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検索対象: SFマガジン 1974年2月号
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1. SFマガジン 1974年2月号

る。 重に配慮し、制限を加えて来たが : : : それが両者に必要と信じて来 たが : : : もはや、それも終ろうとしているのではあるまいか ? 両 方が相戦おうと、今度のように通じ合おうと : : : もう、司政官の関 セイは、しばらく無言だった。 かたちとしては、あり得ないことではなかった。どこの部族国家与すべきでない、そんな段階にさしかかっているというのか ? かは知らないが、密貿易をおこなっているガンガゼアなら、無線機違う セイは、目を見開いた。 ぐらいは使用しているだろう。その無線機で植民者たちの連絡を聞 まだ、そうではない。 きつけ、救援の船を出すということがあっても、不思議ではない。 けれども、セイは、実際にそんな事態がおこるとは、想像もして客観的に見て、まだ、そこ迄は来ていないのだ。自分はそう信し いなかった。植民者たちとガンガゼアの一部の間に、そういう関係る。そして、自分は司政官なのだ。 が成立していたとしても、白昼堂々と、密貿易をやっていることを今はまだ、断じて、こんな形での植民者とガンガゼアの結び付き 白状するような、そんな行為を、ガンガゼアたちがやるとは考えもを許すわけには行かない。 しなかったのだ。それも、禁を犯してロポット官僚に攻撃されたの手遅れにならないうちに そう。手遅れにならないうちに、そのガンガゼアを止めるのだ。 があきらかな船団を救いに出るなど : : : 胸奥に苦いものがこみあげ ガンガゼアを説得し、できなければカづくででも : : : 手を引かせね て来るのを、どうすることもできなかったのだ。 ばならない。たとえ植民者、ガンガゼアの双方に疎まれることにな 自分ーー司政官は、もう、それ程までに信頼されていないのか 2 植民者にとってもガンガゼアにとっても、それだけのものになってろうと、けじめはつけなければならないのだ。 とにかくまず、・ハベル大陸東岸のあたりにいるロポット官僚を動 しまっているのか ? ガンガゼアは、そこ迄来ているというのか ? ミシェルの言葉と、クワストの〈ド〉の言葉が、員して、ガンガゼアたちの船をとどめさせ、時間をかせいでいるう セイの脳裏に、 ちに、セイ自身がそこへおもむき、ガンガゼアたちを説得するほか 重なり合ってよみがえって来た。 双面神としての司政官に、どちらもが満足しなくなったら : 断をくだすと、セイは、たちまち指示を出し、行動に移った。 : どうするのだ ? あなたとあなたの部族は、つねに、いずれにも偏しない立場 司政官機の窓の下には、灼けた砂の起伏が流れていた。午前の陽 をとっておられる。それが可能かどうかということは別にして : を受けて黄色く横たわる起伏である。団結島南部にある、比較的小 いっても、この沙漠は・ハベル大陸にあるも 7 規模な沙漠なのだ。と、 そうなのだ。 植民者たちとガンガゼアとの触れ合いについて、歴代司政官は慎のとは違って、司政官庁を持っ島にあるだけに、文明の手が及んで

2. SFマガジン 1974年2月号

たは現役の司政官だから、それを口に出して認めるわけには行かな「それでいいのだ。司政官とはそういうものだし、司政制度はそれ いだろうが、事実は事実なんだ。そのため、いくつもの植民世界にで支えられて来たんだからな」 無理が生じている。端的にいえば、連邦傘下の植民世界に君臨する「まあ待て。私のいいたいのは、そうした、ほとんど意味がないよ 光栄ある司政官の、その何パーセントかは、おかげで、司政技術でうに見えるささやかな体験の積み重ねが、どういうものを生み出す かということだ。それらの、らちもない毎日の生活は、実は、植民 は統治不可能になった世界を統治させられているというしだいだ。 者としての毎日なので : : : それが、かれを、植民者の中に、明確な そう私は思う。そして、ここもまた、そのひとつなのさ」 「ミシェル、あなたは私が失敗しても止むを得ないと : : : そう私に立場を作り、仲間であるという無言の承認をとりつけることにな 信じ込ませたいのか ? 」 る。それがどう働くかを考えてみたことがあるか ? 」 「それはその特定の植民世界での話に過ぎない , 「いやいや、どうしてどうして。あなたは最後の最後まで頑張りつ づけるだろうよ。それでなければ、司政官はっとまりやしないから「それだよ。そこなんだよ」 ね」 、、シェルは、ひとり頷いた。「司政官なら誰でも知っている通 ミシェルは、肩を落とした。その顏はわずかに享けていた光からり、司政の原則は、植民者に対してであれ原住民に対してであれ、 も外れて、シルエットになった。「とにかく、このガンガゼンのわっかず離れずだ。決してどちらにも同化してはならない。つねに冷 れわれ植民者の世界は、もはや司政機構だけでは手に負えなくなっ静な視点を保持していなければならない。だがね、それゆえにこ そ、植民者たちが発展し、植民世界としての一体感を持ちはじめた ている。それ以外にも必要なものが出て来ているんだ」 瞬間、かれは疎外されてしまう。植民者と司政官の、お互い人間ど 「それは何だ ? 」 うしという、細いしかもうまく偽装された糸は切れてしまうんだ。 「立場さ」 そうなったとき、植民者たちを形としてでなく、内的衝動によって 「立場 ? 」 動かすのは、植民者ーー仲間でなければならない」 「そう。明確な立場と、無言の承認」 「少し、理論を単純化しすぎてやしないか ? 」 「それは認める。だが、あなたがたの統治というものには限界があ 「ここで司政技術というものを論じるつもりはないが」 、、シェルは、また灯の中に顔を入れた。「司政官というのは優秀る、そう私が信じていることだけは分って貰えるだろう。このガン だ。だが、その優秀さとは、知識と技術に支えられた優秀さではなガゼンのような世界は、もはや、外来者の理論と技術だけでは治め いだろうか ? かれには、統治される側の実感も、その植民世界で切れない。それ以上に複雑で厄介な、具体的であいまいな方法をも 生きて行く何十年ものうちに経験する人間どうしの触れ合いとか日駆使するーーー政治が必要なんだよ」 「なるほど」 常生活の感覚もない。そうじゃないか ? 」 8 7

3. SFマガジン 1974年2月号

少しずつウイスキーをグラスに注ぎ、ゆっくりとすすった。つけ放嘴に似たロがあり、白い息を吐いていた。頭部は野牛に似ていた。 したままのテレビが、最後のニュースを始めたが、やはり、それら長大な二本の角が、槍の穂先のように前方に突き出していた。そし しい報道は何ひとつない。 て、頭と胴との間にある、めくれあがった兜状のひだは、知ってい やはり何かの見まちがいカ る限りのどの動物にも似ていなかった。 疲労しきった筋肉のすみずみまでアルコールがしみとおり、ぐっ背後でドアのひらく物音がした。 たりと鞣して行くように感じながら、父親は・ほんやり・フラウン管を振り返ると、息子が立っていた。パジャマの上からズボンをは き、セ 1 ターに片腕を通しながら、息子は真剣な目で父親を見てい 眺めていた。 いっか、まどろんでいた。 誰かが鼻を鳴らしている。やがて、それは、さらに荒々しく、ま「いるの ? 」 息子が言った。 るでふいごか何かのように激しさを増す。冗談じゃないぜ。いくら なんでも、あの歌手はこんな鼻の鳴らし方をしやしない。びどい夢「ああ」 父親は顎をしやくるようにして、戸外を示した。 を見ているものだな。半睡半眠のまま、そんなことを考えていた。 巨大な動物は、角の先端で、生垣を二、三回、引っかくようにし 低い、しかし巨大な洞穴の中のそれのような、野太いうなり声が てから、ゆっくりと横を向くところだった。暗褐色にみえる背、そ 加わる。いや、歌手の声なんかじゃない。これは何だ。 して尻、その尻の頂点から垂れている太い大とかげに似た尾、それ ふいに目をひらいた。 らが、ゆっくりと視界をよぎる。ぶ厚い皮膚の下の筋肉のうごめ うなり声。 き。 ふいごのような物音。 「牛でも犀でもないよ」 それらは続いている。 息子が喉にからんだような声で言った。 ・フラウン管を見た。すでに放映は終ってい、チカチカする砂嵐の 「ああ。どうやら恐竜だ。そうとしか思えない」 ような光、雑音が流れている。スイッチを切った。 「あの恐竜なら、・ほくの本で見たことある。有名な恐竜なんだ。ア 物音は戸外だった。 ロサウルスでもないし、ステイラコサウルスでもないし : : : 」 カーテンの隙間から戸外を見た。 「アロサウルスというのは確か肉食だったな ? テイラノサウルス 猫の額ほどの庭に、まばらな雑木の植木があり、その向うの生垣 なんかとおんなじで、すごい歯をもっている。いまのやつは嘴はす の上に、巨大な黒い影、そして鋭く光る目があった。 ごく尖っていたが、歯はなかったみたいだ」 たしかに犀にも似ていた。 だが、鼻の先の角は、さらに鋭角的だったし、その下には猛禽の「嘴みたいな口だったの ? 」

4. SFマガジン 1974年2月号

しゅこう その頃、源内は、江戸を離れて、秋田藩に出向していた。行かせことは想像できよう。桃山時代の頃だが、絵師たちはそれらより、 いわゆる陰影法というテクニックを学びとっていたのである。が、 たのは意次である。彼の鉱山学の知識を利用して、銅山の検分役を 衆知の切支丹弾圧と鎖国政策により、この日本における第一期洋風 命じたのである。 「で、今日はまた何用じゃ、源内。ただ年始に参ったわけではある画は跡をたつ。 まい」 第二期は、徳川将軍吉宗の洋画解禁にはじまった。これは、その 「殿の御新邸新築祝いにとおもいまして、源内、軸を一本持参いた自然科学書の輸入によって促されたもので、遠近法に特色がある、 といわれる。面白いことにこの頃の絵師たちは、その技法を西洋画 しました」 「それは楽しみじゃな。そちの持参いたす物、いつも風変りときま家の指導によらず、独自に舶来科学書の挿絵を研究することによっ て、マスターしたのである。 っておるでな。どれ拝見いたそう」 「では、早速」 ためしに調べてみると流派は三つあった。江戸、長崎は当然あっ といって源内は、風呂敷包みを開く。軸の紐を解いて畳に広げてしかるべきだが、秋田派はちょっと解せなかった。洋学者平賀源 内が先のような事情で伝えたのであろう。作家は、ト ′田野直武、佐 竹曙山、佐竹義躬が伝え残されている。また、源内自身の真筆も、 「うん、なかなかに傑作じゃ」 現在池長美術館にある。 「お気に召されましたか、殿」 意次は、南蛮美人の妖艶な姿態に見入っていたが、しばらくし 「寝所に掛けて楽しむとしようそ。絵師は誰か」 て、感想らしきものを漏した。 「私めにございます」 「そちは、絵もやるのか。器用な男じゃのう」 「ちかごろ江戸市中では、歌麿とか申す者が専ら評判ときくが : 「はい、源内は万学に通じておりますゆえ」 きたがわうたまろ 「が、さても変わった絵じゃ。何というのか」 「それは喜多川歌麿でございましよう。まだ若輩だが大層な才人だ 「絵ではございません。銅版画と申す西洋式版画でござります」 そうで、大首絵の傑作をものにしておるとか」 あぶなえ 図柄はかなり危絵がかったもので、南蛮美人が放埓この上ない姿「うん、わしも殿中でな、一度みたことがある。美人版画であった ェクソーティシュ 態で横臥していた。 しかし源内、そちの方が異国情緒的でよいな」 意次は、頬をゆるめてひとりうなずいた。「ところセ、田沼様。 江戸時代、すでに洋風画の技法は日本人によって習得されていたちょっとばかり、お耳に入れておきたいことがあるのでございます ようである。 が」 天主教伝来にともなって、宗教画を主とする西洋画が輸入された「ほお、まだ用事があったのか。申してみい」 333

5. SFマガジン 1974年2月号

・ほくは、ドナウに注ぐイサール川流域のランツフート、イン川のもいっしか消えていった。 ミュールドルフ、ドナウ川のシュトラウビングと、村々を歩いて埋 幻視、幻聴が去ったあと、壁にはもとからはってあった・ハイエル 5 もれ忘れられかけていた伝説を掘りおこしてみた。すると聖霊騎士ン地方の大きな地図だけが残っていた。 団的伝説の全部に共通している事実は、 " 四年に一度、二月二十九何かがぼくの頭にびらめいた。 日に、幻の隊列が通ること。そこには少女がなんらかの形で登場し ″神のお告げ : : : 聖霊のお告げ : : : かれらは、何かをぼくに告げよ ている。その夜は常に霧につつまれており、隊列につれさられたと うとしていたのではないか : いま、かれらが進んでいった方向を 伝説にいわれている少女は、みな十九歳で金髪″ということだっ 地図にあてはめてみると、北東から南西にあたる : : : ″ ・ほくは、が消えていった方角が南西だったことを思いだした。 ぼくの恋人は輝くような金髪で、あのとき十九歳だった ! そ あの大通りは北東から南西に走っていた。ぼくは地図の上に線を引 してもし、まだ生きているなら二十三歳になっているはずだ。 いた。ノルマンズドルフから南西にむかっていた。 事件の夜から四年目を迎えるころになり、留学期間も終りに近づ ″ここに、何かがあるとは考えられないか : ・ : たとえ、夢を見たの いたが、依然として謎は解決できなかった。去るものは日々にうと であろうと : : : あの謎を解く鍵が : く、の面影はしだいに遠のいてゆき、ぼくはただ謎解きだけに興 南ドイツ各地に残る伝説を調べる人々は多いが、そのだれもが気 味をむけ、二月初めのその夜も、それまで集めていた・ハイエルン各 づかなかった点に異国人のぼくが気づいたのた。 地の伝説を整理していた。 それそれの村に残る〈さまよえる騎士団伝説〉の隊列、その進ん 何時ごろだったろう、夜はふけ、ほかの下宿人がみな寝静まって しまったころ、かすかに遠く角笛の音がひびいてきた。あ、角笛と 思ったとき、それにだぶって低い声が聞こえてきた。 「墓をくれ、墓を : : : 」 ・ほくはあたりを見まわし、ついでそーっとして耳をおさえた。幻 聴か ? なおもひびいてくる声に首をふった・ほくは、ふと目の前の 壁に気づいた。信じてほしい。壁の一部が青白く・ほんやりと輝きは じめたんだ。それは渦巻く霧のようにゆれ、やがてその中に〈さま よえる騎士団〉の小さな隊列が浮かびあがってきた。凍りついたよ うになって見つめる・ほくの前で、その隊列は壁の右上隅から左下へ と進んでゆき、やがてまた青白い霧がそのすべてをおおい、その霧 シュトラウビング ノルマンズドルフ ランツラート ミューレドルフ

6. SFマガジン 1974年2月号

去において幾多の過ちをおかしてきた。いわれのない同情心から、 「そんな残酷な : : : 」 一つの種族を滅亡の危機から救ったために、今度はその種族によっ 「生とは残酷なものだ。生には常に死がっきまとう。そういうもの なのだ。それを、おまえは手を出した。他の種族の運命には干渉して、本来なら平穏な生活をおくっている筈の種族が、激しい抗争の ないというのが、・われわれ種族の掟なのだ。甘っちょろいセンチメ渦に巻込まれ、減亡の危機に瀕したことを。我々はこうした過ちを ンタリズムから、おまえはあの種族の運命に手を加えた。大宇宙の二度とくりかえしてはならないのだ」 正義に反いた」 「あの種族が亡びるのが、宇宙の正義だというのか ! 」 「わかったかね。未来を予知する我々の能力は、ごく限られたもの 「そうだ。もし亡びるべきものなら亡びる。亡びてはならないものでしかない。しかし、いや、たからこそ、一時の同情心から、宇宙 なら生きのびる。ただそれだけのことだ」 のバランスを崩してはならないのだ。我々が手を下さすとも、生残 るべきものはけっして亡びはしない。亡びるのは、亡びるべきもの 「あの種族は亡びてはならなかった。だから私が手を貸した」 「それは我々のなすべきことではない。あらゆる種族を自然のままだけだ。我々は他の種族の運命を左右する力を持っている。だが、 に放置する。それが我々の掟だ。我々にできることは、じっと見守その力を使うに相応しいだけの能力をそなえているだろうか。そこ をよく反省したまえ」 ることだけなのだ」 「はい 「それではあの種族は亡びてしまう。宇宙の正義は、我々の掟は、 彼にもようやく得心がいった。自分の行為が、大宇宙にどんな結 そんなにも残酷なものなのかー 「君には自分のしたことが、まだわかっていないらしい。第一、あ果をもたらすかを、まったく考えなしに行なった愚かしい行為を、 のまま放置したら、あの種族は確実に亡んでしまっただろうか。あ彼は今、ようやく納得した。 ' 「わかったかね。それでは掟により、判決を下す。君は、罪のつぐ の種族が、自分たちのカで、生残る可能性は、絶対になかったと言 ないとして、身柄を拘束される。あの星の : : : 」 いきれるだろうか」 そこで長老が動いた。彼と、彼を取巻く仲間たちもそれに従っ 「それは三・ : 」 「それから、これは最も大切なことだ。あの種族の減亡が確実なもた。彼等が動くと、長老が指さした星が近寄 0 てきた。 のであったとしても、あの種族が亡びてはならないと、誰に決める「あの星には、惑星がある。惑星の一つには知的生命の芽生えがみ 権利がある ? 君にか ? 大宇宙の摂理を左右する権利が、君のどられる。君は、あの惑星の知的生命の一つの個体に入れられる」 恐怖が彼の心を走った。原始的知的生命の一つとなって、ちつば こにあるというのだ」 「それは、しかし : : : 」 けな星を取巻くちつぼけな惑星の表面に、ずっとへばりついて生き以 「しかし何だね。君も知っている筈だ。我々とて全能ではない。過なければならないのだ。大宇宙を縦横に飛びまわり、空間を征服し

7. SFマガジン 1974年2月号

ジョナサンはにやり笑ってウインクした。窓から外を見ると、宇 「そんなに重要な仕事なのか ? 」 「わからん。話によると、火星じや今、人手と資材の不足が深刻だ宙服を着た男たちが、コンテナをスペ 1 ス・シャトルから火星ロケ 2 ットに移しかえているところだった。コンテナには番号がうってあ そうだ。もっとも、俺はただこいつらを火星まで運んで、かわりの り、その中の一つには、″気密″と大きな字が書かれていた。間違 コンテナを持ち帰ればそれでいいんだ。それ以外のことは知りたく って穴をあけ、中にいる一五人の貴重な労働力を冷い肉塊にしない もない」 「おまえはいつもそうだな。政治だの経済だのより、星を見ながらための用心であった。ロープが波うって宙に伸び、スペース・ガン の炎がコンテナを動かすさまを、ジョナサンはじっと見ていた。 ロケットの中で居眠りしているほうがいいんだろう」 しばらくして、ジョナサンは窓から顔をあげて言った。 「ああ。地面にへばりついている連中が、こせこせと動きまわって いることなんか、まったく興味ないね。ところで、酒がいるだろ「あとどの位で積みかえが終る ? 」 「そうだな、一時間あれば充分じゃよ オいかな。しかし、なぜだ ? 」 う。少し置いていくぜ」 「いや、欲しいがいい。火星の連中にやってくれ。あそこじゃ、ま「できるだけ早く出発したいからさ。遅れれば遅れるほど、火星は 遠くなるんだ」 ともなスコッチなんそ飲めないだろうから」 「うん」 「いいから取っておけ。連中のぶんは別にある」 「最終的には、一時間の遅れが一日の遅れになるんだ」 ジョナサンは軽く手を突張り、宙に浮いた袋のところに流れてい った。しばらく中をごそごそやっていたが、やがてビンを二本とり「急がせようか ? 」 出し、ターポーリンのほうに押しやった。ビンはゆっくりと回りな 一時間で終ってくれれば、十分間の余裕がある。急 がら宙を漂い、ターポーリンはそれをしつかりと両の手で受止めがせても気の毒だ。ただ、一時間十分以上かかると、ステーション がもう一回りするのを待たなくてはならないから、それできいたん 「ありがとう。実はもう二週間も酒をきらしていたんだ」 ジョナサンは時計を見て言った。 彼はミネラル・ウォーターのビンにはいったスコッチを、いとお しそうに撫でまわした。宇宙ステーションへの酒類の持込みは厳し「火星ロケットの整備のほうは大丈夫だろうな」 く禁止されていた。しかし、ジョナサンはその網の目をかいくぐっ 「それは心配ない。 この間作業船がきて、燃料と食糧を積込んでい て、いつも何本かの酒を持込んでいた。空になったビンの始末を考ったよ。機械部品の交換も済んだし、スペアもはいっている。俺が えて、ミネラル・ウォーターのビンに詰めかえるのも、彼の考えだ出会ったから確かだ」 したことであった。 「それで安心した。ありがとう」 「酒なくて、なんの人生あるものか、さ」 ジョナサンは再び窓に顔をおしつけた。ターポーリンは彼が作業

8. SFマガジン 1974年2月号

隣りの主人は、リアシートに坐りこんだ。車といえば、リアシー しかし、・ほくの車は、ちゃんと停止した。ス。ヒンもおこさなかっ トにしか、乗ったことがないらしい たし、フロント・ガラスに首を突っこむこともなかった。考えてみ ガレージへ戻るのをあきらめ、もう一度、造成地のなかに、車をれば、それが当然なのだ。たった三十キロの時速なのだから、どん のりだす。あいかわらず、ものすごいスビード感で、ステアリングな急プレーキを踏んでも、スリップしたり、運転者が前へとびだし をさばききれない。 たりするはずがない。車の設計上からみても、力学的にみても、そ そのとき、・ほくは、・ハックミラーで、後席の客の表情から、あるんなことが起こるはずがない。 変化を読みとっていた。 ・ほくの体は、シートから浮きだしてはいなかった。実際には、な 隣りの主人は、アームレストをしつかりと握りしめ、まっ青な顔んの危険もなかったのだ。・ でふるえていた。外の景色の変化から目をそむけるようにして、も後席の不幸な同乗者は、背もたれを握りしめた手の上に頭をのせ う一方の手で、前席の背もたれを、つかんでいた。 背を大きく上下させている。ときおり、ひきつったような唸り声 ・ほくは、ギアをサ ードに入れた。スビードメーターは、三十キロをあげ、はげしくしやくりあげている。あまりのス。ヒードにショッ にはねあがった。 クをうけ、とうとう吐いてしまったのだ。 恐かった。ただむしように恐かった。両手がハンドルにこわばり まもなく、隣りの主人は、顔をあげた。ロ唇の端から、汚物とよ つき、体じゅうに震えがきた。 だれが顎のほうに垂れているのを、べつだんぬぐおうともせず、 「そ、そんなに、スビ 1 ドをださないで ! 」 難にみちた目で、・ほくをにらみつけた。かれが顔をおこしたとたん ドライハ 後席から、悲鳴にちかい声が、きこえてきた。隣りの主人は、わに、吐瀉物の臭いが、 ・シートまで漂ってきたので、・ほ なわなとロ唇をふるわせていたが、とうとう、恥も外分もあらばこくまで胸がむかついてきた。 そ、し・ほりあげたような声をあげた。 「あんたは、・ とうかしておりますそ。あんな無謀きわまりないスビ 「助けてくれー 止めてくれー ドを出すなんて」 ぼくは、アクセルをはなし、・フレーキを踏んだ。そのときの制動悪い人ではないが、きわめて自己主張のつよい人だから、さっそ 感覚も、異常そのものだった。時速三十キロからプレーキを踏んだ く、・ほくの非を糾弾しようとしはじめた。 ところで、ふつうなら、ほんんどショックを感じないはずだ。とこ「実は、わけがあるんです。なにか変なんです。ほんとうは、時速 ろが、実際は、時速百キロで急ブレーキを踏んだような気分で、体三十キロくらいしか、出ていないんです」 が前方へもっていかれ、いまにも頭からフロントガラスに突っこ 「メーターが狂ってるにちがいない」 み、タイヤがスキッドして横転するーーそんな感じさえするのだっ 「ちがいます。メーターは、正確です」

9. SFマガジン 1974年2月号

定に従って、ここへ来ている。 これはどういうつもりですか 二時間か。 だが、止むを得ない。 それに、コトルへ公然と入ることが出来れば、クワストのガンガ 〈ド〉が叫んだのも、もっともで、話の成りゆきを見守っていたロ ポット官僚ーー *-äや»-Ä 4 、それに司政官機自身ゼアたちのいっていたとおり、コトルの連中が、密貿易による武器 が、いつの間にか、・ カンガゼアたちを取り囲むようにして、いつでで戦備をととのえているかどうか、探り出せる可能性もある。 行くべきなのだ。 も戦闘ができる態勢を取っていたのである。 「いや、これは失礼」 セイが決心を固めた折も折ーーが連絡して来た。 セイは、静かにいった。「お気にさわったら申しわけないが : 「ホーク島南湾を出て航行していた十隻の船は、団結島にむかって とにかく私としては、ひそかなる貿易の懸念がある以上、あなたが来ていることが判明しました」 たに、沖へ出ることを禁止する義務があります。それが司政官の役と、は報告した。「航行目的をたずねにおもむいた 目です。ーーー、あなたはあまりそんなことを考えておられぬようだがとその部下は、盲目的な攻撃を受けて、そのまま引返して来まし ・ : そうなのですよ」 た。私は、かれらが団結島に上陸して司政官庁を攻撃するかも知れ 「よろしい。引揚げましよう」 ないとの想定のもとに、次の措置をとりました。すなわち、義勇軍 ややあって、〈ド〉は、目を光らせながらいった。その心中に何を自称する植民者たちには自由に行動させ、もしも戦闘となって潰 が湧きおこっているのか、セイにはむろん分る由もなかった。「だ走して来た場合、司政官庁に収容して安全を保障してやる一方、司 が、このままでは、私が〈ド〉の責務を果さなかったと見做される政官庁周囲の非常外壁をせり出し、完全迎撃の体制に入ることにし し、また、同じことが何度も繰り返されるでしよう。私は、あなたました。何か変更のご指示がありますか ? 」 がわがコトルに来て、〈ド〉会議で説明することを要請する。さも「それで結構。ところで、四十隻だったほうはどうする ? 」 なければ : : : われわれは、ここで最後のひとり迄戦って、全員死ん「そちらは依然漂流中です。今のところはまだ抵抗の構えを保って でゆくだけだ」 おりますが、救命筏によって、溺死者がこれ以上増えることは考え られませんので、あと十二時間待ち、かれらの意気沮喪の状態のと セイは、 (.nON<< をかえりみた。こうなっては、コトルに行くほきに収容したいと思います」 力をないカ : : : ガンガゼアたちと同行するときは、徒歩がさだめで「よろしい。からの連絡を受けているだろうが、こちらは ある。所要時間を考えなければならなかった。 あと二時間か三時間は帰途につくわけには行かない。しつかり頼む は、と»-a CRCQ 4 4 、それに他のデータも導そー 「承知いたしました」 入して、コトルまで徒歩で二時間と算出した。 9

10. SFマガジン 1974年2月号

らの感じで映っていた。見たところ、もうその大半は推進機関をやザー光 ( その程度のレーザーに対しては、たいていのロポット官僚 られ、漂っているらしい。まだ航行しようとしている船には、下部が防護被膜を持っているのだが ) をやけくそのように空に放ちつづ が青光りする黒い翼をひろげた系ロポットたちが、滑空してける。一体、また一体と系ロポットが墜落するたびに、海は 来て攻撃を加え、翼を畳むと重力場推進によって直上昇し、再び目盛りあがり爆発し、何隻かの船が沈むというのに、決してやめよう 標をみつけては降下して来る。植民者側の感覚では、無数の悪魔がとしないのだ。おのれも死ぬかも知れないのに、憑かれたように抵 抗しているのだった。 襲いかかって来るように思えるだろう、そんな光景だった。 それは、恐怖による無我夢中の抵抗であった。襲いかかって来る それは、スクリーンというものを通じて眺めるものだけに、どこ か非現実的な印象がある。 ( また、それゆえに、冷静に事態を見て怪物を、とにかく追い払おう、たとえそれが海中に落ちて爆発し、 取るという利点もあるのだが : : : ) セイはそんな考えが脳裏をかすこっちが吹っ飛ぶことになっても、空に浮かんでいるよりましだと いうーー・その心理のなせるわざであった。この航行を計画した者 めるのをおぼえながら、眸をこらした。 が、セイがそういう意識を吹き払ったのとほ・ほ同時に、系が、ここ迄計算していたとすれば : : : おそるべき巧妙なやりかたで ロポットのひとつが、コントロールを失って、海面へ墜落して行っあった。 セイが凝然としているうちにも、»-ÄOLO 系ロ・ホットは墜落し、植 たのである。 民者の船も沈没してゆく。 磁気攪乱装置だった。 もう、植民者の何人ぐらいが生命を落としただろうーーーそのこと 植民者たちは、磁気攪乱装置を使いだしたのだ ! を思って、セイはひやりとした。これだって、植民者にしてみれば 「馬鹿な ! 何ということをするんだ ! 」 セイはロ走った。もうそのときには彼の危惧のとおり、海中に落 " 殺された。ことになるのである。 ちた系ロポットの重力場推進機のため、巨大な水しぶきがあ「系ロポットを・ーー・」 がり、続いて、目を射るような爆発光があった。附近にいた植民者とりあえす引き揚げさせろ、と、セイがいいかけたときには、す の船のいくつかが、叩きつけられたようにねじ曲がり、沈みはじめでにからの指令が出ていたのであろう。空に浮かんでいたロ ポットたちは、現場から離脱し、植民者たちの攻撃の届かぬあたり で、集結しにかかっていた。 「まるきり : : : 自殺行為じゃないか ! 」 セイは唸った。 セイは、おのれの目を疑った。 けれども、植民者たちは、やめようとはしなかった。漂う船々 5 まだ推進機関をやられていない幾隻かの船が、そちらへ猛然と進 の、それそれの甲板に据えつけられた磁気攪乱装置は、次々と 6 みだしたのだ。系ロポットたちがさらに遠くへしりぞくと、 系ロポットに向けられ、磁気攪乱装置を持たぬ小型船舶は、レー