とこら、同じ結果を得てい らも悪くないけど、作者と知恵くら・ヘしていると、案外いちばん面 る。 白い部分を読み落してしまうことが多いんだよ」 心霊治療などというと、何 ラ ラードだって結 「俺が読むのはスペース・オペラが中心だけど、・ハ 一を今さらといった懐疑論者の オ多い昨今、ソ連の科学的実験 ) 構面白いと思うんだ。ウルフガイもファンだし、日本沈没なんか読 がそれを証明しつつあるとい むと本気で心配になっちゃう」 静うことになる。 平このオーラ研究では、その 「いちばんいいんだよ、それが」 他、指のオーラは指紋に深い可 若様が言い、吉永が同意する。 関係があるということが分っ ており、炎は指紋にそって吹Ⅲ 「それはたしかにそうだ。俺も最近気がついて自分でおかしくなっ 一フき出している。オーラのゆら たんだが、 g-v を余り偏って見てると妙なことになる。いわゆる純 めきを、器械でみると、「そ オ 文学から時代小説、推理小説、風俗小説、戦記ものと、小説の世界 こから常に変化しながら、光 の 中り輝く銀河のように、はしけ にもいろいろなジャンルがある。 r-n もたしかにその中のひとつに 療飛び、明滅し、燃え上り、放 は違いないけど、の中にだって、外側の小説の世界と同じだけ 散する冷光の迷宮のよう」に 見えるという。 のジャンルの幅がある。その中で融通のきかない偏った見方をして ( 数百の実験の結果、ディー るってことは、実は外側の世界でを無視しようとしている人た一 ン教授は、一般に感情が平静 ちと同じ姿勢でいることになるんだな。そうさ。つまり、亜空間は カバー写真に使用されている ) を見なときは、青色のオーラが、また感 ると、もっと明確になるのである情が高ぶ「たり、怒ったりすると、 亜空間なりに、外側の空間と主観的に同じ大きさを持ったひとつの が、普通の状態の指からは、一般的赤い、まだらの色になるとい「てい 宇宙なんだ」 にプルーのオーラが出ており、周囲る。また、太陽の磁気嵐の最中は、 からコロナのように放出されている人間のオーラがそれに影響され、美 「だとすると、あのちつぼけな亜空間の向う側に、何億、何十億と 部分が明るい青白色で、肉の所は暗しい音楽を聞くと、プルーのオーラ いう人間がひしめいているのかい」 が、よりカ強く、明瞭になるという 青色となっている。そして治療時に なると、指の間接部からオレンジ色ことも判明した。器械は人体だけで 三波はおそましげに言った。 の強力な光が出る。これが病気等のなく、植物、鉱物のオーラも捕える こもった、低く重々しい時計の音が十二時を告げていた。 ことができ、ソ連ではこれを、病気 治癒に何らかの力をもっているので はないかといわれている。同様の実の診断や植物の異常を発見するのに ハ験がすでにソ連でも行なわれてお用いたりして、応用範囲は、医療、 3 り、心霊治療能力をもったアレクセ歯科医学、犯罪学、地質学、農学、 イ・クリポロトフという陸軍大佐を考古学などにも広げられているとい ろ % (h ・ Z) 被験者にして、その指先を撮影した 突然、居間の灯りがすうっと暗くなり、また明るさを増して元の 世界みすてり・とびつく一 - = = = = = 一 = = = 三 明度に戻りかけて、再び暗くなった。 4
一撃はかわせるだろう」 等が芝生の上へよらめきだした。 呪縛されたような気分の中で、若様が言った。その瞬間、何か強 ふらふらと、 , 夢遊病者のような足どりで円盤の下へ行こうとして 烈な予感のようなものが四人の脳に走った。 いる。 反射的に四人はガ・ハと地に伏せた。そのすぐ上を緑色の光の板が 「とめろ。操られているそー 通りすぎた。板はすぐ引っこんだ。 若様が叫んだ。 「どうする。また来るそ」 水平位置にあった円盤が、ひくりと別荘のほうへ傾いた。 「逃けよう」 「連れて行く気だ」 そう言って四人が動こうとした時、光の板はすでに二度目の噴出 一斉に窓からとびだして浄閑寺公等をつかまえようと走った。 ところがそれより一瞬早く、厚味の全くない、一枚の板のようなをはしめていた。 四人は、池を頭に二列に並んで伏せていた。時の動きをひきのば 緑色の光線が、傾いた円盤のヘりから噴きだして、浄閑寺公等をす くいあげるようにその上へのせてしまった。浄閑寺公等は、緑の光して描写すれば、緑の板はまっすぐ正確にその先頭の二人をすくい の板にはめこまれた形で、さしのべた両腕を前にして、すうっと円あげ、一動作で次の二人も呑みこもうとしていた。 しかし、光の板と先頭の二人の中間に、あの小さな亜空間があっ 盤に吸い寄せられ、光線が噴き出した円盤の薄いへりへ呑み込まれ てしまった。 た。亜空間は円盤が放っ怪光に同調して、さっきから濃い緑色に輝 いていたのだ。 「畜生、待てッ : 四人は怒鳴った。円盤は傾斜したまま、その角度で海上の空へ遠その小さな亜空間に円盤の光の板が当った。同時に円盤に異変が ざかりかけたが、すぐに停止した。いかにも、四人の邪魔者に気づ起った。 想像を絶する力で円盤は吹きとばされた。粉砕され、微塵とな いたという様子であった。 り、最低単位の粒子に戻って宇宙の涯へ拡散した。 停止し、しばらく考えるように思えた。 池の傍の亜空間も同時に裂けた。印を割ったようにふたつに割 四人はゾッとした。攻撃されたらなすすべがなかった。 れ、その間に虚が生じた。その虚の裂け目は、全宇宙が要求する均 衡への圧力によって、ねじ伏せられるように拡大をとめ、収縮し、 4 消減しようとした。 四人はその虚の裂け目のすぐ傍にいた。 円盤がかすかに身じろぎした。うすいへりの一部にぼっと緑色が 裂け目が生じ、まだ宇宙の圧力にさからって拡大を続けていた短 3 さし、四人のほうへまっすぐ向いている。 「狙われたそ。だがあの光線は厚味がない。地面に伏せれば最初のい時間のうちに、四人は影響を蒙った。まきこまれた。
は自由に出入りできる。だが、わずかに位相が狂うようだ。この薄れ、またすぐに元の垂直線の延長上に戻「て落下するのであ 0 た。 い芝生の葉の厚さよりは、その狂いの寸法は大きい。だから切れて「何かあるね、ここんところに」 見える。切れて、しかもつなが 0 ているんだ。この空間から出せば伊東は四つん這いにな 0 てのそき込みながら言「た。 「何があるか、それが問題だ」 つながる」 三波が深刻な顔で言う。 いつの間にか伊東も三人のうしろからのぞき込んでいた。 「空間の中にもうひとっ独立した空間があって、しかもそれはラグ「浄閑寺公等氏と関係ありだな」 ・ヒーのポールのような形で外の空間から閉鎖してある。外からの物吉永が立ちあがって言った。 その時、爺やが庭に姿を見せ、声をかけた。 体は自由に出人りできるが、それはこの閉鎖された空間が本来外の 「お食事の用意ができました : : : 」 空間の一部だからだ。しかしこの中はどうなってる。中にとじこめ 山本はふり返ってうなずきながら、 られたものは外へでてこれるのか。閉鎖されていなければ、こんな 具合に空間の形が俺たちにつかめるわけがない。俺たちは、俺たち「すぐ行く」 と答えた。 つまり宇宙の形を正確につかめるのか。つかめないじゃな の空間、 「浄閑寺公等氏が、どこからか歩いて来たのでないことは、これで い力」 ほ・ほ確実になったわけだな」 吉永がそう言った。 吉永がこまかくうなずきながら、くぐもった声で言った。 「何なの、それ」 伊東が尋ねた。若様はいつもの落着きをとり戻し、ゆっくりと立「これ、どうしよう」 三波は伊東がのぞきこむようにしているその奇妙な空間に、もう ちあがりながら言った。 一度指を突っ込んで尋ねる。 「亜空間の一種だろうね」 「どうしようもない。そうして置くよりね」 若様が答える。 3 「それより夕食にしようよ」 真上から乾いた砂を落してみると、砂は細い糸となって垂直に落「よ 0 、待ってました」 伊東ははね起きた。 下して行くように見えた。 ・ポール形の空間を通るとき、垂直に落下若様を先頭にぞろぞろと食堂に入り、四人はテー・フルについた。 しかし、そのラグビー する砂の流れは途中でふ 0 つりと切れ、そのかわり、そこに存在す「これはご馳走だ」 る特殊な空間の厚味だけほんの僅かズレて短い砂の垂直線が現わ伊東がもみ手をしてうれしがる。 3 3
る。 ら、なぜ浄閑寺氏についてまわらない。な一せ固定してるんだ。しか 「すると、あれは亜空間への出入口になるわけかい」 も場所が浄閑寺氏出現の位置じゃよ、 「その可能性が強い。だからこそ浄閑寺氏はあんな出現のしかたを すると伊東が投げやりな言い方をした。 「あのご老人はあそこから出て来たんだよ。ただいま、ってね。きしたのだろう」 っと見えない道がついてて、あのご老人が出て来たら戸がしまっち「中へ入ってみたいね」 と若様が言う。 やったんだ。だからあの亜空間とやらは覗き穴なんだ。ドアについ てるだろ、団地のやなんかに。凸レンズになっててさ : : : そこへ親「そりやファンだもの。一度は亜空間なんて体験してみたい ね」 分は何度も指をつつこんじゃった。向うで覗いてた奴は憤ったろう 三波が言い、伊東がうなずく。 目医者から帰ったら目に物を なああのデブ生かしちゃおかない、 「さて ' 問題は亜空間の内部だ」 見せてやるって・ : : こ 吉永が議論を進める。 吉永はパチンと指を鳴らした。 「浄閑寺氏のうわごとから察して、内部は相当に広いな」 「そうさ。それが正解だ」 「ドロシ 1 という女がいる」 伊東はキョ・トンとした。 三波が言う。 「冗談だよ」 ~ 「悪魔もいるみたい」 「冗談じゃない。今のでいいのさ」 伊東がおそましげに言った。 吉永は笑顔で言った。 「何らかの方法で、浄閑寺氏はとじこめられていた亜空間から、外「悪魔は形容詞さ。とにかく、浄閑寺氏が敵視した相手がいること 側のこの空間へ脱出して来た。あれはその時に生じた亜空間の裂けは確実だ」 吉永が言った時、若様は急に気づいたように高い声を出した。 ひず 目か何かだろう」 「亜空間が自然発生的な空間の歪みかどうかということだね、問題 「それだとひとつの答になりそうだね」 若様が同意を示した。 吉永はギョッとしたように若様の顔をみつめた。・ 「自然に発生した亜空間に、ひとつの社会がとりこまれて独自の発 展をしている : ・ : ・これが第一の考え方だよ。第二は、人為的に作ら れ、捕われた人々が暮しているという考え方」 「判った。若様は第二の考え方をしたいんだな」 2 「うまく閉じなかったのさ」 吉永がハンカチをひろげてカーテンにみたて、自説を説明してい
は疑いをもちはじめるのだ。 分裂病的な幻覚や、麻薬、などの手段で、この世界をじか ディックの小説は、三つのレベルで展開されるように思われる。 にのそき見することは可能である。ただし、進んでそれをやろうと 行動の、あるいは″権力争い″のレベルでは、宇宙船、アンドロイする人間はない。なぜなら、その接触は危険がいつばいだからだ。 、時間旅行、核戦争など、ありきたりの大道具小道具が、そ〈墓穴世界〉からのほんのワン・タッチが、なにか恐ろしい悪病の の額面どおりに提出される。″心理学″のレベルでは、おなじこれようにあなたを殺すかもしれず、また、あなたの周囲の壁をどろど らのものが登場人物の心理状態の反映となる。そして″形而上学″ ろに溶かし、あなたの足もとの舗道に早すぎる老朽のひびを入れる のレベルでは、成長と衰退という二つの巨大な宇宙力のアレゴリー かもしれない。しかし、逆説的にいえば、それを直接に経験するこ となる。三つのレベルのうち、いちばん重要なものは、この最後のとは一種の救済にもなりうる。この宇宙に存在する最悪のものを知 ものである。なぜなら、ディックは本質的にモラリストだからだ。 って、それを克服しようと、遅遅たる、だが必死な試みをすること 物質世界のあらゆる物体や行動は、絶対の善あるいは絶対の悪の不がだ。これからのシ / プシスでは、この地獄への旅をした登場人物 十分な現われであり、それはまた現実と非現実の関係にも等しい ( たとえば『火星のタイム・スリツ。フ』のマンフレッド ) を、″視 これらの絶対的なものの中間には、たくさんの点が存在し、そして者″と呼ぶことにする。 われわれは、なにかの決定をくだすたびに、より高い点、またはよ ディックの宇宙観においては、悪に対する絶対の善の補償力はき り低い点へと運ばれる。この体系の中でわれわれがどれほど上までわめて曖昧である。彼は〈神〉によってそれを象徴しようとする 昇れるかはともかく、どれほど下まで墜ちられるかについては、疑が、〈墓穴世界〉はどんな神よりも、また、死よりも、時間と空間 問の余地がない。 よりも強いのだ。しかし、かりに〈墓穴世界〉が絶対の悪ならば、 ツーム・ワールド 〈墓穴世界〉は、はっきりとこの名で言及されたことは、一、二度それは絶対の現実にはなりえず、そしてもしわれわれが力を合わせ しかないが、ディックの大半の長篇の中にくりかえし現われる衰退てその基本的虚偽性を認識すれば、それと対抗することができる。 のイメージである。〈墓穴世界〉は、まったくなにごとも起こらなカリタス、つまり非利己的な愛の行いは、ほんのわずかだがこの邪 い場所、朽ちゅくものが永遠に朽ちつづける場所だ。すべての邪悪悪を押しもどせる。それは弱弱しいものだが、それだけがわれわれ と破壊はそこからやってくる。その恐ろしいエントロビーの力は、 の望みの綱である。そして、人間の悲しさで、われわれはその武器 戦争や憎悪や狂気といっしょに、われわれの世界へ侵入する。われを十分に使いきっていない。なぜなら、人間は権力や″進歩″や快 われはひとり残らず、すくなくとも部分的に、そのカの支配をうけ楽の欲望をいつくしむ動物であり、その欲望は彼を容赦なく自己か ている。非人道的な、不誠実な、貪欲な行為をするたびに、われわらひきさいて、暗黒の手にひきわたそうとしているからだ。 れはすこしずっその暗黒のほうへと押しやられる。その力は、われ この対立する二つのカのあいだに見られる二元性は、ディックの われをほかの人びとから孤立させるように働きはじめ、そしてわれ。フロットにも反映している。それは、世界の支配、ないしは限定さ われは、なにか巨大で不活撥なものに下へ下へとひつばられるのをれた商業的または宗教的な目標をかちとろうとする、二派のグルー 感じるーーそのあげくに、われわれはまったくひとり・ほっちで〈墓プ、でなければふたりの人間の争いとして描かれる。しかし、作者 穴世界〉にいる自分自身を見いだす。 は彼のいう宇宙力を単純な " 善玉対悪玉〃の公式にあてはめたりは 6 6
合浄閑寺公等は異次元へ漂流して命からがら戻って米た人物という「盗聴マイクならいざ知らず、監視用のテレビ・カメラなんて、ま だそんなに小さくならないよ」 ことになるな」 「胃カメラの進歩した奴」 吉永が言う。 「異次元ものかね、本当に。秘境からの脱出者ではあるだろうけれ「どうやってドクター・ / オの秘密基地までつながってるの」 : 。たとえば、 007 シリ】ズのようなケースだって、まだ否「無線中継さ」 「発信用のアンテナは」 定はしきれないぜ」 「亜空間が内臓してる」 三波はさっきから吉永の説に異議を唱えているのだ。 「亜空間はどうしてあそこに浮んでいれるの。支えがないのに動か 「ドクター・ノオの秘密基地のようなものがあったっていいじゃな いか。浄閑寺さんはそこにつかまってて、強制労働かなんかさせらないわけは」 れてたのさ。そこへ或る日ジェイムズ・ポンドがやってきて島中を「ちまっと、やめろよ。一お前はどうしてそう常識ン中から出て来ね 引っきまわす。 : : : 騒ぎに紛れて逃げ出した者がいる。それは私えんだよ。夕方みんなで申合わせたの忘れちまったのか。俺だって 心の中じゃまさかと思いながら、無理にそいつをうち消して喋って るんだ。お前が傍でゴチャゴチャ言うとさつばり話が進まないし、 「タイトロープじゃないか、それは」 だいいち言ってる俺た、けが小学生みたいな気分になっちまうじゃな 伊東が笑った。 いや、妙な空間なんて言いか」 「じゃあ、あの妙な空間は何だろう。 吉永と若様が同情したように徴笑を泛べた。 い方はよそう。あの小さな偽似空間は何だというんだ」 「じや言わないよ。さあ、それから : : : 」 「偽似空間なんて呼び方は変だ。亜空間がいい」 若様がおごそかな表情で言い、呼称についてはそれで結論がで紋切りがたに先を促され、三波は鼻白む。 こ - 0 「たしかに三波の言うパターンもある。だがそれでは謎がひとっ増 ・ノオの秘密兵器さ。逃亡した浄閑寺公等える。なら増えたほうが面白いが、この場合は現実に起った超 「あの亜空間はドクター を、あそこから監視してるんだよ。で、何か不利な動きをしたら、常現象について話しているんだからな」 レイ・ガンで・フチューツ・ 「ひとっ増える : : : 」 若様が吉永に尋ねた。 三波は銃を撃っ真似をした。 「ああ、そうさ。何者かの開発した新技術があの亜空間だとする 「あんな小さな中にそんなのがどうやって仕掛けられるんだ」 と、浄閑寺氏の出現のしかたとは無関係になる。透明な監視装置と 伊東が言う。 「それは可能だよ。何しろ相手はドクター・ ) オだ」 いうのは、小道具としてたしかに魅力的た。でも、そこまで可能な 3
抛 0 た。伊東はころが 0 た位のまま、すぐにパターをかまえる。 「たしかに変だ。目のせいじゃない」 コトンと音がした。見事に入ったらしい 三人は緊張の余り声をひそめていた。 「どんなもんだ。吉永もやってみな」 三波の指が芝生の上のある空間を通過するたび、ちらちらと屈折 吉永はかなりやるらしい。十ャード程のパットをうまく寄せた。 して見えるのだ。 。、ツト目でコトン・ 「吉永 : : : そこへ立 0 て、これを君の影の中へ入れてみてくれない 「うまいうまい。あれ、どうした、スポーツ万能の人は」 か」 三波は池の傍にすわり込み、ふてくされたように背を丸めてい 若様が言「た。吉永が立ちあがって、その空間を自分の影の中へ こ 0 入れる。 「池の前でポールが落ちないように番しててやるからもう一度やっ 「光線の具合でもない」 てみなよ」 若様は驚いたように吉永をみあげた。芝生の端にやや長く伸びて 伊東がそう言「てもふり返りもせず、右の人差指を突きだして、 いた葉を摘み、その空間へ差しだして見る。薄い葉は、一一、 膝の上へ出したり引っこめたりしている。 途中で段違いになり、その空間から出すと元どおりつながる。 「拗ねてやがんの」 「どう思う」 伊東はロに手をあてて笑ってみせた。 若様が葉っぱを指でつまんだまま言った。 「でかい奴が拗ねると変なもんだね」 「浄閑寺さんが最初に立っていたのは、ここじゃないのか」 三波がその妙な動作を続けたまま言った。 三波が答えた。 「吉永、ちょっとこれをみてくれ」 「実はそうなんだ」 緊張した声であ 0 た。吉永は怪訝な表情で三波の背中をみつめ、 と若様がうなずく。 ・ ( ターを伊東に渡すと近づいて行った。傍へかがみこむ。 「歪んでるんだ」 「ほんとだ。若様 : ・・・こ 吉永が言った。 ひず 吉永がすぐ山本を呼んだ。伊東は一人でゴルフごっこに余念がな 「歪みか。空間の : : : 」 ひず 「間違いない。ほら、歪みは上からも楕円、横からも楕円・ : : ・そん 三波の指は、地上から五、六十センチの何もない空間をつついてな風に見えないか」 若様はまた葉っぱを動かして言った。 「変たな」 、「フィルターっきの煙草の半分くらいの長さで、ラグビー・ポール 「変たら」 状の空間がここにできている。我々のいるこの空間の一部で、物体 ッ 2 3
「ところで、この世界に何かおかしな所があるって : : : 」 のかもしれない」 ひとしきり笑い合ったあと、山本が真面目な顔で言った。 「何の為に : 「うん」 「きまってんじゃないの、侵略さ。これは侵略テーマだよ」 吉永は表情を引きしめ、三人をみまわした。 伊東が断言した。 「未来を見たと言「て油断は禁物たよ。ここが亜空間だとして、時「単純すぎるようだが、今のところそれ以外に説明がっかんだろ 間の流れが外と同じとは言えまい」 う」 「うん。それもそうだが : : : 」 吉永が同意を強要するように言った。 山本が言いかけるのへ、おしかぶせるように吉永はつづける。 「かも知れないな」 「どうしてあの老人と娘に言葉が通したんだ」 「そうさ。万一そうでないにせよ、今われわれはそう疑ってかかる べきだ。われわれの地球に、未知の知的生命がとりついて、誰にも 三人は驚いて互いに顔を眺め合った。 気づかれぬ亜空間を寄生させている。ここは侵略宇宙人の亜空間の 「でも、ちゃんと喋ったよ」 基地かもしれない」 「僕は気がついて、あの二人のロの動きをみていた。彼らは日本語 「亜空間要塞 : : : 」 をしゃべったんじゃないらしい」 三波がつぶやいた。 「なんだって : : : それなら、な・せちゃんと聞えたんた」 明るい太陽も青空も、澄んだ海もそよ風も、すべてが疑わしくな っこ 0 「そうさ。あの二人が日本語をしゃべれないんたったら、こっちの 言うことも判らないのが本当だろ」 「おい、みんな。やつつけちまおうぜ」 「そこがおかしい」 伊東が言った。 吉永は睨みつけるように三人を見た。 「宇宙人たちをか」 「どうやら間題は円盤だ。この世界は明らかに人為的な調整が行な 「そうさ。この亜空間要塞をだよ」 われている。だってそう思うしかないだろう。互いに異る言語を用「どうやってだ。方法があるのか」 いても、意志が通じ合うようにな「ているんだからな。それも大ざ「知るもんか。でも俺たちは死にはしない。キャ。フテン・フ = ーチ 0 ばなんじゃなくて、同一一一一〕語同士のようにこまかな = = アンスまでヤーだ。レンズンだ。手あたりしだいにぶ 0 こわしてやろうじゃ 伝えてくる」 ないか。なるほど、俺たち地球人はまだ亜空間なんて自由に作れや 「円盤を使っている連中がコントロールしてるわけか」 しない。あの緑の光線だって使えない。だから外側からじゃ駄目に 「そうだ。コントロールどころか、この亜空間を地球に据えつけたきまってるたろう。でも、俺たちは中へ入っちゃったじゃよ、、。 議ノし、カ 0 5
・ヨーノズは、ディックがはじめて作り出し を絶った。カートライトは第二次探険隊を送り、彼らは尾よくそを演じる。フロイド・シ 。。ヨーンズはこの世の出来事をそれが た忘れがたい人物といえるシ の惑星を発見し、そこにジョン・。フレストンを見いだす。しかし、 実はプレストはと 0 くの昔に死んでいて、それは彼が地球からの起こる一年前に経験する人間であり、現在とは、彼にと 0 て、一年 最初の植民者のために残しておいた、彼自身のシミ = ラクラにすぎ前に起こ「たものの再演なのだ なかった。死にたえ凍りついた″炎の月の世界で、プレストンの 最初の記憶は奇怪だった。のちになって、彼はその絡みあった 声は自動的に語る 糸をほどこうと試みた。不活撥な胎児の感じた、未然形の世界の 印象。母親のふくらんだ子宮の中で背をまるめてうずくまってい 「これは無分別な衝動ではない」プレストンの映像はいう。盲い たとき、彼の周囲で走馬灯のように回っていたあの不可解で鮮烈 た目は人々の頭上のかなたを見つめている、その目は彼らを見て いるのではない、その耳は彼らの声を聞いているのでもない、彼な幻影。それと同時に、彼は = 0 ラドの秋の明るい日ざしの中に らの存在を知 0 ているのでもない。それは遠くで聞いているもの横たわり、黒く湿 0 た袋と、すべてを与えてくれるボタボタしす くの垂れるもののことを、静かに夢見ていたのだった。受胎する に、はるかかなたで見ているものに語りかけているのだった。 以前から、彼はすでに誕生の恐怖を知 0 ていた。受胎の一カ月後 「われわれを満たされぬ思いに駆りたてるものは動物的な本能で には、そのトラウマは遠い過去のものとなった。実事件としての はない。では何であるか、わしがいおう、それは人間の最高のゴ 誕生は、彼にとってなんの意味もないものだった。医師の手で宙 1 ルーー生長し進歩しようという欲求・ : ・ : 」 にぶらさげられたとき、すでに彼はまる一年をこの世で生きてい ( 小尾芙佐訳 ) たのである。 しかし、彼の言葉はうつろである。彼はすでに〈墓穴世界〉に敗 ・ンヨーンズ少年は、ほかの子供たちより一年先を生きているた 北したのだ。 プレストンは、ディ , クの " 視者。の一つの型、物質的意味でわめ、当然、物覚えも早い。九歳のとき、彼は原爆攻撃をうけた市街 れわれの世界の彼方を見、そして腐朽の手のおよばない別の世界をから避難する長い被災者の行列を見る。その一年後に戦争が起こ る。ジョーンズは未来を見ることはできても、自分自身の未来にあ 探し求めるタイプである。したがって、宇宙空間への旅は″上へ″ ーズは彼 の動きであり、〈墓穴世界〉からの離脱となる。この考えは、『ジる出来事をさえ変えることはできない。十六のとき、ジ ' = ーンズの創「た世界』でも、金星で生存できるよう意識的に作りの " 記憶。にあるとおりにカー = ・ ( ルのインチキな薬売りと知りあ その男に雇われる。ジョーンズは自分の小屋を持つようにな 出されたミ、ータントに関する副。フットとして再提出されてい り、予言を、というよりむしろ彼の見る未来を、語りはじめる。 る。 、のような生物の死体 もう一種類の " 視者。は、『超能力世界』の少年テイムのよう数年後、ほかの天体からきたらしいアメー / 。。ヨーンズは、この生物たちの疫病が 6 が、宇宙空間で発見されるシ に、現実の中の別のレベルを見ることのできる特殊能力に恵まれた 人間である。『ジ = ーンズの創 0 た世界』では、このタイ。フが主役太陽系ぜんたいに広がることを予言し、彼らを殺せと人びとに警告
: を下い 吉永が笑った。 「どう解釈するね」 若様が尋ねた。すると伊東が珍らしく真剣な表情で言った。 「認めたくないが、あるものはしようがない。どこかに四次元的な 世界があるとしたら、あれはそのかけらみたいなもんだろうな」 「かけらか」 「よく判らないが、まあそんなものだ」 伊東が言ったあと、四人は黙って食事をすすめた。みんな、あの 寄妙な空間のことを考えている。日頃なれ親しんでいる的な世 界が、この別荘の芝生の上に現実のものとして存在したのだ。 「ひとっ提案がある」 「なんだい、若様」 三波がテ 1 プルの上へ厚い胸をつきだすように言った。 「僕らは学者じゃないし、特にああいうものに対して知識を持って をしオい。これ以上どうやって調べていいかも判らない」 三人に同意を求めたようだった。 「それはそうだ」 と三 「しかし、然るべきところへ報告して、ただの発見者としてだけで とどまるのも何となく残念じゃないか」 それには三人とも同感で、だから揃ってうなずいてみせた。 「それに、学者が調べたって、すぐ真実がきわめられるとも思わな 多分仮説の連続になるだろうね。でも、そういう仮説だった ら、のほうではすっと以前からやっている。僕らは TJ ファン の集まりしゃないか。或る意味では、あの件に関しては専門家と言 5 ってもいし 。そこで提案なんだが、正確か正確でないか、世間に通