なりますの。この子はなぜか、あの動物に夢中でしてね。そうでし動物学者は彼女を見つめた。 「あなたは知っておられたのですか : : : 」 よう、テルジー ? 「ええ、はっきりとではありませんか。でも、まあ : : : 」彼女はう 「ええ」 なずき、笑い、両頗を赤く染めた。「こんな : : : どうそお話しくだ と、テルジーは丁寧に答えた。 ハさい。すみません、ロを出したりして」 「では、あなたをあまり困らせたりしないようにしなくちゃね」 レット叔母さんは意味ありげにドルーン博士を見た。「わかっても彼女はドルーン博士のうしろにある壁を、夢中になった表情で見 らわなくちゃいけないけれど、ドルーン博士のやられることはただつめた。 つまり、博士はいまからあなたにとても大切なことをお話しに動物学者と ( レット叔母さんは顔を見合わせた。それからドルー クレスト・キャット ン博士はゆっくりと話にもどった。冠毛猫は惑星ジョンタロウ なるわ」 しゅ テルジーは視線を動物学者のほうにうっした。ドルーン博士は咳に生まれた種であり、その存在が知られるようになってからまだ八 年しかたっていない。その種がいる範囲は限られているらしい はらいした。 ・、ードン、あなたはお気づきになっていないようですポート・ニケイが建設されている大陸の反対側にある・ハリュート山 「ミス・アンノ 岳地帯だ。 ね、チックタックがどういう種類の動物なのかということを ? 」 テルジーはその言葉をほとんど聞いていなかった。非常に寄妙な テルジーはロをひらこうとして思いとどまり、眉をよせた。 ことがおこっていた。ドルーン博士がロにする一節ごとに、ほかの がどんな生き物なのかはっきり知っているといいかけたのだが : 文章がその十倍も彼女の意識に現われるのだ。もっと正確にいうな 本当は何も知らなかったのだ ! ら、かれがどんなことを口にしても、それに関係のある情報が即座 彼女はぼんやりとドルーン博士をにらみつけ、唇を噛んだ。 に、彼女自身の記憶と思われるところから流れ出てきた。もちろん 「テルジー そうではなく「一、二分のうちに彼女は、ドル 1 ン博士が何時間も と、ハレット叔母さんはやさしくうながした。 かけて説明する以上にジョンタロウの冠毛猫について知っていた : テルジーま、つこ ・ : 博士よりもずっと多くの知識を得ていたのだ。 ええ : : : どうそっづけてください、博士」 彼女はとつ。せん、博士が話すのをやめていることに、質問してい ドルーン博士は両手の指をつきあわせた。 クレスト・キャット 「さて : : : あなたのペットは : ・ : ・若い冠毛猫でしてね。もうほることに気づいた。かれはちょっと不安そうにくりかえした。 「ミス・アン・ハードン ? 」 とんど成獣に近くなっていますし : : : 」 テルジーは低い声で答えた 0 テルジーはさけんだ。 「そうよ : : : あなたの血を飲んであげるわ ! 」 「もちろん、そうだわ ! 」 2 3
官のすぐそばにいる〈鉄の心〉ほど強烈な威圧感を与える体格のもン博士はだいぶやつれているように見えた。ハレット叔母さんはま のはほかにいなかったが、ずっと小さいわけではない。岩のように だヒステリーが直っていなかった。 ーイイル 動かず、怪物像のように恐ろしく、目をそれそれが地獄の火のよう に光らせて、かれらは待った。 テルジーは自分が話している声を聞いていた。 「これがかれらの評議会です。種族の酋長たちですわ : : : 」 ハブ連邦とジョンタロウ惑星の新しく加盟した種族とのあいだに びじゅん 調整官の顔も青ざめていた。だがかれは何といっても、古くから結ばれた予備条約は二週間後、公式に批准され、その儀式がジョン シカリ シカリズ の狩猟者であり、上級外交官だった。かれはまわりに現われた連中タロウの狩猟者クラ・フにあるシャンパン・ホールでおこなわれた。 を、あわてた様子もなく見まわすと、落着いた声でいった。 テルジーはその催しを、船室内のニューズ・ビュウワ 1 で見られ 「あなたを疑ったことについて心からお詫びを申しあげます、ミスただけだった。彼女とハレット叔母さんはそのころ、オラドへの帰 ・アン・ハードン ! 」 路についていたのだ。彼女は条約の細部などにあまり興味はなかっ そしてかれは、デスクの電話に手をのばした。 たーーーそれは、彼女が〈鉄の心〉やほかの酋長たち、そのほかの連 〈鉄の心〉はその悪魔のような顔をテルジーのほうにむけた。一中に、公園の中で話したこととほとんど同じだったからだ。彼女の 瞬、彼女は恐ろしい黄色の目が、いし 、ぞというふうにウインクした注意を引きつけたのは、何台もの通訳機械と何人かの人間クセノテ という印象を心の中に受けた。 レバスによって、当事者のあいだにひろがる言語ギャップがみごと 調整官は電話にむかって話していた。 に埋められたことだった。 「 : : : オラドへ、普通回線で通話だ。評議会へ。それも急いでだ ビュウワーを消したとき、隣りの船室からハレット叔母さんがぶ らぶらと入ってきた。ハレットは微笑して話しかけた。 ぞ ! 非常に重要なお客が待っていられるんた : : : 」 かわいいチックタックが見られ ついでジョンタロウ惑星調整官事務所は、とびぬけて忙しく興味「わたしもそれを見ていたのよ ! のある場所となった。二時間がたっぷりたってから、だれかがふとるかと思って」 テルジーは彼女のほうを見た。 思い出してテルジーに、彼女の叔母さんがいまどこにいるか知らな 「がポート・ニケイに姿を見せることはまずなさそうよ。いま いかを尋ねた。 ′」ろよ、く テルジーは額をたたいた。 / リュート山脈での生活がどんなものかを知るのに夢中に 「ぜんぜん忘れていたわ ! 」彼女はそういうと、スポーッカーのキなっているはずですもの」 サンプリーフ ハレット叔母さんは、足のせクッションに腰をおろしながら、心 9 1 を短い服のポケットから取り出した。「駐車場にいるわ : : : 」 トランク・コンパートメゾトがあけられると、デルコスとドルー もとなさそうに答えた。
は絶減してしまったのです ! かれらの個体数に対する人間の侵害 では、これがハレットの企みだったのか : : : 彼女は冠毛猫のこと からはどうも理屈に合わないので、これはきっと伝染病がとつ。せんを知り、何カ月かをかけて準備し、ー ee がジョンタロウで生まれた 3 おこって一掃されたのだろうということになりました。とにかく、 ものだとわかったことで悲しい結果になるようにと考えたのだ グレスト・キャッ 昨夜あなたがペットをつれて到着されるまで、生きている冠毛だれも前もって知ることも防ぐこともできない計画だった。テルジ 猫をジョンタロウで見ることはできなくなっていたのです」 ーが聞いた限り、生命銀行に入れられたら最後、 ee はひとつの意 テルジーは黙ったまま何秒か坐っていた。かれが話してくれたこ識を持った生物としての存在に終りを告げ、科学者たちによって e とのせいではなく、別の知識がまだ彼女の心の中に流れこんでいたの種を作りなおす可能性をほじくりまわされるのだ。 からだ。非常に重要な一点で動物学者いったこととは違いがあ テルジーは、叔母が気をつけて同情しているような表情を浮かべ り、そこから非常に論理的なパターンが作られかけていた。テルている顔をちらりと眺めてから、ドルーン博士に尋ねた。 クレスト・キャット ジーはそのパターンを完全な細部までつかんだわけではないが、自「絶減してしまう前にここでつかまえられたほかの冠毛猫はど 分にわかったことからだけでも信じられないほどの恐怖をおぼえうなりましたの ? 生命銀行が必要とするぶんは、それで足りるん た。 じゃありません ? 」 彼女は用心ぶかく言葉を選びながら尋ねたものの、自分が本当に かれは首をふった いっていることにはほんのすこししか注意をはらっていなかった。 「二頭のまだ成熟していない雄の標本が存在しており、それはいま ライフ・ 「それがチックタックとどんな関係がありますの、ドルーン博士生命銀行にいます。生きたまま捕えられたほかのものは殺されまし た : : : たいていは、ひどい状況下においてです。かれらはまったく ードノ ドルーン博士はハレット叔母さんをちらりと眺め、それから視線狡猾で、ひどく野蛮な生き物なんですよ、ミス・アン。ハ をテルジーにもどした。不愉快なことだが仕方がないといった表情それに加えて、特別な器械を使わなければ事実上探知することがで でかれは話した。 きない点まで姿を隠せるという事実もあって、かれらは現在知られ しゅ ノ・ハードン、ひとつの種が絶滅に瀕したとき、生き残っている動物の中でもっとも危険なものになっているのです。これま ているものがあればどれでも大学連盟の生命銀行にうっして、そのでのところ、あなたがペットとして育てられた若い雌はおとなしい 存続を確保しなければいけないという連邦法があります。現在の状ままだったようですから、あなたには本当のことと思われないでし ようがね」 況を考えると、この法律は、チックタックに適用されるのです ! 」 「さあどうかしら。それであれが : : : 」 3 テルジーはそういいながら、かれの椅子のそばに立てられている 大きな器械のほうにうなすいてみせた。 しゅ
チックタックの名前は子猫のときの鳴き声からつけられたものだ を示したことだ。ハレット叔母さんがあのインタビュウに金を出し ート・ニケイでの最初の夜に ee ったーーー高音から低音へと規則的に振動する音で、古い柱時計のよ 2 たとも考えられる。そのあと、ポ が示した心配そうな態度と、別荘の庭でテルジー自身がおぼえたえうに、おしつけがましくなく、気持のいい声を連続させるのだ。テ ルジーはいま気づいたのだが、ジョンタロウに到着してからその声 たいの知れない心配と妄想だ。 : ハレを聞くのはこれが初めてだった。その声は十秒ぐらいつづいてから 最後のはどうも説明がつけにくい。でもチックタックと : ット叔母さんは : : : ジョンタロウについて彼女の知らないことを何とまった。チックタックは彼女を見つづけている。 か知っているのかもしれない。 それは、はっきりと同意している表情のように思えた : 彼女の心は、何かチックタックがやらせたがっていることがある夢のような感覚はふえてゆき、テルジーの心に霞をかけていっ のかどうかをつきとめようと半ば真剣になっておこなった結果にもた。もしこの心に話しかけてくることが何でもないのなら、記号と どった。開いているドア ? 一歩でもふみこめば、だれかが彼女をか象徴といったものが何の役に立っというのだ ? こんどは驚かな いことにしよう。そして、これに何かの意味があるのなら : つかまえようと待ちかまえている暗黒 ? それに意味があるとも思 えない。それとも、あるのだろうか ? 彼女は目をつぶった。 じゃあ、おまえ魔法を試してみたいというのね、とテルジーは自 分を叱りつけた。ままごとでもする気なの ? に助けてもらっ て問題を解くつもりなら、法律を勉強している甲斐があるっていう まぶたの外に感じられていた陽光が、すぐに消えていった。テル でも、なぜまたこのことを考えているのかしら ? ジーは壁のドアが動いているところを見た。そして同時に、もうそ ふしぎな静けさが庭にひろがり、彼女は身ぶるいした。テラスのこを通りすぎていることを知った。 そばから、の緑色をした目が彼女を見つめている。 彼女のいるところは暗い部屋ではなく、形もなく限界もない明る テルジーは陽光に照らされたまま、ゆっくりと夢の中へ落ちこん いところのそばだった。まわりに、海か空のような感じがひろがっ でゆく感しを味わった。法律の勉強とはまるで違う何かにむかってている。しかしそこは静かな場所ではなかった。目に見えないもの がとりまき、彼女を見つめ、待っているという感しがしていた。 「あのドアに入るべきなの ? 」 心の中にしか これはあの暗い部屋が形を変えたものだろうか と、彼女はささやきかけた。 けられた罠なのか ? テルジーの注意は急激に方向を変えた。彼女 赤銅色の猫そっくりの形をしたは、のんびりと頭をあげて、 はまた芝生の上に坐っていた。閉じたまぶたのむこうで陽光は静か あまえるような声をあげはじめた。 に、桃色がかったカーテンをとおして輝いていた。用心しながら彼 かね
た。庭から漂ってくる匂いや、かすかな夜の物はこれまでよく知っかりあうのは避けるようにすると、テルジーは母親と約東してきた ているものとは変わっていたが、いずれにしろジ ' ンタロウは初めのだ。朝食のあと彼女はチックタックをつれて庭へ出ていった。 e て訪れた惑星なのだ。テルジーにもにも、すべてが変わったもはすぐに繁みの中へ入ってゆき、その姿を見分けにくくし、つい のばかりだといえる。その中で、ほかに何を見つければいいというで視界から消えてしまった。それはどうも何か意味のあることのよ のだ ? うだった。でも、何かしら ? テルジーが手をのばしてみると、は背中の筋肉をかたくして テルジーはしばらく庭を散歩し、惑星ジョンタロウの花や色あざ おり、額をテルジーの肩におしつけただけで、何に引きつけられてやかな昆虫をのんびりと観察しているようなふりをつづけた。まっ いるのか注意力をそらせようとはしなかった。ときどき、低く、無たくふしぎなことに、ときどきぐきりとさせられるのだが、・ へつに 気味なうなり声が、毛皮でおおわれた咽喉からもれた。なかば怒変なものが潜んでいるしるしもなく、 ee もいなかった。それから り、なかば問いかけているような声だ。テルジーはすこし不愉快に三十分かそれ以上のあいだ、彼女は芝生の上に足を組んで坐りこ なってきた。彼女はやっとチックタックをなだめて窓ぎわから離れみ、チックタックのほうから姿を現わすのを静かに待った。だがお させたが、その夜はどちらもあまり熟睡できなかった。朝食のと馬鹿さんのはそれに応じなかった。 ミハレット叔母さんはいつもの厭な甘さのある口調で注意した。 テルジーは陽焼けした膝をひっかぎ、庭の垣根のかなたに見えて 「あなたずいぶん疲れた顔をしているわね、テルジー。まるでひど いるポート・ニケイの公園の樹々にむかって顔をしかめてみせた。 い緊張がつづいていたみたい : ・ : もちろん、そのとおりなんでしょ恐怖をお・ほえるべき相手がいるともいないともわからないのに、不 うけど」 安をお・ほえるのは馬鹿げているように思えた。そのうえ、もうひと ゴールド・・フロンドの髪を高くゆいあげ、桃色がかったクリーム つべつの理屈にあわない感情が、しだいしだいに強くなってぎた。 はっきり説明されてはいないが、ある特定のことをするべきだとい 色の肌をしたハレット叔母さんは雛菊のようにみずみずしかった : ・ とげ 、つように ・ : 刺のある雛菊だ。彼女はやさしい微笑を浮かべた。 「どう、わたしがジェサミンにいったこと正しかったのじゃなく チックタックが彼女に、それをやらせたがっているー て ? あなたにはあの恐ろしいほど難しい学校から離れて休暇が必 なんという馬鹿なことをー とっぜん、テルジーは両眼を閉じて、鋭く考えを集中した。 要だったってこと」 『チックタック ? 』 「そのとおりね」 そして、何がおこるかと待ちーーー妄想をこんなにまでひろげるよ テルジーは卵の黄身を父親の妹にぶつけてやりたい衝動をやっと おさえてうなずいた。ハレット叔母さんはよくそんな衝動をおこさうになった自分が腹立たしくなった。 せる女性だったが、ジョンタロウ旅行ではできるかぎり本当にぶつ
けなのだが、このポート・ニケイは静かで美しく、大きいがほっそ ハレット叔母さんはいつものように、いらいらさせられる癖を出 りと美しい塔がいくつもそびえているものの、それぞれはおたがい しただけだと、テルジーはそのとき思った。しかし、その出来事を に四、五マイルの起伏する公園地帯でさえぎられ、そのあいだは透ふりかえってみると、叔母さんと放送記者のあいだにかわされた会 明なスカイウェ」イだけで結ばれていた。 話はどうも変なふうに誇張されていたように思われるーー・まるで、 前もって練習してあったもののようだった。 地平線の近く、テルジーのいる庭からやっと見えるところに、い ちばん背の高い、緑と金色の尖塔がそびえていた。連邦地方行政セ でも、なんの目的のために練習を ? チックタック : : : ジョンタ ンターでもある狩猟者クラ・フだ。昨夜、ポート・ニケイから乗ってロウ : テルジーは下唇をかるく噛んだ。ふたりがを連れてジョンタ きたエアカーからテルジーは、ハレット叔母さんが借りたのと同じ ロウで休暇をすごすのはハレット叔母さんのいいだしたことであ ような貸別莊がときどき、公園の斜面にならんでいるのを見た。 叔母さんがあまり熱心だったので、とうとうテルジーの母親は ポ 1 ト・ニケイにも、緑のジョンタロウにも、ひどく邪悪なものり、 など何も感じられなかった。それは間違いなしだー 承知するようにといったのだ。母親のジェサミンはこっそりとテル ハレット叔母さん ? あの金髪の、こそこそ立ちまわる、マキア ハレット叔母さんはふたりをアンく ードン家に ジーに説明した べリみたいなやっ ? あの人が何を・ 侵入してきた邪魔者だと感じており、ジェサミンの政治的な地位 テルジ 1 は思い出そうとして目をほそめた。昨夜、宇宙旅客船がや、もっと最近では、テルジー自身がすばぬけた成績を示しはじめ つく直前、小さな出来事がひとつあったーー・少なくとも、そのときたことに対して、ひどい反感を持っていたのだと。この招待はハレ ット叔母さん流の心境の変化を示すものだった。テルジーがそれを はなんでもないことのように思えたのだ。ニュース放送サービスの 若い女性が連邦評議会婦人議員ジェサミン・アイハードンの娘に、受けるかどうかを試そうとしたのだ。 それでテルジーは受けることにしたのだが、ハレット叔母さんの インタビュウを申しこんできた。なにげなくおこったことで、テル ジーはべつに断る理由もなかったからそれに応じたのだが、噂話を考えかたが変わったことなどほとんど信じていなかった。といっ 追いかける記者特有の執拗さで彼女が″ふつうではないペット″をて、このジョンタロウ旅行のことで叔母さんが何か汚い策略をめぐ ポート・ニケイに連れてきたことを質問しはじめると、すこし腹がらしているものとも思えない。ハレット叔母さんの心はそんなふう 立ってきた。 e はすこし変わっているかもしれないが、それはべに働かないはずなのだ。 これまでのところ、何か目的のある悪意といったもののはっきり つに重大なことではないはずだから、テルジーはそういった。する とハレット叔母さんはうまく会話の中に入りこんできて、チックタした徴候はない。しかし論理は、ここでおこっているいくつかの変 ックの発見されたときのこと、その習慣、ふしぎな経歴について、 な事件のあいだに関係を求めているようだ ~ 特に、あの放送記者が チックタックに、どちらかというとオ しハーなまでと思われる興味 相当くわしく説明した。
亡霊は、わかったというように片方の耳をびくりと動かし、頭の テルジーは e を見つめ、安堵の想いがまた消えてゆくのを感じ カムフラージュ 形を変えた。偽装した顔をテルジーのほうにむけたのだ。つい た。チックタックはふつうなら非常に落ち着いた心の安まる遊び相 2 ではゆっくりと口をあけた。体の内側はカムフラージュされて手なのに、どうもまだ何かの原因で緊張している。ほんの一瞬前 いないので、ひどくなまなましく見える赤い舌と、カー・フした白い の、大きなのんびりしたあくび、安心しきっていたような態度 : ・ 矛を現わした。そのロがひろがって大きなあくびをし、歯のかみあそれがみな嘘だったのかしら ! う音をたててしまり、また見えなくなった。つぎにカムフラージ = 彼女は困惑して問いかけた。 したまぶたが動き、の緑に光る丸い両眼が現われた。その目が「何を心配しているの ? 」 芝生をこえてこちらにいるテルジーを見つめた。 緑色の目はまじめに彼女を見つめ、ほんの一瞬ではあったが、こ テルジーはいらいらといった。 れまでのとはまったく違う動物のように思われた。そして、以 すじよう 「ふざけるのはやめて、 ! 」 前よく考えたチックタックの素性についての疑問が、なぜいま心に チックタックはまばたき、もとどおりの赤銅色に近い色がとっぜ浮かんできたのだろうとテルジーは思った。 ee の恐ろしいほど早 ん首に現われ、頸から胴体へ、両足、尻尾へとひろがっていた。そかった成長ぶりが昨年とまりはじめたあと、だれもそのことを気に の瞬間に実体化したかのように、テラスのすぐそばに、しなやかかけなくなってしまったのだ。彼女はチックタックがただ : で、手足と尻尾が長い、二百ポンドの猫が : : : もしくは、猫のようそのとき、テルジーは現在の状況に対する解答をほとんどっかん な動物が現われた。 だというふしぎな確信をちらりとお・ほえた。ジョンタロウの世界、 がどこで生まれたのかは、まったくわかっていなかった。五チックタック、そしてよりにもよって : : : / 、レー叔母さんまで関係 年前に森の中で遊んでいるところをテルジーが見つけたものは、オしているらしい解答だ。 ラドにあるどこかの個人研究所で生命組織研究用に飼っていたのが彼女は首をふった。 ee の静かな緑色の目がまばたいた。 逃げ出したものか、それともハブ連邦の遠くに離れた植民地から首 ジョンタロウ ? テルジー自身としてはあまり興味を持っていな 都惑星に運ばれてきた宇宙パイロットのペットが迷子になったのだ かったのだが、オラドからここへくる途中、彼女はこの惑星につい ろうというのか、真相に近いところだろう。 て多くの本を読んだ。ハ・フ連邦にあるすべての世界の中で「ジョン ポソ . ゼン ee の頭上には、まっ白な毛でできた大きなふわふわした玉房がタロウは動物学者とスポーツマンの楽園、巨大な動物の猟場であ ついていた。ほかの動物ならおかしなものに見えただろうが、り、そこの大陸と海はすばらしい獲物でいつばいだった。連邦法に の場合はそうではなかった。まるまると太った子猫としても、足によって、この惑星は発見されたときのままの原始的な状態のままに ある大きな吸盤で壁にすいっき、頭を下にぶらさがっている ee のわざとおいてあるのだ。 姿にはたいへんな威厳があったのだ。 この惑星でただひとつの町、人が住んでいるところは事実ここだ
の超一流大学で法律を学ぶ二年生だ。肉体・精神・情緒面における 健康状態も、常に知らされているとおり、すばらしいものだ。天才 レベルにある人間固有の不安定さということでハレット叔母さんは チックダック よく文句をいうのだが、それも無視していい。叔母さん自身の安定 , e e とわたしのほかにだれかが庭にいるわ、と彼女は思った。 ) もちろんハレット叔母さんじゃあない。叔母さんはいま家の中にい性にどうも疑問があるからだ。 しかし、そういったことのどれも、現在の奇妙な状態を改善して て、早くからやってくるお客を待っているはずだし、召使のひとり でもない。だれかが、あるいは何物かが、繁みの中に隠れているとはくれない : しか思えない。彼女のまわりに美しく咲き乱れているこの惑星ジョ この胸騒ぎがすることの原因は夜のうちに始まっていたんだわ、、 ンタロウ特産の灌木林の中に。 とテルジーは考えた。惑星ジョンタロウですごす休暇のためにハレ ット叔母さんが借りたポート・ニケイにある別荘へ宇宙空港から着 そうとでも思わなければ、 E--*H の奇妙なふるまいの見当がっかな いや、正直にいうと、今朝はこれといった理由もないのに彼いてから一時間以内にだ。 女自身「いらいらしてしかたがないのだ。 テルジーはすぐお休みをいって二階の寝室へチックタックといっ 彼女、テルジー・アン・ハードンは草の葉を一枚ちぎって、その端しょに入ったが、うつらうつらしかけたとたん、何かの気配で目を を口にくわえ、かるく噛んだ。その顔はとまどっており、心配そうさました ~ そして寝がえりをうっと、 ee が窓の前にあと足で立 だった。いつもならちょ . っとやそっとのことで心を乱される彼女で , ち、窓枠に前足をかけ、星空を背景に猫そっくりの頭をのばして、 サンプリ はないのだが。十五歳、天才レベル。野苺のように陽焼けし、短いじっと庭を見おろしているのが見えた。 服を着た姿はなかなかいい線をいっている。 このときはただ物珍しさだけで彼女はべッドから出て、窓ぎわに テルジーはオラドにある数少ない名家の一員であり、 , ハ・フ連邦内 いる e e のそばに立った。べつに変わったものは何も見えなかっ : 第冫噎崋 NOVICE
「これが生命探知装置で、麻酔銃を組み合わせたものです、ミス・酷にあざ笑っている生き物たちと連絡をつけさせようとしている ードン。あなたのペットを傷つけるつもりはありませんが、 の目的が、弱々しくはあってもとっぜんはっきりしてきた。 あのタイプの動物を相手にして油断はできませんからね。銃の電撃それが急いでったえているのは、彼女が気づかれることなくこの で数分のあいだ意識を失わせます : : : 麻酔ベルトで縛りあげるのに家を出て、半時間かそこら邪魔されないでいられる場所へ行かなけ 必要な時間だけです」 ればいけないということだ : 「あなたは生命銀行の捕獲担当者ですのね、ドルーン博士 ? 」 彼女は、ハレット叔母さんと動物学者がふたりとも自分を見つめ 「そのとおりです」 ていることに気づいた。 ハレット叔母さんはロを出した。 「気分でも悪いの、テルジー ? 「ドルール博士は、惑星調整官からの許可書もお持ちなのよ。チッ クタックを大学連盟のものとし、この惑星からほかへ移してもいし テルジーは立ちあがった。このふたりに何をいってみても、無駄 という。だからあなたも、このことではわたしたちどうしようもなよりなお悪い結果になることだろう ! 彼女はまっ青な顔になって いんだってことわかるでしよう。あなたのお母さまも、わたしたち いたーーーそれが感じられたーーーでもかれらはもちろん、を失う が法律にそむくようなことをするのは好まないと思うわ、そうでしショックによるものと考えているはすだ。 よ ? 」ハレット叔母さんはちょっと黙りこんだ。「許可書にはあな 「サインする前に、あなたのいわれたことについて法律を調べてみ たのサインが必要なんだけど、必要ならわたしがかわりにサインすなければいけませんわ」 ることもできるのよ、テルジー」 彼女がそうドルーン博士にいうと、かれは椅子から立ちあがりか それがハレット叔母さん流の、ジョンタロウ駐在惑星調整官に訴けた。 えてみてもだめよと、う、 ししいかただ・つた。彼女は用心ぶかく、この 「ええ、それは : : : それはできますとも、ミス・アン・、 ードン ! 」 事態についてまずかれの同意を得ていたのだ。 「調整官のオフィスに電話してくださらなくても結構ですわ。わた ハレット叔母さんは言葉をつづけた。 し、自分の法律全書を持ってきていますから、自分で調べてみま 「だからチックタックをすぐに呼んでくれないこと、テルジー テルジーはふりむいて居間から出ていこうとした。 テルジーは最後のところをほとんど聞いていなかった。彼女は自 あっけにとられた表情を浮かべはじめたドルーン博士にハレット 分の体がしだいにこわばってゆき、居間が視界から消えかけている叔母さんは説明した。 ことを感じた。たぶんこの瞬間、何か別の回路が彼女の心の中に作「わたしの姪は、法学部で学んでいますの。いつも研究に夢中で : ・テルジー ? られたか、別の新しいチャンネルが開かれたのだろう。外にいる冷 5 3
テープは終り、声は消え、色彩は空白となった。それまでに得て テルジーは眉をよせた。これを現実のことだったとすると、 e シンポル いた印象はしごく乱雑なものであり、テルジーはそれをはっきりつとのあいだでおこなわれたあの象徴遊びが入口をひらいてくれたこ 2 かめないうちに、すべてはとっぜんとまってしまった。 とは明らかだ。たったいま彼女が経験したことは象徴の形でおこな われ、おこったことを彼女がはっきりとっかめるものに翻訳されて 彼女は、ふるえ、おびえながら、目をあけて、芝生の上に坐って いることに気づいた。チックタックはテラスのそばに立って、こち象徴を使っての意思疎通をかれらは″子猫の話しかた″と称し らを見ている。霞のような非現実感がまだ庭にかかっている。 て、軽蔑しているようだった。でもいいわ、わたしが学びかけてい 頭が変になったのだろうか ? そうは . 思えないが、そういうことることにかれらも同意したんだから、と彼女は自分の心に告げた。 も考えられる。それとも : : : テルジーは、おこったことを分析して芝生の上で空気がゆらめいているように思えた。またも彼女は、 みようとした。 急速にまわっている見えないテープの文字を読んでいる感じをお・ほ 何物かが庭の中にいた ! 何物かが心の中にいたのだ。何物か、 えた。それはこのようにいっているようだった。 ジョンタロウに住んでいるものが。 『おまえはいま教えられており、学んでいる。問題は、おまえの友 あの : : : 生き物は五十頭か六十頭もいたような感じだった。驚く達が主張するように、おまえがすこしでも理解できていたかどうか べき生き物だ ! 冷酷で、乱暴で、強くて : : : あの赤い目をしてい だった。しかし、そのとおりだったから、そのほかのことでやれる た悪夢のようなもの ! テルジーは身ぶるいした。 ことはみな、すぐにやれるようになる』沈黙につづいて、感心した かれらは夜のあいだに、まずチックタックと連絡を取ったのだ。 ような口調で。『おまえは調和のとれた心の持主だな、小さな口 は彼女よりもずっとよく、かれらのいうことを理解した。なぜよ ! 奇妙で、わかりかねるところもあるが、よく調和がとれてい だ ? その解答はすぐには出てこなかった。 それからチックタックは彼女をひっかけて、あの生き物たちを心生き物のひとり、そしてだいぶ好意を持っているもの : ・ : ・少なく に侵入させた。これにはきっと、非常にはっきりとした理由があっとも悪意は持っていない。テルジーは試験的に心の中で質問してみ こ 0 たに違いない。 彼女はチックタックのほうを見た。はこちらを見かえした。 『あなただれなの ? 』 テルジーの心の中で騒ぐものは何ひとつなかった。かれらのあいだ『すぐにわかるさ』 に直接の意思疎通はまだないのだ。 ちらっきは終り、彼女はしばらくのあいだ会見はおあずけにされ では、な・せあの生き物たちは彼女の中に入りこむことができたの たことを知った。 ・こつ、つ ? ・ 彼女は声を出さないまま尋ねた。 シン黼ル シンポル