ーーー引ーー 1 ル ~ ー」・ところである。小さなデスクの向こうに坐っている きる程度には、地球の科学は進歩 のは、カール・フレデ . リック・フォン・ヘッセル、 しています。 第 〈平和維持省〉の長官である。 さて、そんな異星人の攻撃の最 中、異星人の偵察機が月面に激突 フォン・ヘッセルが椅子をうしろに押しやって立 ちあがった。 し、地球人は、生き残った一人の 「ミスタ・ゴールド。君は逮捕された 異星人をつかまえたのでした。そ わけではない。二日にわたり、私は君に連絡をとろ 2 うとし、二日とも、君の秘書が、君は邸にいないと して、月基地の地下にある巨大な 否定した。ところが、君が邸にいることはちゃんと 格納庫に横たえたのです。それ わかっていた。われわれは実に緊急の用件を討議せ が、この表紙のシーンでありま ねばならぬため、これ以上の遅延は許されなかっ す た。かくて、実力をもって君を連行せねばならなか 宇宙人の脳は、一部に重大な損 ( - 心 ! ・ - ~ 傷を負っていましたが、身体のほ った。だが、君は自由だ。なんなら、ここから出て いってもかまわんのだよ」 うは無事でした。そのため、科学 ジョセフ・グリーンの「 e Ⅱ Z Ⅱ Z 者たちはとんでもないことを考え 「それは有難い」ゴールドはドアを開けた。廊下を 急ぎ足でエレベーターに向かう。〈降〉のボタンを つきます。異星人の大脳の左半分 をとりだして、代わりに、コンビューターと、それかし、彼はあわてず、中尉の求めに応じてェア・カ押して、落ちつかなげに待った。ドアが開くと中に 入り、〈ロビー〉というボタンを押すべく、指が宙 を動かす人間が住めるような部屋とをそこに組み込ーにのりこむのでした。 ノカ連れていかれたのは、エア・ニューヨにあがった。が、押さなかった。代わりに〈開〉の んでしまおう、というのでした。そして、この巨人ゴーレド・、 ーク ( ニューヨーク空中都市とでもいうのでしようボタンを押し、廊下をオフィスへと戻った。 の身体を動かし、その住む世界について語らせよう このシーン、なかなかいいと思いませんか というのです。 か ) で、かっての国連ビルの屋上につぎたされた そんな仕事には、ゴールドのような人間が必要で〈平和維持省〉のまっ白い塔へと彼は導かれますー主人公の心理がよくでていると思うんだけれど。 〈アメージング〉の書評を担当したモンテレオーネ そう、ゴールドは、遺伝工学がうんだ優 秀な頭脳をもった男、ホモ・スペリオールだったの 小さなオフィスでは、二人の男が待っていた。地も、主人公への肉付けのよさを誉めていました。 です。 さて、ゴールドが依頼された仕事というのが、例 球上で最も重要な三人の人物のうちの二人である。 〈平和維持軍〉と彼の私設軍との戦いはあっけなくゴールドに面と向かって立っているのは、タランジの巨人をあやつること。実は、この計画、ロシア人 終わり、ゴールドの部屋に中尉が入ってきます。し・テータ、国連の事務総長の二期目をつとめているの超人、ベトロワナが考えたことなのですが、その 0 0 0 0 0 ー 2 3
日本へ渡来した可能性はないとはいえぬ。 「すると南蛮人は赤人か」 「赤人もおれば、白人、青人も、またそれらの混色もあり雑多にご ただ源内にしてみれば、そのような昔に、西と東とを旅する手段 あじあ ざいますな。一方、亜細亜人種は黄人、天竺の住民は黒人にござるがあったかどうか、またな・せ、はるばる日本なる地へやってきたの か、とんと判らぬのであった。 とか」 「ふーん」 9 と源内、素直に幻之進の講釈にききいっている。 「その昔、出雲一帯にヤマタノオロチ族がいたが、これは青人であ った。また、キリシトなる猶太は、赤人の子孫に相違ござりませ これは、今日の常識をもって考えれば、一見とうてい不可能な話 ぬ。実は父上、この赤人はわが国にもおりました。 である。いくらなんでも、キリスト在世当時、シナイ半島と日本と うたよ やまべのあかひと 「万葉の歌唱み、山部赤人のことか」 が交通路によって結ばれていたとは、にわかに信じられぬにちがい さるたひこ 「はい、両者共に、猿田彦なる土着住民の子孫とおもわれます。い や、かの神武天皇をお助けした猿田彦なる赤面の野人、あるいは、 だが、調べてみると、意外や西暦以前の古代交通は、想像以上に キリシトなる人物その人だったとも、推察されますぞ」 発達していたのだ。普通識られているのは、ダリウス王の造った 「するとお前は、石堂村に上陸せしは、猿田彦と申すのだな」 ″王の道″で、地中海はペリシャ経由でイラン高原を越えインダス あだな 「はい。おそらく石切彦は本名、猿田彦は外貌より名付けた俗名で流域と結ばれていた。かの有名なペシャワールを中心として盛えた ございましよう」 ガンダーラ芸術は、この陸の経路を通ったギリシャ文化の伝播であ 「確信ありげじゃな」 「時代的に合致するのでございます。神武なる者、記紀の解釈によ が一方、おそらくそれ以前に、エジプトのナイル三角州文化圏 ってその時代様々でございますが、第十代崇神天皇の御代より逆算は、直接ベルシャの脅威を避け、紅海、アラビャ海経由の航路によ するならば、西洋のキリシト暦にほぼ一致いたします。幻之進、こグ、南印度と結ばれていた。 ( 註、拙著″白い蓮華船″ ( 未刊 ) 参 の仮定よりかように愚推したわけでして : 照 ) そしてこのエジプト・南印度航路は、マク・ハル海岸より東南ア 「いや、あり得ることじゃ」 ジアへ伸びていた。終点は上海、さらに日本まで到達していたので はあるまいか。 と源内は、うなずいた。 クルス 長崎より仕入れた知識によれば、キリシト三十三歳の時、十字架とすれば、猿田彦・キリスト説にも根拠が出てくる。古代エジプ にかけられたが、幼少時は別としても、十代二十代の頃いったいどト文明の発祥は、紀元前四千年といわれるが、あのナイル河流域に こで何をしていたのか、とんと不明なのである。とすれば、その間突如としてあのような大文明が盛えた理由は謎といえるし、また、
ペグラー きみを 解雇するつ 鳥人大系 特別企画大河漫画 ノレ ウンダーダンス 抹殺請負公社との 契約はどうなるんだ 違反だせつ 解雇だって ? 契約書には 抹殺人がいちじるしく 依頼人の利益に違反 した行為の際には 損害賠償の責を - 負、つとある / 0 ? く かー
全体的にみれば「後西遊記」は「西遊記」よりは落ちか平民とか記されていたのですよ ) の翻訳と書かれてい 表 るが、かなりおもしろい冒険小説といえる。しかし、今るが、どこにも原作者の名前はないし、原本の発行年月 " 後「西遊記」の新訳がなん百篇でても、この「後西遊日もない不思議な本だ。 記」は二度と訳されることはないだろう。そういう小説では、この作品もざっとストーリイを追ってみること 本 にしよう。この小説は「西遊記」を知らなくてもおもし なのだ。だから、「なるほど、こんな話もあったか」と 絵 いっか、話題のタネぐらいはなると思ろく読める。 訳憶えておけば、 う。 ( 「こてん古典」って、とっても親切なペ 1 ジだな 年 あ ) 世に八仙とて道術いといみじき老仙人八人あり。そも そも、その人は誰々そというに、銕拐、鐘離、洞賓、果 老、藍采和、何姑仙、韓湘子、曹国舅これなり。そのう 囹用心棒″孫悟空″ ち、銕拐をもって道とす。さて銕拐の出処を考うるに、 次に紹介する作品は「西遊記」ではないが、みんなの姓を李、名を玄といい、銕拐はその後仮身の別号なり。 知らない「孫悟空」の登場する小説。題名を聞いて驚く なかれ、「西遊記」ならぬ「東遊記」という。明治十七 というわけで、きわめて読みにくい文章をなんとか読 年に兎屋書店という当時としては比較的有名な出版社かんでみると、話はこうだ。もし、ぼくの読みかたがまち ら刊行 ( 実際には、もっと漢字が がっていなければだが : されて多く変体がなが使われているので、読みにくいことおび しる ただしい ) 斉東野むかし、むかし、中国 ( といっても世界全体を指す 人、根が ) に仙術にたけた八人の仙人が住んでいたが、ある 村熊五時、西遊記や後西遊記にもでてくる天界のエラ 1 イおば ~ 《郎といさん西王母がこの八仙を天界の宴に招いた。八仙は天上 う長野の酒に酔いしれて、帰ることになったが、そのうちの一 県士族人がせつかく遠出してきたのだから、東遊をしていこう ( 明治と話をもちかけた。それも、雲に乗って見物するのでは 初期のおもしろくないから、八仙がそれそれ自分の宝にしてい 本にはるものを海上に浮かべ、それに乗って海を渡ろうという 、ヤを、羈を。奥付に趣向た。話はすぐにまとまって、七人は早くも拐に乗 0 た 士族とり、 竹筒に乗ったりしてサ 1 フィンよろしく海上を滑り 9
「絵本西遊記全伝」ロ絵三蔵法師 だした。最には引きさがれず、弟息子を迎撃にやった。ところが、 後の藍菜和これまた八仙にメタメタにやつつけられ斬り殺されてし という仙人まった。 が玉板 ( ど今度は反対に、二人の息子を殺された竜王が、もうど 第物んな板だろうしようもないほど怒った。竜王は東海全軍をあげて八 う ) に乗っ仙に挑む。だが、八仙の実力もなみたいていのものでは 第て波乗りをない。次々と仙力をもって海を焼きはらう。 ~ ・・・を ( はじめよう とした時、 海の水、見る見るまっ赤に変じ、煙霧天に昇ること、 東海竜王の いと凄じく、浩々たる東洋の大海たちまち一片の白地と 息子が、海そなりにける。 上に八つの 怪しい光が飛ぶのを発見。調べてみると八仙とわかった ついに竜王も八仙の攻撃に耐えきれず、妻子を連れて が、これから出発しようとしている菜和の玉板を見る南海竜王のもとへ避難した。東海竜王から事情を聞いた と、なにがなんでもそれを手に入れたくなり、兵に命じ南海竜王、「いくら、玉板をうばったとはいえ、息子を て菜和ごと海中に引きずりこんでしまった。 二人も殺し、海を焼きはらうなどとは許せない」と、ま さあ、怒ったのは七人の仙人。さっそく、引き返し たまた八仙に逆うらみ。西海竜王、北海竜王に使いをた て、菜和と玉板を返さなければ仙力で海を焼き尽すと宣して応援を頼み、水のなくなった竜宮城で祝宴をあげて 言。竜王も太子も、これを拒否したため、ここに八仙対いる八仙を急襲した。 竜王軍の戦闘の火ぶたが切って落とされた。しかし、八 さあ、さすがの八仙も今度ばかしは、これまでのよう 仙の仙力は強い。あっという間に海上は火の海と変わにうまくことが運ばない。四竜王の大軍が、水のなくな る。あわてふためいた竜王は菜和を七仙に送り返した。 った低地に水を流しこんだから、みんな溺れかかる。幸 七人は「よかった、よかった」と喜んだが、助けられた い一人水に強い仙人がいたので、命は助かるがダメージ 当人の菜和は、さめざめと泣いている。玉板はとられたは大きい。ようやく、陸地に逃げ返った。 ままたというのだ。 孫悟空はなかなかでてこないけど、かなりスケールの 仙人にしては気の短い八人、もう頭にきたとばかり、大きな物語だ。「東遊記」という題名は「西遊記」に対 ふたたび竜王に対して宣戦を布告。今度は竜王の太子してのこじつけみたいだが、八仙が海を焼きはらった り、四竜王が海を奪回したり、まさに波乱万丈た。中国 が、これを迎え撃ったが、あえなく戦死。こうなると、 竜王ももとは自分のほうが悪いとはいえ、そうかんたんの古典は、これだからこたえれらない。 2 0 ・
おれが女房にさわることができると思うかい ? 」 やがて不格好な防護服を着た女であることがわかった。かすかにび っこをひいている。そのむこうの開いた戸口の前を、夕食にむかう 8 「ですがーー」 「いいか。鳥ににせの卵を与えたとしよう。それが産んだのとよく人びとが通りすぎてゆく。 似てるが、もっと大きくて、きれいな模様がついてるやつだ。する女がこの区画にはいると、男は立ちあがった。二人は何のあいさ と鳥は自分の卵を巣から押しだして、にせの卵を抱く。それがおれつも交さなかった。 たちのやってることさ」 「基地では、円満な結婚生活をおくってる夫婦しか雇わないんだ」 「話がセックスのことだけになってしまったみたいですね」わたし彼はあのみにくい笑い声をあげた。「こうやってお互いを : : : 救済 はいらだちを隠しながらいった。「それもたしかに重要なことでししてるわけさ」 ようが、お聞きしたかったのはーー」 彼は女の片手をとった。引き寄せようとすると彼女は一瞬たじろ 「セックス ? いや、もっと深いものさ」クスリの作用を消そうといだが、夫のなすがままにこちらをふりむいた。わたしには目もく するように、彼は両手で頭をもんだ。「セックスはその一部だ。それなかった。「紹介はしないが、わるく思わんでくれ。女房は疲れ れ以上のものがある。おれは地球の伝道師や教師といった、セックてるようだ」 スのない人間たちも見てきた。教師どもーーーおちぶれて、汚物の再そのときわたしは、彼女の一方の肩にあるグロテスクな傷口に気 づいた。 生係とかフローターの密売人になってるが、やつらだって取り憑か 婆さんを前に見「言ってやるんだ、やつらに」男はくびすを返していった。「帰っ れてるんだ。ここにとどまるんだからな。品のいい たことがある。クウシュ・、 , 1 の子供の召使いをしていたよ。身体障て、言ってやるんだ」そして顔だけこちらをふりかえると、低くっ 害児だー - ーー連中なら安楽死させてるだろう。だがその婆あは、子供け加えた。「それから、シルティス支局には近づくな、でないとお の吐瀉物をまるで聖水みたい拭いてるんだ。これの根は深い : : : おれが殺すそ」 南西太平洋諸島の原住民 二人は通路に消えた。 れたちの魂にひろむカーゴ・カルトかもしれん ( のあいだで行われる宗教 運動。特定の時が来ると、死んだ祖先の霊が船に乗って到来。 開いた戸口を通りすぎる人影を片眠で見ながら、わたしは急いで ) 人間は、外へむか し、彼らを労苦などから解放するという、至福千年説の一種 うことを夢見るように作られてる。やつらはそんなおれたちを見てテー。フをとりかえた。群衆のなかに、すらりとした真紅の生き物が ふたりいるのを見つけたのは、そのときだった。わたしがはじめて 笑う。やつらにはないんだ」 出会う本物の異星人だ ! わたしはレコーダーの蓋をとじると、人 となりの通路から、人びとの足音が聞こえてきた。夕食の時間が 来たのだ。なんとかこの男から逃げだして、そちらへ急がなけれごみにむかって走りだした。 ば。プロサイアぐらいは見つかるだろう。サイド・ドアがひらき、 人影がひとりこちらに歩いてきた。はじめは異星人かと思ったが、
異星人が話しかけてきたんだ。異星人、星から来た生き物が。話は、満ち足りたようにとろんとしている。完全に欲情してるんだ。 しかけたんだ。おれに。 喉元がビクピク震えてた。女は手をあげて、すべりおちたスカ 1 フ 8 ちくしよう、フットボールなんて全然やったことはないが、折りをかけなおした。むらさき色のみみずばれが、そこに見えた。これ には度胆を抜かれたな。そのみみずばれに何か性的な意味があるこ ) ても、なんでも好きだといっ 紙でも、ダム・クランポ ( 羇。 ちまいたい気分だったよーー相手が話をしてくれればいいんだ。おとは、すぐ見当がついたからだ。 れはそいつの母星でやってるスポーツのことを聞き、どうしても酒娘はのびあがって、レーダー・アンテナみたいに顔をまわした。 をおごるといいはった。やつはおもしろくもないゲームのことをベそして、おれには何の関係もない″あああ〃という声をあげると、 らべらとしゃべりまくり、おれはうっとりと聞いていた。″グレイおれの腕をまるで手すりか何かみたいにつかんだ。うしろにいる男 ・パシュカー″そうだ、そんな名前のゲームだ。反対側の連中のひとりが笑った。″・ こめんなさい〃・ハカみたいな声でそうい ほうの席でもめごとがおこってたらしいが、うすうす気づいてるだ うと、わきをすりぬけて行った。おれはフュートボール・ファンの けだった。 。フロサイアをつきとばすようにして、彼女が行ったほうにストウー そのとき、女がーー今から見れば小娘だが かん高い声で何かルをまわした。ちょうどシリウス人がはいってきたところだった。 ののしり、急にストウールをまわして、グラスを持ったおれの腕に それが生身の、といっていいかどうか知らんが、シリウス人を見 ぶつかってきた。おれもふりむき、顔があった。 た最初さ。ニュースなんかは眼に焼きつくまでかたつばしから見て まだ目に見えるようだ。最初に感じたのは、・ とこか違うというこきたが、そのときは心構えができていなかった。あの背の高さ、 とだった。大した女じゃない だが、ものすごいんだ。人間ばな たいたしい痩せかた。ぞっとするような異質の傲慢さ。青い象牙を れしちまってる。それをじくじくにじみだしてる、全身から発散し思わせる肌をしていた。きずひとつない金属の衣装を着たおとこの てるんだ。 二人組だ。と、その連中といっしょにおんながいるのに気づいた。 ながめてるだけで、おれのコックがとてつもなくでかくなってくそちらは藍色の象牙といった感じの美女で、骨のようにかたい口元 るのがわかった。 に動かない微笑をうかべてる。 前かがみになってチ = = ックで隠そうとすると、こぼれた酒がカ おれのとなりにいた娘は、シリウス人たちをテープルに案内して ウンターからしたたりおちて、もっとひどいことになってしまっ いた。人があとから追っかけてこないと機嫌がわるい、くそ生意気 た。娘は心ここにないといったふうにこ・ほれた酒を指でかきまわしな大を思いだしたな。連中が人ごみのなかに消える前、人間がもう ながら、ぶつぶつつぶやいてる。 ひとり仲間に加わるのが見えた。ぜいたくな服を着た大男だが、表 こわ どうしてこんなにショックを受けたんだろう、そればかり考えな情にどこか毀れたようなところがあった。 がら、おれは見つめていたよ。ふつうの体つき、熱つぼい表情。眼 そこで音楽が始まったんで、おれはとなりの毛むくじゃらの友人
ウンターの前にすわってる人間たちのあいだに、あいた場所が見つ くらみ。 かった。リトル . ・ジャンクションは公式のバーじゃない。一お高くと 「やつらにそんな考えはないよ」彼はもうひと息吸いこみ、ぶるつ と身を震わせて姿勢を正した。「一般論なんざくそくらえだ。何時まった異星人がどこへ行くか知ったのは、もっとあとになってから ・ライヴとか、ジョージタウン・マリーナのそばのザ っていったけな ? よし、おれがどうやってそのことを思い知った か教えてやろう。さんざん苦しい目にあってだ。かわいい女房が来カーテンとか。 るまでには、まだ間がある。そのちつぼけなレコーダーを袖から出それに連中はいつも別行動だ。そりや、ときどきは文化交流だっ してもいいそ。いっか聞いてみろ : : : 手おくれになってからな」彼てする。年寄りの異星人夫婦や金持の人間を相手にな。十フィート は含み笑いした。その声がうちとけた調子に変わったーー教育のあの竹ざおで隔てられた銀河系親善ってわけさ。 る男の声だった。「過常刺激というのを聞いたことがあるかね ? 」 リトル・ジャンクションは、もうすこし程度の低いのが集まると 、え」とわたしはいった。「待ってください。ヘロインですころだ・。刺激に飢えているサラリ 1 マンとか運転手とか。それか か ? 」 ら、倒錯者たち。つまり、人間を受けいれることのできる連中だ。 「そんなものだ。ワシントンのリトル・ジャンクション・バ 1 は知ペッドのなかへ、という意味だがな」 ってるだろう ? そうか、あんたはオーストラリア人だったな。お彼は笑い、わたしには目もくれず、また指先をかいだ。 くに ーノト・ ーンさ、ネ・フラスカだ」 れの故郷はパ 「そうさ。リトル・ジャンクションは毎晩、銀河系親善の夜なん 彼は息を吸い、心のなかの広大な混乱を整理していた。 だ。おれは : : : 何を注文したんだったかな ? マーガリータだ。カ 「おれが リトル・ジャンクションにうつかり迷いこんだのは、十 八ウンターのうしろに異星の酒があることはわかっていたが、すまし のときだ。いや、そこは訂正しよう。リトル・ジャンクションにう こんた黒人の・ハーテンにそれを頼む度胸はなかった。なかは薄暗か った。気づかれないようにしながら、いっぺんにあちこちを見まわ つかりはいるバカはいない。 うつかり麻薬を射ちだすやつがいない そうとしたものさ。思いだすな、白い骸骨みたいな顔がいくつか見 ようにな。 リラ人だ。もみくしやになったグリ 1 ンのべールは、なん リトル・ジャンクションにはいるのは、そうしたくてしようがなえた パ】ンで、股ぐらに毛がはえる前かとかいう星から来た集合生物。人間が二、三人ちらちらとこっちを かったからだ。遠い・ハーンド・ ら、そればかり夢に見、どんなつまらん情報でも頭にたたきこんで見てるのが、壁の鏡でわかった。敵意のある目つきだ。そのときに きたからだ。それがどういうものか、知っていようがいまいがかまは、彼らが何をいいたいのかわからなかった。 ーンを出たら最後、足はひとりでにリトル ふいに異星人がひとり、おれのとなりに割りこんできた。ぽかん やしない。・ハーンド・ としていると、ふやけた声が聞こえてきた ・ジャンクションにむかってる。 " あなた、は、フュ 1 トボール、お好き、ですか ? ″ ポケットには、びかびかの飲酒許可証がある。まだ早かった。カ 9 7
に詫びをいった。セ リースの踊り子が現われた。そして、おれの地やないんだ、これは。彼らにとっては自然の動作なんだ。おれたち 獄への出入りが始まったわけさ」 が、そうだな、笑うのと同じさ。音楽が大きくなり、彼女の腕がく 赤毛の男は自己憐憫に耐えながら、一分ほど沈黙していた。表情ねくね揺れながらおれのほうに近づいてきた。それといっしょに、 にどこか毀れたようなところがある、とわたしは心にいった。そのマントの前がすこしずつ割れはじめた。下は、はだかだった。スポ ットライトが、マントのスリットのなかで動いている体紋をとらえ いいかたがびったりだった。 はしめた。両腕がふわふわとひらいて、もっとよく見えるようにな 彼は顔をひきしめた。 「じや最初は、その晩おれが見たなかで筋が通ってるところだけを 話そう。このビッグ・ジャンクションでも見られる。どこでもおん体じゅう変てこな模様だらけ。それがうごめている。ボディ・ペ なじだ。プロサイアを別にすれば、異星人にくつついてるのは人間インティングとは違うーーー生きてるんだ。笑いかけてる、そういっ たほうがいし さし招き、ウインクし、せきたて、ふくれつつら だ。そうだろう ? 異星人がほかの種の異星人にくつついてること はめったにない。異星人が人間にくつついてるなんてのは絶対になし、話しかけてくる。エジプトの古典的なスネーク・ダンスを見た ことがあるか ? 忘れちまえ 丿ースに比べれば、あんなのは 。受けいれられたいのは人間のほうなんだ」 わたしはうなずいた。だが彼はわたしに話しているのではなかっしやっちょこばった、おかわいそうな代物さ。これは熟れきってい る、そんな感じだな。 た。その声には、クスリの力を借りたよどみなさがあった。 両腕があがって、燃えるようなレモン色の曲線が信じられない動 「そうだ、セ リースの話だったな。おれの最初のセ リースだ。 知ってるだろうが、連中はマントの下のあの体つきがいいってんきをしているのが見えてきた。脈打ち、うねり、ひるがえり、ちち じゃない。ずん胴たし、足は短い。だが歩かせてみろ。流れだすんみ、震え、ぐるぐるまわって、つぎの変化を迎えいれ、あおりたて る。さあ、わたしとやって、やって、やって、ここで、ここで、こ こで、いま。体のほかの部分は見えない。みだらな口が白くひらめ そのおんなは、すみれ色のシルクにすつぼり身をつつんでスポッ トライトのなかに流れこんできた。見えるのは、長くたれた黒い髪くぐらいだ。見ている人間の男たちは、この世のものとは思えない と、巻毛の下にあるハリネズミそっくりのとがった顔だけ。体毛は体にかぶりつきたくてうずうずしてる。痛いほどだ。ほかの異星人 モグラみたいなグレイだった。連中はおよそありとあらゆる色をし たちも、ウェイターに文句をつけてるシリウス人を別にすれば、み てるが、毛の感触はどこもかもやわらかなビロードだ。ただ眼や唇んなひっそりしていた。 のまわり、そのほかのところでは、色が驚くほど変化する。性感帯ダンスが半分も終わらないうちから、おれは身動きできなくなっ たい だって ? はつ、連中のは帯なんてもんじゃない。 てたよ : : : 話がくどくなるから、あとははしよろう。とにかく終わ おんなは、地球でいうダンスみたいなのを始めた。だがダンスじる前から、あちこちで喧嘩だ。おれはうまい具合に抜けだした。三 8
と止揚して、死んだ。とっても美しい少女を見つけたのはこの時ー のだ。こうして今、分析は意味を喪ったはずだった。 ( ラードが断罪するのはだ。だがおそらくはその背後をバラー赤い = ートの十歳位の女の子で、針金みたいに細い身体が、まだ 完璧に ードは裁いた。そうした時代だったのだけれど、それはとりもなお真黒に陽焼けしているけれど、カールしたショートカット、 美しい容貌は、側に立っ母親のなかにもかくれていて、僕はもう絵 さす、。ハラード自身の自己批判に他ならなかった。前出『パラード を見るのをよしちゃった。「植民地のマネキン人形」の前で、じっ はどこへ行くか』のもうひとつの結論、 : ・大谷圭二氏は、これら作品群 ( に対する反動形成的と彼女に見いっていると、知らぬげな少女は母親の袖をひくと この人、顔がかけなくなっちゃったのね 作品群、といっても非常にすぐれている、念のため ) が「を マンネリズムに陥しいれてきた大道具に対する偶像破壊的な意図とささやくところだった。というのはウソだけど。 をもって書かれた」と指摘しているが、それはそうした意図を越 えて、 ( ラードにと 0 ては自分の腰かけている木の枝を切り『終着の浜辺』以降の作品を、これまで本稿で試みてきたような方 落とす作業に他ならない。そうした的現実の検討を経て、始法で語るのは意味がない。なせなら、それらは的確に《風景》とし めて、、 ( ラ 1 ドは〈現実〉という地表に到達した ( あるいは転落してあるからだ。 ぼくは、風景とは空間と時間の定型化であり、外なる風景は た ) のである。 ああ、恥ずかしい。力「クラ〈、キリ = を観に行 0 たのは寒い土曜精神という内なる状態を直接映し出すものだと考えている。じ 0 さいには、何らかの意味を持っ外的風景だけが、もしあなたが望 日。ぼくはわりかし絵が好きだけれど、展覧会にはいつもある種の 覚悟が必要だ。どうしても、あの " 芸術家。たちになれることがでむなら〈中枢神経系〉の内にとい 0 てもよいが、その直接のアナ ログによって反映されるものなんだ。いつだったかダリが〈精 かならず一人か きない。とにかく、絵をやってる奴等のなかには、 一一人、と 0 ても偉そうな顔した貧ポ 1 学生がいて、彼等に、顔を見神〉とは〈風景〉の一つの状態たと言 0 たと思うのだが、・ほくよ これらはまったく真実だと考える。 ただけで打ちまかされてしまうのがひとつ。それで逆に、他の奴等 前出の対談で、バラードが答える。それをいかにリアルのまま促 はというと、耐えがたいアジャパーが女の子なんかに絵の講義をし : だが、時代はこんなにして変わってしまった。・ハ えつくすか : てたりして、それでとっても許してほしくなってしまうのである。 1 ドが描きだした《風景》の意味については後述しよう。それより だいたい俺は、デザイナーと称するは絶対、信用しないのだ。畜 もまず、なぜバラードであり〈新しい波〉だったのか。ーーー基本的 生 ! ( これはひとりごと ) それでキコリを見て歩きながら、アッ、 に、そんな時代の神話として、ぼくが好きなのは、毛沢東のこんな この人の絵はとても弁証法的な発展過程を辿っているな、と気がっ 「われわれにとって、ある人、ある党、ある軍隊、ある き、ついでに絵画ってのは結局レイアウト感覚なんだな、と思いつ事葉だ いて、頻出する緑の空が暮れなずむ様子にふと、それに少しばかり学校が、もしも敵に反対されないなら、それはよいことではなく、 の色彩感と一人合点した。キリコは、「不安げなミ = 1 ズたち」前きっと敵と野合しているのであゑとわたしは考える。もしも敵に 9 9 後を頂点に、悪しき発展と同時に、晩年には狂気を獲得しながら反対されるなら、それはよいことであり、われわれが敵とはっきり ( 最近は正気みたいですね ) 歪んだ暗合の群をうねるような太陽へ一線を画していることを証明している。もしも敵がやっきになって