なりますの。この子はなぜか、あの動物に夢中でしてね。そうでし動物学者は彼女を見つめた。 「あなたは知っておられたのですか : : : 」 よう、テルジー ? 「ええ、はっきりとではありませんか。でも、まあ : : : 」彼女はう 「ええ」 なずき、笑い、両頗を赤く染めた。「こんな : : : どうそお話しくだ と、テルジーは丁寧に答えた。 ハさい。すみません、ロを出したりして」 「では、あなたをあまり困らせたりしないようにしなくちゃね」 レット叔母さんは意味ありげにドルーン博士を見た。「わかっても彼女はドルーン博士のうしろにある壁を、夢中になった表情で見 らわなくちゃいけないけれど、ドルーン博士のやられることはただつめた。 つまり、博士はいまからあなたにとても大切なことをお話しに動物学者と ( レット叔母さんは顔を見合わせた。それからドルー クレスト・キャット ン博士はゆっくりと話にもどった。冠毛猫は惑星ジョンタロウ なるわ」 しゅ テルジーは視線を動物学者のほうにうっした。ドルーン博士は咳に生まれた種であり、その存在が知られるようになってからまだ八 年しかたっていない。その種がいる範囲は限られているらしい はらいした。 ・、ードン、あなたはお気づきになっていないようですポート・ニケイが建設されている大陸の反対側にある・ハリュート山 「ミス・アンノ 岳地帯だ。 ね、チックタックがどういう種類の動物なのかということを ? 」 テルジーはその言葉をほとんど聞いていなかった。非常に寄妙な テルジーはロをひらこうとして思いとどまり、眉をよせた。 ことがおこっていた。ドルーン博士がロにする一節ごとに、ほかの がどんな生き物なのかはっきり知っているといいかけたのだが : 文章がその十倍も彼女の意識に現われるのだ。もっと正確にいうな 本当は何も知らなかったのだ ! ら、かれがどんなことを口にしても、それに関係のある情報が即座 彼女はぼんやりとドルーン博士をにらみつけ、唇を噛んだ。 に、彼女自身の記憶と思われるところから流れ出てきた。もちろん 「テルジー そうではなく「一、二分のうちに彼女は、ドル 1 ン博士が何時間も と、ハレット叔母さんはやさしくうながした。 かけて説明する以上にジョンタロウの冠毛猫について知っていた : テルジーま、つこ ・ : 博士よりもずっと多くの知識を得ていたのだ。 ええ : : : どうそっづけてください、博士」 彼女はとつ。せん、博士が話すのをやめていることに、質問してい ドルーン博士は両手の指をつきあわせた。 クレスト・キャット 「さて : : : あなたのペットは : ・ : ・若い冠毛猫でしてね。もうほることに気づいた。かれはちょっと不安そうにくりかえした。 「ミス・アン・ハードン ? 」 とんど成獣に近くなっていますし : : : 」 テルジーは低い声で答えた 0 テルジーはさけんだ。 「そうよ : : : あなたの血を飲んであげるわ ! 」 「もちろん、そうだわ ! 」 2 3
かれらはが繁みの中にもともとの色合いのまま横になって倒 = ャカーは池に近づいていたが、まだだいぶ遠く離れていた。それているのを見つけた。その目は閉じられ、胸はゆ 0 くりと呼吸に 9 キャ / ピイ の天蓋はおろされ、中にいる三人の頭が見えていた。ハレット叔あわせて起伏していた。 ドルーン博士はすまなさそうな表情でテルジーに説明した。彼女 母さんの運転手デルコスが操縦し、叔母さんとドルーン博士は両側 からテルジーを見つけようとしているのだろう。三百ャードかなたのペットは苦しんでおらず、麻酔銃はを楽に眠らせただけだ 2 で、エャカーは右へまわりはじめた。デルコスは傭い主があまり好の足を麻酔ベルトで縛るのは、麻酔銃の電撃効果が数分でなく きでなかった。想像するところ、かれはテルジーを見つけ、逃げろなるためであり、エネルギー・ベルトの内側がふれている限り、 e の麻酔はつづき、ベルトがはずされるまでは動けない。そして、 と警告しただけなのだろう。 テルジーは法律全書を閉じて下におき、小石を拳いつばいっかむその期間中すっと、なんの苦痛も感じないのだ、と。 と、それをひとつずつ小川の中へ投げこみはじめた。工ャカーは左テルジーはロをきかなかった。彼女は、デルコスが動物学者の反 ビティ・ホイスト のほうへ姿を消した。 重力装置を使ってのぐったりした体を繁みの上へ浮かべ、エャ 三分後、彼女は池の水面を横切って近づいてくる影を見つめた。 カーのほうへ運んでゆき、あとのふたりがそのあとにつづくのを見 胸の鼓動は聞こえるほど激しく打ちはじめたが、彼女は顔をあげなつめていた。 かった。チックタックの鳴き声は、規則的にあわてることなくつづ デルコスがさきにエャカーに乗りこみ、うしろの大きなトランク ・コンパートメントをあけた。 e はその中へおしこめられ、鍵が いていた。工ャカーはほとんど頭のま上でとまった 0 二秒ほどする かけられた。 と、はじけるような音がひびき、鳴き声はとっぜんとまった。 テルジーが立ちあがると同時に、 . デルコスはカーを池のほとりに 「どこへ連れてゆくつもりなの ? 」 デルコスがカーを離陸させると、テルジーはむつつり尋ねた。 着陸させた。運転手は彼女にむかって悲しそうに微笑んでみせた。 横のドアが開き、ハレット叔母さんとドルーン博士がそのむこうに ハレット叔母さんは答えた。 立っていた。ハレットはテルジーを見つめ、動物学者は大きな生命「宇宙空港よ、テルジー : : : 博士とわたしは同じ意見なの。必要以 ゆか 探知麻酔装置をそっと床におろした。 上にこの問題を長引かせてあなたの感情を傷つけないほうがいいた テルジーは話しかけた。 ろうってことに」 「チックタックを探がしているのなら、ここにはいないわよ」 テルジーは軽蔑をおぼえて鼻に皺をよせ、エャカーの中を歩いて ハレット叔母さんは残念そうに首をふった。 デルコスのうしろに立った。彼女は操縦席のうしろにちょっとより 「わたしたちに嘘をついてもだめよ、テルジ ー ! ドルーン博士は かかった。両足はふるえていた。 たったいまを眠らせたところなんですからね」 運転手は横目でかたいウインクを送ってよこし、低い声でささや
「すると、野獣のほうも狩猟者にむかって飛びかかっていくことが ( リ = ートできなければいけないってことですのね ? 」 テルジーはまばたき、ドルーン博士に焦点を合わせ、 山脈の淡く霞がかか 0 た青い頂きがつづくすばらしい眺めから、む「そのとおりです。いろいろなクラスの飛ぶ動物を追跡する場合を 除いて、例えばシカリですが、ふつうの輸送手段のほかェアカーの クレスト・キャット りやり心を引き離した。 いまなんとおっしゃいまし使用は許可されていません。こういう条件のもとで、冠毛猫が 「ごめんなさい、たたの冗談ですわ ! 狩猟によって倒される率は平均して一対一ということになりまし たの ? 」 彼女は微笑し、動物学者はまごっいたような顔をして、しばらく テルジーは両眼を大きく見ひらいた。彼女は別の情報源からほ・ほ テルジーを見つめた。 「ぼくはお尋ねしていたんです、野獣の首という記念品を手に入れそれに近いことを得ていたが、信じてはいなか 0 たのだ。 / ンタ 1 もひとつずつ殺されているつ ることについて ( ブ連邦にある多くの狩猟クラ・フによって決められ「猫が一匹殺されるごとに、、 てことですの ? ひどく危険なスポーツですのね」 た狩猟規則を、あなたはご存知なのかどうかを」 ドルーン博士は短くうなずいた。 テルジーは首をふった。 「極端なまでに危険なスポーツですよ ! 事実、その統計が発表さ 、え。聞いたこともありませんわー ドルーン博士は説明した。その規則は使用する装備の種類を決めれると、・ ( リ、ート猫の首を手に入れるための狩猟の興味はと ? せ ているーーー武器、発見追跡用の道具、勢子の人数、その他をーー・一」ん、非常に低下しました。その反対に、この驚くべき動物に対する うして、どのような種類の野獣を追うにも、合法的な装備によるこも 0 と科学的な興味が同時におこり、博物館、大学、公私の = レク ションの代理人に多くの許可が与えられたのです。もちろん、そう とになっているのだ。かれはつづけていった。 リュ 1 ト の冠毛いう場合に狩猟規則は適用されません・ . : : こ 「かれらが発見された最初の年の終りまでに、・ハ ャット テルジーは・ほんやりとうなずいた。 猫は、ウルトラ装備級に指定されました」 「わかったわ ! かれらは = ャカーを使ったのでしよう ? 大口径 「ウルトラ装備って、どういうことですの ? 」 の銃とか : : : 」 テルジーの質問に、ドルーン博士は慎重に答えた。 「そういう仕事には、 = ャカー、遠距離探知器、それに麻酔銃が標 「つまり、戦闘用兵器で完全装備するところまではいきませんが : ・・・それに近い 0 てことですね。それにもちろん、そのクラスでも、準装備です = = = もちろん、状況によ 0 て、ガスや毒物も使われまし こ。しばらくのあいだ、その仕事は比較的にうまくいきました。と 狩猟競技の鉄則である相互接近可能性がなければいけないのです」ナ 「相互・・。・・ええ、わかりましたわ ! 」またも沈黙のうちに情報が意ころが、変なことがおこ 0 たのです。かれらの存在が知られるよう ノリュート山脈の冠毛猫 になってから二年もたたないうちに、く 識の中におしよせ、テルジーは黙りこみ、ふたたび話しだした。 クレスト・キ
「これが生命探知装置で、麻酔銃を組み合わせたものです、ミス・酷にあざ笑っている生き物たちと連絡をつけさせようとしている ードン。あなたのペットを傷つけるつもりはありませんが、 の目的が、弱々しくはあってもとっぜんはっきりしてきた。 あのタイプの動物を相手にして油断はできませんからね。銃の電撃それが急いでったえているのは、彼女が気づかれることなくこの で数分のあいだ意識を失わせます : : : 麻酔ベルトで縛りあげるのに家を出て、半時間かそこら邪魔されないでいられる場所へ行かなけ 必要な時間だけです」 ればいけないということだ : 「あなたは生命銀行の捕獲担当者ですのね、ドルーン博士 ? 」 彼女は、ハレット叔母さんと動物学者がふたりとも自分を見つめ 「そのとおりです」 ていることに気づいた。 ハレット叔母さんはロを出した。 「気分でも悪いの、テルジー ? 「ドルール博士は、惑星調整官からの許可書もお持ちなのよ。チッ クタックを大学連盟のものとし、この惑星からほかへ移してもいし テルジーは立ちあがった。このふたりに何をいってみても、無駄 という。だからあなたも、このことではわたしたちどうしようもなよりなお悪い結果になることだろう ! 彼女はまっ青な顔になって いんだってことわかるでしよう。あなたのお母さまも、わたしたち いたーーーそれが感じられたーーーでもかれらはもちろん、を失う が法律にそむくようなことをするのは好まないと思うわ、そうでしショックによるものと考えているはすだ。 よ ? 」ハレット叔母さんはちょっと黙りこんだ。「許可書にはあな 「サインする前に、あなたのいわれたことについて法律を調べてみ たのサインが必要なんだけど、必要ならわたしがかわりにサインすなければいけませんわ」 ることもできるのよ、テルジー」 彼女がそうドルーン博士にいうと、かれは椅子から立ちあがりか それがハレット叔母さん流の、ジョンタロウ駐在惑星調整官に訴けた。 えてみてもだめよと、う、 ししいかただ・つた。彼女は用心ぶかく、この 「ええ、それは : : : それはできますとも、ミス・アン・、 ードン ! 」 事態についてまずかれの同意を得ていたのだ。 「調整官のオフィスに電話してくださらなくても結構ですわ。わた ハレット叔母さんは言葉をつづけた。 し、自分の法律全書を持ってきていますから、自分で調べてみま 「だからチックタックをすぐに呼んでくれないこと、テルジー テルジーはふりむいて居間から出ていこうとした。 テルジーは最後のところをほとんど聞いていなかった。彼女は自 あっけにとられた表情を浮かべはじめたドルーン博士にハレット 分の体がしだいにこわばってゆき、居間が視界から消えかけている叔母さんは説明した。 ことを感じた。たぶんこの瞬間、何か別の回路が彼女の心の中に作「わたしの姪は、法学部で学んでいますの。いつも研究に夢中で : ・テルジー ? られたか、別の新しいチャンネルが開かれたのだろう。外にいる冷 5 3
は絶減してしまったのです ! かれらの個体数に対する人間の侵害 では、これがハレットの企みだったのか : : : 彼女は冠毛猫のこと からはどうも理屈に合わないので、これはきっと伝染病がとつ。せんを知り、何カ月かをかけて準備し、ー ee がジョンタロウで生まれた 3 おこって一掃されたのだろうということになりました。とにかく、 ものだとわかったことで悲しい結果になるようにと考えたのだ グレスト・キャッ 昨夜あなたがペットをつれて到着されるまで、生きている冠毛だれも前もって知ることも防ぐこともできない計画だった。テルジ 猫をジョンタロウで見ることはできなくなっていたのです」 ーが聞いた限り、生命銀行に入れられたら最後、 ee はひとつの意 テルジーは黙ったまま何秒か坐っていた。かれが話してくれたこ識を持った生物としての存在に終りを告げ、科学者たちによって e とのせいではなく、別の知識がまだ彼女の心の中に流れこんでいたの種を作りなおす可能性をほじくりまわされるのだ。 からだ。非常に重要な一点で動物学者いったこととは違いがあ テルジーは、叔母が気をつけて同情しているような表情を浮かべ り、そこから非常に論理的なパターンが作られかけていた。テルている顔をちらりと眺めてから、ドルーン博士に尋ねた。 クレスト・キャット ジーはそのパターンを完全な細部までつかんだわけではないが、自「絶減してしまう前にここでつかまえられたほかの冠毛猫はど 分にわかったことからだけでも信じられないほどの恐怖をおぼえうなりましたの ? 生命銀行が必要とするぶんは、それで足りるん た。 じゃありません ? 」 彼女は用心ぶかく言葉を選びながら尋ねたものの、自分が本当に かれは首をふった いっていることにはほんのすこししか注意をはらっていなかった。 「二頭のまだ成熟していない雄の標本が存在しており、それはいま ライフ・ 「それがチックタックとどんな関係がありますの、ドルーン博士生命銀行にいます。生きたまま捕えられたほかのものは殺されまし た : : : たいていは、ひどい状況下においてです。かれらはまったく ードノ ドルーン博士はハレット叔母さんをちらりと眺め、それから視線狡猾で、ひどく野蛮な生き物なんですよ、ミス・アン。ハ をテルジーにもどした。不愉快なことだが仕方がないといった表情それに加えて、特別な器械を使わなければ事実上探知することがで でかれは話した。 きない点まで姿を隠せるという事実もあって、かれらは現在知られ しゅ ノ・ハードン、ひとつの種が絶滅に瀕したとき、生き残っている動物の中でもっとも危険なものになっているのです。これま ているものがあればどれでも大学連盟の生命銀行にうっして、そのでのところ、あなたがペットとして育てられた若い雌はおとなしい 存続を確保しなければいけないという連邦法があります。現在の状ままだったようですから、あなたには本当のことと思われないでし ようがね」 況を考えると、この法律は、チックタックに適用されるのです ! 」 「さあどうかしら。それであれが : : : 」 3 テルジーはそういいながら、かれの椅子のそばに立てられている 大きな器械のほうにうなすいてみせた。 しゅ
おもしろがっているような声がもどってきた。 『そうらしいね』 ハレット叔母さんの頬は薄桃色になっており、青い目を輝かせて 3 テルジーは尋ねた。 いた。驚くほど謙虚な態度だが、彼女を知っている者にとっては、 『わたしにどういうご用なの ? 』 これからハレーの悪い面が激しく出てくるそという前ぶれだ。しか 『すぐにわかるさ』 し、制服の男性にとってはすばらしい効果があった。居間に入って 『なぜいま話してくれないの ? 』 - いったテルジーは、来客がうっとりとした表情を浮かべているのを と、テルジーはいった。相手がまた離れていくような感じを受け見ても別に驚かなかった。 たのだ。 来客というのは背が高く、陽焼けした男性で、仕事を屋外でする 急速に、もどかしそうな言葉が殺到してきた。 タイプだった。やせた顔、きちんと刈りこんだ黒い口髭、頬につい 『子猫の心 ! 子猫の考え ! 子猫の話しかた ! 遅すぎる、遅すている傷跡は、その男が呆然とした表情をしていなければ元気に見 ぎる ! おまえの心は : : : もういいー 待つんだ : : : 』 せる効果があるものだった。かれの坐っている椅子のそばにある大 回路が閉じられた : : : チャンネルが開いた : : : 障碍はなくなっきなずんぐりした器械は、テレカメラといったものらしい た ? なんといっていたのかしら ? 難しく、微妙で、混乱してい ハレット叔母さんは紹介した。来客はドルーン博士、動物学者 るようだったけど、何かの種類の完全にノーマルな状態でおこなわだ。かれは昨夜おこなわれた宇宙旅客船でのテルジーのインタビュ れているものだった。 ウ放送を見て、彼女とチックタックのことを話し合えないかと思っ 『あとすこし ! 』その声は話し終った。しばらくして、別の考えがてきたのだそうだ。 無造作に投げつけられてきた。『小さな口よ、これはわれわれより テルジーよ、つこ。 もおまえのために、ずっと大切なことなんだそ ! 』 「正直いって、厭ですわ」 その声はまるで通信装置が切られたように鋭く終った。 ドルーン博士は目が覚めたようになり、驚いた表情を浮かべた。 それほど親切じゃあなかったわ ! 建物にむかって歩くテルジー ハレット叔母さんは、にこやかにほほえみながら説明した。 の胸に新しい恐怖が浮かんでいた : : : 近くに集まりつつある嵐を意「姪はべつに失礼なことをするつもりじやございませんのよ、博 識したような恐怖。まだ静かだ・・ーー死んだように静かだが、いっ爆士」 発するかもしれないのだ。 「わかりますよ」 『子猫みたいな心だな ! 』 動物学者はあやふやにうなずき、ハレット叔母さんはあとをつづ と、遠くでひとりの声が嘲笑した。庭の垣根のかなた、公園の樹けた。 樹のあいだでささやいた声だった。 「ただ、チックタックのことになると、テルジーはすこし神経質に
た大きな麻酔銃にむかってさっと動いたが、そのままかれは動きを 「汚ないことをするものですね、ミス・テルジー わたしは警告とめ、顔を火色にして凍りついた。 しようとしたんですか」 かれが決心を変えたことをテルジーは軽蔑したりしなかった。す 「わかっていたわ」テルジーは深く息を吸いこんだ。「ねえ、デル こしでも動いたのは、かれが実に勇敢な男であることを示してい コス、一分ほどしたら驚くようなことがおこるわ ! 危険そうに見る、と彼女は思った。チックタックの二倍も大きく、二倍も筋肉が えても、そうじゃないの。あわてないでね・ : : ししこと ? 」 発達している〈鉄の心〉は、彼女にとっても悪魔のような猛獣に見 デルコスはびつくりしたようだったが、声は低いままに保ってい えた。その濃い緑色をしたまだらの毛皮には、古い傷の跡が無数に クレスト ついている。赤い冠毛は半分ほどちぎれている。 「でも、どういうことがおこるんです ? 」 〈鉄の心〉は音もなく流れるような動きで前足をのばし、麻酔銃を 「話している時間はないわ。わたしのいったことをおぼえていて」下からひっかけてはねあけた。その重い装置は信しられないほどの テルジーは操縦席から数歩もどると、ふりむき、ふるえる声で、 しス。ヒードで空中高く八十フィートほどまっすぐ飛んでゆき、部品が ばらばらになり、エャカーの下にひろがる樹々にむかって弧を画き 「叔母さん、ドルーン博士 : : : 」 ながら落下しはじめた。それからかれはのんびりと首をまわし、黄 低い声で話しあっていたふたりを顔をあげた。 色い火のように燃えている両眼をテルジーにむけた。 テルジーは早口になっていった。 彼女の背後でデルコスはつぶやいた。 「あなたがた、動かず、馬鹿なまねをしなければ、傷つけられるこ 「ミス・テルジー ミス・テルジー 大丈夫なのですか : : : 」 とはないでしよう。でも、体を動かせば : : どうなるか知らないわテルジーは唾をのみこんだ。しばらくのあいだ彼女は、また自分 クレスト・キャット よー このエャカーの中に、もう一頭、冠毛猫がいるの : : : 」が鼠ほどの大きさもなくなったように感じたのだ。彼女はふるえる 彼女は心の中でつづけた。 声でデルコスに告げた。 『さあ ! 』 「安心して ! かれは本当に、お・おとなしいのよ」 〈鉄の心〉がいったいどこに潜んでいたのかは不可解なことだっ〈鉄の心〉は彼女の心の中に、荒々しいが不親切とも思われない笑 た。後部座席に近いカー。ヘットが一瞬、ゆらいだようだった。そしい声をひびかせた。 カムフラージュ てかれはその場に出現していた。偽装を落とし、動物学者とハレ ゆか キャ / ・ヒイ ット叔母さんから五フィート離れた床に坐っていたのだ。 流線型の天蓋でおおわれた黒真珠のスポーッカーはやがて、ジョ ハレットはロを大きくあけ、悲鳴をあげようとしたが、そのままンタロウ惑星調整官事務所の外にある駐車場に着陸した。係員があ 気絶してしまった。ドルーン博士の右手は座席のそばにおいてあっ いている場所へ手をふってみせた。 2 4
いている。その内庭の五十ャードむこうで庭の端は自然石の壁にな 「ええ、叔母さん ? 」 っており、そこからポート・ニケイの地面のほとんどを占めている 3 テルジーはドアのところで立ちどまった。 「怒らないでくれて本当に嬉しいわ。でも、あまり長くかからない大きな樹々が繁る公園地帯がひろがっていた。 チックタックの姿は見えなかった。左側の一階の窓から声が聞こ でね。ドルーン博士をあまりお待たせしたくないの」 えてきた。ハレット叔母さんは自分の女中と運転手をつれてきてい 「五分か十分以上はかからないと思うわ」 テルジーはおとなしくそう答えた。彼女はドアをうしろ手にしめた。そしてこの町の貸別荘サービスの一部である料理人が今朝の食 ると、二階の寝室へまっすぐ上がっていった。彼女の持ってきた旅事を作るためにやってきたのだ。 テルジーはからのカバンを窓枠の左端につけておき、窓をおろす 行カバンのひとつはまだあけていないままだった。ドアに鍵をかけ とカ・ハンをつつかえ棒にしてとめた。彼女はドアのそばにあるこの ると、彼女はそのカバンをあけてポケット版の法律全書を出して、 家の防御スクリーン・パネルのところへ行き、ロック・・ホタンをお テー・フルの前に坐った。 した。 彼女は法律全書のビュウスクリーンを入れると、インデックス・ ボタンをおした。スクリーンの裏で何列もならんでいる針の先ほど家の外にあるすべてのドアと窓が音もなくしまると、一階からの のテープのひとつが僅かに位置を変えて、読み取れるようになっ声は聞こえなくなってしまった。テルジーは窓をふりむいた。防御 た。三十秒後、彼女はドルーン博士が根拠としている法律の条文をフィ 1 ルドが窓をおしさげるとカ・ ( ンはすこしたわんだが、窓のお りてくる力をささえた。彼女は窓にもどると足を先にしてすきまか 見ていた。法律はかれのいっているとおりだと示していた。 ら外へ出ると、体をねじってでつばりの上に立った。 ハレット叔母さん、うまくやったわね、まったく汚ない手で : ・ハティオ 一分後、彼女はつる草におおわれた内庭の格子垣をつたって静か それにまったく愚かなやりかたね ! 法学部の二年生だって、こん な事件での方法はすぐに二つや三つ考え出せるのよ。チックタックに下りていった。みんながテルジーのいなくなったことを発見した を生命銀行に引き渡すべきかどうかを連邦法廷が決定するのを、二あとも、防御スクリーンは家の中にいる全員をしばらくのあいだ閉 じこめておいてくれるはずだ。かれらはスクリーンのメイン・メカ 十年やそこら引きのばせる方法を。 ニズムをはずして調べまわるか、それとも彼女の寝室のドアをむり そう、ハレット叔母さんはただあまり賢くないっていうだけのこ とちらの方法も混乱とい と。それにをどこかへつれ出す計画も、いまとなってはそう大におし開いてロックを解除するほかない。・ らだちをもたらし、組織たった追跡をどうしても遅らせることにな 切なことでもないわ : テルジーは小さな法律全書を閉じると、それを短い服のベルトにるのだ。 テルジーは窓から見られないように家の端にびったりくつつい 結びつけると、開いている窓のところへ行った。窓の下に二フィー ト幅のでつばりがあり、それが右のほうにある内庭の屋根へとつづて、ゆっくりと内庭をまわり、石の壁へとむかった。灌木林を縫っ パティオ サンプリーフ
テルジーよ、つこ。 車の中ではデルコスがプレーキをかけ、エンジンを切って尋ね こ 0 「叔母さんにいって、大きな冠毛猫がすぐ外に坐っているよっ て」それは嘘たが、デルコスにもハレットにもわからないことなの 「これからどうします ? 」 だ。「わたしがもどってくるまでにあまり騒ぐと、怒り出すかもし テルジーはすまなさそうに答えた。 「わたしが調整官と話をしているあいだ、叔母とドルーン博士といれないわ : : : 」 一分後、彼女はもうすこしましな服装をしていたかったと思いな っしょに、トランク・コン。ハートメントに入っていてもらいたい サンプリーフ がら、両側のドアに鍵をかけて外に出た。短い服とサンダルでは、 の」 運転手は肩をすくめた。かれは公園地帯の上空をゆっくりと飛んまるで子供のように見えるのだ。 彼女がチックタックとならんで近づいてゆくと、駐車場の係員は でくるあいだに、ほとんど落着きを取りもどしていた。 〈鉄の心〉は車のまん中に坐りこんでいるだけで、目をなかば閉恐怖を顔に浮かべて告げた。 「そいつを連れては事務所に入れてくれないと思いますよ、ミス : じ、死んでしまったような格好でゆったりと居眠りを楽しんでいた。 そしてときおり鋸を引くような音を立てた。かれなりに咽喉を鳴ら・ : 首輪もつけていないじゃないですか ! 」 しているのか、いびきをかいているのかのどちらかなのだろう。そ「そのことなら心配しないで」 してチックタックは、テルジーの指示でデルコスが足を縛った麻酔と、テルジーは冷やかに答えた。彼女は ( レット叔母さんの財布 ベルトをはずすと、いつもの愛想よさでおとなしくかれに挨拶しから取った二クレジット貨をかれの手に落とし、建物の玄関へと進 んでいった。それを見送った係員は、娘とならんで歩いている大き た。 事件がおこ 0 たときから運転手は強い好奇心をおさえかねていたな猫のような動物が影を二重に引いているような気がして頭をふつ たが、その影に変わりはなかった。 が、テルジーは何も説明しなかった。かれはうなずいていった。 これからなさる調整官の主任受付係はに難色を示し、短い服も気に入らない 「おっしやるとおりにしますよ、ミス・テルジー ことが見られないのは残念ですが、わたしを閉じこめられないと、様子だったが、テルジーの証明書で連邦評議会婦人議員ジ = サミン ・アイハ 1 ドンの娘とわかると態度を変えて尋ねた。 ・ハレットはわたしがお手伝いしたものと思われて、自由にな 「この : : : 緊急事態について、調整官ご自身とふたりだけで相談し るとすぐわたしを首にされるでしようからね」 たいとおっしゃいますのね、ミス・アン・ハードン ? 」 テルジーはうなずき、それからうしろのコン。ハートメントのほう に顔をむけた。ドアからもれてくるかすかな音は、 ( レット叔母さ「そのとおりです」 テルジーはきつばりと、そういった。ブザーが鳴り、受付嬢は受 3 んが意識を取りもどしてヒステリーをおこしていることを示してい 話器を取りあげ、しばらく耳を澄ますと短く答えた。 クレスト・ヤャット サンプリーフ
かれは受話器をもどした。その顔はひどくまじめになっており、 に違いない。それでが飛びかかってきても大丈夫たと考えてい ちらりとのほうを眺め、デスクの引出しをすこしあけてから、 るのだろう。かれがパニックに襲われて行動をおこすようなことは テルジーのほうにむいた。かれは愛想よくいっこ。 なさそうだ。そしてかれはテルジーに殺人を犯す傾向があると考え 「さてと、ミス・アイ ( ードン。あなたは何かいおうとされていまているらしいから、彼女の話すことに細心の注意をはらうはずだ。 クレスト・キャット したね ? 冠毛猫のことで : : : 」 もちろん、それで彼女のいうことを信じるかどうかは、また別の問 テルジーは唾をのみこんだ。電話のむこう側で何をいっていたの題だ。 かは聞いていないが、どういうことだったのかは想像できる。かれすこし元気づいて、テルジーは話しはじめた。それはまったく途 の部下が別荘に電話すると女中に、 ( レットと運転手、それにドル 方もない話のようにひびいたはずだが、調整官は非常に興味をおぼ ーン博士は、ミス・テルジーとそのペットを探がしに出かけたといわえているような面持ちで聞いていた。最初にこれぐらいは信じても れたのだろう。それから調整官事務所はスポーッカーの交信番号を いいだろうと彼女が感していたたけのぶんを話し終ると、かれは面 調べて呼びだそうとしたが、もちろん応答はなかったというわけだ。白そうにいった。 調整官は ( レットが前に話していたことから、いま話し相手にな「するとかれらは一掃されなかった : : : 隠れてしまったー かれら クレスト・キャット っているこの気違い娘が成熟しかけている冠毛猫に、追いつい は追いまわされ狩猟の対象となるのを避けてそうやった、そうあな てきた叔母とふたりの男性を殺させたという恐ろしい可能性を考えたはいわれるのですね ? 」 ているに違いない ! 事務所はもう警察に、行方不明になったエャ テルジーはとまどったように唇を噛んでからうなずいた。 カーの捜索をすぐおこなうよう連絡していることだろう。 「その点では、わたしにもはっきりわからないところがあります。 いっかはかれらも調整官事務所の駐車場をも調べてみる気持になもちろん、なぜあなたが狩りに行きたがられたのかも、わたしには るだろうが、それがいつになるか、テルジーにはわからないことだまったくわかりません : : : あなたご自身が殺されるかもしれないよ った。しかし彼女が真相を説明し終らないうちに ( レット叔母さんうなことに二度も ! 」 とドルーン博士とが救出されて、ポート・ニケイに ee 以外にも冠調整官は説明した。 ス、ト・キャット 毛猫が生きていることを調整官に報告したら、事態をおだやか「ああ、それは、単なる統計上の危険でしてね。もし完全な確信と におさえておく可能性はまずなくなることだろう。だれかが何か馬いうものがあれば : : : 」 クレスト・キャット 鹿な行動をきっとおこし、油が火にそそがれる : 「さあ、どうですかしら。でも、冠毛猫も同じように感じたら テルジーにとって都合のいいことはふたつ。調整官は、く しいですわ : : : 最初のうちのことですけれど。かれらは一頭射殺さ クレスト・キャット ト冠毛猫を二頭しとめた男にふさわしく、だいぶ落着いた神経れるたびに、ほ・ほひとり狩猟者を殺していました。人間は、かれら の持主らしい。すこしあけてある引出しの中には拳銃が入れてあるがそれまでに出会ったうちで最高に興奮させられる獲物だったので ンタ