フリーウェイ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1973年8月号
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1. SFマガジン 1973年8月号

で稼いだ金をはたいて誂らえた代物で、 2 シーターのハイプリッドてつもなく巨大な水田の広がりのように見えた。 カ 1 だ。超効率のガスタービンエンジンを積み、地上走行では最高その水田の、方眼にくぎられたそれそれの座標には、煙突さなが 速度二五〇キロ / 時、に変じた時でも一五〇キロ / 時よ堅、 冫しらの不細工な塔が突き出ていた。つまりこれは、植物プランク下ン だろう。むろんホヴァリングが許される場合は法によって厳しく限の増殖。フラントで、これらの″煙突″は毎時数トンもの酸素を吐き レッドスティングレイ 定されてはいるが。・ほくはこいつを、″赤え ″と呼んでい出しているのだった。世界中の海の、少くとも川分の 1 が、今では ュタント この突体変異型プランクトンの温室に覆われているのだ。湿疹にか シティ・サーキット ・ : そんな比喩がちらり キャン・ハス・ランプから市環状ハイウェイに車を突っ込み、そかった病める海を覆う広大な・ハンドエイド : れを半周したあと、海岸ルートへのフリーウェイに乗り入れる。道とばくの意識をよぎった。 は空いているとは言えなかったが、瞬発力に物を言わせて先行車を ぼくはシフトダウンして車を減速させ、道傍のレストエリアのひ ご・ほう抜きにして行く。シフトは、マニュアルの六速ギアにセットとつに車を乗り入れた。そこは岬の素朴な展望台をかねていて、自 オート したままだ。電子バイロットに操縦を任せる人間の気が・ほくには知動ガソリンスタンドと、無人スナックとが置かれている。 ウィークディの、しかも午後の早い時間なので、他に人影は見え れなかった。おまけにばくは、金と重量がかかる種々の危険回避シ ステムをすべて取り外してあった。 なかった。スナックをってコークとチキンサンドを手に入れる 海岸ルートに出ると、北へ車首を向ける。彼女はシートに沈み込と、浜への周遊路を下って行った。 んだまま、左右に流れるシティの動力施設のドームの輝きに目をや初夏の、黄金いろの風がばくらを包んだ。降り立った場所は、奥 りながら、かすかな車の震動と、彼女を包み込んで響きわたる「四行きが五十メ 1 トルほどの狭い砂浜で、くしの歯のような荒磯が左 季」の旋律に身をゆだねているようだった。 右に続いていた。沖合の例の絨毯で弱められたと言っても、大洋の ばくは、六車線のフリーウェイを、時速一五〇マイルを保ちなが うねり波はその男性的な響きを失ってはいなかった。 らゆったりと車を走らせた。四十分後には、ウエスコースト幹線の彼女はサリーの裾をひらめかせて波打際に走り寄った。女が海辺 しぐさ 下をかいくぐり、サン・。、 ノルマス岬への支線に入った。 でする最初の仕草だな、とぼくは思った。 この岬全体が自然保護区になっており、海岸線は全く手つかずに 「ああ : : : 」彼女の高い叫びが聞え、ぼくの脚を速めさせた。 残されてあった。道路に沿って延々と断崖が続き、打ちよせる太平・ほくは彼女の脇に立ち、小高い岩の上からその潮溜りを見下ろし 洋のしぶきが白くきらめいていた。 た。彼女を驚かせたものが、おびただしくそこに散り敷かれてい しかし沖合 1 キロから先には、太洋の景観をぶちこわす奇妙な敷た。 設物が、絨毯のようにひろがっていた。それは表面を不透明なポリ それは海星の巨大なカリカチアで、最大の奴はさしわたし 1 メ マーで覆われた、平坦な海の温室とでも言うべきもので、まるでと ートル近くもあり、触手の表皮には、剣さながらの棘が十六本も生 こ 0 ひとで

2. SFマガジン 1973年8月号

ヘルガの伝えた指令はいとも奇妙なものだった。 レーートの 〈 5 月幻日午後 8 時から 8 時分の間、フリーウェイ・ / サンタ・モニカからロザリオまでの区間を、時速 18 0 キロを保つ て走れ〉 ハイウェイバトロールの網の目は決してそう粗くはない。いわば 保釈中の・ほくの今の立場で、スピード違反で挙げられることは、少 なからぬポイントを失うことにつながるだろう。しかしへルガはど んな補足説明もそれに付け加えず、最後に一言、こうしめくくった だけだった。 《何も気にしないで、成り行きにおまかせなさ 。私を信じるのよ》 そこで・ほくは信じたという訳だった。が、スピードメータの針が レッドエリアに入って震えているのを眺めている内に、背筋を得体 の知れぬ虫が這いずり始めた。その意味も、その結果も見当がっか ぬ盲目的な行為というやつは、決して口笛を吹きたくなる気分のも のではない。前後左右にきらめく他車のライトすら、敵意に充ちた けものの目のように感じられる。 フリーウェイの左手には、太平洋が夜の底に果しなく、青黒い澱 となって沈んでいた。ハイウェイスカイ。ハトロールのパトコプター から見下せば、フリーウェイはその縁に沿ってえんえんと伸びてい る、電子装置の神経が細密にはりめぐらされた、海の量感からみれ ぎやしゃ ばごく花車な一本の光の帯にすぎぬだろう。 ばくもまた、その光のベルトールート 6 、、 1 をしささかルールを無 視して突っ走っている機械仕掛のいっぴきの甲虫にしかすぎないの ほくが追い越し車線に出てものの五秒も経ったころ、一組の ライトがさりげなくぼくの車と同じ動作をした。その光の目玉は、 あら えたい おり アラバマ州レキシントンの騒ぎ ″空飛ぶ円盤の大、米国では、ごろ車で市に到着して、同市の人た 依然各地で DßO 目撃事件があとをちと連絡をとって、調査に取りかか った。 断たない。事件のたびに沢山の熱心 彼と他に三人の人たちが、おのお な研究家たちが、現地に急行 し調査活動をしているが、その一例の別の車に乗って各方向にちらば り DAO を見つけたら無線連絡で現 として、本年一月三〇日、アラバマ 州のレキシントンで起った事件をご場に急行しようというわけである・ だが午後九時半までに各地から報 紹介しよう。 告を三つも受けとったが、どれも報 同地では、昨年の十二月二十七日 から本号の一一月初めにかけて、多様告が遅すぎ、現場に着いた時にはも なが目撃されたが、同地近傍う何も見ることが出来なかった・ そこで、今夜は打ち切りを決め、 に住む ( 米国の二大 DAO 一一人の人とハイウェイ一〇一号上を 研究団体の一つ、空中現象研究会 ) の現地調査員ビル・ロジャーズ氏エルジン・クロス街道の方へ車を走 は、それを詳しく調査し、全部で十らせていたが、ふと、最近二、三そ ういう物体の目撃が報じられた、新 七件の DßO 目撃実例を本部に送っ た。 しく出来たゴミ捨て場へ寄って見た たい気になって、ゴミ捨て場から一 そのうち、本年一月三〇日に起っ マイル手前まで来たとき、薄オレン た実例で、彼目身ナゾの物体を 目撃し、扉体の出現と大気中の放射ジ色に輝いた物体が一つ、彼の車の 能の増加との間に緊密な関連がある右手、一マイル位、立木の頂上ほど ことをたしかめている。 の高さを、ごくゆっくりと飛行して その上、物体に儚中電灯の光を指いるのに気がついた。 すぐ、同乗者と共に車から降り し向けると何故か物体がふらついて 降下するという、特徴も彼は目撃して、双眼鏡で観察した。物体は、卵 ている。 型と球体との中間の恰好をしていた そういう点が興味あるので、ご紹が、地上を観測しながら飛んでいる ように見えた・ 介しようと思うわけである。 そして、一分ばかりたった時、物 その日ーー同氏が同市での円盤目 ( 約十 撃騒ぎの本格的な調査に着手して五体は、いったん四 0 フィート 日目のことであったーー午後六時半ニ米 ) ほど上昇した後、着陸するか 2

3. SFマガジン 1973年8月号

た。大した自信だ。くわえ込んだ獲物がトンポを打って遁走するこたたえていた。 4 黒人警官はぼくをコク。ヒットのサプ・シートに押し込み、陽気な とはありえないと信じ切っているのだ。 2 ぼくも惰力で車をその傍にころがしながら、べリスコープを覗い声で相棒に叫んだ。 た。フリーウェイの流れは、静止しつつある人間の目から見れば、 「。ハック、このお客さんと少しこみいった話があるんでな、しばら 絶えることのない閃光の発火のようなものだ。ともあれぼくに従っくの間コンタクトを切るって本部へ言ってやってくれ。受信回路の て停止しようとする車は見当らず、凄まじい勢いで吹っとんでゆく出力系がおかしいんで直すからとでも言って恰好つけるんだな」 「 O ・」・ハックと呼ばれた、サングラス姿の白人の相棒はにやり 無数の流星群にまぎれて、例の尾行車は消え去ってしまったようだ っこ 0 と笑ってマイクを口に近づけた。 「さて、話だ。話をしよう」 「車を下りてもらおうか」 ールマンはぼくと膝をつき合わせ、白い歯を盛大にき そのパトロールマンは、レスラーさながらの肩を持った黒人だっ黒人。 ( トロ た。その恰幅と、渋くハスキーな・ハリトンが・ほくの記憶をくすぐっらめかせた。 「おれにも名はあるが、今ここでそいつを名乗るつもりはない。あ た。彼の眉がそこでぐいと上った。 「ーーこれはまたしばらくだな、坊や。あの時のグルービーな車はんたとおれはこれからビジネスの話をする訳だが、あまり時間がな いんで手取り早くやつつけよう。 どうしたのかね、ミスター・エ それにはまずお互いに信じあうことが必要だ。とことんまでな。 「ーーーあんたか」ぼくは思わす吐息をついた。レティシアと初めて チェック どうかね ? 」 のデイトの帰路、同じこのフリーウェイで査問され、あまり楽しい ・ : 」ぼくは黙って彼の目を見すえた。 とはいえぬ会話を交したパトロールマンだ。 リンメイ 「あんたの名は林・明。あんたはひどいへマをしでかして、袋小路 「ご挨拶だな。おれの方はまた会えてうれしいと言ってるんだぜ」 「・・ーー飛ばしすぎた理由をかれても困る」ばくはひややかに言っに追いつめられている。そしてあんたは″組織とコンタクトした こ 0 がっている。違うかね ? 」 ぼくは茫然と、彼のよく動く唇もとをみつめていた。 「いくらの罰金だか言ってくれ。免許停止ならそれでも構わない 「そんな目付でおれを見るのは止めて、おれの話を信じた方がいい よ」 「ーーーそう粋がるなよ、坊や。とりあえずおれたちの部屋へご招待ぜ。おれのもうひとつの・カードを見せろなどとは言ってくれ こんにち るなよ。おれは今日ただいま、ハイウェイバト搭乗員の 2 級警官と させてもらおうか」 すぐ傍で仰ぐシコルスキー・タイプのジェットヘリの黒してしか存在していないんだからな。この・ハックもご同様だ。 ヘルガがあんたをここによこした。そうだな ? 」 ぬりの機体は、妻まじい筋肉をよろったレスラーのような精悍さを フラッシュ わけ サニー ライセンス ス・ヘード

4. SFマガジン 1973年8月号

「そう言う訳さ。どうやら空ぎに終ってしまったようだが、″類 イをさぐり、気づいて苦笑した。ドア錠はかけていない儘だったの マン 人猿″の肝を冷やすには充分だったろう。 ドアを開け、ナビゲート側のドアを内側から開けるために体を伸少なくとも″組織″が本気だと言うことは身にしみて分っただろ ばしかけて、・ほくはそのまま凍りついた。シートの背後、エンジンうな」 「そして二人が死んだ。君らの仲間がな」と、ぼくは言った。頬が との隔壁の間のラゲッジスペースに、黒い人影がうずくまってい こ 0 熱くなっていた。 ピック・ダディ 「何と言う死にかただ。何と言う無駄だ。奴らにはプロの中のプロ 「おれだ、ヤンだよ」と、その影が言った。 がついている。君らの打つ手なんかすべてお見通しなんだそ」 ・ほくは目を凝らし、ヤン・ホルストの憔悴し切った顔と血走った 目をみとめた。 「かれらは死に方を自分で選んだ。おれもすでに選んでいる」冷や やかにヤンが言った。 「わるい悪戯はよせ」ぼくは苦笑した。 「最近クラスに顔を見せないと思ったら、大体なんだ、その恰好「傍観者にとやかく言われる筋はない」 「ーーかれは怪我をしているのよ」 ャンが身をかためているコスチュームは、あきらかに市警察の警レティシアの声が静かに、そしていやにきつばりとした調子でば 官のコンビネーションスーツそのものだったのだ。その右の太腿に くらの間に割り込んだ。 しみ 黒い汚点が滲み出している。 「部屋に入れて手当てをしなければ」 「このあさましい恰好のお蔭さ、おれがここまで切りぬけてこられ「それには及ばないよ」 たのは」ャンが、快活とでも言うべき口調で言った。 ャンが、徴笑を浮かべて言った。 「逃げて来た ? 何処から」 「それにそんな時間もない。毛布と酒だけ持って来てくれればい おうむ ばくは鸚鵡返しに呟いたが、ある予感がすでにそのひややかな刃 い。おれにはちょっとしたドライ・フの方がもっと必要なんだ。そっ で・ほくの心臓を掠めていた。 ちを心配してもらえるかな」 「脚を射たれた。かすり傷だがね」 「ドライ・フだと ? 」ぼくは、自分の声が一瞬炭化でもしたかのよう 狭い車内にこもった血の匂いをぼくは嗅ぎ、そしてす・ヘてを一瞬に硬くこわばったのを聴いた。 に理解した。 「ぼくの車でか ? 少し頭を冷やしたらどうだ。街じゅう。ハトカー 「なるほど、そうか」・ほくは呟きをゆっくりと歯のすきまから押しがわんわん走り回っているんだそ。フリーウェイへのランプは、・、 出した。 っちり顎が閉じちまってる。空は星のマークのついた高速コプター 「君たちと言うわけだな、昼間の騒ぎは」 であふれ返ってるに違いない。 だいたい まち 円 0

5. SFマガジン 1973年8月号

《口に出してはだめ。その必要はないの。私はあなたの意識を読み状態でないと、能力を充分に発揮できないの。それが私の泣き所っ とれるわ》 て訳。 《ーーーどういうことだ、こいつは ? ・》 あなたの陥ち入ったジレンマに、″組織″はつよい関心を持って マインド・ウェーヴ・コミュニゲーション 《私はあなたの心に直接話しかけているの。意識波による会話と いるわ。あなたには相談相手が必要だと思うわ。違うかしら ? 》 いう訳よ》 《ーーそうだ、ばくは″組織″にコンタクトしたかった》 《そんな芸当ができるのか ? 》 《私が来たのはそのため、私のこれから言うことをよく聴いて、そ 快楽中枢に支配されはじめた意識の底で、ばくは必死に理性を保して覚えて。″組織″の幹部とのコンタクトの方法を教えるわ》 とうとした。 彼女はそれをぼくに教え、その数十秒後に、・ほくらはオルガスム カオス 《今、あなたが経験しているとおり。エレン・フォン・ルビンスタスの混沌に突入した。 インという名前を聞いたことはない ? 》 サイキッタ・メディアム エレン ああ、知っている。史上最高の精神霊媒と さわがれた女だろう ? まだ若い娘だと思ったが》 《そう、彼女は私の姉よ。彼女は″超心理学の奇蹟″とも呼ばれて 夜。 メディアム いるわ。私は霊媒ではないけれど、やはり特異な能力にめぐまれて 宵のラッシュの波はすでに退き、フリーウェイの車の流れはスム いるのよ。地球上のひと握りのエリートにしかめぐまれていない超 ーズだった。 能力をね。私のこの力は、″組織″の手で人知れず開発され、訓練 ・ほくはコン。ヒュータに車のコントロールをゆだね、フロントウィ されたの。 ンドらしいきらめく前車の尾灯の幻惑的な彩りに目を放っていた。 今の私は、まだ精神感応術者のジ、 = アクラスという所ね。それまもなく彼女の指定した区間に入る。決断のときが迫 0 ているの でも″組織″における最高の連絡員には間違いないわ》 だったーーー・跳ぶのか、うずくまるのか。ひとすじの不安が・ほくの理 そうか、とぼくの潜在意識が頷いた。初めて彼女に会ったと性をかげらせていた。罠だという可能性もありうるのだ。 き、その名に聞き覚えがあるような気がした。それは彼女の姉の名 ヘルガの超能力は驚くべきものだったが、彼女が・—・ ( 連 だったに違いない。 邦中央情報局 ) の工作員ではないという確証はどこにもない。 彼女の肉の律動はますますその韻律の精妙さをふかめ、ぼくは宙車の左手に、市清掃局の、時代おくれの塵芥処理工場の巨大なタ に舞い上ろうとする快楽の真紅の風船を押しとどめられる瀬戸際にワーが見えて来た。サンタ・モニカのインターチ = ンジはごく近 来ようとしていた。 い。・ほくはその付属プラントの、城壁のようなひろがりを横目で睨 《ただ残念なことに、あるいはすばらしいことに、私は性的高揚のみながら車を加速させた・ エージェント

6. SFマガジン 1973年8月号

から、真っ暗な廊下を走って、もうひとっドアを通り、この新しい な。・ほくの苦情にたいするあんたの処置に、腹を立ててたというか 暗い部屋のなかで、床まで垂れたカーテンに身を隠して待った。 ら。ひょっとすると、あんたがきれいに払わなければ、あんたの会 一分と経たぬうちに、壁の・ハネルがひらいて、マクリュウ・スク社をぶつつぶしてやると脅したのかもしれん。そこであんたは、あ リ・フリーが部屋にはいってきた。卓上ランプをつけた彼は、三本足とで二千ドル支払うから、みんなが寝静まったら外に出てきてくれ の台にのっているマードストン儀の前に膝をついた。それから、マと話した。そして、いったんは彼に金を渡したが、まだ彼が林から 1 ドストン儀を三回左にまわし、つづいて三度右へ、もう一度左へ引き揚げないうちに、殺人者に変貌したんだ」 まわしたあと、五つの都市を順ぐりに指でおさえた。かちりと音が「ちくしようめ」スクリ・フリーは膝に手をついて立ちあがった。 して、大きなマードストン儀がばっくり割れ、その四半分が前へせ「きさまはたしかに利ロなやつだよ、デイゴーの小悪党にしては りだしてきた。スクリ・フリーはそこへ手を入れると、まず紙幣の束よ。 オいかにも、きさまの言うとおりだってことを認めようさ。た を、つぎに硬貨の袋をひつばりだした。最後にとりだしたのは、泥だ、あいにくきさまの見のがしているらしいことがひとつある、お だらけの軍靴だった。「変だな」彼はつぶやいた。「ちゃんとあるれがいまにも《コマンド・キラー》に変身しようとしているってこと じゃないか」 だ。そうなったら、きさまのおもちゃのガンなんか、ものの役にも 「からかってみただけさ」そう言いながらシルヴェーラは、びざま立たんそ」彼はふと口をつぐむと、いきなり唸り声をあげてシルヴ ずいている出版社主に小型の熱線銃の狙いをつけて、カーテンのう エーラにとびかかってきた。半分ほど窓のほうへ吹っ飛んでいきか しろから歩みでた。「犯人はあんただと見当はついてたが、証拠のけて、やっと立ち止まった彼は、眉をひそめて両手を見おろした。 靴の隠し場所をぜひ知りたかった。だから、もうそれを見つけたと「おかしいな、変わってこんじゃないか。きさまらがあの酒に薬を 嘘をついたんだ。案の定、あんたはそれにひっかかって、その真偽入れたっていうのに」 をたしかめに出てきたってわけだ」 「それもまたからかってみただけさ」シルヴェーラは言った。 ラッド警部が部下を引き連れて入ってきた。「盲撃ちでも数うち 「きさまになにがわかる ? どうしておれだと見当をつけた ? 」ス クリ・フリーは言った。 や当たるといってね」彼らはスクリ・フリーを部屋から連れだした。 しばらくしてウイラが捜しにきたとき、シルヴェーラはマ 「犯行のほとんどは動機がなかった。してみると、《軍隊ビル》が トン儀と取っ組んでいた。 利きはじめると、犯行は殺人の衝動をおさえられなくなるらしい。 「だいじようぶ、シルヴェーラさん ? 」 はじめあんたがそれをためしてみたのは、精力増強効果を期待して 「ちょっと待ってくれ、いまこのうちから二千ドル数えるから」 のことじゃなか「たかと思うが、あいにくそいつはそういうふうに「それだけざくざくお金があ「て、一一千ば「ちしか取らないの ? 」 は働かなかった。しかし、ゆうべはあんたにははっきりした殺人の 「やつに貸してあるのはそれだけだからね [ と、シルヴェーラは言 目的があった。たぶんコイヌールがあんたに圧力をかけたんだろうった。

7. SFマガジン 1973年8月号

版の自由は焔の剣であります。今日ここでわたくしがみなさんに申こんだ大理石の手すりに駆けよった。その黒い建物は、上空約二千 しあげたいのは、出版界の支配者たちが、近ごろこの剣を芝刈り器フィートのところを飛んでいた。シルヴェーラは首をふりふりテー に使用しているということであります。すなわち、自由なる思考の・フルにもどると、「あんちくしようめらが」とつぶやきながら腰を 芽を摘みとる芝刈り器に、であります。うまい、じつにしゃれた表おろした。 現だよ」 「だれだ ? 黒鷹グループのことか ? 」 シルヴェーラはうなずいて、給仕の運んできた新しいエールをと「ああ。知ってるのかね ? 」 、ートン・プレスター りあげた。「いまあんたはそれをくりかえしながら、ここで、のと「 / ジョンズ教授とは親しい友人さ」と、コ ころと、芝刈り器のところでテー・フルをたたいたよ」 イヌールは言った。「マクリュウ・スクリ・フリーーーー 黒鷹荘の法律 「あまり効果的じゃなかった ? 」 上の所有者はこの男だそうだが こいっとは二、一三度衝突したこ シルヴェーラは言った。「燼の剣、のところで、あんたは手をあとがある。なぜって、例のスクリ・フリー出版社がこの男のものだか げて振りまわすべきだったよ。それから、自由なる思考の芽のあとらさ。だが基本的には、黒鷹グループに属する作家はみんな好きだ で、しぜんにその手がばたんとテー・フルに落ちるようにする。拍手ね、おれは」 がくること請合いさ」 シルヴェーラは言った。「マクリュウ・スクリ・フリーは、・ほくに 「芝刈り器のところで聴衆は喝采してた、なぜだかわからなくてま→二千ドルの借りがあるんだ」 ごっいたがね」コイヌールは白状した。「世界中を演説してまわっ 「フリーランスのライターとして、あらゆる原稿料はきちんととり ていると、ときどき混乱することがあるよ。メラーゾ州は大半が保たてるのがぎみの信条じゃなかったのかね、ジョ 養地なんだ。ここには芝刈り器産業なんてものはないのさ。いまや「とりたててるさ、ふつうはね。この黒鷹グループの連中は、しょ っとわかったよ」 っちゅう家を動かしてるから、つかまえようにもっかまらないん 「もし持合せがあったら、払ってくれ」 コイヌールはニッカーズのポケットに手を入れて、紙入れをひっ 「すばらしい新機軸じゃないか。空飛ぶ可動住宅とはね。おれもい ばりだした。「悪かったな、演説を批判したりして。実際はきみのつかはあんな家に住んでみたいよ」 草稿はりつばなものだったよ。五十ドル札一枚と百ドル札七枚でい 「いままでに三つの州でマクリュウ・スクリ・フリーを追いつめてる いかね ? 」 んだが、そのつど逃げられてる」と、シルヴェーラ。 「ああ」シルヴェーラは金を受け取り、ていねいに畳んだ。紙入れ「すると、彼のよこしまなるスクリ・フリー出版社のために、なにか を出そうとふところに手を入れたとき、頭の上を、三階建の木造家書いたのかね ? 」 屋が飛んでゆくのが見えた。立ちあがった彼は、ホテルの内庭をか「ああ、実話ものを三篇。『あるゼッリン男の告白』、『わが衝撃 6 9-

8. SFマガジン 1973年8月号

うのはもったいないような気がするからよ。そう思わない ? 」 とんできた。「いよう、殺人犯」 シルヴェ】ラはやなぎ細工の籠から立ちあがった。「きみはまた シルヴェーラは、大理石の仔鹿の像のそばに立ち止まった。 ずいぶん積極的なんだね、おとなしい若い女性向きのものを書いて 「一足とびに結論にとびつく人間は、えてして軟弱な地面で足をと る小説家にしては」 られるものですよ」格子縞の厚地の外套を着た、まんまるな頭の男 「そうなのよ」ウイラは答えた。「それでわたし困ってるの、ときが言った。 どきそれが書くものにあらわれるんじゃないかって」 「なに、からかってみただけさ」スクリ・フリーは言った。 シルヴェーラはにんまり笑うと、彼女を・フルーのタイルの上から「わたしはラッド警部です」と、まるい頭の男は言った。「あなた 抱きあげ、寝室に運んでいった。 の名前を聞かせてもらいましようか」 「この男だよ、被害者をここへ連れてきたのは」と、プレスター シルヴェーラがウイラの部屋を出たのは、翌日の朝になってからジョンズが口をはさんだ。今朝の彼は、べイズリ織りの部屋着を着 だった。廊下を通って階下へ行こうとした彼は、ひとりの制服の警ていた。 「ぼくはホセ・シルヴェーラ。コイヌ 1 ルが殺されたのか ? 」 部補に前をふさがれた。 広い、彎曲した階段を曲がって姿をあらわしたその警官は、前に「死は、風で吹き飛んだ屋根板のようなものです」警部は言った。 「下を通るもの、だれの上にでも落ちかかる。さよう、ユーゴー・ 立ちふさがったまま言った。「あなたも容疑者の仲間入りをしてい ただきましよう。それから、ミス・デ・アラゴンよ、、 をしまどこにおコイヌールは殺されました。見たところ、《コマンド・キラ 1 》の 仕業と思われます」彼は滑るような歩きかたをした。一種スケート られるかご存じないですか ? 」 に似た動作で、彼はシルヴェーラに近づいてきた。「記憶は、とき 「部屋で靴をはいてるよ」シルヴェ】ラは言った。「容疑者とは、 なんの ? 」 に、塵芥運搬車のようなものになる。誤って貴重な品物が投げこま 「殺人の、ですよ」暗緑色の制服を着たその男は言った。「居間でれると、コーヒー潭やすいかの皮のなかをひっかきまわすのが大変 警部が待っています。逃げようなんて考えんほうがいいですよ、外だ。もっとはやくあんたと気がっかないで、失礼したな、シルヴェ には猛犬がうようよしてますからね」 「いや、はじめて会うんだからしかたがないさ」 「大のことぐらい知ってるよ」 「あんたはほんとにあのホセ・シルヴェーラなんだろうな、『惑星 「その大じゃ、ありません。われわれの連れてきた本物の警察大で 世界犯罪実話』誌に、一連のすぐれた評論を書いた ? 」 シルヴェーラはひろい肩を軽くひとゆすりすると、階下へ降りて「殺人者の典型的手口に関するシリーズを連載したことはあるよ、 いった。居間にはいったとたん、マクリュウ・スクリ・フリーの声がたしかにね」 ー 05

9. SFマガジン 1973年8月号

熱い息を吐きかけながら、ウイラがシルヴェーラにささやいた。 「おいジョー、 あんたのエイジェントになんと言ってやったと思う 「この屋敷のなかではね、ぜったいに《コマンド・キラー》のことんだ、あのジェニー ・ジェニングズのかわい子ちゃんに ? 」 はロに出さないという不文律があるのよ」 「なにも言いはせん。きさまは彼女のくるぶしをつねったきりで出 「なぜ ? 」 ていった」 「つまりこういうわけなの、シルヴェーラさん。もう一年近くも、 「じつをいうと左の尻を狙ったんだ」と、肥満した出版社主は言っ マードストン中を徘徊して、二十人からの犠牲者を出しているこのた。「なあジョー、たしかにわたしには、女の子を見ると尻をつね 殺人鬼、彼はね、何度かこの黒鷹荘の近辺で犯行に及んでいるのりたくなるという困った病気のあることは認めるよ。それがわたし よ。黒鷹荘がどれだけ可動性に富んでいるかを考えれば、彼の凶行の唯一の欠点なんだ。だがまあ、あんたのエイジェントに言ったこ 現場が、すごく広範囲にわたっていることがわかるでしよう」 とを、もう一度ここで聞かせてやろう。配給元からぜんぜん金がは アーチ型の入口をくぐって、このときひとりの白服を着た男がは いらんのだよ。たとえばあんたの書いた例の本だ。『わが衝撃の性 いってきた。でつぶり肥って、・フラシ然とした赤い口髭を生やし、生活』。あれについては、読者から山ほど苦情がきている、ちっと うねのように段のついた禿頭をしていた。男はいきなりシルヴェ】 も衝撃的じゃないという苦情がな。こういう問題が、わがスクリプ 丿ー出版社のイメージを落とすってことは、あんただって承知して ラに指をつきつけて言った。「あのワップ ( イ などと南欧人の椒 ) を追い だせ」それから、くつくっ笑って、「やあワップ。なに、からかつるだろう」 てみただけさ。あんたがデイゴー ( 前出のワ , ) でも、だれが気にする「二千ドルだ」シルヴ = ーラはスクリ・フリーを床におろしながらく もんか」彼はシルヴェーラに歩みよった。「だが、″あいつの尻をりかえした。 蹴とばして追いだせ″という部分はほんとだ。ドウイギンスがい 「なんなら、『おれ、カイ・フツ、おれ、悪党』の製本してないやっ ま、わたしの手下を、 ( ンキー ( ( など、中欧出身の移民の蔑しの手下を一一を、八万六千部ばかりやったっていいそ。自分で製本して、通信販 人ばかり呼びにいってる。なに、冗談だよ、からかってみただけ売で売れば、一身代にもなろうってもんさ」 さ。移民と移民を対立させるような真似はわたしはせんよ」だしぬ「現金だ、即金で」シルヴェーラは言った。そのとたん、なにかが けに彼は手をのばすと、ウイラの左の尻をつねった。「やあ、ここ落ちてきて彼の脳天にあたった。それは数回強く彼を打ちすえ、彼 にいたのか、色気違いの淫売め。なに、からかってみただけだよ、 はその場に昏倒した。 ウイラ」 正気づいたとき、シルヴェーラは空中にいた。つづいて、脇腹を シルヴェーラは、スクリ・フリーの服のラベルが、最新流行のカッ トであるのを見てとった。 / を 彼よそのラベルをつかむと、容赦なく相下にしてどさりと投げだされたが、そこは、黒鷹荘から数百ャード 手をねじあげた。「二千ドルだ」 離れた、新しく切りひらかれたばかりの藪のなかだった。頭ののつ ー 02

10. SFマガジン 1973年8月号

ることが愉快な体験である筈がない。そいつは、エゴを針の植わっ 「そう、生き続ける : : : 」ぼくはゆるやかにそのことばを繰り返し たス。 ( イクで逆撫でされたようなものだ、とぼくはひそかに思っ たが。舌が再び動き出す前にかなりの時間が必要だった。ぼくはひ どく緊張していたのだ。 「すまなかった、レティシア」 「レティシア、仮定的な質問を少ししてもいいかい ? 」 彼女の眼をとらえながら言った。 「あんなことに捲き込んでしまって」 彼女はだまって微笑をきらめかせた。 「馬鹿なことを言わないで」 「ぼくらは生きてゆく、二人で。それは確かだ。しかしその生き ・ライフ 彼女の頬がかすかに紅潮した。ほんの数秒置いて、柔かで中性的方も、その環境も、ばくに決定を任せてくれと言ったらどうする な声が天井から降って来た。 「患者をこれ以上興奮させないで下さい。守れない場合は強制退去「ーー仮定の質問には仮定の答えしか上げられないわね。たぶん任 の手段をとります」 せるわ、あなたの選択に、あなたのリードに不満は抱かないわ」 彼女の肉体の状態をすべてモニターしている看護システムが、患微笑に、ちらりと揶揄の影がうごいた。 者の心拍の異変を感じ、コンビュータの合成ヴォイスを通じて警告「私がこの檻を出たら、機械にスパイされていない場所でそのプラ を発したのだった。 ンを聞かせて」 「すまない」ぼくはちらりと天井を見上げて言った、「気をつける柔らかなチャイムが鳴って、再び例の慇懃無礼な・ヘルヴェットヴ オイスが告げた。 よ」 「面会時間がおわりました。面会人は退去を願います。またおいで 「ーーーあれは私たちが進んでやったことよ」 頂く日をお待ちしております」 「そうだ。事の本質をよく見究めずにね」 ディ 「今日はおまえの顔を立ててやるよ」 「友達は助けるために存在するんじゃなくて ? ″仲間″ならなお ぼくは天井を睨んで言った。 のことよ」 「だがこの次は : : : 」 「警察に、・ほくらの動機がそれだけだということを信じさせるのに 「帰って」彼女が囁いた。 一週間かかったよ。いまだに、信じたのかどうか怪しいものだ。 ーともかくぼくらは、友情の代償を払わなくちゃならないようだ「私のために乾いたままの砂漠を少し残しておいてね」 な。それもいささか安くはなさそうだ」 「いいとも。飛び切り手ごわい奴を残しといてやるさ」 「もちろんよ、代償は払うわ。私たちが生き続けることによって払レティシアの頬に唇を触れ、背を向ける。・ハアのリリーススイツ 0 ってゆくのよ。ャン・ホルストに予定されていた人生の分までも : ・ チに手をさしのべた時、彼女の低いがつよい声が追って来た。 ケイジ ウェイ・十プ