空 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1974年3月号
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1. SFマガジン 1974年3月号

「そら、見たことか」 しわくちやばあさんが曾孫に言い、曾孫はわあッと泣き出した。 「そら、ごらんなさい」 道端にたむろした奥さんのひとりが、はしゃいだ声でそういうと まわりの連中、悲鳴みたいな声で笑い転げる。 「そら、あかんわ」 でっぷり肥った商売人が、つれない表情でそう言った。 「そらよ」 赭ら顔の男はペッドの上へ、ぽいと札東を投げ出した。 「そらで言えるんよ、ギンズ・ハーク」 まぶたの上下に隈取りした娘が、どこか悲しい語調で言った。 「ミソラ・ヒ・ハリと一緒に育って来たんだ」 中年男が酒場で言った 1 「ソーラン罪で逮捕する ! 」 警官がどなった。 「ヤーレン・ソーラン・ソーラン・ソーラン」 赤銅色の男が唄った。 そら〔空・虚〕 ( 名 ) 〇天と地との間のむなしいところ。空間。 空中。〇天。あめ。〇空模様。時節。 @方向。場所。⑤気持 ち。心持ち。〇心が落ちつかないこと。うわのそら。②根拠が ないこと。 @かいのないこと。のうそ。偽り。 C 文書を見ない で読んだり話したりすること。 空いびき寝たふりをしてかくいびき。 空うそぶく日空と・ほけたふうをする。 空うつぶくⅱそしらぬふりをしてうつむく 空酔いⅡ酔ったふうをすること。そらみだれ。 空恐しいⅱ何となく恐しい 空覚え " そらでおぼえること。うろお・ほえ。 空お・ほめき日そしらぬ顔をすること。 空お・ほれ日と・ほけること。そらと・ほけ。 空隠れⅱ偽って不在を装うこと。いるす。 空数う日そらにおおよそに数える意か。嗜説あり。 しいかげんに聞き取ること。 空聞きⅡ 空曇りⅱ空のくもること。 空軽薄Ⅱ心にもないお世辞をいうこと。 空答えⅡ口先だけのいいかげんな答え。 空言Ⅱ虚言。うそ。偽り。 空事日本当でない事柄。大げさな事。 空鞘日刀身よりも不相応に長いさや。 空騒ぎ日わざと驚いたふりをして騒ぐこと。からさわぎ。 空死にⅡ死んだまねをすること。 空消息Ⅱにせ手紙。偽りの伝言。 空知らず日空模様ではわからない。わざと知らないふりをする。

2. SFマガジン 1974年3月号

空誓文Ⅱうその約束。 空空しい日知っていて知らないふりをする。 空だき日どこからかおるとも知れないように香をたきくゆらすこ と。 空頼みⅡあてにならないことを頼みにすること。 空頼め日むなしいことを頼みに思わせること。 空礫Ⅱ目標もなく打つつぶて。 空聾Ⅱつんぼのふりをすること。 そらで 空手Ⅱ神経痛。 空解けⅡ帯、腰ひもなどが自然にほどけること。 空惚けそらとぼけること。 そらな 空名無実の評判。 空泣きⅡうそ泣き。 空鳴きⅱ鳴きまね。 空嘆き日嘆くまねをすること。 空情け日うわべだけ愛情があるようにみせかけること。 空名乗りⅱ偽名を使うこと。 空涙日偽って流す涙。うその涙。 空悩み日仮病。 空なる恋Ⅱとりとめもない恋。はかない恋。 空似日血縁でないのに顔つきがよく似ていること。 空音日偽わってまねる声。うそ。偽りごと。 空値Ⅱ掛け値。 空寝日たぬきねいり。 空念仏Ⅱ信仰心を持たずにただ念仏をとなえること。 空呑み込みⅡ早合点。 空恥かしいⅡ何となく気がひける。 空腹Ⅱ偽って腹が痛いと見せかけること。腹を切るまねをするこ と。 空聖日名だけのひじり。偽りのひじり。 空ほでりⅡタ焼け。 空豆Ⅱマメ科の二年草。北アフリカ原産。 空耳日聞きあやまり。聞いてて聞かぬふりをすること。 空目Ⅱ見ちがえること見て見ないふりをすること。 空めく日うそらしくみえる。 空物語とりとめない物語。うその物語。 何と空は評判がわるいのだろう。 空を復権せよ ! * 以上、連作「街の博物誌」各パートの雑誌掲載を終了させていただ きます。前後に序曲、終曲をつけ再機成し、早川書房、四月刊の予定 Ⅱですが、実際は、ほぼ中間あ です。なお、本稿は発表順ではパー たりに位置するパートであることをお断りしておきます。

3. SFマガジン 1974年3月号

澄み渡った冬の日。 風花が舞う。 あの雪片はどこから来るのか ? ふっとおれは思い出した。 0 0 0 0 0 0 少年の日。空にキツッキがいると、話してくれた女のことを。格 子のはまった冷たい部屋だが、蜜のにおいの充満していた、敷きっ めた蒲団、あの女の部屋。 空にはキツッキが棲んでるのよ。 連作く街の博物誌 > バート 11 空につし、ての 七つの断章 河里予典生 画 = 島津義晴 空のかけらは雪の花 きらら、きららと雲は生まれて 光の波をぬって泳ぐ邸あいつ ? カーンと澄みきった・・・・・・空を復権せよ ! ー 5 3

4. SFマガジン 1974年3月号

アカゲラ、コゲラ、オオアカゲラ。 、はかねえ、オケラの名なんかじゃないんだったら。 アオゲラ、エゾオオアカゲラ、オオアカゲラ。 みんなみんなキツッキの名前なのよ。 アカゲラはキョッキョッ。 ヒ アオゲラはヒョ 1 コゲラはゲーだけ。 いろんな声で鳴いたりするけど、どいつもこいつも、することは おんなじ。 コツ、コツ、コツ、コツ、穴を掘るのよ。 よくまあ飽きもせず掘ってるもんよね。 空の裏側、ちまちまちまちま、まあ、いつばい、ひしめいて、ほ ら。コゲラなんかはアズキの粒だよ。アオゲラ、アカゲラ、なまい きに赤いべレーなんか、かぶっちゃって。知らない ? まあ、帰っ て図鑑でも見てみることね。あれで、あんがい、キツッキってえの は酒落っ気があるのよ。 するこたあ、とっても酒落っ気ってもんじゃないけどね。 ああ、しんどいねえ。 穴掘らすほうも楽じゃないわよ。 あ、なんの話だっけ。 ああ、空の話ね。 カーンと澄んだ空。まっさおな空。その裏側、いつばい、ひしめ いて、コッコッコッコツ、穴掘っているキツッキの話。もちろん、 連中、いくらがんばったって、空など、なくなりやしないわよ。 それじゃ、なにやってんだか分んない ? そう、そういう見方もあるわけね。 鳥子さん。 とうとうこれで十三通目だ。 もう、なにを書いていいか分らない。 ・ほくは、たしかにアリゲーターだ。 もう、アリゲーターであることを否定しない。自分が鰐であるこ とを否定しない。 好きなんだから、やらせときゃいい。 そう言っちまえば実もふたもないけど。 ま、キツッキのやってること、まったく、あたしたちに分んない ってわけでもないのよ。 ほら、ときどき、まっさおな空から、まったくどこにも雲なんか ないのに、ひらひらひらひら、白いもの降ることあるでしよ。あれ は、キツッキが砕いた、ちっちゃなちっちゃな空の破片よ。透明で も青くもないじゃないか ? あんた学生のくせに物理もならってな いの。ガラスだって氷だって海の水だって、こなごなに砕いてごら ん。ほら、まっしろに見えるじゃないのよ。空気なんか、まざっち ゃうんでしよ。光のクッセッのせいでもある ? ま、なんか、ちゃ んと理由はあるってわけ。 空なんか砕いても、なんてことないのにね。 穴なんか掘っても、なんてことないのにね。 ま、空なんて、いやにとり澄ましていても、内実、とてもいやら しいんだから。 もっと掘って、とってもいいわ。 なあんて、くだらないことを言ってるか、知れないけどね。 24

5. SFマガジン 1974年3月号

極彩色の布切れの筒が、なんだか空に浮んではいたが、光は光、 そう言えば辞典の隣りには、こんなふうな項目もある。 空は空、風は風と感じるだけで、五月よ、青葉よ、夏の光よ、そん くらげ〔暗げ〕 ( 形容詞「暗し」の語幹「くら」に接尾語「げ」 なふうには感じなかった。 の付いたもの ) 暗そう。暗い様子。「海なる月のくらげなるか都会に棲んでたわけじゃないさ。 な〔続千載〕」 都市近効ではあるのだが、私鉄沿線、新開地の、まばらな商店 街、ラ 1 メン屋の二階、タ・フロイド新聞と言えばかっこいいが、毎 海なる月の暗げなるかな。 週一回新聞にはさむ、広告新聞を作っていた。 同じ月でありながら、なんという苛酷な差別だろう。もし海月が むろん、ひとりでやっていたのさ。 ある日、満月のように、海で輝きはじめたとしたらー たいてい、。ほかんと鼻くそほじって、窓から空など眺めていた 空の月はどうなるだろう。 みえるかみえないかの半透明で、月の野郎、無数の触手を動かし じいさんが来たのはそんな日のこと。 て、空をただよい続けるにちがいないさ。 いかにも重い足音が、どたり、どすん、どったり、どすん、木の 階段をあがって来て、ギーツとドアを押しひらいて、彼は、・ほくを じっと見つめた。 まったく笑わないじいさんで、まるで死んだ魚に似た灰色の目を 幾筋もの細長い白い雲が、遠い山脈のかなたに延びている。 山脈のあたりは西の空で、はるかな末端、赤く染まり、次第に空したじいさんたった。 も暗くなる。 むろん髪もヒゲも灰色で、着ているものも灰色だった。 あれはきっと、綿吹き病の女が、山のむこうに横たわってて、あ「なにか : : : 」 ちらこちらの傷口から、どんどんどんどん際限なく、綿吹き続けて ・ほくがポソッというと、じいさん、ポソッと言い返した。 るにちがいないさ。 「じつは : : : 」 そのまま二人は黙っている。 窓の外には空、風、光。 極彩色の布の筒。 やがて、じいさん、もそもそ動き、天色だぶだぶのジャン。ハー ら、ぐいと何かを擱み出し、どさっと机に置いて来た。 驚ろくなかれ原稿用紙さ。 そのころ、・ほくは疲れていた。 疲れることにも疲れていて、見るもの聞くもの透明だった。 時は五月。 鯉のぼりの季節。 、 0 、刀 7

6. SFマガジン 1974年3月号

、頭を振った。 あれは何だ。 毎日毎日、眺めているので、いままで気がっきはしなかったのだ あの飛んでいるやつは ! が、じいさんの躰、縮んでやしないか ? あの飛んでるあいっー ・フランコの上から遊動円木、遊動円木から砂場の端、ときにのろ いや、飛んでるんじゃない。泳いでるんだ。空を、いま、泳いで のろ移動するとき、まるで重たい何かの中、かきわけかきわけ進んるんだ。いや、空じゃない。ここはどこだ。あの光のゆらめき、あ でるみたいに、じいさん背中をまるめてるが、じっさい、じいさんれは波か ? の身長じたい、毎日毎日、縮んでやしないか。 空に波か ? いま、・フランコに乗ってるじいさん、もう小学校三、四年の感じ あいつが泳ぐ。 あいつらが泳ぐ。 遠目でそうみえるのかと思っていたが、やはりそうではなさそう ちいさな、あいつら。人間の顔のあいつら。もう鯉のぼりもない なのだ。 真夏の空。どこから、わいて出たか、たくさんのあいつら。 したい、これはどうしたことだ ? ああ、じいさんー じいさんじゃないかー ぼくは、すっかり頭をかかえ、あげく何だか熱を出して、それか らしばらく、勤めを休んだ。 じいさんが泳いでいる。灰色の肌だが、もう目は灰色じゃない。 ほとんど、ひとりでやってる仕事で、アパート の部屋でも用は足つやつやした黒い、生きた魚の目。表情はどうだ ? 笑ってるじゃ りた。だから、四、五日ごろごろして、翌週月曜、ラーメン屋へ来な、、ー いや、魚が笑うわけはないな。 だが、大きく開閉し、生き生き動く、じいさんの鰓は、まったく 医者の診断は夏風邪だから、なんということはないはずだったの だが、しばらく熱を出してたせいか、躰が重くてしかたがなかった。笑っているようにみえるじゃないかー 空をみれば不思議な空で、太陽の光、分散した感じ、ゆらゆら何 かがゆれてるんだ。 その日、・ほくはラーメン屋の二階、あがって行くのを中止して、 透明な何かがゆれているんだ。 そのまま、 - 公園の・フランコに乗った。空気がしっとり、肌になじ 公園にじいさん、もういなかった。 む。鼻孔にはかぐわしい香り。 とうとう、あきらめてしまったのか。 季節は真夏。 それとも、やつばり病気なのか。 ときはまひる。 そう、・ほくは思い、ふと顔をあげた。 こ 0 えら

7. SFマガジン 1974年3月号

凡社からは、なにももらったわけじゃないが、ぜひおす ところが、どうしても師とあがめるような名仙にであすめする。さて、話を「後西遊記」にもどそう。 そのころ、中国の仏教界は乱れていた。というのは、 えない履真、がっかりして花果山に帰り、近くの洞穴で 火座禅を組んでいると、突然、師は自らの心に中にあるこ二〇〇年前に三蔵法師が苦労して天竺に渡り、せつかく っしか教が曲解さ とを悟ることができ、七二変化の術を会得する。悟空の三蔵真経を中国全土に広めたのに、い きびしい神仙修業と比較すると、はるかに楽で日数がかれて、徳のない僧侶が栄えるようになってしまったの 人 だ。これを、今は仏となった三蔵が天界から眺め、悲歎 からないが、これは悟空の七光りだ。 孫履真はしばらく周囲を平定し、猿たちの王として君にくれて悟空をたすね相談した結果、二人で人間の姿に 臨しているが、そのうち家来たちに頼まれ、天界の西王身を変え、諸国の寺を廻って正しい説法をしようという ことになっ 母に仙酒、仙桃、仙丹をせがみにいく。悟空の子孫とは 知らない西王母、適当にあしらっていると履真は酒に酔た。ところ って暴れたす。話の展開がかなり不自然だが、作者はこが、ほとんど こで孫悟空の天界での大暴れを再現しようというわけの僧侶たちは 三蔵のいうこ またまた天界は大騒動。かって孫悟空が暴れた時に活となど耳を貸、、一 4 躍した二郎真君が出陣しようとするのを太白金星老が押そうともしな 。怒った三 えて、ここはひとっ孫履真の先祖にあたり、今は闘戦勝 仏となっている悟空に意見してもらおうではないかとい蔵は教を封じ うことになる。さっそくやってきた孫悟空にさとされてて教典が開カ は、履真も返すことばがない。頭に金箍児をはめられないようにし、 てしまった。 て、しおしおと水簾洞に帰ってくる。 ここまでが、全体の六分の一ほどだけど、やはり呉承徳のない僧 恩の「西遊記」のスト 1 リイを知らない人にはおもしろ侶が多い中、 くないかも知れない。だから、この「後西遊記」の紹介に、大顯とい をおもしろく読みたい人は、平凡社の中国古典文学全集う立派な僧が 「西遊記」上下二巻を読んでからのほうがいい。江戸時いた。これを 代の抄訳による第一訳「絵本西遊記全伝」から現代ま知った三蔵 で、日本語に訳された「西遊記」は五〇〇〇篇を越えるは、この男な が、今のところ平凡社の全集の右にでるものはない。平ら自分の後継 ′ノ 9 8

8. SFマガジン 1974年3月号

驚くことには、大ことで大阪の堀書店というところから判六五〇ペー ジほどの大冊で刊行されている。訳者は詩人で国文学者 ぎな石がまん中か ら裂けて、一つのの尾上柴舟。さすがに訳文がうまく、「西遊記」ファン 石の卵を生みだしにはこたえられない一冊だ。 ている。それのみ こうして花果山の石が、またまた石猴を産んだ。 ならず、その石の たまたま、この文を書いている最中は「週刊読売」に陳 卵は、風のまにま舜臣氏の「新・西遊記」という連載が始まったので、期 に廻り廻っていた待に胸をふくらませて立ち読みしたら、〈孫悟空が石か : 、たちまち強くら生まれたという設定は、この物語がありうべからざ 高い響をたてて、 る、荒唐談であることを、前もってしらせるためであろ また半分にわかれう。『石』は不毛を意味する。だから、子供を生めない てしまった。する女性のことを『石女』というのである。ものを生めない と、そこから ) 一石が、お猿を生みました。わっ、はつ、はっ : : : という 匹の石猴が現われ調子で、西遊記は始まるわけだ。わっ、はつ、はつ、そ ・ : といったふうに読者は応じなければなら た。小さいが、身うですか。 体はすっかり出来ない〉と書いてあった。参考になるので買ってしまっ あがっていて、手た。だから、この「後西遊記」を読んでいる人も、もう 足もみんな備わっ 一度、発端のところを読みなおして、わっ、はつ、はっ ている。その足を : と笑ったほうがいし 孫悟空が生まれてから約 動かして、はや歩一千百年後のことだ。悟空が水簾洞の主人であったこ いたり、走ったりした。二条の金色の光は、その石猴のろ、目をかけてもらった老猿通臀仙は、この石猿を旧主 人孫悟空の子孫と尊敬し教育する。 眼からさし出たものであった。 斎天大聖孫悟空にあやかって、自ら「斎天小聖孫履 と、こんな発端の小説がある。題名はずばり「後西遊真」と名づけた石猿は、祖たる悟空の行状を聞き、自分 記」みんなの知らない「西遊記」の第一弾。題名からもも悟空のように神通力を持った神猿になろうと日夜努力 わかるとおり、「西遊記」の続篇というわけだ。作者はする。水簾洞の後方に山があって、その頂には悟空の使 天花才子という人で、書かれたのは乾隆癸卯年というかった如意金箍棒が立っている。孫履真はそれを動かして ら西暦一七八三年、呉承恩の「西遊記」から約一一〇〇年みようとするが、少しも動かない。自分のカのなさを知 後の作品だ。日本で翻訳されたのは戦後、昭和二三年のった履真、悟空と同じように神仙修業の旅にでることに 「東遊記」插絵 , 牛精王に化して宴に臨む 8 8

9. SFマガジン 1974年3月号

下宿の赤茶気た畳に腹這いになり、ときに上目づかい、空を眺め枯れ草だの、岸辺の雑草だのを材料にして、積みあけ、自分自身 いつばいに浴び、この手紙書き続けているの体重をかけて押しつぶし、直径二メートル、高さ一メ 1 トルもの て、射しこんだ西日、 ああ、・ほくは、何とくだらないことを言っているのだ。 : 、まっきり分る。 と、・ほくがアリゲーターであること力を 丸みをおびた偏平な頭部、八列の背鱗板、黒光りするそいつが陽きみの非難しているぼくの習性は、そんなものには、何の関係も に照らされて、じりじり灼ける。お好み焼屋の鉄板のように灼ける。 そして、ぶ厚い皮膚の内側、ぐっぐっ煮えたぎっている食欲、性この空の下、・ほくが光を浴びることを、きみは非難しているのた から。 欲、物欲にまみれ、ぐしゃぐしゃ押しこめられた内臓。 ・ああ、ぼくはそれらを否定しない。 ・ほくの目の瞳孔。 図鑑に書かれているアリゲータ 1 鰐の、あの、おそましい習性も猫に似た縦に切れた瞳孔。 否定しない。 強い光を受け、細い一直線になる・ほくの瞳孔を、きみは非難す あなたの目は、まっくらじゃな 夏の繁殖期、いやらしい叫び声をあげ、下顎の端にある分秘腺、る。猫はまだ色があるからいい。 。夜になって、血に飢えた光をギラギラ放っため、ただただ光を もしくは総排泄腔から、臭気のある分秘物を流し続ける、あの雄の アリゲ 1 ター 吸い取ってるんだわ ! 鳥目のわたしに噛みつくんだわ ! ああ、鳥子さん。 それらの習性を否定したい。 ・ほくはそいつも否定しない。 泥の中、身をゆすって、雌にのしかかり、激しく交尾をせまる、 ど・ : ・まくはきみを恋した。 その習性を否定しない。 きみに交尾をせまりたいー 交尾 ! ああ、鰐はどうして鳥ではない ? そうだ、交尾をせまるのだ。 飛べない鳥だっているじゃないか ! 鳥子。 泳ぐ鳥だっているじゃないかー いっかのぼくのように。 夜は眠れとでもいうのかい ? 一通目の・ほくの手紙が書かれる直前のぼくのようにー このまっぴるま、明きめくらの目で、餌物をとらえろというのか だが、鳥子さん。 ああ、この空の下、さんさんと降る光の中、ただただ光をた それがアリゲーターの罪だろうか ? くわえるだけの、この暗黒の瞳をひらいて、走りまわれというのか 交尾を終えたアリゲ 1 タ 1 は、決して雌に背を向け、逃けだした りはしないんだよ。産卵の時期には、みずから巣づくりにはけむんいフ ああ、そうしろというなら、そうしてやるさ ! 5

10. SFマガジン 1974年3月号

望のウルフガイ・シリー ☆新連我 / ( 第・・回 ) 平井和正 狼のレクエム " 虎部隊。にかくわれ深山の廃村に病の身を横たえる青鹿晶子に不幸の翳か 、。次 3 り盟◎ 失われし時のかたみ 発明の時代 すばらしい財産 ぶとうの木 ◎ 0 い そして目覚ると、わたしは この肌寒い丘にしニ り 0 イゅ 夢の樋 白魔誕生 ( 一一 ~ お 連作一街の博物誌。ハ 空についての七章 ズ第三 /