鶏感じて。ねえ先生。感じて。ほら。よくなってきたでし生物学者。フログラマーがいないから、わたし、一萬二千の卵の Z 、勝手にプログラムしたある。オペレーターがしないか ら、わたし勝手にこのコンビューター使うある。このプログ 生物学者いかんある。大変ある。陳さん鎌首持ちあげてきたあ ラム食わせるよろし。食ったある。 る。このままではお前とどうにかなってしまうある。わた し、コケコッコと関係したくないのことよ。そこ、どくよろコンピューターばりばりばりばり。 し。やめるよろし。わたし興奮してきた。ほひー。ほひー 生物学者様子がおかしいあるそ。コンビューター順え出したあ る。どうしたのことあるか。 鶏ああ。もう、たまんないわ。先生。ご免なさいね。 生物学者えらいことある。入ったある。羽根ばたっかせるの、やコンピューターちやかぼこ。びい。がりがりがり。きんきらきん めるよろし。動くと感じるあるよ。助けるよろし。ほひー きんきらきん。び。びび。びびびび。び。 ほひー 生物学者興奮しているある。どうしたのことあるか。あ。大変あ 鶏ああ。ああ。ああ。ああ。ああ。 る。入力装置がわたしの服の袖くわえこんだあるよ。はなす 生物学者ほひー。ほひー。も、駄目ある。死ぬある。眼の前まく よろし。やめるよろし。えらいことある。コンビューター らくらのことよ。 わたしをひきずりこむつもりある。このコン。ヒュ 1 ター、女 コケーツ。 鸚 あるか。わたしとうとう、今度こそえらいものに好かれたあ 生物学者出したある。えらいことになったある。わたしとうとう るよ。誰か助けるよろし。も、駄目ある。胴体全部吸いこま コケコッコと深い仲になてしまたよ。わたし悪いことしたあ れたある。わたし、もうお陀佛あるか。悲しいある。生きて る。反省するある。お前犯したのこと許すのことよ。わたし いたいある。研究し残したこと、山ほどあるある。これが浮 真面目な学者ある。責任取るある。もうお前、一生離さない 世の見おさめあるか。曖呀。 ある。ずっと面倒見てやるあるそ。 コンピューターべきべきべき。ごりごり。きゅーん。きゅーん。 鵄 いやあよ。だって先生、鶏よりもひどい早漏なんだもの。 ぶちゅ。ぷちゅぶちゅぷちゅぷちゅ。ぐっちゃ、ぐっちゃ。 さよなら o ・よこまこ・まこまこ。 ぐっちゃ、ぐっちゃ。こん、ここんこん。こん。こん。ばち 生物学者それ、ないのことある。行ってはいかんある。帰るよろ ばち。ばち。がりがり。びい。びびいびいびいびい。ぼん。 し。戻るよろし。曖呀。 生物学者出てきたある。わたし出力装置から抛り出されたある そ。立てないある。腰が抜けたある。わたし、ふらふらあ 生物学者とコンビューター る。わたしの精液、全部吸いとられたのことよ。わたし腎虚導 ある。だけど、とてもとてもよかたある。こんな快美感、わ
農夫あ、あ、あ。早えこといっちまうだ。もういっちまうだ。 コッコの分際で、わたしに何するあるか。 ぶふう。ぶふち。 鶏李先生。わたしあなたが欲しいの。あなたを愛してるの。 ケツ。クワーツ。 鶏 生物学者いくらわたし好きだわっても、コケコッコが、寝ている 農夫 しったた。いっちまっただ。ええい気がむしやくしやする 人間さまのズボンのボタン嘴で勝手にはずす、これ非常によ だ。金さえありゃあ、おら、お前みたいなもん相手にやしね くないあるな。地面からミミズ掘り出すみたいに、わたしの えだそ。ああ気持が悪いだ。行きやがれ。早うあっちさ行く 陳さんと金さんパンツの中からほじり出す、ペケあるそ。わ だ。このうす汚ねえ尻の穴からおらの出した白え精液・ほたぼ たし研究に疲れてここのソフアでぐすり眠ていたある。わた た垂れ流して鶏小屋さ入るだ。これ。早う行けちうに。おん し一どきに眼が醒めてしまたのことあるよ。 ゃ。離れねえだそ。大変だてえ〈んだ。取れなくな 0 ただ。鶏わたし燃えてるの。我慢できないの。ねえ。なんとかして さっき首さ締めたからかもしれねえだ。離れねえだ。えい。 李先生。 生物学者お前それ、わたしが好きだから違うある。あの百姓の男 鷄 コケーツ。コケーツ。コケーツ。 にいつもやられていたから、癖になっているだけのことある 農夫こらまあ、えれえことになっただ。はあ、おら、困った ぞ。男が欲しいだけのことある。 だ。どうしたらよかべ。このままにしとけねえだ。股ぐらさ鶏ねえ。お願い 鶏ぶら下げて野良さ出られねえだ。朝は早うからこけこ「こ、生物学者あ 0 。わたしの下腹の上にすわり込む、いかんある。そ こけこっこで満足に眠りもできねえだそ。そうだ。万作の畠 んなところで卵産むみたいな恰好、ボコペン駄目ある。お前 さ買って建てたあの研究所、あそこにや偉え先生がいるだ。 わたしを誰思うあるか。お前の恩人あるそ。わたし筋肉弛緩 おら、あそこへ猿や鼠の餌にするクロレラ持って行ったこと 剤注射して、あの百姓の男とお前のからだ引き離してやった があるだ。あの生物学の先生に見せて、とってもらうだ。さ ある。そのお礼に、わたしあの百姓の男からお前貰ってやっ っそく行くべえ。こら、静かにするだ。ええ、鳴くでねえち たある。その上お前の脳に酵素やらコリンエステラーゼあた うに。皆がじろじろ見るでねえか。 えてニーログリアふやしてやったある。お前の知能改良し コケツ。コケーツコッコッコッコツ。 てやって、お前話のできる知的鶏にしてやったある。思い出 すよろし。その恩人のわたし男妾扱いする怪しからんある。 あ。いかんある。困るある。嘴で包皮ひんめくる痛いある な。わたし包茎ある。短小ある。早漏ある。やってもちっと もよくないのことよ。 鶏と生物学者 生物学者あっ。驚いたある。ぶったまげたのことある。お前コケ 鶏 6 4
スロ 救急システム内クリイ人 名もない惑星上に長さ一マイル、幅四分の一マイルに もおよぶその巨体を横たえている宇宙船は、すでにヴォ ホル星系 9 専門家たちによって調査が進められていた。 外人部隊によってたちまち制圧されたかれらは、この宇 宙船がべつの空問からやってきた ^ 知識の蒐集者〉だー ーと告げた。船内に足を踏み入れた一行は、その説明に 納得せざるを得なかった。なにしろ、その巨大な船腹に は。この宇宙空問に属するあらゆる星系のあらゆる物質 大気標本、土、岩石から住民の道具、衣類、おもち が整然とおさめられているのである やに至るまで そしてその乗員たちは、船の奥深いところで時空を凍結 して枚出をじっと待っていた。ヴォホルの学者たちは言 った。 「わたしたちの政府は、かれらの兵器を発見せよときび しくせきたててくる。しかし、このクリイ人たちは兵器 を使わぬのた生命を奪うことを一切しない。蒐集品の なかに生物は只の一体も含まれていない。只、立体映像 の膨大なコレ、クションにおさめられているだけだ : : : 」
「それにふさわしい″タイタン″と言う名を与えられているのだ」われているとも言える。 彼女も、脳内に増幅システムとサ・フ・コンビ = ータを植え込まれ 学者たちを振り返って説いた。 ている。この実験では、″タイタン″が発する啼き声 . ーーー鼻孔前庭 「腹をすかしているのかね、やつは ? 」 嚢からの、百五十から二百キロへルツに及ぶパルスを、ハイドロフ 楽しそうな声が戻って来た。 しつぼ いま、その証拠を見オンでとらえ、増幅転換器が彼女に送信している。体内 = ン。ヒ = ー 「自分の尻尾でも噛りかねないほどにね。 タがそれをソナグラムに解析し、彼女に理解させるのだ せます」 視界に、別なものが現われた。ロープに縛られた太ったマグロのタン。の意志をな。 一方彼女の精神波は・ーーっまり彼女の意志は、この手順を逆に辿 ようだ。海中のオスパーが操作しているのだろうーーびんと上下に り可聴パルスに変換されて″タイタン″に送られ、受信される。そ 張られたロープはゆっくりと動き、スクリーンの中央で停まった。 うやって、二人は楽しくおしゃべりを交わせると言うことになる」 「さあ、やって来たそ」大佐が囁いた。 ′イオ・テレメトリー / ーチラ この増転換器ーーっまり生物遠隔制御システムカ 突進して来る″タイタン″の、洞口さながらのおそるべき顎が、 ス四世″にも備えつけられていると言うことは、すでに話したな。 チヒロたちをもひと呑みにしかねぬ勢いで迫って来た。が、マグロ しかしわれわれはさらに一つの奇蹟が起ることを期待している。 がそのなかに吸い込まれそうになった寸前、信じられぬことが起っ こ 0 ″ タイタン″はばくりと顎を閉じ、その巨体をひるがえしたのつまり、補助機器の助けをかりずに、かれらが自由かっ直接に意志 を疎通しあえる日が来ることを : : : 」大佐はそこで微笑した。 だ。目に見えぬ絶対的な力が、その頭を小突いたかのようだった。 ートナーであり、そして護衛でもあ カマグロにかぶりつこう「ともかく彼女たちが、君のパ 反転し、″タイタン″は戻って来た。・、、 どうだ、気に入ったかね ? 」 ると言う訳だ。 とする動作は二度と見せず、幾分かふしようぶしように見えたが、 チヒロの頷きは、殆どうわのそらのものだった。彼の目は、ジャ ゆっくりとその周囲をめぐっているだけだった。チヒロは、魅せら ンの横顔をむさ・ほるのに夢中だったのだ。その彼女の横顔に、その れ切ったようにその光景を見守っていた。 「やつの頭にはパルス受信機が埋め込まれている。特殊なものだがときあえかな微笑が浮び、低い音楽的な声が呟いた。 なーーそれによって高度な制御が可能になったのだ」大佐は、謎解「″タイタン″はだいぶ不満のようです。お預けはあまり趣味に合 わないと・ほゃいています。怒らせると手に負えなくなるわ」 きを楽しむかのようにゆっくりと言った。 あやっ、、、、、 「そして彼女は、″タイタン″を操る猛獣つかいと言う訳だ。彼女「ーー・・よかろう。食卓につかせてやれ」学者たちのリ 1 ダーと思わ はきわめて高い特殊能力を持っている・ーー < 級の精神感応術者なのれる、コンソ 1 ル卓の前の男が答えた。 ジャンの徴笑はさらに深まった。彼女は、その頭のなかで″タイ だよ。それも対人ではなく、魚まで含めた海洋生物指向型のな。百 年にわたる超心理学の、海洋パターン能力開発の成果が彼女にあらタン。に囁きかけたのだ。 " タイタンはすばやくその戦慄的な顎 かじ
】さらわれたで上昇しながら私は夢中で顔や手足をぼり / \ とかきむ 第′り、またあるしった。ガスの猛烈な臭気はなかなか去らない。とうと 地球は、地殻う零下三十度のところまであがってきて始めて大きな息 が硬化せんとを一つ吹いた。私はやっとよみがえった。眼を開けて見 : これはどうだ。座席中、一面にまっ白いではな 一する刹那に砕ると = けて八方に散いか。しかもそれが二三寸の厚さに積んでいる。身体の ったものであ出ていた部分が一切蜂に刺されたように痛む。それも道 理だ、毛穴という毛穴からは全部血を噴 , いている。 、、を一る む」そこで私ガスの正体は、米粒の半片にも足らぬ小さな昆虫・であ は、われわれった。 と同時間中に 私はまだ臭い虫屑を、やっとの思いで機外へ放りだし 、、をし ( 第一い、のみ涅槃をく た。実に恐るべき毒動物だ。この虫のいる以上、この世 り返している地球の中て生物を蓄えたものばかりを選ん界では、たとえどのような猛獣でも大蛇でも、三分と命 で立寄ることにきめた。それによって一、二、三と呼んが続くまい。さてはあの白い大雲ー・・、なんだか怪しいと で行くことにしたが、しかし、本当は二でもなければ一一一睨んでおいたが、これが昆虫の集団とすれば実に偉大も でもないのである。 のだ。地球の表面はほとんど半分通り、厚い昆虫の層を もって押包んでいるわけだ。それほどたくさんなかれら : こ やはり、この作者西森久記はなみの人物ではない。皆は、一体なにを常食として生きているだろうか ? : : 無とはいいきれないかもしれないが、昭和十一年に多元ういう疑問が続いて起こってくる。恐しいものは見た 宇宙の小説を書いている日本作家を、ぼくはほかに知ら 。私はまたそろそろと下りはじめた。 やっと白い雲の端へ近寄ると、彼は得たりとばかり蛇 多元宇宙が舞台となれば、もう作者の独壇場だ。 のように伸びあがって、航時機を追っかけてくる。私は 急いで飛びあがる。彼らが下るとまたそろ / 、下りて行 私は航時機へ飛び乗ってハンドルを一転した。第二のく。こんなことをくり返しているうちにとう / \ ある新 しい事実を発見した。彼らは友喰いをして生きているの 世界はかき消えて、第三の世界が蘇え 0 てくる。やが 「再て、予期した通り青い地球が一つ眼に映った。 であった。しかも、友喰いをしながらも彼らの種族は猛 - ~ 奇シ地面は見る見る膨らんでくる。もはや湖上〈二百メー 烈な勢で繁殖していた。なぜかというと、そのわけはこ トルというところであった。私は不意打ち的に猛烈なガうだ。彼らが一生涯中に ( およそ十日 ) 十匹の友を捕え 洋グ = 西ャスの襲撃に会った。驚いて舵を取りかえにわかに全速カて喰えば十分である。十匹の友を喰い尽した雌虫は水面 えらい ー 5 2 に
第一部、第二部のあらすじ ウルフガイ一、二部を未読の読者の方々のために、ストーリーを要約 してみましよう。 私立中学″博徳学園″の若い女教師、青鹿晶子と少年大神明の遭遇か ら、この物語はさりげなくはじまります。夜の新宿の雑踏の中で、青鹿 の目に映じた少年犬神明は、「その少年は、ほっそりと痩せぎすの体驅 カひ弱な感じがしないのは、一種独得の野性味をおび を持っていた。 : 、 た精気を発散しているからだった。若い野獣の精気だった : : : 顔立ちは 美少年タイプではない。荒けずりなタッチの未完成の顔だった。」 独得の風貌で、青鹿に強い印象を与えた大神明は、同じく彼女の眠前 において非行少年に腹部をナイフで深く刺されながらも、奇怪な消失ぶ りをしめします。大神明は満月時に不死身性を獲得する狼人間だったの です。 舞台は変って、博徳学園。この私立中学は、″悪徳学園″と陰口され るほどの、万事乱れた異色学園。経営者、教師もお話にならないほど出 たらめで無責任なら、そこに巣食う非行少年グループも言語道断の悪辣 さで、青鹿晶子と転入生大神明はただならぬ雰囲気の中に再会するわけ です。 なにしろ非行少年のポス羽黒獰は、暴力帝国山野組傘下の暴力団東明 会大幹部の御曹子。若年ながら空手、剣道を殺しの修業に学んでいる危 険な偏執狂で、精悍凶猛な暴力機械、そこらの番長とはワケがちがう。 刃物気違いのチビ黒田をはじめ、配下も並みの非行少年ではない。しか も乱脈な学園経営につけこんでの非道ぶりには、だれも手が出せませ ん。 腹黒い校長は、喧嘩名人と定評を持っ″学園無宿″大神明を使って、 学内暴力団潰しを画策したのです。 さっそく言語に絶する暴力が少年大神明に襲いかかりますが、不死身 の狼人間大神明は平然と耐えます。狼のプライドが、野大どもと浅まし く咬みあうことを許さない。大神明は冷然と人間に対して心を閉してい るのです。人間なんて代物は、愛したり憎んだりするほどに価しない。 おれには関係ない、という言葉が少年の口癖です。 青鹿晶子は、そんな少年の狼の。フライドに惹きつけられて行くのです が、人間悪の権化のような羽黒獰も、ちがう意味で大神明に激しく魅せ られたのです。殺すことは出来ても決して奪えない狼の誇りが、羽黒の 破壊欲に炎をあげさせてしまう。それは決して奪えないものへの、憧憬 であり、歪んだ形の愛の妄執だったのかもしれません。 物語はチビの黒田の率いる学内暴力団の執拗な迫害とともに展開さ れ、大神明は青鹿の前に狼人間の正体をしだいに明らかにして行きま す。少年は、決して人間に心を開かないとみずから定めた掟を、青鹿晶 子を暴漢から救出することによって破ってしまう。誓いを破った瞬間か ら、青鹿の悲運が暗いプレリュードの旋律を奏ではじめたのです。な・せ なら狼人間は、近・つく者をことごとく破減に導く運命を背負っていたの だから : この事件をきっかけに、ルボライター神明がふたりの周囲をうろっき はじめます。第二の狼人間が神明の素性。彼は青鹿に向って、大神明に 近かづくなと警告を発します。彼はすでに大神明の出生にからまる暗い 秘密を知っており、狼に憑かれた青鹿の悲運を予見していたようです。 非暴力、非抵抗に徹したまま、大神明は巧妙に凶悪な刃物気違い黒田 を自減に導き避けがたい、羽黒獰との対決は急速に迫ってきます。 独特な自尊心の持主である羽黒は、無抵抗主義の大神明を挑発すべ く、慎重綿密に調査を進めており、犬神明の転出先の神戸まで足を伸ば し、ついに狼人間の素性を突きとめてしまう。不死身の狼人間も新月時 には人間並みに活力が低下することを知るのです。 5 回避しがたい両者の死闘をやめさせようと、羽黒を説得に、東明会会 5 長邸を訪れた青鹿は、みずから罠に陥ちてしまう。羽黒は、青鹿こそ、
樹木の下には小さな水色の花をつけた草が一面に繁っていた。草花私がいうと男は不思議なものでも見るように私の全身を眺め廻し た。その瞬間新しい当惑が襲ってきた。その相手が列車の男と異っ は家の庭まで続いており、庭の奥には再び巨大な雑草が伸びてい る。家屋は荒れた平屋で、屋根の一部は軒にたれ下がり、破れた雨ているように思ったのだ。やはり確かな記憶を持っているわけでは なしが、どこか合致しないところがあるようだった。男は笑った。 戸は閉ざされたままだった。戸口の扉の一枚は外に向けて倒れてい て、そこから薄暗い土間がみえている。人の住んでいる気配はない例によっての笑いである。そしてその笑いだけを残してそのも が、一応「ごめんください」と呼びかけながら中を覗いてみた。土歩き去ろうとした。 いいかげんに結着をつけようではないか。おれは 間には冷い空気が溜っていてなぜか甘い香りが伝ってくる。中は暗「待ってくれ。 くてよくみえなかったが、間もなく奥で荷車のようなものに腰を降を殺したことを認めているんだ」 ろしている人影が動いた。その人影はゆっくり立ち上がり私の方に私は男の腕をつかんだが、男は簡単に振り離してもう一度私を見 つめながらいった。 向かって歩いてきた。 「私はだ。生きている」 「やつばりお前がいたな」 私はいった。人影は立ち停まり二つの眼を輝かせて私を見つめ「お前ではない。もう一人のを殺したんだ。派のスパイだ 0 た 」 0 からだ」 男は小さく頷いて歩き始め、鉄道駅とは逆の方向に小道を入って 「何の用だ ? 」 男の低い声は他所他所しく、初対面の相手に話しかけているかのいった。 「おれに復讐しないのか ? お前も派の人間だろう ? それとも ようだった。 「用があるのはお前だろう。お前はおれを復讐するためにここ〈呼別の組織の人間なのか ? 一体お前たちは何者なんだ ? とは一 体どういう人間なんだ ? 」 んだんだ」 男は両手で草をかきわけながら早足で歩き続けた。 「復讐 ? 」 「君は何者だね ? 、、 . 君はどういう人間だね ? 」 「そうさ。確かにおれがを殺した。さあ白状したそ」 男は正面を向いたまま呟くようにいった。 私はいった。男は再び歩き始めて私の前を通り過ぎて庭に立っ こ 0 「おれは学生だ。今は大学文学部自治会執行委員だ。 Z 県の出身 で両親はそこにいる」 「というのは私だが」 「まあ、そういってもいいだろう。お前はの姿をしている。そし「ではと似たようなものだ」 てという人物は偽物だった。だからお前がそのの偽物であって「は偽学生だ」 「君は本物では偽物か ? それでもい も、同じ偽物同士だ」 。それならは学生でな 287
戻りますと、あちこちでタクシ 1 が立往生して、ホステスやら、運わり、今では動物評論家という肩書で、本を書いたりしている。 「ま、あがってくれー 転手やら、おお・せいの人が、いわば。 ( = ック状態になっているの 「うむ。例の異変のことだが、きゅうに、誰かに喋りたくなった。 を、目撃しました。十二時半をまわったばかりでしたー いつもなら、テレビにでも引っぱりだされるところだが、都心から 放送作家の証言につづいて、何人かの人が、それそれの体験をは なし、しだいに、スタジオ全体が、収拾のつかない混乱におちい 0 二時間のところに住んでいては、とても行くことさえできない」 ふじよし 藤由は、喋りながら上がってきて、ソフアに坐りこんだ。 「なにか、判るのか ? 」 ・ほくとワイフは、二時間ばかりテレビに釘付けになっていたが、 事態は、い 0 こうに復旧しそうもない。日本じゅうの交通機関が止「いや、べつだん、判るというわけじゃないが、あてず 0 。ほうな推 量はつく。いまや、全人類は、ス。ヒード恐怖症におちいっている。 まっているばかりでなく、アメリカからの外電は、アメリカ、ヨー これは、言ってみれば、人類という種の収斂現象じゃないかと思う ロッパでも、同様な状態が続いていると、伝えてきた。 そのころになると、異変の原因はー。ーもし、原因があるとすればんだ」 「難かしくて、よく判らないが : : : 」 の話だがー・ーー、物理的なものではなく、パニック状態、あるいはマ ス・ヒステリーとでも呼ぶべき、心理的なものであることが判って「べつだん難しいことじゃない。生物の進化を考えるとき、ひとっ の起源から派生したさまざまな生物が、あらゆる方向にむかって、 きた。 ぼくとワイフは、テレビのそばをはなれた。いつまで眺めていて進化していくのを、適応放散という。中生代の広い意味での恐竜が いい例で、絶減寸前の白亜紀には、森林、草原、山地、海、空な も、どうしようもない事態になってきたからだ。 ど、あらゆる方面にむかって適応放散し、そして亡びた。おなじよ 「会社は、どうするの ? 」 うな例は、有袋類にもいえる。ほら、例のカンガル . ーやコアラの仲 「どうって ? どうしようもないだろう」 間だ。この原始的な哺乳類は、大部分オーストラリアにいるが、ほ ・ほくは、畳のうえに大の字になった。昼日中から、こんなふうに ス、クマなど、い しているられるのは、異変のせいかもしれないなどと、場違いにのかの哺乳類のオオカミ、アリクイ、ムササビ、リ ろいろな形態に属する種を、有袋目というたったひとつの目のなか どかなことを考えたりもした。 それから、ワイフのつく 0 たサンドイ , チを、親子三人で食べてで、代用してしまう特異な動物相を示した。しか、オーストラリ アの有袋類の大部分は、いま絶減しかけている。フクロモグラの巣 から、また寝ころんでいると、玄関のチャイムが鳴った。 ディンイ は羊に踏みつぶされ、フクロオオカミは野犬に餌を奪われ、結局は 迎えにでると、近くにすむ友人の藤由が立っていた。この男は、 高校時代のグルー。フのうちでも、いちばんの変り種で、農大をでて亡びていくだろう。生きのこれるとしたら、大爬虫類の絶減のなか から、動物園づとめをし、ドキメンタリーの取材で世界をとびまで、自からの形態を収斂させた〈ビ、カメ、ワ = の仲間のように、 ふじよし
している人々の夢をこわすようなことだけはやめてくれ ! それが「きみ ! きみは何か感ちがいしているね。・ほくはきみの名前など ひとことも言ったお・ほえはないね」 宇宙開発といったいどのような関係が : : : 」 「いったいどうしたんです ? 勝手に入って来られては困ります「つまらない言いのがれをするな ! 私の古い友人の一人が、かれ な」 に全面的な協力をあおぐべくエ作中です、と言ったじゃないか ! 」 キタはくちびるをゆがめた。 誰かが合図し、スタジオのすみから作業員がばらばらととび出し 「ことわっておくが、私の古い友人はきみだけじゃないんだよ。現 てきて私をさえぎった。 にここにもたくさん居る」 「出てくださいー 出てください ! 」 キタは呼吸も忘れたように私とキタのやりとりを見つめているか 「カメラはもうストップしているんだろうな ? 」 れの部下やなかまたちを見やった。かれらはいっせいにうなずい 「モニタ 1 ! 確認してくれ ! 」 た。あの部屋でのシャナの言葉が私の胸に爆発ガスのようにふくれ 「警保局員 ! 何をしているんだ ! 」 私は男たちを押しもどし、うでに取りすがった男を引きずって足上 0 たが、私がそれを口にすることはできなか「た。私は敗北をさ とった。 を進めた。 「いいかね。きみ。宇宙開発や惑星調査というものはおとぎ話では 「取消せ ! キタ ! 」 キタを背後にかばうように、学者面の男が緊張でくちびるをふるないのだ。退役ス。〈ース・ンの夢だかなんだか知らんが、これは 情緒の問題ではないのだよ。ある惑星にかって生物が存在していた わせながらかすれ声でさんだ。 かどうかはこれは純然たる科学の問題なのだ。きみに協力してもら 「きさま ! 先生に失礼なことを言うとしようちしないそ ! 出て う必要はない」 ゆけ ! 」 かれの言葉が終らぬうちに、私は警保局員つ手でスタジオから引 私は両手でその男の肩をつかむと投げ棄てた。男は頭から床に落 き出された。 ち、なめらかな床をまるで肩でスケ 1 トでもするかのように遠く滑 0 ていった。空気は一変した。かけつけてきた警保局の男たちは本「教授。《東キャナル文書》をかくし持 0 ているという男を把握し ておく必要がありますな」 気で腰の警棒をぬいた。市政庁の役人がおよび腰でさけんだ。 「何が言いたいことがあるなら聞いてやろうと思ったが、暴力をふ私の背後で性急な声が聞えた。 「連行したまえ」 るうようではだめだ。つまみ出せ ! 」 市政庁の役人が命じていた。廊下に押し出された私の体を突きと 「逮捕しろ ! 逮捕しろ ! 」 周囲から声がとんだ。それに勇気づけられたらしい。キタが胸をばすように、警保局の白いへルメットが走り出ていった。 張った。 私はとっさに左右から羽交いじめにされているうでをふりほどい 377
ここ二、三年、出版が待たれていた = 「ラ死が可能かどうか、もし可能ならばそれが人難』夢想スターの夢を買う未来レジャー ◆・◆・◆・△イ・アモソフの未来小説『未来からの手記』 4 間にとってどんな意味を持つかを考えようと『夢を売ります』ほか十二他収録されている。 ・《 "Notes ( 「 om the Futu 「 e・こざ ( 飯田規和する。ソ連当局の気に障「たのは、思考実験ノン・フィクシ " ンでは、同じくアシモフ ◆・◆・人訳・早川書房・一二〇〇円 ) が出た。この小的な意味を持っこの第二部で、現在のソ連での『わが惑星、そは汝のもの』 "The sta 「。 お ~ 説は、ソ連胸部外科の権威であり、生物サイは、こうしたあまりに実験的なーー・・従「て危一 = Thei 「 c 。〔ラ。〈・ ミ ( 山高昭訳・早川書 ・△・ ( ネティクスの指導的科学者でもある著名な険でもありえ、時によっては人類の見方がペ 房・九八〇円 ) - がといっても飽きさせな ・△学者・兼作家の書いた未来小説であるというシミスティックにもなりかねない い。例によって例のような独得な語り口とテ ◆・・◆・△ことのほかに、第一部は出版されていなが が、許容されなかったのかもしれない。作風ク = ックでの = ッセイ十数編が大文学、物理 人ら、第二部がソ連政府当局によ 0 て発表を差は = フレーモフと同系列だが、より現代的な学、化学、社会学の四部に分けて収録されて ◆・・◆・△し押えられたという事実、アメリカの版権工ソ連のカ作として、必読の一冊である。 いるのだが、なかでも、最近流行の占星術の プロー ◆・◆「◆人 ージェントがアモソフとソ連当局と交渉して ーとしては、一九六四年度ヒ愚劣さを徹底的にたたいた『軌道の太陽』ヴ ーゴー長編賞を受賞したフ リツツ・ライノ ・ ~ 翻訳権を取得し第一部・第二部を合わせた英 = エリコフスキーの『衝突する宇宙』が実は聖 ◆・◆・◆・△語版の完本がアメリカで出版された、という ーの『放浪惑星』 "The Wande 「 er"'6 、 ( 永書の記述を論証しようという腹黒い魂胆を持 、こ井淳訳・創元推理文庫・三二〇円 ) が出た。 ・・実などから、当時非常に評判とな 0 てしオ った非科学的愚論だとする『混乱する宇宙』 ・・・ものである。 ( ごく短い紹介が一九七〇年末突如として現われた、不気味なツートン・カ 超光速粒子の不可能を論ずる『ルクソンの - ・の『週刊朝日』に掲載された ) ラーの放浪惑星が、月に接近してこれを粉砕壁』科学者の罪とは何かを考える『科学者の トーリーは、自分が白血病に侵されてい し、地球に地震や津波や高潮などの恐るべき罪』人口・公害・資源問題を再説する『幾何 ・・・ることを知 0 た生理学者プ。ホフが、自ら災害を惹き起こす、しかもこの惑星は、じっ級数の威力』などはなまなかな小説以上に魅 は、きびしい大宇宙の体制に反抗して、空間 ・・を冷凍睡眠の人体実験台として、二十年間の 力的である。 物蜘◆◆取眠りにつく。そうして白血病の治療法が完成をさまよえるオランダ人さながらに放浪する ほかに『アーサー ・マッケン作品集成・ 物蜘◆蜘◆《するのを待 0 たわけである。そして。フ 0 ホ人工惑星だ 0 た : : : 。突然の危機にさらされ —』 ( 平井呈一編訳、牧神社・一八〇〇円 ) ◆・◆・◆・△フは一九九一年に目覚めるが、そのとき世界て、右往左往する地球上の人類と、スー ・サイエンス風の幻想世界に生きる放浪惑星『。 ( ンの大神』『内奥の光』『輝く金字塔』 ◆・◆・◆・△は核戦争の危機も切屮抜け、高々度な科学、 ◆・◆・◆・△技術によって、より平和で豊かな生活を享受の住人とをフラッシュ ・・ ( ック風の手法で描他一編収録。 ( ャカワ文庫から ( ワー ド & ディ・キャン 《していた : ・ : ・と、これだけ書けば、何の変哲きだした、特異な味を持っ宇宙小説である。 ~ もない月並みで古臭い未来めいてくる短編集ではアイザ , ク・アシモフの『地球プの『荒獅子「ナ は空地でいつばい』 "Earth is Room En- "Tales of ・・が、内容はとてもそんなものではない。 ・・第一部では、冷凍睡眠、人工頭脳、生物数 ( ) u : 57 ( 小尾芙佐・他訳・ ( ャカワ・ conan" ) 55 ( 佐 ・学、心理に対する化学の作用、社会心理学的シリーズ・五四〇円 ) アシモフの数多い短藤正明訳・二七〇 ・・ - コントロールなどの可能性が、生物サイ・ ( ネ篇の中から地球を舞台にしたものだけを県め円 ) ・ ( ロウズの 物蜘◆◆取ティクスの専門家としての確かさと知識の豊た、ウィ , トにとんだ短篇集である。歴史の『ターザンと蟻人 、◆◆取富さとで精緻にしかも奔放な想像力で語られ研究のために開発した時間観測機が恐るべき間』 "Tarzan and ・◆・◆・◆・△る。そして、第二部の二十年後の世界では、第新世界をつくりあげてしまう『死んだ過去』 the Ant ・ 部の発展として脳の化学的コントロール、人間をはるかに超える知性を持った虫の話・ 19 ( 高橋豊訳・ , ◆・◆・◆人心理学的干渉、人頭脳の問題などが追求さ『子供だまし』人類から住宅難を永遠に解放二七〇円 ) が出て ケケ退れ、その結果人間に実用的な意味での不老不する名案が人類から安寧を永遠に奪う『住宅いる。 海外セクション 担当 : 福島正実