態における、より一般的 る知覚の無意識的変化によって成立している。生物の意識は極めてな時間歪曲と同様に度々注目されていた。 この時間機械はパターンの相関性に置換された作用によって、観 限られた一連の感覚印象であり、三次元においてのみ作用する。宇 デジャ・ピュ 宙は横断面に事物の物理的全事実を包含している四次元幾何形態で察者の知覚を結品化し、実体ある既視感を生み出すことができる。 構成されており、歪曲しているために結局それ自身に再結合してそしてその歯車とピストンの固体性に我々は宇宙のあらゆる存在状 5
移った、是れより先き、尚空気中を翔翔して居た頃かへ行けないものかと思案しているころ、きん子にねたみ ら、二十名の佳人は、寒冷に堪え兼ねて、歯根の合はぬを持つ高利貸しの女将が、きん子は月世界征服をくわだ ぶるぶる までに戦々し始めたが、きん子のみは、平然として毫もてている悪女だから死刑にしてくれと、請願の手紙を・ハ カニシ国に大砲で打ちこむ。もちろん、個人の費用でだ。 寒冷を覚えず、さも愉快らしく話を仕掛くるのであった。 既に空気以外の境に出てから後は、電気作用に依り、 国の名前通り頭の悪い・ハカニシ国の皇帝は、このロ車 一時間に十万哩といふ非常な速力で進行するゆゑ、寒し に乗せられ、きん子に節解の刑をいい渡した。これは人 も暑いもなく、震動の甚しいので、皆一同に殆ど無感覚間を殺さず身体を分解する恐ろしい刑だ。 の状態に陥り、無我夢中の間に、ハヤ月世界へ到着した。 当時の判決文は左の如くである。 地球界大日本国浮浪人 妙齢の二一人の乙女が薄着で宇宙空間を飛んで行く 図、アポロ宇宙船のダルマみたいな宇宙服なんか比較の秋野きん 地球界計算年齢十五年五月 対象にきえならない。外国のどの作品にこんな月旅行の 場面があっただろう。日本・ハンザイを唱えたくなっ右之者海賊等不良之徒と共謀之上、地球界日本国華族 てくる。 公爵秋野安家の代理人と偽て、月界諸国占領、財貨盗 女性月世界探険隊が着陸したところは、月世界の赤道奪、 - 帝王及び其の他の元首弑殺の為め、潜来候儀、従犯 直下の沙漠のまん中。赤道直下ともなれば、月だろうが沢村とみの自白に依て明白也、依之節解の刑に処罰候事 月日 星だろうが、昼だろうが夜だろうが、理由なんかなく暑 。やっと川を見つけて二一人が水浴びを始めると、そ 月界逸遐弐志国 司法官 こへ現われたのが月世界の蛮族。裸の若い女性が好きな 点では、地球の男どもにいささかも引けをとらない。た ちまち九人の乙女はなぶり殺しにされ、きん子は他の数きん子が節解の刑に処されているとは知らない久麿 あっはま 人と熱帯国・ ( カニシの首都熱浜に連れ去られた。まるでは、どうしても月へ行く方法を発見しようと、羽衣の発 温泉場か海水浴場みたいな名前の都市だ。きん子は総裁明者筆野を訪ね、ベルヌの「月世界旅行」にならって共 に面会して、地球からの友好のために訪問したことを告同で砲弾によるきん子救出の月旅行の準備にとりかかっ げるが、結局は羽衣を取りあげられ見せ物同様にされてた。そこへ、月から逃げ帰った一人の乙女がきん子の身 しまった。事態は風雲急を告げてくる。 の上を知らせる。久麿と筆野は怒り心頭に達し、無事に 自由を奪われたきん子は夫久麿のもとへ反魂術を使っきん子を地球へ戻さなければ全月世界に、みな殺爆弾を て状況を知らせるが、残念ながら久麿には羽衣を使って打ちこむと通告。・ハカニシ国をはじめ月世界諸国は、こ 月へ飛ぶことができない。なんとか電気力を応用して月の通告にふるえあがったが、この時はすでにきん子を謀
もね。結局のところ将来、新しく四肢を必要とする場合、それはこが終わってしまいそうだから、次のそれまではおわかれね。いつの の再生四肢となり、義四肢はすべてなくなってしまうようになるでことになるかわからないけど。 1 しょ .- っ - 0 「すばらしい時をすごしているわ。 「でも、これはすべて来年のことだわ。目下あたしが自由にできる「あなたがここにいてくれてるのならね」 のは、置換の速度をはやめることぐらいね。もしあたしに、あたし の細胞の活動をなんとかして初期段階の活動ぐらいまでに高めてい 彼ま、、 をしそいでそのレコードをはずして、次のをのつけた。それ くことができればーーその人為的な分解の真にはげしいゆさぶりのは片面だけしか録音されていなかった。日付は、約五十日つまり七 あと 後、細胞は、その内部機構の働きを、時計の時を刻むにも似た精密週間後の九月十七日だった。 な状態に保てるぐらいすみやかに、再生するでしよう。その人為的 ヘレンは、なんの前置きもなく語りはじめた。その声は、前より な分解のあとを、あたしは、液体たん白質を使ってすみやかに追っも澄み、もっと遠くからきこえてくる感じだった。マイクロフォン ていかねばならないでしようね いや、もし細胞がそんなに早く から一メートルばかり離れてでもいるかのようだった。 再生するのなら、細胞は、分解した古い細胞からできた液体たん白 質を利用することになるかしら。あたしには、この処置を数時間ぐ 「あたし、なんだか血迷っているの、アレック。少々びつくりする らいまでに短縮することができると思うの。そして核の支配力はき ようなことが起こっているのよ。とりあえず、今日までのことをあ わめて活発だから、核は、その理想的な状態にしたがって再生してなたに知らせなくてはね。 いくんたわ。 「断食による処置はうまくいったわ。むろん、人前に出てもさしつ 「破壊と再生は同時に進行していくの。しかも、いわば日常業務と かえなくなるまで家の中にとじこもって、人に見られないようにし もいうべき形でね。 たの。体重は一日に約一ポンドずつふえ、いまでは、もうほとんど 「次の段階は、種々のやわらかい組織の置換ということ。もしあた普通の状態にもどっているわ。この初期段階の処置であたしの細胞 しがこんなに急いでいるのでなければ、あたしはこれを、二度のゆが実際に作用しはじめるよう刺激を受けたわけ。細胞は、胎児を形 プルー・フリント つくりした長い、かんたんなガンジー式断食のうちにやるのだけ成していく青写真によるのでなく、成人を形成していくそれによっ ど。科学的なおしゃべりは事実上ひとこともしないわ。つまり、ほ て、再生しているらしいわ。だから、またあたりまえのプロポーシ おとな やがやるのと同じ要領ねーー・もっとも、あたしはだれかが飢えて三 ョンで肉がついており、図体が大人並の赤ン坊に見えるということ 十センチぐらいに背丈がちちこまってしまうのを眺めたいものだとはないようね。 思うけど。 「もしあたしがいま支離滅裂の話をしているとすれば、それは、極 「さて、そろそろ仕事をしなければいけないわ。とにかくレコード 力要点に触れまいと努めているからよ。要点はそうかんたんにはロ 9
出来るや析している時間もない。竜の背にまたがるよりも奇異な うにし、旅行法で、二時間で月に到着するというのは、とにもか くにも、すごいすごい。ところで、いかに一一流とは ら空気の尽 : ( ( 第、を、にぐ第ん ~ 第す 0 一第い いえ、この旅行法にはいくつかの疑問が残る。作者はこ 処に至っ て、手早れを説明する。 くボッチ を押して此の旅行の為めに起るべき危険は、第一、斯くては、 電気を発愈よ月面に墜落せし時、身体を粉末徴塵に砕かれはせぬ 、 = 曩蠍第動せしか ? 第二、進行の速力の余りに著しき為め、死亡、又 め、同時は気絶等の恐れはなきか ? 第三、寒冷に堪えずして凍 に羽衣を死することはなきか ? の三つなれども、其の辺は毫も ) 第羅、脱して手掛慮に及ばぬのである。 何故 ? 第一、次第に月面に近くに従ひ、吸引力と、 に持ち、 身を顛倒反衝力とが、次第に平均するので、身体は、徐々に月面 して逆立へ降るゆゑ、害を受くる憂は決してないのである、第 するとき二、第三の二点は、通常の人では、固より堪え能はぬの は、月界であれど、甚しいヒステリー性の女子なれば、殆んど無 ン朝き一赤道の処我夢中の状況となる為め、目も眩らず、寒さも感ぜぬゅ 4 《に集中すゑ、是れ亦何の害も受けないのである。 る一種の ) 磁石気周囲を見回してみよう。月世界旅行に適した女性がい , は、此のるかも知れない。そして、その女性があなたの恋人や配 発電体偶者でないことを・ほくは陰ながらお祈りする。 即ち人体ーーを吸引する故に、人体は、一時間に十 ん万哩の割合を以て、月の方面に降るに依り、僅に一一時間廿一人の羽衣を着た少女が、翩々として昇天する状態 ( ん余を以て、月面に達することの出来るやうにしてあるのの萎らしく、優美なることは、何に譬ふべきか ? 是れ や極楽浄土に迦陵噸伽の舞ひ遊ぶが如く、幾万の縦観者 である。 思はず美観に撃たれて、拍手喝采するのである。 月文 このわかったようなわからないような科学的解説を分天女の一行は、空気の範囲を過ぎて、空気以外の境に ・ロ 0
公示したものかどうかだいぶ迷った。公示などすれば人々を刺激す風説に重なって、この世界には終末が近づいているのだという言が るのはまちがいないし、また、公示の義務はないのである。反面、しきりにささやかれていた。先住種族は連邦の意図を見抜いたの 2 この事実を伏せておいて何かの事情で人々の耳に入れば、人々の疑だ、そして連邦がこの土地の大改造を強行すれば、先住種族は永遠 惑は完全な確信に変わるに違いない。かりにかくしおおせたところの眠りをさまたげられるよりは、むしろこの世界を遺跡や住民もろ で、巡察官のサミエル・・フレインが来てしまえば、誰の目とも減・ほしてしまうだろうと考えはじめたのだった。 カゼタは説得をつづけた。だが、どうすることもできなかった。 にもそのことがあきらかになって、一挙に爆発が、それも巡察官の 目前でおこるかも知れないのである。考えた末、彼はいさぎよく公できないままに、やはり続けるほかはなかった。 示することにした。 あすの早朝には、巡察官がタュネインに来るというーー夜更けで 覚悟はしていたものの、人々の反応ははげしかった。やはりこの 世界は連邦の改造目標にされていたのだ、今の司政官にはそれを止ある。 や、実は連邦とぐるになって、われわれをあざむ「効果がありましたか ? 」 める力はない、い いていたのだという風説が拡散した。はカゼタにそうした情疲れ果てて帰りついたカゼタに、トマスが声をかけて来た。 報のいくつかを報告したが、ロポット官僚たちが収集しに報「もういい加減に、無駄な努力はやめたらどうです ? 」 トマスは、カゼタの返事も待たず、薄笑いしながらいうのだ・ じたのは、その数千倍もあったはずである。 幽霊騒ぎの数は、飛躍的に多くなった。どの都市でも、ほとんど「いまや、ここの連中はあなたの言葉なんか聞いてやしませんよ・ 毎夜のように騒ぎがおこり、そのたびにおびえた人々が泣きわめみんな、遺跡へ遺跡へと行っているんですからね」 「わかっている」 き、街中を走りまわった。 もはや、司政官のところへ訴えを持ち込む者はいなかった。司政カゼタば低く答えた。 そうなのだ。 官はすでに連邦の手先と信じられていたからである。 この一、二日、住民たちは、誰がはじめたのか、家を捨てて、憑 しかし、司政官として、カゼタはこんな状況を放置してはおけな かった。各都市の機能が麻痺し、人々は恐慌状態になっているのでかれたように遺跡へとでかけている。かれらにとっては、もう司政 ある。彼はロポット官僚をひきつれて強引に各都市をまわり、連邦官は頼りにならず、といって何かにすがらずにはいられないがゆえ に、一転してその対象を、先住種族の亡霊に向けたのだ。先住種族 はそんなことを考えてはいない、幽霊はそのために出現するのでは の遺跡にすわり込み、手を伸ばして、助けてくれ、いや、連邦が勝 ない、時日がたてばそのことは分るはずだといってまわった。 手なことをしないように抑えてくれと訴えるのである。 ききめはなかった。 これは一見、奇妙な心理だったが・ : ・ : 住民たちにしてみれば、当 人々は現に幽霊におびやかされているのである。しかも、さきの
を、司政官が拒絶することは許されない。しかも、その割当ての中不信をあらわした代償に、司政官たちに、巡察官という連邦高官の にタュネインを含めるというのは : ・ : ・カゼタには分らないが、連邦地位への可能性を開いたことにもなるのである。 カゼタは、サミエル・・フレインを、訓練所の同期生とし にそれ相応の思惑があると考えなければならないのだ。 て、よく知っていた。いわゆる果断実行型の人間で、カタミンⅡ、 一週間後。 キリエニンなどという、すぐれた知性と闘争力を持っ原住民のいる そのスケジ、ールが、彼の胸に重いものを生んでいる。 世界をはじめ、統治のむつかしさによって何人もの司政官が失脚し た惑星を、あざやかに切りまわして来た男なのだ。 それだけではなかった。 そのサミエル・・フレインが巡察官に任じられたのは、し 候補生が実習にやって来るという、それだけが、彼をとらえてい ごく当然といってもいいのだが : : : 自分の担当する惑星を巡察され るのではない。 るとなると、話は別になる。あのきびしい妥協を許さぬ気性で、い 予定は、もうひとつ。 ったん断をくだせば、よほどのことがないかぎり、気持ちをひるが サミエル・・フレインが来るのである。 えさせることはむつかしいであろう。そしてそれがそのまま、連邦 それも、連邦巡察官としてなのだ。 への報告になるとなれば : ・ : ・あまり歓迎すべき事態ではないのであ 巡察官。 る。ことに、今のような、こんな状態のときには : それは、つい近年に出来た巡察制度にもとづくボストである。植 カゼタは、べンチにすわったまま、目をあげた。 民星が増えつづけ、従来のやりかただけでは司政官の仕事をチ = ッ 樹間から洩れる陽が、あちこちに溜って、とても静かなのだ。 クすることができなくなったと判断した連邦は、別に各植民世界へ それに、石塊。 巡察官を送り込み、その実情報告をも受けて、連邦統治に必要なデ 落葉の降りつもったそこかしこ、長年の風雨にさらされ苔むし ータを得ようと図ったのである。とはいっても、はじめから中央機 て、形はさだかではなくなっているが、まぎれもなく加工されたあ 構の内部だけにいた人間の視察では、報告が的外れなものになりか とのある石塊が、顔を覗かせていた。 ねないのは、分り切っている。そこで連邦最上層部は、現地と結託 先住種族の、遣物なのだ。 するおそれがあるのをあえて承知しながら、とりあえず現職司政官 人間たちがここへ到来するーー・そのはるか以前に減亡した種族 の中からこれぞという人物を選び出し、中央機構内で再訓練をし の、忘れがたみなのだ。 て、巡察官に任命することにしたのだ。 いわばこれは、五十年以上も昔、はじめて司政官たちが任地〈出すると、にわかにカゼタの胸腔には、やすらぎに似たものが戻 0 発したときの、あの絶対的な司政官〈の期待と信頼を、連邦がようて来る。亡び去 0 た種族が持 0 たであろうその長い長い時間や、現 やく失いはじめていることの証左でもあったが : ・ : ・その司政官への在の永遠の安息を、実感できるような気がするのだった。ここへ来 202
なんて、おもしろくないことたわ。その弾性のある感じがあたしを老齢だけはいまだにわれわれについて回っているわ。当然そうある べきものだということになっていたのね。でも、まだわれわれに老 いらだたせるの。そして、もし、あたしがあまりおびえると、アド 齢がなくなってあたりまえというところまで進化が至ってはいな レナリンがあたしの内分泌の・ハランスをすっかり狂わせてしまい 一週間はお仕事がだめになってしまうのよ。 いのよ。 「ええと、まず前置きとして、実験の公式の目的ーー - ー老齢の条件を「あたしにこのことを思いっかせたのはあのロシアの科学者、ポグ 研究すること。年をとることは、同化作用が漸進的に減退すること ラメッだったの。彼は老人たちに、その老いた結合組織をおかし分 なの。老齢は一種の病気なのね。およそ、年老いていくのを好むも解して部分的置換を強力に促す抗体を注入することによって、彼ら のはひとりもいないわ。そこで、あなたがこれを美しい文章に仕上の失われた弾力を少しだけとりもどしてやったわけ。 げるときには、こういう題でもつければいいわーーー″今も昔も変わ「あたしはただ、彼よりもうまくやって、身体じゅうのギシギシき ルドオールド・エイジ しんでいる細胞をことごとく置換させることができるかどうか、研 らぬ老齢の問題″ 「今日、われわれが年をとるようにできていなければならない、進究してみたいだけなの。 化論的な理由はまったくないわね。われわれは、ものを学ぶ動物た「それがいかに烈しい処置をとることになるか、あなたにはわかる から、不老長寿は生き残ることの要因になるわけよ。各細胞が、自わねーー生まれかわるのと洗濯機にかけられる感じの中間というと 身分裂してそのあとをつぐ若い細胞を二個残し、りつばに機能をは ころかしら。あたし自身以外の人にあえてそれをためしてみたいと たすそなえを持っていることを考えれば、これは、容易に達成されては思わないわ。なぜってそのさまざまな反応からことごとくの段階 しかるべきだわ。問題は、細胞にもいまいったのとはちがうのがあを最後の段階まで調整しながら、自分の変化の状態をみずから感し るということにすぎないの。ある細胞は、おのれを支えるために五なければならないからよ。それはちょうど、つけ加えたり味をみた 十年もそれ自体にしがみついているから、われわれは、死に見舞われりして新しい料理法をあみ出すみたいなものね。 るまで徐々に衰えていく同じ細胞で生きていかねばならないのよ。 「さらにまた、自分のたてた説を試験してみるいちばんいい方法 「造物主の見地からすれば、これはもっともなことね。人類は主と は、それを自分自身にためしてみるということ。非常事態は努力の して、。へストや飢きん、大吹雪や剣歯虎といったものから成る環境母なりというところね。 のなかで進化してきたのよ。五十年間なにごともなく生きつづけて「三十八歳といえば、わたしもちょっとしたモルモットになっても しい年齢というところでしよう。あたしは、最初の緊張で参ってし いられるチャンスというのは、きわめてうすいものだったんだわ。 その当時、長寿はたいしてねうちのあるものじゃなかったのね。だまうほどのおばあちゃんでもないし、か弱くもないけど、さりとて 若さが少しだけ加わってもそれがわからないほど若くはないわ。 って、死骸に長寿なんてなんの役に立っというの ? 「われわれは、ベストや飢きん、剣歯虎を排除してきたけど、でも「問題はーーーどの種の細胞組織にしろ、あたしがあえてそのどのく 6 8
かってはエルリック、アスキオル、ミノス、アキリヌス、クロビ ス・マルカ、現在そして永遠に彼は嵩高な代償ジェリー・コーネリ 5 アス、誇り高き廃墟の貴公子、閉回路の領袖。ファウスタッフ、ム ルドウーン、永遠の闘士 : 極めて微妙だ、こう彼は考えると窓外に湖水を凝視した。別室に 何ら大事は起こっていなかったあの日の時間中枢ーー幻影の騎手将軍たちが眠っている。事物の外観はしばしば凡そ正しくその対極 たちが骸骨軍馬に跨って横切る世界はポッシュや・フリューゲルにも存在のそれでもある。湖は滑らかな銀の広がりに似ていた。蘆さえ 比すべき幻想の世界、そして黎明どき巨大な緋色フラミンゴの雲がも淡い黄金の弦のようであり、眠りに就いた鷺は白い翡翠から切り 蘆叢の塒から昇り天空に旋回して奇怪な祭舞となる頃、疲れた高貴取られたものかもしれない。これが窮極の神秘なのか ? 彼は時計 な影が一つ、沼地の縁に降り立っては水面越しに凝視した見慣れぬを照合した。眠りの時。 地形は暗い潟と黄褐色の島々、これらが彼の眼には何か古代言語の 絵文字に見えた。 ( 沼はかって彼の故郷であったが、今では彼はそ 6 れを恐れ涙がそれを充たす ) コーネリアスは恐怖のみを恐れ、白子の獣をこの光景からそらせ 朝になると将軍たちはコーネリアスを 111 の墜落跡に案内 て悲しく馭し去ると、長いたてがみが背に靡いて遠目には何やら沼した。それは良好な状態にあり、主翼の一方が捩れ尾翼が飛散し、 の黄金の髪のマドンナに似ていた。 操縦士の残骸はまだ制御に着いており、死んだ片手が射出桿を握っ ていた。機体は崖の陰になって空中からは張出岩に半ば隠されてい る。ジェリーは接近には気が進まなかった。 4 「率直な返答を期待しますよ」と将軍の一人が言った。 風景に対する秩序の賦課日ロマンチックに幻想された理性の時「率直か」とジェリーは眉を顰める。今日は厄日だ。 代、恐価の時代。されど否み難き天球の韻律、神の在臨。小秩序の「厳密には何が破局の本質だったのかね ? 」将軍の一人が別の一人 安逸Ⅱ妥協なき秩序の耐え得ざる苦悶。法と混沌。神の顔、自我のに質問した。 ジェリーは自分を駆り立てて機の本体に攀じ登ると、将軍たちに 核は「すなわち孤立せる人間の心は自由となりて無限の宇宙の高遠 なる広漠を探り、通常の意識を超越し、さては無窮の次元持てる人印象を焼き付けることが判っている或るポーズを取った。出来る限 間脳髓の深奥の通廓に漂泊す。而て万有と個は連環し、一なる物はり事態に加速することが重要になって来ているのだ。 「それはどういう意味ですか ? 」将軍が眼を彼のほうへ上げるが、 他の中に映され、夫々は他を内包す」 ( 黒剣年代記 ) ジェリーは自分に話し掛けられたのかどうか確信が持てない。「そ 9