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検索対象: SFマガジン 1974年12月号
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1. SFマガジン 1974年12月号

混じって、どんよりした怒りが渦巻いていた。ノーラは彼に向かっ たのだ。 て大っぴらにくすくす笑っていたが、それに気がつくものはだれも 「おしまいはダウジングですー教授はいった。 ポンチがあらたかすぎるほどの効能を発揮したのだ。ど し十 / し 「ダウジング ? 」フォート の名を知っていた記者が、聞きとがめ や、それど た。「先の二またに分かれた棒で水脈を見つけるっていう、あれでんな超知覚の実験も、これでは成功がおぼっかない。い しよう ? しかし、あれと超能力と、なんの関係があるんですかころか、だれを見ても、正常知覚さえおぼっかない状態だった。側 ーティがおひらきになって、 面の芝生は、いましがたカクテル・。、 「あれは透視カーー・・超常知覚力の一例ですーセ 1 ヌ教授はポンチのどっと客が吐きだされたように、酔っぱらいたちが思い思いに散ら はいったグラスをうけとりながら、説明した。「柳の杖、彼女は必ばっていた。 ウエルク博士はなにか聞きとれない言葉をフランクにどなり、両 要ありません。彼女はたんなる迷信です。ラ・ラディエステシ 1 ーダウジングの別名ですーーーは、みなさんがさっそくご覧になるよ腕を振った。 、つこ、 忘れるなよ、わしは四時にゴリラと約 コートのハンガーを使っても、おなじようにうまく達成でき「さあ、早く片づけよう ! 束があるんだ ! 」 るのです」 「いまはふまじめな行為の時ではありません」セ 1 ヌ教授はやりか 「それとも、おなじようにまずく、かもな」ウエルク博士は、セー えした。「みなさんに墓のような沈黙をお願いします。被実験者は ヌ教授に聞こえないように、声をひそめてささやいた。「わしは前 もって、地質学部の連中にここを調べさせておいたんだ。連中の報極度に精神集中しなくてはなりません」 フランクはコート・ ハンガーを上にかざした。そして、酔いをさ 告書は中にあるがね。この家の敷地にはどこを探しても地下水はな まそうと大きく息を吸いこんだ。これまでにも水脈を発見したこと 骨のようにカラカラさ。まあ、見ていたまえ」 一方、セーヌ教授のほうは記者たちを話にひきこみ、そしてどちはある。もしこの敷地に湿り気の痕跡でもあれば、彼の内にあるカ ハンガ が不可避的に彼をそこへ導くことはわかっていた。コート・ らもノーラから五杯目のポンチを受けとっているところだった。 ーは。ヒクリと震えて、そっちを指し示すだろう。そして、セ 1 ヌ教 「みなさんが芝生の上に観察される機械、彼がけさわたしが借用し てきたポータブル井戸掘り機です。わたしの若い友人が水を発見す授が穴を掘るだろう。いま、教授は家の中の電源につないだ長いコ ードをひきずり、重い携帯ドリルをかついで息を切らしながら、忍 れば、わたしはあれを利用して穴を掘ろうと思います。注目しまし よう、彼はいまコート・ ( ンガーを持って家の中から発生してきまび足に彼のあとをつけてきた。コードは百メートルの長さがあっ た。フランクは頭をたれて、ゆっくりと歩きはじめた。 したー フランクの発生ぶりは、しかし、あまり早いとはいえなかった。 「とまれ ! 」教授がささやいた。「このコード、彼女は長さの終り こきこ 彼の内部では、それとは知らずに飲んでしまったアルコールといり

2. SFマガジン 1974年12月号

が私たちにまでその能力が揮えるなんて夢にも思っていなかったまとうものであることが彼にはわかっていた。 よ」 彼は道路横に教会を見つけた。その尖塔も建物の壁も、闇の中 4 「それはもういいんだ」とディアブッシュ , 。 で、いたすらに大きな平面形に見えるばかりで、ただヘッドライト あめか・せ 「こればかりは忘れようがない ~ 私は彼女のことがわかっているつがあたっている、雨風に古びた褐色の屋根板の重なりたけが実体感 もりだった ~ 彼女に話しかけられる前には、彼女についての私の見をそなえていた。彼は車を止め、降りた。車のトランクを開けてか 解は完全に固まっていた。ところがだ。突然、彼女がこの世で最もら教会境内の墓地のまわりにめぐらされた、錆びた鉄パイプのさく 素敵な人になってしまった。彼女は人が彼女に与え得るいかなるこを越えて中に入った。彼はそこでしばらくの間立ちつくしていた とにも値する。彼女の要求を満足させてやることこそ正しく、彼女が、やがて車の開けられたトランクのところにもどった。道具箱の の満足を妨けるのが許されようなんて、とても考えられないことだ中の大きなねじ回しでこじりはずした ( ・フ・キャツ。フと、道具箱の づた ~ 私は彼女のためなら命だって捧げるつもりでいたよ」 い鋼鉄の蓋とを手に、彼はスタナョドのところに行った。 「いいんだってば、スタナード」とディアブッシュ ~. 彼は目をしば 「さあ」と彼。「これを、掘るのに使おう」 たたいており、道路わきの景色をしきりに眼で追っていた。彼はス スタナードは心もとなげな足どりで車から降り立った。「彼女は タナードが黙っていてくれればよいがと思った。 まるで癇の強い子供のようだったなあ」と彼。「彼女が求めていた いや、ちっともよくはない」とスタナードは首を振る。 のは愛情だったんだ。絶対的な完全な愛情だったんだ」 「もうちょっとでどういうことになるところだったか想像がつくか ディア・フッシュはハ・フ・キャップを彼の手につきつけた。「さ 彼女が私をあやつれたのなら、誰をだってあやつれるわけあ」と彼。「早いとこ済ましてしまうほうがいい。くどくど言うの だ。かりに私たちが彼女をシカゴにつれて行くことに成功したら、 はやめてくれ」 「そうしよう。ディアブッシュ と考えただけでもそっとするぜ。私たち五十人がすべて彼女の奴隷「そうたな」と曖昧にスタナード。 になってしまうところだった。君は決してそれをくいとめることは 、愛情へのそのような要求にプレーキをかけていたものは何な できなかったろう。私たちはみんな君に敵対しただろうからね」スんだ ? 何故彼女は君にはあの力を及・ほせなかったんだ ? 」 タナードはぐるりと後を振り返って、さっきのディア・フッシュがヴ ディア・フッシュはックシートにかがみこんでヴァイを抱き上 アイを優しく横たわらせた・ ( ックシートを魅せられたように凝視しげ、外に出した。その抱擁には全身全霊をこめた優しさがあった。 ゆす た。「君のやったことは正しかったよ、トッド。君の生涯のあらゆ彼は彼女を腕の中で子供をあやすように揺った。 る行為のうちでも最も正しい行為だった」 「彼女は生涯求め続けていたんだーー」と彼は言った。「彼女に本 。そしてとう ディアブッシュは今まで、これほど疲れたことはなかった。あの物の愛を与えることのできるただ一人の男性をね : 印象が心に執拗にこびりついているのだ。それはこれから生涯つきとうめぐり合ったのさ」

3. SFマガジン 1974年12月号

ようやく彼女はまた歩き出した。わきにかかえているドレスのこ っぷして激しくすすり泣いていた。「と、とんでもない」と彼女は 言っていた。「ここには誰も来ませんでした」 とを忘れて、不思議そうに首をひねっている。「あなたは私がいるに 正面玄関では、サマードレスの女のために一人の紳士がドアを支のに気がついてくれたのねーややあって、ようやく考えがまとまっ えてやっていた。ディア・フッシュは、出口に立っている、デパ て彼女は言った。「それも自発的にね。今まで誰もこんなことはな の刑事のそばをすり抜けて通りに出、彼女からわずか数ャード後方かったわ。あなたも本物なのねー ショッピングエリア 「言われることの意味がよくわかりませんが」とディア・フッシュは をついて行った。大通りからわき道へと曲り、商店街から離れて 行く女を彼は尾行した。彼はたった今、自分が目撃した光景をどの物柔らかに「でも、他の人たちは、私のいることにも気がついては くれませんよ」 ように解すべきかわからなかった。 「こちらから働きかけなければで しかしそれはさほど重大ではない。 重要なのは彼がその女を彼女はきつばりとうなすいた。 しよう。あなたは本物よ。 . : : : 私以外に本物がいたなんて思いもよ 見つけたということだった。 彼女は今まで尾行された経験がなかった、と彼は思った。彼女はらなかった」 決して、あたりを振り返って見たりしなかったからだ。彼女が横手「他にもまだ幾人もいると思いますよ」とディア・フッシュは答えた の並木通りへと折れ曲って行った時、ディア・フッシュは追いついてが、厳密に言って彼女と同じような者は一人もいないなと心中で考 えた。「でもその数をはっきりつかむのは難しい。どの町にも幾人 わきに並んだ。 彼がそのまま二十歩ほど歩いた時、ようやく彼女は振り向いて彼かずついるのかもしれません。私の知っている限りでは、私の属し を見た。その顔はちょっと不審げだった。腑に落ちないといった目ている集団は、こういった人たちが寄り集った唯一の組織です」 「そんなに沢山、私たちみたいな人がいるの ? 」 つきで彼の顔をのそきこみ、「あなたは普通の人と違うわ」と言っ 「そうですね」と彼。「私が属している組織には、五十人以上いま 「でも、心配はいりませんよ」とディア・フッシュは女を怖がらせなすよ」 二人はさらにもう少し歩いた。すでにまわりは富裕な住宅地で、 いように用心しながら言った。「私はトッド・ディアブッシュとい う者です。あなたに危害を加えるようなことはありません。ただ、大きな邸宅や、広い芝生が目についた。また彼のほうを振り向いた 彼女の顔を見て彼は、彼女が歩きながらずっとこのことを考え続け ちょっとの間、ご一緒に歩いてみたいと思いましてね」 「どうして私たちは本物なの ? トッ 彼女は立ち止った。「あなたは普通と違う」と彼女は繰り返していたのだなとさとった。 た。「私とおんなじ」 彼はまだ彼女のその言葉の意味がくみとれなかった。ただできる とディア・フッシュは思った。「さあ、 同じかもしれないが : だけわかりやすい返事をしようと骨を折った。「私の仲間にスタナ どうですか」と彼は言った。

4. SFマガジン 1974年12月号

大成功であることには、なんの疑いもなかった。それからたった一一 学の教授団に属するふたりが、こういう明々白々な事柄で論争する 分たらすで、フランクはノーラの指輪を見つけだし、それから五分のは、じつにばかばかしいことだ、とね。そして、とうとう彼は事 8 とたたぬうちに、ふたりは結婚の約東をとりかわしたのだから。 態に結着をつけようと考えたらしいんだ。彼はきよう、きみのお父 さて、フランクのような超能力の持ちぬしでない以上、アンガスさんに公開の挑戦状をたたきつけた。きみのお父さんに六人の委員 だれでもお望みの人物ーーーを選んでもらって、超心理学現象の ・ウエルク博士は、自分の愛娘がひそかに婚約したことを、さいわ いにも気づかなかった。この状況は、ノーラにもフランクにも理想実験に立ち会ってほしい、というわけだ。彼は明日、自分の主張を 的に思えた。ふたりのデートの場所は例の公園であったり、ときに立証するために、被実験者を連れてきみの家へ乗りこんでくる」 。、。、こよきっとシ 「たしかに大事件だわ」ノーラはうなずいた。「 / はドライ・フ・インの映画劇場のいちばん後ろの駐車スペースだった ョックでしようね」 りした。ふたりとも映画にはさつばり関心がなかったので、超常現 「きみのお父さんだけじゃないよーフランクはつぶやいた。「セー 象の研究にはなんのさしつかえもなく、ノーラはたちまちのうちに 熱心な学生から熱烈な改宗者へと進級した。 / 彼女がなにをどこへ隠ヌ教授はその実験の対象に、なんとぼくを選んだんだ」 「そんなーーそんなのないわよ ! 」 そうと、フランクがそれを誤りなく見つけだせることを知るのに、 時間はかからなかった。ノーラがいつまでこの広大な研究分野の実「ところがあるんだ。なにしろ、ぼくは教授の虎の子だからね。彼 だが、そこ 験台をつづけるつもりだったかは、よくわからない は・ほくについての本を前から書きたがってる。話しただろう ? 」 「でも、なぜあなたは断わらなかったの ? 」 で、予想もしない危機が訪れた。 フランクは虚をつかれたように、目をばちくりさせた。 セーヌ教授という名をかりたその予想せざる危機は、万事をがら りと変えてしまった。セーヌ教授が、やぶから棒に超心理学的な憤「断わることはできたはずよ」ノーラは容赦なく言いつのった。 「あなたがそういう実験に関係してることをパパに感づかれないよ 怒の発作を起こしたのだ。 「もうめちゃくちゃだよ、まったく ! 」ある夏の夜、デートの場所うに、あなたの卒業まで婚約は秘密にしておこうといったら、あな に選んだ例の公園の入口で、フランクはあいさつもそこそこに、彼たも承知したじゃないの ? 言ったでしよう、パパはわたしを超能 女に告げた。「きようの夕刊を見たかい ? お父さんから聞かされ力者と結婚させるぐらいなら、まだ無能力者のほうがましだと考え る人だって ? それに、あなたも大学を卒業したら、いまの研究は しいえ、いま研究室からの帰りな切り上げて、どこか本物の心理学の仕事・ーー・ベルを鳴らしたり、大 ノーラはかぶりを振った。「、 に唾液を出させたりする仕事ーーーのある研究所へっとめると、はっ の。パパはきようずっと家にいたわ。なにがあったの ? 」 きり約東したじゃないの ? 」 「セーヌ教授さ。彼はきみのお父さんから目のかたきにされるとい って、ここ数カ月のあいだ、しよっちゅうこ・ほしていた。おなじ大「うん」フランクは答えた。「・ほくはきみのお父さんにいい印象を

5. SFマガジン 1974年12月号

の邪魔にならぬよう、道をよけながらあちらこちらと動き回り、 ア。フッシュは立ち止り、円柱に寄りかかり、あたりの人々に無視さ 人々の表情を観察して、事態の深刻さを次第に悟り始めていた。 れたまま待機していた。そしてようやく、閉店まぎわになった頃、 3 二時をまわった頃には彼は急ぎ足で歩いていた。その時までには彼はその女を見つけたのである。 彼はどの店の被害が一番大きいかを知り、また、この万引き犯人の彼女はすでに沢山の買物包みを腕の下にかかえこんで、店内に入 彼よ、スタナードだった 仕事ぶりのパターンを察知したと思った。 / を って来た。長身で、青白く、痩せぎすな女だった。その鳶色の眼は らそれをもっと早く察知し、ことによるともう仕事を済ませてしま大きく、鼻は短く、やや上向きだった。そのくちびるはキュ 1 。ヒッ ったことだろうかと思ったりした : トの弓形にすぼめられていた。髪は短めで黒く、銀粉が、うっすら 彼はメリーランド・カンパニ 「何んでも揃う、大デ・ハー とデリケートなタッチで振りかけられていた。彼女の歩行は軽やか だったーーー通常の意味での優美さはなかったが、ディア・フッシュに へ歩み入って、通路をあちらこちらとそそろ歩き始めた。 この店は、彼の受け持ち区域の、町の半分のどの店よりも混乱が若い小鳥を想い起させるような、敏捷な浮わっいた動作だった。 ひどかった。店員たちはほとんど絶望寸前にまで追い込まれてお上着は薄い。ヒンクの夏服で両肩に飾り紐がついており、厚手のスカ 、鉛筆のしんが紙に喰いこむほどに力を入れてレシートに記入し 1 トのヘりにはひだ飾りがついていた。その額の深い皺や、そのく たり、つり銭を出すのにまごっいたりしており、そのため客まで、 ちびるの鋭い輪郭がなかったら、その年齢は容易に見間違えられた いらいらと落ち着きを失うほどだった。誰一人として平常の声でロ ことだろう。 をきく者はいなかった。 彼女の視線はドレスの棚や、その隣のアクセサリーの陳列台の上 彼は、何人ぐらいの者が、じっと身動きせず、たたずみ、店内のをさっと走った。下くちびるを噛みながら彼女は、並んでいるハン ド・ハッグを眺め、それから首を横に振った。彼女はぐるりと向きを 客たちに視線を走らせているかを見きわめ、それで保険会社の恐慌 の度合いを察知した。また在庫品調べ係りの連中が、売り場から売変えた。刑事たちはすべて、他のことに気をとられて彼女を見落し り場へと急ぎ足で歩きまわり、かなり順序だったやり方で、抜き打ていた。 ち点検をおこなったりしていた。 ディア・フッシュは確信した。 彼らもまた、犯行のやり口のパターンを察知しているのだった。 彼は女がドレスの棚に近づき、品物を取り上げ始めるのを見まも ディア・フッシュは、そのシステムの能率の良さは認めた。しかしだ っていた。ややあって彼女は女店員のほうに歩み寄った。その女店 からといって、彼らにはこの特殊な泥棒を捕えるわけには絶対こ ~ い員は自分のスカートに付いた木綿くずを神経質そうにつまみ取って かないのだ。 いたところだった。 彼は婦人服売場へ行ってみた。そこは、このデパート 内のどこよ「今日は」と女は物柔かに言った。 りも、緊張をはらんだ無為の状態の人々が数多く集っていた。ディ 女店員ははっとしたように活気づいた。その顔は暖かい微笑に明 ザウン

6. SFマガジン 1974年12月号

それには違いねえ。 だが、わしの言わんとすることはだー・ーわだ。在庫品というものは、ひとりでにドアからただよい出たりする しらはみんな、お互いに気心が知れてる。お互いに調べ合いも済んものではないんだがーーーでも、つい今しがたまであった物が、ひょ だようだしな。どうやら、わしの店の被害が一番ひどいようだぞ。 いと見るともうない。これじゃあ、どうにもしようがないじゃない ここ二カ月ってもの、うちの店卸し表を調べると一週間に百ドルぐか」 らいずつ不足なんだ」 「それはそれとしてだ」と別な男がくちばしを入れる。「あんたが 今や、他の男たちも口をはさみ始めた。背の低い男はわめき立てた全部がこのことについて、あんなにも長え間、黙りこくってせえ る。「ふん、そりゃあ、わしの店が一番ひどくはないかもしれない いなかったら、今よりは、六週間がとこ談合をしたぶんだけ解決の さ。だが、どのみち、とどのつまりは、同じこっちゃないか。誰かめどがっきかけていたはずだそ。この事件のあらましを新聞で読ん がわしたちの店から品物を持ち去って行く。そいつはもう何カ月もで初めて知ったてんじゃあ、あんたのためのきよう会だかわからな それを続けてる。わしたちは気がふれそうな有様だし、そいつがど いでねえの」 ういう手口を使っているのかさえ、わかっちゃあいないんだ。それ「お前が立ち上って、喋ってたなんてわしはちっとも気がっかな にだ。こんなことに長い間、堪えられる商人は、ここには一人だっ かったよ、サム・フレイザー」と貧相な男がカッカしながら応す ていないんだ。この犯人がまだやっていないことと言ったら銀行破る。「そりゃあわしは、馬鹿に見られる役を、そう大いそぎで買っ りぐらいなもんだ。 それだって多分、そのうちにゃあ、やらかてではしなかったさ。ところが、それがわしの店だけに限ったこと すつもりだろう。警察はまだ何んの手がかりも見つけちゃいない。 じゃなかったってことが後でわかったわけさ。でもそれから後は、 保険会社の調査員もいいところがないし、わしの店に雇っている警わしはちょいとも利ロぶらずに、この町の商人仲間全部に呼びか 官もさつばりだ。早いとこ何か対策を立てないことにゃあ、この町け、よくやったつもりだそ。お前なんか坐ってろ。黙ってわしらに はーーーそうよ、この町全体がーーべっしやりこと破産しちまわあ ! まかしてりやいいんだ。この件がわしらの手に負えなくならないう さあ、どういう手を打ったらいいんだね ? 」 ちに始末してやらあ」 ディアブッシ = は独りでムニャム = ャつぶやいた。彼はシャツの「今だって私たちの手には負えないぜ」そう言ったのは、今までず ケットの中の、封を切った紙袋に指を三本つつこんで刻みタ・ハコ っと沈黙を守っていた男たった。ディア。フッシ = はその男に前から を一つまみ出すと、考えにふけりながら、それを噛み始めた。 気づいていた。最前列で身を乗り出すようにして坐り、指を焦がさ 今や他の男たちも立ち上っていた。「わかったよ、ヘンリー。私んばかりに短くなったシガレットを深刻なおももちで指先につまん だって自分の店のことでは発狂寸前なのさ。君は、何か手を打つべでいた男だ。明らかに気おくれした様子ながら、ねばりこく続け きだというが、では、どうしたらよいのかね ? ただやたらと物がる。「これは通常の、いわゆる万引きなんてものじゃない。保険会引 消え去る。それも真昼間にだ。誰もそれに近づいた者はいないのに社の人たちにあたって、確かめてみたし、クリステンスン主任とも

7. SFマガジン 1974年12月号

みると、こんなネタ、中学生だって考えつく ) とこ を追いはらうが、なんとしても島民が少なくて兵士 ろが、さらにすごいのはその行動を一部始終見てい が集まらない。そこで女王は、サーに四人の健康な た「大学の教授」たち。い ままで野蛮人が何人も構 女をあてがい、種付け ( ! ) をさせる。一日に四人 をこなしたサーは、翌朝女王の絶賛を受ける。なに 、物 / ' ・一一内〈侵入しようとしたが、かれのようにみごと ( ! ) な侵入方法を考えついた者はいない、といってひど しろ四人のうち三人は一回でみごもったのだから く絶賛し、生徒として「入学」を許可する。しかも ( ! ) 。この仕事に適性を発揮したサーに向かって、 入学のしるしに、どういうわけか黒いロープと図書 女王はいう 館カードと歯プラシ ( ! ) を配給してくれるのだ。 「わたしとしても、おまえにこのまま仕事をしても あら筋を紹介するだけで笑いころげてしまって、 らいたい。けれど、もっと重要な役目がおまえを待 っている。実は、むかし地球は一つの世界だった。 もうこれ以上書けない。とにかく、「華氏四五一度」 と「猿の惑星」と「砂の惑星」を足し合わせたこの それが、ある事件をきっかけに今のような野蛮な状奇想天外な当たりまえ、ジョン・ 心あたたまる家庭小説風冒険は、近ごろ稀にみ 態に逆もどりし、世界のあちこちに少しずつ小部族ロバート・ラッセルの『サ が住んでお互いに殺しあうという何とも浅はかな状る「大学」というところへ行くのがいちばんいいだる珍品といっていいだろう。このあと、地球の文明 態になってしまった。わたしは世界をもういちど統ろう、と教えられる。サーは勇んで山を越えるが、知が減びた理由を解明するくだりから結末にむかっ 一したいと思う。ただし昔の二の舞だけはしたくな識の殿堂「大学」には電磁バリアまがいの高圧電線て、奇想天外に当たりまえな話がつづいていくの 。そのためにまず、どうして地球に堕落が訪れたが張りめぐらされており、どうしても構内にはいるだ。 ことができない。さあ、電気の知識もほとんどないきみがもし正統派のヒロイック・ファンタシイ・ かを知りたい。 ところで、海のむこうにカリフォルニアという大野蛮人サーがどうやってこの障害を乗り越えるか ? ファンなら、リン・カーターの新雑誌〈カダス〉を 陸がある。そこへ行って、どうか地球の出来ごとのここで奇想天外な方法を考えだして読者をアッといもちろん買うだろう。けれど、ジョン・ロく 真相を探ってきてもらいたいのじゃ。あの大陸にはわせるのが、作者の腕の見せどころだ。そして、ララッセルの本を見つけたら、どうするだろうか ? ッセルは確かにものすごく奇抜な方法を考えつく ! すくなくともぼくにとってかれの単行本は、カータ 本もある。大学というものもある」 ー同様必携の珍品になるはずだ。 サーはさっそくカリフォルニアに向けて出航すどんなに巧妙な方法かって ? サーは電線のまわりを一周して様子をながめた。 る。海のむこうの国にたどり着くと、そこには「ハ イプル」という本を生活の基本にした種族がいて、その途中に大きな石があって、そこだけ電線が遠ま そこの族長は代々モーゼを名のっていた。サーはそわりしている。とたんにサーは木を引っこぬくと、 のモーゼから、地球の謎を学ぶんなら山の彼方にあそれをテコにしてカまかせに石を動かす ! ( 考えて 0 0 0 0 Afot 05 症 n 。 -0 John R 。 b 球肥Ⅱ 3 ー 2 5

8. SFマガジン 1974年12月号

と答えることで、あっさり解放された。遠藤の話によると、この 基地には数えきれないほど実験室があって、常時、どこかで仕事を しているということだった。 勢いこんで入ってみた建物が、なんのことはないただの体育館 で、飛び箱ゃあん馬が置かれてあるだけで、人影はまったくなかっ 私はあせっていた。夜も、深夜と呼ぶべき時刻になったというのた。 拍子抜けした思いで外に出た私の眼に、トーチカ様の小さな建物 に、稲垣がどこに軟禁されているのか、そのめどさえっかないでい るのだ。 が映った。まさかとは思ったが、念のため覗いてみることにした。 ポケット・ 重い鉄扉を開けたとたんに、すえたような湿った臭いが鼻をつい ベルも沈黙を続けている。 あまりにも探索すべぎ場所が多過ぎた。広大な敷地に、兵舎とも、・た。六メートル四方ぐらいの広さで、床はなく、地面がむきだしに 実験室ともっかぬ建物が林立し、しかもトンネルのような地下壕が , なっていた。裸電球が一つ、わびしく点もされている。 縦横に走っている。島の外観からはとても想像がっかないような、 中に入ってみるまでもないようだった。肩をすくめて扉を閉めよ これは規模の大きい基地だった。 うとしたその時、どこからか低くモーター音が聞こえてきた。扉に その内部を一匹の蟻のようになってうろっき回っているうちに、 : ・手をかけたまま、私は首をかしげて、音がどこから聞こえてくるの 私の胸にある疑惑が浮かんできた・自衛隊電子実験場に、どうしてかっきとめようとした。 これほどの規模が必要なのか、という疑惑が 音は壁のなかから聞こえていた。 だが、その疑惑に時間を割いている暇はなかった 私が音の正体に気がついて、慌てて鉄扉から首を引っこめようと あるいは廊下を走り抜け、あるいは地下壕に潜って、私は懸命にした時、正面の壁が二つに割れ、左右にスライドしていった。 探索を続けた。もちろん、どの建物にも出入りが自由というわけで幸運だったのは、エレベーターには誰も乗っていなかったこと はなかったが、いやしくも国会議員という肩書きを持つ人間を、鍵だ。内装合金が冷たく光っているだけだった。 のかかった部屋に閉じこめておくとは、ちょっと常識では考えられ私はトーチカに足を一歩踏み入れて、しばらくエレベ 1 ターを見 なかった。自由を束縛するということなら、この島へ連れてくるだつめていた。 けで充分目的はかなえられるはずだった。 遠藤たちが作成した図面には、こんなエレベーターがあることな 警備員から二回ほど尋問を受けたが、いずれの時も、身分証明書どどこにも記されていない。もっとも、コックにまでその存在を知 を提示して、遠藤から教えられたとおりに られるようでは、擬装する意味がまったくないわけだが 「実験室へコーヒーを運んでいった帰りです」 それほど長くは躊躇わなかった。 が、ポケット・ ベルでもう一人に報せる取り決めたった。 私も斜面を駆け下りていった。 5

9. SFマガジン 1974年12月号

て、ノーラにささやこうとした。「ダーリン、なにか一言ぐらいい えていることもわからない。 目の前がぐるぐるとまわっている。 ってくれてもいいだろう ? ・ほくはすっかりーー・」 「では奥へ行こうじゃないか」ウエルク博士がしゃべっていた。 しかし、ノーラはすでに彼に背を向けて歩きだしており、いまで 「そして、この一件を早く片づけてしまおう。わしはこういうくだ らんことにあまり時間をつぶしておれんのだーー・四時に、ゴリラのはセーヌ教授がフランクの肩に片手をおいて、彼を部屋の中央のテ 1 ・フルへ押しだしているところだった。セーヌ教授は一同に向きな 穿頭手術をする予定があるんでな」 ウエルク博士は、ぐるりを書棚にかこまれた、古風な大きい書斎おると、部屋の奥の壁にならんだ椅子のほうへ手を振ってみせた。 「では、メシュー、それそれの席を発見していただいたら、さっそ へ、一同を案内した。ここが、彼のいつも気ままに歩きまわった く開始します。最初は、さきほど説明しましたカード当てです。ウ り、唸り声を上げたりしているねぐらであるらしかった。 エルク博士は、すでにこの室内のどこかへ一組のトランプを隠す試 「われわれのあいだでとりきめた下準備は、もうすませてある」ウ エルク博士はセーヌ教授にそう告げた。「たしかきみの要求は、こみをなさいました。わたしはいまから被実験者に、そのカードを探 りあててもらいます」 の部屋の中のどこかへ一組のトランプを隠しておけ、ということだ ったな。それと、手紙の束もーー」 教授は、期待をこめてフランクをふりかえった。フランクは茫然 「実験の始まる前に、もう一杯いかがですか ? 」いつばいに満たしと突っ立ったままだったーーー意識にあるのは、両手の掌がじっとり た水差しを持って部屋にはいってきたノーラが、横からロをはさん汗ばんでいることたけ。まったく精神集中ができない。部屋がゆら ゆら揺れている。ノーラのせいだーー彼女は、実験が失敗するよう だ。「きようはとてもむしますわねーー」 「こりやどうも」さっきチャールス・フォートのことをたずねた記に、 . わざと彼の気持を混乱させたのだ。フランクはちらとセーヌ教 者がいった。「ちょっと、お嬢さん。ーー・ほんとにこれには酒がはい授に目をやった。やせぎすの科学者は、信頼しきった表情で彼を見 ってないんですか ? なんだかびりつとくるようだけど」 つめていた。ここでその期待にそむくなんてことは、とてもできな 「たしか、アル 「ええ、全然はいってませんわーノーラは答えた。 。自分自身を裏切るなんてことは、とてもできない。ウエルク博 コールは予知能力を阻害するというお話でしたわね、セーヌ教授士は険悪な顔つきで、委員たちと記者たちになにごとかをささやい ていた。 セルテ フランクは目をつむった。たちまち部屋の揺れはとまった。彼は 「そのとおりです」教授は答えた。そして、一同が飲んでいるあい ぼんやり印象を感じとりはじめた。それはいつものように敏速で明 だに、彼がこれから実証しようとする理論の説明にとりかかった。 フランクはもう一度その会話に注意を集中しようとしたが、なに瞭な印象ではなかったが、とにかく感じとることはできた。 目を閉じたまま、彼は前進した。片手が書棚の上を掃いていっ 9 もかもがばやけていた。水差しの中味を彼のグラスに注ごうとして いるノーラの顔が、目の前でふらふらと揺れた。彼は声をひそめた。彼は一冊の本をさぐりあてると、それを抜きとり、その奥に手

10. SFマガジン 1974年12月号

過去への帰還がいつものように現実化する。彼は流れの動くなか で、その方向に沿って遡行していた。昔のジョン・トレメインに戻 る。十六歳になるニキビ面の少年はいやいや高校へ通っていた。一 九六一一年ィリノイ州シカゴの町中だった。もう何回も試みた転移の ひとつだった。これより若くなることはあきらめていた。いままで にもう : : : 彼はふと思った。自分が少年になって現われるまえに、 ドリスは衣服を着終っているといいな 暗闇がいきなりうすれた。彼は不意に白日の下に出されて、眼を しばたいた。金属ケースを抱えたまま、過去への最後の一歩をふみ 入れた。彼はざわめく大きなへやの中央にいた。あたりは大勢の人 人がゆききしている。そのうちの何人かは、驚きでマヒしたよう に、ぽかんと口を開けたまま、彼を注目していた。彼は一瞬くらく らしたが、すぐに記憶が甦ってきた。すばやくにがいノスタルジア の流れに身を任せていた。 思い出深い高校の図書館に再び戻ってきたのだ。書物と、陽気な 少年たち、華やかな服装の少女たちが、くすくす笑ったり、勉強し たり、ふざけ合ったりしている、なっかしい場所だ。若い連中は戦 争が目前に迫っているのに全く気づいていない。空襲で、この町に は死者と死の灰としか残らないのだ。 彼は急いで図書館から出た。背後にはびつくりした顔の輪が残っ た。人ごみのなかに転移するのは厄介なことた。十六歳の高校生へ の変身は、いかめしい顔をした三十男にとって馴化がむずかしかっ た。たとえ社会において、理論的に超能力が認められても、やはり むりがあった。 理論的というのは、この時代の一般の認識が極めて低かったため だ。超能力者に対しては、畏怖と不信の眼で見られた。希望のかけ フロリダ州を騒がせた金属球 今年の三月一一十六日、米国フロリ う不思議なことをする。 ダ州ジャクソンビル近くの沖合にあ また、同家で飼っている愛玩用の る小さな島、フォート・ジョージ島プードル犬をその金属球のそばまで で、直径一一十センチ足らずの正体不連れて行くと、どうしてだか大は身 明の金属球が発見された。 を丸くまるめてしまい、前足で耳を この金属球を見つけたのは、同島かくすような仕草をする。といった に住むべツツ家のニ十一歳になる息ことである。 子テリイで、この日、先ごろの灌木 この金属球は、ポーリングの球よ 松の火事による同家の所有地の損害り幾分小さ目の外面が完全になめら 程度を調べるために家族が総出で所かな球で、どこにも継目のようなも 有地の中を見まわっている時に、こ のは見えず、重さは約二十五ポンド の金属球を発見したのである。 あった。 初めは、ただ変ったものだという 手で振ると、内部から何か動きが ことで、家に持ち帰り、自分の部屋伝わって来るみたいで、べツツ夫人 の窓枠の所にのせておいた。ところ は、この球を持っていると、何かメ が、一一、三日たったある日、ギター キシコのとび上り豆 ( ジャンピング をひいていると、ある音の所で、そ ・ビーン ) を手に持っているような の金属球がまるで調律棒のように共感じがした、と言っている。 鳴振動することに気がついた。 そんなわけで、この金属球は、海 その後も気をつけていると、いろ軍航空補修施設の材質実験所へ送ら いろ理由のわからぬことが起るのでれ、そこで線照射と分光分析によ ある。 って調べられた結果、以下のような 例えば、その金属球からは、まる ことがわかった。 でモーターが発するような低い振動 球を構成している金属は別に珍ら 音が聞えてくる。 しいものではなくて、最も普通に使 その金属球を同家のテープルの真われている帯磁性鉄合金 # 四三一の 中におくと、一人でにコロコロと動ステンレス・スティールであること。 き出し、角の方まで行くと、それか もっと強力な三〇〇キロポルトの ら次々に他の三つの角をまわって、 線をかけてみたところ、内部まで また真中に戻って来て止るーーとい 透視することが出来、それによると