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検索対象: SFマガジン 1973年7月号
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1. SFマガジン 1973年7月号

: 。、連Ⅱサイエンス 3 ジャーナル 第疾風濤時代の天文学 ~ 第を加藤髞喬ッ 四月末、ワシントンで、アメリカ科学アカデミーとスミソニアン協会の主殆んど変らないほどの小天体になってしまう。 催でコペルニクス生誕五百年記念集会が開かれ、四百人以上の天文学者、科 これが、いわゆる白色矮星である。 学者が集って、最近の天文学における革命について討論した。 しかし、最近まで、太陽よりも質量の大きな恒星の進化のメカニズムは、 ここ十年あまりの天文学の分野のデッドヒートぶりは非常なもので、新ら天文学上の謎とされてきた。 しい観測事実に基づく新らしいセオリーが、つぎつぎに現われて、その都 これを説明しようとする仮説は、もちろんさまざまあった。その一つが、 度、宇宙構造理論と世界像そのものとを書き直そうとする様子は、新らしい ・オッ。ヘンハイマーその他の主張する中性子星説で、彼らによる シトルム・ウント・ドランク 科学上の疾風怒濤時代の到来といってもよいほどである。 とそうした恒星は、標準型の星とおなじように赤色巨星または超巨星とな じっさい、この十年間に、観測技術そのものも、それまで予想できなかっ り、その後大爆発を起して、質量の大半を宇宙空間に放散する。これが、い たほど発達した。天文学者は、従来の光学観測装置ーー天体望遠鏡や、電波わゆる超新星ーーースーパーノヴァ現象だが、その際、あとに、直径わずか五 ュート 0 ン・スター 望遠鏡に加えて、 X 線探知器や紫外線、赤外線検出装置を、それらが地表に ~ 一〇キロ程度の超高密度の天体を残す。これがつまり、中性子星で超強 達する以前に吸収してしまう大気圏の上を飛ぶ人工衛星に積むことによっ力な重力のために、原子もつぶれて、殆んど中性子だけがぎゅう詰めになっ て、それまでの天文学の常識を破る全く新らしい天体ーークエーサー ( 準 た状態の天体であって、一平方センチメートルあたり数千万トンから数億ト 星 ) やパルサー ( 脈動星 ) や X 線星、さらにはプラックホ】ルなどさまざま ンもの重さを持っと、理論的に予測された。 の天体を発見し、その上に新らしいセオリーを展開することができた。 中性子星は、長いことたんなる理論上の存在にすぎなかったが、一九六七 そうした発見は、やや誇張していえば、毎日のように行なわれて、天文学年、イギリスのケン・フリッジ大学の電波天文学者のグルー。フが発見したパル 者たちの論議に新らしい材料を提供しつづけているのである。 サーと呼ばれた天体ーーきわめて小型で、迅速な脈動運動をつづけている。 こうした発見の幾つかは、従来の天文学で謎とされてきたものを解明する しかも標準型の太陽の一万倍もの強力なエネルギーをもっ電波を発散してい ことに役立っている。とくに、この五年間、はっきりしてきた謎の一つは、 るーーが、事実上の中性子星ではないか、という発表を行なって、世界を驚 恒星の死のプロセスである。 かせた。そして、現在では、この仮説は、世界中の大半の科学者によって認 従来も、恒星の進化は、ある程度わか・つていた。われわれの太陽と同程度められている。 の恒星ーーっまり、この宇宙での標準型のサイズの恒星が、老化現象をおこ、 つぎに登場したのは・フラックホールであった。 したときには非常な短期間ーーわずか二、三百万年のあいだに、赤い巨人星 これは、太陽よりも十倍以上大きな恒星が崩壊したときできる、一種の物 レッドジャイア / ト いわゆる赤色巨星となることが、観測されてきた。赤色巨星は、その最質のかたまりであって、大きさはパルサーⅡ中性子星よりもさらに小さく、 盛期には、ノーマルな時の二五〇倍ーーたとえば、】われわれの太陽の場合だ せいぜい直径二 ~ 三キロのものと考えられているが、これが、従来の天体物 と、直径三億七五〇〇万キロメートルの球となり、地球はもちろんのこと火理学の常識を踏み破るふしぎな性質を持っている。 星もすつぼりとその中に呑みこまれることになるーーーの超巨大な光球とな たとえば、この天体は全く光を発しないが、それは、あまりの超高密度で る。そして、最大に達すると同時に収縮をはじめ、たちまちのうちに地球と物質が詰まっているために、そこに発生するおそるべき大重刀が、光でさえ ホリイト・ドりーノ ニュート第ン・スター ワ 8

2. SFマガジン 1973年7月号

いその辺りにいるはずだったのだ。 コードは手をのばし、『おじいちゃん』の共生相手でもあり案内 二回しくじった後、やっと三回目に彼はプラットフォームに這い 人でもある奴の、ぐにやぐにやした後脚をつかまえ、水から半身を のりだし、すばやくナイフで二度突き刺したが、相手のうす青い眼あがり、息をきらし、咳こみながら、しばらくそこにぶ 0 たおれて いた。こんどは彼の存在を邪魔にしているようすはなかった。やが はまだ開いたままだった。 = ードは、『虫乗り』が普通そうであるように、イ = ロー〈ッドて、 = ードがのろのろと立ちあがり、三人の仲間がまだ呼吸をして いるかどうか確かめようとしたとき、だらりとした数本のツルの先 もわが身を護るために宿主から離れるには、一秒や二秒はかかるだ ろうと思 0 ていた。ところが、こいつはただ首をこちらに向けただ端が、あたかも以前の機能を思いだそうとでもするように、心もと なくびくびくと動いた。しかし、コードはそれに注目しようともし けで、ロをかっと開き、コードの左腕の肘のあたりに食らいつい た。彼はじっとこちらをにらんでいる片方の眠に、右手でぐさりとなかった 三人はまだ呼吸をしていた。彼は自分の手で彼らを助けようと、 ナイフを突きたてたが、イエローヘッドはぐいと身をひき、それと いたずらに時間を浪費するのは愚かであることを知っていた。そこ ともに、彼の手からナイフがもぎとられた。 滑りおりながら、彼は両手でそのぬるぬるした脚をつかみ、全身でグレイヤンの熱線銃をホルスターから引き抜いた。『おじいちゃ の体重をかけて引 0 ば 0 た。それでもなお、ちょ 0 とのあいだ、イん』はさ 0 きからま「たく進行をとめていた。 = 。ー〈 , ドは頑張 0 ていた・だが、やがて筏と結びついていた無完全に正気にたちかえるだけの時間が、 = ードにはまだなか 0 た 数の神経の筋が、すにんというような音をいくつもたてて、離れてのだ。でなければ、『おじいちゃん』が、自分を操縦していた共生 「ードはイ = ロー〈 , ドもろとも、飛沫をあげて水中に投者からむりやりに引離されても、まだ自分のカで動けるかどうか、 しまい 心配になったはずである。ところが、そんな心配どころか、彼は海 げだされた。 またしても、もつれあ 0 た黒い毛根のなかだーーそして、背中と峡地区本部〈のだいたいの方角をきめ、それと対応する箇所を・フラ ットフォーム上に選び、『おじいちゃん』に軽く熱を当てた・ 両脚と、とっぜん、二度にわたってふいに襲った電気ショックのよ うな痛み ! 息が苦しくな 0 て、 0 ードは手をはなした。一瞬、下すぐにはなんの反応もなか 0 た。 0 ードは辛抱づよく溜息をつ のほうで、死体が妙に人間に似た動きでくるくる回り、やがて、固き、すこし熱量をあげた。 い水の壁が彼を押しあげ押しあげ押しのけているうちに、なにか大『おじいちゃん』が静かに身を震わせた。 = ードは立ちあが 0 た。 きくて白いものが、くるくる回 0 ている死体にぶつかり、そのまま最初はゆ 0 くりとためらうがごとく、やがては、し 0 かりした目 『おじいちゃ いまは、また知性を失っているが 的をもって 行ってしまった。 01 ドは筏の十二フィート後方で、に 0 かり海面に浮びあがつん』は海峡地区本部に向 0 て、のたりのたりと引返しはじめたのだ 7 た。『おじいちゃん』がすでに速力を落していなかったら、だ、こ

3. SFマガジン 1973年7月号

それと同時に、コードはさっと駈けだした・一瞬、『おじいちゃ て、彼をツルの届くところまで放りだすことはできなかった。 コードは円錐体のまわん』の注意をそらそうという彼の企ては、完全に成功したかにみえ 7 それにしても、これは警戒警報だった ! りを慎重に歩き、筏の前半分のところにある。望みどおりの位置にたーーっぎの瞬間、盛りあがってくるプラットフォームに足をすく たどりついた。それから彼は待った。ながいあいだ、身じろぎもせわれ、膝をついた。 ず、心臓の鼓動がとまり、筏の表面の怒ったような不規則な震動が縁まで八フィートの距離だった 9 その縁がもとの位置にさがった 消え、最後のツルの巻きひげが、盲減法に探っていたのをやめるまとき、彼は必死の勢いで飛びだした。 一瞬ののち、彼は筏のすぐ前の冷たい透明な水を切りさいて突っ で待った。彼が次の行動を開始してから一秒か二秒のあいだ。『お じいちゃん』が彼の正確な位置に気づかないでいてくれれば、どんこんでいったが、まもなく反転して、海面に浮びあがった。 筏は頭上を通りすぎていくところだった。小さな海の生物の大群 なに助かるかしれないのだがー 自分たちが海峡地区本部から、いまではどのくらい離れたか、彼が、栄養吸収毛根の暗いジャングルのあちこちにむらがっていた。 コードはなめらかな緑色の、幅のひろい、ゆらめいている紐状のも は一度振りかえって検ためてみた。一時間とはかかるまい。どんな に悲観的に見ても、このくらいの距離なら大丈夫たーーほかのことのから、はっとして身をひいた。それは触れると手ひどい痛みをう が万事うまく運びさえすればの話だが ! その『ほかのことが万ける例のやつである。コードは脇腹に焼けつくような衝撃をお・ほえ たが、してみると、ほかのやつに軽く触れたのだ。彼は筏の底いっ 事』になにが含まれるか、彼はこまかいことまで考えてみようとは しなかった。というのは、あらかじめ予測することのできない要素ばいをおおっている、ぬるぬるして、からまりあった、黒い毛根の があるからだった。それに、そんなことを今からあまりはっきり考あいだを、やみくもに押しわけていった。やがて、緑色の・ほんやり えると、自分の計画を実行にうっせなくなりそうな、不安な気持も明るいものが頭上を通りすぎ、彼はあっというまに円錐体の・下にあ あったのだ。 る、中央の気泡のなかに飛びこんでいた。 コードは注意ぶかく身を動かし、銃はホルスターにいれ ・ほんやりとした明るさ、むっとするような悪臭のこもった、熱い たまま、左手でナイフを持った。それから、しつかり結えた衣類の空気。海水がからだのまわりをびたびたとたたき、ふたたび彼をさ 包みを、右手で ' ハランスをとりながら、ゆっくり頭の上にあげた。 らっていこうとする , ーーここにはしがみつくものが何もないのだ ! そして、大きく、なめらかな動作で、包みを円錐体の向う、プラッ と、そのとき、頭の上、右手のほうに、円錐体の彎曲した内面に、 トフォームのほぼ反対側のふちへ投げた。 まるでもともとそこで生れ育ったかのように、人間ほどもある、あ 包みは水をふくんだぐしやっという音をたてて落ちた。ほとんどの蛙のようなイエローヘッドが、びったりへばりついているのであ 間髪をいれず、筏の向うの縁全体がまくれあがり、ばたばたと波うる。 『筏乗り』だー ち、その異物を伸びてきたツルのほうに投げだした・ あら ラフト・ライー

4. SFマガジン 1973年7月号

ばす瞬間となるのだ。いずれにしろ、『白い狩人』は、小骨一つ残をまた捕えたツルに猛然と歯をたてたが、あっというまにプラット フォームにたたきつけられて、死んでしまった。 さず食べてしまう海の掃除屋だ。そして、これから起ろうとするこ コードは『おじいちゃん』に対し、理由のつかない憎悪がこみあ とを、彼のカでまだなんとかできる限界は、これがせい・せいのとこ けてくるのをおぼえた。虫を殺すのは、木から枝を一本切りおとす ろなのだ。 いつぼう、気象観測所のヘリコ。フターが彼らを発見する見込みのとたいして変りはない。彼らにはほとんど生きているという意識 はないからだ。ところが、『虫乗り』はその一見知性でも持ってい も、非常にかすかではあるが、ないではないのだ。 またいつばうでは、くたくたに疲れ、身の毛もよだつような気分そうな行動のせいで、コードに仲間意識をかきたてたーーーそれにま た、事実、その外見からいっても、機械仕掛けのように、だが、じ に呆然となりながらも、『おじいちゃん』にこれほどの悪夢めいた 変化をもたらせたものは何かという謎を、たえず頭のなかで考えつにうまく『虫乗り』と人間と両方とも罠にかけた、あの醜怪な生 つづけていた。もう今では、自分たちがどこに向って行っている命体よりも、こいつのほうが人間の尺度にちかいのだ。やがて、彼 のか、見当はついていた。はるか背後の海峡まで、筏の隊列はまばの考えは、ふたたび、ほかのほうへさまよっていった。そして、ふ らな数珠のように縦につながるか、あるいは、これから向うコースと気がついてみると、沼地虫と、その虫乗りのように相異なる二つ にだいたい平行になって進み、その行く先は、一千マイル北にあたの生物の神経組織が、まるで一面の有機体として機能するほど密接 る、プランクトンの繁殖地、ツランティ海溝である。時間さえ与えに結びついている。この奇妙な共生のことを、漠然と考えていた。 あっけ とっ・せん、つよい、そして呆気にとられたような驚きの表情が彼 られれば、動くスイレンの葉のような筏どもでも、子孫を残すため に、これだけの長途の旅をはたすことができるのだ。しかし、彼らの顔にあらわれた。 これでわかったー なんた、そうだったのか の肉体構造には、この敏捷で、みごとな食肉動物への突然の変化を 解明するものはなにもなかった。 彼はあの弾力のある。小さなアザラシのようなものが、ロにほう コードは興奮に身をふるわせながら急いで立ちあがった。計画の りこまれるのを見ていた。ツルがその頸骨を折り、ロがすつ。ほりと全貌はすでに頭のなかでできあがっていた。たちまち、十本ばかり くわえこみ、一口にするにはまだちょっと大きすぎるのを、辛抱づのながいツルが、急に動いた彼のほうへと蛇のようにうねり、彼を よくこなしていった。そのあいだにも、頭上ではまだ細い猫のよう求め、びんと張って伸びてきた。彼のところまでは届かなかった な鳴き声がしていて、しばらくすると、沼地虫がもう二匹、ほとんが、その獰猛なまでも敏捷なその反応ぶりに、ちょっとのあいだ、 コードはそこに釘づけになった。彼に近づけないので苛らだってで ど同時に罠にかかり、食料貯蔵所に加えられた。『おじいちゃん』 は死んだ沼地虫はすて、『虫乗り』のほうを口にいれた。もう一匹もいるように、。フラットフォームが足の下で震えた。しかし、ふち乃 の『虫乗り』は、だしぬけに乗っていた沼地虫から飛びおり、自分のほうならいざ知らず、いま彼がいるところでは、急に突きあげ

5. SFマガジン 1973年7月号

が狙っているのは『おじいちゃん』なのだった ! いまだに握りしめ、コードは海岸のほうを見つめた。自分が探して コードはわれを忘れて見ていた。円錐体の先端には、筏が湾をで いるものはわかっていたので、すぐにそれと見わけのつく波の高ま 7 る前からすでにふくれはじめていた。真赤な、うじ虫に似た突起物りを見つけることができたーーー長い、象矛色の光が、うねりの下で が、うじゃうじやかたまり、ゆっくりとのたくっていた。たぶん、 キラと閃き、そして消え去った。それより小さな生物の大群が、輝 『虫乗り』の眼には、それがうまそうな食物に見えたのだろう。 く飛沫となって、必死に空中へ飛びあがり、またどっとくずれおち その沼地虫は軽くはばたきながら降りてきて、円錐体に触れた。 罠が・ハネ仕掛けでとるように、緑色のツルがさっと伸び、からみつ これでは海岸までの距離の二十分の一もいかないうちに、溺れか き、そのもろい翼を締めつけ、ながい、やわらかな胴体のなかに、けたハエも同然、ばっくりやられるのはきまっている ! ほとんどその姿が見えなくなった。 『おじいちゃん』は食べはしめた。 それから一秒たっかたたないうちに『おじいちゃん』はまた一匹円錐体の側面に縦にあいた黒い裂け目は、その一つ一つがロだっ つかまえた。こんどは海から直接だった。なにか小さな弾力のあるた。いままでのところ、ロとしての用をなしているのは一つきり アザラシに似たものが、コードの視野をさっとかすめた。そいつはで、そのロもまだそれほど大きくは開けない状態だった。しかし、 水中から飛びだし、必死に急いでいるように筏のふちにとびあがる最初の一口はもうロのなかに入れられていた。ツルが沼地虫の綿の と たちまち円錐体にたたきつけられ、それをツルが締めつけような頸筋の毛のなかから摘みだした『虫乗り』だった。小さくは て、沼地虫の死体のそばにならべた。 あったが、それが『おじいちゃん』のロのなかに消えてしまうまで コードを完全に打ちのめして、その場に立ちすくませたのは、そには何分かかかナ っこ。しかし、それがはじまりだった。 の思いもかけぬ殺戮がいともやすやすと行なわれたことではなかっ コードは、もうこれ以上正気ではいられない気持だった。衣類の た。それは、ここから海岸まで泳いでいくという希望を断たれたか 包みをしつかと握りしめ、その場にすわりこみ、ときおりからだに らであった。五十ャート離れたところに、たったいま例のアザラシ触れる冷たい飛沫に、こやみなく震えていることを、ただぼんやり のようなものがその毒手から逃れてきた生物が、『おじいちゃん』と意識しながらも、 いつ。ほうでは『おしいちゃん』の活動ぶりをじ から遠ざかろうとする際、ちらとその姿を海面に見せたのだ。それっと眼で追っていた。そして、あのおびただしい数のロの一つが、 を一警すれば充分であった。象牙色の胴体と、ばっくり開いた顎人間一人を片づけられるほど柔軟になりカ強くなるまでには、すく は、それらが地球のサメと同様に、その追跡者の性質を示してあまなくとも、あと数時間はかかると見た。現在の情況では、ここにい りあるほどだった。重要な差異は、ツランティ海淵の『白い狩人』るほかの人にとって、だからどうだというほど重大な問題ではない がいくところ、つねに何千という群れをなしていることたった。 が、『おしいちゃん』が誰か最初の一人に手を。つけようとする瞬間 この信じがたい不運に呆然としてなすすべもなく、衣類の包みをは、とりもなおさず、彼が最終的にこの筏を木っ端みじんに吹っと こ 0

6. SFマガジン 1973年7月号

がら立ちあがり、服をぬぎはじめたときには、彼らは眼にみえて遠 ざかっていった。そのうちの一頭のプラットフォ】ムは、半分がた 水につかっていた。浮力をつけるための空気を失ったので、小さな 舟のように沈没しかけているのだった。 ここからなら、海峡の北岸まで、泳いでもせいぜい二マイル、そ 中 こから奥へ一マイル歩けば、『海峡地区本部』がある。彼は潮流の ことは知らなかったが、このくらいの距離ならたいしたことはない と思われたので、ナイフと銃を残していく気にはならなかった。湾 誌発 内の生物は温暖さと泥土を好むので、わざわざ海峡の外までは出て 究評 こない。しかし、海岸ちかくにはめったに姿をあらわさないとはい え、ツランティ海淵には特有の殺し屋どもが棲息しているのたっ 学号 情況はいくぶん希望的にみえはじめた。 コードが靴を芯にして、衣類を固くゆわえて束にしていると、頭 想第 上で好奇心にかられた猫のような、かぼそい鳴き声が聞えた。彼は 見あげた。四匹いて、ぐるぐる旋回している。大型の海行性の沼地 虫で、それそれ隠れていて眼には見えない『虫乗り』をのせている 奇た のだ。おそらく、害のない腐肉あさり屋だろうーーー・しかし、翼をひ と怪新 ィートという姿は印象的であった。不安な気持で、コ ろげると十フ 、のを 1 ドは、本部の建物のかたわらにおいてきた、あの毒液を吐く肉食 性の『虫乗り』を思いうかべた。 まネし そのうちの一匹がゆっくりと高度をさげ、彼のほうへ降りてき コ本装 た。そして、頭上を舞いあがったと思うと、また引返してきて、筏月 幺日 の円錐体のあたりを飛びまわっていた。 この愚鈍な、飛ぶばかりが能の沼地虫を操縦している『虫乗り』 は、はしめからコードには興味をもっていなかったのだ ! そいっ こ 0 ライダ A 5 版 600 円 吸血鬼特集 洋第トヤ 第魅入られた家族工 A , : ルスト - イ 「白い巫女い 、 C 、 A 、 , ズミス 日・・ウみイクフィールド、 , , 「闇なる支配 J 発行所歳月社東京都千代田区飯田橋 2 ー . 5 ー 2 ロ 3

7. SFマガジン 1973年7月号

ように、彼女をしつかと締めつけていた・ 三十分もたったであろうか、コードは自分が乗っているのと同じ 顔面蒼白となり、汗をじっとりとにじませながら、コードがゆっくらいの大きさの筏が一頭、二、三百ャード前方の海峡の、白く泡 くり銃をおろすと、そのあいだに、ツルは力をゆるめた。これ以上だっ海面めざして滑るように進んでいたが、とっぜん、渦巻く潮流 グレイヤンがいためつけられることはなさそうだった。そして、彼につかまって、あらぬ方角に流されていくのを見た。 - その筏は縦揺 いくらか進んだとみると、また 女なら真っ先に、コード : 力いくら怒ろうと、そんな憤りなんか、機れするかと思えば、ぐるぐる回り、 械にでも向けたほうがよっ・ほど利ロだろうと指摘したことであろ横のほうにほうりだされた。それから、ふたたび立ちなおった。た う。しかし、それでもなお、しばらくのあいだ。コードはいつなんだやたらに動きまわる植物というよりは、自分で選んだ方向を維持 しようという、知的な目的をもって闘っている動物のようだ、とコ どきでも自分の好きなときに、この筏を、たちまち、ばらばらの、 ードは思った。 木っ端みじんに爆砕された植物のかたまりとして、海底に沈めるこ すくなくとも、筏どもは、実際には沈まないようにできているら とがでぎるのだ、という考えにしがみつきつづけていた。 そうした考えをすて、もっと分別をもち、ディンとニールモンド にも同じことが起らないよう、彼らにも一発ずつ麻酔弾をうちこんすぐ眼の前で、海峡が咆哮するのを見ると、彼はナイフを手に だ。こういう弾丸を二発もくえば、どんな人間でも、最低四時間はし、プラットフォームにびったり身を伏せた。プラットフォームが からだの下で揺れたり突きあげたりすると、彼はナイフを柄まで突 麻痺させておけることを彼は知っていた。 きさし、それにしがみついた。とっぜん、冷たい海水がどっと襲い コードは自分の考えが向っている方向から、あわてて心を引きも きそくえんえん どした。しかし、それは引きもどされたままではいなかった。そのかかり『おじいちゃん』は気息奄奄たるエンジンのように身震いし た。そうした騒ぎのさなかにも、コードは筏が海峡との格闘の最中 考えは、ともするとふたたび三たび浮びあがってくるので、ついに に、自由をうばわれている、意識を失った人間たちを放しはしない は彼のほうが折れてそれを認めざるを得なくなった。 五発も射ちこめば、彼ら三人はほかの原因で死ぬか、それとも中かという、怖しい考えにとりつかれた。しかし、そのことでは、彼 は『おじいちゃん』を見そこなっていた。『おじいちゃん』のほう 和剤を与えられるかするまで、どんなことが起ろうと完全に意識を も、大いに頑張っていたのだ。 失ったままでいることだろう。 愕然たる気持で、とても自分にはそんなことはできない、と自分まるでだしぬけに、それは終った、彼らは長い大きなうねりに乗 に = ロいきかせた。それは彼らを殺すようなものだ。 っていて、それほど遠くないところに、ほかの筏が三頭いた。海峡 だが、気がついてみると、彼は指一本震わせもせず、ふたたび銃を通るとき、彼らは一カ所に押しよせられたのだが、彼らはお互い をあげ、植民国の三人に一人あたま五発ずつの弾丸をこめていた。 ににかの仲間には関心をもっていないようだった。コードカ震えな

8. SFマガジン 1973年7月号

筏どもが一斉に沼沢地を出て、ヨガー海峡から外海に移動しはじにさしかかると彼は計算した。そして、もし海峡を抜けるようなら めたことを、誰かがこの数時間以内に気づくことは、まず考えられば、そのときこそ思いきって泳いでみるつもりだった。こんな状況 ティンだって反対はしないだろうと思った。もし筏が ないことである。海峡の北側のすこし内陸よりに、小さな気象観測のもとなら、・ このまま彼らを、霧たちこめる広漠たるツランティ大深淵へと運ん 所があって、そこではときどきへリコ。フターを用いることがある。 だが、観測所員が、いまこのとき、ちょうどうまい地点にヘリコプでいったら、生きのびる見込みはまったくないのだ。 ターを飛ばすということは、ジ = ット機が偶然にも低空を飛んで彼そうこうしているうちに『おじいちゃん』は、眼にみえて速力を たいしたこ らを見つけることくらいに、可能性のないことだ、とコードは考えましていった。それに、ほかにも変化が起っていた とではなかったが、それでも、コードにすこし畏怖の念をおこさせ て暗澹たる気持になった。 評議員のディンが言ったように、一切は自分次第だという事実た。円錐体の上のほうに点々と散らばっている。ニキ・ヒみたいな赤 い蕾が、しだいに開いているのだった。その蕾の大半は、中心から が、言われた当座よりすこし肝に銘じてきた。 おそかれ早かれ、やってみようと思っていたので、それだけの理細くて濡った、真紅のうじ虫のようなものが頭をだしていた。その 由から、彼は自分でもうまくいくわけがないと思っている試みを実うじ虫は弱々しく身をよじらせ、一インチばかり伸びると、そこで 行にうっした。彼は銃の麻酔弾の薬室を開き、五十発の弾丸を数え一休みしてはまた身をくねらせ、さらにすこし、さぐるようにして て取りだしたーー・最後にはそれをなにに使うことになるか、特に考空中へと伸びていくのだった。甲皮のあいだのあの黒い縦の裂け目 えたくなかったので、数えるのもすこし急ぎ加減だった。それで薬は、さっきよりもさらに深く幅広くなったようで、そのうちからは 室には三百発・はかりの弾丸が残った。そこで、それからの何分かの黒ずんだ、どろどろの液がゆっくりと滴たっていた。 あいだに、コードは『おじいちゃん』の頭部に、その三分の一を慎これがほかの場合だったら『おじいちゃん』のこうした変貌にわ れを忘れて見とれていただろう、と彼は思った。ところが現在の情 重に射ちこんだ。 それだけ射ちおわると、彼はやめた。鯨だって、もっと少ない弾況では、その変貌の意味するものがわからないばかりに、疑惑にみ 丸でねむそうな徴候をみせることだろう。しかし『おじいちゃん』ちた注意をひきつけられるのだった。 そのとき、とっぜん、じつに怖しいことが起った。グレイヤンが は慌てず驚かす、のたりのたりと進んでいった。おそらく、ところ どころ、すこしは痺れているのだろうが、その細胞はこの種の麻酔大きく、ひどい声で呻き、ほとんど一回転するほど、からだをのた 薬の催眠効果を、からだじゅうに伝達するようにはできていないのうったのだ。その苦しげなもがきと呻き声をしずめるために、もう 一発、麻酔弾をうつまでに一秒とかからなかったことを、後になっ 海峡に着くまでは、ほかにどうしていいか、コードには考えっかてコ 1 ドは気づいた。しかし、ツルのほうが先に、しなやかどころ刀 なかった。いま進んでいる速度からすると、一時間そこそこで海峡か、まるで肉食性の怪鳥の、骨ばった、食いこむような緑色の爪の

9. SFマガジン 1973年7月号

「ええ」 コードにしてみれば、ディンの意識を覚めさせておくことはなか 「いまは筏の種子の成熟期なのよ。よく似たものはほかにもあるったのだ。筏は近くの岸に向っているのではなかったからである。 わ。たぶん、種子のための活性食料なのね、筏のためのものじゃなアシの茂みと水路はすでに背後へと退いたが、『おじいちゃん』は くて。誰だってそんなことまで考えつけやしないわ。コ 1 ド ? 」 さっきから毛ほども方向を変えていなかった。びろびろとした湾へ をいここにいますよ」 と進んでいくのだーーーしかも、仲間といっしょになっている ! 「わたし、できるだけ長くはっきりした意識のままでいたい。で それまでに、コードは二マイル以内に七頭の大きな筏を数えるこ も、ほかにもひとつ、大切なことがあるのーーこの筏は、どこか、 とができた。そして、最も近い三頭には、新しい緑色のツルが生え ある特定の、自分に都合のいい場所に行こうとしているのよ。それているのが見えた。彼らはそろって一直線に進んでいて、彼らがめ ば非常に近い岸かもしれない。そうだったら、あんたは間に合う可ざしている共通の地点は、いまでは一二マイルばかりのかなたに迫づ 能性はある。でなかったら、あとはあんた次第よ。でも、あわてな た、ヨガー海峡の怒濤逆まく真只中であった。 いで機会を待つのよ。ヒロイックな気持になっちゃだめ、わかった海峡の向うは、冷たいッランティ海淵ーー渦まく霧、広漠たる大 わね ? 」 海原 ! 筏にとっては、 いまが種子の成熟期らしいが、見たとこ 「はい、わかっています」とコードは言った。だが、そう言いながろ、彼らは湾内に種子を散らす意志はないようだった : らも、自分が相手にしているのは惑星評議員ではなく、グレイヤン コードは水泳にかけては名手だった。それに銃を持っていたし、 みたいな小娘かなんかで、安心させるみたいな口調で話しているのナイフも持っていた。ディンはあんなふうに言ったが、湾の殺し屋 に気づいた。 どものなかをかいくぐって、助かる見込みがないではない。しか コ一ールキンドが一番ひどくやられてるわ」とディンは言った。 し、その見込みは、どんなにうまくいったところで、きわめてわず 「グレイヤンはすぐに気を失ったから。わたしのこの腕さえなんとかなものだ。それに、ほかにまだ希望がないわけでもない、と彼は かできたらーーーでも、五時間ぐらいのうちに助けがくれば、なんとっこ。 ナここはいちばん、あわてず、じっくり考えることだ。 かなるんだけど。もし、なにか起ったら知らせてちょうだい、コー もちろん、偶然でもないかぎり、救助に間にあうように彼らを探 しにくるものなどあろうはずがない。誰かが見つけるとすれば、そ 「わかりました」とコードはこんどもやさしく言った。それから、 れは湾の牧場の近くでだろう。あそこにはたくさんの筏が浮んでい ディンの肩胛骨のあいだの一点に、注意ぶかく銃の狙いをさだめる。そして、そのうちの一頭を誰かが使っていることは考えられ た。ふたたび麻酔弾がぶすっという軽い音をたてた。ディンの緊張る。いままでにも、時おり、思いもかけぬことが起って、人が行方 していたからだからゆっくりと力が抜けてゆき、それですべてはお不明になることがあった。こんども事件のいきさつが判明したとき わっこ。 には、もう手おくれなのだ。 0

10. SFマガジン 1973年7月号

だ ぶ よ ド し ど デす ド り あ やか し、 う 近 く り . 女 イ そ る い 寄て 立 の や ク ) ン ち う らき c. し は よ ち たあ も な と る ま カ : いな と の た はち で ら し つか よ て え ノレ ば は じ も は し モ コ 快調な売行き と ゎ わ か銃 か の ン に をつづけている ゖ た す が ド ド ち は ハヤカワ S F 文 あ な し 、は れ の よ 庫の中でも , ヵ た そ た 脚 神 存知平井和正氏 え . ′つ っ ち 尸 度 の め な と 明 のヒット作ウル 黙 たを が 折 で 尸 フガイ・シリー に け の殺葉 わ ぶ る 扮ズの人気は , 群 っす さ て にそを の すをぬいて高い た い ナこ 切 っか を る氏の近況報告に た ・た 。と ら 見想 で と っ よれば , 熱烈な 垣 え も た 像 はた し、 ウルフガイ・フ う な わ も し 郎 アンからのレタ 冕残 ん 軽カ 。でな ーが , 月に百通 る 念 ど っ で きカ し、 はとどくとか。 立 た も オよ の つ 投書層は圧倒的に十代で , しかも女性が過半数 と け どを を占めるそうだから , 量質ともにちょいとした た彼 う わ ほ の 人気スターなみ。 す け て は ど た よ その大人気に応えて , このほど同シリーズの た注 そ る し の コ 第 1 作「狼の紋章』が東宝で映画化されること ん 。意 話 れ た 丿」コ になった。スタッフは , 脚本が『旅の重さ』で 毎日コンクール賞をとった石森史郎と福田純 , 松本正志。監督が松本正志。これが 2 作目の新 げ の ち らそ ひ 進監督だが , デビュー作の『戦争を知らない子 げ あ 。カ : う よ の 注 . いな そ わ 供たち」でユニークな映像美を創りたしたと高 んそ動 いだ う う だ っ声入 ま い評価を受けている人。 の く 、と と つな か た し が た 、と し知 は た そ 。細 ん の て キャストは , ヒーローのウルフガイ・大神明 き を らそ でた く の る い 力、 にいまをときめく美少年スター志垣太郎が扮す っ ぎ ん な だ し の はや ほな 意 る。テレビ「男は度胸」の天一坊 , 「新・平家 し 、ま じ よ は ら 味 め つ 物語」の源義経などで売り出し , ここ数カ月 , ま 人ナ ま う やけ 、て小 な プロマイドの売り上げでは男優のベスト 5 にラ ど動 と いたねな ち さ コ の ら ンクされるほどの人気ぶりだが , このへんで少 ょ な の ツ 力、 かそち意 女のアイドルというすっかり定着しかけたイメ っ と っ ナど ル ド る や識 し 十し 0 オよ と コ ージから脱皮したいのが出演の動機とか。 でか がだを ん ら 途 ら 共演は , 犬神明に魅せられていく美しい女教 じ フ 届 め失 麻 ど ド わ切な 師青鹿晶子に新人安芸品子 , 大神と宿命の対決 く き 0 よ よ ん酔 た れ と を演じる学園のワル羽黒獰に松田優作 , 大神の と 。て ただ薬 し 味方として登場するもう 1 人の島神明に黒沢 え 。か み お た え 年男といったところ。 、て じ な ろ ちた 制作側としていま流行の強烈なスーパー はが れし は け ち ら な で こす る ・ヴァイオレンスと変身にポイントを置いて , も いぐみ や 若い観客層を吸収しようという狙いのようだ。 っ あそ お の / レ に た つ すでに撮影も順調に進んでおり , 公開は今秋の 世 の く た いを ん の は 予定。 だ 界 が っ で ただ SF ものはイメージの要素が重要なだけ ル そ も も わ 蔵 き S 下手をするとファンを落胆させるような愚 . ほだ の ち に F 作になり勝ちなこと【これまでの実例がよく し 気ろ う な か 料 し り 巻 情 に ん 証明している。どのような映像に結実するか , デた ら ナこ 投 き・ ち な し 声 イ 期待と不安が半々といったところである。 (M) め 9 0 ウルフガイ , 東宝で映画化 た だ