公示したものかどうかだいぶ迷った。公示などすれば人々を刺激す風説に重なって、この世界には終末が近づいているのだという言が るのはまちがいないし、また、公示の義務はないのである。反面、しきりにささやかれていた。先住種族は連邦の意図を見抜いたの 2 この事実を伏せておいて何かの事情で人々の耳に入れば、人々の疑だ、そして連邦がこの土地の大改造を強行すれば、先住種族は永遠 惑は完全な確信に変わるに違いない。かりにかくしおおせたところの眠りをさまたげられるよりは、むしろこの世界を遺跡や住民もろ で、巡察官のサミエル・・フレインが来てしまえば、誰の目とも減・ほしてしまうだろうと考えはじめたのだった。 カゼタは説得をつづけた。だが、どうすることもできなかった。 にもそのことがあきらかになって、一挙に爆発が、それも巡察官の 目前でおこるかも知れないのである。考えた末、彼はいさぎよく公できないままに、やはり続けるほかはなかった。 示することにした。 あすの早朝には、巡察官がタュネインに来るというーー夜更けで 覚悟はしていたものの、人々の反応ははげしかった。やはりこの 世界は連邦の改造目標にされていたのだ、今の司政官にはそれを止ある。 や、実は連邦とぐるになって、われわれをあざむ「効果がありましたか ? 」 める力はない、い いていたのだという風説が拡散した。はカゼタにそうした情疲れ果てて帰りついたカゼタに、トマスが声をかけて来た。 報のいくつかを報告したが、ロポット官僚たちが収集しに報「もういい加減に、無駄な努力はやめたらどうです ? 」 トマスは、カゼタの返事も待たず、薄笑いしながらいうのだ・ じたのは、その数千倍もあったはずである。 幽霊騒ぎの数は、飛躍的に多くなった。どの都市でも、ほとんど「いまや、ここの連中はあなたの言葉なんか聞いてやしませんよ・ 毎夜のように騒ぎがおこり、そのたびにおびえた人々が泣きわめみんな、遺跡へ遺跡へと行っているんですからね」 「わかっている」 き、街中を走りまわった。 もはや、司政官のところへ訴えを持ち込む者はいなかった。司政カゼタば低く答えた。 そうなのだ。 官はすでに連邦の手先と信じられていたからである。 この一、二日、住民たちは、誰がはじめたのか、家を捨てて、憑 しかし、司政官として、カゼタはこんな状況を放置してはおけな かった。各都市の機能が麻痺し、人々は恐慌状態になっているのでかれたように遺跡へとでかけている。かれらにとっては、もう司政 ある。彼はロポット官僚をひきつれて強引に各都市をまわり、連邦官は頼りにならず、といって何かにすがらずにはいられないがゆえ に、一転してその対象を、先住種族の亡霊に向けたのだ。先住種族 はそんなことを考えてはいない、幽霊はそのために出現するのでは の遺跡にすわり込み、手を伸ばして、助けてくれ、いや、連邦が勝 ない、時日がたてばそのことは分るはずだといってまわった。 手なことをしないように抑えてくれと訴えるのである。 ききめはなかった。 これは一見、奇妙な心理だったが・ : ・ : 住民たちにしてみれば、当 人々は現に幽霊におびやかされているのである。しかも、さきの
きみもおかしいと思っただろうが、実習して実力をつけるにはあま 2 く」 2 サミ = ルはいった。「もう想像がついているかも知れないが、あり平和すぎて適当でないタ = ネインまでが割当てられたということ なんだ」 の男は、本物の候補生じゃないんだ」 : ・ ? だが資格はーー」 「本物でない : いわれてみると、トマスの言動には、いちいち思いあたるところ 「資格はある。しかしあれは急造の待命司政官なんだ。形式的に司 があった。 政官コースを踏ませるだけで、本当の司政官になるんじゃない」 「どういうことだ ? 」 「ま、そんな連中が巡察をやる時代になれば別だが : : : せつかくこ 「あの男は、将来、巡察官に任命される予定者なんだ」 んな世界にいることだし、今のうちはのんびりやることだな」 サミエルはいった。「さっき、幽霊について、いろいろ俺なりの カゼタは、不審げにサミエルを見た。 意見を述べたが、実のところ、巡察官としては、そんなことはどっ 「連邦は、司政官たちの仕事を監視するために、巡察官制度を設けちでもいいんだ。俺も司政官あがりだし、統治がうまく行ってさえ た」 いれば、幽霊が心理作用であろうと、実在であろうと構やしない」 サミエルはつづける。「だがな、司政経験もない人間を巡察官に するわけには行かないものだから、司政官の中から引き抜くほかは 「ただ、これからはちょっと面倒にはなるだろうな。俺の考えで なかった。しかしだ、いくら再訓練をしたところで、これでは巡察 は、ここの住民は、幽霊というものを恐怖の対象としてでなく、す するほうもされるほうも、同じ生え抜きの司政官どうしでーー結託 がるべきものだと信じたとき、幽霊が今度は一種の . 信仰の的になっ するのはむしろ当然の成り行きだ。生粋の司政官というものは、昔 たのだと思うが : : : そのためにきみは、これから神と信者のあいだ から連邦よりも現地に愛着を持っ癖があるし、それをまた誇りにすをとりもっ役割を強制されることになるだろうから : : : つらいそ」 カゼタはうなずいた。 るところがあるからな。そこで連邦は、はじめからの巡察官を育て 車の外は一面の花野で : : : 開けた窓からは甘い香りがたえず流れ にかかっている」 込んでくる。もうすぐ司政官庁なのだ。 「はじめからの ? 」 タュネインか。 「そう。お体裁だけの司政経験を持つ、連邦に忠実な番大を作ろう というのだ。速成教育で待命司政官にし、実習も短期間、それもう悪くない。 まく行っている惑星だけをまわらせるという仕組みだ。ところが近そのうちに : 頃では入植者の二世、三世と、司政官とのトラ・フルのおきている星ろう。 小さな遺跡で・ が多いからな、そんなおあつらえ向きのところはあまりない。で、 : というより、じきにライネに会えるようになるだ
を、司政官が拒絶することは許されない。しかも、その割当ての中不信をあらわした代償に、司政官たちに、巡察官という連邦高官の にタュネインを含めるというのは : ・ : ・カゼタには分らないが、連邦地位への可能性を開いたことにもなるのである。 カゼタは、サミエル・・フレインを、訓練所の同期生とし にそれ相応の思惑があると考えなければならないのだ。 て、よく知っていた。いわゆる果断実行型の人間で、カタミンⅡ、 一週間後。 キリエニンなどという、すぐれた知性と闘争力を持っ原住民のいる そのスケジ、ールが、彼の胸に重いものを生んでいる。 世界をはじめ、統治のむつかしさによって何人もの司政官が失脚し た惑星を、あざやかに切りまわして来た男なのだ。 それだけではなかった。 そのサミエル・・フレインが巡察官に任じられたのは、し 候補生が実習にやって来るという、それだけが、彼をとらえてい ごく当然といってもいいのだが : : : 自分の担当する惑星を巡察され るのではない。 るとなると、話は別になる。あのきびしい妥協を許さぬ気性で、い 予定は、もうひとつ。 ったん断をくだせば、よほどのことがないかぎり、気持ちをひるが サミエル・・フレインが来るのである。 えさせることはむつかしいであろう。そしてそれがそのまま、連邦 それも、連邦巡察官としてなのだ。 への報告になるとなれば : ・ : ・あまり歓迎すべき事態ではないのであ 巡察官。 る。ことに、今のような、こんな状態のときには : それは、つい近年に出来た巡察制度にもとづくボストである。植 カゼタは、べンチにすわったまま、目をあげた。 民星が増えつづけ、従来のやりかただけでは司政官の仕事をチ = ッ 樹間から洩れる陽が、あちこちに溜って、とても静かなのだ。 クすることができなくなったと判断した連邦は、別に各植民世界へ それに、石塊。 巡察官を送り込み、その実情報告をも受けて、連邦統治に必要なデ 落葉の降りつもったそこかしこ、長年の風雨にさらされ苔むし ータを得ようと図ったのである。とはいっても、はじめから中央機 て、形はさだかではなくなっているが、まぎれもなく加工されたあ 構の内部だけにいた人間の視察では、報告が的外れなものになりか とのある石塊が、顔を覗かせていた。 ねないのは、分り切っている。そこで連邦最上層部は、現地と結託 先住種族の、遣物なのだ。 するおそれがあるのをあえて承知しながら、とりあえず現職司政官 人間たちがここへ到来するーー・そのはるか以前に減亡した種族 の中からこれぞという人物を選び出し、中央機構内で再訓練をし の、忘れがたみなのだ。 て、巡察官に任命することにしたのだ。 いわばこれは、五十年以上も昔、はじめて司政官たちが任地〈出すると、にわかにカゼタの胸腔には、やすらぎに似たものが戻 0 発したときの、あの絶対的な司政官〈の期待と信頼を、連邦がようて来る。亡び去 0 た種族が持 0 たであろうその長い長い時間や、現 やく失いはじめていることの証左でもあったが : ・ : ・その司政官への在の永遠の安息を、実感できるような気がするのだった。ここへ来 202
然のなりゆきかも知れなか 0 た。かれらには、すでにこの惑星が故では彼は必要のない限り、トスと議論しないことにしている。す 郷なのである。故郷が破壊され自分たちも減ぶかも知れぬと思「たれば腹を立てることになるだけなのだ。 とき、連邦や司政官などよりも、たとえおそろしくとも、故郷の超「だいたい、そんな幻影を見るというのは、そいつの被暗示性の大 自然的な力のほうを選んだのだ。 きさや自主性のなさをあらわしていますよ。その証拠に、まともな 「まったく、土着の連中なんて、低能ですね」 われわれが見ないんですからね」 トマスは笑った。「遺跡へ行ったって、どうなるものでもないの トマスは、急にカゼタを正視した。「なぜですか ? カゼタ司政 に : : : 自分自身で幻影を作り出しておきながら、それにおびえてい官。なぜあなたは、あんなに連中を甘やかすんですか ? 」 るんた。幽霊なんて、信じなければ決して出て来ないのが、分らな「甘やかす ? 」 いんですよ」 カゼタは、鋭い目で見返した。 「そうです。私はここへ来てからずっと、あなたのやりかたを観察 「みんな、ま・ほろしに踊らされているんだ。巡察官や私が来るとい していました。あなたは立派な腕を持っ司政官です。でも、方針は うんで、勝手に想像をたくましくして、変な幽霊を生み出したんでまちが 0 ていると思います。あなたは、あの連中を甘やかしていま すね。先住種族そのままの姿といったって、その姿は、人間の学者す。もっと端的にいえば、おもねっているんだ」 が描いたんでしよう ? 本物がそんな格好だ 0 たかどうか、誰に分「きみは、自分が何をい 0 ているのか、分 0 ているのか ? 」 ります ? それに、幽霊の出現のしかたを考えても、は 0 きりして「そのつもりです。どうせ、あなたの私〈の評点はひどいものにな いますよ。公示のたび、誰か外来者が来るたびに、頻度が高くな「るでしようから、これ以上何をい 0 ても同じことです。あなたは、 ているじゃありませんか。心理作用でなくて何です ? 」 あの連中をきたえ直して、幽霊騒ぎごっこの余裕などなくなるよう にするべきなんだ。百人や二百人ぐらい殺しても、まぼろしを吹き払 また、いつもの説を繰返している、と思いながら、カゼタは黙っ 、目をさませてやるべきなんだ。こんなねぼけたような惑星は、そ ていた。 れこそ徹底的に開発して、遺跡など叩き潰してしまうべきなんだ」 あるいは、トマスのいう通り、幽霊は単なる心理作用かも知れな「それが本音か ? 」 いうより、それで大部分説明できるかも知れない。 カゼタは一歩近づいた。トマスは後退しながら、なおも吠えた。 だが : : ・・それではカゼタ自身が、今も二、三日おきぐらいに見る「それをやらないのは、あなたもタ = ネインの司政官になり切 0 て ものは何なのだ ? あれも幻覚だというのか ? あの影のもたらすいるからなんだ。この世界にどっぷりつかっているからなんだ ! 」 平安も、錯覚たというのか ? 「貴様」 彼には錯覚だとは思えなかった。 : カ : : : 反論はしなかった。近頃 , カゼタは相手の胸ぐらをつかんだ。この瞬間、彼は司政官の自制 225
ンが何をやるかという危惧を口にすることはできなかった ) この世こそ、幽霊をたびたび出現させたのです、それが、連邦がよくやる ように、根こそぎ変えられるかも知れないとなると : : : 怒るのが当 界がうまく行っているかどうかを視察しに来るに過ぎません」 り前です。先住種族は、すべての人間を追い出しにかかったので 「そうでしようか」 す。これが、私どもの結論です。そうですね ? みなさん」 「とは ? 」 「その人たちは、それだけの用で来るのでしようか ? このタュネ「そうだ ! 」 インには、司政官はひとりおられればいいのです。それで従来もちゃ 会場のひとりが叫ぶと、全員がどっと大声をあげた・ んとやって来ましたし、これからもやって行けるはずです。そこへ連それから、拍手。 邦がふたりもの人間を・ : いや、これからもっとたくさんの人が来拍手がやむと、委員長はいった。 : このタュネ「もちろん、これは、あなたのせいではありません。でも : : : あな るのでしよう。そんなに送り込んで来るというのは : インを変えてしまおうという目的があるのではないでしようか ? 」たなら、司政官なら、何とかして、連邦の今の方針に異議をとなえ ることができるのではありませんか ? 永遠の眠りについている先 カセダは黙った。今はいい返すより、ひととおり相手のいいぶん住種族のために : : : そして私どものために、尽力していただけるの を聞くときだと思ったからである。 ではないでしようか ? 私どもは、このことを、あなたにお願いし 「導というのは、そのことです」 たいのです , 委員長は呟くようにいった。「連邦がいまやこのタュネインを変「お願いします ! 」 えにかかっているのだということなのですー 「お願いします ! 」 幾人もの声があがった。 「連邦の目から見れば、ここはあまりにもゆたかで、発展力に欠け「あなたがたは、思い違いをしておられます」 るーーそれはたしかにそうでしよう。でも、私どもは今のままでい カゼタは、人々が口々に何か叫びかけるのを手で制し、一語一語 いのです。ここが活気にみちた、・ とんどん変貌する世界には、なっ区切りながら、 いいだした。「すくなくとも、私にはそうとしか考 てほしくはないのです」 えられません。私は司政官として、あなたがたよりは幾分データを 「それは : : : わかっています」 多く持っており、そのデータでは、そうしたーータュネインの大変 「そして、それ以上に、ここが変化するのを望んでいないのが、先革はあり得ないはずです」 住種族たちの亡霊ではないでしようか。すでに減びて、静かに眠っ「嘘だ ! 」 ていたい亡霊たちは、今まででさえ、われわれ人間が入り込んで来前列の右はしにいた青年が叫んだ・ たことに対して、おだやかな気持ちではなかったはずです。だから「聞いて下さい」
それでもカゼタは、根気よくこの手の焼ける候補生 ( トマス自身したのだ。 それも、以前からあった種類のものではない。ュサ市にはじまっ はいつも自分のことを待命司政官としかいわないのだが ) を指導し た。もしもカゼタが、このタ = ネインの司政官でなく、統治困難なた、先住種族そのままの姿の幽霊が広い地域にわた 0 て出現し、こ の星を立ち去れと告げる、あれと同じことが、次々と他の都市にも いわゆるが厄介惑星第にいるのだったら、とてもそんな暇はなく、 そんな気にもならなかっただろう。彼はときどき、連邦がこの候補おこりはじめたのである。 それとともに、カゼタがユサ市で聞かされた例の結論ーーこれは 生の実力のなさを充分承知しており、それゆえにこのタュネインに : ・ともあれ、先住種族の亡霊が、このタ = ネインを開発し活気のある世界に大改 まわして来たのではないか、と疑うときがあったが : 彼のそうした努力のおかげで、トスは 0 ポットの扱いにも馴れ、造しようと連邦がもくろんでいることを怒 0 ているのだ、という話 仕事のこつもおばえたばかりか、この世界の大気の香りにも、はじが、たちまちのうちにタ = ネインの全都市に飛び火し、ロからロ〈 とささやカれて行った。 めほど嫌悪を示さないようになって来た。 けれども、まだその段階では、人々は司政官にすがろうという気 もっとも、だからといって、カゼタがこの候補生に対して好感を 持つようにな 0 たかといえば、全然逆である。彼は日ごとにトスを失 0 ていなか「たらしく、多くの都市が司政官に訴えを持ち込 がうとましくな 0 て行くのだ 0 た。それは、トスの性格が、彼とみ、連邦は真実そのつもりなのかどうかを確認するため、会合に臨 はおよそ相容れないものだ 0 たからである。トスの、何かといえ席して貰いたいという申入れが相次ぎ、カゼタもまた要請に応え ば連邦の名を持ち出す感覚も、惑星原住民や入植者〈の偏見も、そて、そうした都市におもむき、は事実無根であるから安心してほ のおそるべき独断癖も、自己の意見を述べるさいの押しつけがまししい、自分としてもこの惑星が変えられることには反対なのだ、 さも・ : : ・とにかくものの考えかたも態度も、カゼタには気に食わなと、説得をつづけた。むろんトスの実習をほう 0 ておくことは許 か 0 たのだ。気に食わなか 0 たが、しかし、実習におのれの主観をされないので、彼は睡眠時間を切りつめて、深夜にその面倒を見な 混入してはいけない。カゼタは司政官の特徴のひとつである強い義ければならなか 0 た。 ( そんな変則的な時間に実習をおこなうこと について、トマスが文句をいったのは、一度や一一度ではなかった ) 務感に支えられて、指導をつづけた。 それでも走りまわった甲斐があって、多少は人々もしずまりかけた しかし。 ように、カゼタには思われた。 彼は、トマスのことばかりにかかずりあってはいられなかった。 ・、 0 こちらはあくまでも附随的な仕事であり、彼の本務はタュネインの ちょうどそのころに、連邦巡察官が一週間後にタュネインを訪ね 統治にあるのだ。 る、という知らせが入ったのである。 そのタュネインは、いささか困った事態におちいっていた。 カゼタはこのことを、他の事項についてはいつもしているように トマスがやって来た直後から、幽霊騒ぎが加速度的にひろがりだ 2 幻
官なるものの氏名は承知していた。が、当人の年齢とか略歴といつを出迎えることを、法で義務づけられているわけじゃないんですか ら」 た事柄については、何ひとっ予備知識を与えてはもらえなかった。 以前はそんなことはなかったのだが、最近は氏名しか連絡しないの っていることとはうらはらに、トマ カゼタは相手の顔を見た。い だそうである。その理由というのが、きわめて事大主義的だった。 つまりこれは、実習が公正におこなわれるよう、あらかじめ司政官スの口調からは、そのことにこだわっているのが、ありありとうか がえたからである。どうやらこの候補生は、プライドを傷つけられ に先入観を持たせてはならないという、連邦の方針によるのだそう だ。どうせそんなことは、直接本人から聞き出せば簡単に分るはずたと信じているらしいのだ。 なのに、あえてこんな思わせぶりをやるというのは : : : 近年の連邦うるさい奴をかかえ込んだな。 中央機構がいよいよ巨大化し複雑化して、ようやく形式主義に流れそれにしても : : : この部屋の感じがいつもと違うのに、カゼタは はじめ、ともすれば現場の実情を無視しがちになっている、その一気がついていた。何となく息苦しいのだ。暮れかかっている窓に目 いつも開けておくのに、固く閉じられ 例といえないこともない。まあそういうわけで、カゼタは、タュネをやると、それも道理で インに来る候補生については氏名しか知らず、知らないまま、無意ているのだった。 識に、従来の常識どおりひたむきな使命感を抱くいかにも若者らし彼は歩を移して、窓をひらこうとした・ 「あの : : : 差支えなかったら、しめたままにしておいて貰えません い若者がやって来るのだろうと考えていたのだ。 か ? 」 しかし、今日彼の前にいるのは、そうではなかった。カゼタよ トマスがいナ り五、六歳下だろうが、どこから見ても、もはや青年ではない。 多分、このトマスという候補生は、何かの事情でみなより遅れた「どうして」 のか、それとも、ときたまあるように、他部門の行政専門家だった カゼタは手をとめる。 「どうも : ・ : ・頭が痛くなりそうなんです」 のが、本人の意思なり連邦の命令なりで、司政官コースへ移ったの トマスは、顔をしかめた。司政官になろうという者にしては、あ であろう。 が、そうはいっても、カゼタとしては、このトマスをふつうの候まりにもあからさまな表情だ。「ここの大気には、その : : : 花か何 かの匂いが一杯入っているでしよう ? どうもいけなくて : : : 」 補生として取り扱うほかはない。 彼はいった。 そういうことなら、やむを得ない・カゼタは、トマスとむきあっ 「迎えに行くつもりだったんだが : : : ちょっとした事件があって て腰をおろした。 いえ。気になさることはありませんよ。司政官は、待命司政官「どの惑星にも、それぞれ特殊な条件というものがある」 ね」 幻 5
トマスは繰返した。最初に見せたあの図々しさが、また顔を出し O?«はそのの下にあるんだから、候補生のーこ はじめていた。「連邦がそう決めたのですから、それでいいのでは「正式には待命司政官です」 「よかろう。とにかく一惑星のロポット官僚群は、すべて司政官の ありませんか ? 」 この男は、まるで、連邦中央機構の人間のような口のききかたをもとにあるの支配に服している。この体系は司政官にしか動 するーーーと、カゼタは思った。すくなくとも、カゼタの頭の中にあかせないんだ。待命司政官は一時的に権限を与えられる時を除い る昔からの候補生とは、・ とうしてもうまく重ならなかった。 て、この命令系統の外にいる。きみが動かせるのは、 02 の一 「ところで、はじめにおっしやった事件というのを、聞きました。群だけだが、それとて、 01 のチェックを受けているのに変わり 幽霊騒ぎだそうですね ? 」 はない」 「ああ、そういうことだ。ロポット官僚に聞いたのかね ? 」 「ああ、そうですか」 「そうです。でもだいぶ苦労しましたよ , 「きみは、自分の個室にいればよかったんだ。個室にいる限り、 トマスは皮肉な目つきをした。「ここのロポット官僚は、何か制がすべてをとりしきってくれる。いわば、きみにとっては、 限令でも受けているんですか ? 待命司政官などにあまりサービスが、もちろん全ロポット体系の行動原則に抵触しない範囲 する気がないようですよ」 でだが、がいわば的役割をはたすのた」 「それはどういう意味だ ? 」 いいながら、カゼタは、したいに怒りがこみあげてくるのをおば 「だって、そうでしよう。総指揮ロポットの cnoær-4 は、私の質問をえていた。ひととおりの訓練を経て来たはずの候補生に、なぜ、こ 黙殺して答えようとしないし、ーーーこの惑星のロポット官んなことを教えなければならないのだ ? 僚系統表によれば、あなたの外出時の随行チーフであるはずの これが候補生たというのか ? は、呼び出しにさえ応じないんですからね。私はやむを得ず待 これで、待命司政官だというのか ? 命司政官づきのをここへ呼んで、話を聞くことができたん なるほど、たしかにその資格だけは持っているのだろう。だから です」 こそ、連邦が送り込んで来たのだろうが : : : 最近ではこの程度の実 「当り前た」 力でも、待命司政官と呼ばれるのか ? 「え ? 」 しかも、それほどの生かじりの知識しかないくせに、生意気にも 「きみはロポット官僚の使いかたをまちがっている。や司政官の公務室にひとりで入って、ロポット官僚をコントロールし が、きみの指示に応じるわけがない」 ようとしたばかりでなく、そのことを反省さえしていないのだ。 「たって、はこの惑星の総指揮をしているし カゼタが候補生として、初期の先輩たち、クロべとかライナンな 「は、司政官ただひとりに対して責任を負っているんた。どという司政官にしごき抜かれたころには、こんなことは考えられ 幻 8
吶ー 、い碑 遺跡の風 眉木寸卓画 = 中島靖侃 快い徴風のそよぐ安逸な惑星に 連邦から派遣されて君臨する司政官 その周辺にひんびんと起こる変事は 先住民族が人類へ向けた魂の叫びだった ! 噎を第こ一 9
惑星を担当するためによ、、 をしくつかの惑星をめぐり、そこの司政官界には、そのくらいの刺激があるほうが望ましいと判断しているの の下で実習をして、適性を認められなければならないのだ。そのさか、タ = ネイン在住者であれ他惑星からであれ、幽霊の、ことを究明 思わしくない評価をくだされると、司政官の地位は与えられしようとする者があ 0 ても、奨励もせず妨げもしないという態度に ず、単なる行政専門家として、連邦内での別の仕事を与えられるこ終始しているのだ。さらにこの幽霊騒ぎ以外にも、他の惑星でしだ とになる。それゆえに、司政官は司政官でも、やはりあくまでも候いに強くな 0 て来ている現象ーーその星に生れ育「て他の世界を知 補生に過ぎないのであった。 らぬ世代が、司政官制度というものに対して、反撥を示しだしてい カゼタは、すでに、他の惑星で、何度か候補生を引き受けて、 しるということがあるが : ・ : ・それとて、ここではまだ問題となるほど る。だから、今度もそのつもりでやれば、何ということもない。その段階まで行っていなかった。 のはずなのだが : : : それが、妙に気になるのだった。 要するに、カゼタは、ここでは大した努力もせず、司政官の座に なぜだ ? ついていられるのである。いや、努力どころか、生活をエンジョイ 答は、自分でも認めたくはないが、簡単だった。今の自分に、はしながら、年月を送って来たといっても過言ではない。そして、そ たして候補生に評点を与えるというような行為ができるだろうかー のうちに、彼もまた、・、 ノートや他の前任司政官と同じように、、 ーというおそれがあったからだ。 ての自己励起や闘志といったものを、失ってしまったのだ。言をか このタュネインに来てから、七年になる。 えれば、もはや、気力、習慣ともに、他の惑星の司政官がっとまる 七年間、彼は、たしかに司政官としては役目を全うして来た。推ような状態ではなくなっていた。かりに新しい任地へ赴く気になっ 定数千年前に先住種族が減びて、高等生物がはじめからいなかった たとしても、そのためには相当な苦労を覚悟しなければならないで この惑星では、原住民に関するトラブルはおこりようがなかったあろう。 し、植民者は植民者で、他とは比較にならぬほどおとなしいのだ。 そんな自分が、候補生に評点を与えてもいいものか ? いや、評 それはむろん、幽霊騒ぎ ( ここには、実体のない影のようなもの点どころか、候補生を本当に実習させることができるのか ? 実習 が、ちよくちよくあらわれて、人々を驚かすのだ。それがこの星のが実習にならず、逆に、若い司政官にはあるまじき安逸の心を作り 先住種族の亡霊なのだと、ここに住む人々は固く信じていたし、力あけてしまうのであるまいか ? もしも、候補生がそうならないと ゼタ自身もそうに違いないと思 0 ているものの、誰もまだそうだとしたら、それはすなわち、この惑星の司政官カゼタへの軽蔑を前提 立証した者はいなかった ) というものがあるが、最初の植民時代以としてしか考えられないのではないか ? 来から出現している〃幽霊气は、現実には人々をおびえさす以上の 出来るものなら、カゼタは、この実習を拒否したかった。植民惑 実害を与えるわけではなく、まして、司政官には何の責任もないこ星は数多いのに、何もわざわざタ = ネインに来させることはないで 6 とである。むしろ連邦としては、タュネインのようなおだやかな世まよ、 、、いたかったのだ。しかし、連邦の実習惑星割当て