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検索対象: SFマガジン 1974年12月号
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1. SFマガジン 1974年12月号

かれらはが繁みの中にもともとの色合いのまま横になって倒 = ャカーは池に近づいていたが、まだだいぶ遠く離れていた。それているのを見つけた。その目は閉じられ、胸はゆ 0 くりと呼吸に 9 キャ / ピイ の天蓋はおろされ、中にいる三人の頭が見えていた。ハレット叔あわせて起伏していた。 ドルーン博士はすまなさそうな表情でテルジーに説明した。彼女 母さんの運転手デルコスが操縦し、叔母さんとドルーン博士は両側 からテルジーを見つけようとしているのだろう。三百ャードかなたのペットは苦しんでおらず、麻酔銃はを楽に眠らせただけだ 2 で、エャカーは右へまわりはじめた。デルコスは傭い主があまり好の足を麻酔ベルトで縛るのは、麻酔銃の電撃効果が数分でなく きでなかった。想像するところ、かれはテルジーを見つけ、逃げろなるためであり、エネルギー・ベルトの内側がふれている限り、 e の麻酔はつづき、ベルトがはずされるまでは動けない。そして、 と警告しただけなのだろう。 テルジーは法律全書を閉じて下におき、小石を拳いつばいっかむその期間中すっと、なんの苦痛も感じないのだ、と。 と、それをひとつずつ小川の中へ投げこみはじめた。工ャカーは左テルジーはロをきかなかった。彼女は、デルコスが動物学者の反 ビティ・ホイスト のほうへ姿を消した。 重力装置を使ってのぐったりした体を繁みの上へ浮かべ、エャ 三分後、彼女は池の水面を横切って近づいてくる影を見つめた。 カーのほうへ運んでゆき、あとのふたりがそのあとにつづくのを見 胸の鼓動は聞こえるほど激しく打ちはじめたが、彼女は顔をあげなつめていた。 かった。チックタックの鳴き声は、規則的にあわてることなくつづ デルコスがさきにエャカーに乗りこみ、うしろの大きなトランク ・コンパートメントをあけた。 e はその中へおしこめられ、鍵が いていた。工ャカーはほとんど頭のま上でとまった 0 二秒ほどする かけられた。 と、はじけるような音がひびき、鳴き声はとっぜんとまった。 テルジーが立ちあがると同時に、 . デルコスはカーを池のほとりに 「どこへ連れてゆくつもりなの ? 」 デルコスがカーを離陸させると、テルジーはむつつり尋ねた。 着陸させた。運転手は彼女にむかって悲しそうに微笑んでみせた。 横のドアが開き、ハレット叔母さんとドルーン博士がそのむこうに ハレット叔母さんは答えた。 立っていた。ハレットはテルジーを見つめ、動物学者は大きな生命「宇宙空港よ、テルジー : : : 博士とわたしは同じ意見なの。必要以 ゆか 探知麻酔装置をそっと床におろした。 上にこの問題を長引かせてあなたの感情を傷つけないほうがいいた テルジーは話しかけた。 ろうってことに」 「チックタックを探がしているのなら、ここにはいないわよ」 テルジーは軽蔑をおぼえて鼻に皺をよせ、エャカーの中を歩いて ハレット叔母さんは残念そうに首をふった。 デルコスのうしろに立った。彼女は操縦席のうしろにちょっとより 「わたしたちに嘘をついてもだめよ、テルジ ー ! ドルーン博士は かかった。両足はふるえていた。 たったいまを眠らせたところなんですからね」 運転手は横目でかたいウインクを送ってよこし、低い声でささや

2. SFマガジン 1974年12月号

彼女に問いかけさえするかもしれない。でも見つけることは絶対に ィア・フッシュ。彼とヴァイとの間がうまくいかなかったことは個人 2 ないのだ。事態はたた悪くなる一方だろう。 的な事柄であり、傷ついたのは個人に過ぎない。しかし彼がおかし 4 どれほどまでに悪くなるだろうかと彼は考えた。町一流のデパ た誤まりのために、誰もに厄介がかかって来るのだった。 トまで店仕舞いした後には・・・ーーあるいはもしヴァイが人の家に入り「君にはそれがわかりようがなかったのだよ、トッド」とスタナー こむようになったら、この町に住む人々はどうするだろうか ? 銃ドは言う。「それを推量するすべがなかったのだから。彼女は君に ダイ・フ を手にして、絶えず後を振り向いたり、戸という戸にはすべて錠をとって全く新しい型なんだから いや、それを言うんなら、誰に かけるのか ? それでもなお物がなくなりつづけたら ? そして市とってもこの変種の中での全く新しい型なんだ。君の言ったとお キュアリシテイダ 民軍が召集されたり戒厳令がしかれたり、あるいは州警察や り、確かに彼女は町の人には絶対に見つからないだろう。関心波 ムピ / グフィールド が働き出し、それでもなお物がなくなったらーー次にはどうすれば減衰場と、彼女の阻害された情緒発達から直接に生したと思われ よしのカ ? ・ るこの新しい能力との間の問題については : ・ いやあ、私が君と 通りを走っていた車がプレーキをきしませて止った。ドアがばつ一緒にこの町に来たことは、単なる幸運以上のものだよ」彼はちょ と開き、中の刑事たちが歩道に跳び降りた。彼らは、ビックリしてっとの間、窓外の暗い通りを見つめた。「彼女がそんなに完全に心 いる肥った婦人のそばに走り寄って、とり囲む。中の一人が警察パ が歪んでしまい、その人格の中に道徳性がそんなにも欠損している ッジをチラリと見せる。他の者たちはすでに彼女の腕から買物包みとは全く残念至極と言うよりない。だが何んという素晴しい能力な をひったくり、包装紙をひきちぎって開けにかかっている。婦人はんだ ! トッド。もしこの能力を、成熟した人格の者が 彼らの顔から顔へ眼を移す。婦人の顔は蒼白で、そのロはショック賢明な利用の仕方をしたならば、私たちがかかえている減衰場 でゆがんでいる。 の問題をやすやすと解決してくれるだろうことに君は気がっかない ディアブッシには彼女を助ける手段は全くなかった。自分にもかね ? 彼女自身は見込みがないかもしれないが、もし私たちが彼 聞えないような低い声で悪態を口にしながら、その光景を見つめ、女からそれを学び取れれば : : : そう、その効果には何んの変りもな 立ちつくしていた。にもかかわらず彼は、ヴァイオラにはこんなこ いわけだ。私たちは彼女の子供を彼女から隔離して養育することも とは起りようがないと考えた時、思わす安堵せずにはいられなかつできる。そうすれば子供たちは彼女の遺伝形質は受けつぐが、心の 歪みは受けつがない」 「それは可能だろうね」とディアブッシュ。 「私が見つけていたらなあと思うよ」二人でヴァイオラの家に向う「彼女は君に、その能力の使い方を話さなかったのかね ? 」 車の中でスタナードが溜め息をついた。 ディア・フッシュは首を振った。「彼女自身それを意識してない様 「シカゴに来てくれなどと彼女に言うべきじゃなかったんだ」とデ子だったな。彼女はただそうするだけ。するとーーー人々は彼女にプ ダイ・フ グムピングフィールド

3. SFマガジン 1974年12月号

レゼントをくれるんだって」 「デ。ハート や店は今夜は遅くまでは営業してないだろう」とスタナ 「彼女は他人が自分に従うことを望むだけ。ただそれだけと言うの だね ? 彼女はその女店員のところへ歩み寄ったと君は言ったね。 「だからって別に事情が変ることにはならないと思うよ」彼らは本 すると女店員は彼女にドレスを贈った」 「そう言った。でも女店員は自分の意志からそうしていたみたいだ通りへと折れこんだ。そこは通行人が絶えていたが見張りが出てお り、ほとんどの店の正面は夜灯に照らされ、歩道のヘりに沿った駐 ったよ」 「ところがその直後、その店員はそれについて何も知らないと主張車用地は、たた所々に、保険会社の調査員だろうとディアブッシュ して激しくすすり泣いていた。そうか。してみると減衰場は、別のが推量する人物が私用の車の中で新聞を読んでいるのが見られる以 プロック 何やらわからん、その能力が作用を完了した時、再び働き出したと外、がら空きだった。一人一区画ずつを受け持っ徒歩パトロール警 いうわけだ。君がその女店員の顔に見たと言う表情を、もう一度私官たちが黙々としてドアからドアへと歩いて廻り、錠の確かさを調 ラジオカー に詳しく話してくれないか。どうも私にはそこに何か貴重な発見がべていた。一台の無線車が、両側の商店の並びがそこでとだえる交 ひそんでいるように思えるんだが : : : 」 差点まで通りをつつ走っては、そこでターンし、・フロード通りと ヴァイオラの家の前に着いた。「明りがともってない」と、ほとリヴァーサイド大通りの交差点まで来ては、さらにターンし、ま んど嬉しいくらいの気分でディアブッシュ。「出て行ったんだ。探た通りをつつ走るを繰り返していた。 、、ルディ・ショップのある、プロードとフォウクワイヤー通りの しに行かなければならないな」となるとスタナードには少し黙って もらって、余計な口出しをしてもらいたくないなと彼は思った。 交る街角にヴァイオラが立って、中年の男が店のドアを鍵でごそご スタナードは暗い屋内をのそきこんでいた。「彼女がもどって来そ開けるのを待っていた。 ると思うかね ? 早いとこ見つけなければならん。できるったけ早「あれがそうかい ? 」とスタナード。 ディア・フッシュはうなずいた。「そうだ」彼は歩道のわきに、ゆ くシカゴにつれて行きたいんだ。そして彼女を人類から隔離してし まいたい。さもないと全世界の半数の人間が彼女にプレゼントを贈るやかに車を止めた。 、残りの半数が彼女の血を求めてたけり狂うということにもなり「私が話しかけてみよう」スタナードが声をひそめて言った。 ヴァイオラは店のドアを開けている男をじっと見つめていたが、 かねないからな」 「すぐ見つかるさ。商店街を見て回りさえすればいいんだから」あディアブッシュとスタナードが急ぎ足で歩道を横切って彼女のほう に進んで来ると、そのほうを振り向いた。 あ、俺が世界一の大金持ちでさえあったらなあと彼は思った。 メインストリート 二人とも無言のまま、車で本通りの方へと引き返した。パトカ店主はこの二人には全く注意を向けなかった。彼はすでにドアを協 開け終り、ヴァイオラに話しかけていた。「ほーらね、可愛い子ち ーとすれ違った。その照射灯が歩道を、まさぐるように照らしてい

4. SFマガジン 1974年12月号

亡霊は、わかったというように片方の耳をびくりと動かし、頭の テルジーは e を見つめ、安堵の想いがまた消えてゆくのを感じ カムフラージュ 形を変えた。偽装した顔をテルジーのほうにむけたのだ。つい た。チックタックはふつうなら非常に落ち着いた心の安まる遊び相 2 ではゆっくりと口をあけた。体の内側はカムフラージュされて手なのに、どうもまだ何かの原因で緊張している。ほんの一瞬前 いないので、ひどくなまなましく見える赤い舌と、カー・フした白い の、大きなのんびりしたあくび、安心しきっていたような態度 : ・ 矛を現わした。そのロがひろがって大きなあくびをし、歯のかみあそれがみな嘘だったのかしら ! う音をたててしまり、また見えなくなった。つぎにカムフラージ = 彼女は困惑して問いかけた。 したまぶたが動き、の緑に光る丸い両眼が現われた。その目が「何を心配しているの ? 」 芝生をこえてこちらにいるテルジーを見つめた。 緑色の目はまじめに彼女を見つめ、ほんの一瞬ではあったが、こ テルジーはいらいらといった。 れまでのとはまったく違う動物のように思われた。そして、以 すじよう 「ふざけるのはやめて、 ! 」 前よく考えたチックタックの素性についての疑問が、なぜいま心に チックタックはまばたき、もとどおりの赤銅色に近い色がとっぜ浮かんできたのだろうとテルジーは思った。 ee の恐ろしいほど早 ん首に現われ、頸から胴体へ、両足、尻尾へとひろがっていた。そかった成長ぶりが昨年とまりはじめたあと、だれもそのことを気に の瞬間に実体化したかのように、テラスのすぐそばに、しなやかかけなくなってしまったのだ。彼女はチックタックがただ : で、手足と尻尾が長い、二百ポンドの猫が : : : もしくは、猫のようそのとき、テルジーは現在の状況に対する解答をほとんどっかん な動物が現われた。 だというふしぎな確信をちらりとお・ほえた。ジョンタロウの世界、 がどこで生まれたのかは、まったくわかっていなかった。五チックタック、そしてよりにもよって : : : / 、レー叔母さんまで関係 年前に森の中で遊んでいるところをテルジーが見つけたものは、オしているらしい解答だ。 ラドにあるどこかの個人研究所で生命組織研究用に飼っていたのが彼女は首をふった。 ee の静かな緑色の目がまばたいた。 逃げ出したものか、それともハブ連邦の遠くに離れた植民地から首 ジョンタロウ ? テルジー自身としてはあまり興味を持っていな 都惑星に運ばれてきた宇宙パイロットのペットが迷子になったのだ かったのだが、オラドからここへくる途中、彼女はこの惑星につい ろうというのか、真相に近いところだろう。 て多くの本を読んだ。ハ・フ連邦にあるすべての世界の中で「ジョン ポソ . ゼン ee の頭上には、まっ白な毛でできた大きなふわふわした玉房がタロウは動物学者とスポーツマンの楽園、巨大な動物の猟場であ ついていた。ほかの動物ならおかしなものに見えただろうが、り、そこの大陸と海はすばらしい獲物でいつばいだった。連邦法に の場合はそうではなかった。まるまると太った子猫としても、足によって、この惑星は発見されたときのままの原始的な状態のままに ある大きな吸盤で壁にすいっき、頭を下にぶらさがっている ee のわざとおいてあるのだ。 姿にはたいへんな威厳があったのだ。 この惑星でただひとつの町、人が住んでいるところは事実ここだ

5. SFマガジン 1974年12月号

彼女はこれまでに、短い白日夢に似たシンポリックな心の中の絵いた。四、五秒ほどっづいただけの経験だったが、極端なまでにい といった方法で、がほ・ほ何を考え感じているか、はっきりわかきいきとし、ひとつにきっちりと小さくまとまった悪夢だった。 ったことなど一度もなかった。彼女がチックタックを見つけたのはと精神的なつながりを持とうとした彼女の初期の実験で、このよ 五年前、オラドにあるアン ' ハードン家の夏の別莊ちかくにある森のうなことは一度もなかったのに。 こんな子供じみたことをするなんて、馬鹿みたい ! すぐに秩序 中。おかしな格好をしており、それ以上に動作が変な迷子の小猫と いうしかないを見たとき、彼女はその心がはっきりわかったよだった考えかたで、あの馬鹿な動物を見つけだすべきだったんだわ はどこか近くにいるはずたからーーー・繁みに潜んで見分けに うに思った。だがそれは想像力がありすぎただけかもしれないし、 そのあと大学に入って、しだいに学問に熱中してくると、そのときくくしているところを見つけて、なぜこんな馬鹿な真似をしたのか 説明するまでぎゅうぎゅうとっちめてやることだわ ! チックタッ のことはほとんど忘れてしまった。 クは姿を隠すのが上手だけれども、影のパターンに気をつければた 今日は、チックタックのふるまいに不安をお・ほえていたためか、 いてい見つけ出すことができる。テルジーはまわりの花が咲き乱れ いつもの反応が異常なほど早かった。彼女の閉じているまぶたをと おして感じられる暖い太陽光線の輝きが急速に消えてゆき、内なるている繁みをそっとしらべはじめた。 三分後「庭のテラスに六フィートの階段がついている下の地面が 暗黒といったものでおき変えられた。その暗黒の中にチックタック の坐っている姿が現われてきた。古い石の壁についた入口のドアが傾斜しているところで、チックタックの姿がとっぜん見えてきた。 開いており、その中へすこし入ったところにいて、緑色の目をじっ腹をびったりとつけ、前足に頭をのせ、まったく動かない。の とテルジーにむけている。テルジーはが彼女にそのドアを通っ姿はまるでテラスにそってのびている透明の亡霊で、そこをじっと てくるようにと招いているような印象を受け、なぜかその想いに恐見つめても、なかなか見分けられないほどだった。完全なまでにご まかされる幻影だが、亡霊のような姿をとおして見えている石、木 怖をお・ほえた。 また、すぐに反応があった。チックタックとドアの光景が消えの葉、日光に照らされている地面などはみな、がいまその毛皮 パターンにすぎない。は、ど た。そしてテルジーは、自分がまっくらな部屋の中に立っているのに浮かべているカムフラージュ・ を感じ、もし一歩でも前へふみ出すと、そこで待ちかまえている何んな背景だろうと一瞬のうちにびったりとあうように、その肌を変 えられるのだ。 物かが黙って手をのばし、自分をつかまえるのだとわかった。 テルジーは非難するように指をそちらにむけてのばした。 当然、彼女はあとじさりした : : : すると、とっぜん、別莊の庭に ひろがる芝生に坐り、まだ目をつぶったまま、まぶたに日光があた「見つけたわよ ! 」 っている自分に気がついた。 彼女は、それまでの気持からは説明できないことだが、ほっと大 彼女は目をあけて、あたりを見まわした。心臓は激しく鼓動してきな安心をおぼえて呼びかけた。

6. SFマガジン 1974年12月号

なりますの。この子はなぜか、あの動物に夢中でしてね。そうでし動物学者は彼女を見つめた。 「あなたは知っておられたのですか : : : 」 よう、テルジー ? 「ええ、はっきりとではありませんか。でも、まあ : : : 」彼女はう 「ええ」 なずき、笑い、両頗を赤く染めた。「こんな : : : どうそお話しくだ と、テルジーは丁寧に答えた。 ハさい。すみません、ロを出したりして」 「では、あなたをあまり困らせたりしないようにしなくちゃね」 レット叔母さんは意味ありげにドルーン博士を見た。「わかっても彼女はドルーン博士のうしろにある壁を、夢中になった表情で見 らわなくちゃいけないけれど、ドルーン博士のやられることはただつめた。 つまり、博士はいまからあなたにとても大切なことをお話しに動物学者と ( レット叔母さんは顔を見合わせた。それからドルー クレスト・キャット ン博士はゆっくりと話にもどった。冠毛猫は惑星ジョンタロウ なるわ」 しゅ テルジーは視線を動物学者のほうにうっした。ドルーン博士は咳に生まれた種であり、その存在が知られるようになってからまだ八 年しかたっていない。その種がいる範囲は限られているらしい はらいした。 ・、ードン、あなたはお気づきになっていないようですポート・ニケイが建設されている大陸の反対側にある・ハリュート山 「ミス・アンノ 岳地帯だ。 ね、チックタックがどういう種類の動物なのかということを ? 」 テルジーはその言葉をほとんど聞いていなかった。非常に寄妙な テルジーはロをひらこうとして思いとどまり、眉をよせた。 ことがおこっていた。ドルーン博士がロにする一節ごとに、ほかの がどんな生き物なのかはっきり知っているといいかけたのだが : 文章がその十倍も彼女の意識に現われるのだ。もっと正確にいうな 本当は何も知らなかったのだ ! ら、かれがどんなことを口にしても、それに関係のある情報が即座 彼女はぼんやりとドルーン博士をにらみつけ、唇を噛んだ。 に、彼女自身の記憶と思われるところから流れ出てきた。もちろん 「テルジー そうではなく「一、二分のうちに彼女は、ドル 1 ン博士が何時間も と、ハレット叔母さんはやさしくうながした。 かけて説明する以上にジョンタロウの冠毛猫について知っていた : テルジーま、つこ ・ : 博士よりもずっと多くの知識を得ていたのだ。 ええ : : : どうそっづけてください、博士」 彼女はとつ。せん、博士が話すのをやめていることに、質問してい ドルーン博士は両手の指をつきあわせた。 クレスト・キャット 「さて : : : あなたのペットは : ・ : ・若い冠毛猫でしてね。もうほることに気づいた。かれはちょっと不安そうにくりかえした。 「ミス・アン・ハードン ? 」 とんど成獣に近くなっていますし : : : 」 テルジーは低い声で答えた 0 テルジーはさけんだ。 「そうよ : : : あなたの血を飲んであげるわ ! 」 「もちろん、そうだわ ! 」 2 3

7. SFマガジン 1974年12月号

をのばした。並んだ本と壁のあいだのすきまから、彼は長方形の物ののつもりでしよう」 体をとりだした。目をひらいて、彼は一組のトランプを見つめた。 一同が息をのむあいだに、フランクは早ロで先をつづけた。「第 彼の安堵のため息は、ウエルク博士の鋭いあえぎと混じりあっ 一一のカードは、プルネットと小馬が描いてあって、スペードの四で す。つぎは赤毛と水夫で、ダイヤの七。そのつぎは、三人の娘が黒 「だが、わしはあんなところへは置かなかった ! 」博士はさけん い・フラジャーをしているクラ・フの九ーー」 だ。「これはなにかのまちがいだーーー」 もうこのときにはセーヌ教授がテープルのそばにきて、急いでカ 「まちがい ? 」セ 1 ヌ博士はニコニコしながら、まだ封の切ってな ートのにつづい 1 ドを開いていた。フランクは正しかった。ハ いトライフをフランクの手からうけとった。「あなたはこのカードて、彼のいうとおりのカードがつぎつぎに出た。 を隠した、そうではないですか ? そして、被実験者はこのカード 「こりや驚いた。ポル / ・カードだ ! 」テープルをどやどやととり を見つけた、そうではないですか ? 実験を進行しましよう」 まいた記者のひとりがさけんだ。「それも強烈なしろものだぜ ! 教授は手ぎわよくフランクに目隠しをほどこし、彼を部屋の一隅おい、このダイヤのクイーンを見ろよ。どうしてジャックがここへ に立たせた。それから、勢いよくテープルに近づいて、さっきのト からんでくるんだい ? わえ、ドック、あんたも隅におけませんな ランプの封を開き、よく切ってから、いちばん近くにいた委員にさあーーー」 しだした。ひそひそと耳打ちされた指示にしたがって、委員はその 「わしはそんなものを隅にも真中にもおいたことはない」ウエルク カードをもう一度切りなおした。第二の委員が、最初の一枚を裏向博士はぶつぶっといった。「つまり、これは絶対にわしの隠したト きのままでテープルの上にのせた。 ランプじゃないんだ。実は、キュ ハへ実地調査に行っていた教え 子のひとりが、人類学の研究資料としてこの種のものを若干持ち帰 フランクはじっと立ったままだ。 ってきて、わしのところへ預けていきよったがーーー」 「なにを感じますか ? 」セーヌ教授が呼びかけた。 「そうでしよう、そうでしよう。わかりますよ、ドック」記者は残 フランクは大きくつばをのみこみ、こぶしを握りしめた。 りのカードもめくってみようとしたが、ウエルク博士が横あいから ・ビアン、なんですか、見えるのは ? 」教授がうながした。 フランクは身ぶるいした。「それを言わなくちゃいけませんか ? 」すばやくそれをとりあげ、そしていった。 「実験のつぎの段階に進んではどうかね ? これは十分な証拠と見 「しかしもちろんだよ、そうしなくちゃいけないー どうかカード なしてもいい」 を描写してくれたまえ ! 」 「しようがないな。じゃ、ぼくはただ要求にしたがっただけです「承知しました」セーヌ教授はおちつきはらって一 . 礼した。「それ よ。そのカードには、仰向けに寝そべった裸のプロンドが、両足ででは、こんどは手紙の問題です」教授はフランクの目隠しをはずし ながら、声をひそめてたずねた。「なにが脱線したのかね ? 」 ートを上にけとばしている絵がかいてあります。たぶん、ハート

8. SFマガジン 1974年12月号

は、できるだけ早く、君をここからつれ出し、君と同族の人たちのた。彼女は上品な女なのだ。ただ傷つき、途方に暮れていたのだ。 一人の男が充分に時間をかけたなら、彼女の裡の善なるものをひき 9 仲間入りをさせることだ」 「有難う、トッド」と彼女は息をはすませて言う。「親切にして頂出すことができる。彼女を理解し、面倒を見、そして、彼女に対し て忍耐をもってあたる男ならそれができるはずだ。 いて」と思わず彼を抱きすくめる。 「ところで , ・ーー」と彼は、言いたいことをどのように持ちかけよう「ヴァイ、ーー・私は他の男たちのために多くの女たちを見つけてき その点は君に た。そして、その女たちの多くに好意を感じた。 かと考え考え言った。「ヴァイ、私は実は結婚周旋屋なんだ」 つまりその女た ごまかそうとは思わない だが私は決して : 「結婚周旋屋 ? 」 「そう だが、正式には私はシカゴでは私立探偵として登録されちはみんな思慮分別に富んでいたから、仲間の他の男たちのほうに ている。誰も私の姿を見はしない。依頼人はただ電話で・・エずっとふさわしかったのさ。まあ、似合いの夫婦ということで、私 ージェンシイを呼び出して用件を言う。私は依頼人の知りたいことは、それはよくわきまえていた」彼は言葉を切り、自分の言ってし の報告書を郵送する。それで私は暮しを立てているわけなんだ。だまったことを心の中で反芻してから顔を赤くした。「だからって」 が私が属している同族たちのために私がしている本当の仕事は、国とあわてて「君はそうではないと言うのじゃないよ。とんでもない 内をあちこちと廻り歩いて、もっと同族がいないかと探すことなんことだ。君は私よりずっと利ロだ。それはわかってる。私はつまら だ。で、そういった一人が見つかった時、その人と、私たちの仲間ん男だ。だが要するに私の言っていることは、私が女をシカゴにつ のうちで夫なり妻なりを持っていない者との縁をとりもつよう骨をれ帰る時には、その夫になるべき男を、いつでも初めから心に決め ていたのさ。ところがーー」彼は彼女の手をとった。「今度は違 折るというわけ。これは、私が仲間の誰かの役に立っことをしたい う」自分のものとは思えない声だった。 と思って、考え出した仕事なんだ」 私はつまらん男だ。物持ちでもない。職業柄家をあけ そこまで言うのは割合楽だった。ここで彼はまたそろ言葉をとぎ「ヴァイ ることが多い。同族の者たちは君にことのほか厳しいだろう。だが らした。 彼はヴァイにそなわった何かしらの異常なものが何であるのかを 見抜くほどに鋭くない自分が歯がゆかった。この女には何らかの異「まあ、トッド」と彼女は頗を染めた。「私は世界一果報な女で 常、ーーースタナードのような人間だったら、それが何であるかを、す」 これが現実と彼は信じられなかった。彼女の手をとり、顔を見つ ものの一分ぐらいで読みとってしまうだろうような異常があること は彼にもわかっていた。しかし彼はそれが重大なことではないことめ、立ちつくしていた。しばらくの間は、事態をはっきりと納得す も信じていた。内面的には彼女は悪い女ではない。不道徳でもなることができなかった。やがてほのぼのとした暖かみが全身をひた 。彼女がああしたことをやってのけたのは卑しいからではなかっすのを彼は感じた。そして彼は彼女と同じくらい嬉しそうに微笑ん

9. SFマガジン 1974年12月号

「あれで、彼はなかなか有能な男なんだよ。現に、君を毀さないよ 横手から、私に声がかカった うに捕えて、気がっきしだい私たちの所へ連れてくる、という役目 7 「二つとも腎臓だよ」 、リトンだった。 を立派に果たしたしゃないか : : : あの顔つきで誤解される。彼にし 柔らかい / てみれば、営業用と、私用の二つの顔がほしいとこだろうがね」 私は声がした方に顔を向けた。 息を呑んだのは、そこに巨大なスクリーンがあったからだ。その声音から際するに、部屋に入った私に声をかけたのは、どうやら 下には、制御卓がしぶい銀色を放っている。隅にあるのは、テレタこの老人らしかった。 イプライターと呼ばれる装置だろうか。始めての部屋に入ると、反長身の、鶴のように痩せた体に、ダークスーツをきちんと着こな 射的に頭のなかで自分の部屋と較べてしまう性癖を持っ私も、今度している。オリープ色のネクタイが、彼の陽に灼けた褐色の肌に、 ばかりは調子がでないようだった。これでは比較しようにも、その実によくマッチしていた。ウェー・フがかった見事な銀髪さえなけれ 規準が見つからない。もう七年越し使っている冷蔵庫を、そろそろ新ば、三十代と言っても通りそうだった。すさまじいほどの知力をう かがわせる眸と、高い鼻、強靱な意志力を示して一文字にむすばれ しいのと取り換える必要があるな、とフッと考えた程度だった : もちろん、私に声をかけたのは、スクリーンでもなければ、テレている唇ーーー私の眼の前にいるのは、正しく男の理想像だった。 タイプでもない。それらの装置の前に、クラシックスタイルのソフ彼に較べれば、その両側に坐っている二人の老人は影のような存 アとテー・フルが配置されていて、三人の老人が腰をおろし、私を見在だった。私から向かって右側の老人は、禿げて太っていて、左側 の老人は、眼鏡をかけて口髭をはやしている。どちらも、大学教授 つめているのだった。 タイプ によくある型だ 首をねじ曲げて、私は部屋の反対側に眼をやった。 反対側の壁にも巨大なパネルがかけられていて、世界地図が映し頬を彼等に見せて、 だされていた。私が顔を老人たちに戻した時、・溜息のような音をた「これでも、毀さないように捕えた、と言えるのかね ? 」 私は皮肉な口調で言った。 てて自動ドアが閉まった。 「三日もすれば、腫れはひく : ・ : ・もっとも、我々との話し合いがお 骸骨の姿が消えていた。 互いの納得がいくような結果にならなければ、それも保証できない 自動ドアに顎をしやくって、 「どうして、あんなサディストを使っているんだ ? 」 私は訊いた。返答しだいではこのままでは済まさん、というよう「脅迫するのか」 な気持ちだった。拳銃をつきつけられてさえいなかったら、これで「弱みがある人間なら、他人を脅迫する必要もあるだろう・ : こわも が、我々にはなんの弱みもない。ただ事実を言ってるだけだ」 私はけっこう強持てがする男なのだ。 まん中に坐っている老人が応えた。 コンソール

10. SFマガジン 1974年12月号

た : : : それで、何の面倒もおこすこともなく、すべてはかれらの求 かれらがいま、下の公園に坐っていると考えたらどうなります ? かれらは山腹を登りおりするときと同じほど容易に、タワーの側面めるとおりに解決するのです。かれらのうちの何頭かはわたしを信 4 を登ってごられます。そしてかれらが、問題を解決するただひとつじました。かれらは、わたしがあなたとお話しできるようになるま の方法は、ポート・ = ケイにいる人類を一掃してしまうことだと決で待とうと決めました。そのとおりになれば結構ですが : : : もしだ 「かれら めなら」 一瞬、彼女は声がふるえるのを感じた 定したとすれば ? 」 をいっせいに行動をおこすことになるでしよう ! 」 調整官は数秒のあいだ、黙って彼女を見つめた。 ・ ~ : 、・—O 調整官は別に驚いている様子を見せなかった。 「あなたは、かれらが理性的な生物だといわれるのですか 「それで、わたしは何をするべきだとおっしやるのです ? 」 レベルで限界線以上にあると ? 」 「わたしはかれらに、あなたはオラドにある連邦評議会と連絡を取 テルジーは答えた 0 「法律的な点で、かれらは理性的です。わたしはそれについて調べられるだろうと話しました」 かれはのんびりといっこ。 てみました。われわれと同じぐらいに理性的だと思います」 「では教えてぐださいますかな、、どうや、ってあなたが、そういうこ「評議会と連絡を ? あなたのお話のほか、なんの証拠もなしにで すか、ミス・アン・ハ 1 ドン ? 」 とをお知りになったのかを ? 」 テルジーはまわりですぐに怒りのざわめきがおこるのを感じ、自 テルジーはぶつきらぼうにいった。 分の顔が青ざめるのを感じた。 「かれらがわたしに話してくれました」 彼女はいった 0 かれはまた黙りこんで、彼女の顔を見つめた。 「あなたはさきほどこういわれましたね。、・、ス・アゾ・ ( ードン、か「よろしい、証拠をお見せしましよう ! そうしなければいけない れらは他の人類と意志をかわすことができなかったとそれが意味ようですか、これで最後です。かれらが秘密を明らかにしてしまっ たら、あなたは正しい行動をおこされるまでに三十秒だけ与えられ するとごろはつまり ( 、あなたは異生物間精神感応能力者という・ : ることになります。そのことをおぼえておいてください ! 」 かれは咳ばらいした。 テルジーはその言葉をこれまで聞いたことがなかった。 「わたしが ? もしわたしに猫の考えていることがわかり、わたし「わたしは三三」 の考えていることを猫のほうもわかるという意味でしたら、わたし「さあ ! 」 - と、・テルジーはいっこ はそうだと思います」彼女はかれを眺め、もうそろそろだと考え、 ・ハルコニー庭園の壁にそっ、て、斐飾用花立てのそにで、岩のプー 急いであとをつづけた。「わたしは法律を調べ、かれらに連邦と条 クレス + ・キ、ヤット の端に、冠毛猫が現われた。三十頭ぐらいだったろう。調整 約を結び、連邦に加盟している種族になればどうだろうといいましル