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1. SFマガジン 1974年6月号

一放映された『ミダス王物語』などがふくま早川書房刊『地獄の家』 ) 5 れている ) の製作、さらにプラッドベリの現代、ロンドン。 クリス / ・・、レット博士はルドルフ・ドイ ) 映画化『原子怪獣現わる』 (The Beast from 2P000 Fathoms ) で独立 ( プラッ チ工という億万長者の依頼で、べラスコ・ ドへリとハリー ハウゼンが、互いに無名の マンションと呼ばれる古い大邸宅にまつわ ・頃からの親友であることは有名だ ) 、年る謎を調べることになった。 ~ の『水爆と深海の怪物』 0 ( came ( 「 om パレット博士は、二人の霊媒を連れてべ ( Beneath the sea) 以来、現在の製作者シラスコ・マンションへ調査に出かけた。一 0 0 、ツ 人は若い女性フロレンス・タナー、もう一 ( = アーとコンビを組み、年『シント , 一ド七回目の航海』以後ダイナメーションの人は、べン・フィッシャーで、他に・ ( レッ ) 名のもとに数々の名作を作 0 て来たが、そト博士の妻アンが同行した。 ) の後も、アーウイン・アレンと組んで『動物フ 0 レンスは邸内に入ると、直ぐそこに の世界』 (The Animal World ) を作っ多くの霊が閉じこめられていることを感じ たり、ウエルズの映画化『 First Man デとった。フィッシャーの説明によれば、この ( 子。 Moon ) ではナイジ = ル・ = ールが邸は一九一九年に = メリック・べラスコと ( シナリオを担当するなど、常に一流の いう金持が建てたもので、ある夜、彼が開 したパーティーを最後に彼は行方不明とな ( 映画人と共に仕事をして来た人だ。 は頭からそれを否定した。 ハウゼン 5 年ぶりの新作『シ り、残されたのはパーティーに出席した二 翌日博士は、あらゆる物理的力をハネ返 一その ( サー」を邸内に設置 ) ンド・ ( ッド黄金の航海』は、奇しくも年七名の親類縁者たちの惨殺死体であ 0 た。す電磁気装置「リ・ ( ー 前に初めてダイナメーションの名を冠した降霊会でフロレンス . に最初に乗り移ったした。 2 作品『シンド・ハッド七回目の航海』と同じ霊はフロレンスのロを通して、この邸は悪フロレンスは、夜中に再びダニエル・ペ シンド・ハッドを主人公にして、特撮も新た霊にとりつかれていると語った。また邸をラスコの霊の訪問を受けたことを博士に話 にダイナラマと改称、今夏日本にも公開さ去らぬと命はないそと怒鳴る若い男の声もすが博士はダニエルは存在しない、べラス ( れる。 聞えた。 コには息子はなかったと云った。 翌朝フロレンスは、その若い男は・ヘラス それは食事中のことであった。突然すさ コの息子ダニエルで、昨夜、彼の霊が彼女まじい屋鳴りとともに邸が揺れ動きはじめ ) 今月紹介する最後の映画は、リチャードの部屋を訪れて来た、そしてダ = = ルを説た。ランプはとび、博士のコーヒー・カ ・マシスン原作・脚本のホラー 『地獄邸得して邸から出て行かせれば地獄邸内の怨プは彼の面前で壊れた。博士は手と脚に負 【伝説』 '(The Legend 。 ( HellÆIouse 【念は消え去るであろうと云った。だが博士【傷した。フ材ッシャーは : 心たちの反撃 加世紀フォックス配給「地獄邸の伝説」 媒役のバメラ・フランクリンとロディー マクドウ地ール 8

2. SFマガジン 1974年6月号

上げ、沖に運び出した。空ろな瞳のまま舳先にすわった = ルリックの入江に向けた。入江は、おそましい青色の実をつけた灌木の茂み は、依然として忌わしい魔術の歌をくちずさんでいる。そして大気によって隠されていた。その実は明らかに有毒なものだった。とい うのは、その果汁はまず人を盲目にし、それからゆっくりと狂気に の精霊たちは帆をはらませ、エルリックの小舟を人間の造ったいか なる船にも出せぬ速度で海面を進ませるのだった。そしてその間と導くという性質を持っているからだ。この木の実は、ノドイルと呼 いうもの、解放された精霊たちの耳を聾するおそましい金切り声ばれているが、他の珍らしい有毒植物と同様に、イムカイルにしか が、小舟のまわりの大気を満たしていた。陸地は消え去り、目に見生えていない。 低く垂れ下がった明るい雲の筋が、ゆっくりと太陽に彩られた大 えるものといえば、ただ一面の大海原だけだった。 空を流れていく。まるで突然のそよ風につかまった美しい蜘蛛の巣 のように。世界のすべては、青と黄金と緑と白。そしてエルリック は小舟を浜に引き上げながら、澄みきった冬の空気を吸いこみ、腐 りはじめた枯葉と下生えの香りを味わった。どこかで雌狐が雄に向 メルニポネ王朝の最後の皇子、エルリックは風の魔物たちととも に舟を駆って、メル = ポネ時代の建築物の最後の名残り、最後の街かって喜びの声をあげている。 = ルリックは亡びゆく自分の種族が へと戻ろうとしていた。フィヨルドを発 0 てから数時間も経たぬうもはや自然の美しさを賞味しなくな 0 た事実を悲しんだ。彼らは街 ちに、海に近い塔の霞がか 0 た桃色と徴妙な黄色とが視界に入 0 てにとどまり、麻薬のもたらす眠りのうちに多くの時を費やすことの きた。そして龍の支配者の島の沖で、精霊たちは小舟から去り、世ほうを好んでいるのだった。夢見ているのは街そのものではなく、 界で最も高い山脈の頂上の間に潜む彼らの秘密の住家へと飛び去っその文明に毒された住民たちなのだ。豊かで清らかな冬の香りを吸 いこみながら、エルリックは自分が生得の権利を放棄し、生れつい た。そのとき、エルリックはトランス状態から目覚め、これほど離 れていても良く見える自分自身の街の繊細な塔の美しさを、新鮮なての使命に従ってあの街を治めなかったことを、心から喜んでいた。 驚きをも 0 て眺めた。巨大な門を持っ打ち破ることのできない海の彼のかわりに、従弟のイイルク 1 ンが、美わしの都、イムルイル 城壁によって、依然として守られている島。そして五つの扉を持つのルビーの王座に腰をおろし、 = ルリックを憎んでいるのだった。 た迷路、高い壁に囲まれたくねくねとした水路、その中のただ一つな・せならイイルクーンは、この白子が、その王冠と支配を嫌悪して ドライン・アイランド いるにもかかわらず、依然として龍の島の正当な王であること の道だけがイムルイルの内港へと続いている。 = ルリックは、道を完全に知 0 ていたにもかかわらず、迷路からを知 0 ていたからだ ~ そして彼自身は、 = ルリックによ 0 て王座に 港に入るという危険を犯すべきではないと考えた。そのかわりに、推挙されたのではなく、単なる帝位の簒奪者にすぎず、それ故、メ ル = ポネの伝統によって不正な王とされるという事実を認識してい行 岸辺を回り彼がすでに知っていた小さな入江に小舟を上陸させるこ とに決めた。自信に満ちた手つきで、エルリックは小舟をその秘密たからだ。 2

3. SFマガジン 1974年6月号

一九五六年七月一日、ランス・サーキットで行なわれたフランスりとしたアメリカ車とも違っていた。 ・グランプリで、・フガッティ・タイプ二五一というレーシングカー ブガッティと共通点をもっクルマを強いて挙げるなら、それはイ 3 カモーリス・トランティニアンの手で走った。フランス国民の期タリアの超豪華スポ 1 ッカーであるフェラーリだろう。ここではフ 待にもかかわらず、未成熟なこのクルマは、とてもフェラーリやマ エラーリの高い性能と、ビニンファリーナの美しいボディがみごと セラーティの敵ではなく、加えて気化器に故障をおこして、十八周にマッチして、芸術とよぶにふさわしいクルマを生みだしている。 スモとい でリタイアした。このタイプ二五一が、ブガッティ社の最後の作品だが、フェラーリは超豪華スポーッカーとグランツーリ である。これは歴史的事実である。 う、ごく限られた分野の自動車であり、しかもその機能とスタイリ ングに、・フガッティほどの統一性はない。 イロセの仮説にもとづいたタイムマシンが、フランス国立航時研ブガッティは、レーシングカーからスポーッカー、乗用車、さら 究所でついに完成した時、所長の心にブガッティという名前が浮んにはロールス・ロイスをもしのぐリムジンまで、あらゆる種類の自 だのは、単なる偶然であったと言えようか。あるいはフランスの愛動車を作り、しかもその一つひとつが芸術品であった。性能、機 構、スタイリング、どれをとってもその当時の最高のものであり、 国者なら、誰でもブガッティのことを考えたであろうか。 かっすべてが巨匠ェットーレ・・フガッティの手になるものであり、 そのへんになると、何とも言えないのであるが、所長のアンリ・ フルニエが前の晩に自宅で寛いでいた時に見たテレビ番組が、これ彼のセンスで統一され、自動車が単なる機械から芸術の域までたか められていた。 に大きな影響を与えたことも否定できない。 ブガッティ。 この名前を聞いて誇りと胸ときめくを感じないフラ だが、名車・フガッテイも今はない。第二次世界大戦が終って間も ンス人は、おそらく一人として居るまい。自動車を生み、自動車をなく、エッ トーレ・ブガッティが六六歳でこの世を去り、それと共 育てあげた国、フランス。その中にあって・フガッティは、フランス に名車ブガッテイも姿を消した。その後、ブガッティを復活させよ が世界に誇るにたる優れた自動車であった。 うという虚しい努力がなされ、大番頭のビエール・マルコの監督の いや、優れたなどという平凡な言葉では言い表わすことのできなもとに、タイプ一〇一というモデルが七台ほど作られたが、戦後の い自動車であった。ブガッティを一言にして言うならば、それは走フランスという厳しい情況のもとで大型車が生残ることはできず、 る芸術品であった。 戦前のタイプ五七に新しいボディを被せただけのこのモデルは、・フ それは、機械としては信頼でき完成されているが、どこかに金属ガッティの最後の製品になってしまった。 の冷たさを残しているドイツ車とは違っていた。機械としての効率まっ黒に塗られたシトローエン二三パラスのオープンカー に最高のものを求めず、ある点で妥協してしまうイギリス車とも違に、フランスの大統領が乗ってパレードしている姿が、テレビの画 っていた。実用に徹して、スタイルとはボディ ・スタイルのことな面に映しだされていた。威風堂どうとした中にも、シトローエンは

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けた。他の人間ならば、、充分、命を奪うに足る一撃だった。そのとかしエルリックには何もできない。かってイムルイルのイイルクー きイイルクーンは笑い声を上げたーーー地獄の最も邪悪な深淵からやンであったも 0 は、よだれを垂れ流す愚者と化していた。彼は泣い 9 ってきた狂気の悪魔のように、笑い出した。ついに彼の理性が打ちている自分の妹を振り返り、にたにたと笑いながら見つめた。かん 砕かれたのだ。そしてようやくエルリックは優位に立った。しかし高い笑い声をあげると、震える片手を伸ばして、娘の肩を招んだ : ) ぐ、こ。しかしイイルクーンには依然と サイモリルは逃げようとも力しナ 彼の従弟が造り出した大いなる魔術は、依然として存在し、エルリ ックはまるで巨人に損まれているように感じていた。それは、状況して邪悪な強さが残っていた。エルリックは、相手の混乱状態につ を優位に押し進めようとするエルリックを圧しつぶそうとした。イけこんで、、思いきり胴に切りこんだ。 - その一撃は、イイルクーンの イルクーンの傷口からは、血が吹き出し、エルリックも返り血を浴胴を腰のところからほとんど切り離、した。 びている 9 溶岩はゆっくりと引きはじめ、エルリックは中央の部屋けれども、信じられぬことに、イイルクーンはまだ生きていた。 の入口を見た。イイルクーンの背後で何かが動いた。エルリックはエルリックの持っルーン文字の刻まれた剣に、依然として切りかか あえいだ。サイモリルが目覚めたのだ。そして恐怖を表情に刻みつ ってくる剣から生命力を賦与されているのだ。最後の力を振り絞っ けて、彼に叫びかけた。 て、イイルクーンはサイモリルを前に突き出した 9 そして彼女は、 ストームプリーンガーは、依然として黒い円弧を描くことをやめストームプリンガーの尖先にかかって悲鳴をあげた。 ず、イイル、クーンの手の剣を打ち払って、相手の守りを崩した。 そのとき、断末魔の狂気の笑いをあげて、イイルクーンの黒い魂 「エルリック」サイモリルが絶望的な悲鳴をあげた。「私を救っては地獄へ飛び去った。 ーー今すぐに。さもなければ、私たちは永遠に破減してしまう」 塔は再びかっての姿を取り戻した。す・ヘての炎と溶岩は消え去っ エルリックは、彼女の言葉の意味がわからなかった。それが何をた。エルリックは呆然としていた・ーー考えをまとめることができな 意味するか理解できなかった。荒々しくイイルクーンを、部屋の入かった。兄と妹の死体を見おろした。最初は、それを単なる死体ー ー男と女の死体として見ていたにすぎなかった。 ロのほうに駆り立てた。 それから真実の暗黒が彼のようやく澄みはじめた頭に浸み込んで 「エルリックーーストームプリンガー、を使うのをやめて。鞘に納め きた。エルリックは、まるで獣のように、悲惨な呻きをもらした。 るのよ。さもなければ私たちは再び離れ離れになってしまう」 しかし、たとえそのときエルリックが音をたてている剣を自分の彼は愛する女を殺してしまったのだ。サイモリルの血にまみれたル ンソーー . ト が、手から離れ、音をたてて階段を転げ落ちていった。 意志で操ることができたとしても、鞘に納めはしなかっただろう。 憎悪が彼のすべてを支配していた。剣を納める前に、従弟の邪まな今やすすり泣きながら、エルリゾク・は死んだ娘の傍にびざまずき、 その体を両腕に抱きかかえた。 心臓に突きたてずにはいられなかったろう。 今や、サイモリルはすすり泣き、エルリックに哀願していた。し「サイモリル」 = 呻くようにいった。全身が震えている。「サイモリ

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そしてまたエルリックも、自分の従弟を憎悪するそれ以上の理由囲気だけが感じられるのだった。街は眠りに就いていた 龍の支 を持っていた。その理由によって、島の古代首都、イムルイルはそ配者たちとその女たち、そして彼らの奴隷たちは、麻薬によっても 7 のすべての華麗な美しさのうちに陥落し、栄えある帝国の最後の拠たらされる壮大にしてこの世のものとは思えぬ恐怖に満ちた夢をむ 点は、桃色と黄色、そして紫と白の塔の崩壊と共に、地上から抹殺さ・ほっている。そしてその間、他の住民たちは、戒厳令下、眠りに されることとなるのだーーもしも = ルリックの思いどおりに事が運就かされ、安ものの寝台の上で寝返りを繰り返し、みじめな生活の び、海の王たちが成功すれば。 夢を見まいとっとめていた。 エルリックは徒歩で内陸に入りこみ、イムルイルに向かった。や剣の柄に手を近づけたまま、エルリックは街の城壁にあけられた わらかな芝土の上を何マイルも進んだ頃、太陽はすべてに黄土色の無防備の門の一つから忍び込み、灯一つない路を慎重に歩きはじめ おおいを投げかけて沈み、邪悪な予兆に満ち満ちておおいかかる月 た。曲りくねった小道をたどって、イイルクーンの巨大な王宮へと のない暗黒の夜へとその力をゆずりわたした。 登っていく。 ようやく、エルリックは街に達した。それは漆黒の影絵のように龍の塔の空いた部屋に風が吹きこみ、ため息をもらす。エルリッ たたずんでいた。構想においても、出来栄えにおいても、想像を絶クは、足音を聞いたり、衛兵の一団が通り過ぎるたびに、しばしば した美しさの街。芸術家の手によって建造され、機能的な居住地と一層影が濃くなっている場所に身を隠さねばならなかった。彼らの してよりも芸術作品として造形された世界最古の街。しかしエルリ任務は戒厳令がしつかりと守られているかどうか見ることであっ ックはその多くの狭い路地に汚れたものが潜み、彼自身も一員であた。時には、人がいまだに住んでいる塔から、騒々しい笑い声が聞 るイムルイルの王族ーーー・龍の支配者たちが、塔の多くを空のままに こえてきた。そこは明るい灯で照らし出され、その光は壁に奇怪な し、無人にしているのを知っていた。王族たちは街の野卑な住民たおそましい影を映し出した。そしてまた、しばしば、ぞっとするよ ちを、塔に住まわせようとはしなかったのだ。龍の支配者たちは僅うな悲鳴と狂乱した馬鹿者の叫び声が聞こえることもあった。哀れ かしかいなかった。メルニポネの血統を誇ることのできる者は少なな奴隷が、主人を喜ばせるために淫らな苦悶のうちに死んでいった のだ。 地形をなそらえて建造されたために、街は有機的な外観をもって エルリックはその音にも、・ほんやりとした光景にも驚かされなか いた。曲りくねった小道が、音楽の韻律にも似て、丘の崖面を昇った。それは彼の好物だった。時には断末魔の悲鳴を耳にして、邪 り、その丘には多くの尖塔を持っ堂々とした城が高々とそびえてい な徴笑をもらすことすらあった。彼はメルニポネの人間だった。そ る。すでに忘却の彼方へ消えた古代の芸術家の造り上げた最後にしれは彼の心に、より下等な人間ならばそっとするような事柄を楽し て最高の傑作だった。しかし美わしの都、イムルイルからはいかなな権利を与えてくれた。依然として彼はメル = ポネの一族だったの る生活のもたらす音も伝わってこない。ただ眠気をさそう荒廃の雰だーー・もし王権を取り戻すことを選んだなら、その正当な指導者と

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れは目にも見えず、いたるところに浸透して、イカこれは「もう引返す時だ」というダイダロスの合図 ロスとダイダロスをしめつけた。ちょうどからだにである。だがイカロスは笑って答えた。「まだ早 鉛をそそがれたかのようこ、ー 冫弓く息は死にものぐる い」 いの努力を要求し、またはく息はこれが最後のよう そのまま船は火の中を飛んでいった。ダイダロス におもわれた。だがイカロスの強い手は操縦桿をしの恐れを知らぬ目に明るい計器盤が反射していた。 つかりにぎりしめ、ダイダロスのおそれを知らぬ目重力はなかったが、計器は新しい危険を語ってい 、は明るい計器盤をじっと見つめていた。 た。計算や仮定をふみ越えて、圧力がみるみる上っ てきた。火の旋風はますます濃く、また濃くなって 重力はしだいに大きくなってきた。 一一太陽は招かざる客を圧殺しようとした。最後 0 カきた。重」火 0 波 0 ために船は身ぶる」した。波は 火のなだれがうすいニュートリットの外装に崩 げしい動悸を打ち、水銀のように重い血液にむせんい。 れおちた。 ・こ。白濁したカーテンが目にかぶさった。 再び銀色のスクリーンが消えた。「もう引き返す イカロスはここで微笑した。さすがにもう笑うこ とはできなかったので、微笑して、エンジンを切時だ ! 」だがイカロスは答えた。「まだ早い」 なるほど、それは正しかった。密度の高い火の壁 り、太陽の中心へ船を自由落下させた。重力はとた はしぜんにス。ヒードを殺した。ここで船は荒れ狂う んに消失した。 レ 1 ダーのスクリーンに もう銀色ではなく火の旋風のただ中にほとんど宙づりの形で止まっ た。圧力は前進する道の壁となり、重力は後退する て、まっかになったスクリーンに、ダイダロスはイ カロスのやり方を見た。そして意識を失いながらことを許さなかった。 も、どうにかそのやり方をまねすることができた。 ダイダロスは明るい計器盤を目も離さずみつめて ところが、重力が消失すると同時に、意識はすぐダ いた。だってそれは物質の秘密について語っている イダロスに戻ってきた。彼は前のとおりの落ちつきのだもの。だがイカロスは老船長たちの歌をうたっ をもって、また計器盤をのそいた。 て、自分といっしょに星界の道を歩いていった人た 落下速度は一秒ごとに増した 9 ほのおの旋風の中ちのことをおもいだしていた 9 を船は太陽の中心へ運ばれていった。向ってくるの しかし太陽は敗北をみとめないで、最後のもっと はさいげんもない火、火、火である。火の雲が渦巻も強烈な打撃を用意していた。中心部のどこかに、 き、火の風が吹き荒れ、上も下も、至るところが火大規模の渦動が起った。それは竜巻のようなものだ であった。 が、普通の竜巻を百万倍したほどの、その勢力の猛佑 イカロスの前の銀色のスクリーンが三度消えた。 烈さには限界がなかった。船を木の葉のようにすく

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たことに耳を貸してくれたのだろうか ? 〉 の後をついて部屋を出た。 そのへんのこととなると、彼にも自信がなかった。 「デュポネさん、お待ちください」 「まだ何か私に用かな」 と、突然彼の思考を中断して、タイムマシンが出現した。マシン から降りたフランス大統領デ = ポネは、フルニエの所につかっかと「次の予算をぜひょろしくお願いします。もっと性能のよい、大型 のタイムマシンを作りたいのです」 歩みよって握手を求めた。 「なかなか楽しい乗物だな。いや、まったくご苦労だった。研究も「タイムマシンの開発はこれでよい。もう研究はお終いだ」 「しかし、大終領、あのタイムマシンでは、たかだか三〇年しか遡 さそかし大変なことだったろうな」 「いえ、これもみな大統領閣下のおかげでございます。あなたのおることができません。学術研究のために何万年も遡って恐竜を見た いという者もいます。ノアの箱舟やアトランティス大陸を見たいと 励ましがなかったら、はたしてここまでできたかどうか」 いう者もいます」 「うむ。このタイムマシンという代物は、使い方によっては非常に 「見て、それが何の役にたっと言うのだね」 危険なものだ。ある意味では原爆よりも危険であるとさえ言える。 よってこれ以後、このタイムマシンは、フランス大統領たる私の許大統領は冷やかに答えた。 「とにか ~ 、タイムマシンの開発はお終いだ」 可がないかぎり、使用することを禁止する」 「そんな : : : 」 それだけ言うと、大統領は玄関の石段を降りはじめた。車道には 「わかってくれ、フルニエさん。あんたは技術者だから、タイムマ大統領専用のシトローエンが駐っていた。 シンが政治や経済にどんな影響を与えるか、まだわかっておらんよ「大統領、聞いてください。私がタイムマシンを作ったのは、フラ うだが、これは使い方によっては非常に危険なものなんだよ。使うンスの栄光のためなのです。大統領にこんな安っぽいクルマでな 時には私の指示を仰ぎたまえ。けっして悪いようにはせんから」 く、ブガッティに乗ってもらいたかったからです。私はさっきの試 運転の時、私はローラン・・フガッティとビエール・マルコに会って きました。大統領、あなたは一九五六年のフランス・グランプリを 「きみ」 デ = ポネ大統領は警官の一人に声をかけた。「これからこのタイ憶えておいでですか ? 最後の・フガッティ、あの時代より何年も進 人マシンを監視したまえ。私の許可がないかぎり、誰も乗せてはい歩したレーシングカー、タイプ二五一が走づた時のことです。ブガ ッティは技術が悪くて破れたのではありません。資金が足りなかっ かん。わかったな」 たのです。どうか、彼等に資金を与えてください。そうすれば、プ 「はい、わかりました」 警官は大統領に敬礼して答えた。大統領は満足そうに頷いて部屋ガッティはきっと甦ります。あのレースに勝ちさえすれば、・フガッ を出た。もう一人の警官があわててその後を追った。フルニエもそティは消えすにすんたのです。そして、今頃は大統領のために、、ロ 9

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道を延ばしている尾根にほど近い、大きな岩に腰をおろして、ホー ルナーを待っていた。頂上の片側は、ほとんど垂直に落ちている百 十五の″前世記憶″を持っ男 フィート以上の絶壁、そしてもう片側は、わずかに亀裂が走ってい る巨大な雪面ーーー氷河のなかに、深く落ちこんでいる岩だらけの斜 催眠術を用いて被験者の前世の記よいものだろう。 面。 その上、驚くべきことには、その 憶を再現させて、人間の魂の輪廻転 生の謎を解こうとする実験は、一九各々の前世において使っていたいろ 「おい、そんな調子で歩いて来るんなら、置いてっちまうそ」と、 五二年に米国の研究者モーリイ・べ いろな言語を自由に駆使出来るとい ニルスンが喘ぎながらいった。 ・、、ヾージニア・タイ ルンスタインカ / う点で、彼がこれまでに書いてみせ ホールナーは首を心もち片側に曲げて、山を見上げた。そして、 という婦人を被験者として行なわた言語の数は、古代ギリシャ語、古 れ、約一〇〇年前にアイルランドに代へプライ語、古典ラテン語、イタ 黙って指差した。 住んでいたというプライディ・マー ) ア語、ノルマン系フランス語、古 「けっー なんてこった。今日はなんでもかんでも裏目に出やが フィーという女性の記憶を再現させ代英語、それにアトランチス語の七 7 て、世界的に一大センセーンヨンを つに達し、最後のものを除く六つの る」ニルスンは岩のかたまりを蹴りつけて、それを空に跳ばした。 まきおこしたということは、読者も ものについては、どれも専門家によ 石は放物線を描くと、そのまま下へ落ちていった。どこへ落ちたの一 よくご存しのことだと思うが、こう って単語的にも又文法的にも正しい いう実験は、それ以前からもその後ものとして判定された。 か、音も聞こえず影も見えなかった。 もあちこちで行われている。 では、その他の点において、これ一 ホールナーが指差した霧は、おそろしい勢いで山頂から降りてき 近着の米誌「フェイト」によると らの十五の前世の体験の記億は、ど 米国メリイランド州のバルチモアに の程度まで実際の調査によって裏付 て、下に並び山々の頂きを包み、それから尾根を越えて周囲に立ち ある形而上学研究協会でも、一九六 けられたか、というと、何しろその前 こめだした。 九年の秋以来、カービン・ワイドナ世の数が余りに多いものだから、ま 「霧は障害になるのか ? 」と、ホールナー だ充分な吟味は完了していないが、 ーという人を被験者として、そうい う実験がつづけられ、数々の驚くべそのうち少くも二つについては、か 「あたりまえだ ! 」 き結果が得られている、という。 なり徹底的な調査が行われ、それら 「いつまで立ちこめてるんだ ? 」 このカービンは、フィラデルフィ の回想が重大なものであることがた しかめられている。 ア生れ、三十二歳の自動車のセール 「数分か、それとも数時間か、確かなことはいえない。だが、こん スマンであるが、その現在の生活の その一つは、古代エジプト王国が なところで立ち往生してたら、ほんとにこごえ死んじまうぜ。先を 平凡さにくらべて前世の経験は多彩ベルシャのアルタッエルツェス二世 進めば頂上に辿りつけるチャンスはある。山頂の向こうがわへ行け によって滅ぼされる直前の第三〇王 を極め、これまでに次々に思い出し た前世の数は、先史時代の洞窟居住朝の最後の王だと自称するカリクラ る可能性がな。どうだ作ってみるか ? 」 者としてのそれや、名優ルドルフ・ テスとしての前世であるが、催眠下 最後のひとことは、皮肉をこめた当てこすりしか聞こえなかっ バレンチノとしてのそれを含めて、 にその時代にまで逆行させられたカ 実に十五の多きにのぼるという。こ ービンは、まさにそういう王として れは、こういう実験で思い出された ふさわしい威厳と横柄さとをもって 「もちろん、行くともさ」と、ホールナーがこたえた。 前世の数としては、新記録といって行動し、曜眠術師が下らぬ質問をな 0 4 5

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い鹿皮の長靴。奇妙な細工の銀の胸あて。青と白で市松模様になっ まうそ ! 」肥満した体つきの用心深いフアダンがいった ジャーキン たリネンの袖無しの短上衣、真紅のウールの洋袴。さらさらと音を 「貴方がたの艦隊が見つからぬようにしておこう」エルリックは約 7 立てる緑のベルべットで仕立てた外套。腰には黒い鉄のルーンソー 冫しナ「とにかく私はイムルイルに行ってこなけれ 束するようこ、つこ。 メルニポネ若かりし頃、古代の異質な魔術によって鍛えられ ばならぬ , ーーそれから戻ってくる」 た大剣、恐るべきストーム。フリンガー 「三日ではそんな旅はできない。最も早い船でも不可能だ」スミオ エルリックの異様な服装は、悪趣味で、けばけばしかった。繊細 ーガンが、あきれたようにいった。 な顔立ちと、ほとんどデリケートといってもいい長い指の手とは、 「私は一日以内で夢見る都に行ける」エルリックは、穏やかに、し どうにもそぐわない。しかし彼はそれをこれ見よがしに着こなして かし反論を許さぬ口調でいった。 いた。な・せなら、このすべては彼がいかなる国にも属していないこ スミオーガンは肩を縮めた。「貴殿がそういうなら、信じるしか とーーすなわち異端の者であり、放浪者であるということを強調し ない。だが、どうして攻撃の前にあの街を訪れることが必要なん てくれるからだった。だが、事実上、このような異様な服装をする 必要はほとんどないといってよい。その顔と手が十分にそれを示し 「私にも私なりの良心がある。スミオーガン伯爵。だが、い配しない てくれるのだから。 貴方がたを裏切りはしない。私自身でこの攻撃を先導す メル = ポネの最後の王、 = ルリックは純粋の白子であり、その活るのだ。忘れないでくれ」 = ルリックの死人じみた白い顔は、炎に 力を秘密にして恐るべき源から引き出していた。 よって奇怪に照らし出されていた。赤い瞳が、けぶったように光っ スミオーガンはため息をついた。「さて、エルリック、いつイムている。痩せこけた手がルーンソードの柄をし 0 かりと握りしめ、 ルイルの攻撃に出発するかね ? 」 息づかいが一層重苦しくなったように思えた。「イムルイルの精神 = ルリックは肩を縮めた。「貴方がたの望むがまま。いかに早かは、すでに五百年前に、亡びているーー・・・そしてまもなく完全に亡び ろうと私はかまわぬ。ただ、少しばかり時間が欲しい。やっておき去るだろう。永遠に ! 返さねばならぬ、ちょっとした借りがあ たいことがあるので」 る。それだけが、貴方がたを先導しようとする理由だ。知っている 「明日は ? 明日、出発できないか ? 」ャリスが、先程まで裏切り だろうが、私はほんの僅かな条件をつけさせてもらったーーあの街 者と非難していたこの男の内に眠っている奇怪な力に気づいて、たを完全に破壊すること、ある男と女の二人は無傷のままにすること めらいがちに尋ねた。 だ。私の従弟のイイルクーンと彼の妹のサイモリルだ : : : 」 エルリックは微笑むことによって若者の言葉に応じた。「三日、 ャリスは、自分の薄い唇が不快に乾くのを感じた。彼の尊大な態 三日間欲しい それ以上になるかもしれぬが」 度の多くは、早かった父親の死に由来していた。老いた海王は死 「三日間だと ! それまでに、イムルイルは我々の存在を知ってしに、残されたヤリスは、その土地と艦隊の新しい支配者となった。 プリーチ

10. SFマガジン 1974年6月号

、彼は絶えることなく、上層地獄の王、アリオッホの名を呼ばわっ・もかかわらず、 - 、彼らはまだ生きていたのだエルリックは目をそむ ていた。それはほとんど無意識の行為だった。圧倒的な戦士の数にけ、もう一度、サイモリルが眠っていたことを感謝した。そして、彼 8 よって、彼は一層追いつめられていた。兵士たちの背後では、イイは窓際のヘりに跳び乗った。外を見おろしてみて、絶望のうちに悟 ルクーンが怒りと不満に駆られながらも、依然としてエルリックをつた。結局のところ。ここを使って逃げるわけにはいかないのだ。 生け捕りにするよう叱咤していた。その事実と、ルーンソード、ス彼と大地との間には数百フィートの距離があった。・エルリックは、 トーム・フリンガーだけが、エルリックに対して僅かな優位を与えてイイルクーンが立っている扉に向かって走った。イイルクーンは、 いた。ストームプリンガーは異様な黒い冷光を発して輝ぎ、そのか恐怖に目を見ひらき、アリ矛ッホをそれがや・つてきたどろどろとし ん高い咆哮は聴いた者の耳にきしむ。今や、また死体が二つ、絨緞た世界になんとか押し返そうとしていた。そして彼はそれに成功し つつあった を敷きつめた床に転がった。彼らの血が素晴らしい織物をぐっしょ りと濡らす。 エルリックは、従弟を押しのけ、サイモリルに最後の一贅を投け 「血と魂を我が王、アリオッホに ! 」 ると、先程やってきた道を駆け戻った。足が血で滑る。暗い階段の 暗黒の霧が高まり、形を整えはじめた。エルリックは部屋の片隅入口で、タングルポーンズが待っていた。 「何が起こらたのですか、、エルリック王ーーーあそこには何がいるの に視線を投げかけ、地獄で生まれた恐るべきものどもを見慣れてい るにもかかわらず、思わず身震いした。戦士たちは、今や、そのもです ? 」 のに背を向けていた。そしてエルリックは窓際に追いつめられてい 工 ' ルリックは、彼の痩せた肩をんで、階段を降りるように急が 「イイルクーンが当面の た。無定形の固まりが今一度高まり、エルリックはその信じられぬせた。「時間埴ない」あえぎながらいう。 ほど異質な形を見分けた。苦いものがロ中にあふれ、よろめき、流問題に取り組んでいる間に、急がねばならない。五日の間に、イム れるように前進してくるそのものに向かって、兵士たちを追いやろルイルは、その歴史に新たな事態の経験を付け加えることになるー うとしながら、エルリックは狂気と戦っていた。 ーおそらくは最後のそれを。そのときサイモリル恭無事でいるよケ 突然、兵士たちは自分たちの背後に何かがいるのを感じたように、おまえに頼んでおきたい。わかったな」 「わかりました、エルリック様。しかし : : : 」 だ。四人ほどが振り返り、黒い恐怖が彼らを呑みこもうと突進して くるのを知って、いずれも狂気じみた悲鳴をあげた。アリオッホは彼らは入口にたどりつき、タングルーンズはかんぬきを外し 兵士たちの上に身をかがめ、その魂を吸い取った。そして、。ゆっくて、扉をあけた。 りと、彼らの骨はたわみ、音をたてて ~ し折れた。男たちは、依然「これ以上のことを話している時間はない。私は、可能なうちに、脱 どして獣のように悲鳴をあげ、床の上で、あたかも気味の悪い軟体出しなければならん。。」 ( 五日うちに戻ってこようーー仲間と共に。 動物のようにばたばたともがいていた。、骨という骨が折れているにそのときが来たら ) 私 0 いったことの意味がわかるだろうヂサイ千