考え - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1974年4月号
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1. SFマガジン 1974年4月号

一年に一代の結婚が、公認制度だとしますと、今の時代に、結婚 度 ( ? ) の が公認制度であるのと同時に、さらにその範囲を拡めて 。勲い ~ 未婚男女の結婚前の性行為をも公認しているとしますと、それは少 フリー・ セしも社会制度の違反ではなく、したがってあなたのおっ ックス公認しやる、堕落には当らないじゃありませんか」 ( 中略 ) 日の描写が「私にはわかりませんの、どうして青年の性欲を、そん ある。ちょ なふうにして圧迫しなければならなかったかと , ーー。青 っと読んで年の性欲は、旺盛で、しかも純真なのですわ。それを淫 みよう。 売その他の不自然な性行為で充たさなければならない、 その不自然さや悪徳を避けなければ、肉体の上に当然起 春夫は、 こる自然現象を、なんの正当の理由もなく抑圧しなけれ そこここのばならないのではありませんか。社会はまるつきり青年 木の株の下や、灯籠の蔭に、男女幾組かの人影を見出しの性欲を封じていることになりますわ。それはまったく た。彼らは、のびのびと芝生の上に体を横たえたり、肩牢獄そのものではありませんか。ことに日本のような男 を並べて坐っていたり、木株に背をあすけながら両足を女交際それ自身をさえ認めなかった東洋流の道徳の国で 伸ばしたり、まるでエデンの花園にでも遊ぶように自由は、性の牢獄として完全なものでしたわねえ。春夫さん な、思い思いの姿態をしていた。 ( 中略 ) あなたはその時代を牢獄とはお考えにはなりませんでし 「未婚男女が無節制に性欲をほしいままにしたり、狂態たか ? 」 ( 考えます。考えます。身にしみて牢獄を感し を演ずるのは、百年前には立派な堕落とされていたのでておりますーー >-»・ >«) 本 年 「では既婚者だけが公けに性欲を認められるということ理論の是非は別にして、なんと進歩的な考えかただろ 百 になりますのね。それ以外の者の性行為は堕落とか、罪う。現代作品なら、どうということもないが、昭和五年 悪ということなのですの ? 」 の作品となると、いささか驚きを禁じ得ない。 測 「時代は一般にそう認めていました」 ・・ウエルズの「世界はこうなる」やバークンへ 「それでは結婚による性行為が認められ、結婚によらな ッドの「二〇三〇年の世界」が著名であるのに対して、 い性行為が認められないとしますと、結婚を標準とするこの「百年後の日本」が松谷与二郎の名前とともに % 根拠はどこにありますの ? ファンのあいたにさえ知られていないのは残念なこと 「それは、結婚が社会の公認制度だからです」 中 的 「おかしいわ。ではなんじゃありませんか。あなたの時年代が前後してしまったが、大正一五年大阪毎日新 ー 50 に

2. SFマガジン 1974年4月号

んで迎え入れるべきなのです ! 」彼女の顔がふとほころんだ。「塩「わたしの言う一」ときいてもらえるとは思わなかったわ、きっとわ は、シュリープリルと言います たしを撃つか、でなければ、どこかへ閉じこめてしまうかーーー」 リンジ = ン人の間から、息をつめたようなヒ、ーという声が湧き「みんな、戦争は望んでいないんだよ」彼はささやき返した。「言 おこり、うす紫のリンジェン人は、椅子から腰を浮かせたが、また ったろう。今はわらでもっかみたい気持ちなんだ。たとえそれが、 すぐ腰をおろした。 厳粛な会議にとびこんできて、スリツ。フを見せ声高に説得する女で ジェネラル・ウォーシ、マンは、紫のリンジェン人をちらりと値あってもね ! 」そこで彼は、キッと唇を結んだ。「いったい、、 ぶみするような目つきで見て、唇をす・ほめた。「だが、いろいろとからこんなことになっていたんだ ? 」 こまかい問題があるーー」 「スプリンターは、二週間くらい。わたしは、一週間とちょっと」 「こまかい問題ですって ! 」セレナは、吐き出すように言った。 「どうして話してくれなかったんだ ? 」 「お互いにほんとうによく相手を知りあったら、解決できない問題「話そうとしたわーーー二回ほど。でも、あなた、聞いてくれようと なんて、ありません ! 」 しなかったでしょそれでもかまわず強引に言うの、こわくてでき 彼女はテープルを見まわし、ソーンの顔が和らいでいるのをみなかったのよ。それに、あなただって、それをきけば、どういう反 て、心からホッとした。 応を示すか、自分でもわかってるでしよ」 「わたしと一緒にいらしてください ! 」彼女はせかすように言っ ソーンは言葉もなく、やがて一同は丘のふもと近くまできた。 た。「そして、ドウービーとスプリンターが仲よく遊んでいるとこ彼が口をきった。「どうして、あんなにいろいろと知ることができ ろを見てください リンジェン人の幼い子供とわたしたちの幼いたんだい ? なんで、解決できると思うようになったんーー」 子供です。、疑いだの恐れだの、憎しみだの偏見などを知らない子た セレナは、ヒステリックに笑いだすのを、かろうじておさえた。 ちです。会議を一時休憩にするなり、中止するなりして、わたしと「ビクニックに卵を持っていったのよ ! 」 一緒にいらしてください。子供たちを見、ミセス・ビンクが編みもそこで一同は立ち止り、壁の下の穴を見おろした。 のをしているところを見ていただけたら、この問題について、わた 「スプリンターが、あの道を考えたのよ」セレナは弁解がましく言 したちは家族の一員のような気持ちで、話し合えると思います。そった。「で、わたしが大きくしたの。でも、ここを通るには、しゃ して、それでもなお、戦いが必要だとお考えなら、それならーー」がんでーーはいつくばらなきゃならないわ」 彼女は両手を拡げた。 」 , 彼女は砂の上に体をおとし、囲いの下をモゾモゾと進んでいっ 一同が丘をくたりはじめると、彼女の膝はガクガクとふるえて、 た。そして向う側でしやがみこみ、膝を胸にくつつけ、組んだ手を ソーンの助けをかりなければ歩けないほどであった。 口に押し当てて待った。長いこと、誰一人口をきかなかった。やが 「ねえ、ソーン」彼女は、すすり泣きに近いささやき声で言った。 てものが軋む亠日に、ウーンという声がきこえ、ジ = ネラル・ウォー 8

3. SFマガジン 1974年4月号

「異性との不純交際は三年の実刑ーとか、未成年者向きのプロ。ハガ ほとんど同時に、松林の中、工場街の中など、十数カ所にあるサ ーチライトが黙って、威嚇的な巨大な一つ目を、ゆっくりと前後左 ンダの標示がある。闇の中だから、今は字が読めず、ただ・ほんやり と白い小さい空間が、黒い木の枝と枝の間に見えるだけだ。 右に回し始めた。強烈なライトだ。二十分ごとに五分間の、光のパ ふいと人影が動いたような気がした。目をこらすと、木の下で抱トールだ。倉庫地帯のどこかに人間の影があれば、自動的に・フザ ーが鳴り、人間のパトロールを呼びよせる。それを避けるには、。ヒ き合っているカップルらしい。こんな晩こそ、人目につかないだろ ッタリと地面に身を伏せて影を消す以外ない。 うと、ここへやって来ているにちがいない。 その人たちと顏を合わせるのを恐れて、ケンと拓夫が、少し後戻しかし、ふたりは、間一髪、倉庫と倉庫の間にできる、小さい影 の上から、双眼鏡で、今朝よくよく りして手前の道を曲ろうとしたとき、そのカップルらしい影は、ゆの死角に逃げこんだ。アパート つくりと立ち上ると、頭上の白い札をはずした。「三年の実刑」と観察し、研究しておいた避難所だ。 いうそれを、どこかへ捨ててしまうと、愛が成就するというまじな もう、ふたりはロを開かない。全身を緊張させている。風の強 いが、流行しているのだ。 さ、雨の冷めたさも、忘れた。五分が過ぎて、ふたたび闇があたり ふだ ケンは、自分たちの頭上にある同じような札を、靴を脱いで殴りをみたすと、目的の十一番倉庫に向って進み始めた。 つけ、はずして遠くへ投げた。なんの札かわからないが、たぶん ( さっきのカップルは、あの札を投げ捨てたあとで、まだ抱き合っ 「不審な未成年者の行動を告発しない未成年者には、一一年の実刑」てるのだろうか ) ケンは、ふいとそんなことを思った。すると、次の考えがすぐそ という札たろう。字数の多いのがわかったから。 れを追い散らした。 「まだ、パト戸ールの来る時間じゃないな」 ( ママが、なぜそんなに濡れたんだと言ったら、なんて答えればい 拓夫が言った。このとき、雨はまったく止んでいた。 いんだ ? ) 「今、八時一一十三分だ」 すると、また、まったく別の考えがそれを追い払った。 ケンは、フラッシュで、一瞬自分の腕時計を照らした。 ( 千円札は、。 とんな箱に入っているのかな。すぐ、ぶつこわせるよ 「案外早く歩いた・せ」 うな箱ならいいが、どうか、そうであってくれ ) 「風に押されるからだ」 それからまた、 「まだ七分ある。それまでに倉庫へ着かなかったら、地面に伏せ ( ママには、勉強に疲れたから、頭を冷やすために散歩に出たと言 て、パトロールを避けよう」 おう。ポンチョを着てれば、まさかこんなに濡れないだろうと思っ ふたりはできるだけ大股に歩いた。松林を出て、空地になってい このことは、うそしゃない ) る地帯を通るときは、ほとんど駆け足になっていた。八時三十分びたんだって言えばいい。 それからまた 、ったりに、倉庫の並ぶ区域にようやく着いた。 盟 9

4. SFマガジン 1974年4月号

いたの。今夜じゃないけれど、できるだけ早く。こうなっては答え 「では、あなたたちの星の動物ーーーわたしみたいな生き物は ? 」 8 冫をしかないわね。あなたは、わたしたちについてくるこ 7 「彼らはそれそれの生態系のなかで生きている。われわれはそれをないわけこよ、 乱すようなことはしないし、殺しもしない。食べるものは、自分でとはできないの」 「なぜ ? 」 裁培したり作ったりするんだ」 「ここにあるような犯罪は , ーーー殺人や暴行や強盗はないんですか「理由はわかっているはすよ。わたしたちは故郷の星に帰るんです もの」 「それならいっしょに連れていってください。わたしにだって、そ 「まず皆無だね」 こは故郷なんです , ーーわたしの考えや夢や希望が生まれたところな 質問と回答、やりとりはそんなふうに続き、彼らの前に寝そべっ たネズミは、奇妙なかたちの頭を前足のあいだにおき、尊敬と愛をんですからー こめて四人の男女を見つめた。そして、こんな問いを投げかけると「それがだめなのよ。 きが来た 「なぜ ? 」ネズミは懇願した。「な・せ ? 「わたしはここで暮らしてもいいんですか・ーーあなたたちといっし「わからないかな ? 」男の一人がいった。「われわれの惑星は、こ ょに ? これからの任務にも仲間入りできたらいいなと思うんでの太陽系にある木星と同じくらいの大きさなんだ。だから地球の標 す。あなたたちは残酷な種族じゃない。わたしを動物たちのところ準から見たとき、われわれの体はこんなに小さいわけさーー原子構 にもどすようなことはしないでしよう。あなたたちといっしょにい造じたいが、きみたちとは違ってるんだ。地球の計量単位でいえ させてくれますね ? 」 ば、わたしの体重は百キロ近くある。きみのほうは八分の一キロ足 彼らは答えなかった。ネズミは彼らの心にはいろうとした。だがらず。なのに体の大きさはほとんど変わらない。もしきみがわれわ テレバシーのゲームに関しては、まだ幼児なみだったので、彼らのれの惑星に来れば、引力圏にはいった瞬間に死んでしまうだろう。 心は閉ざされたままだった。 元のかたちなど想像もっかないくらい、べしゃんこになってしま う。連れていってくれというのは、殺してくれというようなもの 「なぜ ? ー 答えはなかった。 「なぜ ? 」彼は懇願した。 「でも、あなたたちの知能ならできないことはないはずだ」ネズミ すると女の一人がいった。「そのことをあなたに話そうと思ってはくいさがった。「わたしを改造してください。あなたたちと同じ

5. SFマガジン 1974年4月号

( この雨の中で、好きな女の子とキッスしたら、どんな気持がする彼は、けろりとして言い、ケンの肩を軽く叩いた。 だろうな ) 「あと、七分で光の 。ハトロールが始まる」 そして、それから、雨に濡れた臀がいっそう冷たくなって来る ケンは、腕時計の上に、フラッシュをふたたびくつつけてみて言 と、中西ケンの考えは、ようやく自分が、今しもしようとしているった。 ことに、密着した。 「それまでに、中へ入っちまおう」 「着いた。ここが十一番倉庫だぜ」・ 「おれ、小便したくなった」 彼は、拓夫の腕を捕まえて、言った。 「勝手にしやがれ」 「二列目の端なんだ」 「お札の切り屑に、ひっかけるか」 「いや、もうひとつ、向うだよ」 「なんでも、好きにやってくれ」 拓夫は、歩く速度をゆるめない。雨の闇の中に立ち並んで、黒く ふたりとも、なにか浮き上ったことを言っている。雨は冷めたい 城壁みたいにみえるその倉庫の前を通り越してなおも行こうとすのに、頭は熱い。ガタガタとふるえそうに興奮していた。 るアトの上から見ると、こじんまりと行儀よく番号をつけら「キーホールはどこだろう ? 」 れて並んでいる倉庫も、近くへ来ると、巨大で、順序も、視覚では ケンは、闇の中で言った。また大粒の雨がやって来て、ふたりの わからない。 少年の背中とともに、倉庫の壁にぶつかっている。 「じゃ、見ろ」 「おれ、手でなでてみてるんた。ドアを : : : 」 ケンは言って、とびはねるように、倉庫の反対側へ行く。 拓夫は、彼と並んで、両手を広い戸の上に這わしていた。 「ほら、みろ」 「フラッシュを、あまりふりまわすな」 そちらが戸口だ。ア。ハート の上から見える側だ。光のパトロール 「わかった」 のときには、特に危険な方の側だ。 「このキー、合うかなあ ? 」 少し離れて立っと、入口の扉に書かれた、白い文字がぼんやりと見ケンは、そのほうがむしろ心配だった。前に、自転車にかけるス える。小さいフラッシの光などは、とても届かぬ、巨大な文字だ。 ペアキーを作って、それが役に立たなかったことがある。 「ほら、見ろ」 ゅうべ父親のロッカーから持ち出し、町の合鍵やヘ駆けこんで、 拓夫が、ロまねした。この男は、どんなときでも、ユーモラスな・またすぐこっそりもとのところへ戻しておいたキー 物言いをすることができる。ときには、憎らしいが、おかげで気持ちきしよう、もとのほうを持って来りやよかった。もしこいつが が落ちつくこともある。 キミョームリヨー、・ だめだったら : シュニョーライ、ナムフカ 「やつばり、ここだったんだ」 ホーゾーポーザー、イーニンジー ・ : 死んだお祖母 220

6. SFマガジン 1974年4月号

「はい、神武天皇とはノアだったのではあるまいか」 「すると我々はノアの子孫ということになりますな」 「さあ、それはどうか。我々は神代以来、様々に混血しておりま す。しかしながら、そう考えるならば、古事記の神代の部分がかな かくてこの物語、冒頭にたちもどることになる。 り合理的に読めて参ります。たとえば、高天原とは、将しく天上に安永五年のいま、あたかも狂気の淵をさまよい迷えるように源内 あった。つまり、大洪水によって天高く水位のあがった海の上のこ が、懸命に取組んでいる発明とは何であったのか。 とであったと解釈できます」 唾指して障子に穴をあけてのそきみれば、薄暗がりの室内に、青 「うん、源内殿、おそれいりましたそ。拙者も記紀の類を読み、あ白き電気の灯がともっていた。 の不合理な話をば、なんとか合理的に読みとろうと努めて参った一 その相貌たるや鬼神と化している。 ひげ 人ですが、今やっと目が開かれました」 と見まごうばかり。 ・ : 伸び放題の髭、こけた頬、眼光のみら 「いや、貴殿のおかげですそ。源内奴も、長い間、天磐舟の意味がんらんとして物怪にとりつかれているようであった。 理解できなかったのです。日本人の先祖が舟に乗ってわが国土にや実験室は、荒寺のようなとり散らかしようで、見慣れぬ器具が目 ってきたとは考えていたがどうして天から天下ってきたと記述さに入る。 れているのか、納得できなくてのう。あるときは、本気で空を飛ぶ どうやら、重大な原理をみつけたところらしい。幽鬼のごとき顔 乗物ではなかったか、と考えたこともあったくらいです」 : 、にゆっと歩入った。 「それは、源内殿らしい考えでしたな。そういえば、飛行器を研究せわし気に、筆をとり何か不明の記号をかきつける。傍らの寒暖 トーフルランダーン されたことがあったとか」 計をみる。痩せ細った手が現妖鏡の角度をかえた。 「よい。 鳥をまねて空を散歩できぬか。しかし見事失敗しましたわ樫の一枚板を据えつけた作業台の上で、壜が音もなく滑った。松 い」 脂で絶縁されている巻貝だが、霧が呼びよせられた。 「いや、失敗してよかったのです、源内殿。万一成功でもしたら、 源内、銀箔の揺れを凝視する。蓄電壜をとりかえて、やり直して エレキメートル 自然の理にかなわぬ不穏の行いをした廉で、小伝馬町行でした」 みる。「まずいな」と独言。銅線をむすび代した。験電器の針が揺 「確にいわれるとおりですな。今宵の話なども、公儀の耳に入ったれつつ動いた。今度は歓喜した。 ら、即刻打首獄門まぬがれないでしよう」 と、 「そうです。されば決して他言無用。桑原桑原 : : : : ・」 「父上 : ・ 源内と江漢は、互いの顔と顔を見合せあっていた。 「誰じゃ、幻之進か」 と振り返らず、読みとった数字を書き入れている。 8

7. SFマガジン 1974年4月号

たとえばの話、″大東閨語″なる江戸の戯書で、太宰春台の作と ということは、わが国にも、渡来妖術の思想を受け入れる素地が伝えられる一書には、こともあろうにかの常盤御前をして、「 : ・ あったことを意味しているではないか ・ : 義朝害ニ遭イテノチ、平清盛コレヲ納レ、ハナハダ寵ンデ房ヲ専 きゅう そもそも古事記、日本書紀が集大成したといわれる諸国の説話、ラトス。清盛ノ尿剛強ニシテ通宵欲プホシイママニシ、英気タュマ 伝誦の類からして大いに呪術的であったのだ。 ズ。常盤スデニ疲レ、汗シルノゴトシ。強イテ臀ヲ揺ガサンコトヲ きよききいん 強メ、歔欷欷咽ス」と寝屋の有様を描写しているそうである。その 5 他、諸例多々あるが控えるとして、今の世も江戸もさして変わりは ないのだとわかる。 さて、源内の体験したこの富士の裾野の出来事、一夜のその後の勿論、この妖しき女の時代とおばしき万葉の時代においても大差 よよ、つこ。 進展はいかがあいなったか。 きちょう さいばら おそらく、かたちうるわしき女は、源内を几帳の陰にさそったに催馬楽に次の歌がある。 とばりちょう おおぎみ ちがいない。で、 : 古語に優美をなまめくというが、女は″袖〃我家は帷帳も垂れたるを大君来ませ婿にせむ みさかな あはびさだお にて口うちおほいて、ふし給へる額つき、いとろうたげになまめか御肴に何よけむ鮑・栄螺 ( さざえ ) か石陰子よけむ きちょう し″であったのではあるまいか。 意訳するならば、「わが家では間仕切用に几帳など用意して、家 そして、その姿態のやがて、 いと、しどけなし″となったの族から見えないようにいたしますから、どうぞお立ち寄りくださ は、この際、成行きであった。 。娘の婿になって欲しいのです。ところで、御肴には何がよろし これは、男女のかたらひ ( 契り合うこと ) であるからして、貴賤いでしようか、 xxx ( 伏字 ) ・ の区別はない。い や、この際は、人間と神仙の分け隔てはなかっ 以下はロ語訳をはばかる内容である。 た、と申すべきか。 当時、この歌は堂々と放吟放歌された。まことに大らかな時代だ のちに戯作者として文名を挙げたほどの人物だった源内は、若くったのである。 ともなかなかの粋者であったはずだ。″据膳喰わぬは男の恥の心 根で、「いと、はづかし」と頬を染めた女の肌着をもかき開き、 さて、またさてだが、幻夢の一夜が明ければ、ふたたび富士の裾 かな たくめでで、「いと、愛し。いと、愛し」と囁いたとおもう。 野。薄がさわさわと風になびく。 げん ところで、上記の表現、はなはだ下品である。眉をひそめたむき源内は腕を組んで考えこんだ。 も多数かと推察する。しかし、時代が時代だけに止むをえないの寝物語に語った女の言葉では、三輪山の神霊ともおもわれた。と だ。源内とて、世相の子であるのだから。 するならば、ヤマトトトビモモソヒメゆかりの者かもしれぬ、と。 8

8. SFマガジン 1974年4月号

のだが、ここでは一つのものとして扱うので了承せられ たい ) " 烟囹未来予測小説の傑作「百年後の日本」 したがって、戦争問題などに触れていない未来記では 予定以上に「不死人」にス。ヘースをさいてしまったた驚くほど予測の的中しているものがある。たとえば、キ 大 リスト教社会主義者の賀川豊彦が大正一一年に書いた め、残りページが少なくなってしまった。この後は日本 の未来社会を描いた古典の中から、予言的要素の強「空中征服」は、未来記とさえ呼びにくいような風刺的 絵 い作品を駈け足で紹介していくことにしよう。今度はノ要素の強い作品だが、「このまま、工場の乱立を続けた ら、大都市は近い将来、媒煙やスモッグのために壊減す ストラダムスに挑戦だー 中 とエラそうなタンカは切ったものの、・ほくの本箱の中る」という警告をメインテーマにしており、川崎や四日 空 には、かなりの数の日本未来記的があるにもかかわ市などの媒煙公害をずばり予言、指摘した小説として高 らず、現在の日本の姿に近い世界を予言した作品は非常く評価されていいものだ。スト 1 リイについては本誌一 に少な 。というのは、ほとんど全ての作品が来たるべ四四号に拙稿があるので重複を避けるが、日本の予言小 き世界大戦 ( すなわち、第二次世界大戦 ) を予言してい説としては最右翼にランクされる一冊ではなかろうか。 るまではいいのだが、それに日本が勝利することを前提・ほくの読んだ十数冊の未来記の中で、媒煙公害を予測し として描いているために、大東亜戦争に敗れ、アメリカているのは、「空中征服」だけだったということも、つ 的民主主義国となってしまった現実の日本とのギャツ。フけ加えておこう。 が大きくなりすぎてしまったのた。日本の未来を軍国的昭和五年に松谷与二郎という人が書いた「百年後の日 全体主義国家と予言している未来記が現在の日本と合致本ーも、的興味はきわめて薄いが未来予測書として は、非常によく計算された作品だ。五〇〇ページを越す するわけはないのだ。 ( 本来、予言と予測は別のものな 大冊に、衣・食・住から政治・経済はもちろん犬猫の管 理の問題、葬式にいたるまでの未来予測がなされてい る。一応、昭和五年に失神した主人公が、寄蹟的に一〇 〇年後に目覚めて、変化した日本の姿に驚いたり、感心 したりするという小説の形をとっているが、ノンフィク ションと呼ぶほうがむしろ適切かも知れない。予測の的 中率は六〇 % ほど ( 一部分が当っている、というところ もあるので、判断はむずかしい ) だが、作者の考えかた が現実よりもはるかに進歩的なところもあって驚かされ るところも少なくない。 = 49

9. SFマガジン 1974年4月号

ばかりであった。・「ハイレベルの会議で、どんなことが行なわれての金属的な響きが、その訳を伝えた。 いるか、わたしにはわかりません。わたしが知っているのは、ミセどんな色をしていますか ? 」 ス・。ヒンクに編みものを教えたこと、レモンパイの切り方を教えた「。ヒンクです」とセレナは言った。 こと : : : 」通訳たちが、あわてて通訳便覧を操っているのが目につ また、この言葉の訳を探して、ガサガサとあわただし小時が過ぎ いた。「 : : : それに、彼らがな・せここにきたか、なにを望んでいるた。。ヒンク 。ヒンク。セレナは遂に、スカートを少しまくりあげ のかも、知っています ! 」彼女は唇をすぼめ、たどたどしいリンジて、スリップの縁のローズ。ヒンクを見せた。リンジェン人は、うな エン語を話すようにロ笛と震音を混ぜながら言った。「ドウービー ずきながら、腰をおろした。 赤ちゃん。リンジェン人の赤ちゃんは、もういないのです ! 」 「セレナ」ジェネラル・ウォーシュマンが口を開いた。夕方、なに ドウービーという名前をきいて、一人のリンジェン人がびつくりげなく内庭を散歩している時のような、おだやかな口ぶりであっ し、おもむろに立ち上った。うす紫色の巨大な上半身が、テー・フル た。「あなたは、なにをお望みですか ? 」 の上にそびえた。通訳たちがまた、必死になって便覧を操ってい セレナは、ウロウロと定まらない目をしたが、やがてきつばりと る。「赤ちゃん」に相当するリンジェン語を探しているのだ。軍事顔をあげた。 交渉には、赤ちゃんなどという言葉が入りこむ余地はな、。 「今日が最後になるだろうとソーンが申しました。つまり、双方と そのリンジェン人は、ゆっくりと話したが、セレナは首を振っも、『ノウ』ということです。わたしたちとリンジェン人には、共 た。「リンジェン語は、よくわかりません」 通の地盤がない、なにごとであれ、協定を結べるような基盤がな 、というのです」 肩のところで、ささやきがきこえた。「ドウービーについて、な にを知っているのですか ? 」そして、彼女の両手に、イヤーホーン 「あなたは、あるとお思いですか ? 」ジェネラル・ウォーシュマン が押しつけられた。彼女はふるえる指で、それを調節した。どうしの声が、今まで注意深く隠されていた考えと態度の、この明らさま て、わたしにしゃべらせてくれるのだろう ? ジェネラル・ウォ 1 な表明に対しておこったざわめきを、静かに中断した。 シ = マンは、どうしてこんなふうに会議を中断して割りこんできた「あると思います。共通点の方が、相違点より多いのです。とにか わたしを、このままにして、ああして坐っているんたろう ? く、こうして坐ったままで双方ともに相違点を言い立て、共通点を 「わたし、ドウ 1 ビ 1 を知ってます」彼女は息もっかずに言った。 一つもみつけ出そうとしないのは、ばかげています。わたしたち 「ドウービーのお母さんも知ってます。ドウ 1 ビーは、スプリンタは、基本的には同じなのです・ーー・同じーー・」といって彼女はロごも 1 と遊びます。わたしの息子ーーわたしの小さい息子です」彼女った。「神の前では、まったく同じなのです」そして彼女は、通訳た は、テープルのまわりにおこったつぶやきにいうなだれ、指をよじちは、神という名前を、手持ちの本の中にみつけることはできない った。さっきのリンジェン人が、またなにか言った。イヤーホーンと知った。「この方たちに、わたしたちの塩とパンを与え、よろこ 「ドウ 1 ビーのお母さんは、 9 9

10. SFマガジン 1974年4月号

セレナの心は、驚きでふるえた。もしかしたらーー・もしかした , 「シュリー。フリル」とミセス・ビンクが言った。 「シュリープリル ? 」とセレナは聞きかえしたが、リルという流音ら、これで戦争は終るかもしれない。彼らは、ただ塩が欲しかった に、舌がもつれてうまく発音ができなかった。ミセス・。ヒンクはうだけなのかもしれない。彼らにとって世界は、もしかしたら 「塩、シュリープリルねーと彼女は言った。「もっと、もっと、も なずいた。 っとシュリープリル。 リンジェン人は、帰る ? 」 「シュリー。フリルが、いい の ? 」今、目の前で繰りひろげられたシ 1 ンを、なんと言い表わすのかと苦心しながら、セレナは、聞いて「もっと、もっと、もっとシュリ 1 。フリル。イエス。かえる、ノ シュリー。フリ みた。 ウ。帰るとこ、ない。故郷、よくない。水、ない。 ル、ない」 、の」とミセス・。ヒンクは言った。「シュリー 、、・トウ 1 ービ 。フリルないと、リンジェン人の赤ちゃん、な 「まあ」と言って、セレナは考えこんだ。「リンジェン人、もっと ゥービー 」と言って、彼女は、言葉を探して、ロごもった。「ド いる ? もっと、もっと、もっと ? 」 ッ 1 ビー、びとりーーー赤ちゃん、ない」彼女は、言葉の溝に橋をか ミセス・。ヒンクは、セレナを見た。そして突然に訪れたこの沈黙 けることができなくて、首を振った。 のうちに、結局、二人は、敵国同士の間柄なのだという実感が、二 セレナは、ミセス・。ヒンクから得た考えを発展させた。一つかみ人の胸に湧きあがった。セレナは、笑顔をつくろうと努めた。ミセ の草を抜いて、「くさ」と言ってみた。さらに、もう一つかみ、草ス・。ヒンクは、ピク = ックの ' ( スケットの中にある食物を、楽しげ ・を抜いた。「くさが、もっと、もっと。もっとーと言って、彼女に片はしから試食しているスプリンターとドウービーを見やった。 は、どんどん草を積みあげた。 そして、すっかりくつろいだ気分になって言った。「もっと、リン ジェン人、いない」彼女は両手の掌を合わせて押しつけ、肩を落と ミセス・。ヒンクは、草からセレナへ視線を移した。 ドウ 1 ビ とした。「もっと、リンジェン人、いない」 「リンジェン人の赤ちゃん、もっと、 セレナは、茫然として坐ったまま、考えた。この事態は、地球の 言って、彼女は草を一本一本分けて草の山の中に置いた。 「赤ちゃん、赤ちゃん、赤ちゃんーー・」彼女は草を勘定し、最後の最高司令官にとって、どういう意味を持つのか。恐ろしい、破壊的 な武器を持っリンジェン人は、これ以上はいないのだ。ここに着陸 一本をいとしそうに手離さずにおいた。「ドウービー」 しているリンジェン人のほかには ここにいる宇宙船が全減して 「ああ、ドウービーが、最後のリンジェン人の赤ちゃんなのね ? も、もう援軍を送ってくれる異星の世界は期待できないこのリンジ それ以上、赤ちゃんは生まれないのね ? 」 ミセス・。ヒンクは、じっとその言葉に耳を傾けていたが、やがてエン人たちだけなのだ。この人たちがいなくなればーーリンジェン うなずいた。「そう、そうなの ? もう、 いないの。シュリープリ人は、絶える。地球が今なすべきことは、この船団を一掃すること 5 ールない、赤ちゃん、ない」 である。もちろん、大きな犠牲は覚悟しなければならない。だが、