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検索対象: SFマガジン 1973年9月号
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1. SFマガジン 1973年9月号

ている最初の私立探偵業のびとりの傍系子孫だということです。そ地球の植物もすこし育てていた。でも、それらは贅沢なもの北 れがどれぐらい真実なのかば関係なく、その先祖が・ほくにとって役極大陸の北部を本当に征服するための資源は、くすり草、水中木 2 に立っキデルとなづているんです 6 つまり、古典的なタイプの : ・材、ツル求ウゲとグリ澂プイソ、そしていっか人口と産業にとも なづて市場が拡大したときには町の花屋に出荷するチャルカンセマ その男はロごもった。不安な想いがその顔を横切った。 ム、そして毛皮商へ出十飼育動物の生皮などだった。 「もう寝たにうがいいですね。明日の朝はだいぶ遠いところまで行それはアイアンズが生きているうちに見られるようになるとは思 くんで・すから」 っていない明日のことだ。シ一エリンフォード - は、だれかが本当にそ 彼女は闇の中を見た。 れをやりとげられる日が来るとこの男ば信じているのだらうか、と 「ここに朝はないのよ」 いう疑間をおぼえた。 ふたりは車の中に人った。〈霧の牧人〉ば立ちあがり、固くなづ その部屋は暖かくて明るかづた。暖炉でばぜる火花が陽気な感じ た筋肉を用心深くときほぐそうとした。詩神の妹さまのもとへもどをかもしだしている。螢光バネルの光が、手作りの戸棚や椅子、テ る前に、かれは窓ガラスをとおして車の中をのそいてみるという危・ープルを輝かせ、あざやかな色彩の織物や棚におかれた陶器類を美 険をおかしてみた。寝床がならんで作ってあり、人間たちがそこにしく見せている。 寝ていた。しかし、女の体はすばらしいものなのに、男は女にふれ辺境地域民であるここの主人はその高い席にどっかりとすわづて ていないし、これまでの模様でば男がそうするつもりもなさそう いた。ゅづたりとした服を着こみ、髭は胸までのびている。・かれの 妻と娘たちが「かれと客人と息子たちにコ 1 ヒーを運んできた。そ そっとするやつら、人間どもめ。冷たくて、粘土細工のようななの香りが、心からもてなしてくれた食事の残りの匂いと混じりあっ のた。それなのに、こんなやつらが美しい原始の世界を汚そうとし ている。 ^ 霧の牧人〉は嫌悪の想いに唾をはいた。そんなことをお しかし戸外では、風がうなり、稲妻がきらめき、雷がとどろき、 こさせてはいけない。 . 統治されているあの女神が、そのことを誓わ雨が屋根と壁をたたきつけ、流れおちて庭の砂利のあいだで渦まい れているのだから 6 た。倉庫や家畜小屋はその背後にびろがる巨大さの前に、うずくま づているようだ。樹々はうめき、おびえた牛の鳴き声に妙な笑い声 ウィリアム・アイアンズの土地は実に広大なものだった。しかしをだぶらせているようだった。拳でたたきづけるように、とづぜん ひょう それは、栽培耕作の方法がまだはっ・きりわかづていないこの土地の電がタイルをたたきつけた 0 農産物でかれの家族と家畜を食べさせてゆくためには、王国ほどの隣人のいるとこらがどれほど遠いか、身にしみる場所だなとシ三 リンブオードは思った。それでもかれらがも・つともよく顔をあわせ 土地を必要とするからだった 6 かれはまた、・夏の太陽と温室の中で

2. SFマガジン 1973年9月号

じりじりとあがりはじめているのに気づいた。爆発がしだいに力をとしても、水素気球に乗り地球の大気中を飛んでいるときであれ ば、そこでいのちを落してしまったはずだ。彼は、ヒンデン・フルク たくわえつつあるのだ。 もちろんこれだけ離れているからには、目に見えるできごとがお号の炎につつまれた死ーーー一九三七年、レイクハーストに停泊しょ こるとは考えていなかった。だがとっぜん、東のホライズンに無声うとしたそれが、はじけとんだスパークによって破壊されたときの 電光を思わせる光が踊った。と同時に、主配電盤上の・フレ 1 カーのことを思いだした。これまでも何回となくおこったように、遠いむ かしのニュース映画のおそろしい情景が心のなかをよぎった。頭上 半分がふっとび、灯りが消え、すべての通信チャンネルが途絶した。 体を動かそうとしたが、金縛りにあったように身じろぎひとつでの気球には、最後のツェッペリン飛行船群をみたした水素など問題 にならないほど多量の水素がつまっている。しかし、すくなくとも きない。麻痺状態はたんに心理的な原因から来るものではないよう こにでは、そのような爆発はおこりえない。木星の大気中で人間が だった。四肢の自由がまったくきかないくせに、全身に耐えがたい うずくような痛みが感じられるのだ。絶縁されたこのキャビン内に火をおこせるようになるのは、まだ数十億年先のことになるだろう。 べ ーコンを手早くいためるような音とともに、音声回路がよみが 電場が侵入してくることは考えられない けれども計器盤の上で えった。 は光がまたたき、耳には疑いようもない・フラシ放電のパチ。ハチとい 「ヘロー コンチキ号ーー・聞えるか ? 聞えるか ? 」 う音が聞えるのだった。 言葉は切れぎれで、ひどくゆがめられているが、聞きとれないほ 何かをたたくような鋭い音がつづけざまにおこり、非常システム が作動して、過負荷状態がおさまった。灯りがまたたきながらともどではなかった。ファルコンは心がうきたつような気分をお・ほえ 、麻痺状態はやってきたときと同様たちまち消えた。計器盤を一た。ふたたび人間の世界とのコンタクトの道がひらけたのだ。 「聞えるよ」と、彼はいった。「みごとな放電ショウだが、ダメー 警し、すべての回路が正常にもどったことを確かめると、ファルコ ジはなさそうだ いまのところは」 ンは機敏に観測窓に体を向けた。 「よかったーーそちらを見失ったんじゃないかと思ってた。テレメ 検査灯のスイッチを入れる必要はなかった カプセルを支える ・チャンネル三、七、二十六を調べてくれ。それからカメラ ケー・フルは炎につつまれているようだった。中央つりあげリングか ら巨大な気球の赤道帯にむかって、何本もの鋼青色の光のすじが闇二のゲインも。外部イオン化測定機の数字がまだ信じられない」 のなかにのびている。そして、そのうちの幾本かのまわりでは、目 ファルコンは、コンチキ号の周囲でくりひろげられる魅惑的な火 もくらむような炎の玉がころがっている。 花の乱舞からしぶしぶ眼をはなした。しかし、ときおり窓のそとを その光景があまりにも美しく異様であったため、そこから脅威をながめることは忘れなかった。最初に球電が消えていった。輝く球 読みとることさえ忘れてしまいそうだった。球電をこれほど真近かはゆっくりと膨張し、やがて臨界状態に達すると、静かな爆発をお ら見たものはいないだ ) つう、とファルコンは思った かりに見たこして消失した。しかしカプセル外部の金属の露出面には、一時間

3. SFマガジン 1973年9月号

っしだした。隠れた地表はまだ四百キロ以上ものかなたにあり、途大なドラムを打ち鳴らすようにしだいに大きくなっていった。あま 方もない圧力と温度が彼の侵入をはばんでいた。ロポット探測機でりにも低いので、それは体にまで感じられる。ビートは着実にテン さえ、完全なままそこまで到達したものはないのだ。いらだたしくボを速めてゆくが、音の高さこ変ヒよよ、。、 冫イをオししまではそれは、可聴 と、 なるほどの障碍を隔てて彼の下に横たわる地表は、レーダー・スク限界ぎりぎりのところで小刻みに鳴りつづける響きだった リーンの底にうつる像を見るかぎり、かすかにけばだっており、装ふいに振動の途中で、それがとまった。あまりにもとっぜんであっ 置が分解することのできない奇妙な粒状構造を見せていた。 たため、耳は沈黙を認めることができず、頭脳の奥底の空洞は、し 日没から一時間後、彼は最初の探測機を落した。それは百キメ ばらくのあいだかすかなこだまを作りだしていた。 1 トルばかり急速に落下したのち、高密度の大気のなかにうかび、 それは、ファルコンがいままで聞いたことのない異様な音だっ 信号波をひっきりなしに送りはじめた。彼はそれを管制室に中継し た。地球にあるおびただしい種類のノイズのどれとも違っていた。 た。それがすむと、降下速度に注意し、計器を監視し、ときたまのそのような音をつくりだす自然現象は、彼には考えられなかった 質問に答える以外、することはなくなった。安定した気流に乗ってし、といって大きなクジラとか、そういった動物の鳴き声を連想さ いるかぎり、コンチキ号の器械類が必要なことをひとりでにやってせるわけでもなかった。 くれるのだった。 ふたたびそれがわきおこり、同じパターンを正確にたどりはじめ 真夜中すこし前、女性の管制員が当直にはいり、紋切り形の冗談た。こんどは心の準備ができていたので、彼はその持続時間を概算 をまじえて自己紹介した。十分後、ふたたび彼女の声がはいった。 した。最初のかすかな振動から最後のクレッシェンドまで、それは こんどのそれは真剣で、興奮していた。 十秒とすこし続いた。 「ハワードー チャンネル四十六を聞いてー・ーーゲインをあげて」 こんどのそれは、遠くかすかではあるが、本物のこだまをともな チャンネル四十六 ? テレメータ回路の数はあまりにも多い。だ っていた。おそらくそれは、階層をなすこの大気圏の反射層の一つ から彼が記憶しているのは、そのうちで自分のいのちと関わりあう からひびいてくるのだろう。あるいは、・ とこかにもう一つ音響発生 ものだけだった。だがスイッチを入れると同時に、その用途に気づ源があるのかもしれない。 ファルコンは第二のこだまを待ったが、 いた。彼が接続したのは、百三十キロ下方、いまでは水とほとんどそれは聞えてこなかった。 変らぬ大気のなかを行く探測機のマイクロフォンに通じる回路だっ 管制室はただちに反応を示し、探測機をもう一つ投下するように たのだ。 命じた。二つのマイクロフォンを作動させれば、音響発生源のおお はじめそこにあるのは、この想像を絶する世界の闇のなかを吹くよその位置がたしかめられるからである。コンチキ号自体にも外部 風のやわらかなうなりだけだった。だがつぎの瞬間、その・ハックグマイクがいくつかとりつけられていたが、奇妙なことに、それらか ラウンド・ノイズのなかから、ズーンという振動がわきおこり、巨ら聞えるのは風の音だけだった。何であるにしろ、その振動は、は 2

4. SFマガジン 1973年9月号

ずで、時々仲間を赤面させたり閉口させたりすることがある。とこ 西家が切った三萬を、七対崩れの北家が鳴く。 ろがその一方、妙な具合に物識りで、実生活に役立たないことだと 「どうだ、もう一丁」 抜群の記憶力を発揮する。他人に恩義を感じさせすに奢るのが特技 一索を切って出て絶対安全な北を残す。 で、渋谷が地元だけに一緒にいると何かと心強い 「ちょっと待って・ : : ・一索槓だ」 西家は手の内から一索の暗刻をさらし、嶺上牌をつまむ。筒を「俺は〈コンでるよ」 やめようと言い出されて拗ねたのが、夢中になって生牌の九筒を 自摸切り。 ィーヴンチューピシ ウい・ヒンアンコ 北家にツキがまわって五筒が暗刻になり、一萬と九筒のシャンポ振ってしまった画家の吉永佐一だ。色が白くて小肥りで背が低くて ン。東は一盃ロのを振「てオンリ。南家はじっくり場を読んでつぶらな瞳で甘ったるい童顔の持主。但し時々まっ黒な鼻毛をのそ かせていることがある。鼻毛というのはどうも本人には気づきにく 三萬を切り、西家はどうやら聴牌したらしく夢中で自分の手ばかり いもので、仲間が、 見つめた挙句、余って切った牌が九筒。 「今日は凄味のある顔をしているね」 「ドカー . ン」 などと言っても、 「そうかな」 2 と顔をなでる程度の反応しか示さない。凄味というのは鼻毛のこ ラス親で、その回結局最後の北家の対々でトップから二位に転落となんだけれど。 この吉永佐一、大変な秀才なのだそうである。今は大学院へ行っ した山本麟太郎が言いだした。 ていて、山本麟太郎とは高校時代からの友人。秀才でも麻雀は別と 「もうよそうよ。くたびれちゃったな」 山本はひょろ高い体を椅子の上で思いきりのばした。彼のすまい見え、やるたびに敗けている。どういうわけか、やるたびに敗ける は、この渋谷道玄坂のすぐ近くにある。坂の上で高速道路の通って雀士に限って、三度の飯や一夜の妻より麻雀が好きらしい。だから しよっ中敗けていて、はたで見ている限り麻雀が好きなんだか、敗 いる玉川通りを向う側へ渡った高級住宅街のどまん中に住んでい る。いま身につけているのは、黒のスラックスに白いシャツで何けるのが好きなんだかよく判らない。一説によると軽度のマゾで、 の変哲もないようだが、それが彼のトレード・マークみたいなこと女の子に抓られると昻奮するのだと言うが、これは恐らく誰かの悪 になっている。雀卓のうしろの壁には、スラックスと同じ黒の上着ロで信用はできない。 南家の伊東五郎。この顔が問題である。年よりずっと老けてみ が掛けてあり、いついかなる時でも黒の上下に白いシャツなのた。 若者揃いなのでその昔のことは知る由もないが、戦前・ : : ・世が世な・え、その点で吉永佐一と好対照たが、異様に四角い。ついた仇名が 9 ら華族さまだという噂である。そのせいかどうか、大変な世間知ら「チ + ン」で、なぜ「チャン」かと言うと或る流行歌に関係があ 4 ー・イ リノシャン・〈イ ショ / ・ハイチュービン

5. SFマガジン 1973年9月号

に見た類人猿の最高の模型は、二本足の鰐に似ていたよ。 な炉をのそきこんだ。そしてかれは低い声であとをつづけた。 「・ほくがもっとも興味をお・ほえたのはたぶん、なぜ : : : 何世紀もの 9 待てよ、終りまでいわせてくれ。影・ほっこについての話だよ : ああ、わしもそういうことを山ほど聞いているさ。わしが子供だっギャップがあり、機械文明とそれとまったく敵対する世界観という たころは、そういう話を信じていたとも : : : 連中にはいろいろな種障壁があったにしても : : : 伝統というものに大した連続性がないの カ・・ ・ : なぜ、しつかりした、技術工学の面でも装備を整えた、相当 類があるということだった。翼があるもの、ないもの、半分人間に 近いもの、たぶん美しすぎるほかは完全に人間と同じもの : : : これ教育のある植民者たちが、古い種族というものに対する信仰を墓場 から掘り出してきたのかなんです」 はまた、古代地球にあった妖精の国と同じだ。そうだろう ? 「結局のところ、連中がいいつづけているとおりもし大学に心理学 わしは前に興味を持ったことがあって、伝統図書館のマイクロフ アイルを調べてみた。そして知ったことは、宇宙飛行以前の何世紀部ができたら、いっかはだれかが、きみの質問に答える論文を作る にもわたって農夫たちによって話された、ほとんど同じような作りだろうと思うね」 シェリンフォード の返事を と、ドーソンはしわがれた声でいい 話さ。 そのどれもが、われわれのところにあるわずかな遺跡と一致しな聞くとあっけにとられた。 かった、それらが遺跡としてもだが。それに、北極大陸ほどの大き「・ほくは、、まはじめることを提案しますよ。コミッ さの地域がいくつもの異った知能のある種を生み出せるはずがないウフ・ランドで。最近の事件がおこったところは、そこですから。 という事実にもだ : : : それにだよ、きみの常識が教えるとおり、人どこで乗物を貸してもられます ? 」 「ああそいつは難しいことかも : : : 」 間がやってきたときに原住民がどんな態度をとるだろうかというこ しんまい とにもね ! 」 「ちょっと、ちょっと。この土地には新米でも、すこしは心得てい シェリンフォードはうなずいた。 ますよ。物資が不足しているところから、大きな装備品を個人が持 「そうですか : : : ・ほくのほうは、人間じゃあないものの常識がわれっていることはほとんどない。必要なときには、いつだって借りら われのそれとまったく同じなのかどうか、あなたほど自信がないんれることになっているはずですね。・ほくの欲しいのは、あらゆる地 です。人類自体の中でもあまりにも多くの差があることを知ってい形にむくホ・ハークラフトのキャン。ヒング・・ハスです。それに・ほくが トッ・キャ / ピイ ますからね。でも、あなたの説のほうがいいことにしましよう。ロ持ってきた装置を取りつけてほしいんです。それから、上部の天蓋 ーランドにいる科学者の数はすくなすぎるし、あなたのいわれると部分は、運転席から操作できる回転砲座に変えてほしいですね。で おり、復活した中世の迷信がどこから発生したのかをつきとめるよも、武器類は自分で調達します。・ほくの持っているライフルとビス トルのほか、クリスマン・ランディング警察の武器庫からすこし借 りも、みなさんずっと大切な仕事がおありのようですね」 かれは両手でパイプをつつむようにし、その中に燃えている小さり出す話をつけてきましたから」

6. SFマガジン 1973年9月号

かの手で殺されてしまう。医師は真相を究明するために一五七九年が『キース・ペリッグ』と名のって、あるパーティに現われるま へむかう。そして、そこで、〈ソウル・キ、ー・フ〉の監督者が、未で、読者はそのことを知らされない。ペリッグは原型的な精神病質 来を″レッド・ 。 ( ワー″の脅威から守るため、過去へもどり、にせ殺人者であり、そして五つのヒルの道徳的腐敗の象徴である の矢でコリスを殺したことを知る。 タイム・マシンによる数多くの手品も、この物語のいくつかのア 彼には色彩というものが欠けていた。目も毛髪も肌も爪も漂白 ラをまだ隠しおおせていない。まず、作者は未来人がすべて混血だ したような白さだった。洗い清められ衛生的という感じだった。 ということを、わざわざ断わっている。でよ、、 冫ったいどこからイ無味無色無臭のからの容器だった。 ンディアンが出てくるのだろうか。また、コルテスやドレークを殺 ( 小尾芙佐訳 ) してヨーロツ。ハの″新大陸発見″を食いとめようという発想は、ペ 丿ー提督を殺して″攘夷を達成しようというのと変わらない。そ べリックの雇人のひとりテッド・ べントレイは、このパーティで れなら、アズテックス人に火繩銃を与え、また日本の場合には徳川気を失い、そして目をさましたとき、自分がペリッグの肉体の中に 家光 ( ! ) を暗殺するほうが、まだしも有効ではなかろうか。 いるのを知る 『太陽クイズ』 ( イギリス版題名は『偶然性の世界』 ) では、政治 権力は一種の産業複合体である五つのヒルのあいだで分割されてい ゆらゆら揺れる姿が鏡の中をうろついた。黄色い水のような深 る。あらゆる人間がパワー ・カードを持っており、無作為に回転すみに一瞬生気のない昆虫ににたものがたたようのが見えた。彼は る″ポトル″の出した目に自分の番号が当選すると、その人間は最息をのんでそれを見つめた。鑞をひいたような髪、生気のない 高権力者〈クイズマスター〉になることができる。しかし、貧乏人唇、無色の目を見た。腕は骨なしのようにだらりとたれ、背骨も は食うために。ハワ ー・カードをとっくに売りはらっており、また なくぐんにやりとした、漂白されたようなものが、・ほんやりと彼 を見かえした。 ″無級者″は当選してもあっさり暗殺されるため、クイズマスター の地位はつねにヒルの関係者によって占められることになる。 彼は悲鳴をあげた 物語の始まりでは、この執政庁は、ヒルの一つを牛耳っているリ ( 小尾芙佐訳 ) ース・べリックの手にある。だが、ポトルの転位で、クイズマスタ 1 の地位は、プレストン会という奇妙な宗派の指導者であるレオン この装置を使って、・ ヘリックはカートライトを暗殺し、権力をと ・カートライトに移る。クイズマスターとなったカートライトは、 りもどそうと企てる。怪物ペリッグがテレバスの追及をかわし、鋼 テレバス機関 ( 『超能力世界』参照 ) を使って自分の身をまもるこ鉄の壁をぬけ、さらには宇宙空間をも越えて、容赦なくカートライ とができるのだが、一方べリックは一種のシミュラクラをすでに開 トに肉迫していく描写が、強烈なサスペンスと興奮を生み出す。 発している。これは、無作為に交代する一組の人びとによって精神このヒル・システムに真向から対立するものは、。フレストン会の 的に遠隔操作されるロポットで、テレバスの側からすると数分ごと伝説的な創立者、ジョン・プレストンである。彼は炎の月と呼ばれ に″消失″するように見え、捕捉できないのだ。このシミュラクラる新しい″無垢の惑星を求めて宇宙空間へ旅立ち、そのまま消息

7. SFマガジン 1973年9月号

とこら、同じ結果を得てい らも悪くないけど、作者と知恵くら・ヘしていると、案外いちばん面 る。 白い部分を読み落してしまうことが多いんだよ」 心霊治療などというと、何 ラ ラードだって結 「俺が読むのはスペース・オペラが中心だけど、・ハ 一を今さらといった懐疑論者の オ多い昨今、ソ連の科学的実験 ) 構面白いと思うんだ。ウルフガイもファンだし、日本沈没なんか読 がそれを証明しつつあるとい むと本気で心配になっちゃう」 静うことになる。 平このオーラ研究では、その 「いちばんいいんだよ、それが」 他、指のオーラは指紋に深い可 若様が言い、吉永が同意する。 関係があるということが分っ ており、炎は指紋にそって吹Ⅲ 「それはたしかにそうだ。俺も最近気がついて自分でおかしくなっ 一フき出している。オーラのゆら たんだが、 g-v を余り偏って見てると妙なことになる。いわゆる純 めきを、器械でみると、「そ オ 文学から時代小説、推理小説、風俗小説、戦記ものと、小説の世界 こから常に変化しながら、光 の 中り輝く銀河のように、はしけ にもいろいろなジャンルがある。 r-n もたしかにその中のひとつに 療飛び、明滅し、燃え上り、放 は違いないけど、の中にだって、外側の小説の世界と同じだけ 散する冷光の迷宮のよう」に 見えるという。 のジャンルの幅がある。その中で融通のきかない偏った見方をして ( 数百の実験の結果、ディー るってことは、実は外側の世界でを無視しようとしている人た一 ン教授は、一般に感情が平静 ちと同じ姿勢でいることになるんだな。そうさ。つまり、亜空間は カバー写真に使用されている ) を見なときは、青色のオーラが、また感 ると、もっと明確になるのである情が高ぶ「たり、怒ったりすると、 亜空間なりに、外側の空間と主観的に同じ大きさを持ったひとつの が、普通の状態の指からは、一般的赤い、まだらの色になるとい「てい 宇宙なんだ」 にプルーのオーラが出ており、周囲る。また、太陽の磁気嵐の最中は、 からコロナのように放出されている人間のオーラがそれに影響され、美 「だとすると、あのちつぼけな亜空間の向う側に、何億、何十億と 部分が明るい青白色で、肉の所は暗しい音楽を聞くと、プルーのオーラ いう人間がひしめいているのかい」 が、よりカ強く、明瞭になるという 青色となっている。そして治療時に なると、指の間接部からオレンジ色ことも判明した。器械は人体だけで 三波はおそましげに言った。 の強力な光が出る。これが病気等のなく、植物、鉱物のオーラも捕える こもった、低く重々しい時計の音が十二時を告げていた。 ことができ、ソ連ではこれを、病気 治癒に何らかの力をもっているので はないかといわれている。同様の実の診断や植物の異常を発見するのに ハ験がすでにソ連でも行なわれてお用いたりして、応用範囲は、医療、 3 り、心霊治療能力をもったアレクセ歯科医学、犯罪学、地質学、農学、 イ・クリポロトフという陸軍大佐を考古学などにも広げられているとい ろ % (h ・ Z) 被験者にして、その指先を撮影した 突然、居間の灯りがすうっと暗くなり、また明るさを増して元の 世界みすてり・とびつく一 - = = = = = 一 = = = 三 明度に戻りかけて、再び暗くなった。 4

8. SFマガジン 1973年9月号

しての孤立と破壊性である。シルヴ = スターは狂信者、。フリチ = ツを見いだす。地球と月植民地の戦争で、彼は襲来する核ミサイルを 6 ト夫人は病的なビ = ーリタン、ジョーン・リイスは偏執者、そして命中前に破壊できるように、その進路を測定する仕事をうけもって マクフィ ーフは ュニスト ( おお、こわ ! ) 。彼らはみんな、 いた。しかし、レイグルはどちらの側が正しいかに強い疑問をもち 無限の権力という偏執病的幻覚の持ちぬしなのだ。 はしめ、内乱に参加していることで罪悪感に悩むようになった。彼 偏執病、あるいは迫害コン。フレックスは、以前には単純な妄想とはこのジレンマを逃れて過去の幻覚に浸りきるようになったが、そ 考えられていた。しかし、最近の実存主義心理学の理論では、それれは彼が月へ逃亡することを恐れた地球政府が、彼のために作り上 をなにかの現実の、歪められた知覚と説明している。つまり、偏執げたものだった。そして、政府はミサイルの飛行データをクイズ 病者は事実迫害をうけているかもしれないのだが、その迫害の根源に偽装して、彼にそれを解かせていたのだ。真相を知ったレイグル を正しくつきとめることができずにいるのだ。偏執病は、裏返せば は、彼がいなくなれば地球側が降伏するだろうと考え、月側に寝返 誇大妄想でもある。もし、ある人間が、すべての行動は彼に向けてろうと決意する。 なされたものだと信じているとしたら、そこから誇大妄想狂までは レイグルのこの選択は意味深い。地球が月植民地を抹殺しようと ほんの一歩の距離た。政治的暴君は、しばしば自己を暗殺の目標とする理由は、植民地の経費があまりにも高くつくからである。″ル 考え、そんな計画のないところにまで猜疑の目を向ける。彼らがそ ーナティック″と呼ばれる植民者たちは、当然抹殺されるのを拒 うした計画の目標にされやすいのは事実た。しかし。ここでも、彼む。彼らがレイグルを味方につけるのは、金星への宇宙旅行という らがその根源をつきとめられない以上、彼らの心理は妄想的といえ簡単な方法によってである。この経験で彼は自由と冒険の感覚を味 る。 わい、それが彼の人間的本能に不可欠なものたと断定する。この宇 偏執病の哲学的理論化は唯我論。ーーこの世界にはおのれしか存在宙飛行と自由の方程式は、『太陽クイズ』での炎の月の発見者。フレ せず、ほかのものはすべておのれの想像力の産物として存在するに ストンや、『ジョーンズの創った世界』で、人類の運命のために星 すぎない、という考え方である。『時は乱れて』に描かれる人物・ほしを確保しようとするジョーンズのむなしい試みを想いおこさ は、この世が彼を中心に回っているのではないかという考えを抱いせる。 ているーーそして、事実そうであることを見いだす ( ! ) のた。レ『時は乱れて』は成功作ではない。偏執病のテーマが弱く、 ″別世 のよ イグル・ガムは友人夫婦と同居して静かな生活を送り、一日中、新界〃からの出現物にも、ペリッグやヴァルカンの″ハンマー 聞のクイズを考え、その賞金を獲得して生計を立ている。しかし彼うな無気味さが見られない。現実世界の描写があまりにもすくない は、周囲の環境がどことなく奇妙だという感じにつきまとわれてい という技法的欠陥のため、読者にはそれが非現実のものに見える。 る。彼は別の世界の断片的な記憶をしじゅう思い出し、まちがった メイン・プロットは、レイグルの日常生活の退屈なディテールや、 番号でいつばいの電話帳を見つけ、ラジオの放送で人びとが彼のこ隣人の妻とのソー。フ・オペラ的ロマンスまで含まれて、なかなか先 とを語っているのを聞く。やがて、レイグルは彼の住んでいる町かへ進まない。そして、この作品でもやはりいえるのは、すべてがあ らの脱出に成功し、そして、彼の″幻覚″が一九九八年ーー・四十年まりにも謎めいていることである。この小説には、キーテル・ ( イン 後ーー・の現実世界の一部であり、彼が地球の最重要人物であること夫人なる人物がしよっちゅう登場するが、彼女が月側のスパイであ

9. SFマガジン 1973年9月号

れは・ほくらを待っているし、・ほくらはかれのところへ行こうとして シェリンフォードはこれほど困難なことをした経験がなかった。 シールド・ジェネレ 1 ダー 主制御盤の前に坐り、指を遮蔽波発生機ボタンのそばにおいたまいるんだからね」 キャ / ・ヒイ ー・フロは・ほんやりとではあったが、恐怖か絶望か何かを感じる ま、それにふれないのだ。かれは天蓋の一部を下げて、声が通るよ べきだとわかっていた。しかし、彼女の記億はうしろに置き去られ うにした。一陣の風がかれの顔にあたり、母親の庭にあった・ ( ラの 香りを連んできた。かれのうしろでは、車の中央部にいる〈霧の牧ていたーー彼女はどうやってここに自分が来ることになったのか 人〉が、近づいてくる軍勢を見ようと縛られた体をのばそうとしても、は 0 きりとはわからなかったーー運ばれている彼女は愛されて いるのだとわかっていた。平和な静けさの中におり、喜びを落ち着 いて期待しながら : ・ ンエリンフォードはいっこ。 しばらくすると、森は終り、ひろびろとしたところに出た。かれ 「かれらに呼びかけるんた。・ほくと話をするかどうか尋ねてくれ」 らは、月に照らされた丸石が灰色や白とまだらに見えている草原を 未知の、歌うようなあまい言葉が飛びかい、少年は通訳した。 横切った。北極光はそれらの石の色合いを微妙に変えていた。いそ 「ああ、かれは話されるそうだ、リュイド卿がな。だが、いっとく がしとん・ほは、そのあいだに咲いている花の上に、小さな流れ星よ ぜ、おまえが帰してもらうようなことにはならないとな。みんなと 戦わないことだ。降参するんだ。おまえも来るんだ。山の下にあるろしく踊っていた。前方には、頂きが雲のかんむりをいただいてい 幻の城に住みつくまでは、生きているということがどういうものなる嶺が輝いていた。 ー・フロの目はそのとき前のほうにむけられていた。彼女は馬の のかわからないんだそ」 頭を見て、静かな驚きをお・ほえながら考えた。まあ、これはサン 影・ほっこたちは近づいてきた。 ポ。わたしが子供のころ、わたしのものだったわ。彼女はふりむ き、男の顔を見上げた。かれは黒い胴着と頭巾のついた袖なし外套 ジミイはお・ほろに輝き、消えてしまった。・ハ ー・フロは強い両腕に を着ており、それで顔が見えにくくなっていた。彼女は大声をあげ 抱かれて、ぶあつい胸におしつけられ、体の下で馬が動いているの ることができないまま、ささやきかけた。 を感じた。それは馬に違いなかったが、農園で飼われているのはも うほんの数頭にすぎなくなっており、特別な用途か楽しみに使われ ているだけなのだ。その皮がうごめくのが感じられ、左右に分かれ「うん、 ひずめ てゆく草むらの音、蹄が石にあたるときの音が聞こえ、彼女のまわ「わたし、あなたを埋葬したのに : りには闇の中に暖かさと生き物の匂いが立ち昇ってきた。 かれの微笑は果しないほど優しかった。 「きみは・ほくらのことを、土に帰るものでしかないもののように考幻 彼女を運んでいる男は優しい声で話しかけた。 かわいそうに、きみは苦労したんだね。・ほくら 「こわがらなくていいんだよ、きみ。あれは幻影だった。でも、かえていたのかい ? ミスト

10. SFマガジン 1973年9月号

0 月末までの作品を対象としているた 誌七一年四月号に発表されたもので、 ドとファンタジイ、それにミステリの要素をめ ) 。その受賞式の前日、「沈黙の世 巧みに融合した、作者近来の傑作という声が高界』で有名なジャック・イーヴ・ク ちなみに、この作品はアレン・ヒ、ービン編ーストーといっしょにカリ・フ海で趣 の『年刊探偵小説傑作集』にも、年度の優秀作と味のスクー・ハ・ダイビングに興じて してあげられている。作者によると、題名の『空いたクラークが、あやうく溺れかけ、 気と闇の女王』は、・・ホワイトの "Once すんでのところで故人への追贈に ◆ and Future Kings" ( 『キャメロット』としてなりそうなハ。フニングもあった。 ミュージカル化もされた ) で、アーサー王の妹モ『接触汚染』『雪だるま効果』『種 ーガン・ル・フェイ ( アンダースン自身の長篇の起源』などの名作で本誌の読者に ~ 『魔界の紋章』にも登場する ) と結びつけられてもなじみ深い女性本格派キャサリン 有名だが、実はあらゆる時代、あらゆる土地の伝・マクリーンは、六〇年代にはいっ 説に、さまざまな姿で現われる存在た、という。て、臨床心理学専攻のため大学へ再 「美しさがつねに彼女の武器だ。そして、そ入学したとかで、一時作品がとだえ の魅力によって、彼女の敵である神のもとから人たが、最近また活動をはじめている。 間を惹きよせる。ある発見から、わたしは石器時アナログ誌三月号に発表されたこの 代にも彼女の存在は知られていたのではないかと『失踪した男』は、救助隊シ 考えるようになった。そして、もちろん未来にもリーズの第三作。完全にオートメ化 彼女は存在しつづけるだろう」 された未来のニューヨークで、市の 『メデューサとの出会い』は、このところプレイ環境制御コンビューターをあずかる ポーイ誌にときたま軽い作品を発表するだけだっ技師の一人が行方不明になり、それ た巨匠クラークのひさびさのカ作で、同誌十二月と同時にオートメーション機構の事 号に掲載された。木星探測とそこでの知性体との故が頻発しはじめる。アラビア人ア ーメッドと精神感応者ジョージのチ 接触、といえば、いやでも『宇宙のオデッセイ 2 001 』が思い出されるが、あれほどハードでは ームが、数千万市民の中からいかに ◆ なく、むしろジュール・ヴェルヌばりのトラヴェ失踪者を見つけ出すか ? ローグという感じ。「チェスリー・ポーンステル 『ヴァチカンからの吉報』は、最近 2 の天体画をカラー映画で見るよう」という批評もこの両賞の定連になった感のあるシ 1 グの、小手先のきいた ある。つけ加えると、この作品は今年四月に行なルヴァー・ハ われた七三年ネビュラ賞選考でノヴェラ部門の最短篇。なお、この作品をおさめたテ 優秀作に選ばれた ( ヒューゴ 1 賞との間に一年のリー・カー編の『ュニバース』と、 タイム・ラグが生じたのはネビュラ賞が前年十一シルヴァ 1 ・ハ ーグ編の『ニュー ・デ 1972 年度。ヒ三一ゴ、・ イメンション』という二つの新しく発 足したオリジナル・アンソロジーが、 古顔の『オービット』を凌いで、それ それ四篇の候補作を送りこんでいるの も、見逃せない傾向だ。 ラリイ・ニーヴンの『無常の月』 は、彼の短篇集 "AII the Myriad ダ「 a ごの中の一篇。いかにもこの作 ード TJ だが、いつものユ 者らしいハ ーモラス・タッチを捨てて、自己の私 生活の描写らしいものを交えながら、 破減テーマに正面から取り組んでい る。 第二席にとどまりはしたが、ル・グ インの『帝国よりもーーー』は、内容的 には、むしろ受賞作を上回っている。 『闇の左手』で一躍注目されたこの女 流作家が、処女作『ロカノンの世界』 以来一貫して書きつづけている未来史 の枠組の中で、文字どおりのマッド・ サイエンティストたちと異星の生命体 との接触を描いたカ作。原題は、アン マーヴェルの詩の一節 「わが植物的な愛は / 帝国よりも大き からとっ くゆるやかに成長する」 たものである。 浅倉久志 ( 注、 * 印は本特集で翻訳予定のもの ) に 5