力を解放する、というのはどうもうさんくさい気がするね、経験っちも贇物だ、ということなんだ、子供は受容的であると同時に 的に : : : 」 いいかげんな人種だから、かえって両方ともがおもちゃにしか過 とが一一 = ロった。 ぎないってことを疑いもしないんじゃない、ところが、ダイヤモ 「うむ・ : : ・」 ノト・ヘッドのおじさんたちは、逆に、クラークなんかの自動車が と言って僕は考えた。純粋に子供の想像力を解放する素材として、 本物に見えちゃうのさ、科学的にと思ってる方法で想像力に ( と ・フラッドベリと所謂ハードなサイエンス・フィクションを比べた場 いうより遊戯力に ) カセをはめて、なんかこう、未来なんてのは、 合、どこが一体どうなってるんだろう、と。 貧しい頭のなかででも物理的に類推・統治できるみたいな幻想に 「うん、それはやつばり読み手の問題だと思うんだなあ、つまり とらわれちゃうんだなあ、そこで全然ちがう読み方が、その昔・フ 子供ってのはものすごく想像力の契機みたいなものに対して受容 ラッドベリをめぐって露出してきたんだと思うんだ」 的だと言ってもいいだろう、一個の積み木は宇宙の原型みたいな僕は諜りつかれてグビリとグラスをあけた。 ものだから、たとえば一台の自動車であってもいいわけよ、・フラ 「どうも話がどうどうめぐりしてるんじゃない ? 」 ッドベリなら黄色い積み木一個を書いておしまいにするところなとが言った。 んだが、サイエンス・フィクションの作家は、どうしても自動車「結局はどこまで行けるか、ということだろう」 の、それも今ある本物の自動車から算出した模型を書いてしまうと僕は続けた。 んじゃない ? そこで、この両者に共通してることってのは、ど 「フラッドベリといったって、読んだのは本当に昔のことだし、 今になってみるとほとんどプロットも想い出せやしない。それな ノヤカワシリーズ 3024 のに、僕等はいつだってプラッドベリでしかなかったみたいな気 プラッドベリの「刺青の男」 がする」 そうだ、僕等はすでに、・フラッドベリを″ドウーダッド″みたいに 思っている。ひとつではない、千もの存在の原型として、ただひと つの名前 ( 言葉 ) として、ずいぶんとダルになった想像力のなかで ころがしているにしか過ぎないのかもしれない。・フラッドベリは、 読み返してみれば驚くほど透明な作家なのではないだろうか。 想い出のなかでの最良の書物のひとっ『刺青の男』を解説して福 島正実氏はこうっているーー「 : : : 彼にとって科学は、たんに、彼 のアイデアに発現の場を提供する大道具にすぎないように見える。 : だが、・フラッドベリの幻想が、サイエンティフィックな場所を 得てもっとも美しく、華やかに、劇的に展開する : : : 」 ・フラッドベリは、センス・オプ・ワンダーを感じ取る″感性″を 一新を。鑿こ生誘ィま、新 ' も物を ' " Å、 HAYAKAWA 、 50 をとををに電 ON. を ー 05
と彼は『万華鏡』の冒頭をとりあげてーーー最初の激動の瞬間、ちょ いけないか、それについて僕は話しはじめる。 2 うど大きな罐切りであけられたように、ロケットの横腹がばっくり 結局、言葉を積み木のように思ってしまえばいいんじゃないのだ 0 裂けた・ : ろうか。 「これは、ほら、なんて言ったかな、よく言うじゃん、作家 「物の、言葉の主人である子供は、すぐにそれを動かしはじめる がほら、エクス : ・ポ : ・なんとか : ・外挿法とか言うのに似たものの ことができるんだと思う、・フラッドベリというのは、全体とし 一種だよ」 て、僕等にとっての積み木だったんしゃないかしら、僕等が、そ 「外挿法っていうより、内挿式なんじゃないの ? 」 れを動かしていたんだ、僕等が主人たった頃は : ・」 と僕が言った。追加のビールがやってきた。僕たちは飲みすぎを警と僕は言った。 戒して、物理的に量に限界のあるビールを愛飲しよう、と昨日きめ プラッドベリがサイエンス・フィクションを書く、すると、ロポ たところなのだった。 ットやロケットや、タイムマシンや、火星人が、まるでプ tl ビリ 「外挿法ってのは、なんて言うか。フロ・ ( ビリティみたいのが、すテイから切りはなされた、ある未知のものたちの原型になってしま げえ大切なわけよ、だけどプロ・ ( ビリティってのはさ、たとえう。それが彼の″感性″と呼ばれてきたものの正体なんじゃないか ば、このビールびんはいつまでたってもビールびん以上にはならしら。 ないのよお、だから、もう最初からビールびんで、いつまでたっ ーン ! おまえは死んだ』には、本物の戦争と戦争ごっこを識 てもビールびんなのが外挿法なんだなあ : ・」 別できないジョニ ー・クワイアという青年が登場する。彼はそのた と僕は、一生けんめいに言っている。そして僕等はひとしきり、 め決して弾にあたることがない、彼はそれをよけてしまう、そして ・フラッドベリとセンス・オプ・ワンダーについて、あのいつもの一 ーン ! あたった ! 』とさけべば、その弾丸は敵のわき腹を貫 九五三年へ還っていった。僕はまたそこで、新らしい二分法を完成ぬいてしまう。彼にとって″死″とは″死んだ真似″にしか過ぎな したのだが忘れてしまった。たとえそれが面白いものだったとして いから、世界は、全て遊戯のためのルールによって支配されていな もたいして重要じゃない。 大切なのは、誰が主人なのか、というこくてはならないから。 とたった。 「おれが想像したところじゃ、これをみんな遊びだと思って 「きみはセンス・オプ・ワンダーというのを、いつも卑小化しょ るらしいよ。おとなになってないんだ。身体は大きくなっても、 うとするなあ」 心は子供のままなのさ。戦争をまじめに考えてない。おれたちが とが言った。 みんなして遊んでると思ってるんだ」 「いや、卑小化ってんじゃないのよお、なんか、こう他のいろん不死身の彼を憎悪するメルターは、ついに彼に真実を教える。これ な似たようなのがあるじゃない、だからセンス・オプ・ワンダー は遊びじゃない、本当の死がごろごろころがっている戦争なんだ。 の正体みたいなものをつかまえて、逆に汎化しようとしてるんだ 「おまえが通ってきた野原に寝ころんでた連中たけどな、奴らは けどね」 死んた真似してたんじゃないんだぜ、奴らは本当に死んたんた、 どうして、・フラッドベリがサイエンス・フィクションじゃなくちゃ嘘じゃなくて、絶対的に死んじまってたんた ! 死んた、ほんと
ファンタジイ , & サイエンス・フィクション言志牛寺糸勺 表紙絵角田純男 目次・扉中島立靑侃 イラスト 山野辺進金森達 桜井 楢喜八 霜月象ー畑農照雄 中村銀子 論 幻 相 説 の 方 十 ひた ろん つほ。 く白 書 た 人 の 都 S F マガジン 1974 年 1 1 月号 ( 第 15 巻 12 号 ) 昭和 49 年 11 月 1 日印刷発行発行所東京都 千代田区神田多町 2 の 2 郵 101 早川書房 TEL . 東京 ( 254 ) 1551 ~ 8 発行人早川清 編集人長島良三印刷所誠友印刷株式会社 g-æでてくたあ サイエンス・ジャーナルライン研究所のスキャンダル 世界みすてり・とびつく : 世界 c-nu- 情報・ 7 1 日本大会ルポイト U) LL スキャナー 連截 ( ⑩思考の憶え描き 風船計画 日本 U)LL こてん古典 00 特別止画ー長期連載 大河漫画、「鳥人大系第 + 五章 " もめのジゞガラさん センス・オヴ・ワンダーへのアプローチ 新鋭連載第ニ回一挙一三 0 枚掲載ア 充氷民族 〈日本〉石川同司〈海外〉福島正実 加藤喬 てれぽーと : す。ヘーす・たいむ・あんてな : 川又千秋 横田順彌 手塚治虫 風見潤盟 大空翠 真鍋博 4 紀 1 2 9 1 1 3 47 100 204 120 126 173
「おれが聞いてたのは、なにかのサジェスチョン、メッセージだ 『草原』と題された短篇は、あるクリアな未来の記憶を物語 けだ 0 たんじゃないかしら、だからこんな風にな 0 てきちゃうる。ずい分前のことだが、このオム = ・ ( ス形式の一冊が映画にな 0 8 と、頭脳警察どころか吉田拓郎だって良くなっちゃうんたなあ、 た。青年と刺青の男が野宿する場面の、あまりにも映画的な、しか グランドホッグズとかフリーは許すけど、このごろ聞いているロし確かなリアリズム、そして始まった物語は、圧倒的な虚構感に支 丿ー・ギャラガーとかロイ・。フキャナンなんてのは、・ とうしても配されていたものだ。『草原』ではプラスティックな未来生活が、 ちがうと思っちゃう、ギャラガーなんて、音楽的な熱意しか伝わ不器用なマスキングによって描かれる。『長雨』の世界は、ゴム製 ってこないもの、あんなもの聞いても、ちっともどうにもならなの植物とにせもののぬかるみに満たされていた。しかし、僕は当 い気がするよ : ・・ : 」 時、この映画に大変満足した。その虚構感が、・フラッドベリの世界 とわたしは言った。が何と答えたかは忘れてしまった。だから、 を実によく言いあてている、と思ったからだ。・フラッド・ヘリは、本 ルー・リードなんてのは割合気にいって聞いている。そんなもの物らしいものを何ひとっ必要としない。彼にとって必要なのは、い だ。こないだ、ずっと古い所謂《ニュ ーロック》という言葉が生まくつかの積み木、それに似た言葉、あるいはものだけなのである。 れだした頃のレコードばかりひつばりだして聞いてたら、あんまり 所謂、従来のハードな ( と呼ばれた ) サイエンス・フィクションが、 重たいんでびつくりしてしまった。ジ = ファ 1 ソン・ = アプレイン本物らしさだけを唯一の存在証明としてきたのに、彼は贋物である だって結構な代物なのである。だから、だから一瞬毎に納得して行ことによって、むしろ原型へと、想像力へと肉迫したのである。 くジャズの文脈が近しく感じられた時の嫌あな気分を忘れられな「だけど : : : 」 とがビールを注ぎながら言った。 ついでに書いてしまえば、ポリス・ヴィアンのことなの、だけれ 「もうお酒にしようよ」 ど、あの疾走感は破かにジャズの持ち物なのである。しかし彼にあと僕が言うと、 g.k はヘへと笑ったけれど、それを許さなかった。 って、それはどうやっても接続詞以上の役割をはたしていないよう 「だけど、僕なんか、・ O ・クラークだとか、フレッド・ホイ だ。彼はそのどの瞬間に於ても納得の文脈を展開することはない。 ルなんかも、クレメントもおんなじように面白く読んでた・せ、そ 走りながらちりちりになって行く、あまりにも聡明な一羽のシーガ ういうのは、どっか誤読があると言いたいのかい、つまり子供の ルなのである。《分子運動》というパンフレットには、こんな三段想像力のなかで動きはじめる積み木と似た作用を、。フロバビリテ 論法が述べられていたーー自由とは必然性を洞察することである / イによって算出された″ハ ードな世界のなかでも行なってい 革命家は、歴史の必然性を洞察することによって革命家たり得る / た、ということなの ? 」 従って、革命家は自由であるーーー必然性を徹底的に洞察しながら分僕はビールをちびりと飲んで 解してゆくボリス・ヴィアン、そして六十年代の精神。まるで今は、 「ともかく、クレメントとか、レムなんかは詩的たからなあ」 暗黒時代のまっただなかへ転落してしまったようだ。余りにも不幸と曖昧なことを言った。 な七十年代の子供たち。レイ・・フラッドベリを読んで欲しい。 「サイエンス・フィクションをパズルの一種として読んでる人は たとえば『刺青の男』 ″第一の刺青がゆらめき、生き返る″ 確かに居て、それはそれで関係ないけど、積み木の方がより想像
しは思った。 た名前を貼りつけてゆく。 : だが、何もかも安定し、 奴隷はつねにその主人を真似る。 そして最初の死人が墓に入った : ・ 小ざっぱり配置され、すべてが安全確実になり、町が繁栄し、さとプルードンは権力主義的な共産主義者を罵倒する。言葉を、名前 びしさが少なくなると、すれつからした連中が地球からやって来を、なによりもまずそれらを自由なものにしてみよう、とわたした た。 : : : 社会学の法則を研究したり、適用したりするために、やちは昔熱烈に願ったはずではなかったか。積み木ぐらいに世界の原 って来た。星章や、バッジや、規則や、掟をもって、やって来型である言葉をみつけよう、とする。言葉の新しい関係を、・フラッ ドベリのなかに見つけるという、最も・ハカ・ハ力しい作業が、今月の た。雑草のように地球を覆っていた公文書を持ちこんで、それを ・ : 命令され、掟に縛られ、小突きまわされ仕事である。 火星に植えつけた。・ るのが嫌で火星へ来た人々が、命令され、掟に縛られ、小突きま ここに陳列されている装置は、″特定のことではなく わされるようになった。 『火星年代記』にはそう書いてある。なぜか想像もっかないが、人任意のことを行なう発明品″と申しあげていいでしよう」 人は過酷な生活だけを生きがいにするマゾヒストだ。みんな、こう最近『奇想天外』の特集で紹介された初期短篇『ドウーダッド』に はこんな不思議な機械が登場する。 いう生活を、こんな毎日を、真から愛しているらしいのだ、とわた : ここに、・鳥の巣からビートル・カーのクランクケース レイ・プラッドベリ まで何にでも適用できる、不正確な意味的ラ・ヘルが誕生したわけ です。ドウーヒンギーはモッ。フであっても、かつらであってもい 。ある文化のなかで自由に使われる用語です。ドウーヒンギー はたった一つのものではない。一千ものものであり得るのです。 ハンプティ・ダン。フティの発明した思想が、ここでひとつの形にな っこ 0 問題は、どちらが主人か、ということなんだそれだけだ ( ハ ンプティ・ダンプティ ) まったく、ただ、それだけだ。 「プラッドベリは、サイエンス・フィクションを書くとき、身近 かな感覚を逆に″ロケット″や″火星″に持ちこむんだ、という ようなことを伊藤さんが言ってた」 とが一 = ロった。 「たとえば :
こそ小説にした、とその昔なにかに書いたことがあるような気がす 「まあ、こんな側面は絶対にあるのよ、ただ僕は、こういうのも る。それは言うまでもなく、模型モーター自動車を、積み木のレベ 好きだけど、『みずうみ』なんかのものすごくおさえこまれた感 ルへと原型化したことに他ならない。そうやって、・フラッドベリ じの方が、これはちょっとサイエンス・フィクションの問題とは は、自分の名前さえも、その作品総体をからめとってひとつの自由 ちがって憧れちゃうとこなくはないなあ」 なシンポルにしてしまったのである。 だが、最良の三冊はいつだって『刺青の男』、『太陽の黄金の林擒』、 『ロケット』は『刺青の男』のおしまいの一篇である。宇宙旅行をそして『火星年代記』なのだ。 夢見るフィオレルロ・ポドーニは、ひとり分の切符代を苦心して手萩尾望都がついに単行本になった。コミックに連載されていた にいれる。しかし子供たちに妻、そして自分、いったい誰がひとり『ポーの一族』三分冊は、だけどほとんど ( 僕等にとっての ) 彼女 だけこの夢をはたすべきなのだろう。そんな時、彼は有り金をはたの魅力を伝えていない。時おり、あのはっとっかれるような美しい いて、実物大のロケットの模型を買いいれてしまう。 線を見せはするけれど、ふわりとどこかへ連れてってくれそうだっ ロケットには、時間と空間の匂いがしみついていた。それはた、初期短篇の魔法はなくなってしまっていた。プラッドベリより まるで時計の内側へ入っていくような感じだった。・ ・ : そして運もプラッドベリらしくて、どこか妙に生々しいみたいなあの短篇群 転席に腰をおろした。操縦桿にふれた。目をとじて、ロのなかでは ( 伊藤典夫の押入れを除いて ) どこへ行ってしまったのだろう。 ・フーンと言った。その声が次第に高くなった。ビッチがあがつもう今は、題名もお・ほえていないけれど。読みたいな、と思う。少 た。熱がこもった。狂暴になった。その声がポドーニの内部で震女漫画では極めてまれなことだけれど、彼女の作品は手ざわりが優 動し、ドーニを引きずり、ポドーニを揺り動かした。ロケットしかった。 「・ : ・ : なんてことにやつばりなっちゃうんだよ」 の沈黙がとどろきわたり、被覆の金属が金切声をあげた。・ : ・ : 音 響は高まり、火になり、カになり、浮力になり、ポドーニを弓きと僕が言った。 「結局なんだったんだろう」 裂くほどの推進力になった。 ・ : もう止まらない。止めるわけに とが最後のビールを飲み干した。 : ポドーニは叫んだ。「出発 ! 」 「基本的には言葉のレベルのことみたいだな」 彼はこのひとつの玩具に生命を与えたのだ。彼は、自らの頭のなか と僕もグラスを明けた。 へと突きすすむ。そして、一瞬の高揚が去って行く。 ・フラツー・トべリ - 十、・こ・、、 。ナカこんな風にして読む人毎に姿を変えてい 荒い息を吐きながら、ポドーニは永いあいだ運転席に坐って いた。ゆっくり、ゆっくり、目をあけた。そこはしずかな金屑置るのかもしれない、と僕は思った。とてもつらいことだけれど、と も思ったに違いない。プラッドベリが居なくなってしまった。 場だった。 少年の想像力の息づかいを、・フラッドベリは知っている。わかる 「なんだか変な話になってきたなあ」 とが顔をしかめた。 ジャンク
コンテスト〈「マガジン」のコンテ出しは、選者の意識が消え、一読者として面がおもしろかった 》・◆・◆・◆ストの結果が発表されて、入選作が 9 月号に し、作者の才能の 白く読んだ。が、科学的な解明の領域にくる 司 : ◆・◆・◆掲載された。しかし一読してがっかりしたと と、その道具立てが簡単で、描写も平板とな豊かさを感じさせ た〉 : ◆・◆・◆いうのが偽らざる感想である。一位を分け合 って行く。ただ描写力もあり、筆力もある作 ョ その半村良の本 : ◆・◆・◆った「クロマキ , : プルー」と「そして : : : 」者が、科学を道具に使い、結局、科学自体を がそくそくと出 - ・・一はともに無内容で小説として成立するだけの扱いかねた形なのはこれ亦惜しい〉石坂洋 る。くわしく紹介 ・・・一創意に欠けており ( 中略 ) 三位の「奇妙な民次郎〈「不可触領域」 ( 半村良 ) 。よく勉強し ク石 できないのが残念 ◆ 3 間療法」だけが小説としてのテ 1 「も文体もており、達筆でもあるが、テレバシーで人間 だが、『不可触領 了◆・◆・◆持っているが、これも大きな力のない作品 の心を統一するという着想は、超能力少年の 域』 ( 文芸春秋・ 7 当 : ◆・◆・◆だ。出版点数は多くなり「日本沈没」なみの話のようにもう一つ真実性に欠けているよう 5 0 円 ) と『闇の ・ - - 一ベストセラーを狙ったスベキ = レイティヴ 日一 な気がした〉村上元三〈半村良氏の「不可 : ◆・◆・◆ 中の系図』 ( 角川 ・・ ( 投機 ) 小説が大繁栄し、スベキュレイティヴ 触領域」は、ファンの一人としても、わ 書店・ 8 8 0 円 ) たしには不満であった。フィクションがあっ 3 ( 思考 ) 小説としてのは更に衰退している の二長篇は、、・ 〉・◆・・◆・◆が、或いはあと数年での″新しい小説″ て、サイエンスがない。といつも言ってるこ れも的な趣向を巧みに盛りこんで現代の 〉・◆・◆・◆としてのシリアスな意味など失われてしまう とを、また書かせてもらう。参考作品の「新 歪みをきりとってみせたカ作で、読んで損は - ・・一のかもしれない。特に新人に新人らしいオリ 宿の男」は、この作者にとって裏芸のような 了◆・◆・◆ ・・ジナリティが欠けているのは問題である〉 ない。また近作短篇集『炎の陰画』 ( 河出書 もの、と席上で聞いたが、芝居の一幕物に似 ◆・◆・◆山野浩一「時評」 ( 週刊読書人 8 月日 て、よくまとまっていた〉川口松太郎〈 ( 「失房新社・ 880 円 ) ー表題作と『簟笥』がと 〉・◆・◆・◆号 ) から。 われた球譜」「鬼の詩」「不可触領域」の ) ーと、作者のもうひとつのレバート 了◆・◆・◆ リーである男と女のおはなし集『男あそび』 直木賞半村良が『不可触領域』で第れ回三篇はどれも一流作品と称してさしつかえな ◆・◆・直木賞候補になったが、惜しくも受賞を逸し ( 実業之日本社・ 580 円 ) ー表題作だけが いほどの筆力を持ち、どれも面白く読める。 ・ - ・一た。作家としては五人目、十回目の落選 ーも、楽しい ( 中略 ) 阿部、半村の一一作を推薦して決定は - ・・一である。恒例によって選評 ( 「オール読物」川 今月の異色作は、天野哲夫『女帝ジャクリ 委員諸氏の判断に任せた〉松本清張〈「不 ◆・◆・◆月号 ) から関係のある部分を引用すると 1 ンの降臨』 ( 立風書房・ 12 0 0 円 ) であ 可触領域」では、半村良氏の進捗に接するこ る。日本史に残る傑作『家畜人ャ。フ ◆・◆・◆柴田錬三郎〈私は、 ( 「鬼の詩」とともに、「不とができた。「黄金伝説」にみるようなドタ ◆・◆・◆可触領域」も、当選作にしてもいい。見事な ー』の作者、沼正三の″代理人″が書きおろ バタがとれ、文章も練れたものになった。冒 ・・・一小説だ、と考えて、選考会にのそんだが、 した長篇で、 19 51 年 5 月、マッカーサー 頭から数十ページまでは出色。テレバシイが ・ ' ・一意外に、票が集まらなかった。前半はいし 元帥が葦原醜男と名乗る日本人に刺殺され、 選挙民や国民の頭脳を統制するという発想は - 0 が、後半が腰くだけになり、としても説斬新だが、かんじんのテ」。 ( シ→の細部道具十カ月後、日本再占領にともな「て、ジ〉ク ・◆得力不足のリアリティと恐怖感に欠ける、と立てが粗雑なので、フィクションとしてのリ リーン・ケネディが再生ヤマトの初代女帝と - ・ - ・一いう評もあ 0 たが、候補作品中、面白さに於アリテ→・・ポーや上田秋成などの小 なるーーーという設定のもとに展開されるマゾ ヒストの物語。 - - ・一て、随一であ「た。この作家は、こん後、異説構成をいう ) に欠く。この長い枚数に比し て、中心になる力点が弱い〉水上勉〈半村 命て 0 常に巧くなる人のような気がする。次のカ作 豊田有恒の書きおろし『倭の女王・卑弥呼』 ◆・ 3 を期待したい〉源氏鶏太〈半村良氏の「不良さんの「不可触領域」は感心する委員もあ ( 徳間書店・ 580 円 ) も見逃がせない。謎 ・◆可触領域」は、多くの議論を呼んだ作品で、 って、話題を投じた。しかし、私は参考作の に包まれた卑弥呼の若き日の恋と冒険を、 = ◆・◆一時は授賞の対象になったのだが、結局、見「新宿の男」の方に作家の力量をみている。 かにもこの作者らしい史実の推理とイマジネ といっても、授賞作とするには弱かっこ。 ◆ , ・・送られたのは、前の部分の凄さに比較して、 1 ・ションで描きだした古代史ロマンで、一気 一 - の世界に入ってからはどうもついていけ 「不可触領域」については現世の神秘も感し に読ませる面白さに満ちている。 ・・・・一ないとの説が出たからである。しかし、大変られず、私は何もいえなかった。しかし、こ 文庫では、都筑道夫『宇宙大密室』 ( ハヤカ ◆・◆・◆な才能の持主であることは間違いなかろう〉 の人の領域には注目している〉司馬遼太郎 ワ・ 320 円 ) が、おすすめ品。収録凵 : ◆◆い◆今日出海〈半村良氏の「不可触領域」の書き ( 受賞作の ) ほかに、半村良氏「不可触領域」篇のうち川篇までが単行本初公開。
一週間位前だろうか、六本木のミスティで、なんとか言う知らな だぜ、死んたんだ、わかるか ! 死んだんだ ! 真似してるんじ ハンドを聞いていたら、突然、ジャズってのがひどくいとおしく ゃない、遊んでるんじゃない、ふざけてるんでもない、おっ死ん で冷たい死体になっちまったんたよ ! 」彼はこぶしをかためてジなってしまって、ガクゼンとしたものだ。よくわからないけれど、 ジャズの文脈には、納得を強要するみたいな所があるようだ。これ ニーをどなりつけた。どなり声は、暖かな昼下がりを寒い冬に は、どう考えてもビートニクの音楽だぜ、とその時思った。理由も 変えた。 なにもない、ただ、うんうんと聞いていれば、それたけで終ってし 「死んたんだ ! 」 スミスのうちに冷たいものが走った。ジョ = ー、奴のいうことまうのが何とも不気味だ。ああオレもついに、こんな年かと一杯の 世界はすばらしい場ウイスキ 1 が急にまずくなってしまったものである。僕等が聞いて を聞くなー・傷つけられるな、ジョニー 所なんだと信じ続けるんだ。純真なまま、怖れも知らず生き続け育った音楽は、なんといっても・フルース・ロックであろう。応答形 るんた ! 恐怖につけいられるな、ジョ = ー。おまえもいっしょ式だけで成立ってるみたいなこの音楽は、自問と爆発的なケーレン 音によって、見事に全ての正解を突き崩していったものだ。自壊す にこわれちまうそー この短篇はいろいろな意味で示唆的である。第一にジョニ 1 は、あるためだけの音楽たった。だから音楽だった。 「おれはどうも音楽が本当は大嫌いなんじゃないかと思いだした の若すぎる位若かったアメリカの国民とその産物サイエンス・フィ クションの見事な寓意のようだし、そして現実よりは精薄のジョニ とわたしはに言ったものだ。 】をこそ選びとるプラッドベリの質もまた明瞭た。 昔、飛行機が好きだった。だからあの『ジョナサン・リビングス ハヤカワ T2 シリーズ 3 2 8 5 トン・シーガル』というのがあらわれた時に、ああこりやパイロッ プラッドベリの「黒いカーニバル トの本だなあ、と納得したものだ。どういう訳か空の上へあがれ ば、なにもかもがひどく素直になってしまう。まるでジョニーのよ うな人々は、空でくらすのが一番なのだ。人間は空を飛んでいる間 だけ、人間ではなくなるみたいだ。だが、われわれは幸か不幸か、 カモメではなしに、翼のない生物なのであろう。アメリカ人ならカ モメに似ているかもしれないけれど。われわれは本当に自分達の主 人になるべきだ、と思う、カモメの親分にではなしに。 おいらの恋した女は / 港町のあばずれいつも / ドアをあけた ままで着替えして / 男たちの気をひく浮気な女 : : : かもめというと まずこんな歌、そして僕が大好きなほんものの海のかもめの眼、『ジ ョナサン・リビングストン・シーガル』なんて本は悪魔に食われて しまえ。 黒し、カーニノレ ー 03
「そうです。もう一部を切り取らせていただきましたよ」 意識が溶暗しつつある。肉はもとより、大量の血を流出させて、 「 : : : 一部を : : : 切り取った ? 」 彼の心臓は鼓動を停止しつつある。 おうむ返しに彼は呟いた。とある衝動が突き上げて来た。それは この浄福感はどこから来るのか、といくたびとなく繰り返して来 笑いだった。声にも出さず、表情も変えす、意識をふるわせて彼はた問いを再び彼は自らに問う。 モンド・ガース 笑い始めた。足の先が欠け落ちていると感じたのは正しかった。か なぜ俺はこんな充たされているのか ? あの″大の世界″ではっ れらがすでに肉をそぎとっていたに違いない。 いそ味わえなかった魂の充足が、なぜ今手中にあるのか ? 「そして : : : 君たちは人間なのか ? 」 内部の声が彼に言う。 ピグマリオン 「私たちは小人族」その男は誇らかに叫んだ。 それは、初めてお前が何かを他人に与えたためだ。奪うことしか 「あのかたが人間を再出発させるためにお送りになった新しき人類知らなかった心が、与えることの快感に酔っているのだ。つまり、 です。科学者を通じてあのかたはそれをご手配なされた。″ 大破局″お前は初めて有用な存在になり変ったのだ。 以前から進められていたプログラムだったのです。あのかたは″巨 別な声が言う。 人族″たちに見切りをつけておられたのです。 : : : 」 お前は選ばれたのだ。小人のいう通りだ。あのおかたはすべてを コロサス 「しかし : : : 私もその巨人の一人だ」 見越して、彼らの飢えを救うために、お前をながい眠りに就かせた 「そうです。そして同時にあのかたの分身でもあります」 のだ。すべてはあのかたのプログラムだったのだ。 彼はロをつぐんだ。小人の男の最後の一言で、彼の内に凝固して なるほど、と彼は呟く。すべてはその通りかも知れない。或い いた何かがふいに融け始めたのだ。意識全体が澄んで来た。すばらはそうではないかも知れない。だがそれはもうどうでも、 ししこと しい昇華作用の洗礼を受けているかのようだった。 だ、俺は間もなく真実の眠りに入る。二度と覚睡することのない眠 「巨人よ : : ・・」 気づかわしげに小人は言った。 俺の肉体は彼らをいっとき養い、そしていずれは土に還る。物質 「あなたは幸福ですか ? 」 の輪廻の一環に組み込まれるのだ。それがつまり俺の存在としての 「ああ、そうだ : : : 」彼は呟いた。 根源的な意義だ。それを悟っただけで俺は満足だ。 「その通りだ これがそうだということを、今初めて知ったよ : 意識の溶暗は深まる。すべてが漆黒に閉ざされる寸前、あざやか なイメージが弾けるように彼の心に閃く。あのかたの顔。その相貌 はーーー彼自身のものだ。 瞑想Ⅱ ネオ・サピエンス