司政官 - みる会図書館


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1. SFマガジン 1974年1月号

司政官庁を通過しているためであった。 団結島とよ、、、 。し力にもセンスのない名前だが、これは、はじめて 0 彼は、見るともなく、壁に貼られた幾面かの地図に目をやった。 2 ここに駐屯した連邦軍司令官が命名したのだ。連邦軍の志気をたか そのどれもが、セイの部下のロポット官僚たちによって測量され、 作成されたものである。ガンガゼンの司政官庁は、主として人間のめ、上層部の心証を良くしようとでも考えたのだろうか。もっと 植民者たちの要望に応えるため、自用に刷った地図類を、二十年ばも、その軍司令官が、公正無私かっ使命感だけのかたまりではなか かり前から、希望者に頒布するようにしていた。もっとも、年々需った証拠に、彼は、団結島の南にある島に、自分の名をとって、ホ 要が高まるものだから、今ではわずかではあるが手数料と実費を徴ーク島という名称を与えることも忘れなかった。 収するーーー販売形式になっている。 ( とはいうものの、この地図類この団結島から東北の方向に、九個の大きな島と、百あまりの小 に限らず、司政官庁がかっては植民者なり原住民のために、無償で島から成る広域の島群がある。その九つの島は、くちばしの形をし たのや、翼のようなのや、肢と尾に似たようなのがちらばり、全体 提供していたさまざまなサービスを、有償でおこなうようになった 結果、多くの厄介な問題が生れかかっているのも、事実なのだ。司として、怪鳥が翔けている感じで、地球ジ、ラ紀後期の翼竜から来 政官庁が受け取る通貨ひとつをとっても、それが司政官庁発行の圧たランホリンクス島群の名を与えられていた。 造金属貨幣か、植民者の各自治体が通用させている紙幣か、さらに このランホリンクス島群は「だいぶ高緯度にあるせいか、ガンガ はガンガゼンの部族国家がそれそれ鋳造している、白金・金・銀・ゼアたちがまだ居住するには至っておらず、それを利用して、人間 封じ込んだ水銀・宝石象嵌等の十種類近い本位制の、。一部は秤量貨の植民者世界となっている。一千万ちかい人間が、各大島を中心に の、どれを認め、どう交換比率を決定し、相場の変動にスライドさ群居して九つの自治体を作り、都市を築き、工業化を押し進めてい せるか、といった事柄がからんでいるのである ) それが近頃では、 るのだ。いや、正確にいうと、もはや九つの自治体ではないかも知 原住民のガンガゼン側からの需要も、馬鹿にならないようになってれない。司政官庁は依然として公認していないにもかかわらず、 いた。今ではたいていのガンガゼア部族国家が、五、六セットの地まや単一の大組織体に変貌しかけているのである。 図を保有しているはずである。 この団結島とランホリンクス島群の中間地帯、やや南寄りに、風 壁の、いちばん右側に貼られているのは、このガンガゼンの世界光明媚で知られる保養群島があり、その南方には、東西に伸びて点 地図た。 在する魚群列島が控えていた。さらに魚群列島の西、つまり団結島 中央に描かれている平凡なかたちの亜大陸が、司政官庁のある団とホーク島の真南に、クラゲ島群と呼ばれる島々がある。が、これ 結島。 らはまだ現在のところ、観光や漁業のための拠点がいくつかある程 この地図が、こういう配置になっているのは、いうまでもなく、度で、人間側もガンガゼア側も、都市や工業地帯を持っところまで カンガゼンの本初子午線が、 行っていない。 これが司政官庁で作られたものだし、・ 」 0

2. SFマガジン 1974年1月号

ればならず、その間、脱落者が次から次へと出る。それらのコース ミシ = ルは、驚いてーーー顔にこそ出さなかったが、相手をみつめを乗り切って、ようやく、つまり待命司政官になっても、 直した。こんな風に司政官の統治感覚を的確につかんだいいかたを実習の過程で適性を先輩司政官に見られ、失格することがある。そ れから本物のーー比較的統治しやすい惑星の司政官として、赴任し する植民者に会ったのは、これがはじめてだったのだ。 「しかしながら、植民者世界が完全自治に至るために、今、連邦がてゆくのだ。そうした、本物の司政官となってしまえば、まず身分 : いわば、特は安定するのだが : : : 実際に仕事をはじめてから、折角手に入れた おこなっているような厳重な条件づけを前提とする : ・ 典として、完全自治が与えられることに、必然性があるのでしよう司政官の地位を、自分の考えで放棄する、という人間が、やはり、 ときどきいるものだ。司政制度のしかれた初期には、そんなケース ミシェルは、静かにつづける。「そこには何の必然性もありませは絶無だったが、近年、年にひとりかふたり、辞職する者が出て来 ん。今でこそ連邦中央機構が官僚化して、完全自治権を与えるのをていた。かれらが何を考え、何のために司政官のポストを捨てるの か、それはさまざまであろうが、いずれにしても残った司政官たち 恩恵のように扱っていますが、本来、司政制度が生れたときには、 すべての植民用惑星をそれそれ独立した世界とし、ゆるやかな統制には、詳しいことは知らされない。ただ、それらの人々の名が、司 をおこなうのが、最終目的だったはずです。そもそも司政制度は、政官リストから抹殺されて、おしまいになるだけだった。 、、シェルは「そのひとりなのだ。 連邦軍の軍支配下にあって圧迫されていた植民用惑星を、軍支配か ら解放し、自主性を持つ、連邦の藩屏としたい、そのために誕生し セイが、どこかで名を聞いたような気がしたのも道理で、司政官 たものですから : : : それが当然でしようー リストで何度かその名前を見掛けていたのである。もちろん、同姓 セイは、ロをさしはさまなかった。その必要もなかった。 ミシェ同名ということがあるかも知れない。あとで登録番号を照合すれば ルのいっていることは事実であった。いや、ミシ = ルは、司政官のはっきりするが、それよりも、こうしたいいかたをする人間が、ま 感覚で喋っているのだ。 ぎれもなく司政官か司政官に関係のある場にいたということを、セ この男は : : だしぬけに、「セイの脳裏に記憶がよみがえって来イは直感的に悟っていたのである。 た。 「われわれは、この理念ーー最初は目標であったのに、今では特典 ミンエレ・ : ガイーヌ。 とされている完全自治を、すくなくとも自分の世界であるこのガン ミシェル・・ガイーヌ。 ガゼアでも実現させたい : ・ ・ : そのつもりで、この要求書を持って来 そう。 ました」 9 2 この男は、司政官なのだ。と、いうより、かって司政官だった男 ミシェルは話している。「われわれは、その目的を達成するまで 2 なのだ。司政官になるためには、おそるべき訓練とテストを経なけは、何度も要求書を出すつもりです。このことを、司政官であるあ

3. SFマガジン 1974年1月号

「何か私が、司政官として手落ちでもしましたか ? それとも、こび必要に応じて、・ハベル大陸を随意に利用する権利を有するものと する・ : : ・司政官は、これら植民者世界の発展のため、配下のロポッ れは実行不可能な難題なのですか ? 」 代表たちは、顔を見合わせたが、一番年上の、中央島の代表が、 ト官僚の貸与をも含めて、全面的な協力をおこなうものとする 頭をさげて、うながした。 といづた事柄が、えんえんと並べられているのだった。 「とりあえず、ごらんになっていたたけませんか ? 」 はじめてこの要求書を受け取ったとき、前任司政官は、さすがに 「そうですか ? 」 表情こそ変えなかったが、しばらく絶句したらしい。引き継ぎのさ セイは、指でページをひるがえして、書類に目を通していった。 い。前任司政官はセイにむかって、苦笑まじりに、 読むうちに、だが彼は、これと同しものを、既に見ていることに気「人間っていうのは、甘やかされると、とめどもなく、一つけあがる がついた。 ものだなア」 と、洩らしたのである。 そう。 それは、セイがまだここへ来ない前、前任のガソガゼン司政官の セイには、前任司政官のその気持ちが、よく理解できた。前任司 もとに出されたのと全く同じ″要求書″だったのである。前任司政政官にしろ、セイにしろ、いや、どんな司政官にしろ、こんな図々 しい要求を呑むわけがないが : ・ 官はそれを言下に拒否し、書類だけは司政官庁に保存しておいた。 ・ : かりに呑んだとしても、連邦中央 セイば、それを読んでいたのだ。 機構が決して黙っていないだろう。こんな、司政原則を無視したこ 前任司政官が拒絶したのも当然で、・それは連邦が決し】て認めるは、とがまかり通るとなれば、それだけで連邦の権威は失墜してしまう ずのない要求の羅列だった。まず、従来の植民者たちの九つの自治のだ。なるほどこの感星の統治方式は、植民者にとづても ? とも自 体は合体して一国家となり、・ガンガゼン合州国と称す、る、という条由なかたちである第五段階に属している。が、この方式ですら、人 ロ二百万以上の植民者・の自治組織は許されていない。階層社会学に 項からはじまり、このガンガゼン合州国の主権は、ランホリンクス 島群全域に及ぶこと、合州国は統合議会を持ち、この統合議会の決よって、それ以上になれば、特権階級と被搾取者の層が、無視でき 定に対しては、司政官といえども異議をさしはさむことは許きれなぬまでに固定化し、世襲化するとされているからだ。 ( 現に七十万 と、つづ、くのださらに、統合議会は首席を選出し、首席はから言一「・三十万のこのガン・ガゼンの各自治体でさえ、既に名家・ 行政に必要な機関を設置し、首席の指名した長官に行政を担当させ名門というものが生れて来ているではないか ) 人口一千万の、しか る、とか、ガン・ガゼン合州国内においては、合州国行政機関の指示も司政官権限の及ばぬ自治体など、論外だった。 そればかりではない が、ロポット官僚の指示に優先する、といった文句まで入っている 代物であった。それだけではない。従来ランホリンクス島群に限定、かれらが要求しているうちの、魚群列島については、司政官側と されていた植民者の居住区の枠を撤廃し、魚群列島の専用権、およしては、人口増加に見合うぶんだけ、少しづっ植民者に開放する肚

4. SFマガジン 1974年1月号

コスモ こう 、。連邦中央機構が、司政官の報告というものに対して、警戒的なそれはもちろん、古来からの歴史を見ても不可避にちかい、 した中央と現場の間に横たわりがちな深淵を埋めるための、巡察官 受けとめかた いわば、フィルターをかけて判断しがちなのは、 司政官自身が実感で知っている。見方を変えると、これは、連邦中制度というものがある。現に、このガンガゼンにも、近いうちにま 央機構が、初期のころの覇気も意欲も失って官僚化し、その肥大しわってくるはずなのだが、既に連邦は、その巡察官のスケジュール た各セクションが、責任追及をおそれるあまり、司政官の申立てをを、司政官の事前工作を封じるため、正確な日どりやその他のこと うのみにしなくなったのだ。 を、通告しないようになっていた。まあ、それはそれでいいので、 こうなったのは、司政官のほうにも原困があるといえ本気で仕事に取り組んでいる司政官にとっては、いっ巡察官が来よ たしかに、 よう。今の連邦中央機構としてみれば、司政官が連邦の忠実な代官うと、関係はないはずであるし、また、巡察官そのものだって、深 であってほしいはずだ。が、多くの司政官が、頑固なまでに、初期層心理探査を。 ( スした、使命感に燃える、決して買収されない連中 に設定された理念・ーーー連邦の走狗としてではなく、担当したその世であることは、事実なのだ。その意味では、まだ機構もメン・ハーも 界のために尽力するという目標を、抱きつづけていた。これは、司腐敗しているのではないといえる。 政官側の意地でもあり伝統でもあると同時に、そうしなければ司政 だが、わずか二週間か三週間の巡視による、相対的には連邦中央 官自身が、おのれの存在意義に疑問を持ち、かっ、たちまちその世機構サイドの、しかも司政官のミスを探して出して成績をあげよう 界で排斥されてしまうからなのである。けれども、連邦中央機構とする巡察官の報告が、どれだけ正鵠を得ているか、きわめて疑問 なのだ。そのためもあって、事態の変化にともなっておこなわれる の、それも現場経験のない面々には、そうした事情は理解できな い。かりに、頭でわかったとしても、司政官に共感し、司政官を擁司政官の、ロポット官僚たちの記憶・ ( ンク修正要求に対し、連邦中 央機構は、なかなか応じようとしなくなっているのである。それど 護するというようなことは、決してできないであろう。 ノーマン・クラ〉トウ = ル神父ー円盤と乗員の劇的な出現ー . 土ル代 5 パプア島の円盤騒動 〒 原ノ 8 世にも異常なコンタクト事件 o 円盤の中に連れこまれた男①南山宏 専 盤 東京大地震は発生するか諏訪彰ー気象研究所の地震学者が語る恐るべき事実 出 太古のスメル人の伝説とエジプトの不 のと ~ 思議な大文明のナゾをスイスの考古学 ーリッヒ・フォン・デニケン 号神々の戦車③ = が解明するすばらしいドキュメント ! 京 1 月 ・埼玉県羽生市の奇妙な物体・エゼキエルは何を見たか ・科学トピックス・山形県の火の玉写真・国内目撃報告その他 国隔月刊ロ わ 替 2 〈ロ絵写真〉スイス・アルプスの DLLO / 千葉県の小型円盤群コ 北海道の / DLLO ーライティング引ライツ 〒振 Ⅱ月日全国書店発士冗

5. SFマガジン 1974年1月号

にしているのである。これは、何十年ものあいだ、司政官がロポットとも司政官相手の駆け引きを、かれらが考えているかの、どちらか 官僚を使って、ガンガゼアたちのために新種の技術を導入してやつであった。 たり、部族どうしの融和連携のために力をつくして来た、その実績 トンネルを出る。 が辛うじてものをいっているのだった。逆のいいかたをすれば、か 出ると、またもや暑さが還って来た。 ってはガンガゼア社会になかった道具とか発想法を持ち込んで来る繁茂する樹々を切り拓いた狭い道を行くのは、楽ではない。整地 司政官というものが、何十年かのうちに不可欠なものになってしまされていない足もとは凹凸がはげしくて、ちょっとでも気を抜くと った一方、その司政官が、この星に入って来て居直った人間の植民者つまずきそうになるのだ。それに、ここでは日光は、樹葉のあいだ たちの利益をも擁護しなければならないことを、ガンガゼアたちは から洩れ落ちて来るぶんたけなのに、それでも肌に感じるほどの強 知っている。そうした、原住民と植民者の両方に顔を向け、両方を 烈さなのである。 立ててゆかなければならない、その双面神的二面性が、このような が : : : セイは徒歩で進んだ。徒歩しかないのであった。上空には あいまいな待遇となってあらわれて来ているのだと考えてもいい。 彼の身辺を警戒する系のロポット官僚がいくつか飛んでいる そんなわけで、司政官は、ときにはロポット官僚をひきいる部族し、列の後尾には洞穴の外で待っていた司政官機がついている。そ 長として、最年長〈ド〉のように見做されたり、あるいは単にひとれらのどれかに乗りさえすれば、きわめて快適であろう。けれども りの〈ド〉として扱われたり、また、非ガンガゼアとして無位者のそういうわけこよ 冫をいかないのだ。ガンガゼアたちと一緒に歩く場 ようにあしらわれたりする。場合によっては、敵としての待遇を受合、相手にちゃんとした扱いをして貰いたければ、自分の足で歩か けることさえあった。そのときどきの部族国家の置かれた情勢や、 なければならない。ガンガゼアたちは、必要以上に道具を製作した 客観的な風潮によってくるくると変わってゆくのである。セイもまり、道具を使わなくても済むのに使うということに対して、あから たいつの間にか、歴代の司政官と同様、おのれの不安定な立場に合さまに嫌悪の情を示すのである。ことに、きようのように、儀式に をヨネ以外の何ものでもないの わせて、柔軟に反応する術を身につけてしまっていた。つけてしま参加するさいに乗りものを使うのよ、ドし ・こっこ 0 ってはいたが、だからといって、その一時的な位置に安住したり、 二十分ちかく森の中の道をたどって来ると、ようやく目の前に、 その変化をたのしむような心境には、なかなか入ることはできな い。いや、そんなことは、とても不可能なのである。彼自身は、た鋳鉄の棒を組み合わせ、粘土で間隙を埋めた上に、モルタルで固め だ敏感に自分のとるべき態度を考える、その習慣を身につけただけた低い城壁があらわれた。その、道に面した部分は門になってい のことであった。そんな感覚からすれば、きようのように〈ド〉のる。 一行は、門を抜けて中に入った。 叙任式に、はじめから終りまでつらなれるというのは、ここの部族 国家において、現時点では、司政官が好意を持たれているか、それそこはもう、ぎらぎらと陽が照りつける広場である。四人の〈ド〉 8 2

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ずに、ホーク島南湾に残っています。この十隻がどういう意図のもあり、その可能性もあります」 CQH はいう。「よって、私は、船団の監視を強化するいつぼ とに残ったのかは、まだ不明ですが、航行中の四十又の行く手には、 系ロポットの阻止線があり、この四十隻は予定どおり、。ハべう、その義勇軍と称する植民者たちに航行をつづけさせ、団結島上 うまでもなく、司政官庁の設備は、かり ル大陸の海岸線から沖合い十キロで操船不能になると思われます」陸の許可を与えました。い に船団が反乱者であったとしても、充分な防衛能力を持っており、 「結構。あとの十隻について、何か分ったらすぐに知らせてくれ」 植民者の義勇軍などを必要とはしません。が、この義勇軍と称する 「承知しました」 は答えたが、ほんのちょっと間をおいて、またいいだした。植民者に、かれらが不要であると宣言し、帰航を命じれば、せつか 「もうひとつ。これも異例の事態が起りましたので、ご報告します」くの親司政官側の植民者を、反司政官側に追いやる結果にもなりか ねません。従って、私は船団が反乱者である場合の対策を取る一 「何があった ? 」 方、義勇軍を自称する植民者には、やりたいようにやらせたほうが 「植民者約二千人を乗せた客船が、団結島に近づいています。 この方針を変更すべきだ ロール中のの報告では、その植民者たちはいずれも武器を良いという判断をくだしたものです。 携行しているとのことなので、私はとその部下を派遣しというご指示があれば、直ちに変更します」 て、航行目的をたすねさせました。植民者たちは、われわれは義勇「いや。それでいい」 当面は、そうするほか、ないであろう。セイはまたもや、今のと 軍だといっております」 ころは、と、 し・いかけて、やめた。 「義勇軍 ? 」 「はい。かれらの話では、われわれは司政官を尊敬し、司政官に忠「それでは、また何かあればご連絡します」 は報告を終えた。 節を誓っているもので、司政官を反乱軍から守るために、団結島に 陣をしき、防衛したいということです」 セイは、シートにもたれかかり、窓の下の海を見やった。風が出 「反乱軍だと ? 」 て来たらしく、白波がいくつも立っている。そして、その海にも似 「そうです。かれらの申立てでは、密貿易船を装った反乱軍が、ホて、セイの胸には形容しがたい不安が揺れているのだった。こうし : たしかに、何かがはじまろうと ーク島に集結し、・ハ・ヘル大陸へ行くと見せかけ、転じて団結島に上た妙な事柄が次々とおきるのは : しているのだ。それが何であるのか、彼には分らなかった。司政官 陸し、司政官庁を攻撃するはずだというのですー 庁に戻れば、すぐにその分析をおこなわさせなければなるまい。そ さすがのセイも、これをどう解釈したらいいのか、とっさには見れで何かが分るかどうかは何ともいえないが、やらないよりはまし であろう。 当がっかなかった。 「かれらの申立ては、一部、植民者の船団の動きと合致する部分も セイは、ボタンを押して窓のシャッターを下ろし、目を閉じた。 232

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1 をはじめとするロポット官僚たちは、本当に計算しているのか ? ときにはただひとりの、とぎにはグルー。フをなす代表を送って来 4 2 セイは何度か、そのことをに問いかけ、はきまって、 る。かれらは、たいてい申請書類をたずさえていた。各自治体間に 2 当然計算に入れていますと答えた。そしては、な・せそんなこはまだかなりの較差があって、水準や規模は必ずしも似てはいない とをたずねるのかと反問し、セイの説明を求めるのがつねなのであが、いずれにしても、大学を作りたいとか、鉄道敷設計画とか、客 る。セイはその都度、自分の胸中にあるいやな感じを伝えたが : ・ 船の建造、さらには研究所の設置や即存工業地域の拡大といった、 それでも、が、司政官の抱いている説明しがたい不安を、は いろんな申請をひっさげてくるのだ。 つきりしたデータとして組み入れたかどうか自信は持てなかった。 それは、植民者たちのやみくもともいうべき建設が、依然として あの男。 続いていることの証拠でもあったが、セイは、簡単な説明を聞き、 ミンエルだ。 大筋に問題がなければ、一、二日のうちに、ロポット官僚にこまか ミシェル・・ガイーヌ。 い部分を検討させ、修正して、認可を与えるのがつねだった。セイ 正式には、彼はただの植民者である。この惑星に一千万もいる入が連邦から指令を受けている現在の第五段階型の統治方式では、 植者や入植者の子孫の、そのひとりに過ぎない。すくなくとも、 cn 適正規模の自治体が何をおこなおうと、司政原則に抵触しない限り や配下のロポット官僚の観点からすれば、そのはずなのだ。 容認することになっていたからだ。だから実際は、いちいち認可を だが、違う。 与える必要もないのである。植民者たちの自由にまかせて、行き過 司政官であるセイにとっては、違うのだ。 ぎだけをチェックすればよいのであるが、それでもかれらが申請に セイにとって、ミシェルは、ただのミシェルではない。″ 司政官来るのは、ひとつにはそれが昔からの慣習であることと、もうひと くずれ″のミシェルなのである。 つは、認可をとっておれば、司政官庁からの技術的・経済的援助が セイは今までに、そのミ・シェルと、二度会っていた。 得やすいという事情によるものであった。と、 いっても、司政記録 最初は : : : そう、ここへ赴任してから半年ーー地球時間で一年ば によれば、植民者たちがこうした申請をおこなうのは、しだいに大 かりたったときのことであった。 きな建設工事にしぼられて来ており、二十年前、三十年前のように ちょっとした , ーー植民者側が独力で仕上げてしまえるものについて ランホリンクス島群の自治体の代表者たちの中にあって、その年も中請するというようなことは、なくなってしまっている。それら 配の男は、最初からセイの注意を惹いた。 の数多い小工事は、今では無届けで済まされているのだ。いわば、 ひとつには、彼が新顔だったせいである。 司政官とロポット官僚は、その意味で、利用されているだけだとも 他の代表たちとは、セイは、赴任して来てからの一、二カ月のう解釈できる。が、セイは、植民者たちのそうした小狡さを指摘する ちに、何度か会見していた。植民者の九つの自治体は、それそれ、 ようなことは決してせず、能う限り時間をさいて、かれらと会い

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なたに申し上げておきたかったのです」 たかについては、何のデータもなかった。 「わかりました」 どういうつもりなのだろう。 セイはうなずいた。それから、相手の主張に対して、軽く反駁し考えながらセイは、その後のミシェルの履歴を何気なく眺め、目 ておこうと口を開きかけて ( やめた。もしもミシ = ルが、想像通りをみはづた。それは、目ざましいまでの記録だったのである。主な の、セイよりも年長の、かって司政官だった人間なら、こちらの気ところを拾って行っても、二十六歳、ランホリンクス島群の肩島に 持ちなど、百も承知のはずなのだ。それを言葉にしても、意味はな入植。二十九歳で自治体結成運動のリーダーになり、主十二歳、肩 いのである。 島自治体成立とともに分区代表として自治体の代議員。三十五歳に 代表たちが引揚けたあと、セイは、に命じて、ミシェルの、は肩島エ業化推進委員となり、数年のうちに肩島自治体を、島間貿 記録を提出させた。植民者には原則として登録番号があり、面会者易最大の黒字自治体とする。四十歳には肩島警備隊の最高指揮者。 ーの一員となり、他の自治体との連絡折 名簿にその番号がしるされているから、すぐにデータは出て来るの四十五歳に背島代表メン・ ( だ。も・つともここ十年ばかりのうちに、植民者たちの登録拒否が増衝を担当。漁業権問題解決のため、最初の全自治体連合会議開催を え、かっ、ロポット官僚の調査が拒否されることも再三で、今では実現し、その後も全自治体の取りまとめにあたり、ランホリンクス ロポット官僚は全植民者の半数ばかりの、それも大ざっぱなデータ連合ともいうべき、九つの自治体の合同会議を作りあげ、しばらく しか持っていない 。こうした傾向に歯止めをかけようとした二代前司政官の上意下達機関として運営したのち、ガンガゼシ合州国準備 の司政官は、面会はいうに及ばず、何らかの意味で司政官庁と関係メン・ハーのびとりとなり、四十九歳 ( つまり今年だ ) 肩島自治体第 のあることをしようとする人間は、登録番号を持つ者に限るという一代表となるーーー・という経歴なのであった。 制度をしいた。それは前任者にもセイにも受けつがれているが、昨その日、セイは、眠る前にだいぶミシ = ルのことを考えた。 今セイは、このことが、植民者間の一種の身分差を作りはじめてい 何のつもりで、彼は司政官をやめたのだ ? るのではないかと思うようになっていた。事実、きようの代表たち なぜ、ただの植民者になったのだ ? や、表立った仕事をしている人間は、必要上みな登録番号を持って が : : : そのときのセイには、分るはすもなかった。 いるが、密貿易をおこなうその下っ端の人々は、たいていが″無籍 こ・こ、よっきりしているのは、 ミ」シェル・ rg.q ・カイー一ヌカカ 者〃なのだ。 ってはミシェル・ガイーヌであったこと : ・ : ・そして、ミシ セイは、ミシェルの個人記録に目を通した。 土ル・・ガイーヌになってからは、このガンガゼンの植民者と まちがいなかった。 して、ほんの二十数年 ( もちろん地球時間でだ。植民者たちはこの 、、シ = ルは、二十六歳のときに司政官をやめ、このガンガゼン問題を、ガンガゼンの半年ごとに一歳年を加えるという方法で解決 に、一介の植民者として、やって来たのである。なぜ司政官をやめしている ) のうちに、植民者のリーダーにのしあがってしまったと 230

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あたらしく〈ド〉と認められたガソガゼアは、像にむかって一礼 セイは、そっと目をあげて、正面に居並ぶ遺体の群を見た。この ひとっぴとつが、あるときは部族の興亡を決する会戦を指揮し、あし、こちらへ向き直った。いつの間にかそこには、かれらの部族国 るときはあたらしい技術を考え出してみんなを飢えから救ったので家のマークの入った陶器の壺が置かれている。一応、釉薬はかかっ あろう。それが、生きていたままの姿で固い像となって、仲間が増ているが、素朴な焼きものなのだ。 えるのを待っているのだ。 ガンガゼアたちは、オウ 1 と、長く尾を曳きながら声をそろえ た。それが高潮し、急調子にあがづて、奇妙なハーモニイをつくる かれらはなるほど生前のままの姿であろうが、本当のところ、残と同時に、あたらしい〈ド〉は腕をふりあげ、刃物さながらに振り づているのは外形だけなのである。古いものになると、とうに内部おろして、壺を叩き割った。ガンガゼアたちは、ホッホウ、ホッホ はなくなってしまっているはずなのだ。がらんどうの、だが、硬化ウと呼びあい、あたらしい〈ド〉が得た頑丈な肉体を頌した。この した表皮によってかたちだけばちゃんと存在している遣体たち : ・舌い作法を経て、新〈ド〉は、社会的な意味合いでの〈ド ) の一員 にくわわったのである。 すべてが終了ナると、またもや沈黙が到来した。ガソガゼアたち セイは、ふと、何ということもなく、彼自身がその構成メン・ハー は、し・ずしずと立ちあがって、戻りはじめる。セイとも、 ・である司政官制度を思い出した。七十年ちかい昔にスタートし、た しかにある程度所期の成果をあげて来たものの、時間の流れや事態ばじめの順序を守って、列の一員となつを 再び、あの摺り足の歩行がはじ、まる。 の推移とともに、幾たび、も、手直ししたり新制度を導入したりしな . この儀式におけるおのれの立場というものを考えると、セイは時 がら、やはり矛盾を露呈してゆく司政官制度のことを : : : 思い出さ ざるを得なかったのである。連邦が、おのれの基盤を固めるため折宙空に漂うようなおかしな気分になるのだったガンガゼアのど ーには、厳重な資格 に、よりすぐった頭脳を結集し、強大な権力を駆使して組みあげたんな部族も、〈ド〉の叙任式に出席するメン・ ( 制度 : : : 体制として、まぎれもなく優秀で、かっ、驚異的な期間存制限を設けている。その中にあって、席につらなる司政官というの 続している制度・ : は、きわめ・て微妙な、判然としない地位を持っているのだった。司 だが、完璧な体制というものなど、あり得ない。い まや、中央機政官はもとより部族の主要メン・ハーではないし、かといって、他部 構にも各植民星にも、問題が累積されて行くばかりのこの制度は、族からの客とか立会人というものでもない。不明確なかたちのまま 実は、すでにあの遺体のように、内側が崩落し形骸化した巨驅に過で出席を許されている存在なのだ。もちろん、そうした形式にはう るさいガンガゼアのことだから、無資格のまま司政官を参加させる ぎないのではあるまいか ? ようなことはしない。かれらガンガゼアは、″司政官″というもの 0 セイは、眸の焦点を合わせた。 呪文の合唱はようやく終り、儀式は最終段階にさしかかっている。を、ひとつの格式として容認し、 - その″司政官″を招くということ

10. SFマガジン 1974年1月号

こ入る前に、その男のこと 話し合うようにしていた。と、 いうのも、セイは、それが植民者た何者だろう、と、セイは思った。会談冫 ちとの融和を深めるチャンスであり、こちらもそれを活用すべきだをもっと知っておきたかったが、そのとき、セイの手許には、来訪 と考えていたからである。従って、会見は、たいてい親しげなムー者名簿があるだけであった。 ドの雑談になるのだった。 ( もっとも、それはあくまでもセイの感セイは、名簿に目を落とした。 じで、植民者たちも同じ気分であったかどうかは、疑問である ) 既知の名を除外してゆくと、その人物が、肩島代表のミシェル・ しかしながら、その日は、そんな雰囲気ではなかった。全体とし・ガイースだということが分った。挨拶のときに、セイはそれ て、どこか緊張した空気が漂っていたのだ。何よりも、九つの自治を確認した。 体の代表がそろってやって来ること自体、めずらしいことなのであ どこかで聞いたような気がする。が、すぐには思い出せない。 る。しかもかれらは、陳情でも申請でもない。要求書なるものを持それよりもセイにとって重要なのは、その男が、植民者の中のい 参していた。その代表たちの中で、どちらかといえば中年に属するわゆる名家とは、つながりがないらしいことであった。ミシェル・、 その男だけが、はじめて見る顔なのであった。 姓か、ガイーヌが姓か、それは不明だが、どちらにせよ、勢力ある もうひとつ、セイが意外だったのは、その人物の態度である。 植民者の名家には、そんな名はないはずである。植民用惑星として はかなり古い歴史を有するこのガンガゼンでは、自治体の代表とい ふつう、司政官庁に来る植民者たちは、自分が司政官の前にいる ことを、必要以上に意識しているものだ。これは、その背後に五十うような地位につく人々は、代々のいわゆる名家の系列に属してい 年以上にわたる司政官の統活があり、司政官本人にはその気がなくるメイハーか、でなければ、短時日でリーダー格にのしあがったか ても、はた目にはあきらかに権威の象徴と映るせいである。植民者の、どちらかである場合がふつうだった。そして、このミシェル は、その後者だということになりそうである。つまり、ぬきんでた にとっては、先入観なしには相対することができない対象なのだ。 セイの知る限り、司政官の前に出た植民者たちの言動には、あるき才略を持った、油断できない人物である公算が大きいのだった。 まったパターンがあった。妙に親しげに振舞うか、でなければ卑屈しかし、いつまでもそのミシェルのことを考えてはいられない。 な態度に終始するか : : : あるいは、挑戦的に頭をあげて突っかかる「用件というのは、何ですか ? 」 ように発言するかの、どれかなのである。けれどもその男は、そう要求書という分厚い書類を受け取りながら、セイは代表たちに向 ではなかった。年はセイより十五、六上の、五十歳か、そのあたり かって、わざと友好的に話しかけた。「こんなふうに、みんなでそ であろう端正な風貌で、他の代表者たちと並んで着席し、静かな眸ろって来られたのですから、よほど重大なことなんでしようね ? 」 でこちらをみつめたまま、ひややかで礼儀正しい姿勢を崩そうとし「・ : なかったのだ。そこには何か、対等の相手と仕事の上で面会しよう代表たちは黙っていた。 としている印象があった。 セイは一段と表情をやわらけ、笑いさえ帯びた声でいう。 225