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1. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

彼女いつも疲れやすかったのね」 「電話がないと島流しになったような気分だわ」 「聞いてなかったよ」 音楽にひとしきり耳を傾けたあと、ロイスはいった。 「ラリイは近頃、技術者になりたがってるわ。あなたのいった言葉「膵臓の内分泌活動が激しすぎるためですって。それでその治療法 っていうのが、あなたの考えることとは正反対ときているのよ。あ でかしら、ほんとこ、 冫しいことかもしれないわね」 なたにはきっと想像がっかないことだと思うわ。食事のときに砂 エディは顔を上げた。 糖の量をふやすと、それだけ内分泌が激しくなって、低血糖症がひ 「どうしてまた、とっぜん ? 」 「先生のひとりが、あなたのいっていたことを話したのよ : : : 技術どくなるんだって。あなたのような技術者がいうフィード。ハックっ て、それでしよう。とにかく : : : お医者さんたちの取っている方法 者の不足はふえるいつ。ほうだってこと」 「あいつは宇宙飛行士になりたがっていたものと思っていたがー は、食べる砂糖の量を減らすことなの。そしてしばらくすると膵臓 はふつうの機能にもどり、患者はよくなるってわけね。あなたには 「あなたラリイがどんな子か知ってるんでしよ。先週のことなの。 先生がいったのね、われわれはもう宇宙計画を始めないんだって。想像もっかないことだっていったとおりでしよう ! 」 た、ぶたってからエディは非常に低い声で答えた。 あまり費用がかかりすぎるし、そちらにさくだけの技術者も資材も 「おう・・ : : 」 ないからってね」 「現在のわれわれは : ・ いや、いまどきの若い連中、学校を出てく る若い連中だが : : : 教育というものを受けていないんだな。それで十二時をまわってすぐ、ふたりはべッドに入った。 まあ、・ほくはときどき思うよ、連中の失敗をなおすことで仕事の能「わたし、このごろ : : : 」ロイスはそういいかけ、ロごもった。 率がより悪くなっているんだとね。こういうことがみな、いつにな「どういったらいいのかしら。落ち着かないの。株は今日もあがっ ったら終りになるのか不思議に思うこともあるわ」 たわ。また史上最高ですって。また不景気が来ると思う ? 一九二 火事現場からのニュースがもっと入った。 九年のようなのが」 消防士たちは苦闘していた。水道本管がふたっこわれ、水圧が落彼女はそばに横たわっているエディが闇の中で体をかたくしたの ちているのだ。火災はガス本管の爆発によっておこされたものと伝を感じた。かれは低い声で答えた。 えられた。強まってゆく風は夜明けまで弱くなる見込みがないそう「いや、そうは思わないね。不景気が来るとは思わないよ」 だ。 部屋の中は温かかったが、彼女はなんとも原因のわからないふる ロイスはいっこ 0 えが無意識のうちにおこったのをおさえられなかった。とっぜん彼 「ほんとにべックと電話で話せたらいいのに : : : あら、あなたに話女は、もうどんな質問もしたくなくなった。 したかしら ? 彼女の妹さんが低血糖症だってわかったの。それで風は窓をゆるがしていた。

2. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

ここへ、汗水たらしながらやって来たという訳だよ」 「それに、先日の・・での活劇も知っているよ。あんたの耐 「よく分らんな、まだ」ミンは投げ出すように言った。 久力、闘争力を立証する絶好の材料だ」 「そうかね ? あんたの頭のめぐりはそう悪くないと思うがね。コ 「何だと ? ではあれはおたくたちがけしかけたのか ? 」 ンビュータのソフトを扱える人間がそうである筈はなかろう」 「 : : : さあね。忘れたよ。ともかく、あんたは、自分の中でこ。れ以 ゆず 「ずばりいおう」牧師面が引き取った。にこやかに笑みくずれたま上譲れないという線を持っていて、それを守るためには断固戦いぬ まだった。 くタイ。フの男だ。われわれはそんな男を探していたのだ。 「われわれはその謎をあんたに解いてもらいたいと思っているの それに、こんな仕事にはズプの素人だという点も好ましい。いわ ヴォランティア だ。志願者になりすましてセンターへ潜入し、そのからくりをさぐゆるプロフェッショナルはすべて″アルテミス″の・フラックリスト り出し、そして脱出する」パチリと指を鳴らした。 に載っていると考えてよかろう。あんたならかれらの死角にらくら 「それだけの話だよー く潜りこめるというものだよ」 「軍隊以上の強力なガードをかいくぐってか ? じっさい、簡単よ オ「口説きが達者だな。俺にもっとまりそうな気になって来たよ」 話だな、そいつは」 「そう来なくてはな」ほとんど揉み手をしかねない様子で牧師面は 「あんた、二年分の食いぶちを楽して稼ごうと思っちゃいないだろ言った。 うな」小男が言った。 「それにあんたをすつばだかのまま連中の顎のなかに放り込むつも ジェイムズ・ 「しかしな・せ俺を ? 俺の名はミン・イエローだ りはない。本部へご足労願ってそれなりの準備をととのえる。なに ポンドじゃない。せ」 しろわれわれの切り札なんだからな」 「分っている。しかし、われわれはあんたがなぜ失職したかを知っ 「ーーもう一つ聞きたい」ミンは、ほとんど傾きかけた自分の心を ている。むしろそのために目星を付けたといえるかも知れん。今ど感じながら言った。 き、人間としての誇りとやらのために仕事を蹴とばせる人間はきわ「さっきから耳にタコが出来そうになっているその″われわれ″と めて珍らしいからな」 、つのよ、、 をしったいどちらさまなんですかね ? 」 くわ ミンは眉をしかめた。それほど恰好のいい話でもない。詳しいこ「今は詳しくはいえない」ウインクとともに答えた。 とは想い出したくもない。要するに、コンビュータの部品 , ーーそれ「そうだな、″アルテミス″の存在をきわめてうとましく思ってい もごく末端の消耗部品ーー・でしかありえない毎日、それをも徳としる、某企業の代表とでも思っていてもらおうか。たとえば″アポ なければならない毎日が、ついに彼と相容れなかっただけの話だ。 ロ″と呼ぶのはどうだ ? 」 もっとも去りぎわに、彼の人格をついそ認めようとしなかった上司 どもと派手な立ち回りをやらかしはしたが。・ めぼし らく 298

3. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

「そうだそうだ、エメリック ! 」髯の大男がさけぶ。 番通りをかれのほうにむかって歩いてくるのが見えた。カッターソ 「そうとも」とエメリックはつづける。「われわれにできることをンは、軍隊での日々を思いだしてうつろに笑った。成人してからの 9 見せてやろうじゃないか。食べられるものなら、草の葉でも野にい かれはずっと軍服と兵士の特権によって守られていた。だがよいこ る獣でも靴の革でも最後の一かけまでさがしだしてかきあつめようとは長続きしないものだ。二年前の二〇五二年、相争ってきた二つ じゃないか。そしてなんとしても生きのびるんだ、四十七年の封鎖の半球を瓦礫の山と化したまま戦争は遂に終熄し、そして軍隊の大 と飢餓を生きのびてきたわれわれじゃないか。そしていっかトレン半は突如解体され無情な世間へほうりだされたのである。かれはた トンへ行き、そしてーーそしてやつらを生きたまま蒸し焼きにしてったひとり頼るものもなくニュークヨークの街にほうりだされた。 やるのだ ! 」 「犬狩りに行かないか」近づいてきたマローリイが笑いながらいっ わあっというどよめきが空気を震わせた。カッターソンは背をむた。 け、肩で群衆をかきわけあの二人の男と大のことを考えながら振り「舌に気をつけろよ、おじさん。腹がどうしようもないほどへった むきもせずに歩きだした。ュニオン広場の奐声が聞こえないところらあんたを食うかもしれないぜ」 まで四番通りをどんどん歩いた、それから、かってのカーデン記念「え ? あんた、やつらが大を追いかけているのを見てショックだ 碑の押しつぶされた残骸の上にやっとの思いで腰をおろした。 ったんじゃないかい」 大きな両手で頭をかかえこむ。午後からの出来事がかれをうちの カッターソンは顔をあげた。「そうとも」とかれはいった。「す めしていた。食糧はずっと以前から、思いだせるくらいずっと以前わるか、このまま立ちさるかどっちかにしろ、冗談はたくさんだ」 から欠乏していたスフェリストとの二十四年間の戦いが、この国かれはうめくようにいった。マローリイは残骸の上にピョイとすわ の全資源を消尽してしまったのである。戦いは果もなく続いた。先った。 制爆撃の最初の洗礼のあと戦いは消耗戦となり、双方の領土をひき「見通しは暗いね」とマローリイはいった。 つぶし瓦礫にかえてしまったのだ。 「もうおしまいだ」とカッターソンはいった。「おれは朝からなに カッターソンは食べ物らしいものも食べなかったがとにかく大きも食っていない」 く成長し、行く先々で生きのびた。かれの世代のアメリカ人は体格「どうして ? ゅうべの配給はあったし、今夜もあるはずだ」 も体力も貧弱だったーー子供たちは、生れながら栄養失調の老人の 「あれば、 しいがね」とカッターソンはいった。日はすでに暮れかか ように痩せこけて皺だらけだった。だがかれは大きく体力もあった りタ闇がひしひしおしよせていた。ニューヨークの廃墟が薄暮の中 ので軍隊に入隊できるという幸運に恵まれた。少くとも軍隊では食に不気味に浮びあがる。ねじくれた残骸、崩れたビルは、とうの昔 糧はきちんとあたえられた。 に死んだ巨人の幽霊かと見えた。 ねじまがったかなくそを蹴りあげたとき、小男のマローリイが四「あしたになればもっとひもじくなる」マローリイがいった。「も

4. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

0 な味覚と感触のストックは、この分野のどんな企業とも同じで、商売上の基本的な資産でありま す。そこから、およそ考えつく、ありとあらゆる組合わせを選びだし、混ぜあわせることができ 9 るのです。ですから、普通なら競争相手が造りだした、どんなものでも真似て造ることは困難で はありません。 ところが、アン・フロシア・ブラスの場合は、しばらくはわけがわからなかったのです。分析の あぶらみ 結果、この〈蛋白質を含む脂肉〉は、それほどの複雑さをもたない、ただの肉として分類された のですーーーただ、それがなんなのかが、はっきりしませんでした。うちの化学者たちがうまく いかなかったのは、後にも先にもこの時だけです。なにしろ、誰一人として、その食べものがど うしてそこまで魅力を感じさせるのが、説明することさえできなかったのですーー・ご存知のよう に、他の食品はこれに比べると、どれもこれもまずく感じられます。まるで : : : とにかく、先に 進むことにします。 議長、まもなく、三惑星食品会社の社長がここにみえます・ーー気が進まないこととは思います がね。たぶん彼は、アン・フロシア、プラスが、空気、水、石灰岩、硫黄、燐、それにいく種かの 元素から合成されているのだと主張するでしよう。たしかに、それが本当だというのは間違いあ りませんが、この際は、まったくどうでもいいことなのです。な・せなら、今ではわたしどもが彼 の秘密を知っているからですーー、それは、たいていの秘密と同じで、一度わかってしまえば実に 簡単なことなのです。 わたしは、わが競争相手に、心からのお祝いを述べなければなりません。彼は、とうとう自然 の事物から、人類にとって理想的な食物を、無限に手に入るようにしてしまったのです。今まで は、それの供給はまったく不足していました。ですから、それを手に入れることのできる、ほん のわずかな美食家たけが賞味していたのです。彼らの誰もが、他のどんなものとも、それは比べ ものにならないと断言しています。 そうです。三惑星会社の化学者たちは、すばらしい技術作業をやってのけたのです。今となっ ては、あなた・がたは、道徳感と哲学的観点を変えなければなりません。証言を始めたときに、わ たしは《肉食動物》という古語を使いました。ここで、わたしはあらためてもう一つの言葉を紹 介せねばなりません。とりあえず、綴りをいうとこうなります。ひ・と・く・い

5. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

「沈没しろ ! 」超能力 << 少年の声が大宇宙空間にひびきわたると、人に書かれるよりはまだましだ。 グ = ャグ = ヤに曲ったスプーンに乗 0 か 0 た地球がどんどん沈没し俺の名前は荒熊雪之丞。名前としては、かなりひどいほうだ。笑 ていった。で、、地球はどこに向かって沈没していくのかというと、 うなツ ! 俺だってなにも好き好んでこんな名前になったわけじゃ これがなんとまあ、・想像を絶する驚くべき状況であって、地下鉄日 こんな名前をつけた作者が悪いのだ。だから、これは俺のせ 比谷線北千住駅東ロのコイン・ロッカーの中に沈没していくのだっ いじゃない。しかし、それにしてもひどい。この名前はひどすぎ る。もともと俺はこの「宇宙ゴミ戦争」という小説に期待なんかし おがみ こうなると地球上は上を下への大騒ぎだ。今まで上だったものがちゃいないが、少なくとも俺は主人公なのだ。拝一刀とまではいわ 下になったり、下だと思っていたものが実は上だったりして、たと ないが、荒熊雪之丞はないだろう。せめて、荒熊浩一一ぐらいにはな えば天丼なんか、もうどちらが上丼でどちらが並丼だかわからなくらないものだったろうか。 なってしまう始末た。したがって、南阿佐ヶ谷駅前の「の」をは発端からここまで進んだところを見ても、どうやら若い女性の心 じめとする天ぶら関係業者は大損害をこうむった。天ぶら商売アガを躍らせ、涙を誘うようなラヴストーリイになりそうな気配はない ったりとは、シャレにもならないくだらない話だ。 から、女性の読者に読まれる心配はないとしても、だからといっ しいという理由はない。 こんなくだらない話が世の中にあるはずがないと思ったら、やはて、小説の主人公にどんな名前をつけても、 り、ここで目がさめた。夢だったのだ。だが、いくら夢でもこれは作者が主人公の苦しみも考えずに、、 しともかんたんに名前をつけて ひどすぎる。これは悪夢などという、なまやさしいシロモノではなしまうこの行為は、明らかに金権選挙の影響かどうかはわからない い。まさに愚夢だ。痴夢だ。もしかすると呆夢かも知れない。酒をカ : 、はっきりいえることは作者の横暴であるということだ。ともか 飲んで酔っぱらって見た夢だから、トラ呆夢だ。な・せ、俺がこんな く、俺は断固抗議したい。今こそ、野党連合政権を必要とする時な オカルト・ドリームを見ることになったか、これはもうはっきりしのだ。荒熊雪之丞こと俺は、零細広告会社に勤務する不出世のサラ ている。前夜、酒のツマミに適当なものがなくて、パンの耳にウメ リーマン。最近某コーラ会社のコマーシャルフィルムを頼まれて、 ポシをなすりつけて、浅草ノリでくるんだ変なものを食ったせいな ″踊り踊ってコリヤ・コーラ″という広告文案を作ったが採用され のだ。 なかった。まったく世間は見る眠がない。年齢は二十五歳で比較的 善良な国民。きわめて善良といわないところが、なんとも奥ゆかし そうだ、このへんでこの小説の主人公、すなわち俺の自己紹介を 。横断歩道を渡る時は旗を持って渡るし、手紙には郵便番号を記 しておこう。俺はどちらかというと控え目で、あんまり、人前にで入する。の受信料だってちゃんと納めている。このあいだな るのが好きではない性格なのだが、いくら俺がいやだといっても、 んか、だまされての受信料まで払ってしまったくらいだ。こ 作者は書いてしまうにちがいない。しようがない、自己紹介だ。他れだけでも、明らかに俺が非善良な国民でないことが証明される。 こ 0 マルテン

6. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

令嬢たちだった。おそらく、このパーティを一番楽しみにしていた 一世代前に聞いていた日本 顔見知りの将校や、シヴィリアンとことさら親しげに喋りあう何のは、彼女たちだったかもしれない 人かはいたが、その連中も、背後から自分にそそがれる同僚たちの情緒のまったくなくなった、治安状態もわるい日本への駐留で一番 退屈な思いをしていたのは彼女たちだったろうからだ。 白い目を、はっきり意識していることがよくわかった。 だが、よく見ると、そうした目に見えない差別感は、主賓の将校・ほくは、人種博覧会でも見るように、じろじろと周囲を見まわし たちゃその夫人連中たちのあいだにもなくはなかった。やはり一番ていた自分に気がついて目をそらしたが、そうすると、テープルの 多いのはアメリカ陸軍の白人の将校たちで、彼らはこの数十年世界上にすでに並べられているらしい、白い布の下の料理のにおいが、 中のどこでもそうしてきたように、自信たっぷりな主人顔をしてい強烈に腹にこたえてきて、やりきれなくなってきた。うつかりする た。それと対等につきあっているのは、オーストラリア、ニ = ージと、腹が、いやしい音をたてそうだった。昼飯を抜いて練習してタ 1 ランドの白人たちーーー彼らの中にまじっていながら、どことなく方になったのだから、腹がすくのは当然すぎるし、それは覚悟の上 場ちがいに見えるのは、その軍服から、北海道を委任軍管区としてだったのだが、空腹もこれくらいになってくると、もう激しい苦痛 いるソ連軍の将校たちで、たぶん東京の国連軍統合司令部づとめのをともなう飢餓感に近い。全身からカが抜け、額や胸や首筋にべっ とりと油汗をかきはじめていた。・ほくは、ともすると、視線がテー 連中らしかった。 有色人種の将校たちは色さまざまで、アフロ・アメリカンとイン・フルの上の白布にすいつけられそうになるのを、おさえつけるのに ドネシア人、ニュージーランドのポリネシア系人種など、こうして集必死になっていた。 まってみると、皮膚の色も骨格も、表情もひどく違っていることが みつともない、と思った。 ことさらはっきりした。もちろん今夜はクリスマス・イヴだから、 そうして考えてみると、どっちみち、そのテー・フルの上に出てい クリスチャンが大半を占めるアメリカ黒人が多かったし、彼らの楽る食物は、おそらく・ほくらのロには入りつこないのだ。 天的な陽気さが会の空気を リードしていたが、それが、イスラム系 パーティがはじまれば、まずわれわれがステージにあがり、クリ の有色人種を、いっそう客扱いする結果になっていた。もしここ スマス・カロルを歌うのが、プログラムになっている。そして、パ に、中国軍人が来ていたら、雰囲気はもっとガラリと変ったものに ーティのムードが盛り上ったときーーあの替え歌を歌わなければな なっていたかもしれない : ・ : とぼくは何となく思った。北半球寒冷らないのだから、そのあとの騒ぎの中で、ものを食ったり飲んだり 化の打撃を一番まともに喰った地域である中国は、国連の出兵要請するなんて、とうてい考えられないことだ。 を拒否していたから、日本には外交関係者しか来ていなかったの ばくらは、ただちに退場を要求されーーー空き腹をかかえたいまの まま、ここを立ち去らなければならない。そう思うと、うまそうな 5 。ハーティ会場を、せわしげに行き来しているのは、将校の夫人や料理のにおいが、とっぜん耐らなく不快なものに変った。じっさ

7. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

「わたしはもうくたびれたよ」ディヴィスが窓によりかかりながめ、うつむきかげんに小声で、 しいえ、とつぶやいた。 ら、そうこ・ほした。「それに眠くてかなわん。もう十一時過ぎだ。 まったくこの娘は恥ずかしがりやだな、とイーストウッドはあら 新しい星とやらを見物するために、これで四晩もあんたにつきあっ ためて思った。その内気さに匹敵するほど不器量な娘でもあった たが、今晩かぎりでごめんこうむるよ。どうなっとるのかね、予定が、髪の毛だけは異常なまでに美しい。絹のようにきめ細かで、青 だと三週間前から現われるはずだったのに」 白い炎のような色あいをしている。 「あなたも疲れましたか、ミス・ウォーダー ? 」 たぶん、頭のいい娘なのだろう。彼女がひどく " 深遠な。本を読 ィーストウッドにそう説かれた若い女性は、ぼっと頬をあからんでいるところを、イーストウッドは見かけたことがある。しか FINiS 最後の夜明け フランク・リリー・ボラック 訳☆浅倉久志 イラスト / 楢喜八 ついに新しい星の光が地球に届く ! 総ての星の回転の源に在る巨大な星 あまりにも遠いために観察出来なかった 宇宙の中心を占めるその星の光がついに :

8. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

るーーー部屋の前にたたずんで暗がりの中で標札をさがした。部屋の 「あたしーーあたしー」 2 中から笑い声が聞こえた近ごろ聞きなれない奇妙な音、そして食「ぼくが買ってきました」とヘイダールが静かにいった。「ハ ノ 0 べ物の匂いがドアの隙き間からはいだしてまともに襲いかかった。 ラの話だと、お宅には食い物がちょっぴりしかないというので、・ほ 喉がヒクヒクけいれんし、腹の中でポールのようにこりかたまってくのところに余分があったから、土産にちょっぴりもってきたんで すよ」 いた痛みがいやおうなく思いだされた。 カッターソンはドアをあけた。肉の匂いがせまい部屋に充満して「なるほど。土産か。紐つきじゃないんだな ? 」 「なにをいうんです、カッターソンさん ! ・ほくはパ ー・ハラのお客 いた。入っていくと・ハ スラが青い顔をはっとあげるのが見えた。 かれの椅子には一、二度逢ったことのある男がすわっていた。ヘイですよ」 「ああそうとも、しかしここはおれのア・ハートだってことを思いだ ダールという名の長い髯をはやした男である。 してもらいたいね、この女のじゃないんだ。いえよ、ヘイダールー 「なにをしている ? 」カッターソンはいった。 ーこいつの見返りになにがほしいんだ この土産の見返りに ? ハラの声は異様にかすれていた。「ポール、オラフ・ヘイダ もうなんかもらったかね ? 」 ールを知ってるでしよう ? オラフを、ポール ? ヘイダールは腰を浮かせた。 「なにをしている ? 」カッターソンはくりかえした。 ー・ハラがあわてていった。 「おねがい、ポール」と・ハ 「いい、カ、カ・り ハラとわたしはささやかな食事をしたところですよ、カッタ ーソンさん」とヘイダールはよくひびく声でいった。「あなたもおにやめて、ポール、オラフはただ親切にしてくれただけよ」 ハラのいうとおりですよ、カッターソンさん」とヘイダール なかをおすかしでしようから、少しばかりとっておきました」 肉の匂いは強烈だった。湧いてくる唾を唇から出さないようにすはいって腰をおろした。 「さあ、お食べなさい。そうすりや腹のたしにもなるし、・ほくもう るのが精一杯だった。・ハ ー・ハラはナプャンでしきりに顔を拭いてい る。ヘイダールはカッターソンの椅子に満足そうにふんそりかえつれしい」 ている。 カッターソンは一瞬かれを凝視した。ほの暗い光がヘイダールの カッターソンはつかっかと三歩歩き部屋のむこう側にあるせまい肩にあたり、きれいに禿げあがった頭とふさふさした髯を浮かびあ 台所のドアをあけた。レンジの上で肉の小さな切れはしがジュウジ がらせた。こいつの頬っぺたはどうしてこうポチャポチャしていや ュウと焼けていた。カッターソンは肉を見、そして・、 ハラを見がるんだとカッターソンは思った。 こ 0 「さあ、どうそ」とヘイダールはくりかえす。「・ほくたちはもうす 「こいつをどこで手に入れた ? 」とかれは訊いた。「金もないのんだんだから」 カッターソンは肉のほうにむきなおった。棚から皿をとり肉片を

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れているさまざまな形での破減予測。ーーた和である。しかし、ある場合には戦争の反 戦争の例は国民的な、自殺の例は個人的 とえば食糧不足による、資源不足による破対が単に平和だとはいえない場合もある。 な破減であることはいうまでもない。そう 減、公害の激化による破減など , ーーにも、 もし人が、これから戦争を始めるか、どうすると読者はここに二つの種類の破減があ おそらくは同じことがいえるだろう。 かの選択を迫られた場合、それは決して戦ることに気づかれるだろう。一つは戦争、 この点に関連して次のようなことを考え争か平和のいずれかを選ぶという風には考あるいは自殺をしない場合に迎えるであろ てみたい。たとえば「戦争」の反対はなん えられないだろう。戦争をしないことが破う、ある想定された状態での破減。もう一 だろうか。これは誰にでも答えられる。平減なのだと感じられる場合も確かに存在すつはその破減を回避しようとしてとった行 る。この場合、それが主観であろうとどう動の結果としての破減である。 であろうと、戦争に訴えるか、あるいは坐 人間の歴史が単線的ではないといった理 ったまま減亡を迎えるかの選択だとうけと由もこの点にある。人間はある予想された られることになる。太平洋戦争開戦時の日状態・ーーたとえば食糧不足ーーーが確実に近 本はこの適例だった。戦争に訴えても確実づいてくるのを、なにもしないで待ってい な勝利の見込みはない。しかし戦争を避けるほど愚かではないし、大胆でもない。そ てみても破減がまっているだけである。そのシグナルが発せられた瞬間から、適切 の上で、さて、どちらを選ぶのだろうか。 な、あるいは不適切な対策をとろうとして 戦争では話が大きすぎるなら、個人の問 右往左往はじめるのである。だから、最初 一、 ( 題移して自殺を考えてもよい。自殺をしの予測は確実にはずれる。地震のように、 ようか、どうか人が迷う場合、それは生とある程度突発的な天災についてすら、同じ 死の選択とは考えられていないだろう。そようなことがいえる。地震などの自然災害 れは明るい生と暗い死のどちらかを自由に も、普通に考えられているように直接的な 選ぶというような状況ではなく、むしろ生被害はそれほど大きくないのである。この きることが死ぬことにまさる暗い破減であことは関東大震災なども証明しているよう に、むしろその後の社会的混乱が被害を大 り、生ける屍として自己を選ぶか、一瞬の 死をとるかの選択だと思われるだろう。まきくしているのである。また平家が水鳥の 5 たこのように追いつめられていなければ、 羽音に驚いて逃げだしたように、小さな災 7 人は容易に自殺なそするものではない。 害が大きな被害をもたらすこともある。 洋」ヾを

10. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

トボトボとかれはアパートに戻った。足を一歩一歩機械的に運び しましたか、それともまだ神の国にいるのですか ? 」 ながら、石ころと崩れた建物の瓦礫を踏んで数マイルの道のりを歩 カッターソンはその問いを無視した。「じいさん、そこからおり るんだ ! 」とかれはさけんだ。「肉屋がまたやってきた、さあ、早いた。片手でナイフをしつかり握り左右に油断なく目をくばり、横 町でコソコソ動きまわる気配や、瓦礫のかげにかくれているらしい く逃げよう」 「いやだ。あのひとたちがここへ来たら話しあうつもりだ。若い影のような人たちを驚戒した。袋をかついだ四人の男どもが、どの街 灯のかげにもガッガッしながら待ち伏せしているように思われた。 方、自からを救いなさい、自からを救いなさい、救えるうちに」 ・ビルの切株のような残骸を ・フロードウェイを突っきりパーカー 「あいつらはあんたを殺すぞ ! このもうろくじじいめ」カッター ・ビルは世界一高いビルだった。 ソンは押しつぶした声でいった。 通り抜けた。五十年前のパーカー 「われわれの運命はすでに定っているのです、息子よ。お召しの日いま残っているのは斜めにすつばりと切断された切株でしかない。 カッターソンはかって世界一壮麗なロビーだったところを通り抜け が来たのなら、わたしの覚悟はできています」 「気ちがいめ」とカッターソンはいった。四人の男は声のとどくとて外をのぞいた。表の階段に一人の少年が腰をかけ肉の切れはしを ころまで近づいてきた。カッターソンは老牧師を最後にもう一度見しゃぶっていた。八つか、十ぐらいか。腹の皮は骨にペッタリとは つめ、それから脱兎のように通りを突っきって建物の中にとびこんりつき肋骨は籠のように見えた。胸の奥にこみあげてくるものをの みこみながら、カッターソンは少年の食べている肉はなんの肉だろ だ。振りかえってみたが追われてはいなかった。 四人の屠殺人は演壇の下に立ち老師の話に耳をかたむけているようと考えた。 かれは歩きつづけた。四十四番通りを歩いていると、骨と皮ばか うに見えた。牧師がなにをいっているのかカッターソンには聞こえ ないが、話しながら腕を振りまわすのが見えた。かれらは一心に聞りの猫がトコトコとあらわれて、灰の山のむこうに姿を消した。カ ッターンンはいっか聞いた話を思いだした。大草原には大猫がいた きいっているようだった。そのうちに一人が牧師にむかってなにか それから袋をもった背の高いのが壇の上によじの・ほった。もるところに徘徊しているという話、ロに唾がわいてくる。 陽はまた西にかたむきニューヨークはどんよりした鉛色になっ う一人が鞘をはらったナイフをかれに投げた たまぎる悲鳴が空気をつんざいた。カッターソンがおそるおそるた。夕暮近くの太陽はもう決してあかあかと輝きはしなかった。瓦 のそいてみると、ノッポの男が牧師を袋の中へおしこむところだっ礫の山のあいだにこそこそと射しこんでニ = ーヨ 1 クの廃墟に蒼ざ た。カッターソンは頭をたれた。あの力強い声もかすかになってしめた光芒を投げかけるのだ。カッターソンは四十七番通りを渡り、 まった。抵抗は不可能だとかれは悟った。堰止められない潮流がひかれのアパートのほうへむかった。 たひたと流れだしたのだ。 部屋までの長い階段をの・ほりーーエレベーターのシャフトもエレ べーターの箱もあるにはあったが、こういう贅沢は夢のまた夢であ こうべ