戦闘技術 - みる会図書館


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1. SFマガジン 1974年5月号

本の航空技術の ロン先生の虫眼鏡〈頁より続く〉 内部にある各技 術分野のはなは 実にこの時だ。もちろんそれまで日本でも小型モーターのすぐれてだしいパランス いるものはいろいろあった。歯医者のあのいまわしいドリルを回転もそれほど致命 させるモーターなどはすでにおなじみだった。しかしそれらはあく的なものとはな分 立ロ までも回転軸を回してそのエネルギーをベルトによって他の機械にらなかった。だ 伝えるという式のものであり、水族館などでもモーターで小型のポが年ごとに飛躍 ンプを回していた。ところがそこで私が見たものは磁石で鉄片を引的な性能が要求の きつけ、そのカで弁を動かしてチ = ープに = アを送りこむというおされるようになプ そろしく単純明快な作動をする機械だった。これだと鉄片の往復運った太平洋戦争ュ ク 動だけで回転運動というものが全くない。しかもモーター自身がポ中期以後ではか なりハイ・レベ ンプだからいくらでも小さなものができる。それに透明なビニール チ ス ・チーブの爽快さはどうだ ! やわらかな管といえば、赤茶色のルな総合技術が 粗悪な質のゴム管しか知らなかった私にははじめて二九を見たと必要になってき た。当時アメリ き以上のショックだった。このような優秀な電機製品が家庭のしか も熱帯魚用の水槽などに多用されているとはこいつはたいへんな国力でもつばら海 だそ。それは私にとってまさしく文明開化だった。 外援助用にあて クニプ ゼロ戦や彩雲を生み出した当時の日本の機体設計技術はたしられていたいわ かに世界でも超一流だった。アメリカがそれに次ぐとすれば、イギば等外品の三流 チはユ リスやナチス・ドイツなどは二流か三流の下というところたろう。戦闘機でさえふ図 ラるル ス。ヒットファイヤーだろうとメッサーシュミットだろうと、きびしつうに用いられ プあ一 ェア・ポンプ い太平洋の戦いではとうてい登場を許されないような地方選手だっていた片道配線 が、日本で最初に実機にほどこされたのが日本最後の爆撃機である た。その卓抜した日本の機体設計技術が世界一の素質をもちながら ついに世界で超一流の航空技術にまで昇化し得なかった最大の原因四式重爆『飛竜』でありそれがこの爆撃機の電気装備にたえ間のない は年々発達する機体に見合った電装品を生み出すことができなかっ 不調を招き、その実用性に本質的欠陥を生み出したことを思えばそ たことにあったと思う。航空技術はすぐれた機体を作り出す機体設のへんの事情ははっきりする。しかしそれもこれもすべては戦後に 3 計技術だけではどうにもならない。油圧、冶金、電子、冶具工作などああきらかになったことであり、それだけの技術力のちがいを当時果に らゆる技術の総合で成り立つものであり、ゼロ戦や隼の時代では日してどれたけの技術者が認識していたのかきわめてお・ほっかない。 槽 水 酸素をふくんだきれいな水 0 0 大機砂 プラスチックのすのこ ガラス・ファイ / ヾ一 汚れた水はこしとられて下へ

2. SFマガジン 1974年5月号

を受け止めた。決着がつくには、無限の時が必要であるようにみえようにして言った。「ふだん仲の悪い事務部長のフェイ・ハーや、情 ーライン氏をやりこめることができるし、司令室 た。そして、飛翔体が勝っために、どのような方法があるのだろう報処理部長のエ・ハ 長のハール氏にも大きな顔ができます。しかも、失敗しても責任は 当部にはない : ・ コイズミは頬をゆがめてうなずいた。 ジロウ・コイズミにとって、戦闘技術部が採用した方法の大部分 「なにしろ、″散乱法″は当部の発案ではないのだからな」 は、承服しかねる発想にもとづいていた。 ガモフは笑った。 しかし、とにかく、実行してみることが先決である。コイズミ は、戦闘技術部長ガリレオ・ガポールのこのような意見には、必ず「ただ実行するだけですから、気が軽いですよ」 しも反対ではなかった。 計器がいっせいに表示を変えた。コイズミの前の端末装置が、あ わただしく、動きはじめた。作戦が実行されはじめたのだった。 ガポールは早ロでまくしたてた。 肉体的なショックは、何も、襲ってこなかった。しかし、精神的 「歩きながら考え、走りながら実行する。そして、喋りながら反省 する。これは、戦闘技術部の基本方針なのだ」 な圧迫感は、激しいものだった。 「ポス、情勢はきびしいですよ ! 」 部員たちは、それそれ、部署につき、計器の並ぶパネルを睨みつ けながら、部長の声を聞いていた。コイズミも、あてがわれた端末ガモフが悲鳴に似た叫びをあげた。 装置の前に腰をおろして、ディスプレイから叱咤するがポール部長「落ち着きなさい、ガモフ」 の眉間のしわを見つめていた。 コイズミは若い部下をたしなめた。 スキャッタリング 「第一の方法、すなわち″散乱法″を実行する時は来た。作動準たしかに、失敗は誰の眠にも明らかだった。だが、これがただち に敗北につながるような種類の作戦ではないのだ。 備せよ ! 」 ガポール部長は議論を拒絶するようなところがあったが、人の意コイズミは、端末装置のデスクの上に自動的に積み上げられたデ 1 タ・ファイルを掴んだ。 見を聞かない方ではなかった。早口にまどわされて、ワンマンのよ うに評する部員もいたが、コイズミはそれは誤りだと判断してい 「部長の所に行ってくる」 コイズミは、顔色を変えているガモフを残して、席を立った。 た。ただ、戦闘技術部の性格が、彼にゆとりを与えていないのだ。 「部長さん、ご機嫌のようですね」 コイズミの部屋は独立しており、広いフロアーに殺風景な機器が 並んでいる。その機器類の間を縫って、コイズミは、今いた作業場 隣のシートで、部下のジョ 1 ジ・ガモフがにやりとした。 とは逆のコーナーにある、ドアへと向かった。 「やっと出番がまわってきたからだろうよ」 「そればかりではありません」ガモフはコイズミの顔色をうかがう戦闘技術部は比較的まとまった区域に存在しているので、部内に ロ 9

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「ます、先ほどのべイトマン博士のご質問にお答えします」 「万物は減衰せりーーわが情報総合学ではの項をそのように解釈 している」 コイズミは、陽気な数学者に微笑を送りながら喋った。 アーベルが半畳を入れた。 「″散乱法〃が失敗したことについては、意外と思われるかもしれ ませんが、戦闘技術部の作業員たちは、それほど意に介していると その間、事務部長フェイ・ハーと連絡をとっていたハーレ : 、 / 力会議 は考えられないのです。彼らは、このような事態にはなれていま卓に戻り、太い腕をどすんと卓上に置いた 9 す。おそらく、深い考えのもとに、失敗の理由を数えあげているよ「″分解法″のあと、つづいて″押戻法を実行する予定だったが、 うな人物はほとんど存在していないでしよう。また同時に、現在採変更になった。″敵の反応から、効果のないことが判明したため 用されている″分解法″についても、彼らは確信を持ってはおりまナ ど。したがって、ただちに″幽閉法″に移行することになる。その せん」 際、エネルギー拡散の方向が急転換されるので、『オロモルフ号』 「つまり、実施部隊ということだな」 はかなりの衝撃をうけることになるだろう」 ハール室長が言った。 「戦闘技術部は了承したのですか ? 」 「コイズミ、君自身はどう思っているのだろうか ? 」 アーベルが訊いた。 べイトマンが訊いた。コイズミはかぶりを振った。 「ガポール部長の提案をわたしが検討し、総司令官の指示をあおい だのだ。提案のもとはコイズミ君だと聴いている」 「・ほくの考えはすでに話してあるはずです。問題とするべきなのは 戦法ではない。″押戻法″にしても″幽閉法″にしても、また、 その時、はげしい荷電粒子嵐が船内の空気を痙攣させた。ハール ″希釈法″にしても、視点が″敵″との直接的な接触にあることで室長は太い眉をかすかに動かしただけで、話をつづけた。 は、変わりがない」 「今、ガポール部長の指示が下されたようだ。″幽閉法〃には膨大 な電圧を必要とするから、その影響で船内に圧電効果が発生するこ 「君の提案はダランベルト総司令官に取り次いでおいた。ただし : とになる。これは第一波だ。つづいて第二波が来る。しかし、諸君 ハ 1 ルの言葉の途中で、・フザーが鳴った。″分解法″が中断されはとくに変わった行動をとる必要はない」 たことの知らせである。会議室全体に振動が押し寄せた。 「コイズミ、君は部に帰らなくてよいのかね ? 」 「古典数学的に表現すればま十ミⅡ 0 だが、考古数学的にはど べイトマンが親切な口調で言った。コイズミは軽く手を振った。 うかね」 「その必要はない。ガモフが愚痴をこばしながら代理をつとめてい べイトマンが数学者特有の快活さで、振動する壁面に手をやりなる。さて、今度はわたしの方がおうかがいしたい。べイトマン君、 ライ・ハル がら言った。コイズミはこの好敵手に多少の皮肉をこめて答えた。 さきほど質問した件だが : : : 」 「わたしならまⅡ、国を十 ~ をと表現しますね」 べイトマンは渋い顔をし / 、、ール室長をうかがった。ハールは軽 2 3

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を表示していた。船全体が典型的な弾性力学にしたがって苦しんで ガモフは心地良い返事を期待する表情で、コイズミの顔を見た。 いる証拠である。 しかし、コイズミは何も言わなかった。ガモフは今度は、不安の色 8 「ポス、 いったい、いつまでこんな物凄い戦争が続くんです」 をはっきりと浮べて尋ねた。 ガモフが喘ぎながら言った。 「″散乱法〃が失散したように″分解法″も失敗しそうなのです コイズミは眉をしかめて答えた。 か ? そして、″押戻法″″幽閉法″″希釈法″など、ポスが部長 「推測だが、″希釈法″までは、終ることはないだろう。むろん、室でご覧になった五つの方法では、とてもかなわない相手なのです こちらが勝っと仮定しての話だが : : : 」 「とすると、ポスは、今の戦闘法は誤っていると信じているわけで 「ガモフ、君はしばらく、この座席で仕事をしていてくれたまえ。 すか ? 」 ぼくの代理だ」 「誤っているとはかぎらん。だが、″敵″は一筋繩ではいかん相手 コイズミは突然あることを思いついて、席を立ちながらこう言っ だ。ガモフ、君も、地球での蕁は知っているだろう」 た。ガモフはあわてた様子で、 「聞いたことがあります。司令室スタッフで古典文学者のコールド 「急用ですか ? わたしにポスの代理はとても : : : 」 ウエルが、記事にしていました。″破滅の使者″とか″暗黒の怪 コイズミは相手にせず、 物″とか呼んで、恐れているようですね」 「いすれにせよ、大勢に影響はない。指令どおりに作業していれば 「その呼称は正しいかもしれん。われわれが勝っことができるかどよい。″押戻法″に作戦が切り換えられても大差はない」 うかーーそれすらも判らないほどの強敵だ」 こう言い捨てると、ドアの方へ向かった。 「五つの方法のどれも通用しないほどの強敵ですか ? 」 そして、さきほど乗りすてたばかりのロケットに、ふたたびもぐ 「俺はそう思う。しかし、いつも自分の意見が正しいとはかぎらな りこんだ。ロケットはすぐに動きだした。加速の途中で、窓外に戦 い。ガポール部長としても、とにかく、やってみるほかはないの闘技術部長室の全景が見えた。ニ = ーヨーク・シティほどの広さで ある。コイズミはその片隅で指揮をとるガポール部長の孤独に想い 「戦闘技術部のスタッフとして、なにか提案をされたのではないのをはせた。 ですか ? 」 ロケットは宙を飛ぶと、じきに、減速をはじめた。目的地は、む 「現在の方法が、分散値を増大せしめていること、つまり、エント ろん、司令室長室である。 ロビーが = ネルギーの有効性を薄める方向に向いていることは報告むかえてくれたのはべイトマンだ 0 たが、運良く室長の ( ールを しておいた。今の時点では、他に名案はない」 つかまえることができた。他の用件で来た情報総合学者のアーベル 「不安です」 も、途中で一緒になった。

5. SFマガジン 1974年5月号

コイズミはすぐに、ロケットに乗り、戦闘技術部へと戻った。急 フアに身体を支えられているーーといった状態だった。声を出すの カタストロフィー がやっとである。 いで支度をしなければならない。″破局法″が実行されはじめて からでは、もう間に合わないかもしれないのだ。 「なんだね、こんな時に、君 : : : 」 コイズミは、亀裂が見るみるうちに拡がってゆく壁面を冷く眺め「ガモフ、ついて来なさい」 コイズミは、計器パネルにしがみついているこの愛すべき部下 ながら、詰問した。 を、無理にひきはがすようにして、エア・ポートへと急いだ。 「なぜ健康診断が必要なのですか ? 」 「″希釈法″はいったいどうなるのでしよう ? 」 「わかっているだろう : : : 」 ガモフはふるえる声で訊いた。 スロポドニクは腰をうかしながら言った。「哨戒艇はロポットで「結末は最初から判っていた」コイズミは説明してやった。「″希釈 法″の本質は濃度の減少であって、総体量の異次元化ではない。す あり、通常乗組員はアンドロイドにかぎられている」 なわち、″敵″の総量に変化はないのだ。これはいわば、地球周 「規則ではそうなっていません」 「わたしは医者だ。アンドロイドが専門だが、生身の人間のことも辺の宇宙空間を無限とみなす旧時代の発想法だ。しかも悪いことに ″敵″はこちらの作戦を見破るだけの知力をそなえている。ただの すこしは知っている。あの艇に乗ることは危険なのだ」 悪魔ではない。″希釈法″による攻撃をさける方法を、彼らは簡単 「わたしはアンドロイドです」 に発見してしまっただろう。最初から自らを希薄にしておけばよ スロポドニクはロを開いたまま、よろよろと立ち上がった。 われわれのエネルギー・ビームは、いたずらに空をきり、その 「よく、そう言ってわたしをだまそうとする人間がいる。だが、わ たしはいまだかって、ひっかかったことがない。なぜなら、わたし反動はわれわれ自身に害をおよ・ほす。船内いたるところに発生した 自身アンドロイドだからだ。人間がアンドロイドをだますことは不亀裂を見たまえ」 「おっしやるとおりです ! 」 可能だ。前例がない」 ガモフは感心したように、うなずいた。 「人間はアンドロイドをだませませんが、アンドロイドならアンド 「で、哨戒艇で外に出るとどのようなことが判るのですか ? 」 ロイドをごまかすことができます」 スロポドニクはふるえる手でコイズミの二の腕をつかみ、強く圧「それはわたしにも予測できない。今の段階では、ガポール部長が よく許可してくれたとおどろいているだけだ」 迫した。そして、首を振った。 「それは、ポスが戦闘技術部にとって、たいした重要人物ではない 「行きなさい。許可しよう」 からでしよう」 壁の亀裂はますます激しくなり、すでにその一部は崩れだしてい ガモフはまじめな顔つきで言った。 こ 0 9

6. SFマガジン 1974年5月号

おける交通は楽だった。 " 動く廊下″にとび乗れば、だいたい事が 「″散乱法″の汎積分値を持ってまいりました」 済む。 「ご苦労」 コイスミよ、、 ~ しつか、情報処理部長の・・エく ーラインが文「分散値は変動していますが、平均値は不変です」 句を言っていたのを思い出した。 「わかった」 ″部内を巡回するのに、ロケットに乗らなければならないバカ・ハカ コイズミは、ふりむかないガポール部長の背中の動きを眺めただ しさ ! けで、満足した。ディスプレイによる三者通話や会議テレビ電話で しかし、コイズミはむしろ、その反対のことを心配していた。 は、このような満足感はとても得られない。 部内の交通が楽であることは、言ってみれば、そこに、一種の閉「失礼します」 鎖空間を創りだすということである。その行く手にあるのは、自家部屋を出ようとするコイズミに、ガポール部長が声をかけた。 イ / ・フロージョン 中毒と内爆発たけなのだ。問題は、だから、他部との交通であ「いずれ意見を聞かせてもらうことになるだろう」 る。今朝の司令室長室での会議に出席するのに、ロケットが必要た「わかりました」 った事実こそ、糾弾されねばならぬ。 そう答えて一礼したコイズミは、動かしつづけていた視線を固定 宇宙船の中でロケットに乗る・ハカ ' ハ力しさ ! これこそ、爼上に させた。部長デスクの横に大書された文字の列を発見したからた。 乗せなければならぬ。 ①散乱法 コイズミはすぐに、部長室についた。 ②分解法 スタッフの特権で、事前の許可なしに、隣室まで入りこむことが③押戻法 できる。部長の居室には、ひっきりなしに人々が出入りしており、 ④幽閉法 どの顔も、深刻だった。 ⑤希釈法 ドアの所に立って、人々の往来をさばいていた秘書課長のヤング これは長い闘いになりそうだ コイズミは吐息をつくと、部長 がコイズミを案内した。 室を出、自室へ戻る予定を変更して、天文学部行きのロケット乗り 「お待たせしました、ドクター ・コイズミ。時間は一分と二十秒で場に足を向けた。 すが、どうそ : : : 」 戦闘技術部がこのような五つもの方法を引き受けるにあたって 「ありがとう」 は、天文学部の意見を聞かなかった筈はないのだ。 ガポール部長は、デスクの前に仁王立ちとなって、ひっきりなし天文学部長の・ケラーは公平で理知的な人物である。そして、 に入ってくる、戦闘技術部各部署からの呼をさばいていた。コイズガポール部長と仲が良い。そのようなことから、コイズミは、天文 ミはそのうしろに立った。 学部のアドバイスが今度の作戦作画に大幅にとり入れられているこ コール 掲 0

7. SFマガジン 1974年5月号

手だ 0 た。同じように数学に関係しているから、ーーというだけでな問題があるーーとわたしは考えます。それは、この宇宙船『オ 0 モ ルフ号』は、乗組員の " 量。に関して重大な欠陥を有しているとい 年令的にもキャリアからいっても、好敵手とならざるをえない うことです」 条件が揃っていたのだ。 「″質″ではないのかね、コイズミ ? 」 と、この時、警告を与える不吉な・フザーの音がした。 = イズミは、両頬をこわばらせた。思わず握りしめた両手の掌か古典文学者の = ールドウ = ルが口をはさんだ。 「いえ、″質″ならば解決は比較的容易です。方法はいろいろあ ら油汗が滲み出た。 よ起こ 0 ていない。しる。 " 量。に難点があるから、事態は緊急を要するのです」 この音がする時は、大体において、禄な事冫 コイズミは儀礼的に答えた。古典文学と考古数学とでは、相互理 かし、司令室長の ( ールは、周囲の壁全体から響いてくるこの不協 解はきわめて困難である。この場で本当に納得のいく説明をするこ 和音を、まったく無視して、会議をすすめた。 とは不可能と言っていい。 「数学者の話が出た。当然、つぎは考古数学者であるドクター コイズミはつづけた。 イズミの話を聞く番ということになる」 「わたしは、 " 量″に関する難点を克服するための提案をしたいと 「お招きいただいて光栄に思っています」コイズミは緊張を無理に やわらげ、軽く一礼した。「わたくしは他の皆さん方とはちが 0 思います。現在、『オ 0 モルフ号』の乗組員の総数は二千人を越え て、司令室スタ ' フではありません。戦闘技術部のスタ ' フ・ = ています。むろん、その中には、助手や補助者は含まれていませ ん」 ジニアであり、かっ考古数学者であります」 1 ノ力、かすかに、眉をしかめた。 喋りながらコイズミは、ここに居る連中が考古数学についてどれ ほどの理解を示してくれているのだろうなーーと考えた。すくなく「宇宙船は第一級のスペシ〉リストだけで三千人を収容する能力が とも ( ールは判 0 てくれている筈なのだが、この慎重な司令室長ある。スペースは十二分にと 0 てあるが = = = 」 「収容能力の問題ではないのです」コイズミは声を大きくした。 は、容易には、自分の本心をのそかせないのだ。 = イズミは言葉を選んだ。話す内容は、司令室スタ ' フ会議の特「 " 量。に関する難点とは、いわば、 = ンビータのそれに似てい 別ゲストとして声をかけられたとき、すでに決ま「ていたことであます。 " 量。と戦闘能力とは、可変【ラ , ータを含む、ふた 0 の方 程式によって結びつけられています。それは : : : 」 る。 言葉の途中で、コイズミは息を殺した。 「ーー・というわけですから、皆さん方とはすこし別の見方をしてみ たいと思います。今までのところ、議論は、船内のどのグルー。フで全身を痙攣させるシ ' ' クが、襲 0 てきたのだ。ブザーの音が急 も同じことのようですが、 " 敵。の正体や戦闘の方法についてなさに高くな 0 た。壁寄りにある室長デスクの上のディスプレイが、ま たたきはじめた。 れています。むろん、これは大切なことです。だが、さらに緊急な コ

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「先生はかれに関心を持ちになりましたか。かれはわが抗州市が誇 る人民芸術家です。かれは長い間、金魚の交配による品種改良に取 組み、いかにして優美な金魚を造り出すかという創造的使命に革命 上海から蘇州をへてさらに南へ下ると抗州という大きな街があで得た情熱を注ぎこみ : ・ 生硬な日本語の意味するところが私のひたいからつめたい汗をに る。この街の郊外に西湖とよばれる大きな湖がひろがっている。こ の湖の周囲十五キロメートルがすべて広大な公園になっている。こじみ出させた。あぶないところでとんだ恥をかくところだった。私 のあたりには名所が多く、休日の人出は日本の観光地と少しもかわはその老人が金魚屋だと思ったのだ。聞くところによるとかれは日 つよ、 0 この湖の中に孤山という大きな島があり、その島に中山公中戦争では長城をめぐる戦いで声帯を傷つけられ、内戦時代には八 園という庭園があった。その庭園の一角の御影石を敷きつめた広場路の遊撃隊員として戦って腰椎をくだかれた傷夷軍人だった。復員 で私は妙なものを見つけた。地べたにじかに洗面器ぐらいの大きなしてから金魚を改良して新しい品種を作り出すことに第二の人生の どんぶりが二十個ほどならべられているのだ。なんだろう ? 近寄道を見出したのだという。かれはひと月のうち何日かをここへ来 ってみるとならんだどんぶりのむこうに一人の老人がひざをかかえて、自分の作品である数々の金魚を人々に見せているのだという。 てうずくまっているのだ。どんぶりに近づいて中をのぞきこんだ私これはいわばかれの個展だったのだ。 管理人が去ると、私はある種の感慨を抱いてそれらの金魚と対い は心中奇声を発した。なんとどんぶりの中をゆらゆらと泳いでいる 合った。ふと気づいたのは金魚を入れた二十個あまりの鉢がすべて のはすばらしい金魚だった。それも水泡眠やおらんだししがしら、 それに話にだけは聞いたことのある紫出目。朱天眼。それに全く新青磁の逸品であることだった。場所が場所なら古美術商の手から手 しい交配によるものと思われる黄金色や二色大斑のものなど珍品とへわたり、高価な古鉢として美術館の棚に飾られ、あるいは愛好家 しか言いようのない金魚が集められているのだ。一瞬、私は日本まのガラス戸棚におさめられるはすの浙江の古陶器をかれは地べたに での長い長い道のりを頭に浮かべた。私はそれからさらに雲煙万里ならべ水を張り、自分が作り出した金魚を浮かべているのだった。 のかなたともいうべき洛陽〈向 0 て旅立とうとしていたのだ 0 た。金魚は花のように青磁に映え、円い水面に白い雲が写 0 ていた。人 金魚を持「てどうしてその長い旅ができよう。しばらく考えた末、生はまことにさまざまなものだ。声を失ない歩行もかなわなくな 0 私は帰り道にまたここ〈寄ろうと思「た。そのときこの老人はここた一人の男が美しい金魚を作り出そうと思い立 0 たその理由はい 0 〈は出ていないかもしれない。老人の家がどこかそれを聞いておけたい何だ 0 たのだろう ? 長い戦乱と自らの負傷という曲折の果に ばよい。私はにわかに張り切 0 て老人に話しかけた。私のかたことたどりついたのが一匹の金魚であるとしたら人生はあまりにも劇的 でありすぎる。いや劇的であり過ぎるからこそこれはひとつの片鱗 の中国語に、老人は笑いながらだまって手をふるばかりだった。私 なのかもしれない。かすかにゆれ動く円い水面にじっと視線を落し ははなはだ自信を失って誰か通訳をしてくれる人はいないか公園の たまま動かないその老人のひとみに、私は私の知らないひとつの男 中の人影を物色した。そのとき、公園の管理人の姿が目に入った。 9 の夢を見たような気がした。 公園の管理人には学生が多い。かれを呼び止めると思った通り抗州 金魚にはどこかにそしてつねに、あえかな夭しい夢がある。そんに な生き物なのだ。金魚というものは。 大学の学生で日本語は達者だった。 シーナ /

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くうなずいた。ペイトマンはふだんの快活さを失った口調で話しポドニクは、アンドロイド医療学の機威であり、したがって、この た。、爿詳しいことは知らない。おそらく、この船内の誰もが知らなような事にはなれているのだ。コイズミはしばらく沈黙した。ハ いだろう。ただ、表面的な記録を調べることはできる。会議と提案ルが、うながすように言った と採決だ」 「コイズミ、君がたずねてぎたのは、質問をするためだけではある 情報総合学者のアーベルが言葉を継いだ。「ドクター ・べイトマまい。言ってみなさい」 ンは数学者だから、表現が抽象的にすぎる。わたしも司令室スタッ 「希釈法″が終わったあと、どのような作戦を採用するか、その フだから、多少は知っている。会議は部長連中が全員集まってひら戦略についてです」 かれた。提案は散発的だったが、 ) いちばん活に議論したのは精神、「ぼくにひとつの考えがある」コイズミが言いおわらぬうちに、ペ カタスト tl フィー 学部長のイグサ博士と医務室長のスロポドニクとだ」 イトマンが声を出した。「″破局法〃を用いるべきなのだ」 「天文学部長は ? 」 その時、第二の圧電反作用の波動が会議室をゆり動かした。″幽 閉法″による戦闘がいよいよ本格化した証拠である。 コイズミは訓いた。アーベルは笑った。 「ケラー博士は作戦よりもむしろ、″敵″の正体の解明の方に関心 を示しておられる。従来のすべての予言や解釈に反対して、新しい 4 アプローチを見出すために心血をそそいでおられるのだ」 んドリック 「なるほど、理解できるような気もする。しかし、なぜまた、精神地球をとりか一」む宇宙時空の測度は、妻じい摂動をうけつづけ、 学部や医務室が作戦の主要な提案元となったのですか ? 情報処理もはや、安定な停留点はひとっとして存在していなかった。芥子粒 部もあれば、構成理論部もある。予言工学部や窮理学部、超心理学のごとき飛翔体は、信じられないほどの攻撃力を示して、″それ″ 部も意見をもっているはずです。戦闘技術部ですら、なにがしかのの存在に挑戦していた。″それ。はとまどっているようにみえた。 提案はしているはずですが : : : 」 はじめに見せたような、うるさそうな素振りは、もはや、うかが 「まさにそのとおりだ」 / 、ールがかすかに頬笑んだ。「あらゆる部えなかった。飛翔体を完全な敵対者と見なすようになっていた。 署から意見が出された。だが、このような未知の″敵″を相手にす " それ″は、自己の持つあらゆるエネルギーとエントロ。ヒーとを流 る場合「しばしば、精神学部の手法や医務室の経験が物を言うこと動させ、飛翔体をたたきおとそうとした ~ しかし、そのような努力 があるのだ」 にもかかわらず、″それ第は守勢に立っことすらあるようだった。 ・「わかりました」 まず、飛翔体は、割れた月と天色の地球とを立体角上で避けただ オムニ コイズミはうなすいた。精神学部はやや意外だったが、医務室にけで、それ以外のあらゆる角度に対して全方向ビームの雨を降らせ た。これは″それ″にとっては脅威であった。これまで、数知れな ついては ) むしろ予想していたところだった。医務室長の・スロ 掲 4

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ア、ヤカワ・ノン刀クション 絶賛発 - 売中ヨ 《中東の石油王国》 オイル・パワー 、しナード・モズレー / 高田正純訳 昨秋、突如世界を襲った石油危機 はどのようにして、なぜ、起こっ のか ? その解決策はなにか ? 日は、数百人の重要人物のイン ビューと厖大な資料を駆使して でうかがい知れなかった石油 王国の内幕を描き、これらの疑問 に える。また、エキゾティック な ラブの風習・自然のもとで石 油 めぐって闘う人々の秀れたド キ メントである。上製 / ¥ 1300 近刊 ーに潜よ ! U47 、スカ / ヾ・フロ アレクサンドル・コルガノフ / 内藤一郎訳 四 39 年田月日未明、一隻の IJ ポート がイギリス本国艦隊泊地スカバ・フロ ーに潜入し、敵艦チ カ その戦果をめぐる・イツとイギ . 主張は大きく食いをつた矼第ニ次大単廴 , の海戦の火蓋を切イ戦闘のミスデー に挑んだ異色戦記朝、い・ 予価 \ P00 ・ -