商会 - みる会図書館


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1. SFマガジン 1974年10月号

「でも、宣伝パンフレットは、すでにハローを買った人の使用例と 立しようとしていたらしいのです。 して、指揮者の外山雄一一や、将棋の片桐五段なんかを写真入りで紹 もっともすでに営業活動に入っていたのかも知れませんが」 介していましたよー 「ハロー商会では何を売っていたのですか」 「ほう、あの人たちがハローの使用例ですか。そいつはまいった。 小笹が横あいからたずねた。 「そのパンプレットには、 ( ロー売ります″と書いてあったので確かにあの人たちのことは私も不思議に思い、かっ興味を持って います。しかし、あの現象はプラトー理論で説明出来るのですよ」 神島助教授は立上り、黒板に曲線を描きながら説明をはじめた。 「ハロー ? 「何でも宣伝文句によると、心理学でいうハロー効果のハローだと いや、決してあの現象は。フラトー理論なんかで解釈出来るような か。それで、この研究室へお話を伺いに来たのです」 ものではない。 「ああ、ハロー効果のハロ 1 ね。それを売ろうというのですか。一 あの輝くばかりの眩しい光。あれはハロー効果だ。私は小さく呟 体どうしてそんなものを売るんです」 「その前に、まずハロー効果について説明していただけませんか」 記者は手帖をとり上げていった。 「しかし外山雄二なんかを使用例として出すとは、その男も相当な ものですね」 「この男は : : : 」 あの男が死んだ。 記者は写真をとり上げた。 ハロー商会の謎を知っている男が、大光明大地震動の中で死んだ。 どういういきさつがあったかはわからない。 「警視庁の調べでは詐欺の前科が十数回もあるという天性の詐欺師 なんですよ。これまでも何度もインチキ商法で被害者から訴えられ しかし、その現場に誰がいたかは明らかだ。 ています。 男の部屋から生命保険の契約書類が何通か発見されましたが、こ 「ハローを売ります、というのは可能なことなんですか」 れがまた全くの偽もので、架空の生命保険会社をでっち上げていま 記者はメモをとる手を休めずに聞いた。 tl ーというのは、、 「冗談じゃない。、 ′ローのある人を見る側の心した。契約金でもとってドロンするつもりだったのでしよう」 の中に映じるものです。 「しかし、ハロー商会というのは、その男にとってインチキ商法と しては最後の優れた着想だったのでしよう。 いわば観察者の心の中にあるものです。 ハローそのものをとり出して、つけたりとったり出来るものでは勝負師が急に強くなったり、芸術家が急に伸びたことが騒がれて いる世相の心理を巧妙に利用していますからね」 ありませんー

2. SFマガジン 1974年10月号

まじめな顔で人に相談を持ちかけても、人々は彼のハローを見て 一旦 ( tL ーを手に入れた人は、そのハローによって優れた人物で笑い出し、冗談だ . ろうと思ってとりあわなかった。 あると評価され尊敬される。そして、 ( ローを持たない人は、彼に東は、次第に喜劇役者の、人々をおかしくさせる ( ローをいまい 圧倒されて、ある場合は勝負に敗れ、ある場合はその人格に陶酔すましく思いはじめた。 ハロ 1 商会と、その後どんな交渉があり、いきさつがあったかは る。 指揮者の外山雄二、将棋の片桐五段、政界の斑目孝一。その他、知らない。しかし彼は結局、自らの身体から ( ローを追い出すこと 各界で急に目立った動きをした人たちは、秘かに巨大な ( ローを手が出来なかった。 そして彼はハローを呪いながら、自らの命を断った。 に入れたのだ。 相手を圧倒する ( ロー、人々を笑わせる ( ロー、人々を芸術的陶死とともに、彼の願いは達せられた。 何者かが彼の眉間から ( ーの根源である白毫を取り除いたので 酔に誘い込むハロー ハローの絶大な効果によって、彼等は自分の野望を達成しようとある。 それと同時に彼のハローは、消えた。 している。 只一人、ハローを手に入れて人生を狂わせた男がいる。アナウン私は高速道路にタクシーを走らせていた。 ハロー商会と対決するためだ。 サーの東俊也だ。 こ現れ ハー商会のものが商談冫 行先はテレビ局出演者ロビー 彼は、後任を噂される若手アナウンサーの父親の威光に負けまい として、ついつい ( ロー商会のロ車に乗ってしまったのに違いなる場所はそこ以外にない。 外山雄二は、ハローを身につける前日、その部屋にいた。しかも 深夜ただ一人、ぼうっとした不思議な光の中に照らされていたとい ひととき、彼は確かに成功した。 彼は ( ローによって人々を笑わせ、自分のレギ = ラー司会者としう。 片桐五段をロビーで見かけたこともある。 ての地位を守った。 しかし彼は、生来まじめな男だ。喜劇役者の、人々を笑わせ楽し東アナウンサーが自殺をしたのも出演者ロビーだった。 そして何よりも、さまざまな時代の、さまざまな衣裳を身につけ ませるハロ 1 は彼にはふさわしくなかった。 た人々が始終出入りするあの部屋は、どんな異形の人物が現れても きまじめな彼自身の性格と、彼の背にあるすっと・ほけた巨大なハ 決して怪しまれることがない。 ローとは、やがてはげしく衝突しはじめる。 たとえ異次元の空間から、あるいはタイムマシンの力を借りて、 ・彼は「、 ノローと自分の性格との食い違いに悩んだことだろう。 9

3. SFマガジン 1974年10月号

も、法人登録台帳にも記載されてはいなかった。 東の立ちまわりそうな喫茶店や酒場にも足を伸ばしてみた。 ハロー商会〈炻頁より続く〉 一体何を扱っている会社なのかさえわからない雲をつかむような 話だった。 少しも心配しなかった。 私の苦労は徒労に終ろうとしていた。 新しいギャグでも産み出そうと苦労しているのだろうぐらいに思 っていた。 私が「 ( ロー商会」を探しまわっている間、世間では、不思議な 彼女自身、東の顔を見ていると、幸せで楽しい気分になれたとい 現象がさらに進行していた。 政界、財界、法曹界、そして学界、さまざまな分野でこれまで余 とても自殺を考えている人間の顔ではなかった。 り目立たなかった人物が突然脚光を浴び、第一線に踊り出た。 「ただ一つ、ちょっと気になることがあるんです」 特に斑目孝一代議士の場合、その舞台が権力の中枢である国会だ 彼女は私の顔をじっと見つめていった。 っただけに、その鮮かな登場ぶりは大きな衝撃を人々に与えた。 「夫は死ぬ二、三日前、変なことを口走りはじめたんです」 斑目孝一は保守党の議員で、もう十年余りも代議士をつとめてい 「何と云ったんですか」 私は身を乗り出した。 彼は、財界の強力な・ ( ックアップを受け、一時は総理候補とさわ 「夫は、『「ハー会」に復讐する』と云ったのです」 がれたこともある。 「ハロー商会卩」 しかし、若くて精悍な現総理が現れると、斑目の地味な人柄はあ 私は、「ハロー商会」という名前をこれまでに聞いたことがな まり目立たなくなり、いつの間にか忘れられた存在になってしまっ とうして ( ロー商会に復讐しようとしたのだろていた。 そしてまた東は、・ 一時、彼の周囲に集まっていた議員たちも一人減り、二人減りし て、斑目派は党内でも最も小さい派閥の一つになっていた。 とこ・ろがその斑目が、突然火を噴くような演説を行ったのであ 4 る。 次の日から、私は「 ( ロー商会」の所在を確かめるためにかけず場所は衆議院予算委員会。 彼の現体制を糾弾する代表質問は、与党質問と多寡をくくってい りまわった。 しかし、「 ( ロー商会」という奇妙な名前の会社は、電話帳にた総理大臣を抑天させた。 る。 9

4. SFマガジン 1974年10月号

予想されます。地方代議員も中央の動きを反映して、ほば同じ比率「 ( ロー商会ですって」 私は思わず立上った。 におさまるものと考えられます。従って : 「ハロー商会がどうかしたのですか」 「いよいよ新総裁の誕生ね」 「わずか二ヶ月足らずの間に、一介の議員から総裁におどり出たと「小野木君リ」 私の興奮したロぶりを、神島がきつい表情で制した。 いうのは、ちょっと今までにはなかったケースだろう」 しかし私は、神島の制止も聞かず記者のそばに走りよった。 神島助教授は、眼鏡のくもりを拭きながらいった。 「実は今朝この男が死んでいるのが発見されましてね」 私は気が気ではなかった。 記者は手帖から一枚の写真をとり出した。 男は本当にこの部屋に現れるのだろうか。 「あっ」 そしてハロー商会の謎をすべて話してくれるだろうか。 あの男だった。白い髪、特徴のある太い眉毛。きのうロビーで話 昨夜、彼は私の名刺を受けとり、午前中にはうかがいますといっ しこんだ、そして今、私が心持ちにしているあの男だ。 「今朝この男の住んでいるマンションで大きな音がしてアパートが 約東の時間までもう五分もない。 私はドアーを見つめていた。 揺れ、ものすごい閃光が走ったそうです。 近所の人が慌ててかけつけて見ると、震源は二階のこの男の部 勢良くドア 1 が開いた。 屋、一面何かに焼かれたようなあとがあり、男はそのまん中で倒れ 一人の男が研究室に入って来た。 てすでに死亡していました」 ・ーー大地震動。大光明。そして焼けただれた跡ーーー あの男ではない。 ドアーをあけたのは若い男だった。彼は神島助教授のかけている「自殺ですか」私はたずねた。 「いや、まだ捜査の段階でね。どちらともいえない状態です」 ソファーに歩みより、手帖にはさんだ名刺を出した。 「毎日日報学芸部のものです。ちょっとお話をうかがいたいのです「その男に傷はありませんでしたか [ 「眉間に致命傷ではありませんが、小さな傷があったそうです。も が」 っともこれは社会部が取材したので僕はよく知りませんが」 「どうそお坐り下さい」 「ところでそのハロ 1 商会というのは ? 」 神島は椅子をひきよせた。 神島がたずねた。 「どんなご用件ですか」 「ええ、実はこの男のマンションにハロー商会の宣伝パンフレット 記者は手帖をくりながらいった。 が山のように積まれていましてね。彼はハロー商会という会社を設 「ハロー商会というのをご存知ですか」 こ 0 8

5. SFマガジン 1974年10月号

「君、ハロー商会を解散してくれないか』 私の目指す人物は、想像していた異形の人物ではなかった。ひど『えっ』私は聞きかえしました。 く貧相な中年の男だった。 气これ以上ハローを持つ人物を増やさないようにしてほしいという しかし、確かに ( ロー商会は存在した。そして深夜のテレビ局ことだ。どんどんハローを持つ人が増えてゆくと、相対的にハロー 出演者ロビーに出現したのだ。 効果が弱まってゆく』 斑目代議士ば、、 / ローを買占めたいと申し出たのですー 「ハロー商会は、ほんの十時間ほど前に解散したばかりです」 「それであなたはどうしたのです」 彼はぼつりぼつりと話しはじめた。 「私は″彼″と相談したいといいました」 「私は今日の正午、ここで斑目に会いました」 「総裁候補の斑目孝一ですか」 「そうです。私にとってはハロー商会の会長です。私は″彼″にや 「そうです。彼は今朝、ハローのことで至急会いたいと電話して来とわれてハローを扱っている下働きにすぎません。 たのです。何かひどく急いでいる様子でした。 ハローを買い占めたいという話は、私の一存では決めかねるとい いました。 どうしたのかと聞くと、明日の総裁選挙までに是非相談したいと いうのです。 斑目代議士は、それなら″彼″に会わせろというのです」 私はその日の予定を変更して、正午にこのロビーで斑目議員に会「それで斑目は″彼″に会ったのですか」 いました。 「はい、私が引き合せました。″彼″は斑目が来るのはわかってい 彼の申し出は驚くべきものでした。 たといいました。 明日の総裁選挙の対立候補陣営に、ハ ロー効果のことが見破られ各界に ( ローをばらまけば、きっとそれを独占したいと考えるも たフシがあるというのです。 のが出て来る。″彼″はそれを待っていたのです。 斑目は慌てていました。 ″彼″は、その時こそ、信じられないほど恥知らずで、悪魔的な取 今、ハローのことがばれては大変なことになる。しかも現総理派引が行なわれるときだと、かねてから話していました」 「恥知らずで悪魔的な取引き ? 一体それは何です」 の陣営もハローを手に入れるために動き出したという情報があるが 本当かと聞くのです。 「わかりません。しかし″彼″は果しない欲望を持っています。生 私は、そんな事実はないと答えました。 半可な代償で交渉が成立したとは思えません」 しかし彼はそれでも心配でたまらないらしく、イライラしていま重苦しい沈黙が続いた。 したが突然、こんなことをいい出しました。 「とにかく取引きは成立しました。それと同時に ( ロー商会は解散

6. SFマガジン 1974年10月号

そして、その男は窓の向うの鮮かなネオンの点減の中にともすれうしたのだろう。 ばかき消されそうになるのだった。 私が見た時、彼は二人のハローを持っ男をあい手に、少しも怯む 私は立上って、その男の方に近づいた。 ことなく堂々とわたりあっているように見えた。血色も良く表情も 「こんばんは、こんなに遅くまでどうしたのですか」 生々していた。 男はゆっくりと顔を上けた。 ところがどうだろう。彼はそうした面影を全て失って、ぬけがら そして淋しそうに笑いながらかすかに会釈をかえした。 のような男になっている。 その男を私は、・ とこかで見たように思った。 「病気でもしたのですか」 この笑い顔は私の記憶のどこかに残っている。 私は声をかけた。 それも、私にとって大変重要な場面に、この顔があったような気「いいえ私は元気ですよ、ただハロー がする。 彼は慌てて口をつぐんだ。 一体誰だったろうか。しかし思い出せない。 大きな秘密を口にしかけて、慌てて口をつぐんだという感じだっ 「何か私にご用ですか」 じっと顔を見つめられて、男はか・ほそい声でいった。 長い沈黙が続いた。 「私はあなたをどこかで見たような気がする」 広い出演者ロビーも、昼間の喧噪が嘘のように静まりかえってい 「そうでしよう。私はこのロビーにはいつも出入りしていましたかる。 ら」 私は思い切って口を開いた。 「このロ・ヒーで ? 」 「あなたはハロー商会の方ではありませんか」 私はもう一度彼の顔を見た。 男の顔は見る見る蒼白になった。 そして思い出した。 男はふるえる手でポケットからたばこをとり出した。 私が東とこのロビ 1 で待合せたとき、外山雄二と片桐五段が話し そして心の動揺を静めるために大きくたばこをすいこんだ。 合っていた。そのハローを背負った二人の男を相手にして、親しそ「い いえ、私はハロー商会のものではありません」 うに話しこんでいる中年の男がいた。 そういって、彼は決心のつきかねる表情で目をつぶった。 再び長い沈黙が続いた。 おだやかな笑い顔のゆったりした態度の人物だった。 「しかしー それが私の前にうずくまって坐っている男だった。 彼は思い切ったように口を開いた。 確かに白髪にも、太い眉毛にも見憶えがある。 それにしても、この二ヶ月足らずの間の、この男の変りようはど「しばらく前まで、私は確かにハロー商会の仕事をしていました」 こ 0 ー 05

7. SFマガジン 1974年10月号

荘厳な顔つき、衲衣をまとった豊かな胸、静かに教えを示す指の官を震撼させられたといういい 伝えがあるのです」 表情。どこからともなく威厳が漂い、見るものを圧倒する。 「眉間から : : : 」 そして仏像の後には巨大な光背があった。 私は、身体のふるえを押えることが出来なかった。 放射状に光を放ち、その一つ一つが光り輝いている光背。 仏像の威徳を示すための、仏像の眩ゆいばかりの神聖さ、偉大さ を象徴する光の輪。 光背の存在がどれほど釈迦如来像を神々しく、威圧的に見せてい 私の前に「ハロー商会」の謎がはっきりと姿を現した。 ることだろうか。 心理学者の私がハローに気がっかなかったのは迂闊だった。 「釈尊の法力の根源は、この光背だったのだろうか」 ハロー商会のハローは、光背、後光のことだったのだ。 私はそう呟いた。 心理学の対人認知に関する研究の中で、ハロー効果、ハロー現象 そうして、しばらく光背をじっと眺めていた。 とよばれる理論がある。 ある想念が私の頭の中をよぎった。 ハロー効果 ( 光背効果 ) とは、仏像を拝むとき、その身体から射 私は愕然として叫んだ。 す光に眩惑されてまともにそのものを見られなくなってしまうこと 「そうだ、光背だ。後光だ」 から命名された。 私は「東の奥さんと話しこんでいる住職のところへかけ寄った。 人物を評価する場合、例えばその人物が大会社の社長であるとい 「住職、一つ教えて下さい」 う先入観を持っと、その人物からハロー ( 光背 ) が現れ、ハローに 二人は、私の興奮した様子に驚いて、一斉に私の顔を見つめた。惑わされて正確な評価が出来なくなる ~ 「一体どうしたんですか」 ハロー効果によって、その人物は一まわりも二まわりを大きく 「教えて下さい。あの光背です。釈尊の後光は、どこから射すもの見え、さらに彼の行動までが全て正しく偉大だと思い込んでしま と考えられているのですか」 住職はしばらく私の顔から目を離さなかったが、やっと落着きを勿論、 ( ロー効果の理論によれば、 ( ローは原因でなく結果であ とりもどして立上った。 ハローがあるからその人は偉いのではなく、偉大な属性を持っ そして釈迦如来像の前に進み出た。 ているから、その結果としてハローが現れるのである。 びやくごう 「よくご覧なさい。白毫というのがあるでしよう。ほら仏さまの眉しかし、ハロー商会は何らかの方法で、 ( ローそのものを作り出 と眉との間にこんもりともり上ったものが。釈尊は悟りを開かれてし、人に与えることを可能にした。 大神変力を身につけられたとき、眉間の白毫から大光明を放ちて魔それはもはや、 ( ローを持つ人の人格や属性とは全く関係がな 8

8. SFマガジン 1974年10月号

しました。 とです。 ″彼″はすでにこの世界から姿を消したはずです」 . 私は、斑目と別れた後、しばらくこのロビーで時間をすごしてい ました。 斑目は自らの野望を遂げるために、何ものかを売り渡した。 それは、彼自身のものなのだろうか。それともやがて彼が統括し ハロー商会が解散したとなっては、私も今後の身のふり方を考え ようとするこの国の運命にかかわるものなのだろうか。 なければなりません。 「あなたが先程から″彼″といっていた人物は一体何ものですか。 以前にやっていた生命保険の仕事でもはじめるか、などと考えて もしかしたら : ・ : ・」 コーヒーを飲んでいたのです。 男は私の質問を手で遮った。 ところが、その時変なことに気がっきました。 「しばらく待って下さい。私は疲れました。″彼″のことはまた改昔から顔なじみだった人たちが、私の顔を見てもそしらぬ顔をし めてお話しましよう」 て通りすぎてゆくのです。 私も最初はみんな忙がこいのだなと考えていました。 男は立上って帰ろうとした。 ところが、いつも仲良く話しこんでいくウ土イトレスの女の子に ふらふらとした危つかしい足取りだった。 声をかけても、彼女はうさん臭い顔をして向うへ行ってしまったの 「大丈夫ですか」 私は思わず声をかけた。 私は不思議に思って化粧室の鏡の前に立ちました。 男は何かを思い出したように立止った。 そして背筋が凍る思いがしたのです。 「一つお願いがあるのですが聞いていただけますかー男はふりかえ って云った。 そこに立っているのは、ついさっきまでの私ではありませんでし 「どんなことでしよう」 「保険に入っていただけませんか」 醜く貧弱な中年男の姿が写っていました。 だが良く見ると、やはりそれは確かに私に間違いありません。 「保険 ? 生命保険ですか」余りに突飛な申し出に一瞬私はとまど っこ 0 その時、私はかってマイナスハローという言葉を聞いたことがあ るのを思い出しました。 「そうです。お願いをするためには、もう一つだけ聞いていただか ねばならないお話があります」 私の身体からはマイナスハローが出はじめていたのです」 男は、改めて坐りなおした。 「マイナスハロー ? 「あなたは私のみかけがずい分変ったことに驚いておられました「そう、マイナス ( ローです。あなたがお気づきになったように斑 9 ね。実は私もそのことに気がついたのは、ほんの二時間ほど前のこ目孝一や外山雄二はハロー商会からハローを手に入れました。 こ 0

9. SFマガジン 1974年10月号

ー 9 74 年夏 0 月号目次 7 ″。れ g 。〃 4 沱花イ枋 rm イ。れ , 角′ん 4 れ。な g れ群なろ e g ″ァ な : GOAT 50 Ⅳ G り Poul / 。れ , ◎ / 2. THE MEETING りイ“最 2 。んを CM. K 。 mb ん枋 , ◎ 72. り M ヮ . 特集汐一・〔九七 ( = 一年度ヒュいコ賞ノネビはラ賞 特別解説浅倉久志 ^ ヒューゴー / ネビュラ中短篇賞受賞 > ・アンダースン トラジェディ ^ ヒューゴー短篇賞受賞 > 愚者の楽園 ある決断 ネビュラ短篇賞受賞 > 変革のとき ^ ヒ . ーゴー中篇賞第ニ席 > 星虹の果ての黄金 - 、式気試気 新鋭か贈る意欲大作連載開始 ! 流氷民族 新企画巻頭小説第一一弾 I-L コンテスト受賞第一作 " ハロー商会 ・ < ・ラフアティ フレデリック・ポール & ・・コーンプルース ジョアンナ・ラス フレデリック・ポール 山田正紀 川田武 206 129 2 0 1 8 65

10. SFマガジン 1974年10月号

未来予測小説 , 幸田露伴作「番茶会談」 ウワサのを休むのですが、取引所や銀行も日曜を休みますのは訳 高い老人がわかりません。もしここに一大銀行があって、他の銀 を《を 1 " 、籤 ( 2 「をたずね行の休む日に休まずいたらどうでし = う。他の銀行が日 ることに 日に受け入れる預け金だけは、その銀行がその日に受け した。こ入れ得ることになるではありませんか。 ( 中略 ) 一日の商業の決算をすませて、まず幸に今日の総収入 て、少年資金にまわす分として、オイ小僧、常灯銀行へいって、 たちがい これこれの金はこれこれに、これこれの金はこれこれに ろいろ難預けてこいというようにすることができるようなわけに 問を浴びなります」 、 ~ 【要 4 せたり、 老人に意平和相互銀行や投入式の夜間銀行の出現が。ヒッタリ予 見を聞し測されているのだ。キミは知らなかっただろ。これがあ たりするというのが、この小説のすべて。その中で老人の露伴の小説なのだ。すごいだろい ( ちょっと、強制的 が話すことのほとんどが、科学技術を中心にした未来予すぎるかな ? ) 測になっているという趣向だ。そして、その適中率はき その次に予測されているのが、「盗難保険」の出現。 わめて高い。「電力の無線輸送」という独創的な話をしぼくも知らなかったけれど、この時代には盗難に対する た後で、老人はこんな話をする。 保険はまだなかったのだ。加えて保険会社と警備保障会 社の業務を同時にやる「民設盗難保険会社」の出現予 「どうせ現在にないことは、現在に不必要と思われた測。これは、まだ実現していないが、やがて現実になる り、無理なできぬ相談と思われたりすることであると思 かも知れない。その他、駅の「移動昇降場」「無機関 ってお聞きなさらなくてはいけません。たとえば銀行車」「圧搾空気製造会社」「空気力車」など、数々の新 で、もしここに常灯銀行というのがあって、執務時間を発明、珍発明が予測され、「なるほど」と思う部分が多 他の銀行よりずっと長くしたと考えてごらんなさい。そく、少年向きという制約はあるが、なかなか楽しい物語 の銀行のために商業界はおそろしい刺激を受けますよ。 になっている。今では各地ですっかりおなじみになった 今の銀行は休日が多すぎます。日本では日曜を休む商家「単軌鉄道」すなわちモノレールの出現予測の部分があ やそ は少ないのです。社会は耶蘇教国とはちがいますから、 る。これを読んでみよう。 日曜でもなんでも活動しています。学校と役所とは日曜 2 8