考古 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1974年5月号
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1. SFマガジン 1974年5月号

その考古学者の書斎が、今日から遠く隔たった時代に属するもの部屋の中央、ちょうど床と天井の中間あたりに、息をのむほど美 であることは、明らかだった。ここかしこに見られる親しみ深い類しい七彩の鱗をもった魚が一びきうかんでいる。それを支えている 似点が、かえって全体の異質さを際立たせているようだ。天井の窓ものはほとんど目に見えないため、さきほどの奇妙な絵画や、緑が からさしこむ日ざしは緑色を帯びて弱々しいが、周囲の壁や床に埋かった光線も考えに入れると、これはてつきり水底の場面を作り出 めこまれたある種の発光物質がそれを補っている。広い机の表面すのが目的だなと、だれでも思うにちがいない。 や、あちこちのものかげからも、柔らかい光が滲み出ているように探険家は、そろりそろりと芝居がかった動きで、その書斎にはい ってきた。そして、甲羅経た考古学者を驚かせてやろうという計算 見える。机の上に散らかっているのは、金属で裏打ちされた数枚の 物板と、数本の鉄筆、それに大きくて奇妙なかたちをしたメガネ。づくで、温かく彼を抱きしめた。やがて探険家はものかげに席をえ ぎっしり詰まった書棚にはとりたてて異様なところがないが、どのらび、考古学者に質問を発したが、それはわれわれの知っている言 本にも金属の表紙で装幀されており、その背に刻まれた文字は当代葉や語法とはあまりにもかけ離れたものであるため、異種の言語と 一の言語学者すら見たためしのないものだ。なかの一冊は読みかけいうよりは、むしろ異種の意思伝達手段と呼ぶほうが適切なぐらい のまま、ものかげに置かれて、柔軟な不銹金属の薄箔でできたペー だった。とにかく、その意味はつぎのようなものである。 ジと、そこに記された発光文字をはっきりと見せている。書棚のあ「さてと、あれはどんなぐあいなんだ ? 」 いだには、憐光絵具で描かれた何枚かの油絵が飾られているが、そかりにこの言葉に驚きを感じたとしても、考古学者はそれを表に の大半は陰欝な緑と褐色を基調にした海底の風景である。写実的と出さなかった。彼の表情に示されたものは、長らく故郷を留守にし も抽象的ともっかぬその画風は、どんな美術史家をも当惑させるよていた友人と再会できた喜びだけだった。 うなしろものだ。 「なにがどんなぐあいだって ? 」考古学者はききかえした「 大きな色クレョンを備えた黒板が、この書斎に、なかば教室、な「きみの発見さ ! 」 かば仕事場、といった。雰囲気を与えている。 「なんの発見だね ? 」考古学者はいたずらつにくとぼけてみせた。 2 ℃ 0 280 2 日 0 ー 80 920 9 引 890 999 ー 07

2. SFマガジン 1974年5月号

とを知らずに : : : ああ、なんという虚しい、残酷な話だろう ! 」 「そうなんだ。その上、哺乳類でもあった」 「わたしはそう思わない」考古学者は快活にいった。「まったくの「哺乳類 ? それはちょっと意外だな」 話、地球を離れていたあいだに、きみはわたしが最初思った以上に 「だろうね」 心のおちつきを失ったようだ。もらと物事を公平に眺めてみたま探険家はすこし体をすらした。「進化的分類なんて、どのみち決 え。死は、どんなものにも最後にはやってくる。われわれの過去まりきったものだ。彼らがどんな姿かたちをしていたかという知識 も、死者で満ちみちているじゃないか。あの種族は死んだ。それはも、あんまり意味はない。おれはもっと親密なやり方で彼らにアプ 事実だ。しかし、彼らがさまざまの業績をなしとげたこと、彼らが ローチしたいんだ。彼らは自分たちのことをどう考えていたのか ? 幸福を味わったことに、やはり変わりはない。彼らが短い期間にな自分たちをどんな名で呼んでいたのか ? むろん、そんな単語を聞 しとげたことは、もし彼らが十億年も生きた場合になしとげただろ いてみたところで、意味がとれるわけのものでもないさ。しかし、 うことと、おなじだけの意義がある。現在はつねに未来よりも重要なにかのーーー直感的な認識がっかめると思うんだがね」 だ。そして、どんな生物もすべての未来を独占することはできない 「わたしにはその単語は発音できない」考古学者はいった。「な・せ それはほかの種族と分かちあい、ほかの種族に残されなくては なら、それに必要な発声器官がないからだ。しかし、彼らの文字は ならないものなんだよ」 かなり研究したので、彼らが書いていたとおりにそれを書いて見せ 「そうかもしれない」探険家はおもむろに答えた。「うん、たぶんることはできる。そういえば、この単語は彼らのすべての言語に共 きみが正しいんだろう。だが、やはりおれは、彼らのことが哀れで通していた単語の中の一つ、つまり、彼らが先住種族からうけつい ならないんだよ。たとえ少数でも脱出したものがいて、われわれの だと考えていた単語の一つなんだよ」 まだ知らない惑星に植民地でも作っていてくれればと、そんなこと考古学者は、八本の触手のうちの一つを黒板のほうにのばした。 を願いたくなる」 その先端の吸盤が、しつかりとオレンジ色のクレョンをつかんだ。 長い沈黙がおりた。やがて、探険家は友人のほうに向きなおり、 もう一本の触手がメガネをとりあげ、それを三インチも突出した彼 最初の陽気で賑やかなムードをいくぶんとりもどしたかのような口の両眼の上にはめこんだ。 調でいった。 ウナギに似たきらきら光るべットが部屋に漂いもどってきて、も 「おい、それにしてもずるいそ。まだ、彼らについてなにも具体的の珍しそうに鼻づらをこすりつける前で、考古学者のもっクレョン は黒板にこんな文字を書きつけた なことを教えてくれていないじゃないかー 「そうだったかね ? 」考古学者は無邪気さを装っていった。「じゃ ネズミ 言おう、彼らは脊椎動物だった」 「ええ ? 」

3. SFマガジン 1974年5月号

「前にもいったが、あれはわたしの発見じゃないんだよー考古学者荒々しい冒険のあいだにいくぶんかをなくしただろうあの秩序正し くおちついた思考の習慣を、もう一度とりもどさなくちゃいけな はやんわりと訂正した。「きみの探険隊が出発してから数年後に、 地球の鉱物資源の綿密な再調査がはじまった。そして、大陸の深層い」 ポーリングをやっているうち、ある作業班が一種の貯蔵庫を見つけ「こいつめ、うまいことを言いやがって、実はおれを焦らしたいだ たんだ。非常に大型の箱か、でなければやや小さい部屋という感しけなくせにー で、きわめて強靱な金属の壁がめぐらしてあった。明らかに製作者考古学者の表情は、これがまったくの言いがかりでもないことを の意図は、未来へのメッセ 1 ジをそこに託することにあったらし示していた。彼はデスクの上へくねくねと這いのぼってきた動物 。中には、いろいろな品物がおさめられていた。建物や乗物や機を、軽く愛撫した。蛇というよりもウナギに似た生き物だった。 械の模型、美術品、絵画、そして本ーーー何百冊もの本と、それを解「かわいいやつだろう ? 」と考古学者はいった。それでも探険家が 釈するためのおびただしいさし絵入りの辞書までがあった。という疳癪を破裂させないのを見てとると、彼は話の先をつづけた。「わ わけで、いまではわれわれも彼らのもっていた数種類の言語を理解たしの仕事というのは、その貯蔵庫の内容を解釈し、その製作者た できるようになった」 ちの蛮性から文明への上昇を復元することだったんだ。彼らの急速 「数種類の言語 ? 」探険家は話をさえぎった。「妙だな。なんとなな地球表面への蔓延ぶりと、地球から脱出しようとする彼らの最初 、異種族というものはたった一つの言語しか持ってないような気の幼稚な試みをね」 がするんだがね」 「その種族は宇宙船を持っていたのか ? 」 「われわれとおなじように、この種族も何種類もの言語を持ってい 「その可能性もわずかにある。わたしはむしろそうであったことを たらしい。もっとも、いくつかの単語や文字は、どの言語でも共通願っているんだ。だって、そうすれば彼らがどこかで生存している していたようだ。これらの単語や文字は、彼らのもっとも遠い先史可能性もあるわけだろう ? きみの探険の否定的な結果を聞くと、 時代から、変化せずにうけつがれてきたように思える」 いくぶん望み薄ではあるがね」彼は話をつづけた。「その貯蔵庫 探険家はこらえかねたように、「そんな無味乾燥な説明はもうたは、彼らがはじめて宇宙飛行を試みた時代、彼らが原子力を発見し くさんだ ! もっとうるおいのある話をしてくれ ! 彼らはどんなた直後、彼らの青春の最初の高揚期だった。おそらく、彼らは豊か 生物だったんだ ? どんな生活をしていた ? なにを作り出した ? な空想の溢れるままにその貯蔵庫を作り出したのであって、それが なにを欲しがった ? 」 意図したとおりの使命をなしとげるとは、本気で信じていなかった 考古学者は相手の急き込んだ質問を穏やかに制した。「まあ待ちのだろう」考古学者は奇妙な目つきで探険家を見ながらいった。 たまえ。きみの知りたいことをぜんぶ話すためには、わたしの流儀「もしわたしの思いちがいでなければ、われわれもそれに似た貯蔵 8 で話さなくてはね。もうきみも地球に帰ってきた以上、星・ほしでの庫の建設に着手しているはずだよ」

4. SFマガジン 1974年5月号

ややあって、考古学者は言葉をついだ。わたしの復元した彼らのる傾向といったほうが正しいかもしれない。大きな建築物はとり壊 歴史のうち、貯蔵庫の建設から後は、大部分が仮説にすぎない。彼されて、小さなそれに変わる。機械はパラ・ハラにされて、原始的な らの衰亡の原因にしたって、臆測の域を出ないんだ。補足的な資料道具や武器に改造される。それを一種の単純化、あるいは抹消とい がなかなか集ってくれないせいもある。広く分散した地点で、徹底ってもいい。文化面での熱力学第二法則が働きはじめて、知能とそ 的な発掘をつらけているにはいるんだがね。とにかく、これが最近の所産のすべてが、徐々に意味と創造性の最低レベルへ落ちこんで の報告だ」彼は小さな金属紙のパンフレットを、探険家のほうへひ いく」 いと投げた。それは寄妙にゆるやかな動きで宙を横切った。 「しかし、なぜ ? 」探険家は傷ましげにいった。「いやしくも知的 「それなんだ、最初からどうも不思議でならなかったのは」探険家種族とあろうものが、なぜそんな終末を迎えねばならんのだ ? 原 はパンフレットをちらと見ただけで、それを脇にどけてしまった。子力が暴走する可能性というのは、わからんでもない。もっとも、 「もしその生物がかなり進んた文明を持っていたのなら、どうして彼らだって最大の注意を払ってはいたことだろう。なんにしても、 われわれはもっと早くに彼らのことに気づかなかったのだろう ? それならありうる。しかし、第四の答はーーそれは病的だよ」 彼らはたくさんの物を残しているにちがいない , ーー・建物、機械、そ「どんな文化も文明もいずれは減びる」考古学者は淡々と答えた。 れに大規模な土木事業。そういった遺物が、いたるところから出て 「それは、われわれ自身の歴史でも、くりかえし起こってきた。種 きていいはすじゃないか」 族がそうならないと、どうして断言できるね ? それは個体の死と いったい種族の死の中に、個体の死よりも本質 「それには四つの答が考えられる」考古学者は答えた。「第一の答おなじことだよ は一番わかりきったものだ。時間。厖大な地質時代の経過だ。第一一的に傷ましいなにものかがあるだろうか ? 」 の答はもうすこし微妙になる。もし、われわれの探していたのがま考古学者はしばらく間をおいてからつづけた。「さて、この種族 ちがった場所であったとすれば ? つまり、もしその生物の占めてに関するかぎり、わたしはある種の気質的な不安定さが彼らの終末 いた地球上の領域が、われわれのそれと大きく異っていたとすれを早めたのではないかと思う。彼らの欲求や感情は、彼らの理解カ やドラマの感覚、ーー生きていくことの喜劇と悲劇を鑑賞する能力ー ば ? 第三の答は、」 御を失った原子力が、その種族を全減させ、 ーにうまく従属していなかった。彼らはせつかちで、ちょっとした 文明の痕跡までも破壊してしまった、という可能性だ。現在の地球 表面に見られる放射性化合物の分布状態も、この仮説にいくらかの挫折にも狼狽しやすかった。彼らは快楽に対して奇妙な罪悪感を持 根拠を与えている」 っていたようで、陰気なモラリストか、でなければ暴食家のように 考古学者はさらにつづけた。「第四は、わたしの持論だが、知的ふるまった。 種族がいったん退歩にさしかかると、それまで自分たちが苦労して さまざまなタブーと過度の所有欲のために、彼らは自分の愛情を 小さな家族の中に限定する傾向があった。多くの場合、その愛情の 作り上げたすべてのものを破壊する傾向がある。いや、むしろ貶め

5. SFマガジン 1974年5月号

手だ 0 た。同じように数学に関係しているから、ーーというだけでな問題があるーーとわたしは考えます。それは、この宇宙船『オ 0 モ ルフ号』は、乗組員の " 量。に関して重大な欠陥を有しているとい 年令的にもキャリアからいっても、好敵手とならざるをえない うことです」 条件が揃っていたのだ。 「″質″ではないのかね、コイズミ ? 」 と、この時、警告を与える不吉な・フザーの音がした。 = イズミは、両頬をこわばらせた。思わず握りしめた両手の掌か古典文学者の = ールドウ = ルが口をはさんだ。 「いえ、″質″ならば解決は比較的容易です。方法はいろいろあ ら油汗が滲み出た。 よ起こ 0 ていない。しる。 " 量。に難点があるから、事態は緊急を要するのです」 この音がする時は、大体において、禄な事冫 コイズミは儀礼的に答えた。古典文学と考古数学とでは、相互理 かし、司令室長の ( ールは、周囲の壁全体から響いてくるこの不協 解はきわめて困難である。この場で本当に納得のいく説明をするこ 和音を、まったく無視して、会議をすすめた。 とは不可能と言っていい。 「数学者の話が出た。当然、つぎは考古数学者であるドクター コイズミはつづけた。 イズミの話を聞く番ということになる」 「わたしは、 " 量″に関する難点を克服するための提案をしたいと 「お招きいただいて光栄に思っています」コイズミは緊張を無理に やわらげ、軽く一礼した。「わたくしは他の皆さん方とはちが 0 思います。現在、『オ 0 モルフ号』の乗組員の総数は二千人を越え て、司令室スタ ' フではありません。戦闘技術部のスタ ' フ・ = ています。むろん、その中には、助手や補助者は含まれていませ ん」 ジニアであり、かっ考古数学者であります」 1 ノ力、かすかに、眉をしかめた。 喋りながらコイズミは、ここに居る連中が考古数学についてどれ ほどの理解を示してくれているのだろうなーーと考えた。すくなく「宇宙船は第一級のスペシ〉リストだけで三千人を収容する能力が とも ( ールは判 0 てくれている筈なのだが、この慎重な司令室長ある。スペースは十二分にと 0 てあるが = = = 」 「収容能力の問題ではないのです」コイズミは声を大きくした。 は、容易には、自分の本心をのそかせないのだ。 = イズミは言葉を選んだ。話す内容は、司令室スタ ' フ会議の特「 " 量。に関する難点とは、いわば、 = ンビータのそれに似てい 別ゲストとして声をかけられたとき、すでに決ま「ていたことであます。 " 量。と戦闘能力とは、可変【ラ , ータを含む、ふた 0 の方 程式によって結びつけられています。それは : : : 」 る。 言葉の途中で、コイズミは息を殺した。 「ーー・というわけですから、皆さん方とはすこし別の見方をしてみ たいと思います。今までのところ、議論は、船内のどのグルー。フで全身を痙攣させるシ ' ' クが、襲 0 てきたのだ。ブザーの音が急 も同じことのようですが、 " 敵。の正体や戦闘の方法についてなさに高くな 0 た。壁寄りにある室長デスクの上のディスプレイが、ま たたきはじめた。 れています。むろん、これは大切なことです。だが、さらに緊急な コ

6. SFマガジン 1974年5月号

「ます、先ほどのべイトマン博士のご質問にお答えします」 「万物は減衰せりーーわが情報総合学ではの項をそのように解釈 している」 コイズミは、陽気な数学者に微笑を送りながら喋った。 アーベルが半畳を入れた。 「″散乱法〃が失敗したことについては、意外と思われるかもしれ ませんが、戦闘技術部の作業員たちは、それほど意に介していると その間、事務部長フェイ・ハーと連絡をとっていたハーレ : 、 / 力会議 は考えられないのです。彼らは、このような事態にはなれていま卓に戻り、太い腕をどすんと卓上に置いた 9 す。おそらく、深い考えのもとに、失敗の理由を数えあげているよ「″分解法″のあと、つづいて″押戻法を実行する予定だったが、 うな人物はほとんど存在していないでしよう。また同時に、現在採変更になった。″敵の反応から、効果のないことが判明したため 用されている″分解法″についても、彼らは確信を持ってはおりまナ ど。したがって、ただちに″幽閉法″に移行することになる。その せん」 際、エネルギー拡散の方向が急転換されるので、『オロモルフ号』 「つまり、実施部隊ということだな」 はかなりの衝撃をうけることになるだろう」 ハール室長が言った。 「戦闘技術部は了承したのですか ? 」 「コイズミ、君自身はどう思っているのだろうか ? 」 アーベルが訊いた。 べイトマンが訊いた。コイズミはかぶりを振った。 「ガポール部長の提案をわたしが検討し、総司令官の指示をあおい だのだ。提案のもとはコイズミ君だと聴いている」 「・ほくの考えはすでに話してあるはずです。問題とするべきなのは 戦法ではない。″押戻法″にしても″幽閉法″にしても、また、 その時、はげしい荷電粒子嵐が船内の空気を痙攣させた。ハール ″希釈法″にしても、視点が″敵″との直接的な接触にあることで室長は太い眉をかすかに動かしただけで、話をつづけた。 は、変わりがない」 「今、ガポール部長の指示が下されたようだ。″幽閉法〃には膨大 な電圧を必要とするから、その影響で船内に圧電効果が発生するこ 「君の提案はダランベルト総司令官に取り次いでおいた。ただし : とになる。これは第一波だ。つづいて第二波が来る。しかし、諸君 ハ 1 ルの言葉の途中で、・フザーが鳴った。″分解法″が中断されはとくに変わった行動をとる必要はない」 たことの知らせである。会議室全体に振動が押し寄せた。 「コイズミ、君は部に帰らなくてよいのかね ? 」 「古典数学的に表現すればま十ミⅡ 0 だが、考古数学的にはど べイトマンが親切な口調で言った。コイズミは軽く手を振った。 うかね」 「その必要はない。ガモフが愚痴をこばしながら代理をつとめてい べイトマンが数学者特有の快活さで、振動する壁面に手をやりなる。さて、今度はわたしの方がおうかがいしたい。べイトマン君、 ライ・ハル がら言った。コイズミはこの好敵手に多少の皮肉をこめて答えた。 さきほど質問した件だが : : : 」 「わたしならまⅡ、国を十 ~ をと表現しますね」 べイトマンは渋い顔をし / 、、ール室長をうかがった。ハールは軽 2 3

7. SFマガジン 1974年5月号

探険家は、しようがないな、といいたげな身ぶりで、「きまって異常なんじゃないかね ? そりや、あれだけ長いあいだ地球を離れ るじゃないかー ほかになにがある ? きみがこの地球上で見つけていれば、地球のどんなニュースでも特別重要に思えるのかもしれ 0 たという、知的生物の遺跡さ ! 世紀の発見さ ! そうもったいぶない。しかし、それ以外になにかの理由があるのでは ? 」 るなよ。さっさと話せー 探険家は苛立たしげに身をよじった。「ああ、あるかもしれない 「あれを発見したのはわたしじゃない」考古学者は穏やかに答えな。一つには、失望だろう。われわれは外空間で知的生物との接触 た。「わたしはただ発掘を監督し、資料の対比を指導しただけにすを期待していた。異星生物と精神的な接触を結ぶために、特殊な訓 ぎないよ。それより、そちらの話を聞かせてくれたまえ。きみのほ練も受けた。ところがどうだ、たしかにいくつかの惑星で生命を発 うこそ話すべきだ。なにしろ、宇宙の旅から帰ったばかりなんだか見はしたよ。しかし、それはわざわざ接触する価値もない、ごく原 らね」 始的な生物だった」 「いいじゃないか、そんなことは」探険家は相手をさえぎって、 ふたたび探険家は照れくさそうにためらった。「宇宙へ出ると、 「われわれの宇宙船が地球の電波圏内にはいるのを待って、留守中知能の貴重さを痛感するようになる。知能はあまりにも稀少で、あ の = = ースが順々に送信されてきたんだ。その中の一つが、腹の立まりにも孤独だ。ところが、われわれの思考に深みと・ ( ランスを与 つほど簡略にだが、きみの発見のことを報じていた。おれはす 0 かえるためには、どうしても他の知的生物との接触が必要なんだ。た り夢をそそられてな。くわしい話を聞きたくて、もう待ちきれない ぶん、おれは、そういう接触に多くの期待をかけすぎていたのだろ 気持だった」そこで間をおくと、告白するように、「宇宙へ出るう」すこし間をおいて、「とにかく、われわれの探し求めていたも と、なんにつけてもやたらに熱心になるーーーなにしろ、ちつぼけなのが、なんと故郷で、しかも、きみによって発見されたというの 生命のしずくが、金属の膜に包まれて、茫漠とした広がりの中にポは、たとえそれが死減した過去のものであっても、おれにとっては大 ツンと浮かんでるわけだろう ? 自分の感情の再発見とでもいうか ニュースだった。おれはいっぺんに夢中になってしまった。たしか 探険家はやや恥じらったように、そそくさとあとを締めくく に、もう絶減した種族のことでそんなに興奮するのはーーおかしい った。「まあそんなわけで、歓迎ぜめから体があくのを待ちかねだろうーーーおれがいくら興味を持ってみたって、相手がどうなるわ て、まっすぐここへやってきた。どうせのことなら、この問題の最けのものでもないさ。しかし、事実そうなんだからしかたがない」 高権威ーーーっまりきみから、じかに話を聞きたいと思ってな」 いくつかの小さな影が、頭上の窓を通りすぎていった。小鳥にし 考古学者はいぶかしげに相手を見つめた。「わたしのことや、わてはあまりにもゆるやかな動きだった。 たしの研究のことをそんなふうに思ってくれるのは光栄だし、ひさ「なるほど。わかるような気もする」考古学者は静かにいった。 しぶりにこうしてきみに会えて、とてもうれしいよ。しかし、それ「だったら、つべこぺいわずに、さっさときみの発見のことを話し にしてもだ、この一件にきみがそんなに興奮するなんて、いささか たらどうだ ! 」探険家は疳癪を破裂させた。

8. SFマガジン 1974年5月号

焦点は自己にのみ向けられていた。彼らは私的な特権や、富の蓄積探険家はうなだれた。彼の興奮は目に見えて薄れ、そのあとに冷 や、権力の行使を尊重した。思考や操作技術における彼らのすぐれたくみじめな感情の滓が残ったようすだった。「なんだか、その先 は聞きたくない気分だな。あまりにもわれわれによく似ている感じ た能力は、精神面よりもむしろ物質面に費やされた。彼らのテクノ ロジーは、心理学をはるかに凌駕した。そして、生の目的や知的活じゃないか。ひょっとすると、ここへきたのはまちがいだったかも 動の目的、さらにはそれらを保存する手段についての真剣な考察をしれん。きみに言葉を返すようだが、宇宙へ出ると、われわれでさ え感情の抑制がなくなってくる。なにもかもが、言いあらわしよう なおざりにするという、致命的な誤りを犯した」 もないほど強烈なんだ。いきおい、気分にも激しいむらが生じる。 ふたたび、いくつかの影がゆっくりと頭上を漂っていった。 「最後にもう一つ」と考古学者はいった。「彼らは奇妙な固定観念一瞬のうちに天頂から天底へと落ちこむこともざらだーー・それに、 をもった種族だった。つまり、ほかの種族、自分たちよりも偉大なあそこではその両方が見えるんたからな」 種族が、自分たちよりも前に栄え、そして減び、あとに残された自探険家は悲しそうな声でつけたした。「おれはその失われた種族 分たちがその廃墟から文明を復興した、という観念に取りつかれてのことを聞きたくてならなかった。永劫の時を超えて、彼らに一種 いたようすなんだ。そして彼らは、自分たちのあらゆる言語に共通の友愛を感じることができるものと期待していた。ところが、おれ したいくつかの単語や文字が、その異種族から由来したものだ、との触れたのは死骸ばかりだ。ちょうど宇宙の旅の途中で、かすかな 星明りに照らされて、死減した太陽がにゆっと船首へ近づいてきた 考えていた」 「つまり、神々か ? 」と探険家。 ときを思い出すよ。彼らは若い種族たった。彼らは前途に希望を持 考古学者は答をにごした。「そうでないと、だれが言いきれるっていた。彼らはそれに対して永遠の努力を傾けようと誓った。彼 らの憧れる未来から、そのあいだにも死の影がにじりよっているこ 本年度ノドベル医学・生理学賞受賞 コンラート・ローレンツの名著ー ソロモンの指環 日高敏隆訳 5 3 0 円 早川書房

9. SFマガジン 1974年5月号

・第チリゴ 7 スキ」の復権 ( 一 ロシア生まれの医学者イマヌエル・ヴ = リコフスキーが『衝突する宇宙』 くとも学間的には、徹底的にうちのめされ、ほ・ほ完全に否定されてしまっ を書いて天文学界に激しい論争を惹きおこしたばかりでなく、世間一般にも た 0 、とど、に、 ここ二十年のあいだに開発された、新らしい天文観測の技術 非常なセンセーションをまきおこしたのは、一九五〇年のことで、あれから は、いままで謎とされていた太陽系内部のさまざまの現象をつぎつぎと解明 早くも四半世紀が経過しようとしているが、この二月サンフランシスコで開 し、そのため彗星が惑星になるということなど、全く問題とするにも足りな かれたアメリカ科学振興協会の年次大会で、彼の持論のおそらくは最後の主 い謬説だということになり、科学に無知なロマンチストたちのためのたんな 張が聞かれることになった。 るお伽話にすぎないというのが定説化しつつあった。 ヴェリコフスキーの主張というのは、、 しまさら繰り返す必要もないだろう しかしヴ = リコフスキー自身は、その後も精力的に自説の補強につとめ が、大要つぎのようなものであったーー紀元前十五世紀頃、木星から生まれ "Ages in Chaos" "Earth in Upheaval" "Oedipus and Akhnoton" な た大彗星が、太陽に向かう途中地球に接近し、その当時の世界に大異変と大破どの書物を著して、前世紀に一度ならず彗星や惑星の大接近にもとづく大天 減とをもたらしたあげく、太陽から平均五〇〇〇万キロメートルの軌道にお変地異が起「たという彼の推論を裏づけようとした。 ちついて現在の金星となった。この彗星のため軌道運動を乱された火星が、 彼は、それらの大異変が、多くの古代文明や民族の宗教や伝説の中の大災 紀元前八世紀頃やはり地球に大接近して、地球の地軸の傾斜を変えたり自転厚 - ーー大火や洪水、大津波、流星嵐などの記録として残されたのだと主張す 速度をおそくしたりーー・・・つまり一日の長さを長くしたーーし、やはり大災厄るにとどまらず、さらに進んで、考古学的、古生物的発見ーーヴ = リ 0 フス をもたらした、というのである。 キーのいうところの〈石と骨との証拠によって、彼の仮説の正しさが証明さ ヴェリコフスキーはこれを、旧訳聖書をはじめ古代ギリシャ、ローマ、 れる〉といいつづけてきた。今度のアメリカ科学振興協会での討論も、こう ビロ = ア、インド、中国、太平洋諸民族などの神話・伝説・古記録から渉猟した彼の精力的な活動が、科学者たちを動かしたのだということができるだ した〈事実〉ーーたとえば洪水や地震、噴火などの天変地異説ーーに立脚しろう。 て〈実証〉してみせたのだった。 今度の討論で、ヴ = リコフスキーは、従来の主張に加えて、紀元前十五世 もちろんこの仮説は、天文学、考古学、古生物学、地質学、民族学その他紀頃の多数の宗教的古文書の中に、宇宙的破局の証拠が見つか 0 たと述べて ありとあらゆる分野の科学者たちからの総攻撃を受けた。なかにはヴ = リコ いる。そのとき大地は焦げ、森林は焼け、大小の河川は蒸発し、多数の人々 フスキーを山師とかほら吹きと罵倒し、自分の学生に、ヴェリコフスキーの が犠牲になった。また、この時代の古代中国の天文学的文献には明確に「木 著書を読んではいけないとまでいう学者もいた。 星が物体を放出し、それは宇宙空間を渡って飛来して太陽の周囲を回った」 にもかかわらず『衝突する宇宙』は当時の世界的大ベストセラーになった という記述が見られるが、これは「出エジプト記に大地に「火とヒョウが が、これに業を煮やした科学者の一部は、この本の出版社であ 0 たクミラ入りまじ「て」降「たとあるのと符合する。そしてこれは、ほ・ほ同時代に書 ン社に対して執筆拒否運動をはじめ、そのため同社では、この本の出版権をかれたとおぼしきダヤ、ヒンズー ・ハビロニアなどの古文書の記録とも一 他社に譲渡するの止むなきに至った、というエ。ヒソードまである。 致する。さらには、隕石の炭素年代測定や、岩石の磁気調査、化石の調査結 そんなこんなで、ヴ = リ 0 フスキーの、いわば偶像破壊的な新説も、少な果も、この頃に、地球的規模の大異変が起 0 たことを証拠立てているーー・ヴ アイコノクラスティック 脚 8

10. SFマガジン 1974年5月号

とを期待していた。 しかし、期待は裏切られた。 ケラー部長の方針で、他部への助言などは行わない とだったのだ。 「ケラー博士は孤独を愛されるお方ですからな」 天文学部渉外係長は皮肉な口調で、このように言うだけだった。 コイズミは失望して、自室に引き上げた。ガモフが、待ちかまえ ていた。 「今、司令室のべイトマン博士から連絡がありました」 「ありがとう」 コイズミは、回線を司令室につないた。べイトマンは、すぐに、 ディス。フレイに身体を現わした。 「司令室スタッフの仕事は難しい」べイトマンはあまり困ったよう な顔もせずに、こう言った。「そこで、君に援助してほしいという攻撃、また攻撃 ! わけなのだ。われわれのポスであるハール室長が、今、いちばん悩そして、凄じい″敵″の反撃 ! 宇宙船『オロモルフ号』は、闘いの渦のただ中に、とびこんでい んでいるのは、正確な通報と不正確な通報の分離であるといえる。 総司令官のダランベルト船長に伝える内容は、すべて正確なものでった。まさに、死闘の連続だった。船内のあらゆる構成物が歪力を なければならない」 うけ、電気力線を生じ、火花を散らし、テンソルが次々に新しい成 分を生んだ。 「不正確な通報というものが存在しうるだろうか ? 」 コイズミのマイクロ・コン。ヒュータは、 コイズミは、考古数学的な疑問を投げかけたが、数学者のべイト öま 運動方程式 p マンは意に介さないようだった。 öS 「″散乱法″はなぜ失敗したのか ? その理由について、君の部で はどのような取沙汰がなされているだろうか、教えてもらいた 「わかった。知っているかぎりのことを話そう。それから、・ほくの 方も知りたいことがある。五つの方法が決定された経緯と、天文学 というこ 部の真の見解とだ」 。、、ールからダランベルト 「いそいで調べよう。ぼくは、君の提案カノ にとりつがれたことは知っているが、五つの方法が答申された理由 は知らないでいる」 ふたりの会話はしばらくつづいたが、その途中で、新しい指令が コイズミの部屋にとどけられた。 『エネルギー砲の利得を下げよ ! 』 まさにそれは、作戦が″散乱法″から″分解法″に切り換えられ たことの、表明にほかならなかった。 コイズミはガモフをうながすと、所定の座席にとび乗った。 構成方程式 . 日 C 【 S 境界条件ラ〒 0 フラックス ゲイン 1 2 ストレス