たまねき し。「アマンダ」っぷやき、とめどなく話しつづけた・ 「深皿焼きのステーキと」息をもらすように、「かたい玉葱ダンプ 注 注四 ラタトウーユ 「肥やしのなかに長年ねかせた鵜 ! シャン。ヘンリングをちりばめた牛の腎臓パイ ! 」 で凍らせた桃 ! 」想像するんだ、彼は心に命じた。「地中から狩り「着陸 ! 」ラグルポムがわめいた。「食べよう、食べよう ! 」 しようろ ポッドが軋った。大地。地球。 とったばかりのフランス松露をちりばめ、純良のホワイト・ラード がちょう でつつんだ、肥らせた鵞鳥の肝臓のパテ ! 」飢えたように鼻をうご帰ったのだ。 こけ・も、も めかせた。「苔桃の実のシロップをふんだんにたらした、バター入「出してくれ ! 」 壁の一部がしわを寄せ、日ざしにむかって開くのに気づき、彼は りホットケーキ ! 」よだれが流れた。「フィナン・ハディーのスフ レ、うん、そうなんだ ! 薄い皮みたいになるまでたたき、まっ黒それを目ざした。両脚を折り、床を蹴る。地球だ ? どさりと落ち る足、もたげた顔、空気を飲みこな肺。「帰った ! 」叫ぶ。 の薬草ジャムを塗って、とろ火であぶった胎児ーー」 ブッシュべイビーとラグルポムは抱きあっていた。マスルはうつ そのまま手足のコントロールを失い、砂利の上にのめった。 とりしている。 体内に何か異変がおこっていた。 注 「地球を見つけろ ! デヴォン・クリームで固めた、甘酸つばい野「助けてくれ ! 」 ぶどう 性のストロべリーと葡萄の葉の盛りあわせ ! 」 体を弓なりにそらせ、へどを吐いた。のたうち、悲鳴をあげてい こ 0 ブッシュべイビーは呻き、体を前後にゆすっていた。 「地球 ! 微塵切りべ ーコンと鶏といっしょに蒸したほろにがい菊「助けてくれ ! どうなってるんだ ? 」 注凵 注 ぢしゃ , 黒いガスパ 1 チョ 神樹の果実 ! 」 自分の声以外に、背後のポッドから叫びが聞こえていた。ようや ・フッシュべイビーの体のゆすり方はいっそう激しくなり、蝶はそくふりかえり、開いた入口の奥でもだえる黄金と黒、ふたつの体を の胸にしがみついていた。 見た。彼らもまた激しい発作にころげまわっていた。 「やめろ ! 動くな ! 」・フッシュべイビーが金切り声をあげた。 地球、地球、彼はカのかぎりに念じ、しわがれ声でいった、「・ハ 注 注 クラヴァ , 小蜘蛛の糸の。 ( フペースト、そして山からとれた蜂蜜「あんたのおかげで死にそうなんだそ ! 」 注 「脱出しよう」あえぎながら、「これは地球じゃない」 をしたたらせるビスタチオ・ナツツ ! 」 ・フッシュべイビーがラグルポムの頭を押し、ポッドは旋回したよ喉は自分の呼吸でつまり、異星人たちは共感に呻いていた。 うに思われた。 「息をするな、早 「だめだ ! 動けない ! 」と・フッシュべイビー く眼を閉じろ ! 」 「熟したコミス梨 ! 」ささやく、「地球か ? 」 彼は眼を閉じた。耐えがたさがわずかにやわらいだ。 「あれだ ! 」ブッシュべイビーはあえぎながら倒れた。「ああ、い 「どういうことだ ? 何がおこったんだ ? 」 ま言った食べ物、おれはみんなほしい。おりよう ! 0 8
いない。でなければ、死んでいるかだ。たとえ百万の世界をめぐ 0 . は、てらてらと光る黒い川とな 0 て彼の足元に横たわ 0 た。彼はそ たとしても、こんなにおもしろいことはおこらないだろう。れをなでてやりたかった、だがそうする勇気がなかった。夢よ、さ 7 動力の紙袋にかわいいニンパスたちといっしょに乗って、故郷にむめないでくれ。 かっている夢を見ているのだ。 ・フッシ = べイビーは「ポッドのけいれんに合わせて宙返りしてい こ 0 「動力の紙袋か、いい文句だ」・フッシ = べイビーがしった その瞬間、彼は「自分にむかって不気味にのびてくる黒い尻尾「これは気に入ると思うな。最近の収穫だよ」・フッシ = べイビーは が、二つの氷のような火色の眼でこちらを見ていることに気づい その場に似合わぬ平静な声でいった。口調や態度はくるくると変わ た。大きな蛇が、うねをなす隆起にそって近づいてくるのだ。低くるが、どれもむかし聞きなれ、、見なれたもののように思えた。失わ 落としたくさび形の頭部、彼を見据える瞳。楽しい夢ではなくなり れた、楽しい記憶の断元。「複雑なかおりのする強いやつを見つけ そうな気配だった。 た」と、ヒョウタンをさしだして、「一千の未知の惑星が秘める感 ふいに聞きおぼえのある声が、頭のなかにひびきわたった。 動を味わうんだ。 = キゾティックな珍味を。そこであんたの力が発 ( おそれてはいけない、小さな生き物よ ) 揮されるというわけさ、痛みなし。もちろん、帰る道すがらたが な」 鋼鉄のように強固な、黒い腱の集合体がにじり寄ってきた。マス 彼はほとんど聞いていなかった。艷めかしい異邦の肉体がゆっく ルだ。やがて彼は相手のいわんとしていることに気づいた・ーー蛇の ほうが彼をおそれているのだ。 りと近づいてスる、さらに近く。「ラヴ。 ( イルにようこそ」生き物 彼は足元にのびてくる蛇の頭部を見つめ、ひっそりとすわってい は彼の眼をのそきこむようにして微笑した。彼のセックスは、異質 の肉体を求めて硬直していた。まだ一度も : ・ た。牙がむきだしになった。蛇はおずおずと彼の足の爪先を噛みく だきはじめた。試しているのだ、と彼は思った。何も感じなかっ 一瞬のちには抑制は破れ、夢は消え失せてしまうだろう。 た。いつものとおり光輪がゆらめき、消えたたけだった。 つぎにおこったことははっきりしない。 目に見えぬ何かが彼をつ 「本当だ ! 」・フッシ、べイビーがささやき声で。 ぎとばし、彼は手足をひろげたままブッシ = べイビーにのしかぶさ 「わーい、すばらしいそ、痛みなし ! 」 っていった。頭のなかにひびきわたるおびえたような笑い声。なめ 恐節は去り、蝶のラグルポムは歌いながら彼のそばに舞いおりてらかな、熱い、かたい体が彼の下でうごめき、ヒ = ウタンのなかの きな。「さわり、味わい、感じるんだ ! 体で受けとめるんたよ液体が顔にこぼれてきた。 ! 」蠱惑的に震える羽根。羽毛につつまれた顔が近づいた。彼はそ「これは夢じゃないんだ ! 」彼は叫んだ、・フ ' シ = べイビーを抱き れに触れたか 0 た、だがとっぜんおそれを意識した。触れたら最しめ、強烈なカルーア酒を口から吹きだしながら。そして「オワー 後、自分は目覚め、死んでしまうのではないか ? 大蛇のスルオ、ワーオ、ワーオ ! 」・と歓声をあげ、彼らの上をとびはねる蝶。
ハミングするブッシュ 彼はため息をつき、宙を転落するのを感じた。わざわざ答えるま「海をわた 0 てスカイ島へ ! (!< トの古い岬 ) 」 でもないことだけは学んでいた。今度の降下は大笑いだった。とい べイビー うのは、容器がラン。フリグしないことを忘れていたのだ。彼はクリ しかし海路は長く、遠く、彼の気分は敏感なエンパスたちには酷 1 ム・ソースと三葉虫まみれになってもどり、彼らはクリーム・ソ だった。一度、彼がおちつかない反応を示したとき、警告するよう 1 スと三葉虫まみれの乱痴気騒ぎにうかれた。 に揺れがおこったことがあった。 ラグルポムがにらんでいた。 しかし彼はブッシュべイビーから目を離さなかった。 「近づいたか ? 」 「おれを放りだしたいのかい ? 」彼は挑むようにいった。「ほかの 「銀河系はでかいんだぜ、坊や」・フッシュべイビーは彼の毛の抜け連中みたいに ? それはそうと、その生き物たちはどうなったんた た部分を愛撫した。こんなに何度もランプリグするのでは、毛も生 えてこない。 「地球でこれと同じくらい刺激的なことといったら何ブッシ = ペイビーはたじろいだ。「ひどいものだったよ。あんな がある ? 」 に長く生きているとは思わなかった、そとで」 「楽しみにしてたまえ」彼は微笑した。そしてしばらくのち、彼ら「しかし、おれは苦痛を感じないんだぜ。だから助けたんだろう、 に話した そうじゃないのか ? やれよ、と片意地をはって、「かまわない 「帰ったら、連中はおれを直してくれるだろう。正しい接続にもどよ。放りだせ。新しい冒険じゃないか」 「いや、だめだ、だめだ、だめだ ! 」・フッシュべイビーは彼を抱き してくれる」 しめた。ラグルポムは悔いるように彼の足の下にはいりこんだ。 ラヴパイルがけいれんした。 「だんだんわかってきたそ。おまえたちは宇宙をあちこちとびまわ 「あんた、苦痛を感じたいのか ? 」 っては、おもしろ半分に生き物を連れこみ、退屈すると放りだして ( 苦痛はこの宇宙の汚辱だ ) マスルの声がひびいた。 ( きみは病ん るんだな。行っちまやがれ」ののしった。「浅薄な感覚中毒者、そ でいる ) れがきさまたちだ。宇宙のポルターガイストめ ! 」 「わからないーと言い訳がましく、「こんなふうだと、なんていう 彼はころがり、美しい・フッシュ・べイビーを目の前につかみあげる か、現実感がしないんだ」 と、それが身をくねらせ、泣きわめくのをながめた。「彼女の唇は 彼らはいっせいにこちらを見た。 イギリスの浪漫派詩人 赤く、顔つきは屈託なく、髪は黄金のような黄色 ( コールリッジの一老水 「あんたたち種族はその状態がふつうなんだと思っていた」 夫の歌」 ) 」その黄金の腹にくちづけして、「彼女こそ人の血を凍らせ 「そうでないことを願うね」ややあって明るさをとりもどし、「どの一節 うだろうが、き「と直してくれるはずだ。地球はもう近いんじゃなる、死中の生、悪夢だ ( た ( し」 いのか ? 」 そして彼はこれまでの最大のラヴパイルを作ることに決め、四つ 6
で。わたしーーわれわれ。ひとつ。自分がこんな夢を思いつけるはっ着くんだ ? 」 ・フッシュ・ヘイビーはもじもじした。 ずがない、マスルの体を低く打ち鳴らしながら、彼はそう確信し 「ああ、そこへつつ走ってる最中さ。しかしあんたから感じるかぎ た。大蛇がその音を神秘的に増幅した 9 こうしてラヴ。 ( イルに乗っての帰郷の旅、新しい喜びの人生が始・りでは、気持のわるいところだな。いやな青い空、死にかけた緑。 まった。彼はくだものとフォンデュを彼らのところに運んだ、 ( ムあんなところへ行きたいやつがいるのかね ? と蜂蜜を、パセリ セイジ、ローズマリ、そしてタイム。退屈な世「ちがう ! 」彼がとっ・せん体をおこしたので、彼らはとびさがっ 界から、退屈な世界へ。しかし今ではすべてがちがう、故郷に帰る た。「うそだ ! 地球は美しい ! 」 途中なのだ。 壁が激しく揺れ、彼を横に投げとばした。 「宇宙にはきみたちみたいなのがたくさんいるんだろうか ? 」彼は ( 気をつけろ ! ) マスルの声がひびいた。・フッシ = べイビーは蝶を ものうげにきいた。「今まではそんなやつに出会ったこともなかっ つかまえ、愛撫し、なだめていた。 た」 「彼のランプリグ反応をすくみあがらせたんだ。ラグルは驚くと、 「安心しろよ」とブッシュべイビー 「足をどけてくれないか」そ物をそとに放りだすくせがある。ツツ、ツツ、そんなことをするん して彼らは、銀河系の遠い片隅で汲々と生きている卑小な生命のこじゃない・せ、坊や。はじめはこんなふうにして、おもしろい生き物 と、彼らの脱出の原因となった苦痛のことを語った。またラグルポをたくさん殺しちまった」 ムは、ほかの二人をひろいあげるまえ、途方もなく強大な存在に出「わるかった。だけど、ねじまげて受けとるからだ。おれの記憶は 会ったことを話した。 すこし混乱しているかもしれない、だけどたしかだよ。美しいとこ . ししろだ。 ) 穀物のこはく色の波とか。荘厳なむらさきにけぶる山々」両 ( それがヒントになって、〈銀河系の支配者〉というのを思、つ、 たわけだ ) マスルが打ち明けた。 ( 何かチーズがほしいな ) 腕をひろげて笑った。「輝く海のかなたまで ! ( メ齣カ讃歌」 ~ 一し」 、胸をか 「わあ、・すごいじゃないか ! 」ラグルはキーキー声でいい ブッシ = べイビーは頭を傾け、深淵を流れすぎてゆく無数の心に き鳴らしはじめた。 聞きいっていた。 こうして彼を乗せたポッドの旅はつづいた。 「ヨーグルトはどうだい ? 」とラグルポムをこづいて、「あっちの ほうだ。歯のあいだでつぶれるのを感じないか ? さわやかで、すポッドの操縦の手がかりとなるのは、周囲の空間に入り乱れる思 考ビーコンであり、彼はブッシ = べイビーがそれに聞きいっている こし固めで : : : アンモニアの臭みがちょっぴり、たぶんミルク・ 姿をながめるのが好きだった。 ケツが不潔なんだろう」 「地球をキャッチしたかい ? 」 ( 不潔なヨーグルトなんてごめんだね ) マスルは眼を閉じた。 「まだかなり先だな。おい、何か風変りな海産食物はどうだ ? 」 「地球にもすばらしいチーズがあるな。きっと気に入ると思う。 守、 5 7
彼の舌の動きに身をまかせ、・フッシュべイビーのつぶやくのが聞こ 「ちょっと待てよ。いま、ごきげんなくだものがなっている場所の えた、「すばらしい口蓋日嗅官相互作用だ」 近くを通過した。だけどおれたちがおりれば死んでしまう。十分だ 7 さわり、味わい、感じるんだ ! 楽しい夢は現実だった ! 彼はけあんたをランプリグしたいんだが、どうだい ? 」 ブッシべイビーのビロードの尻をしつかりとっかみ、彼らは気が彼らがテレ。 ( スであることを忘れ、「喜んで」と、 しいかけた。 ちがったように笑い、巨大な黒い蛇のとぐろのなかでころげまわっ口をひらいたときには、彼は数知れぬ閃光のなかを転落し、荒涼と した砂丘にいた。砂をはきだしながら、おきあがる。オアシスがあ 状況がわずかながらはっきりしてきたのは、それからしばらくのり、明るい色の果実をいつばいつけた、サポテンを思わせるいじけ ちだった。彼はマスルにプロフィットの耳を食べさせていた。 た木が茂っていた。果実のひとつにかぶりつく。うまい。彼は果実 「要するに問題は、苦痛なんだ」・フッシュべイビーが身を震わせなをもぎとりはじめた。両手がいつばいになると同時に、情景が閃光 がらすりよってきた。「この宇宙にある苦しみの量、これはもうおにつつまれ、彼はラヴパイルの床に長々と横たわっていた。友人た そろしいくらいさ。そとを流れすぎていく何千兆もの生命が、みんちがわっと群らがり寄った。 な苦痛を放射している。そんなところへは近寄る気もしない。だか「おいしい おいしい ! 」果汁に口さきを突きたてるラグルポ ら、おれたちはあんたのあとをつけたんだ。新しい食料をひろいあム。 げようとするたびに、すったもんだだ」 「ポッドにもすこしとっておいてくれ。複製するかもしれん。ポッ 「ああ、痛い」ラグルポムが彼の腕の下にはいりこんで、泣き声を ドは自分が消化したものを再生するんだ」口をいつばいにして、プ あげた。「どこもかも痛いよ。敏感なんだ、敏感なんだ」すすり泣ッシュべイビーが説明した。「基本食料。飽きあきしたよ」 きながら、「こんなに痛いのに、ラグルはどうやってラン。フリグす「なぜきみたちはおりることができないんだ ? 」 ればいいんだよ ? 」 「おりないというだけさ。あの砂漠のいたるところに、渇きで死に 「苦痛か」彼はマスルの冷たい黒い頭に指をふれた。「おれはなんかけた生き物たちがいる」大蛇が体をすくめるのが感じられた。 にも感じない。連中がおれの苦痛神経を何に接続したのかさえわか 「あんたはすばらしいよ、痛みなし」・フッシュべイビ 1 は彼の耳に らない」 鼻をすりつけた。 ( きみはいかなる生物も及ばないほど恵まれているのだ ) 彼らの頭ラグルポムはその胸板のギター ・・フリッジをひろっていた。彼ら のなかに、マスルの思考が荘厳にひびいた。 ( このプロフィットのはいっせいに、言葉をともなわない一種のセギディリヤをうたいは 耳は塩辛すぎる。何かくだものがほしいな ) じめた。ここには楽器はない、彼らの息づく肉体以外には何もな 「・ほくもだ」ラグルポムが金切り声で。 エンパスたちとの合唱は、彼らとの愛の行為に似ていた。触れ ・フッシュペイビーはその金色の頭をかしげて聞きいっていた。 るものに触れ、感じるものに感じる。自分の心に完全にはいりこん こ 0
「星間 ? 」彼はロごもった。「ポッド ? 」口をあんぐりあけて見ま ふりかえる。背後のでつばりの上に金色の生き物がうずくまり、 これ以上は望めないような暖かい眼差しで彼を見つめていた。長いわした。スクリーンも計器もない、何もない。床は今にもやぶれそ 柔毛を生やした幼児のようにしなやかな体、どこかキツネザルを思うな紙袋を思わせた。これが宇宙船の一種だなんてことが ? スターシッ・フ 「これは航星船なのか ? おれを故郷へ送り帰してくれるだろうか わせるところもある。それは彼の知っている何ものとも似ていなか ったが、孤独な男がその冷えきった体にかきよせるには、もっとも ? 」・フッシュべイビーがくつくっと笑った。「おい、たのむから、 ふさわしいもののように思われた。そして痛々しいほどひょわそうあんたの心を読むのをやめてくれないか ? じゃない、おれはあん こっこ 0 たと話をしようとしてるんだ。ああ、どこへでも連れて行ってあげ / ュノ 「やあ、。フッシュべイビー ! 」金色の生き物が呼びかけた。「おつるさ。おれたちを傷つけるようなことをしなければな」 と、これはあんたのいう言葉だったな」それは、輪のかたちにくね蝶がべつの側からひょこっと顔をのそかせた。「・ほくが行かない らせた黒い太い尻尾をかかえ、興奮した声でいった。「じゃ、こうところなんてあるものか ! 」かん高い声で、「・ほくはランプリグ航 ラヴ シッ・フ いおう。〈愛のかたまり〉にようこそ。われわれはあんたを解放し星船第一号なんだもの、そうだよな、おれたち ? ラグルポムは生 たんだ。さわり、味わい、感じるんだ ! 楽しみたまえ ! おれのきている。ホッドを作ったんだ、ほらね ? 」蝶はブッシュ・ヘイビーの 言葉にも感心してくれよ。おれたちを傷つけないだろうな ? 」 頭によじの。ほった。「生きている組織だけさ、ほらね ? 原形質な 生き物は、彼の呆然とした顔をやさしくのそきこんだ。超共感んだ。アマンダがどこに行ったかも、それがおこったからなんだ、 力者だ。そんなものは存在しない、それは確信があった。解放されそうだよな、おれたち ? ランプリグしないものだからーー、」 ブッシュべイビーは手をのばすと、その首根っこをつかみ、羽根 たって ? 最後に金属以外のものに触れたのは、恐怖以外のものを 感じたのは、いつのことだったろう ? を生やしたふわふわの小犬にするように無雑作にそれを引きずりお ろした。蝶はさかさまになったまま見つめている。どちらもとても これが現実であるはずがない。 内気な生き物なのだ、そう彼は思った。 「ここはどこなんた ? 」 見つめるうち、ステンド・グラスのような羽根がひろがり、毛深「テレポーテーション、そうだ、そんなものだな」と・フッシ = べイ 「ラグルポムにはそれができるんだ。おれは信じちゃいない い小さな顔が・フッシュべイビーの肩先からのそいた。大きな複眼、 がね。じゃない、あんたは信じちゃいないがね。ああ、ややこち、や 優美な触角。 「星間メタ原形質飛行ポッドさー蝶に似た生き物はこともなげにい やこち、この会話はめちゃくちゃだな」それは魅惑的な微笑をうか ラグルホム った。虹色の羽根が震えた。「〈ポロポロ弾〉を傷つけないでおく べると、その長い黒い尻尾をほどいた。「〈筋肉〉を紹介しよう」 れよ」それはキーキー声でいうと、身をおどらせてブッシュべイビ ややこち、ややこちというのは、たしか自分が小さな子供のころ 1 の背後に隠れた。 使っていた言葉だ、彼はそんなことを思いだした。これは夢にちが ブッシュべイピー スダ 7
してしまったからさ。五人の女と、それから雲に絵を描くグルー 「そんなことをいうない、坊や」金色の体がすべり寄ってきた。 ゾ、何人か小さな少年ともやったよ」 「あきらめちゃだめだ。愛してるよ、痛みなし」三人は彼を愛撫し 彼は血にまみれた黒焦げの片手をさしだした。指が二本欠けて、 していた。「仕合わせになろう、歌って ! さわり、味わい、感じる る。 んだ。楽しもう ! 」 うめ 「パラダイスか」と呻き、「氷にも凍らない、火にも燃えない。何しかし、そこに喜びはなかった。 の意味もないものばかり。おれは故郷に帰りたいんだ」 彼はひとり離れてすわりこみ、合図を持つだけになった。 急激な揺れ。 「今度こそ ? 」 「ごめん」泣きながら、「もっと自分を押えるから、だから、お願ちがう。 いだ、地球へ帰してくれよ。もうすぐなんだろう ? 」 まだまだ。永久に。 沈黙。 二掛ける十の十一乗 : : : 三千年以内に地球を発見するチャンス、 「いつなんだ ? 」 五十パーセント。偵察船に逆戻りだ。 ・フッシュべイビーが咳ばらいに似た音を出した。 ラヴパイルは、彼を欠いた状態に復した。彼は顔をそむけ、何も 「ああ、見つかったらすぐにな。いっかはぶつかるはずだ。すぐそ食べずにいたが、とうとうロに食物が押しこまれた。このまま死ん こかもしれん」 だように動かずにいれば、彼らはきっと飽きて、自分を放りだして 「なんだって ? 」彼は死人の顔でおきあがった。「どこにあるか知くれるだろう。それ以外に何の希望もない。始末をつけてくれ : らないというのか ? あっちこっち動いていただけなのかーーーあて早く もなく ? 」 今では三人は、愛撫で彼を元気づけようともしなくなっていた。 ブッシュべイビーは両手で耳をふさいだ。「わかってくれよー あるのは、ときたまの激しい揺れだけ。彼は抵抗もせずころがっ あんたの説明はあいまいすぎる。おれたちは行ったこともないんだ た。早く終わらせてくれ、そう祈った。しかし彼らはゲームのあい ぜ。そんなとこへ、どうやって帰りやいいんだ ? 耳をすまして飛まになるとまたやってきて、首をひねるのだった。心配してくれて しいから見てろよー んでいれば、そのうちキャッチできるだろう。 いるのだ、と彼は思った。そして、おれがもう食べ物を持ってこな 眼をぎよろぎよろさせて彼らを見つめる、信じられないのだった。 いのを悲しんでいるのだ。 ・ : この銀河系には、二掛ける十の十一乗の太陽がある : : : きみ ・フッシュべイビーがなだめようとしていた。 たちの速度や航続距離がどれくらいあるかは知らない。しかし、一秒「ーー・最初は、わかるだろう。ロあたりのよさだけなんだ。なんだ に一個として、それでもーーそれでも六千年だ ! そんな、無茶だ ! 」かまだわからない。ところがつぎの瞬間、甘ずつばい火花が上あご を滝みたいに 彼は血まみれの両手に顔を埋めた。「永久に故郷を見られない」
ら、盲めつ。ほうにポッ ( 苦痛だ、ばかめ ) マスルの声がとどろいた。 ドめざしてはいだし 「これがおまえのろくでもない地球なんだよ」ブッシュべイビーが 泣き声でいった。「連中があんたの苦痛神経を何に接続したか、こた。舌を噛みやぶって しまったのだ。動作の れでわかった。行くそ、もどって来いーー・気をつけてな ! 」 眼をあける。青白い空といじけた灌木の茂みがちらっと見えたびとつひとつが彼を焼 が、眼球に突き刺すような感覚が走った。エンパスたちは悲鳴をあ灼した。呼吸するたび げている。 に大気が内臓を焦がし 「やめろ ! ラグルポム、死ぬ ! 」 た。砂利が両手を削り 「おれの故郷なんた」両眼をかきむしり、彼は泣いた。目に見えぬ取ってゆくように思わ 炎が、全身を食いつくそうとしていた。押しつぶされ、刺され、皮れたが、傷口はどこに をはがれていた。地球それ自体のパターンだ、と彼は思った。そのも見えなかった。あら ゲシュタルト ュ = ークな大気、その太陽スペクトル、重力磁場の精密な統一性、ゆる神経の末端から送 られてくる苦痛、苦痛、 その光と音と触感のすべてーー彼らはそれに彼の苦痛回路を同調さ 苦痛だけ。 せたのだ。 「アマンダ」呻いたが、 ( 彼らはきみに帰ってほしくなかったらしいな ) マスルの無言の 彼女はいなかった。ビ 声。 ( はいるんだ ) ンにとめられた昆虫の 「おれを直すことができるはずだ、直す義務がーー」 「彼らはここにはいない」ブッシ = べイビーがどなった。「到着時ように這い、身もだえ 点をまちがえた。サクツ、カリッ、ポリツは聞こえない。おまえのし、蹴りながら、甘美 な安らぎ、無痛の至福 べイクト・アラスカが その声は苦しげにとぎれた。「行く を約東するポッドにむ そ、もどって来い ! 」 かった。彼の鼓膜をつ 「待ってくれ」しわがれ声で、「今はいつなんだ ? 」 片眼をあけ、岩だらけの丘の斜面を視界にとらえたところで、前きさすように、どこか 額部が爆発した。道路もなければ建物もない。過去なのか未来なので鳥が鳴いた。友人た かを見分けるすべもない。 ちが絶叫した。 背後では異星人たちが泣き叫んでいる。塩辛い血を噛みしめなが 「急げ ! 」 ノトの総合口座 定期で有利にふやしながら 心のふれみ、を大切にします ノトト しつでも便利に使える・ のラ 銀行ご利用決定版 ! 1 冊の通帳で貯める・支払う・借りる・・・・・・全部てきます第一勧業銀行
そこへ連れていってくれ ! そ 「そんなことはどうだっていい 彼はその声をしめだそうとした。いい連中にはちがいない。物言 う料理の本とい「しょに銀河系を果てしなく落下する旅。始末してれが地球なんだ、まちがいない。また見つけられるんだろう ? で きるっていったな ? ーすがりつき、哀願した。「お願いだ ! 」 ラヴパイルが揺れ動いた。みんなをおびえさせてしまったのだ。 「ーーーしかし、その組みあわせの美なんだ」・フッシュべイビーはし ゃべりつづける。「動 v. 食物なんてのがあるな。たとえば、知覚を「なあ、頼なよ」できるだけ平静な声で。 「しかしほんの一瞬、聞いただけなんだぜ」・フッシュ・べイビーは不 持っ植物とか、生きている動物とか、風味に加えて微妙な動きーー」 服そうにいった。「ものすごくむずかしいんだ、あんな遠くじゃ 牡蠣のことが頭にうかんだ。一度でも食べたことがあったろう な。できのわるい頭を持ったものさ ! 」 丿月はまだ流れてし か ? たしか有毒物質がどうかして。地球のⅡ 彼は膝まずき、懇願した。「きっと好きになる。とてつもない食 るだろうか ? かりに想像もしなかったような幸運に恵まれ、その コルド びとつに行きあた 0 たとしても、遠い過去か、遠い未来、死んだ世べ物があるんだ。聞いたこともないような料理のポ = ジー ン・・フルー エスコフィエ ! 」しゃべりつづけた。「組みあわせ 界ではないのか ? 死なせてくれ。 いや、あれは日本人 といえば、中国人はそれを四通りやるんだ ! 「ーーーそれから音、これが楽しいんだな。風味に音楽的効果を組み 注 4 注 3 く・フルアンド日スクイ 1 ク スターフェルー あわせてる種族をいくつかキャッチしたことがある。噛んでるときだったかな ? リー 注 5 の音とかさ、歯ごたえ、ねばり気。音を出してうまく吸いこんでるべイクト・アラスカ、外側はあったかい殻、なかは冷めた 生き物もいた。でなきや、食物そのものから出る音だ。ここへ来るイスクリーム ! 」 途中、それをや 0 てる種族がひとつあ 0 たよ。も 0 とも、せまい領ブ ' シ = べイビ 1 の。ヒンクの舌が鳴 0 た。理解しているのだろう 域に限られてるが。乾いた、さわやかな感じ。サクツ、カリッ、ポカ ? リ , 。も 0 と調性の分野を開拓すればいいのにな、グリッサンド効彼は、聞いたこともない食物を求めて記憶のなかをひっかきまわ した。 果やーー 注 6 「チョコレートのなかのマグエイ虫 ! ハギスと風笛、すみれの花 彼はふいに体をおこした。 注 8 の砂糖漬け、ラビット・メフィスト ! 樹脂のワインに浸した朗ー カリッ、ホリッ ? 「いま何といった ? サクッ 注 9 二十四羽のくろつぐみのパイ ! 若い女をなかに隠した特大ケー 「ええ ? うん、しかしーーー ( 」 「そいつだ ! それが地球なんだ ! 」彼は叫んだ。「あのくだらなキ ! 母乳でゆでた赤ん・ほうーーー・・おっと、こいつはタ・フーだ。タブ 1 食物というのは聞いたことないか ? 人肉さ ! 」 い朝食用コーンフレークのコマーシャルをキャッチしたんだ ! 」 こんな知識がどこから出てくるのだろう ? お・ほろげな存在が心 9 大きな揺れがおこった。彼らは壁をはいの・ほっていた。 のなかにうかんでいたーー・・彼の両手、うねをなす隆起、遠いむか 「あのくだらない何だって ? 」見つめる・フッシュペイビ 1
のしなやかな体をからみあわせた。それで大喜びした彼らは、その彼は日ざしのなかに歩みでた。まばゆいシルクがひるがえり、白 い手がふりあげられた。手をふっているのだろうか ? 彼らは人間 のち彼がマスルの黒いとぐろに顔を埋めて泣きだしたときも、いっ の若い女に似ていた。しかしもっとほっそりしており、はるかに美 こうに気にしなかった。 しかった。 / 彼を呼んでいるのだ ! 彼は自分の体を見おろすと、花 しかし彼らが心配していることは事実だった。 ピクルズ をつけた枝をつかみ、彼らにむかって歩きだした。 「見当がついたよ」漬け物で彼をたたきながら、ブッシュべイビー ( サルモグロッサを忘れるな ) マスルの声。 がいった。「同種族セックスだ。けつきよくのところ、あんたがエ うなずく。先端がビンク色をした、娘たちの乳房がおどってい ンパスじゃないってことさ。同族からの刺激が必要なんだ」 た。彼の足は小走りになった。 人間のい 「よく似た連中がいるところを知ってるというのかい ? 人びとが彼を連れもどしたのは、それから数日後だった。彼は男 る惑星を」 ブッシ = べイ・ヒーはうなずき、思考ビーコンに聞きいりながら目と若い女のあいだでうなたれていた。もうひとりの男が彼らにつき くばせした。「理想的だ。あんたの心から読みとったとおりだよ。すそい、竪琴をかき鳴らしている。そのうしろから踊りながらつづく ・ーー・待てーーーサル娘たちや子供たち、規則正しい歩調で先頭を行くのは、ひとりの母 ぐそばだぞ、ラグル。それから彼らは何とかいう 堕落天使の子孫と伝えられる 架空の植物名。ラテン語で「か ) のように美 美しい妖精。ベルシャ神話 ) を噛む習慣が親タイプの女、だれもがビーリ モグロッサ・フラグランス ( おりのよい鮭肉色の舌」の意 ある。れいのあれを長びかせるんた、連中によればな。帰るとき持しかった。 人びとは彼を木の根元にそっともたせか・けた。竪琴を持った男は ってきてくれよ、坊や」 つぎの瞬間、彼は閃光のなかをころがり落ち、やわらかな緑の上うしろにさがって弾いている。彼はおぼっかない体で立ちあがっ た。一方のこぶしから血が流れていた。 にいた。体の下にはつぶれた花々、頭上には日ざしにきらめくシダ のような枝。新鮮な大気が肺にどっと流れこんだ。軽々ととびおき「さようなら」あえぎながら、「ありがとう」 る。公園を思わせる景観がひらけ、傾斜を下ったところにきらめく崩折れるところを閃光がとらえ、彼はラヴパイルの床に倒れた。 湖、その上をゆくいくつものカラフルな帆。空はむらさき色で、真「ア ( ッ ! 」・フッシべイビーが彼のこぶしにとびついた。「なん 珠色の小さな雲がうかんでいた。今までながめた惑星は、どれひとてことだ、あんたの手 ! サルモグロッサが血だらけじゃないか , っとしてこれの足元にも及ばない。これが地球ではないにしても、彼の手をゆるめて薬草をとりだす。「だいじようぶかい ? 」ラグル ポムは低く鳴きながら、血のなかに長い舌を入れた。 彼はパラダイスに転落したのだ。 , ステル・カラーの壁、噴水、尖塔を見ることが彼は自分の頭をさすった。 湖のむこうに、。、 アラ・ハスダー できた。人間の涙にもくもることのない雪花石膏の都市。甘いそよ「歓迎してくれたよ」ささやき声で、「完全たった。音楽。ダン行 ス。ゲーム。恋、医学というものはなかった。あらゆる病気を征服 風に乗って音楽が流れてくる。岸辺にはいくつかの人影。