思っ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1974年10月臨時増刊号
259件見つかりました。

1. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

陸つづきだった 0 て、放射能のある無人地帯にかこまれてこまぎれカサカサにひびわれ、目はどんよりとうるんで、二の腕は骨が浮き になった土地の集まりなんかじゃなかったって。そして農場や食糧だしている。 や湖や河があ 0 て、人は空を飛んでよその土地へ行ったって。どう男たちが近づいていくと女は体をちちめ、罵声をあげ、身を守る してこんなことになってしまったの ? どうしてみんな死んでしま決意を示した。あの女にはわかっていないんだ、とカッターソンは 思った。強姦されると思いこんでいる。 ったの ? あたしたち、これからどうなるの、ポール ? 」 ( ラ。だれだってわからないと思う . よ」かれ汗が体じゅうに噴きだした。飛びだしそうになるのを必死にこら 「わからないよ、 えながら目前の光景をひたすらに見つめた。四人の屠殺人は女をと はものうげに蝋燭の火を吹き消した。闇が部屋を呑みこんだ。 りかこんだ。女は唾を吐きかけ、蹴爪のような手を振りまわした。 とにかくかれは = = オン広場〈フラフラと戻 0 たのだ 0 た。そし男たちはゲラゲラ笑いながらその手をつかんだ。そして路上にひ て十四番通りに立 0 て体を前後にゆすりながら、餓えの最初の徴候きずりだした、女の悲鳴が耳をつんざいた。ナイフが閃いた。カッ ターソンは体をすくませ歯をくいしばった、ナイフは獲物を仕止め であるあの頭のポカンとしたような感じを味わっていた。通りには 数人の人間がむつつりした顔で、それそれ行かねばならぬと思いこた。 「袋に入れろ、チャーリイ」だみ声がいった。 んでいる方角へむかって歩いていた。陽はまだ高くあかあかと輝い カッターソンの目は怒りのために曇った。マローリイおかかえの ている。 たしかにマローリイの手の 物思いは突然、叫び声と・ ( タ・ ( タという耳なれぬ足音によって中屠殺人を見たのはこれが最初だった 断された。軍隊でたたきこまれた教育のおかげでかれはと「さに手ものだとかれは思った。腰にさしたナイフ、手垢のついた鞘におさ 近かの溝にとびこんでいた。いったいなにが起ったのかといぶかりまったナイフをさぐり、四人の屠殺人に襲いかかろうと腰を浮かせ かけて、かれは正気にもどり、また溝の中にしやがみこんだ。 ながら溝の中に身をひそめた。 これほど早く ? 人肉嗜食が飢えるニューヨーク市にここ数年来 一瞬のち外をのそいた。カッターソンぐらいの体格の四人の男 が、ひと気のなくな 0 た通りを右往左往している。中の一人は袋を徐々にひろがっているのはカッターソンも知 0 ていた、死者の亡骸 だがかれが知るかぎ が、無事墓地まで行きつぐのはまれだった かついでいた。 りこんなのははじめてだった。生きている人間を路上で襲い、屠殺 「あそこにいるそ」袋をもった男がどなるのがきこえた。崩れたビ するとは。かれは身震いした。生存の競争は、すでにはじまってい ルの蔭にひそんでいた若い娘を四人の男が見つけだすのをカッター ソンは呆然として見つめた。 9 四人の屠殺人が三番通りのほうに消えると、カッターソンはそろ 9 女は痩せおとろえた青白い顔をして、せいぜい二十くらい、他の 世界に生まれればき 0 と美しかったにちがいない。頬はおちく・ほみそろと首をもたげ、四方に目を配りながら路上に這いだした。これ こ 0

2. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

アランはやっとのことで、「ほう ? 」と合の手をいれた。彼は漠 誰も口をきかなかったが、しわくちゃの服の、血をこびりつかせ こた た男たちが進みでて、アランの声に応えた。 然と当惑をあらわして、博士の痩せた顔を見つめた。 「ささいな事件だと思うかね ? 」マックスウエルはグラスをほして これは宇宙が始まって以来の重大な出来 新聞は、研究室の爆発事故を詳細に報道した。ダン教授の偉業を続けた。「とんでもない。 ほめたたえ、彼が死んで、その深い知識もい 0 しょに去「てしまつ事だとわたしは信じている。植物には、ある本能的な思考力がそな わっていると認められておる。そうだね ? 」 たことに哀悼の意を表していた。 アランは眉をひそめて、ゆっくりとうなずいた。 というのは、アランはこの実験のあらましを知っていたが、父の マックスウエルは続けた。「同時に、植物は最も低級な知性をも ノートから物質をうみだす精神の秘密を再発見するには、これから った生命体でもある。これよりもう少し知能があるのは、微生物だ 何年も研究を続けねばならないからだった。 アメーバ クルマムシなどだな。その次が動物、その上が人間 どちらにせよ、彼には研究を続ける気はなかった。父を殺し、そ だーー人間が一番高級だ。さて、ある力が、知性の低い生物から順 のすぐれた研究に突然の終止符をうった事故は、アランに苦々しい に、その思考力をうばっていきつつあるとしたらどうだろう ? ま 思いをさせ、その研究をこれ以上進める気を失わせたのたった。 その代わり、アランは普通の物理学の研究に力をそそぎ、父の機ず、植物が成長をやめ、やがて、消えた。自分らが存在しているこ とを理解する力を失ったからだ。そうじゃないだろうか ? ー 械はほったらかしにしておいたーーーある日、突然にマックスウエル アランはびつくりした。「そうかもしれません。でもーーーでも、 博士が訪ねてくるまでは、そうだった。博士はとても厳粛な顔つき だった。彼はある重要な出来事に気づいて、忙しい教授の仕事を放どういうことなのですか ? 」 マックスウエルは熱心に身をのりだした。「わたしの考えている りだし、三千マイルの彼方からやって来たのだった。 アランは少し当惑しながらも、博士を家に招じ入れた。飲物のグのは、こうなのだーー君のお父さんの実験が、この人知を超えた恐 ラスをうけとったマックスウエル博士は、まじめな顔でアランをしるべき災厄の原因ではないだろうか。わたしはあの実験以来、君の っと見つめた。 お父さんは科学者としてたいへんな能力を持っていた、と固く信じ 「アラン、わたしがここへ来たのは、カリフォルニアでたまたま目るようになった。あの事故以来、思考エネルギーを解放すること以 撃したある事件のためなんだ。それと、今考えている驚くべき仮説外、わたしには何も考えられなくなってしまった。だが、お父さん のせいでもある。手短かに言うと、この国のいろんな場所でーー特は、原子を分解する代わりに、思考エネルギーを、それが生まれで にカリフォルニアに顕著なのだがーーー低次の植物が成長をやめてしる以前の状態にまで戻してしまったのではないだろうか ? 物質の まったのだーー今、とまっているのだ。この成長の激しかるべき季分子とそのエネルギーを完全に破壊してしまった場合には、この宇 節にだ ! それだけではない。消えはしめたのだ」 宙はゆっくりと崩壊していくことだろう。科学が完全に証明してい 2 に

3. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

返す目には、明らかな敗北感があった。ぼくも、それをすぐに感じ・ヘたを這いずりまわることも、敢て辞さなかったにちがいないの た。負けたと思った。この雰囲気の中で、侵略者よ、消えてなくな れ、行っちまえと、叫びだす気力は絞りだせそうもなかった。かり だれが最初に手をだしたのか、わかりはしない。 ほんの にそうしたところで、日本人自身からの反撥を受けるのが関の山だ恐らくは、ほとんど同時に、何人かが、おずおずと っこ 0 二、三個の寿司を、わずか三、四切れの蒲鉾を、そして、一すくい ばくはもう一度テー・フルの上の寿司や蒲鉾に視線を戻した。な・せのきんとんを、そこに出してあったナプキンに、遠慮しいしい、そ そのとき、・ほくが、いきなり妹のことを思いだしたのか、わからな っと包んだのだろう。もちろん彼らは、それだけで満足して、もう い。少なくとも、それまで、妹のことなど全く頭の端にもなかったそれ以上自分のロに入れようなどとは、決して、思いもしなかった のだ。ただ、妹が、まだほんの子供のとき、ばくが全くの偶然からのだ。この追い詰められた、貧しい、あまりにもと・ほしい食料事情 どこまで、いつまで続くのか誰にもわからない、生涯抜け出ら ヤミ商人から手に入れたほんの二切れ三切れの蒲鉾を、この世にこ んなおいしいものがあるのか、といった表情で大切そうに食べてい れそうにない栄養失調の日々の中にあっても、これほどの善意に光 た、そのときの光景が目の裡にカラーヴィデオのように鮮明に甦つり輝く贈り物を前にして、それほどさもしい根性を発揮できる人間 てきた。そしてぼくは、それを妹に食べさせてやりたいと真剣に思は、そこには一人もいなかった。 ああ、それは、・ほくが保証してもいい。首を賭けたっていし そうだ : : : 彼らのほしかったのは、じつは二切れ三切れの蒲鉾で そのとき、そう思ったのは、もちろん、・ほく一人ではなかったの だ。いや、ぼくなどよりも、家に妻子の待っ世帯持ちたちは、おそも、寿司の二つや三つでもなかったのだ。それを持って帰ってやっ らく一人の例外もなくそう思ったにちがいない。その、宝石よりもたとき、無邪気に喜ぶ子の顔を見ることだったのだ。このところ、 美しく輝いて見えた・ーーじつはたいして生きのよくなかった赤い鮪減多に見ることもなくなった、妻や、親兄弟の、明るく輝やく顔へ の寿司を、見るだけで後頭部までじんと甘さの応えるてりのある栗の期待だったのだ。そんなちつ。ほけな、けれども、ほとんどこの世 きんとんを、せめて一個なりとも、せめて一口なりとも、わが子、からなくなってしまった幸福の幻影だったのである。 わが妻に食わせてやりたいと、思わなかった者は一人もいなかった人は、どんな苦境にあっても、ほんのちいさな、純粋な喜びを、 にちが つねに追い求めている。もし自分が、咽喉から手の出そうなこの欲 その瞬間、彼らは、自分自身の空腹や、欲望を、いっさい忘れて望をいっとき我慢して、これを持っていってやったなら、やつれ果 いや、恥も外聞も忘れた、誇りも虚栄心もかなぐり捨てててた妻の目に、ばつりと一粒、嬉し涙が浮かぶかもしれない。そし いた。その寿司一個、蒲鉾一切れ、栗きんとん一かけらを、妻や子て自分も、久々にーーああそれが、どれほど長い果しない時間だっ に持って行ってやり食わせるときの幸福を味わうためだったら、地たことかーー・・優しい夫らしい、親らしい、兄弟らしい心根を、思い

4. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

それでは先にの・ヘた二種類の破減ーーーっ化という傾向である。これも俗に表現すれも、ましてや地震や洪水によって亡びるこ とはない。ただ、そのような方向を予測す 7 まり予想され、想像された来るべき破減ば、猪突猛進、思いこんだら命がけ、どう と、それを避けようとして結果的にやってにも止まらないといえるだろう。たとえばる時、まず出現するのは強力な権力統制で くる破減ーーー・を結びつけているのはなんだマンモスにとって巨大な矛は身を守る武器ある。たとえば食糧が不足する場合、その ろうか。おそらくここでは次の二つの要因だった。武器としての牙は大きい方が強敵分配には強大な権力が必要となる。また食 をあげることができるだろう。 と戦うのに有利である。しかしこの方向に糧難におびえる人々はこのような権力の出 一つは「自己充足的予言」といわれてい 進化が進みすぎると、矛の先は自分の方へ現を肯定し、歓迎するだろう。そうして、 るものである。人間の社会にはこのような曲ってくる。こうなると武器としては役にびとたび強大な権力が肯定されれば、今度 現象が確かにある。簡単にいうと、自己充立たず、また巨大な牙の重みはかえって身はその権力が一人歩きをはじめ、とどまる 足的予言とは、多くの人が狼がくるそと思を減す原因になる。このマンモスと同じこ所を見失ってしまうのだ。地上に、このよ うな権力がいくつか現われたら、やがては それがまたひろまってゆくと、本当にとを人間もやっていることは誰もがすぐに 狼がくるということである。つまり予言は気づくだろう。もっとも適例は原水爆であかねて貯えた原水爆をも、自己の権力のよ 実現される。たとえば経済的な不景気と り以上の強化を求めて使うようになるかも る。ひとたび作られた原爆は増加し、強化 か、パニックを考えてみよう。多くの人が され、拡散していまだ止まるところを知ら知れない。このことによって人間は、最初 近く不景気となると考えていれば、自分だ ない。今は自衛の役にすらたたず、もし使に予測した破減とは全く別の破減に直面す けはその被害を免れようとして投資を手控用すれば自減があるのみの武器となってしることになるのだ。 え、事業を整理し、経費を節約し、等々の行まっている。あきらかに定向進化の例とい もし、私がこれまでのべてきたことが正 動をとる。その結果、本当に不景気が到来ってよい。原水爆に限らず、軍備は常によしければ、あらゆる形での破減について、 する。地震そのものにこのようなことはな り以上の強化を求めて際限がないし、独裁それを考える上での一つの指針をまとめる い。いかに大予言が地震がおこると予言し、政治はより以上の権力を求めてとどまると ことができる。ばく然と考えている限り、 多くの人がそれを信しても、実際に地震が ころがない。 考えうる破減には人間のカの及ばない自然 おこることはない。だが社会的な現象を考 この二つの要因、つまり自己充足的予言的なもの、運命的なものもありそうにみえ える場合は、常に予言の自己充足性という と定向進化をあわせて考えると、現在の破る。しかし正しくはこういうべきであろ 点を考慮に入れておかなければならない。 減ムード、終末予測の将来をお・ほろげに描う。人間こそが一切の破減の原因である、 くことができる。おそらく人類は異常気象と。ここに、すべての破減を考える上での もう一つの要因は生物界にみられ、人間 のすることにもしばしばあてはまる定向進によっても、食糧不足、資源不足によって出発点と結論とがあるように思われる。

5. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

Oh go away, Oh ye invad er く、無限に、白い雪の断片が生まれて、くるくると舞いながら落ち Dirty and ugly swain てきた。 Oh go away 0h go away wherever 「ホワイト・クリスマスだ ! 」 Go and be dead, born the devil from hell どこかで、はしゃいだ英語の声がした。見やると、通りかかった GO away, let us hate thee, 二人づれのアメリカ兵らしいのが、空を見あげながら、喜々として Let us hate thee, 雪片を両手に受けたりしていた。故国を思いだして、懐かしがって 、》 e invader 一 いるのかもしれなかった。 「 Oh come, oh 第 fathfull の調子で歌うんだ。将校クラ・フで、イ ヴのパ 1 ティが最高調に達したとき、連中の前で、大声でこいつを 3 歌ってやるんだ」 分部が、低くメロディを誦みながらいった。興奮していた。 「あいつらに、吠え面かかしてやるんだ」 ばくは、ややあっけにとられたかたちで、二人を見返した。する ふいに、上保が、腹の底からしぼりだすような声でいった。 「そうだ。やつらが、一番大事にしているものに、泥をぬりたく 0 と上保が、ぼくの手から紙片を奪い返すように取 0 て、い 0 た。 「わかってるよ、いいたいことは。情けない復讐だといいたいんだ て、目を覚まさせてやるんだ。それには、これが一番なんだ」 ろう ? 」 分部が、青っぽい笑みでロの端を歪めながらいった。 ぼくは何もいえずにいた。まさにその通りに感じていたからだっ ぼくは何のことかわからずに、二人を見返した。 「何をしようというんだ ? 」 「だが、考えてみろ。お前がさっきやろうとしたこととくらべて、 「讃美歌のかえ歌を歌うんだよ」 どっちが情けない ? 」 「かえ歌を ? 」 ・ほくは胸をえぐられ、喘いだ。 すると上保が、左右をちらりと見やり、だれも見ていないのを確 かめた上で、ポケ ' トから、何重にも折 0 た、一枚のよごれた紙片「まだこの方がましだ。いや、それどころじゃない。お前は、この を取りだした。それは、楽譜だった。『神の御子は』と書いてあ歌を、おれたちが歌ったときの、やつらの顔が想像できるか ? や つらは、教会の聖歌隊に入っているものは、みな柔順な大だと思っ る。イヴに、合唱隊が、必ず歌うことになっている讃美歌の一つだ ていやがる。敬虔なクリスチャンだとまでは思っていなくても、少 なくとも、彼らのえせヒューマニズムに甘えて寄ってくるおとなし 5 楽譜の横に、ポールペンで、英語のかえ歌が書き込んであった。 い日本人だと思っている。そいつらに、煮湯をのませてやるだけの コワイア

6. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

「ほくは古狸さ。古参者の持っ優先権ってやつがたつぶりある 「まだ自分のデスクへ行っていないんだな ? 」 んでね。きみのほうはどうなんだ ? 」 「ああ」 「冗談はいっていないよ。八百ドル以上取っている連中は十パーセ「免罪符があるさ。ひと月に百ドル近くも、それで取られることに なるがね : : : 痛いよ」 ントけずられるんだ」 「・ほくはまだ、そんなことはやらないと思うんだが」 レイは答えた。 レイはいった。 「だれもそんなことを我慢したりはしないぜ。技術者が不足してい 「当然さ。いますぐじゃなくても、圧力がこれ以上たかまったとき る時代なんだぜ。維持管理をやる技術者がいないというんで国じゅ ういたるところでがサイロの中で錆びついている : : : それにはな。きみはいう、こっちが会社の痛いところを握ってるんだと ね」かれは椅子に背をのばした。「・ほくの見るところ、これは生命 ほどのひどさなんだ。だれもかも、やめちまうよ」 「ほくもそんなことはできないと思うがね。トラック班のラモン・体としての現象だ。社会がこれほど複雑化してくると、より多くの 技術者を作り出さなくてはいけなくなる。だがそこにはフィード・ハ ロベスが今日、高圧碍子をホースで洗っていて死んだよ」 ック回路が存在する。技術者が多くなればなるほど、社会はより複 「ほんとかい ? 」 雑になってくるんだ。ひとりふえると、もうふたり必要になってく エディはその事故のことを説明した。 る。・ほくは、はっきりしないが、どうも生命力といったような感じ 「あいつが死んだのは痛いな」 をお・ほえるんだ : : : オートメーション工場というようなところ入 電話が鳴った。 ってゆくとね。ああいう機械のすべて、電子製置の全部は、生きて レイはいった。 いる組織の中の細胞みたいなもんだ : : : そして、その組織は毎日成 「・ほくが出るよ」 長してゆき、・ハクテリアみたいにふえてゆくんだ。そしてそれは常 かれは一分ほど聞いてから受話器をおいた。 ・レイク地区で停電だ。・ ( スの・フレーキが故障して、電に病気をおこしており、われわれは医者なんだ。それが仕事を絶対 に必要としているゆえんさ。われわれは未来の波に乗っているん 柱の上のほうをこわしちまったんだ」 だ。連中が給料を削減しておけるはずはないね」 エディは坐りなおした。 エディは、つこ。 「きみが行っても無意味だな。高速道路がかたづくまで地上の通り 「きみのいうとおりならいいな」 が混むから、トラックは六時半ごろにならないとそこへつかない 七時十五分になってやっと夜勤の監督が到着し、エディは解放さ 「そのとおりだな」レイは、コーヒーをむつつりと飲んだ。 . 「きみ れた。ビルを出るときかれは、通りのむこうで盗難報知器が鳴って が見に行くってのかい ? 」 オールド・ダイマー 6 5

7. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

ったんだ。ばくらのテレバシーを大結集して、大気圏内のサプミクを描いていた。 ェアコンはほどよく効いているのに、私はうっすらと汗をかいて 4 ロン・エアロゾルを消減させ、日射量を増やし、地球の寒冷化を防 ぐなんていう大計画は実行できやしないんだ。いや、もしこの無限いた。この種の患者の相手をすると、いつもこうなのだ。夕方にな の力を、十二分に発揮することができれば、テレバシーを一億五千るとぐったり疲れて、何をするのも嫌になることさえある。そうな 万キロむこうの太陽にまでのばして、太陽黒点を拡散させ、日射 = ると、医者の不養生とか悪口をいわれそうだが、薬より何より、強 いアルコールの助けが必要になる。たぶん今夜もそうだろう。 ネルギーの絶対量を増やすことだってできるはずなんだ。・先生、わ なぜそんなに疲れるのだろう ? じっさいそれを考えると、妙な かりました、先生のお考えになっていることが、どんどん、水みた いにぼくの心の中に流れこんできます。嬉しいです。嬉しいです、気持に、いつもなる。この種の分裂病患者は、じつは、驚くほど穏 : ・ほくを、一時記憶喪失にしたのも、先生だった和なのである。そして、ほとんど例外なく知的水準もかなり高い そうだったのか : んですね ? ・ほくをいっぺん完全な白紙にもどして、心を・フランクまちがっても、粗暴な振舞いをするような患者は一人もいない。そ れに、たいていの場合は、社会人として、あるいは学生として、ほ にしておいて、これを悟らせてくれるのが狙いだったんですね ? ああ、先生ほど深く、先の先まで見通して、しかも最後の瞬間までとんど何の支障もなく日常生活を営んでいる。外見上は、まったく だれにも気づかせずに、思い通りのことのできる方なんて、この世普通人と変らないのだ。 に存在するとは思ってもみませんでした。でも、修業しだいで「研たぶんそのせいだろう、たいていの場合、患者は、だれにもいわ いえ、その十分の一でもいれず自分から進んでわれわれのところへ診断を求めてくる。だか 鑽しだいで、ぼくも、先生のような : 、本当にすぐれた超能力者になれるんですね。やります、本当にら、私など、最初のうちは、相手を、患者本人でなく、患者のため に診療相談に来た第三者だと思いこみかけたことが間々あった。そ やります、ああ : : : ・ほく、また酔ったみたいになってきました ふわふわと、光がいつばいの空中を飛んでいく . ような気がします。れほど、彼らは、穏やかで、礼儀正しく、ノーマルに見えるのだ。 大きなまるいものがある : : : これは何なのだろう ? - 何かわからな従来の分裂病患者のような、外的徴候はほとんどといっていいほ しいものにはちがいないんだ。すばらしい、すばど見当らない。それなのに彼らは、およそ寄想天外な幻想を抱いて いけど、三角より、 いて、その幻想と、現実とをとりちがえているのだ。ただここでい らしい、すばらし、 っておかなければならないのは、奇想天外といっても、いわゆる分 患者は、まだ喋りつづけていた。いや、そのつもりらしかった。 だが、それはロもとのかすかな痙攣からわかるだけで、もう声には裂病者のそれのような支離減裂さは全くない。それどころか、きわ ならなかった。鎮静剤の効果があらわれはじめて、眠りに入ったのめて理路整然としていて、一貫性があり、へたな小説より結構がと だ。私はデスクの上に時計を装っておいてある脳波計のところまでとのっている。まあ、確かに、今日の若者のようなちょっと出来す ってみれば作り話ではないかと思うほど典型的なケース 行くとスイッチをおした。患者の脳波はきれいなデルタ・ウェーヴぎた、い

8. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

が科学に対して貢献したことこそ大切なのだ ! 精神は対消減させ 真空と同じように」 ることができる。今のところそれをやるつもりはないが、死ぬまで 「普通ならば、そう言えるじやろう」ダンは認めた。「しかし、こ には、精神の亜原子工ネルギーの解放をやってみたい。そのために の研究所を見ればわかるとおり、ここにそなえた機械は、不完全な サーモ・ ( イレ わしは一生をささげた」 人間の機能をおぎなう働きをするものばかりだ。たとえば、熱電堆 アランは、父の半ばあざけったような、光り輝く眼をじっとのそというものは、人間には感知できぬ月の表面の温度を記録すること きこんだ。老人は皮肉つ。ほく笑った。 ができるが、わしの作ったある特別な装置によれば「精神自体の震 「まだわからんのか ? 」と、クスクス笑った。 動を記録することができる。精神はさわれないものではないのだ」 「わかりません。お父さんのなさっていることがわからなくても、彼は満足そうな嘆息をついて、一瞬、椅子の背にもたれた。「わし 驚くにはあたりません。でも、精神波の亜原子工ネルギーというのが発見した事実を知ったら、マックスウエルじいさんなど、でんぐ り返って驚くことだろうて ! 」 「わしの言ったのは、それだ。死ぬまでにその偉業を完成させてみ そのとおりだった。彼は、ダンにとって一番辛辣な批評家で、心 せる。 いいか、よく考えてみろ ! 精神エネルギーだそ ! 物質を理学の大家であるランドルフ・マックスウ = ル博士をやつつけるタ こんにち 形づくる原子からエネルギーをとりだすことなど、今日ではごくあネはないかと、四六時中眼を皿のようにしていたのである。 たりまえのことになっている。そのへんの砂を数ポンドもってき アランは、一瞬考えて、訊ねた。「もしーーーもしもですよ、お父 て、エネルギーをとりだし、巨大な機械の動力としている。物質にさんに万一のことがあったらどうしましよう ? 縁起でもありませ エネルギーが内在していることは明らかになっている。そして、物んが、一応考えておかねばなりません。僕はどうすればいいんでし 質と精神とはつながっているのだ。考えてもみろ、精神原子一つか ら思考エネルギーをとりだすことができるのだ ! 」 「研究が完了する前に、わしの身に何かが起こっても、おまえは何 「でも、それは不可能です」アランは疑い深い声で叫んだ。「そんもせんでよろしい。たかだか数週間で、おまえの頭に五十年分の知 なーーーそんな途方もない、・ハ カげた話がありますか ! 思考を手に識をつめこむことはできんのだからな。おまえには、わしのごとき することはできないし、それを分析することだって不可能です」 直感力はない。天才の才能というのは、通常、親から子へはうけっ 「いや、そう思うのは、おまえが若いからだ」老人がとがめるようがれんものだ」 に言った。「わしは半世紀もの間、それが可能であることを証明す「そうかもしれません。でも、どうやって精神 = ネルギーの解放を るべく努力を重ねてきたのだ。おまえのような子雀にとやかく言わおこなうのか教えてくださらないのですか ? 」 れるすじあいはないわいー ダンは白髪頭をふった。「うむ。一つには、そんな時間はもうな 「でも、どうやって ? 思考にさわることはできません、ちょうど いからだ。いま一つには、すべてを終えるまで黙っているつもりだ 8 2

9. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

チグジョ 俺は「ヂグジョー、。 ー」とつぶやきながら、大西洋に沈直径が二メートルほどもある蘭花ちゃんの超ポインならぬ、黒いお んだ幻の大陸アトランティスの紫水晶の洞窟に住んでいたといわれ釜ーーあの飯をたく釜ーー・状の物体が、半分ほど土の中にめりこむ る骨なし人間が、水洗トイレのひもをひつばるようなかっこうで、 ような格好で落ちていた。俺はその黒釜が、今しがた大音響と大震 グニャグニヤと動きだした。 動を起こした犯人であることがすぐにわかった。直感的にそう思っ 俺はようやく起きあがった。いつもなら下階に兄夫婦と子どもた たのだ。ひょっとしたら、俺は超能力の持主なのかも知れない。 ちがいるので、少々のもの音がしても俺だけは最後までしぶとく寝そういえば、これまでにも俺はなん度自分が超能力者ではない ているのだが、兄たちは三日ほど前から田舎の親戚に遊びにいってかと思われるような体験をしている。会社で仕事のミスをして社長 しまったので、今朝ばかりは自分でなにが起こったか調べなければに怒られると思ったら、その通りになった。好きな彼女にきっとふ ならない。俺はシマのパジャマのかっこうのまま雨戸を開けた。すられると思ったら、みごとふられた。いつだって俺のカンは当るの ると、隣家の人びとが二階の窓から顔をだしたところだった。もちだ。そうだ超能力者にちがいない。ュリ・ゲラーもびつくりだ。 ろん蘭花ちゃんもいた。彼女は。ヒンクのうすいネグリジェ姿で窓か「な、なんだ、ありやい」 ら半身乗りだしていた。腰から下は見えないが上半身は下着をつけ俺はすっとん狂な声をだした。 ていない。 「あれ、オカマよ」 俺は思わず、「ああ ~ つ」と感きわまってイヤラシク呻めいた。 蘭花ちゃんが、はち切れそうなポインをぶるるんとふるわせてい 蘭花ちゃんの中華マンジュウみたいな白いほんわかした超ポイン が、今にもこ・ほれ落ちるのではないかという 、非常に可能性の強い 「オカマ、なぜこんなところにあるのか ? 」 錯覚にとらわれたのだ。 陳さんが聞いた。知るもんか。俺のほうが聞きたい。俺はついさ 「おはよう ! 荒熊さん。今、すごい音したね」 つきまで、地球が北千住駅のコイン・ロッカーに沈没するスケール 陳さんがいっこ。 の大きなバカバカしい愚夢を機嫌よく見ながら眠っていたのだ。な 「本当ですね。大仏の屁みたいな : : : 」 ぜ、黒釜があるのかなどといわれたって答えられるわけがない。 いいかけて俺は言葉を止めた。蘭花ちゃんの前で下品な言葉次に俺がとるべき行動はなにか ! すぐに結論がでた。カシオミ はつつしまねばならぬ。それが冥府魔道死生順逆の境に生きる男の ニで計算しなくてもすぐに答えがでる。調べるのだ。なにが起こっ エチケットだ。 ーマンに姿を変えることはできな たのかを ! 俺はただちにスー 「おおせの通り、なんの音でござりましようか ? うーむ」 かったから、シマのパジャマのまま階下に降りることを決定した。 俺はそういいながら、無意識に目を下に向けた。 たとえ、なに者であろうとも、俺の日曜日の朝の安眠を妨げるも とととと ! 昨日まで赤い・ハラのアーチのあった庭のまん中に、 のは、正義と真実とシマのパジャマの名において、俺ーーー荒熊雪之

10. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

「前に見た古いものをずいぶんたくさん使っているよ。でもときど聞いていないし」 きは新しいものもやるんだぜ」 「給料支払いがまだみなひどく混乱しているんだ。だれかが新しい 5 エディよ、つこ。 機械のまちがったボタンをおしたんで、五万枚ほどのパンチ・カー 「その話はまたこんどにしようじゃよ、 オしか、ラリイ。おいおい、もドがオフィスじゅうに飛び散ってしまってね」 「まあ、たいへん ! 貧乏な人はどうするの、銀行預金のない人は うそろそろおまえはべッドに入る時間だそ。勉強はすんだのか ? 」 「読書報告だけ残ってるの」 「待つだけさ、ぼくらが待つように」 「じゃあそれをやってしまって、それから : : : 」 ロイスはいった。 「図書館にある本を読まなければいけないんだよ。先生に指定され 「あなた、ひどい一日だったのね。わたし、わかるわ」 たんだけど、貸し出してくれるだけの数がないんだって。それでぼ 「いや : : : それほどでもなかったと思うよ」 く聞きたいことがあるんだけど、エディ 「まだ土曜日にも働くの ? 」 「お父さんは疲れてるのよ。夕食もこれからだし。来て、・エディ。 「たぶんそうなるだろうな。何も聞いてないが。月末がすぎれば楽 すぐに用意するから。ラリイ、あなたはもうすんだでしょ : になるかもしれないよ」 ヴァレイ 「あなたいってたわね、そんなに手不足になるのは渓谷での新しい 夕食のあと、エディは新聞にもどった。タイムズの夕刊だ。八ペ 1 ジに減っており、ほとんどが広告だった。最初の。〈ージには余儀建設工事のせいだって」 「それも理由のひとっさ」 なく定価を上げることになったと告げる社説が出ていた。 「それができあがる予定は : : : 来年になってからのことじゃなかっ ロイスはいっこ。 たの ? 」 「また値段を上けるのね、取るのをやめるたけのことだわ : : : あな 「いまのところ、八十一年の終りさ」 た、フロリダでの飛行機事故のニュース読んだ ? ひどいわね 2 「エディー わたしのいうことを聞いて ! ゆっくり顔を合わせて どうしてそんなことになったのかしら ? 」 いることもすくないんだから。あなたこれからの二年間、超過勤務 「金属疲労だろうな、たぶん。使ってから二十五年になるジェット などしないでもやっていけるから、もうしないで ! 」 機たからね」 「もちろんさ。今月がすんだらな。仕事の量も減ってくるだろう」 「会社はまったくそんな原因じゃないといってるのよ」 エディは答えた。 べッドに入る服装でラリイがやってきた。 「連中はいつもそういうさー 「お給料の小切手、今日こなかったわ。そのことであなたに何にも「エディ ?