大佐 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1973年8月号
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1. SFマガジン 1973年8月号

ッジ大将の幕僚、化学戦担当のペイジ大佐だ」 連中、な・せこいつをなんとかしないのだろう ? 彼は自問した。 ハルザ 1 はうなずいた。 しナいいつまで こんなところに三日間 ! 「大将の副官め、わたしにここへやってきてきみと話してみてはと 房の扉ががたがた鳴った。 ハルザーは、顔をあげた。大佐の制服を着たしわだらけの男が鉄忠言してくれた」ペイジがいった。「彼の考えによると、化学者と いうのは・ーー」 格子の向こう側に立っていた。天色の髪、奇妙な鳥のそれに似た 目、ひからびた羊皮紙を思わせる肌をした小柄な男だった。しかる「ペイジ ! 」ハルザーがいった。「ひょっとしてあなたは、疑似リ チウムに関する研究をなさったエドモンド・ ペイジ博士ではありま べき衣装に身をかためたら、中世の魔術師に見えたことだろう。 せんか ? 」 若い警備隊の軍曹が姿を現わし、扉の鍵をはずしてわきへのい 大佐の顔がうれしそうに微笑った。「うん、そうだが」 た。大佐が房内に入ってきた。 「博士のご研究については、手にふれるかぎりのものを読ませてい 「さて、さて」と、彼はいった。 、つこ。「いま思いあたったのですが、 ただきました」ハルザーがしナ ハルザ 1 は、立ちあがって敏礼した。 「なにかわたくしに御用がございましようか、大佐殿 ? 」の軍もし博士がーーこ彼の声がとぎれた。 「いいから先をいってみたまえ」ペイジがいった。 曹がきいた。 ハルザーが生つばをのみこむ。「はあ、もし博士が有機化学から 「うん ? 」大佐が振り向く。「ああ、ないそ、軍曹。その扉はあけ 無機化学へ移っていられるのなら : : : 」ここで彼は、肩をすくめ たままにしておいてくれー」 こ 0 「しかし、大佐ーー」 「わたしが有機の反応式をひねくり回しているよりもむしろ直接的 「この獄舎から脱走できるものがいるか、軍曹 ? 」 な化学剤を作り出していたかもしれないというのか ? 」ペイジがき 「しいえ、大佐殿。しかしーーー」 いた。 「それなら、扉はあけはなしておくのだ。そしてあっちへいけ」 「わかりました、大佐殿」軍曹は敬礼して、しかめつつらをし、回「そのとおりです、大佐殿」 「そんな考えは、ここへやってくるまで起こりもしなかったな」ペ れ右した。彼の足音が廊下の金属の床にこだまして遠のいていっ イジはいって、寝床のほうを身ぶりで示した。「坐りたまえ」 大佐は、ハルザーのほうに向きなおった。「きみが、すばらしい ハルザーがどすんと腰をおとす。 アイディアを持っているという青年か ? 」 ペイジは、周囲を見回し、最後にハルザーのひざのそばを通りこ ハルザーは、せき払いした。「そうであります、大佐殿」 して、便器のふたの上に坐った。「さてと、きみのアイディアなる 大佐は、一度だけ房内をちらりと見回した。「わたしは、サヴェ ものをきかせてもらおうか」 こ 0 わら 6 6

2. SFマガジン 1973年8月号

しのターザン」と呼んでいた。摂氏雰度に近い表で丸裸になって雪原動力もないのに内燃したくはないからな」 風呂に入るのがその主たる理由だった。 中尉がおじけづいたような顔つきになった。「わかりました、大 白い鉄かぶとをかぶった保安係が何名か、小屋の内部に適当な間佐殿」 隔をおいて立っていた。ハルザーは、彼らが腕章をつけていず、銃「それから中尉、最後のウィーゼル車を止めて、運転手を待たせ、 剣を腰にぶらさげている以外、武器をおびていないのに気がついきみが集めたものを積んでこの区域から運び出させるのだ」 た。たとえ彼らが石弓を持っているのを見たとしても驚いたりはし「わかりました、大佐殿 , 中尉は、あわてて立ち去っていった。 ペイジは、ハルザーのほうに向きなおった。ハルザーは、すでに なかっただろうと、考えたりしていたのだった。 ペイジ大佐とハルザーが小屋に入ろうとしたとき、サヴェッジ大投射器を三脚にとりつけ、そのかたわらに立っていた。 将は、ペイジに向かって手を振った。ペイジ大佐は、それに応じ「準備はすっかりととのいました、大佐殿」ハルザーがいった。 て、三脚のそばにいる。ほおがつるつるした中尉の前で立ちどまつ「導線に接続してもよろしいでしようか ? 」 こ 0 「きみはどう思う ? 」ペイジがきいた。 「中尉」と、ペイ・ノよ、つこ。 、、ーしナ「テスト分を除いて爆発物はいっさ「待っていてもしようがないと思います」 「よし、接続したまえ。それから、スイッチを両手で持って待機す いこの地域から移動させてあるのか ? 」 中尉は、固苦しく直立不動の姿勢をとって敬礼した。「すんでおること」 ハルザーは、命令を遂行すべく向きなおった。そしていまや、重 ります、大佐殿」 ペイジは、ポケットから煙草を一本とり出した。「ライターを貸大なテストの瞬間が迫るにつれて、彼の両ひざががくがくするのが 感じられた・だれもかれもが彼の臆病であるのを見てとることがで してくれないかな、中尉」 「はい、大佐殿」中尉は、ポケットをごそごそやって、クローム製きるのだ、彼は、はっきりとそう感じた。 待避小屋にこもっている人々の上に緊迫した静寂がおとずれた。 ライターを引っ張り出すと、ペイジに手渡した。 サヴェッジ大将とその賓客が近づいてくる。大将は、投射器の理 ペイジ大佐は、受けとったライターをちょっとの間見つめていた が、やぶから棒にそのライターと煙草を投げ捨てた。ライターは、論を説明していた。賓客がうなずいている。 二十メートルほど先の雪の中へ落ちた。 近くで見ると、相手の男は、サヴェッジ大将がかもし出している サヴ 中尉は、青くなり、それから赤くなった。 きびしい、権力者然とした印象と同じ印象を感じさせた。 大佐がいった。 「ライターはひとっ残らず、マッチも全部だ。そェッジよりもいま少し、権力者然としてい、よりきびしそうだった れから、全員のものが少なくとも四時間前にあの特殊丸薬を服用しといえるかもしれない。落ちくぼんだ眼窩にじっと考えこんだよう 9 たかどうか、ひとりひとりにあたってたしかめてくれ。その周囲にな黒い目、その下には、黄褐色の岩場につき出した岩棚さながらの

3. SFマガジン 1973年8月号

りようけい ら酸化窒素と菱形硫黄をです」 ハルザーは、両手を見つめた・ ペイジは、舌で唇をなめた。「しかし、きみがそんなことを考え 「この一件については、大将と話しあったのだ」ペイジがいった。 「われわれは、きみがちゃんとわかっていてまともなことをいってたのはどういうわけなんだねーーー非有機的な物質において、その疑 いるのかもしれないと思った。きみからその理論をすっかりき い似的な触媒がーー・」彼は、かぶりを振った。 「そうか ! わたしとしたことがなんという間抜けだ ! きみは、 て、充分に評価してみたいのだ」 はじめてひとつのイオン反応をつきとめたのだーー・ちょうどわたし 「わたくしはもう、どうにでもなれと思っているのです」ハルザー が疑似リチウムでやったようにな。これでわれわれは、画期的な第 、刀し′ 「きみが苦い思いをするのには、それなりの理由があるかもしれな一歩を踏み出してーーこ目を丸くして、ハルザーを見つめた。「で い」ペイジがいった。「しかし、きみに関する告発文書を読んだあ かしたそ、ハルザー。きみは、非有機化学のまったく新しい分野を との感想だが、きみが現在の状態におちこんだについては、少なく切り開いたのだと、わたしは信じるそ ! 」 ともその責任の一端がきみにもあるね」彼は、ちらと腕時計に目を「おわかりいただけましたか、大佐殿 ? 」 走らせた。「さて、遠方にある爆発物を爆発させるというきみの提「むろん、わかったとも ! 」そういって、ペイジは立ちあがった。 案がいかなるものなのか , ーーっまり、きみの話していたこの投射器「きみは、活性の情況をともなった人工的な基をつくり出すという わけだ。その情況の中にわずかでも水分があれば、水素イオンが引 なるものについて、くわしくきかせてくれないか」 ハルザーは、一度だけ深呼吸した。彼は化学者だ、と思った。おき出されるのだよ」ーー彼は、子供が大はしゃぎするように両手を 「ばんざいだ ! 」 れのいうことを納得してもらえるかもしれない。彼は、つと顔をあ打ちあわせた げて。ヘイジを見、説明しはじめた。 ハルザーは微笑した。 ほどなく大佐がさえぎった。「しかし、膨大な量のエネルギーが ペイジが彼を見おろす。「伍長、きみの投射器はだいじようぶ、 必要なのではないかな、その原子構造をーー・」 効果があると信じるね。白状するとわたしは、場の格子形配列とか 「その意味での原子構造を変化させるということをいっているのでその他電子工学的な問題はさつばりわからぬが、どうやらきみには はありません、大佐殿。おわかりになりませんか ? わたくしはたおばえがあるようだな」 んに、ちょうど触媒が存在するような情況を人工的につくり出すに「はあ、大佐殿」 すぎません。疑似的な触媒をです。そしてこれが、すでにその場に「どうしてこんなことに思いあたったのかね ? 」 存在する不活性の混合物からいくつかの分子を引き出すのです 「それといいますのは、われわれの生命捕捉体系における格子形配 つまり、水分から水素イオン、トリノックスのおおいの手で作動し列の効果について考えておりましたところ、いきなり思い浮かんだ 7 している部分品から弗素、デイトレイトから白燐、一般的な火薬かのです。このアイディアがそっくりです ! 」

4. SFマガジン 1973年8月号

た。座席のふたりのあいだには投射器のケースがおいてある。それ ペイジがうなずく。「まさしくそのような事情がそろわないと、 縦四フィートの緑色の容器に内蔵されていた。 眠ったままでいなければならなかったアイディアのひとつだな」べは、横二フィート、 イジは、 ( ルザーのひざ先を通りすぎた。「いや、いや。そのまま一端からガラスの管が一本つき出している。他端の中ほどには、ふ にしていていいぞ。これから生命捕捉部のアレンビー大佐と会議をさいで「接続不可」と赤字で表示された動力の接続部があった。裏 メカニカル た面の中央部には、三脚の受け台がとりつけてある。 もつつもりだ。機械的な問題についてもだれかと相談しよう その朝は、寒気がきびしく、よく晴れていたが、なんとなく気ま ぶん、スティープンス大佐になるだろうが」ここで、うなずいて、 。あとでーー」彼のぐれそうな気象だった。空は紺碧で、その強烈さのあまりつやつや 「さて、伍長、きみはここにいてくれればい 視線が房内をひとめぐりする。彼は、神経質に笑った。「心配する輝いているようだった。 およそ五十名の人間がこの試験に参加していた。彼らは、待避小 必要はないぞ、伍長。二、三時間のうちにここから出してやる」 ( ルザーは、《ビッグ・プーム作戦》の第一段階にあたる五週間屋にずらりと一列に並んでいたーーー小屋は長く、片側が吹き抜けに なっている。その吹き抜けになった側の近く、ほぼ中央に、三脚が をふりかえってみた。まるで熱病にうかされた非現実なものとしか 思えなかった。一連の予備計画が実施されたあと、サヴェッジ大将立っていた。三脚の両側には、記録計器を前にして技術者たちが腰 の準備地域で展開されることになった本番にたずさわる軍団の兵員かけている。小屋からほぼ一マイル先、吹き抜けの真向かいの漆黒 たちが当地へ輸送された。そこだと、機密漏洩の危険が少ない、戦の小山のほうへと細い、黒い鉄線が何本か延びている。 サヴェッジ大将は、すでにその場に現われてい、その朝、豪勢な 闘地域に近い、それに広大な荒地だったから、なにかが謎の爆発を して不必要な疑問を惹起することのない、より格好の場を提供して護衛機に守られて空路で到着した見知らぬ男と雑談していた。その くれるという思惑があった。 男の服装は民間人のそれだった。いまは、貸与された毛皮の上着と しかし軍団は、注意おさおさおこたりなかった。この地域をズボンを着けている。彼の様子や身振りは決して民間人らしくな く、サヴェッジ大将が彼に向かって「閣下」といっているのが印象 の特別分遣隊に包囲させたのだ。記録係が何人かこの計画に加わ 的だった。 り、米本国へ直送するためにいっさいを記録した。 この決定的な試験のために彼らは、これに使う爆発物から相当は大将は、自分の能力を充分に確信した自信過剰気味の、無愛想 なれたところにある、見晴らしのきく草地を選んだ。風吹きすさな、ずんぐりした男だった。ごっい鼻、いかついあご、まるで・フル ぶ、荒涼とした場所だった。凍結した大地から灰色の岩がっき出しドッグさながらの顔つきをしていた。階級章をつけないで雑役につ いていたら、鬼軍曹にまちがえられるかもしれない。古参のきびし ている。黒い、動力用の導線がテストのために作られた、彼方の小 い軍曹というのは、だいたいがこんな顔つきをしているものと相場 屋の背後へと延びていた。 はきまっているのだ。サヴェッジ大将の部下は、彼のことを「わた ハルザーとペイジは、水陸両用車にのってテスト場におもむい

5. SFマガジン 1973年8月号

ペイジが大将に話しかけた。「効果が現われるまでには少々時間 リン・ウエストファルさんにその話わした・ ・カ、カカ をしたところ、おどろいたことに、 この時も夜で、幽は、スタイン 彼が " り。をいおうとしたとき、爆発物の山が雷鳴のような轟音一 マリリンさんは、彼の話を途中でひ べックの肖像を描いた絵のそばに現 をあげて、噴きあがった。ペイジ大佐は、″り″を発音しようとし きとって、幽鬘の様子を逆に詳細にれたが、服装や外見は、やはり前と 一緒だった。 言ってみせたのである。 たロの形をそのままにして、この爆発をじっと見つめていた。 びつくりして、どうしてそんなこ これであわせて四度、スタインべ 蒸気と土煙が、爆発物の山があったあたりを押し包んだ。 ックの幽霊は同博物館の中で目撃さ 曲とがわかるのか、と彼がたずねてみ ると、実は「私も、一一カ月ばかり前れたのであるが、更にそれから一月 賓客の砂利をこするような声がハルザーのうしろでおこった。 ばかり後、五度目の目撃があった。 ( にそれと同じ幽霊を見たのよ」とい 「おやおや、あれはマッチ箱が火を噴いているんですな、将軍。まⅷ 今度は、前記のハックさんでもマ うことであった。 リリンさんは、階下の リリンさんでもなく第三者の、同家 その時、マ さしくあれは火を噴いているんだ ! 」 の階上に泊っていた女学生のリディ 部屋でテレビを見ていた。突然かた 「それは、われわれの心配していたことなんですよ、閣下」サヴェ わらにいた愛犬のミカがはげしく吹ア・バルバーデさんであるが、同嬢 ッジがいった。「しかし、いまとなってはどうしようもありません は、真夜中にその幽を認めて金切 えたて始めはっと頭を上げてみる り声をあげ、同博物館に泊っている と、普通の背丈で、白い髪をし、白 な」苦々しげな口調だった。 いズボンに黄色いシャツをつけた男人すべての眼をさましてしまった ハルザーは、ふたりの声にこもった苦々しさが気になってたまら が立っていた。それは、まぎれもなが、同嬢は、それまでに前記二人が く、いまはなきこの館の主の姿であそんなものを見たということなど聞 なくなった。振り向いてみて、。ヘイジが叱責した中尉が顔面を蒼白 いたことはなかったのに、見た幽霊 にして、炎をあげている胸ポケットを叩いているのに気がついた。 この場合にも、その姿勢は、横向の姿は、それら二人の見たものと、 周囲の人たちが笑いながら手を貸そうとしている。 きで、薄黄色い霧のようなものに取全くピッタリと一致していた。 り囲まれていたが、やがて、すべる 心霊現象の世界は全く奇々怪々で ペイジは、ずらりと並んでいる記録計のところへとんでいって、 ように台所の方へと動いて行き、消あるが、ここにもまた、幽霊という ひとつひとっ点検していた。 ものがたしかに実在する、という証 えうせた : : : という。 しかし、スタインべ それから一月ばかり後、スタイン拠がある。 中尉の道化の意味がいきなりハルザーの念頭にひらめいた。マッ ックの幽霊はどうして五度も同博物 ペックの幽霊は、またマリリン、ウ チだ ! 彼は、ライターを失ったあと予備のマッチのことを失念し エストファルさんの前に姿を現わし館の中をさまよっていたのであろう た。この時は、食堂の窓におろしたか ? : ていたのだ ! ハルザーは、大佐が例のライタ 1 を投げたあたりを ( 近代宇宙旅行協会提供 ) プラインドの前に、やはり横姿を見 ちらと見やった。雪の中に黒こげになった部分が残っていた。 せていた、という・ このようなマリリンさんの話を聞 ペイジが記録計の点検からもどってきた。「石炭についてははっ 、て、ハックは非常におどろいた きりしたことがいえませんが、あとは積みあげてあったものすべて が、その後スタインべックの幽霊 は、再びハックさんの前にも姿を現 が爆発したものと、ほぼ断定してよいと思います ! 」彼は、 ( ルザ 1 の肩に腕をかけた。「この若き天才が、このたびの戦いでわれわ 世界みすてり・とびつく三第ま第享

6. SFマガジン 1973年8月号

かんこっ 顴骨。 サヴェッジ大将が、彼方にある爆発物の黒い山を指さした。「そ 米文豪スタインべックの幽震 れと一緒にあそこには計器類があるのです、閣下。その計器類は、 ここの小屋の中に用意された記録計と導線によって接続されている 世界の著名な文豪をめぐる幽霊談う・ ( ックが初めてスタインべックの というものは、古今いろいろ伝えら わけです。ラストに使われます爆発物は、灯用石油、ガソリン、エ れているが、一昨年末から昨年初め幽霊を見たのは、昨年 ( 一九七二 ンジン・オイルなど数種にわたっております。原子爆弾は別とし にかけて、「二十日ねずみと人間」年 ) の一月のことであるが、ある て、われわれが手を触れることのできるいっさいのもの、というこ 「怒りの葡萄」などで有名な米国の夜、八時ごろ、同博物館の階下の食 大文豪ジン・スタインべックの幽堂にいると、・突然スタインペックの とになります。しかし、これらのものが爆発すれば、この投射器 愛が、同氏の生家を改造してつく姿が部屋に入らて来るのが見られ が、原子爆弾にも効果を発揮することはまちがいありません」 た。 った「スタインべック記念博物館」 こわね 「私は、びつくりしてしまい、動 で、三人の人によづて五度目撃さ 賓客が口をきいた。その声音はまるで、砂利のあいだから棒を引 れ、しかもお互いに他の者が見た模ことさえも出来ませんでした。しか き抜くときのような感じだった。「わたしが説明を受けたところで し、その姿は、私には突然気がっか 様を全く知らされていなかったの ないようでした。また、その姿は、 に、それぞれの者によって見られた はーー理論にあやまりがないものとしてーーこの投射器は、石炭を スタインべックの服装や外見などが普通に歩くというのではなく、すべ ふくむ、どんな石油燃料にも奏功するということだったが」 全く同一だったことで、大きな話題り動くような具合で、少し前進し、 「そうです、閣下」サヴェッジがいった。「石炭を発火させるもの を呼んでいる。 それから消えうせました」と彼は言 このエピソードは米国の著名な雑っている。 と考えられています。あの片隅に、石炭のかたまりを二、三個入れ 誌「ナンヨナル・エンクワイアラ 彼は非現実的な夢想を描くような た袋がおいてあります。雪のために、ちょっと見わけるわけにはい ー」上にジェームズ・ハックの手に人間ではなく、自分ではごく「実際 ここで、ハレ よって発表された・彼は現在二 0 歳的な人間」だと思っているものだか きませんが。しかし、その石炭が受けた影響は」 ら、これはひょっとすると誰かの手 の技師の卵で、勉学の資金を得るた ザーをちらと見やってーー「少しでも受けたらの場合ですが、われ で仕掛けられたトリックではないか めに同博物館で管理人として働いて われの計器類がそれを教えてくれるのです」 いる。若者の話によると、スタイン と思って、よく調べてみたが「悪ふ べックの「幽霊」はいつでも、正面ざけとしては、余りにもこみいったⅧ べイジ大佐が、記録計器類の点検からもどってきた。 からの姿ではなく、側面から見た姿もので、到底誰かのいたずらとは、 . をししカエド ? 」 サヴェッジが大佐をふり向いた。「用意よ、 として出現し、薄黄色の霧のような考えられなかった」という。そうか ジネラル ものに包まれており、自分の姿が見といって、その時間では、すべての 「はい、閣下」彼は、ハルザーをちらと見やってうなずいた。「さ られていることにいっこう気がつい窓やカーテンなどはびちっと閉めら あ、はじめよう、ラリー。動力を送れ」 てはいない様子で、普通に歩くとい れていたので、外部からの光の反射 う感じではなく、スルスルとすべりなどとも考えられなかった。 ( ルザーは、手でスイッチを押し、同時に目をつぶった。それか一 そこで、あくる日、同博物館の二 ~ 動く感じで、その後空気の中にとけ ら、パッと目をあけて、彼方の爆発物をじっと見やった。 階の担当をしているニ十三歳のマリ こむように消えうせてしまうとい 低い唸りのような音が投射器から起こった。

7. SFマガジン 1973年8月号

ル彼 った は首 でそ 。呼 振カ を息 え病切た 昨年開かれた第 1 回欧州 S F 大会 (Eurocon ー 1 ) のチェアマン , マンフレッド・カーゲ氏は 。世 いそ オランダ在住だったが , それ以外にこの国の S F については , ほとんど知られていなかったよ ん学 彼手 うだ。最近になって , ハーグ在住のアンネマリ つろ ー & レオ・キント夫妻から英文の小冊子がとど 。な に分 き , これによってはじめてその一端がうかがわ た出 て想 れたので , 紹介しておきたい。 誰生 も像 オランダ SF 界は現在急速な成長途上にある 由で , 現在 5 つの出版社が SF に手をそめてい いな る。最初に S F シリーズを出しはじめたのは Meulenhoff 社で , 現在まで 60 冊。表紙には , 簡ー つが ポ加 オリジナルの絵を使っている。つづいて Spe- て自 ctrum 社が数年前から , そのペーパーノくック・ がた シリーズの中に SF パートを設けすでに 85 冊 , 話は 表紙は写真構成である。 Bruna 社も同様 , ふ 分う つうのシリーズに含めて簡冊を出したあと SF 部門を独立させ , 以後ビッチをあげて現在 15 冊。 Luitingh 社は小さな出版社だが , 年 3 , た投革あ 4 冊の割で 17 冊めを数えた。 Born 社のシリー ズは現在 46 冊で , その中にはペリ ー・ロータ・ン ・シリーズも含まれている。以上いずれもペ 敗か 賞亠な 与れ / く一 / くックで , ードカノく一はまだほとんどな つず 知名度の高い作家は , アシモフ , ウインダ ム , プラナー , アイック , シマック , ヴァン 悪わ わな ス , それに最近ゼラズニイが急に紹介されはじ けし めたという。 最近訳出されたものとしては , レム「ソラリ っ命 ス」 , ホイル「第 5 惑星」 , スタージョン「きみ けし の血を」 , ヴァン・ヴォクト「イシャーの武器 だな 店」 , ゼラズニイのアンソロジー「伝道の書に っ定 捧げる薔薇」などがあげられている。こうして れね みると , この国の S F は , まだまったく翻訳一 、ダねナ い人 辺倒で , 自国の作家はほとんどいないといって ぃ河 なけ いい状態らしい。 S F 界全般の現状紹介のくだ 敗さ あれ りで , 主としてのべられているのは , ファン活 動を別にすれば , 映画や絵画のことが大部分で ある。 "Holland-SF" 誌 ( ファンジンと思わ はあ れる ) の最近号の内容として , 「上記の翻訳出 版および最近入手できるようになった英米版 S F 本の批評」という記述があるところからも , い命万れ その現況がうかがわれておもしろい。 ん人 その他 , 昨年の欧州大会の成果 , とくに総花 式授賞のおこなわれた S F 賞各部門について , にを いろいろと議論の応酬があり , 英米式に大会を ぬ分 ら有 やひ "Con" と称することの是否まで問題はひろが チ創 っている。明年の開催地であるべルギーのプル 少れ ャ造 ッセルでは , すでに , 何々コンというたぐいの ン者 呼称は用いていないという。当然ともいえるが 場で をな オランダの S F 世 界 S 情 報 ぇ 頓 着 し な い だ ろ う ね そ れ も 自 の や っ た と を 知 地 冫こ ま み た ア フ ビ ア や け し な し、 の に 最 後 の 壇 に し く っ ち あ げ る 界 自 が き て し ょ ぅ が ま し が さ マ ラ ソ ン の 戦 で 勝 軍利は を 、お め キ・ リ シ ャ 軍 、や ト ス はげを 、て必 新み要 て の と く と 、了 だ い多も 、あ じ 、て 聞 ゕ そ ぅ て っ も り な - 知 不 足 だ 、い そ ルれく ど と 、すた る と 結考脳 をた持 が る だ あ ん た さ い ろ を ん度改 消 し て し ま う と ろ ・つ た 氷 。時 代 つ て あ た と さ り ろ弁抹 ん た ら み し、 ち の も哲き : 者 - ん の をよ と 力、 く 世 は の び た と う と に て る し にや減 し は 類 も う し で 行 と や ら に な踏言 ナこ さ は が つ く ん 界だな よ ん だ ろ いう一 よ ポ ス う っ う だ う も あ ん た 分 の す き ら く だ た 賞度り だ作目力、 。のね 九な 四一し、 二リん の表ァ 発ツ そ年ツだ 間 だ 吸 続 て と で 精 っ ば し、 と し、 っ て た は も っ と く だ て な り 力、 し、 ん だ 千 通 り の り ・ソ方ナ で ダ ま だ が つ ゆたけ は だ真さ っ 青 に り ス て る 多 分 は が 惜 し い の と 。か も し ん よ カ : 界 は ネ ク タ イ し め つ る に ら に 少 し カ 、を ぇ り ポ え 、や る っ て わ だ 言殳 は 類 。が 、絶 、を ろ う じ て ま か て 生 き 書 て る 多 あ オこ は ワ イ ル と い う 男 か ら カ : ダンく が 彼 手冫 を て 禾ムし を 引 さ カ : ら せ る て ナど う 。な ん 神 も ス の か て た 私 は 走 り て 彼 を と ど め よ う と し た る は が ・つ 。て と も で ん 、は や に

8. SFマガジン 1973年8月号

夏の盛り、土曜日の夕暮、郊外の団地の一つの棟から、五歳ぐら「そうだ、分った。マサちゃんでしよ」 少女は、ふたたび母を見る。ぼんやりと目を見続けている。 いの少女が走り出て来る。 頬を固くし、小さな拳を強く握りしめ、寄妙に空ろにみえる目「ね、当ったでしょ ? 」 で、タ映えの中、おかつば頭をゆさゆさゆすって、少女は広場を走少女は、かすかに首を横に振る。 「ちがうの ? ふうん ? ほんとかなあ。それじゃ誰 ? 教えてち り抜ける。 別の棟の入口へ少女は飛びこむ。息せききって階段を上り、最上ようだい」 「マサちゃん、いないの」 階ちかく、たくさん並んだ同じドアのひとっへ、入って行った。 少女はいう。 ・ハタンと閉じるドア。 「あら、マサちゃんも ? 変ねえ。マサちゃんのママ、実家がすご 「チーちゃん ? 」 く遠いし、お兄ちゃんの塾のこともあって、今年はどこへも行かな キッチンから声がした。 いって、そう云ってたのよ。だから、今日は、ほかの友だちと遊ん ズックをはねとばし、二、三歩あるいた少女の脚が、ビクッと止 っこ 0 でるのね。明日はきっと、チーちゃんと遊んでくれるわよ」 「チーちゃんでしよ」 少女は答えない。 白い天井を見、白い壁を見、アルミサッシュの窓、それらをゆっ 夜半過ぎ、大人の時間、若い母は、同時に若い妻だ。 くり見まわしている。 は、いくらか酔って帰って来た。 キッチンの水音が停る。 「チーちゃん、ちょっと変なのよ」 エプロンで手をぬぐいながら、まだ若い母親が出て来る。につこ妻が云った。 り花のように笑う。 「どんなふうに変なんだ ? 」 ホームドラマの情景だ。 「今日は遊び友だちがみんないなかったみたいなのよね・そのせい それとも生命保険のとか。 か、なんだか帰って来ても、あまり口きかないの。あのままじや自 「やつばりチーちゃんじゃない。あら、あら、また、こんなに汚し閉症だわ。心配になったくらい。でも、しょんぼりしてるってわけ ちゃって。どうしたの ? 転んじゃったの ? 」 ではないんだわ。なんだかポカンとしちゃってるの。だから、その 少女は、・ほんやり母を見ている。 まま、ほうっておいたら、晩ごはんのあと、ひとりで絵かなんか描 ッちゃん ? いてるのよ」 「誰と遊んでたの ? フーちゃん ? ジュンちゃん ? ミ 「へえ、どんな絵た。ちょっと見せてみろ。だいたい絵をみれば、 あ、そうか、みんないないって云ってたつけ。夏休みになっちゃっ 子供の心理なんか分るものさ」 たから、みんな、おばあちゃんとこでも行っちゃったのかな ? 」 「それが、なんだか変な絵なのよ」 若い母は、少女の着がえを持って来て、くるっと裸にひんなきな クスッと笑い、若い妻は首をすくめる。 がら、笑顔を浮か・ヘてしゃべり続ける。 に 0

9. SFマガジン 1973年8月号

はね起きようとした・ほくの腕を彼女がんだ。 ー発光する海をたたえた未知の惑星の渚で沐浴をする娘。 彼女が浜に上ってくると、その体の輪郭が、銀箔をうすくぬった「待って、行かないで。すばらしい雨だわ」 たしかに、ファンタスティックな雨だった。礁湖の水は陽気一浮 ようにかすかに浮び上った。 やしはうちわ ダイアナ かれ騒ぎ、砂はるような音も立てて弾じけ、大王椰子の葉扇の天 「ようこそ、月の女神よ」 蓋もやかましいほどに鳴りひびいた。 「私のアポロさん」 濡れたしなやかな体が崩れかかって来て、・ほくを砂に押しつけ雨は、弛緩し切 0 たぼくらの体に容赦なく滲みとおり、たちまち ばくは歯の根が合わなくなった。 た。おどろくほど熱く、潮の匂いをふんだんに漂わせるこの重み。 「降服だ」・ほくは叫んで跳び起きた。 ぼくの手は勝手に動いて、彼女が身につけているものを解いた。 「意気地なし」彼女が笑った。 「来て」彼女が囁いた。 乳房が熱をはらむほどに強くぼくの胸におしつけられ、夜光虫の「誰にもぼくをチキンとは呼ばせないぞ」 ばくが狼男よろしく歯をむいて詰めよると、大仰な悲鳴をあげ あえかな照り返しを受けて彼女の目が挑むように光った。 ・ほくはあらあらしく彼女を砂に押しひしぎ、その中心をさぐりあて跳び起き、雨すだれの中を、揶子の幹ごしに光 0 ている研究所の てて入 0 て行「た。かってない兇暴なよろこびが背筋を這いのぼ 0 あかりを指して駈け出した。 明け方、はげしく体を震わせている彼女の気配に・ほくは目覚 て来る。彼女の脚がおどるように伸びよって来て、・ほくにからみつ めた。 き、二人の下で砂が呟くように鳴った。 「さむいわ」彼女が呟いた。 世界のすべてがひとつの運動律に支配され、あたりの闇が、みる 額が、おどろくほどに熱かった。 まに白熱してゆく。その白熱の核芯が・ほくらの快楽中枢をたちまち やきつくす。かってないほどの、文字どおり体を引き裂かれるばか りの収縮と爆発が果てもなく続き、・ほくは彼女の中心の混沌のなか に、原子の存在となって拡散するかと思われた。 の・ほりつめた高揚が高いほど、それからの失墜はゆるやかで余三日経ったが、不可解な熱は彼女にとりついたまま離れようとし なかった。手練れのゲリラ出没のように、高熱はもえあがったと思 熱にみちている。ぼくらはその余熱に全身の細胞を浸しながら、 うと平熱にしりそき、・ほくの安堵をあざわらうように再び彼女を襲 「仮」の死をまどろんだ。 何かが、ぼくの頬につよく弾けた。自然がたわむれにつくつうのだ。とくに朝方と日没どきが鬼門だった。 5 た弾丸のような冷たい水滴。それが雨と気付く間もなく、滝のよう雨に打たれたための急性肺炎ではないかと・ほくは疑い、なけなし の抗生物質を打ってみたが、それが効き目をあらわす兆しはなかっ になだれを打ってスコ 1 ルがおちて来た。

10. SFマガジン 1973年8月号

・最近、・いろんな意味で興味深い海外 SF 映画を続 けて二つ見る機会がありました。ーっは、もうこの 号が出るころには一般公開されているはすですが、 いま話題の「ソイレント・グリーン」です。感心し ましたねえ。いえ、傑作だという意味ではありませ ん。もちろん決して愚作というのでもない。まあそ れなりに楽しめる出来のいい娯楽作品というところ でしよう。感心したのは、原作 ( 当社の S F シリー ズに入っているハリイ・ハリスンの「人間がいつは い』です。念のため ) の設定をそのままいただきな がら、あれはど似ても似つかぬ別の作品に仕立てあ げた、そのお手並みの見事さにです。なまし原作通 りのシリアスなものを期待して出かけたのが間違い のもとかもしれません。結末はあの通りのドンデン 返し ( といっても、 - S F 読みなら途中でハハアと気 づく程度のものですが ) 。こちらもまさしくドンデン 返しを食らったような気持でした。 ■もうーっは、ソ連映画「ソラリス』 ( これも原作 は当社の S F 全集にも入っているレムの名作です。 まだ公開も未定とかでノースーパー ( ただし部分的 な解説つき ) だったので、あまり大きなことはいえ ませんが、画面から判断した限リでは、ストー の展開がクソまじめなはど原作に忠実で、ただ原作 の疑似科学的な部分一一人間の理解を絶した異世界 の生命形態との接触という重大なテーマはかなりう しろに追いやられ、その接触を通ヒて顕わになる人 間の側の内的外的葛藤の哲学的描写のはうに制作者 の関心が向いている感ヒでした。しかし、元来が 4 時間という長尺ものを輸出用に 2 時間半に縮めたと いうことなのに、おそろしくスローテンボで無意味 とも思える長いシークエンスの挿入があったりなど して、観客席からはあたリはばからぬ高いびきが聞 えてくる始末でした。そして驚いたことに これも また原作にはない意表をつく結末に作ってあったの です。もっとも、本号に特別寄稿をして下さった小 野耕世さんは別の意見をおもちのようですが・・・ ・ただこの二作を通して、かけ値なしにアメリカと ソ連の映画界に羨望を感じたことがあリます。 S F 映画といえば子供相手の見世物風な特撮映画と思い こんでいるどこかの国の映画界と違って、娯楽と芸 術とを問わす、あくまでも大人の鑑賞に耐えるよう な立派な映画を作ろうと真剣に心がけている制作者 ・出演者の姿勢です。史上空前の巨費を投じて・映画 化されるという「日本沈没にしても、ただやたら とスケールばかりバカでかい空疎な見世物映画には してほしく・ないものです 9 ■当社の S F 刊行満 15 年を記念しておこなった三大 S F コンテストの応募総数を発表いたします。小説 部門は 620 篇、漫画劇画部門は 66 篇、アート部門は 176 , 点という予想を遙かに上まわる空前の応募数で した。 SF がいまいかにはば広く根強い支持を受け ているかを如実に示す数字です。すでに鋭意第一←次 選考を開始しておりますので結果の発表まで ( 10 月 号の予定 ) 楽しみにお待ち下さい。 ( M - ・ M ) SF MA GAZINE SCIENCE SP 石 ( U 応 A 02 & 日 ( 02 FANTASY VOL. 鶩 14 NO. 8 AUGUST 19 7 3 0