〈霧の牧人〉の足はくすり草の上を飛び、風に吹かれてゆく流れ草からい水に追いこまないかぎり、あいつら、すぐに、すぐに、おら を追いぬいていった。かれのそばには黒くて変な形をした大きな樹たちがこまるほど強くなってしまうんだそ」 ナグリム 木人の〈木精〉がおり、地震をおこしそうな体重で通ってきたあと〈霧の牧人〉はショックをお・ほえ、抗議した。 に植物をおしつぶした道がっしていた。うしろには火烙いばらの輝「女王さまにかなうほど強くはないさ ! 」 モルがレル く花が、亡霊〈屍衣〉のもつれ流れる輪郭をとおして光っている。 〈屍衣〉はかれにいった。 クラウドムーア " たが、あいつらは新しい力を持っているように見える。気をつけ ここで雲の野原は高くなり、丘や繁みが波うっているところとな っていた。空気は静かによどみ、ときどき遠くから獣の声がこもってしらべることだ″ てひびいてくる。例年の冬がはじまるころにくらべて暗い。月はど〈木精〉はたずねた。 ちらも落ちており、世界の北の果につらなる山々の上に北極光が青「じゃあ、おらたち気をつけて、あいつらをふみつけるだな ? 」 ざめちらついている。だがそのために星々は、天をうずめるほどの その質問は、不安をおぼえていた〈霧の牧人〉を微笑させた。か れは鱗だらけの背中をたたいていった。 数でよりあざやかに輝き、〈幽霊の道〉は下界の木の葉と同じく、 夜露で舗装されたように光っている。 「おまえ、ロをきくなよ。ぼくの耳がいたくなるからな。考えるな 「あそこだそ ! 」 よ。おまえ、頭がいたくなるたろう。さあ、走ろうぜ ! 」 と、〈木精〉はとどろく声でいった。かれについている四本の腕〈屍衣〉はたしなめた。 がみな、そちらのほうを指さした。一行は尾根の上に出ていた。遠″おちつくんたな。おまえには生命がありすぎるそ、人間生まれ″ 〈霧の牧人〉は亡霊にしかめつつらをしてみせたが、それでもいう く離れたところで火花がきらめいた。 「おうおう ! おらたちすぐにあいつら、ふみつぶすべえか ? そことをきいて速度をおとし、そのあたりで体を隠せるものをなんで れともゆっくり引きさくべえか ? 」 も利用しながら進んでいった。もっとも美しいかたのために旅を し、ふたりの人間がここまで何をさぐりにきたのかを知るのだ。 〈屍衣〉の答がかれらの頭の中をすりぬけていった。 かれらは〈青羽根〉が盗んできた少年をさがしているのたろう ″おれたちそういうことは何ひとっしないんだそ、石頭よ。むこう カーヘディ / か ? ( かれは母親をしたって泣きつづけたが、それも幻の城のすば がこちらを襲ってこないかぎりはな。むこうだってこちらに気づか なければ、そんなことはしない。それに彼女のご命令も、かれらのらしさを知るにつれて、泣く回数もしたいに減ってきていた ) たぶ んそうだろう。いまはたれもいなくなっているキャンプ跡に、鳥の 目的をさぐることだ″ 「おうおうおう。おらはあいつらの考えていることわかってるだような乗物がかれらと車をおろし、そこからかれらは外側へ螺旋を すき そ。木をみな切りたおし、土地に鋤をうちこみ、あいつらのろくでえがいて進んでいる。 もない種を土の中や女どもの中にまくんた。おらたちがあいつらを しかし、相当な距離内に子供の痕跡が見つからなくても、かれら 2
かれはパイプをくわえたまま徴笑した。 いし、この男ほど忍耐強くもない。彼女はつづけていった。 ジネレーター 「あなたが用意してきたあの機械 : : : まわしつづけている発生機「成功することを期待していますよ。あなたは、いくじなしにも、 泣き虫にも、悲劇の主人公にもなりたがるタイプじゃありませんか 「・ほくには、うまくいきそうな仮説がすこしありましてね。それがらね」 彼女は片手をベルトのビストルへ落とした。その声は変わった。 どんな道具を持ってくるべきかを指示してくれたわけなんです」 「その仮説がどんなものなのか、な・せわたしに説明してくださらな鞘からナイフをぬくように咽喉から出てきた。 「見つけたら最後、あいつらわたしがどんな女か知ることになる 「仮説そのものが、いまはロに出さないほうがいいということを示わ。人間ってどんなものかをね」 しているからですよ。・ほくはまだ、迷路に入っているような気持で男はうながした。 「怒りもしまっておくんですな。感情にとらわれてはいけません してね。それにまだ何もかも釣り上げるだけのチャンスがないし、 よ。もし・ほくが仮定しているとおり、影ぼっこというのが現実の存 実のところぼくらはいま、・いわゆるテレバシー効果から守られてい 在なら、かれらも自分たちの国を守るために戦っているんですから るたけなんです : : : 」 ね」 彼女はびくっとした。 しばらく黙っていたあと、かれはつけ加えた。 「なんですって ? それはつまり : : : 連中がどうやって心を読める 「ぼくはこう考えたいですね、もし最初の探険家たちが生きている かという伝説の : ・・ : 」 彼女の言葉は消えてゆき、その視線はかれの背後にひろがる暗黒原地人を見つけていたら、人はローランドを植民星にしていなかっ たことだろうと。でも、いまとなっては手遅れです。そうしたいと をさぐった。 かれは前にかがみこんだ。かれの声はそのきびきびした早い口調思ってみても、われわれは引きかえせないんですから。これは苦し い結果になる戦いですよ。われわれに戦いをしかけている事実をも をなくし、優しく熱つ。ほくなった。 「・ ( ー・フロ、あなたはひどく自分自身を苦しめていますね。そんな隠せるほど狡猾な敵を相手にしているわけですね」 ことをしていては、もしジミイが生きているとしたら、よくありま「そうかしら ? こそこそ隠れて、ときどき子供を誘拐しているよ せんよ。生きていればなおのこと、あなたはこのさきもっともっと うな連中が : : : 」 必要になるんですからね。まだまだ先は長いから、もっとしつかり「これも・ほくの仮説の一部なんです。そういうことはもっとも重要 しなくちゃあ」 な点ではなく、そっとするほど巧妙な戦略の中で使われている戦術 彼女は激しくうなすき、ちょっと唇をかんでから答えた。 でしようね」 「努力はしているのよ」 焔はちらっき、火花をとばした。男はしばらくタ・ハコを吸い、考 202
を呼ばれた彼女は、すべてを癒されるかたなんだよ。さあ、体んったんたが、彼女は慈悲深すぎて禁止されなかったわけさ。さあ、 もたれかかって、もたれかかって」 で、夢を見るんだ」 時間は飛ぶようにすぎていった。馬は疲れもみせすに走り、つま 「夢を・ : : ・」 と、彼女はつぶやき、しばらくのあいだ心をしつかり持とうと努すくことなどまったくなく、山を登っていった。一度彼女は軍勢が 力した。だが、その力は弱かった。な・せ色あせた話を信じなければ走りおりていく姿を見かけ、かれらは西のほうでおこなう最後の不 いけないのだ : : : 原子とネルギーのほか、虚空を埋めるものはな気味な戦闘にむかっているのだと知った。そして、その相手は : いとか : : : 思い出すこともできない多くの話を : : : テイムと父のく たれだったのかしら ? : : : 鉄と悲哀の中に閉じこめられているもの れた馬が、自分をジミイのもとへ連んでいるときに ? ほかのこと もっと時間がたってから、彼女を古い真理の国につれてきた人 はみな悪い夢であり、いまは初めてものうくそこから目を覚ましかの名前を考えてみることにしよう。 けているところではないのか ? やっと星々のあいだに見事な尖塔が浮かび上がってきた。ここで まるで彼女の心を読んだように、かれはつぶやいた。 見える星は小さく、魔法をかけてくるようであり、そのささやきは 「影ぼっこの国には歌があるよ。人間の歌がね 死後のわれわれに安らぎを与えてくれるようなものだった。かれら 世界は風をはらんで走る が馬を乗りつけた中庭には蝋燭がゆらめきもせす輝き、噴水がしぶ 目に見えない風を きをあげ、小鳧か歌っていた。空気にはわらびとツルボウゲと芸香 船首には光が渦巻き と・ハラの査りが満ちている。人間のもたらしたすべてのものが厭ら 航跡は夜となる しいとは限らないのだ。 でも、山の民にそんな悲しさはないんだ」 山の民は彼女を歓迎するため盛装して待っていた。そのきらびや 「わたし、わからないわ」 かな姿のむこうには、うす明かりの中で物怪鳥か踊っている。樹々 かれはうなずいた。 のあいたには子供たちが走りまわり、もっと壮重な音楽の中に楽し 「きみの知らなければいけないことが、たくさんあるんだよ。そしさがひびいている。 て、きみがそれらの真理を学ぶまでぼくは会えないんだ。でもその 「ほくらは参りました : : ・こ あいだ、きみは坊やといっしょにいられるからね」 テイムの声はとっぜん、不思議なしわがれ声になっていた。・ハー 彼女は顔を上げてかれに接吻しようとした 9 かれは彼女をおさえ・フロは、かれがどうやって自分を抱いたまま馬からおりたのか、は つけた つきりわからなかった。 / 彼女はテイムの前に立っており、かれの足 「まだだめだよ : : : きみはまた女王の種族みんなの仲間として受けがゆれていることに気づいた。 入れられていないからね。・ほくがきみのところへ行くべきじゃなか「あなた、大丈夫なの ? 」 222
ければ。そのときかれは、〈木精〉を呼んで、そのふたりを殺させ のが存在する可能性を認められないんです ? 」 「ジミイが生きているかどうかは、そのことにかかっているかもしようかとも思った。もし樹木人が急いで飛びかかったら、やつらの れないのにですのね。ええ : : : わたし、そのことを認めようとして火器も役に立たないだろう。いや、だめだ。やつらは家に何かいい のこしてきているかもしれないし、それともーーーかれはまた耳を澄 いないだけかもしれませんわ」 1 ・フロはつぶやいていた。 ませた。話はその内容を変えていた。バ 彼女は溜息をつき、ぶるっとふるえた。 「・ほくがいまお話ししたことはみな、印刷物の中で推理されている「 : : : な・せあなたはローランドに留まっているの ? 」 ものだけです・ : : ・そう評判のよくない推理であることは事実です男は気味の悪い笑いを浮かべた。 が。百年ものあいだに、影・ほっこが迷信以上のものであるという確「そう、ベオウルフでの生活は退屈なものでしてね。へオロートは 実な証拠は「だれもまだ発見していません。それでも、相当な数の人口の多いところで : : : でしたというべきですね、何十年も前のこ 人々は、知性のある土着民が荒野に野ばなしにされている、すくなとですから : : : よく組織され、うんざりするほど画一的でした。ま あ一部は低地の開拓地だったせいであり、それが不満なものを追い くともその可能性はあると述べているんです」 「ええ。でもわたしにわからないのは、どうしてあなたがひと晩の出してしまう安全弁となっていたんです。でも・ほくには、あそ ) 」で うちに、そういう問題を真剣に論じるようになったのかってことな健康に生きてゆくために必要な炭酸ガス耐性がありませんでした。 そんなとき、多くの植民地世界をまわってみる探険が計画されま 「そう、あなたがに まくを考えさせるようになるとすぐ、・ほくの胸にした。とくに、レ 1 ザー通信をやる設備を持っていない世界をで 浮かんだのは、ロ 1 ランドの辺境地域民は中世のまったく孤立してす。どういう目的だったのか発表された内容はご存知でしよう。い いた農民などとは違うということだったのです。かれらは、書籍っ価値が出てくるかわからないものであっても、科学、芸術、社会 学、哲学といった面での新しいアイデアを見つけ出そうということ を、遠隔通信手段を、機械力を、モーターを使う乗物を持っていた でした。ローランドでは・ヘオウルフの求めるものは見つけられなか し、なににもまして、かれらは近代的な科学にもとづいた教育とい ったようですが、とにかくぼくはうまく船にのりこむことができ、 うものを持っていました。なぜかれらが送信にとりつかれる必要な どあったのでしよう ? きっと、その原因となるものが何かあった機会をつかんで、ここに住むことにしたんです」 のだと思いますね : : : もうこれ以上はお話ししないほうがいいでし「あなたは、むこうでも探偵さんだったの ? 」 よう。・ほくの考えはまだまだあるんですが、もしそれが正しいとし「ええ、警察でね。・ほくの家糸にはこういう仕事の伝統があるんで たら、大きな声でいうのは危いものなんですよ」 す。名前に何か意味があるとすれば、先祖にはチェロキーの血が混 5 じっているということかもしれません。でも、もうひとつはっきり 0 〈霧の牧人〉の腹の筋肉は緊張した。そこにいるざん切り頭には、 たしかに危険があるのだ。花環で飾られている人に警告をつたえなしているのは、宇宙飛行がはじめられる以前の地球で、記録に残っ
たところに浮いている。そして三匹目のものは・ほくらのすぐそばに おり、草むらの中を動きまわっている。そのパターンはどうも人間 彼女ははっと気づいた。子供のときに盗まれ、影・ほっこに育てら のようだ」 れて変化した生き物だ。これこそ、かれらがジミイを作り変えよう 彼女はかれが熱中してふるえているのを知った。もはや教授のよとしているものなのだ。 うな態度ではない。かれは言葉をつづけた。 「・ほくは、どいっかをつかまえてみよう。訊問してみる相手をつか シェリンフォードは相手をカまかせにこちらへむかせるなり、握 まえられたら : : : ・ほくがすぐ中に入れるように待機しているんだ。 りしめた拳をみそおちにたたきこんだ。少年はあえいで倒れかかっ でも、どんなことがおころうと、あなた自身を危険にさらさないよナ こ。シェリンフォードはそいつを車のほうへかついでいこうとし うに。そしてこれをいつでも射てるようにしていること」 かれは・ハー・フロに弾丸をつめた大きな狩猟用ライフルをわたし森の中から巨人が出てきた。そいつはもともと樹木だったものか もしれない。黒くて、しわだらけであり、大きな曲がりくねった枝 シェリンフォードの背の高い姿がドアのそばでとまり、ほんのすが四本ついている。そいつの足となっている根の下で地面はふるえ こしあけた。風が吹きこんできた。ひんやりと、湿り、芳香とささとどろき、そのすさまじい咆哮は空と耳いつばいになった。 やきに満ちている。オリバーの月ものぼっており、ふたっともその ー・フロは悲鳴をあけた。シェリンフォードはふりむいた。かれ 輝きは現実のものと思われぬほどに明るく、北極光は白と氷のよう はビストルを引きぬくなり、つづけさまに射った。うす明かりの中 な青さで踊っている。 に鞭でひつばたくような音がひびいた。あいているほうの手は少年 かれは手首の指示装置をもう一度のそいてみた。まだらに見えてをつかまえたままだった。その射撃に巨人の姿はよろめいたが、立 いる木の葉のあいだに、こちらを見張っているものの方向が示されちなおって近づいてきた。それまでよりもゆっくりと、もっと用心 ているはずだ。とっぜんかれは飛び出していった。かれはキャンプしながら、・ハスへの退路を断とうとまわってきた。かれは捕虜を離 ファイアの灰のそばを走って、樹々の下に消えた。・ハ ープ tl の銃をさないかぎり、そいっから逃れられるだけの速さで動けなかったー 握っている手は緊張した。 ージミイのところへ案内してくれるものはその捕虜たけかもしれな いのにだ 大駁ぎが不意におこった。格闘するふたりの姿が野原におどり出 ープ tL は走り出してきた。 たのだ。シェリンフォードは、かれよりすこし小さい人間をつかま 「やめろ ! 中にいるんだ ! 」 えていた。銀色が流れ、虹色がちらっくことから、相手は裸で、 と、シェリンフォードはさけんだ。 男、長い髪の毛、しなやかで、若い。そいつは歯と足を使い、爪で ひっかき、悪鬼のようにあばれながら、悪魔のように泣きわめいて怪物は怒号し、彼女のほうへつかみかかっていった。・ハ こ 0 デーモ / サダ / こ 0 ープロは 幻 6
いなかった。かれらをのせてきた長い乗物の中で眠っていれば、何 は空飛ぶ乗物をよんでもどっていこうとはしなかった。それも、よ くあることだが、遠くと話せる波が天候のためにとどかないからでひとっそんなものは必要としないとでも考えているようだ。女王さ はない。それどころか、このふたりは〈月の角笛〉の山々にむかつまの力に対するそんな侮辱は我慢できないことだ、そうではないだ て出発した。かれらのコースは、奥地にちらばっている侵入者どもろうか ? たき火に照らされて、金属がかすかに光っている。ふたりはその の農場のいくつかを通って、かれらの種族によってまだふみ荒らさ 両側にすわり、裸の〈霧の牧人〉にとってちょうどいいと感じられ れていない領域へ進んでくることになるだろう。 る気温が寒いのか、コートにくるまっている。男は煙を飲んでい するとこれはただの調査ではない。では、何なのだ ? たそがれ 〈霧の牧人〉は、おさめておられるあのかたがどうして、養子にさる。女のほうは男の背後にひろる黄昏の中を見つめている。陷を れた人間の子供たちに先祖のぶこつな一一一口葉を学びおぼえておかせよまぶしがっているその目には、まったくの闇とうつっているにちが いない。おどる陷は彼女をくつきりと浮きあがらせた。そう、〈青 うとされていたのかを理解した。かれはその勉強が大嫌いだった。 山の民の方法とはまったく異っているものだったからだ。もちろ羽根〉の話から考えると、この女が新しい子供の母親だ。 ん、だれも彼女の命令には従うし、そのうち彼女がどれほど賢明だ〈青羽根〉もいっしょに来たがったが、〈すばらしいおかた〉は禁 もののけどり ったのかを知ることにはなるのだが : じられた。物怪鳥がこれほど長い任務のあいだ静かにしていられる やがてかれは〈木精〉を岩のかげに残しーー樹木人が役に立つのはずはないからだ。 は戦いのときたけなのだ・ーー繁みから繁みへとはってゆき、人間ど もからほど近いところに横たわった。 その男はパイ。フを吸った。両頬が影の中へひっこみ、鼻と眉のあ 露草はかれの上におおいかぶさり、その葉はむきだしの肌にやわたりに光がちらついた。かれは獲物に襲いかかろうとしている鷲の らかくあたり、闇の中にかれをおおった。〈屍衣〉はふるえ葉の繁 ように緊張していた。 みへ浮かんでいった。その休みなくふるえている葉は、かれのすき ー・フロ。・ほくにはべつに理論 いや、もう一度いいますよ、パ とおった体を隠すのに具合がいいのだ。かれもそうまで助けにはな があるわけじゃあないんです。事実が不足しているとき、理論づけ らない。それがここではもっともそっとするほど困ることたった。 をすることは、よくいって馬鹿げたことになり、まずいと間違った 思考を感じ送り出すことのできない連中の中にいる亡霊は、幻影を結果を生み出すことになるものですからね」 なげかけられるだけだ。〈屍衣〉は告げた、今回はかれの力も、そ「それでも、あなたにはきっと、何をやろうとしているつもりなの の車のまわりにある透明な冷たい壁にあたってはねかえってくるよか考えがあるはすだわ」 うだと。 と、彼女はいった。かれらがこれまで何度もその問題を論じあっ 6 そのほか、その男と女はなんの防御機械もおかず、大もはなっててきたことは、はっきりしている。山の民はこの女ほど執拗でもな
うのば、根本的にはしづかりした少年でしてね、かれらはうまくや 「事件について、あなたはだれかに話しましたか ? 」 づてゆけるだろうといいましたよ。とにかく、お肩立ができるま 2 「いいえ。お客には、疲れすぎているから何も話せないづていづた 2 だけよ 6 まづたくのというわけでもないわ。わたし、検閲を必要で、生存に必要なものという面でばね : ! こ レ画リイフォードはためらい、また言葉をつづけた。 とするだけの理由があると思づたの」 、、はくにもはっきりわからないんです 「どういうお膳立になるカ シ星リンブオードは、ほっとしたような表情になった 6 「ありがたいですな。そうぼくは勧告したんですよ。これが公表さが現在の段階では、だれにもわからないんです。でもそれに、あ れたときのセンセーツ目ンは想像できるでしよう。当局の連中も時の連中の : : : あるい、はかれらの多くが、特にまだ大人になっていな 間をかける必要があると同意しましたよ・ : ・ : 事実を調・ヘ、考え、落い運中の : ・ : ・人類社会への復帰がふくまれていることは明らかです ち着いた雰囲気の中で討論し、最初はヒステリー状態になりがちだね。でも、かれらは文明社会の、中では、永久にアット・ホームな気 と思われる投票者たちに、きちんとした政策を与える用意をしよう持になれないでしよう。びよづとすると、ある意味からは、あのま と」かれは上唇をわずかにまくりあげるような表情をした。「それまがもっともいいのかもしれませんよわれわれには、山の民との に、あなたとジミイの神経も、ジャーナリズムの嵐が襲いかかってあいだにおたがいの受け入れられる連絡係といったようなものが必 くるまでに回復するだけの時間が必要ですからね。かれはどうです要となるのですからね」 かれの睿観的な態度にふたりとも気分が落ち着き、スープロは詰 「ずいぶんいいわ。かれ、あのすばらしい場所にいる友だちと遊びがでぎるようになった 「わたしって、とんでもない馬鹿者だったのかしら ? わたし大声 たいから連れていづてくれって、わたしにねだりつづけているわ。 でも、あの年頃なら回復するわ : : : 忘れてしまうはずよ」 で怒鳴ったり、頭を床にうちつけていたことをおばえているんだけ 「いずれにしてもかれは将来、あの連中と会えるかもしれませんしど」 「いや、とんでもない」 ね」 かれはこの大きな女性とその誇りのことを何秒か考えてみてから ープロは椅子の中で体をびくりと動かした。 「なんですづて ? わたしたち・ : : ・わたしも忘れていましたわ。最立ちあがり、そばへ歩き、彼女の肩に手をおいた 6 「あなたは、たいへんな悪夢を見ているとき、・本能の儘部に対す 後のあたりからわたし、何びとっ思い出せないようなの。あなた、 誘拐されていた人間をだれもつれて帰らなかったということなのる実にうまい芝居をされて、誘惑され罠にかかった。あの俤ついた 怪物があなたを運び去ったあと、明らかに別のタイプの生物かやっ 「ええ・シ当ックはあれはどひどいものでしたからね。そのまままてきた近距離から心霊能力であなたをつつみこことができる生 っすぐかれらを : : : 施設にはうりこまなくてもです。霧の牧人とい物ですその最頂点で・ほくが到着し、あらゆる幻影がとっぜん情睿
ープロ・カレンは入ってゆきながら、悲しみと怒りの上に、つ きささってくるような困惑をお・ほえた。その部屋はちらかってい たそがれ 「黄昏のあいだにおこらなければならぬこと : : : その子をつれてゆた。雑誌、テープ、リール、古写本、ファイルポ ' クス、走り書き き、世話をしておあげ。このしるしによ 0 て」と、女王は手をふつをした紙が、どのテー・フルの上にも山づみにな 0 ていたのだ。どの 7 た。「かれは山の民のものとなる」 棚も部屋の隅も、ほこりがたまっている。 かれらの喜びは解放された。〈青羽根〉はなんどもとんぼ返りを 一方の壁には実験設備がおかれていた。顕微鏡と分析道具だ。小 うち、しまいにふるえ葉のそばについた。かれはその幹をかけあが さいながら能率的なものだとわかったが、事務所におくと場ちがい 、枝にとまると、休みなくふるえている青い葉のあいだになかばの気持がするものであり、かすかに化学薬品の匂いがしていた。敷 隠れて、ときをつげた。 物はぼろ。ほろになっており、家具はくたびれていた。 ここが彼女にとって最後のチャンスとなるのかフ 少年と少女は遠くまで歩くのを気にもとめない軽い足取りで子供 カ ! ・ヘディン リ、ク・ンエリンフォ。 : ートカ近づいてきた。 を幻の城へとはこび、かれは笛をふき、彼女は歌をうたった。 「今日は、ミセス・カレン と、かれは話しかけた。その口調はきびきびしており、握手はカ ほうれ、ほうれー グリツッスーツ ゃあそれ、ほい 強かった。かれの着ている色あせた作業衣も気にならない。彼女は 特別な場合でもなければ、自分の服装にも騒ぎたてるほうではなか 翼は風にのり った。 ( それに、ジミイを取りもどさないかぎり、特別な場合など 空たかく飛ぶ 二度とないのだ ) 彼女が気づいたのは、その男自身がきちんとして するどいさけび声をあげながら いることだった。 槍のようにふりそそぐ雨の中を かれの目尻の皺から微笑がひろがっていった。 うずまく気流にもまれ 「ひとりぐらしのだらしなさを許してください。ベオウルフでは家 流れてゆくのは白い月の樹々と 事に使う機械があります : : : とにかく、ありましたので、・ほくはど その下に夢をいくえにもかさねる影 そして、星の光がそそぐところ うも自分でかたづける癖がつけられなかったんです。それに、人を 湖にきらめくさざなみとともに やと「て道具をひ「かきまわされるのは厭でしてね。別に事務所を おどりうたおう 持つより、自分のアパート で仕事をするほうが便利ですし。お坐り になりませんか ? 」 彼女はもぐもぐと答えた。 、え、結構ですわ ? 立っているほうがいいんです」 「わかりました。でも・ほくは失礼しますよ、のんびりした姿勢のほ
かれは驚いて彼女を見つめ、それで憂欝な想いから抜け出せたの そしていま、ある意味では、われわれがかれらを征服することにな か、笑い出した。 っているんです。つまりかれらとしては、これまで機械など朽ちは てるほうがいい と骨折っていた文明を相手に、かれらの平和を作り「ほくとしたことが、なんと馬鹿な : : : ここ何日ものあいだ・ほく は、こういうことをあまりにも多くの政治家、科学者、委員長連 上げるほかないんですからね。 それにかれらは、われわれが人類仲間を相手に加えてきたほど残中、その他いろいろな連中に説明してきましたんでね、あなたには 虐な危害など、われわれに加えてきたことはないんです。それに、 一度も説明していなかったということを忘れていましたよ。これは くりかえしますが、かれらはわれわれに素晴らしいことを教えられぼく自身の漠然としたアイデアだったんです。ほとんどはぼくらが る。そしてこちらもかれらに教えることができるんです。かれら旅をつづけていたときに思いついたことですが、まだ固まっていな が、異った生きかたということにそれほど偏狭でなくなることを学いアイデアを話すのは厭なものでしてね。もうわれわれは影・ほっこ べばですが」 の連中と会い、かれらがどんな力を用いているのかを観察しました から、間違いないと思うんです」 「わたしたちかれらに、保護地を与えられるんじゃないかしら」 かれはパイプをたたいて煙草を落とした。 そういった彼女は、なぜかれがこわい顔をし、ひどく荒々しい口 「限られた方法でですが、ぼくは自分の仕事をやるときに、これま 調で答えたのか見当がっかなかった。 「かれらが手に入れた名誉はそのまま残しておいてやることです ! でずっと原型のパターンを使ってきました。理性的な探偵です。そ かれらはああいうものから : : : 」かれは都会にむかって手をたたきれほど意識的にふるまっていたわけじゃあありませんよ : つける仕草をした。「常に知っていた世界を救うために戦った。そぼくの個性と職業的なスタイルにとってびったりしていたからなん して・ほくらも、あんなものは少ないほうが幸せなのかもしれないんです。でもそれはほとんどの人から、探偵の原型など聞いたことが あろうとなかろうと、適当な反応を引き出しました。 です」 この現象はどこにでも見られるものなんです。程度は異なってい かれはちょっと肩を落として、溜息をついた。 「しかし、もし妖精の国が勝っていたら、ローランドの人類はやがても、われわれはよく昔の人物を思い出させる人々に会うもので て死んでしまうことになっていたでしようね : : : 平和のうちに、幸す。キリストとかブッダとか大地の母、あるいはもうすこし下がっ 福を感じながらかもしれません。・ほくらはわれわれの原型のものとてハムレットとかダルタニャンとかね。歴史、物語、神話、どれで 生きているが、その中で生きていけるでしようか ? 」 あろうとそういう人物は、人間心理の根本的な面を結晶させたもの ー・フロは首をふった。 であり、・ほくらが現実の体験としてそのような人々に会ったとき、 「ごめんなさい。どういうことなのか、わたしにはわからないわ」 ・ほくらの反応は意識よりも深いところから出るものです」 「え ? 」 かれはまた憂欝そうになった。 230
彼女は恐怖にとらわれ、かれの両手をつかんだ。その手は冷たでもいいことたった。 「ほんとに恋しかったよ、・母さん 9 いてくれるんだね ? 」 く、ざらざらしている。サン . ポはどこへ行ったのかしら ? 彼女の 視線は頭巾の下をさぐった。これまでより明るい光のもとでは、良「おまえを家へつれて帰るのよ 1 坊や」 人の顔をはっきり見られるはずだ。だがそれは・ほやけており、変わ「いて。ここはおもしろいんだよ。ばく、見せてあげる 9 でもここ にいてね」 りつづけていた。 ープロは立ち 「どうしたの、どうなっているの ? 」 警蹕 ( 2 引声と ) の声がうす明かりの中にひびいた。イ かれは微医した。それは彼女が好きだったあの笑顔なのだろう上がった。ジミイは彼女の手にかじりついていた。ふたりは女王の か ? 彼女ははっきり思い出せなかった。かれはやっと聞こえるほ前に立った 9 北極光で織られた衣をまとった女王は背が高、星の冠をかぶ どの低い声で、どもりながら答えた。 ープロが人間 ・ , ぼくらの時はまだなんだからり、ふりすみれの花環をつけていた。 - その姿は、パ 「ほ、ーぼくは、もう行かなければ : の領土内で何度も見たミロのヴィ 1 ナスを連想させるものだった ね」 かれは彼女のつかんでいる手から離れ、そばに現われた寬衣姿りが、女王はもっと羡しく、その姿と夜のように青い両眠に、もっと 人影によりかかった。・そのふたりの頭上に、ばんやりとしたものが王者らしいしを漂わせていた。そのまわりの庭は新しい現実に日 ざめていた。山の民の庭、そして天までもとのびている尖塔が。 渦巻いた。かれは哀第した 9 「ばくが行くとこるを見ないで : , , : 土の中にもどってゆくとこる「よく米ましたね 9 いつまでも : : : 」 と、話しかけた女王の声は、歌っているようだった。 を。見れば、きみが死ぬことになるんだ 9 ぼくらのかもどってく 畏怖をおばえながらも、、ハープ卩は箞えた。 るまでは : : ; そら、そこに坊やが ! 」 ーブはひざまず「月の母君さミわたしたちを家へお帰しください」 彼女は視線をうしろにまわすほかなかった。 いて両手を大きくひるげた。ジミイはまるで、暖かく堅い砲弾のよ「それはなりませぬ」 ープロは夢を見ているような気持で懇願した・ うにぶつかってきた。 - 彼女はかれの髪のモをかきまわし、両頼のく ぼみに唇をおしつけ、笑い声をあげ 1 泣き、わけのわからぬことを「わたしたちの小さなかわいい世界へ。わたしたちが自分たちのた つぶやいた。これは幽霊などではなく、彼女が見ていなかったときめに築き、子供たちのために大切にしているところへなのです」 にみ去られたという記憶はなくなっていた 9 そして何度も、かれ「牢獄の日々と怒りの夜にですか。指の中でくずれ去る作りもの、 がつらい目にーーー飢え、病気、恐怖といった目に会っていなかった愛はに石に流れ木に変わり、失い、悲しみ、そしてただひとっ 3 かと注意をむけてみたが、そのような痕跡はないとわかると、彼女はっきりしているのは、最後に無となってしまうというところへな アウトワーヰド はまわりを眺めてみた。庭園は消えうせていた。そんなことはどうのですか 9 いけません。おまえたち漂泊の民も、別世界の旗が最後 けいひっ