機械 - みる会図書館


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1. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

殆ど全てのものが生せられ、分配せられた。機械文明の進歩は、逢に一國だけ の統制經濟をも許さなくなった。今ては、殆ど大部分の經濟が、世界統制になっ = 了 0 〔各國 0 委員をあげ、一」 0 統制」あ〈 0 〈。 交通は、成暦圈を通るやうになったのて、世界一週が十四五時間て出來るやう に短縮され、世界のすみる、迄ラデオとテレビジョンて眼を通すことが出來るこ とになった。 ところが、これ等の進歩が人間から勞働を省いてくれ、物質上の不安を除いて くれたに係らず、甚だ厄介な重荷を架した。それは、機械文明の進歩に追随し てゆくためには、人體のいろ / 、の機能を矯めてゆかなければならぬことてあっ 第一は氣壓練てあった。 成脣圏を旅行するために、長 方客機の内部を幾ら平地と同じ从況にしようと努力 ー 3 7

2. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

この考え方の中には人間を作ることができ れらのものは手つとり早く進歩したのか、 に新しいものが出来て絶え間のないものと しないのか、はっきりと分らないことが多 いえば、それは機械である。だから進歩のるという発想がある。な・せなら、機械は決 。分らないだけでなく、昔のものの方が観念を裏づけていたのは、実は機械の発達して自然にあるものでも、産まれてくるも のでもなく、人間が作るものだからであ すぐれていたり、新しい方が劣っている場なのだ。これだけが、実際に目で見て確か る。 合も少くない。従って誰の目にもはっきりめることができる進歩だったのだ。 と分る進歩、つまり古いものよりも新しい このような進歩の観念はあくまで十八世 事実、われわれは間違いなくいうことが ものの方がすぐれており、しかも次ぎ次ぎできる。テレビ・セットにしろ、自動車に 己ヨーロッパの産物なのだが、ヨーロッパ しろ、機械ならば古いものより新しいもの以外では日本人がもっとも大量にこの考え が良いに決まっているのだ。勿論、骨董的方をうけ入れてしまった。日本でも、少し 前ならば女性は子供を授かりものと考えて 価値は別にしてである。しかし、ここに一 いた。現在では若い女性が当然のことのよ つのもどかしさが生する。というのは、十 という。この 八世紀ヨーロツ。 ( 人も、機械についてだけうに子供を作る、作らない、 間の変化は一面において近代化なのであ 進歩を信じようとしたのではない。進歩の 観念の本当の狙いは人間の精神や理性そのり、他の一面において人間の機械化が進ん ものが進歩するといいたかったからであでいる証拠なのである。だが注意しなけれ ばいけないのは、先にものべたように、世 る。こうなると、人間そのものが進歩する というためには、むしろそれを機械だと考界の中でこのような近代的人間は人間とし えた方が確実なように思われる。こうしてて全くの例外的な形であること、そうして 人間を一種の機械と考える、いわゆる人間 現代において近代的な考え方はひどく時代 機械論が現われてくる。このような考え方おくれのものだ、ということである。もと は、中身はいろいろに変わりながら、現代もと元祖のヨーロッパにしても、今はどの にまで延長されている。人間の頭脳は精密ようにして近代的な考え方から抜け出そう なコン。ヒュータだとか、大脳と同じ働きを かを苦労して模索している時、日本人だけ がとつぶりとそのような考え方にひたって するコン。ヒュータを作ると、その大きさは 9 丸ビル以上になる、などのいい方の中には、 いるとすれば、世界中で日本人が例外的な 人間機械論の発想がしめされている。また人間になるのも無理はない。実際、日本人 物ーいー」い 4

3. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

から奪ひ取ったために、勢ひ三萬乃至五萬振動のところに騷音が集中した。そこ て、丁度人間が騷音に惱まされたと同樣に、大や豚が惱まされた 2 てある。我々 は、十菖振動以下の振動を全機械装置より奪ひ取らなければならぬ』 常時、國際科學委員は、こんな宣言をして、その研究を指導した。 機械文明はあらゆる生透を機械のカ、てやった。食品要素のうちても、含水炭素 や脂肪は容易に合成した。唯蛋白質たけは完全に合成することが出來なかった。 それて牛と豚とは、蛋白質性の食料を得るために大切てあった。だから研究は忽 ち奘勵せられて、やがて、殆ど全世界から十萬振動以下の振動は、少くとも機械 からは出て來ないやうにすることが出來た。 三、科學統制委員會 一九五〇年頃には、國際科學統制委員會て、自然科學部より、醫學部への提案 9

4. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

装置にスウィッチを入れた。 ニ、無音世界 世界が騷音に充たされたのは一九四〇年から五〇年にかけての年代てあった。 この間に機械文明は極度に進歩して行った。 爭は随處に起ったが、やがて機械文明の勝れた國が、勝れない國を併脊して 了ったのて、その事が同時に持てる國と持たざる國との問題をも一擧に解決して 了った。 もう勞働と農業とをさして賴りとしないて、物資は、機械の方だけて生透する ゃうになった。そこてその方面ては人類には、いろ / \ の餘裕が出て來た。本 家と勞働者と對立して抗爭することは、不可能になった。統制經濟がぐん / 、す すん・て、勞働者がなくなると共に、本家もなくなりつ乂あった。國家的施設て、 ロ 6

5. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

電力がいるわけを考え、精神的なものを基礎にしているからなのだのだったが、幅広の腕がっき、そこにたくさんのボタンとスイッチ ろうと推測するしかなかった。 が配置されていた。椅子の上部にあるのは、六つの羽根のついたロ マスター・スイッチを入れると、陰極と陽極から最高千四百万ポ ーターで、強い磁気を帯び、真空管の中の球体と同じ半透明の金属 ポンバードメ / ト・チェン・ ルトの力が放出されて、真空管の衝撃におかれた物質はでつくられていた。これに動力が流れると、椅子に坐 0 た者の頭上 なんであろうと完全に分解してしまうのであった。 で音もなく回転する。そして、何かを、ローターの上部のマイクロ 二つの球体から電力を得る真空管の内部には、ほとんど透明の金フォン型集音器へ、さらには変圧器へと運ぶらしい 属でできた奇妙な形の球体がおかれていた。それは、きず一つない さまざまな装置のすえつけをする前としたあととで、知識の量が 二つの半球にはさまれ、四方からし 0 かりと留められていた。電線増えていないことにアランは気づいた。父が個人的に得た富は、そ を接続するようになった端子が四つ、真空管にとりつけられてい のような機械の購入により底をついてしまった。老人はあいかわら た。そこからの電線はよく磨かれた二つの半球〈とのび、その二つず無ロで、機械のすえつけが終わ 0 たとアランが告けても、うなり の凹レンズの焦点は、中央の球体上でむすぶように設計されてい 声をあげただけであった。 すえつけの仕事が終わると、アランは研究所に入ることすら許さ こうしてながめてみると、放出された = ネルギーの衝撃によっれなくなった。それからは、夜になるとたいてい、大量のエネルギ て、あの透明の球体の内部の物は分解され、その粒子が、向こうの 1 が放出される、いかずちのような。 ( チパチいう音を耳にすること レシービング・チェン・ハ 入り組んだ受容室にとびこむことは、アランにもはっきりと ができたし、大気中に静電気がピリ。ヒリ充満しているのを感じとる わか 0 た。だが、球体の内部には何を入れるのだろう ? その点はこともできた。父が、そのライフワークに最後の仕上げをし、努力 どうしてもわからなかった を傾注しているのであった。 このような疑問もありはしたが、アランは着実に仕事を進めてい つまり、父は、とうとう捜し求めていたゴールに到着したのだ。 った。機械の部品すべてを研究し、発動機の組み立てを監督した。 父は、機械がすえられてからちょうど六週間後に、まるで気違いの 特に、ラジオ電波の送信局を思わせるような巨大な機械には注意しようになってその事実を告げた。 た。刻々と、無数の電線が直列に並んだ加電圧式の変圧器につなが「やったそ、息子よ ! 」神経質そうに研究室を歩きまわりながら、 れていき、変圧器からは、さらに太い電線が真空管へとのびていっ 父は宣言した。「これこそ人類が待ち望んでいたものだ ! わしの ライフワークだ。わしのつぎこんだ一時間一時間、一秒一秒に値打 すべての機械は中央コントロール装置につながり、軽いアルミ = ちがある。明日、わしは実演をおこなう」 ウムの椅子の上で焦点をむすんだように思えた。椅子は、この雑然「もちろん , クスウ = ル博士も招待するんでしようね」アランが とした機械の集まりの中では・ ( カらしいほどにオーソドックスなもさりげなく訊ねた。 こ 0 こ 0 2

6. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

彼は暫らく考へて、又筆をつゞけた。 『然し、人間そのものゝ研究が、取り殘された。永久の謎ー、ー人間そのものーー』 彼の顏は蒼白となって、顔からは汗が流れた。 『人間が、機械文明を追求して飽くなきところ迄すゝむ、自分ぞ自分を止めるこ とが出來ない。人間の貪婪 ! 機械文明がいくら進んても、人間は慧愛をし、犯 罪をする。人間そのものを知らぬ人間の無智 ! 』 彼は筆を擱いて・ハッみリ倒れた。恰も、彼の厚い本を・ハッタリと閉ちた瞬間の や - つに。

7. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

が科学に対して貢献したことこそ大切なのだ ! 精神は対消減させ 真空と同じように」 ることができる。今のところそれをやるつもりはないが、死ぬまで 「普通ならば、そう言えるじやろう」ダンは認めた。「しかし、こ には、精神の亜原子工ネルギーの解放をやってみたい。そのために の研究所を見ればわかるとおり、ここにそなえた機械は、不完全な サーモ・ ( イレ わしは一生をささげた」 人間の機能をおぎなう働きをするものばかりだ。たとえば、熱電堆 アランは、父の半ばあざけったような、光り輝く眼をじっとのそというものは、人間には感知できぬ月の表面の温度を記録すること きこんだ。老人は皮肉つ。ほく笑った。 ができるが、わしの作ったある特別な装置によれば「精神自体の震 「まだわからんのか ? 」と、クスクス笑った。 動を記録することができる。精神はさわれないものではないのだ」 「わかりません。お父さんのなさっていることがわからなくても、彼は満足そうな嘆息をついて、一瞬、椅子の背にもたれた。「わし 驚くにはあたりません。でも、精神波の亜原子工ネルギーというのが発見した事実を知ったら、マックスウエルじいさんなど、でんぐ り返って驚くことだろうて ! 」 「わしの言ったのは、それだ。死ぬまでにその偉業を完成させてみ そのとおりだった。彼は、ダンにとって一番辛辣な批評家で、心 せる。 いいか、よく考えてみろ ! 精神エネルギーだそ ! 物質を理学の大家であるランドルフ・マックスウ = ル博士をやつつけるタ こんにち 形づくる原子からエネルギーをとりだすことなど、今日ではごくあネはないかと、四六時中眼を皿のようにしていたのである。 たりまえのことになっている。そのへんの砂を数ポンドもってき アランは、一瞬考えて、訊ねた。「もしーーーもしもですよ、お父 て、エネルギーをとりだし、巨大な機械の動力としている。物質にさんに万一のことがあったらどうしましよう ? 縁起でもありませ エネルギーが内在していることは明らかになっている。そして、物んが、一応考えておかねばなりません。僕はどうすればいいんでし 質と精神とはつながっているのだ。考えてもみろ、精神原子一つか ら思考エネルギーをとりだすことができるのだ ! 」 「研究が完了する前に、わしの身に何かが起こっても、おまえは何 「でも、それは不可能です」アランは疑い深い声で叫んだ。「そんもせんでよろしい。たかだか数週間で、おまえの頭に五十年分の知 なーーーそんな途方もない、・ハ カげた話がありますか ! 思考を手に識をつめこむことはできんのだからな。おまえには、わしのごとき することはできないし、それを分析することだって不可能です」 直感力はない。天才の才能というのは、通常、親から子へはうけっ 「いや、そう思うのは、おまえが若いからだ」老人がとがめるようがれんものだ」 に言った。「わしは半世紀もの間、それが可能であることを証明す「そうかもしれません。でも、どうやって精神 = ネルギーの解放を るべく努力を重ねてきたのだ。おまえのような子雀にとやかく言わおこなうのか教えてくださらないのですか ? 」 れるすじあいはないわいー ダンは白髪頭をふった。「うむ。一つには、そんな時間はもうな 「でも、どうやって ? 思考にさわることはできません、ちょうど いからだ。いま一つには、すべてを終えるまで黙っているつもりだ 8 2

8. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

機械から出る振動は耳にきません。人聲と動物の聲と、音樂だけ耳に入れてゐま す。ところが、 年に感覺とならない振動が、腦髓の細胞には、どの位澤山來てゐ るかわかりません。それて、人類は』 彼は再び息をついた。 『人類は、見えない刺戦のために、短かい時間に長い経驗をすると見えます』 一種の合金て 醫學委員は、この人の意見によって、頭蓋骨を厚くするために、 然し、追ひっかなかった。 帽とマスクとを被る研究を始めた。 人間の壽命はどんノ \ 短かくなってゆくらしく、日本ては、十五歳・て既に大學 を出て了ったやうな早熟の天才が現はれた、。彼は、厚い本を。ハタリと閉ぢて、論 文の筆を取った。 『文明が跛行してゐる。機械文明を追ひ求めて、此處迄來た。社會問題も經濟問 題も一切が解決せられた。衞生問題も體カ問題も一切解決せられた』 ー 50

9. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

として出した問題は、次のやうなものてあった。 「エ學及び機械的生産の部門は、此處二十年の間に、申分なく進歩しました。と ころが、醫學の方の進歩が、大分おくれて居ります。例へば、肺結核はまだ治 されて居りません。あらゆる社會惡の發生は、大半肺結核のため・てす』 醫學委員は、これに答へた。 「醫學の進歩が少しく遲れてゐることは氣づいてゐます。然し、肺結核の如き、 社會制度と、庶民の生活妝態とに大關係のある病氣は、先づ機械文明の進歩によ って、社會制度その他の調整があってから、結果が現はれる筈・てす。だから結果 は一九五五年迄待って下さい。その代り、癩病の治療法は發見されて、既に絶減 したと言ってもいのてす。一九三八年常時世界の癩病國てありました日本と支 那とは、今年の統計ては合計一五〇人に減じました。歐米には一九四〇年以來一 例もありません。毒も統制絶滅が近づいてゐます。世界の梅毒國てありました

10. SFマガジン 1974年10月臨時増刊号

た。結局はこの間の振動數の波動が出來ないやうにすればい乂と言ふことになっ 忽ち、几ての機械装置から二萬振動以下の振動を収り去って了った。それて殆 ど大部分の驪音は無くなすことが出來た。一年間の統計て、大と豚七に變化が現 はれて來たことが報告された。大が人間のやうに經質になって、壽命が短かく なり斃死するもの多嗷に及んだ。このことは時に、大を伺ってゐる人からの不平 として聞えて來た。 豚は、繁力が衰へて來た。當時、豚を食料として用ひてゐたのて、この問題 は最も科學者の注目を引いたが、やっと、その原因が判った。 『我、々は、もっと振動數を高めなくてはならぬことが判った。人間は二萬振動以 上の振動は音として聞くことが出來ない。然し大や豚は、約八萬振動まて音響と して聞くことが出來る。我々が人間のために、二萬振動以下の振動を機械装置 に 9