訪問者 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1973年6月号
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1. SFマガジン 1973年6月号

に包まれるのだということを、あなたは忘れていたんだ 9 恐らくは信じている。姿かたちは同じでもね。ほかでもない〈訪問者〉が 〈訪問者〉にしたって、あなたに思い出してもらいたくはなかったあなたのもとへやって来たとき、そいつは、殺さなかった代わり だろう。あなたは、・フレイクがやったと全く同じように、あの石をに、潜りこんだのだ。なにを隠そう、きさまは〈暗黒の訪問者〉な じっと見つめ、同様の超自然的な繋りを持ってしまった。そしてそのだ ! 」 いつを放り出したとき、あなたはそいつを永遠の暗黒にさらすこと「ミスター・フィスク、本当にー」 「デクスター医師などいやしないのだ。そのような人物は、もう何 にしてしまったわけだ 9 暗黒の中では、〈訪問者〉の能力も活発に 年も昔から存在してはいなかった。この世界よりもなお古いあの実 なり、増大するのだからね。 「そういうわけで、あなたはプロビデンスを逐電したーー〈訪問体、人類に破減をもたらそうと素早く、ずるく立回る実体に取り付 者〉がちょうどプレイクのもとを訪れたように、あなたのもとへやかれた抜け殻があるばかりなのだ。″科学者に転向してしかるべ って来るのが怖かったからなんだ。しかもあなたは、そいつがもはきグル 1 プにまんまと取り入り、愚かな人間どもを暗示にかけ、そ や永久に跳梁し続けるであろうことを知ってもいたからた。 そのかし、手を貸して、早急に核分裂の″発見″を成さしめたのは デクスタ 1 医師は、ドアの方へ寄って行った。「即刻、おひきときさまだった。最初に原爆が投下されたとき、きさまはどんなにか り願おう。わしが電灯をつけつばなしにしておるのが、入訪問者〉腹を抱えて笑ったのにちがいあるま い ! そして、いまやきさま が・フレイクの後を追ったように、わしの後を追ってくるのを怖がつは、彼らに水爆の秘密を解き明しているんだ。いや、それだけじゃ ているせいだというつもりなら、そいつは大きな間違いだそ」 ない、もっともっと教えこみ、次つぎと新しい方法を彼らに示し、 フィスクは苦笑いした。「そんなことをいってるつもりは全然あ彼ら自身の絶減を招くようにしむける魂胆なのだろう。 りませんよ」彼は答えた。「あなたが今、そんなことを怖がっちゃ ラ・フクラフトの書いたいわゆる狂気の神話を解明する糸口、鍵を いけないことは、先刻承知しています。いくらなんてったって遅す発見するまでに、わたしは、何年もの間考えに考え抜いてきたの ぎますからね。〈訪問者〉はとっくの昔にあなたのもとへやって来だ。彼は作品を、たとえ話、寓話にしたてあけているけれども、真 たのにちがいない・ーー恐らく、あなたがあの多面体をナラガンセッ実を書いていた。しばしばそれを活字にしているのだ、きさまがこ ト湾の暗黒に托すことによって、そいつに能力を与えてしまった後の地球へやって来るという予言をねーー・プレイクはついにそれを擂 一両日の間にね。そいつはあなたのもとへやって来た。が、プレイんだ、びったりあてはまる名前で〈訪問者〉の正体を見破ったの クの場合とはちがって、あなたを殺しはしなかった。 そいつはあなたを利用したのだ。そういうわけであなたに暗闇を「で、その正体というのは ? 」医師が。ヒシリといった。 恐れる。〈訪問者〉自身が発見されるのを恐れるから、あなたには「ナイアルラトホテップだ ! 」 暗闇が怖いのだ。暗闇の中では、あなたも異って見えると、わたし褐色の顔がしわくちゃに歪み、笑いの表情を作った。「きみも、 9 7

2. SFマガジン 1973年6月号

発見した神秘な物体ーーースターリー・ウイズダム教が礼拝の本尊と いものだった。 していた物体ーー奇妙な風に蝶番でとめられたふた付きの不均整な 6 記者のメモ帳には、発見そのものについてはほとんどっまびらか にされていないが、その後に起った一連の事件がきちょうめんに、金属製の箱を見つけたのである。そのふたというのは、もう久しく 年代順に記載されてあった。エジ。フトでその神秘な発見をするや否閉じられたことがないようだった。かくして・フレイクは、その内部 や、ボウエン教授は調査を中止して、プロビデンスに舞い戻り、一をじっと凝視した、ーー七本の支柱によって支えられて収まっている 四インチ大の赤黒い水品の多面体を凝視した。彼は、多面体の表面 八八四年、フリー・ウイル教会を買いこんだ、いわゆる〈スターリ ・ウイズダム〉教派なるものの本部としたのだつな。 のみならず、中までも凝視したのである。ちょうど、あの邪教の崇 明らかにボウエン自らが募った、この宗派の信者たちは、彼らが拝者たちがしかるべき意図をもって凝視したように。そして同じ結 〈暗黒の訪問者〉と呼んだ実体を崇め信仰した。一個の水晶体をじ果が現われたのだった。彼は奇妙な精神的攪乱に襲われたのであ っと凝視することによってその真の姿を呼び出し、血の生贄をもつる。迷信が語り伝えているように″星の彼方にある別世界の陸地や 湾の幻を見ている″ような気がしたのだった。 て忠誠を誓ったのである。 それからプレイクは、彼の一世一代の誤りを犯したのである。箱 少なくともこういったことが当時プロビデンスでささやかれてい た嚀だったーー・そしてこの教会は避けるべき場所となったのであのふたを閉じてしまったのだった。 る。土地の迷信は騒ぎをあおり、その騒ぎが直接行動へとかり立て箱を閉じるというのはーー再び、リリ・フリッジが註記している迷 ていった。一八七七年、この教派は、ついに公衆の圧力に抗しきれ信によるのだがーー異邦の実体そのもの、つまり〈暗黒の訪問者〉 ず、当所によって強制的に解散させられ、数百を数えた信者たちはを招き出す行為なのである。それは暗黒の生き物であり、光の中に 存在することはできないのである。プレイクの行為によってそいっ にわかに町を立ち去ったのだった。 は、板ぺいに囲まれたその廃墟と化した教会の暗闇の中に夜なよな 教会そのものは即刻閉鎖された。以後、個人的な好奇心は明らか に、流布されていた恐怖を圧倒することはできなかったようであ出現することとなったのだった。 ・フレイクは恐怖にかられて教会を飛び出した・が、害はなされて る。なんとなれば、くだんの新聞記者リリプリツ・イ : 、、カ一八九三 年、秘かに不運な調査に乗り出すまで、建物は静寂を破られることいたのだった。七月の半ば、雷雨のために一時間ほどプロビデンス もなく、探検されることもなく放置されることとなったのだから。全体が停電した。その間、教会の近くに住んでいるイタリア人たち こういったところが、彼のメモ帳のべージにしたためてあった事は、闇に包まれた建物の内部からドタン・・ハタンという騒々しい物 の顛末の大要だった。プレイクはそれを読んだ。が、それにもかか音がするのを聞いたのである。 わらず、彼はあたりをさらに詳しく調べてみることを思いとどま群衆は雨の戸外に立ちながら、手にしたロウソクを建物にむかっ りはしなかった。その結果彼は、ボウエンがエジプト王の納骨堂でてかざし光の障壁を築くことによって、あるいは現われてくるかも

3. SFマガジン 1973年6月号

刊されたもののラテン語訳版の黄変した頁をパラ・ハラとめくってみ「お願いします」フィスクは、褐色の男をじっと見つめた。その完 璧なポーズの背後には一体なにが隠されているだろうかと、いぶか 7 それから彼は、やおらデクスター医師をふり向いた。細心の注意しく思うのだった。 「わしは、きみの友人のロ・ ハート・ハリスン・プレイクには一度し を払って持していた平静は、跡形もなくかなぐり捨てられていた。 「それじゃ、あの教会でこれらの本を発見したのはあなただったわか会っておらんのだよ」デクスター医師はいった。「あれは、一九 けですね」と、彼はいった。「アスプの横の聖具室の中でね。ラ・フ三五年の七月も下旬のある晩のことだった。彼は、一患者としてこ クラフトは、物語の中でそのことにふれているのですが、わたしは こへわしを訪ねてやってきたんだね」 常々どうなったのかと不思議に思っていたのですよ」 フィスクは熱中するあまり、思わず前へ乗り出した。「そいつは デクスター医師は、重々しくうなずいた。さよう、わしが持って知りませんでしたよ」と、彼は叫んだ。 きたのだよ。そのような書物が当局の手に落ちるのは賢明なことじ「知らなかったといって、どうこういうわけのものではないよ」医 ゃないと思ったもんでね。それらの内容がどういうものか、かかる師は答えた。「単なる患者にすぎなかったのだからね。彼は、不眠 知識が悪用されたらどんなことが起こるか、それはきみも承知してに悩まされていると訴えた。そこでわしは、診断してやり、鎮静剤 おるじやろう」 を処方してやった。はなはだおぼっかない推測からだが、最近なに フィスクは、しぶしぶその大冊を書架に戻し、暖炉わきの医師にか異状な緊張、ないしはショックに見舞われたことはないかと訊い 向きあって、椅子に腰を下した。彼は、書類カ・ハンをひざの上にのてみたんだよ。そのときなんだな、彼があのフェデラル・ヒルの教 せ、落ち着かなげにその止め金をまさぐっていた。 会を訪れ、そこで発見したものについてわしに話してくれたのは。 「落ち着きたまえよ」デクスター医師は、やさしい徴笑を作ってい手前味噌になるが、彼の話を単なるヒステリックの所産だとして片 けいがん った。「おたがい、いいかげんないい抜けはやめにして、話を進めづけてしまわなかったのは、わしも慧眠だったといわずばなるまい ようじゃないかね。きみは、親友の死亡事件にわしがどのような役ね。わしは、このあたりでは旧家の出であるからして、すでに〈ス ウイズダム教〉および、いわゆる〈暗黒の訪問者〉なる 割を果たしたのか、それをつきとめるためにここへやってきたんだターリー・ ろう」 ものにまつわる伝説はよく知っておった。 「そうなんです。お説きしたいことがいくつかありましてね」 「・フレイク青年は、〈光る多面体〉について恐怖しておることをい 「どうそ」医師は、きやしゃな褐色の手をあげた。「わしは健康がすくらか打ち明けてくれたーーそれが、根本的な邪悪の焦点なのだと ぐれておらんのでな、きみにはほんの数分程度しか時間をさいてあほのめかしておったね。さらに、彼があの教会の怪異とどういうわ げられんのだよ。失礼だが、きみの質問を訊く前に、わしが知っておけか繋がりを持ってしまった、それが不安でならないのだといって おった。 るだけのことーー大してじゃないがーーを全部話してあげよう」 こ 0 えみ

4. SFマガジン 1973年6月号

やがて深海より生まれいず あわれなプレイクやきみの友人のラブクラフトと同様、幻覚具象化 大地裂け狂気のオーロラ逆まきて の犠牲者じゃないのかね・ナイアルラトホテップが純粋な作り事ー みやこ ーラ・フクラフトの創作の一要素であることぐらいだれでも知ってい 揺れ動く人の都に垂れこめぬ かくてたわむれにおのが創りしものを踏みにじり る」 「わたしもそう思っていた、彼の詩にその手がかりを見つけるまで 愚かなるカオスこの大地を座と粉砕し去りたり はね。それでなにもかもっしつまが合うのだ。〈暗黒の訪問者〉、 きさまの逐電、そして科学的な研究ににわかに興味を覚えたこと。 デクスター医師は、かぶりを横に振った。 「うわべだけのたわご こうして見るとラ・フクラフトのことばも新たな意味を帯びてくる」とだ」彼はいいつのった。 「いくらきみが・ーー・そのーー逆上してい るからといって、そのくらいのことはわからてもよいはずだそ、き みイ ! その詩には、文字通りの意味などありはしないのだ。けも かくて神秘なるエジプトより こうべ のどもがわしの手に顎を寄せる ? なにものかが深海より生まれ 農夫たちの頭を垂れて崇めたる きみ る ? 地震があって、オーロラが逆まく ? ばかばかしいー 摩訶不思議なる黒きそのもの 来たりぬ は、われわれいうところの″原爆恐怖症″なるもののひどいケース しろうと だーーーもはや、そいつは、はっきりしておる。今日、多くの素人が フィスクは、医師の黒い顔にじっと瞳を凝らしたまま、詩を朗詠そうであるように、きみもまた、核分裂におけるわれわれの仕事が いずれは地球の絶減を招く結果になるだろうという愚かな固定観念 した。 「ばかばかしいーーー是非とも知りたいというなら教えてやるが、わに取りつかれているのだ。こんなこじつけは、なにもかもきみの想 しがこうした皮膚病に罹ったのは、ロス・アラモスで放射能を浴び像から生まれたものだ」 た結果なのだ」 フィスクは気にもとめないで、そのままラ・フクラフトの詩を続け フィスクは、書類カ・ハンを握りしめた。「わたしは、ラブクラフ ていた。 トのこの予言が寓話だといったはずだ。彼がなにを知り、なにを恐 れたのか、それは神のみそ知りたもうところだが、ともかくそれが なんであるにせよ、彼がそのいわんとすることをことばの裏に託す に充分なことだった。恐らくはそのときすでに、やつらは、彼が知 りすぎているというので彼にとりついていたのだ」 「やつら ? 」 かしず けものども傅き従いその手に顎を寄せる 黄金の尖塔雑草のごとくそそり立っ よこしま 忘れ去られたる国々の邪なるもの こがね あぎと 0 8

5. SFマガジン 1973年6月号

グループ。ーの一会員なのだった・ した建物ーーかっては邪教崇拝の信者たちを参集させた、さびれは フィスクとプレイクが知りあうようになったのはこの文通によるてた教会の廃墟ーーを調べてみたいという誘惑にかられたのであ もので、その後彼らは互いに、ミルウォーキーとシカゴの間を往復る。春もまだ浅い頃彼は、その人も寄りつかぬ建物を訪れ、 ( ラブ し訪ねあったのである。ふたりが共通して文学や美術における怪異 ' クラフトの意見によれば ) 彼の死を避けがたいものとしたある発見 と幻想にとり憑かれていたことが、プレイクが思いもかけない不可をしたのだった・ いしずえ 解な死に見舞われた時、ふたりを肝胆相照らす仲にしていた礎を なしていたのだった。 要約すると、プレイクは板ぺいに囲まれたそのフリー・ウイル教 プレイクの死と繋がりを持つ大部分の事実ーーーそしていくつかの会に入って行き、一八九三年に明らかに同じ調査を試みたと思われ 憶測ーーは、ラブクラフトの物語、この青年作家が物故して一年余るエドウイン・ ・リリ・フリッジと名乗る〈プロビデンス・テレグ も経って活字となった〈暗黒の訪問者〉の中で具現化されている。 ラフ紙〉の記者の骸骨につまずいたのである。彼が不可解な死を遂 ラブクラフトは、事情を観察するまたとない機会を得たのだっげているという事実は充分に驚嘆すべきことのように思えたが、な た。というのも、一九三五年早くに・フレイクがプロビデンスに施しおそれ以上に驚くべきは、その日以来、あえて教会に入って行って たのがほかならぬラブクラフトの勧めによるものであり、彼にカレ彼の死体を発見するほど豪胆な人物がひとりとしていなかったのだ ッジ・ストリートの下宿を世話したのもラブクラフト自身だったかとわかったことだった。 らである。というわけで、この年長の怪奇作家は、ロ・ハート・ ・フレイクは記者の着衣からメモ帳を見つけ出した。そしてそのメ スン・プレイクの最後の数カ月間にわたる常軌を逸した物語をものモ帳から幾分かの事実が明らかになった。 にするにあたって、友人であると同時に隣人としての立場にあった プロビデンスのボウエンという一教授がエジプトを広範囲にわた のである。 って旅行したのだが、一八四三年、彼は、ネフレン・カの納骨堂の ラ・フクラフトは、その物語の中で・フレイクが、ニュー・ イングラ考古学的調査を進めているうちに、ある異常な発見をしたのである。 ンドに今もその跡をとどめるという悪魔崇拝を扱った小説冫 こ着手し ネフレン・カは、いまは〈忘れ去られたファラオ〉で、その名は て苦心惨憺することにふれているが、彼が友人の取材にひと役買っ聖職者の呪詛の的であり、エジプト王朝に関する公式の記録からは いっさい抹殺されている。そのとき、青年作家プレイクはすでにそ たのかどうかについては謙譲にもはぶいている。どうやらプレイク は、自分の計画に基づいて仕事をはじめたらしく、やがて、想像での名をよく知っていた。主としてミルウォーキーの今ひとりの作家 はとても想い描くことができないような恐怖に巻きこまれることとの作品によってだが、彼は〈・フラック・ファラオの神殿〉という作 なったのだった。 品の中で、この半ば伝説化した支配者を扱っているのである。とも 5 ブレイクは、フ = デラル・ヒルに建つ今にも崩壊しそうな黒々とあれ、ボウエンがその納骨堂で行なった発見は、全く思いもかけな

6. SFマガジン 1973年6月号

アウトサイド 、ま彼よ、その銃口をデクスター医師の胸に・ヒッタリと擬したので 「そうだ、異次元の世界から来た連中、ーーきさまの仕えるやつらのル / を ある。 ことだよ。きさまはやつらの使者、ナイアルラトホテッ。フなのだ。 「もちろん、馬鹿けている」フィスクは、つぶやくようにいった・ きさまは、あの〈光る多面体〉と結合して、詩のいっている通り、 神秘なるエジプトよりやって来た。そして、農民たち・ーースタ 1 リ「スタ 1 リー・ウイズダム派なんてものは、わずかばかりの狂信者 よそもの ・ウイズダム派に改宗していった、プロビデンスの一般労働者ーと、ひと握りの無知な他国者以外、だれひとりとして信じてはいな っこ。・フレイクの小説やラブクラフトの、あるいはわたしの小説 ーは、彼らが〈訪問者〉として崇拝した″摩訶不思議なる黒きそのかナ 」」うべ を娯楽としてもどちらかといえば病的と受けとるぐらいが関の山 ものの〃の前で頭を垂れたというわけだ。 「〈多面体〉はナラガンセット湾に沈められた。そして、やがて深で、真面目に考える者はひとりだっていやしなか「た。それと同 海からこの邪悪なるものが生まれきた 0 たーーきさまの誕生だ、つじ伝で、きさまや、原子 = ネルギーのいわゆる科学的研究なるもの まりデクスター医師の肉体に取りついて化身したんだな。やがてきや、その他、きさまがこの世界に破減をもたらすべく解き放とうと さまは、人間に新しい破壊の方法を教えた。つまり、″大地裂け狂目論んでいる、恐るべき企みがなにかうさんくさいと思うやつは、 気のオーロラ逆まきて揺れ動く人の都に垂れこめぬ。というくだりひとりだっていやしないだろう。そういうわけで、わたしはいま、 は、原子爆弾を使っての破壊を指しているのだ。ああ、ラブクラフきさまを殺してやる ! 」 トは、自分の書いていることをちゃんと承知していたんだな。そし「その拳銃を下したまえ ! 」 てプレイクもきさまの正体を見破った。それが、ふたりとも死んで しまった。きさま、こんどは、このわたしを殺そうとするのだろ突然フィスクが震えはじめた。身体全体が見るも激しくけいれん 。きさまは、講演して回り、研究所員のわきに突っしてわなないているのだった。デクスターはそれを見てとり、進み う。やる力いし 立って彼らをせきたて、さらに大きな破壊をもたらす新たな示唆を出た。若い方の男の目が飛び出さんばかりにカッと見ひらかれてい 与えてやるのだろう。そして最後に、きさまは、この地球を粉々にる。医師は、一寸刻みに彼の方へにじり寄った。 吹きとばしてしまうのだ」 「さがっていろ ! 」フィスクが警告した。あごがひきつるように震 「たのむ」デクスター医師は両手を差し出した。「たのむから、落え、ことばは歪んでいた。「わたしが知りたかったのはそれで全部 こんなこと、まる だ。きさまも人間の姿に化身しているからには、普通の武器で葬り ち着いてくれーー・わしにもいわせてくれんかー 去ることができる。いまこそきさまを葬ってやるそーーーナイアルラ つきり馬鹿けておるということが、きみにはわからんのかね ? 」 フィスクは、手で書類カ・ ( ンの止め金をまさぐりながら、彼の方トホテップめ ! 」 へ歩み寄った。垂れぶたが開き、フィスクは、中に片手を突っこん彼の指が動いた。 デクスタ 1 医師の指も動いた。彼の手が目にもとまらぬ素早さで で、それから引き出した。その手にはリポル・ハーが握られていて、 8

7. SFマガジン 1973年6月号

キャプテン・アメリカの戦い ャプテン え、コネチカットで学校教師となった。学校で、私は、キ ・アメリ . ャプテン・アメリカの昔の物語を夢中になって読みふけっ 8 力になれている少年を見つけた。なにしろ、自分のことを、・ハッ る ! 私ーと呼んでいるほどの〈キャップ狂〉で、すぐ親しくな は、そのり、私は、自分のしてきたことを、すっかり彼に、うちあ 書類を持けた。政府の計画は、中止になったけれど、もう、ふたり って、ワ は、がまんが出来ず、キャプテン・アメリカと・ハッキーの シントン コスチュ 1 ムを作り、薬品を合成して注射した。こうし に向い て、新しい、しかし、外見は、まったくむかし通りの、愛 政府高官国の英雄チームがよみがえったのさ。 に面会し われわれは、自由アメリカをおびやかす共産主義者撲減 た。「きのため、中国やロシアのスパイどもと戦い続けた。だが、 みは、お次第にわれわれには、純粋なアメリカ人以外は、すべてア 国のため力だということがわかってきて 、ハーレムの黒人どもも一 に、たいへんな貢献をすることになるそ」と彼は言った。掃しなければならんと感じはじめたのだ。この考えは、世 「朝鮮戦争が続いている現在、この薬品によって、スーパ 間一般より、ちょっと進んでいたのだが、政府はそうは思 1 兵士を創れば : : : 」「その、新しいキャプテン・アメリ わなかった。「あのふたりの行動は、過激すぎる。かって 力には、私を、ならせてください。その条件で、この薬品は祖国を護る英雄だが、いまでは、気違いだ」ワシントン の秘密をお渡しします」結局、私の要求は通り、計画は進の連中は、われわれふたりを捕え、べータ光線をあて、仮 められた。私は、少年時代のあこがれであったキャップそ死状態にしたわれわれを、世間の目から隠してしまった。 のものの再来と思われるようにしようと考え、まず、整形もちろん、こうしたことは、すべて後になって知ったの 手術を受け、顔つきも、体形も、そして声の質も、スティ だが、われわれは、ずっと仮死状態のまま、一九七二年に 1 ・フ・ロジャースと同じになった。アメリカ国民に、キャ なった。この年は、アメリカ人にとってショッキングな事 プテン・アメリカは、不死身なのだと示したかったのだ。件が続いたが、最大の異変はニクソンの中国訪問だった。 そう、彼は、決して死んではならない。さて、いよいよ薬ある政府筋の男は、「これじゃ、アメリカじゅうがアカに 品を注射するばかりとなった一九五三年七月二七日、新聞支配されちまう。なんとかしなくちゃならん」とびつくり は、朝鮮戦争の終結を告げていたではないかー し、われわれのことを思い出した。「そうだ、祖国の危機 〈ス 1 1 兵士作戦〉は、中止となり、私は失意のまま、 を救うため、あのふたりを目覚めさせよう」彼は秘密の医 それでも、記念のためスティ 1 プ・ロジャースと名を変療室に忍びこみ、仮死状態のわれわれを復活させたのだ。

8. SFマガジン 1973年6月号

を放りこむとき、わしはふたをあけておいた なぜなら、きみも「それはだね、物理学に対する興味が医学のそれに取って代わった 知っておるように、〈訪問者〉を招き出せるのは暗闇だけだからのだとでもいうところかな。御存知だかどうだか、過去十年余りの 7 ね。今ではあの石も永遠に光にさらされているわけなんだよ。 間わしは、原子工ネルギーおよび核分裂に関する問題の研究に携わ ということで、わしがきみにお話しできるのはこれぐらいだね・ っておったのだよ。実のところ、明日になったらわしはもう一度プ 残念なことながら、仕事の関係で今の今まできみに会うこともできロビデンスを離れ、東部の各大学や政治団体を回って講演して歩く なければ、連絡することもできなかった。わしは、この一件にきみことになっておるのでね」 せんせい が関心を示してくれたことを有りがたく思うと同時に、いまわしの 「それは、わたしにとって大変興味のあることですよ、博士」フィ お話ししたことが多少なりとも、きみの疑惑を晴らすであろうことスクはいった。「ところで、アインシ、タインにお会いになったこ を、わしは信じておりますそ。プレイク青年については、彼を診断とがありますか ? 」 した医師としての職能により、彼が死亡時正気であったとの、わし「それは会ったとも、数年前だがね。どうでもよいことだが、一緒 の信念を喜んで証明書にしてさしあげよう。きみのホテルの住所をに仕事もやったよ。さ、そろそろかんべんしてもらわなくちゃなら 教えてくれれば、明日それを書いて送ってさしあげるが、こんなとんな。そういう問題については、多分またの機会に話し合うことが ころでよろしいかな ? 」 できるだろう」 会見はこれで終りだ、とでもいうように、医師は立ちあがった。 今や、医師はまぎれもなく苛立っていった。フィスクはっと立ち フィスクは、なおも坐ったまま、書類カ・ハンの位置をかえた。 あがり、書類カ・ ( ンを片手に持って、もう一方の手をサッと伸ばす 「これでかんべん願いたいのだが」医師はつぶやくようにいった。 や卓上スタンドを消した。 「ちょっと待って下さい。お答えいただければ大変ありがたいので と、医師はあわてて駆けより、今一度電灯をつけたのである。 すが、お訊きしたいちょっとしたことがあと一、二あるのです」 「な・せ暗闇を怖がるのですか、博士 ? 」フィスクはやんわりとたず 「いいでしよう」デクスター医師が苛立っていたとしても、彼はそねた。 の気振りを見せなかった。 「別に怖がってーーー」 「ラブクラフトが最後の病気に罹る前か、その病気中に、ひょっと はしめて医師は、落ち着きを失いかけている様子だった。「どう してお会いになりはしませんでしたか ? 」 いうわけで、そんなことを考えたんだね ? 」彼はささやくようにい 「いいや。わしは彼を見立てたことはなかった。事実、会ったことった。 は一度もない。むろん彼も、彼の作品も知ってはいたがね」 「〈光る多面体〉なんでしよう ? 」フィスクは続けた。「ナラガン 「プレイクのことがあった後、あんなに急にプロビデンスを立ち去セット湾にそれを放りこむとき、あなたはあまりにもあわててい られたのは、どういうわけだったのですか ? 」 た。ふたを開けつばなしにしておいても、みおの底ではあの石が闇 せんせい

9. SFマガジン 1973年6月号

った拍手、彼の腕をつかんだケッセルマンの指の圧力ーーそれらが た意味を見いだせるのは、どこか不気味でもあった。 すべて消えていった。彼は警部の低い呟きを耳もとに聞いた。 ゃあ、すご い ! あんなものははじめてだ ! 」だが、それもいまの いつのショウでも、俳優がおなじことをくり返しているのに、観 彼には遠いものだった。 客が決してそれに飽きず、またしてもそれを見にやってくるのも、 チ = スターは、さっき彼らのひとりひとりを知ったように、この不気味だった。不気味ではあったが、それは美しかった。ニーヨ 宇宙船がなんであるか、この宇宙人たちがなにものであるか、彼ら ークは〈ザ・ 1 フォーマンス〉に首ったけだった。 が地球へなにをしにきたかを知った。静かに、そして敬意すらこも三週間後、宇宙船の警戒にあたっていた軍隊は、ミネソタ州の刑 った声で、彼は自分がこういうのを聞いた。 務所暴動の鎮圧にふりむけられた。毎夜〈ザ・ パーフォーマンス〉 「あれは芝居ですよ。あの連中は役者なんだ ! 」 を定期的に上演するのが、宇宙船の唯一の活動だったからだ。五週 間のあいだに、スー ・チェスターはぎりぎりの低予算で必要な手 彼らはすばらしく、ニューヨークは世界よりも一足先にそれを知配をなしおえ、このショウがエメリー・ ・フラザーズのときのように った。ホテルや商店街は、ここ何年にない大ぜいの旅行客で氾濫し尻すぼみにならないことを、ひたすらに祈った。依然として食うや た。市街には、世界各地からの訪問者がひしめいた。彼らは〈ザ・食わずの日がつづいており、彼の話を聴いてくれそうな人間に出あ うたびに、こう訴えるのだった。 ・ハ 1 フォーマンス〉の奇跡を見にやってきたのだった。 「いやはや、この商売もシケたも 〈ザ ・パ 1 フォーマンス〉はつねにおなじだった。宇宙人たちは午んさ : : : しかし、こんどのが一発あたりさえすりや : : : 」 七週目にはいって、・ハ 後八時きっかりに、デッキ ( それが事実彼らの舞台だ ) に現われ ート・チェスターは最初の百万ドルを稼ぎ はじめた。 る。そして、十一時に演技を終える。 三時間のあいだ、彼らは華麗な動きとポーズをつづけ、熱心な観 客を畏敬と愛の興奮の坩堝に追いこむ。これまでのどんな劇団もな むろん、金をはらって〈ザ・ ーフォーマンス〉を見る人間はひ しえなかった極限にまで。 とりもない。街路からちゃんと見物できるものに金をはらう・ハ力が タイムズ・スクエア近辺の各劇場は、夜の部の興行を取消さざるどこにいる ? しかし、それだけですまないのが、″人間性″の底 をえなくなった。多くのショウが打切りになった。そうでないもの知れぬ複雑さというやつだった。 は昼興行に切りかえ、運を天にまかせた。〈ザ ・・ハーフォーマン道路に立ちんばうで見物するより、摩天楼の外側に吊るされた・ハ ス〉は演じつづけられた。 ルコニー式の金塗り指定席 ( もちろん、ロイド組合の保険つき ! ) 一言のセリフもなく、理解できる仕草もないのに、観客のひとりにすわりたいという人間は、まだいるものだ。 ひとりがそれに没入し、共感し、そしてそれぞれにすこしずつ違っ ポプコーンとチョコレートをかぶせたアーモンドが、観劇のたの 日 0

10. SFマガジン 1973年6月号

知れない恐怖の実体から自分たちを守ったのだった・ のを聞いたという事実は否定すべくもない・少なくともふたりの充 明らかに噂は隣家から隣家へと伝わり、そのまま生き続けていた分に信ずべき証人がその事実を証言しているのである。そのひと ようである。ひとたび嵐が治まると、土地の新聞社はにわかに関心り、スピリト・ サント教会のメルルツツォ神父は、現場に居あわせ をつのらせた。そして七月七日、ふたりの記者が警官ひとりを伴って群衆を鎮めていたのだった。いまひとり、セントラル署のウィリ て、その古い教会へ乗りこんで行った。決定的なことはなにも発見アム・・モナ ( ンパトロール巡査 ( 現在巡査部長 ) は、つのりゆ されなかったが、階段や腰掛に奇妙にも不可解なしみやよごれが残く恐怖を目のあたりにしながらも、秩序を保とうとやっきになって っていたのだった。 いたのである。モナハンは、最後の稲妻が突っ走ったとき、古びた それから一カ月たらず後。ーー正確にいえば、八月八日の午前二時教会の尖塔から、煙のように発したと思えるめくらめくような″か 三十五分ーーの雷雨の真最中、ハ ート・ ( リスン・・フレイクは、すみ″をい自ら目撃していた。 カレッジ街の自室で窓を前にして坐っている間に、死に見舞われた 閃光、流星、火の玉ーーなんとでも呼べよう がプロビデンス のである。 の上空に。 ( ッとほとばしり、めくらめくような輝きを放っのであ ハリスン・・フレイク 彼の死が発生する前、嵐が次第に高まっていく中で、・フレイクる。恐らくは、町のむこうこ、 冫し 42 ロハ は、心の最深部につきまとっていた〈暗黒の訪問者〉に関する妄が、「それは古代の暗闇に閉ざされたヘムで人間の姿になりさえし 念、苦悩を徐々にさらけ出しながら、狂気になって日記を殴り書き たというナイアルラトホテップの化身なのではあるまいか ? 」と、 していた。あの箱の中に収まった奇妙な水品を凝視したために、ど書いていた、まぎれもないその瞬間に。 ういうわけなのか、この地球上のものならぬ実体と繋がりを持って その数瞬後に。フレイクは死んだのだった。検死医は、彼の死が しまったというのが、プレイクの確信なのだった。さらに彼は、箱″感電″によるものだと判定した。彼の面していた窓ガラスがこわ のふたを閉じてしまったことで、あの生き物を招き出し、教会の尖れてもいなかったのにである。ところがラ・フクラフトも知ってい 塔の暗闇の中に棲みつかせることになったのだということ、彼自身る、今ひとりの医師がその判定に異議を唱え、翌日さっそく問題の の運命が何らかの形でこの怪奇な生き物と、もはや取り返しのつけ解明にとりかかったのだった。警官のひとりも引き連れずに、彼は ようもなく繋がれてしまったのだと信じていたのだった。 単身教会へ乗りこみ、窓ひとつない尖塔へと登って行った。そこ こうしたことはすべて、窓から嵐の進行を見守りながら彼がしたで、くだんの不思議な不均整の箱ーーー黄金製だったのだろうか ? ー ためた、最後の控えの中で明らかにされていたものである。 ーと、箱の中のあの寄妙な石を発見したのだった。明らかに彼が最 一方、フ = ラデル・ヒルの教会自体では、あたりに動揺した群衆初にやったことは、箱のふたを開けて、その石を明るいところへ持 が集い、建物にむかって光をかざしていたのだった。彼らが、板べ って行って確かめてみることだった。次なる彼の行動は、ラブクラ 7 いに囲まれた建物の内部から恐怖におののかせるような物音がするプトによれば、 : ホートをチャーターし、箱と奇妙な多面を具えた石 つど