体 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1974年7月号
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1. SFマガジン 1974年7月号

も底棲魚であり、このような体形変化は適応として十分理解できるンボウが横倒しになって水面に浮いていることと関係があるような が、マンボウのこの体形変化はいったい何の為だろう ? しかもマ気がする。ある記録では十数匹のマンボウが死んで浜に打ち上げら ンボウは大洋の魚であり、海底の砂をかぶって横に寝るなどというれ、 ~ さらに沖では十数匹のマンボウが横になって浮いていたとい ことは絶対にない。しかしこのたてにひらたい形というのは磯魚のう。そのマンボウの半数のものは目がつぶれていたと報告されてい 場合と異って横に寝なければ意味のない形だ。事実マンボウは海面るところから考えると、マンボウが横倒しになって水面にのんびり に体を横に倒して浮いているのがしばしば目撃されている。まあマと浮いているのは日光浴を楽しんでいるのではなくて、体を真直に ンボウの体表はうろこなど全くないまるでなめし皮のようにざらざ立てていられない状態、つまり体内になんらかの生理的障害が発生 らした丈夫なひふだから海鳥に襲われる心配もないからだが、いたしている状態なのではないかと思うそうでなければあえて強い直 って運動力のにぶいマンボウがぼっかりと海面に浮いているのなど射日光の下に魚眼レンズをさらすようなまねをするはずがない。 どう考えてもこれが適応とは思えない。魚類学者の平野哲也先生に私の見たマンボウも見れば見るほど気息えんえんたるありさまで よるとマンボウが横になって水面に浮くのは正常な状態ではないよしだいに遠く遠く流されていってしまった。マンボウはたしかに無 うだ。ということだがこれは私も同感だ。マンボウの体は上半分が類ののんびり屋にちがいない。泳ぎも極めつきの下手だし、えさも 暗灰色か灰褐色で腹側が銀火色でかなり明暗がはっきりしている 9 プランクトンやクラゲでロに入ってきたものをそのまま呑みこむと このあざやかなコントラストを持った大面積の体を水面にさらして いうようなものぐさだ。運動能力がそのようなありさまだから脳の 横たわるというのは大自然のもとでの生物の世界ではちょっと妙発達が極めて悪い。体の大きさと比較したらおそらく魚類の中でも だ。それにいったん水面に横たわったマンボウは容易なことでは体つとも小さな脳の所有者であろう。 をたてなおすことができない。 私が相模灘の沖で見たマンボウから受けた印象も妙にちぐはぐで 私は昨年の夏、相模湾の沖でこの横倒しになって汐のまにまにた総身に知恵が回りかねるというところだった。同じ汐のまにまに身 だよってゆくマンボウを実見した。うねりはかなり高かったが、たをゆだねながら、ジンペ工ザメのような見る者をうつ、あたりを払 たみのような平たい物体がうねりにのって見えかくれするのがずいうような偉風もなく、クラゲのような水に同化しぎった透徹感もな ぶん遠くから見えた。船を寄せてみるとたたみ二畳敷ほどのマンポく、いわば殉教者の苦じゅうのようなものさえ感じられた。それは ウだった。体の上をたえず波が洗ってゆく。別に危険を感じて逃げ形と行動からくるものだろう。何かに適応しようとして適応しきれ るようすもない。時おり上向き側の、つまり陽の当っている側の胸ず、進化の道すじからそれてしまった不幸な生物といったところだ びれをびたびた、びたびたと動かしている。小さな目は何も見てい ろうか。自然界は時々このような生物を造り出す。かれらはマグロ 。目の部分はかろうじて水面下にあるものの、水面までは二、 やカツオなどのような大洋の魚たちとも、イシダイやヒラメ、メジ 三センチメートルしかない。真夏の強い陽射しが、このまぶたのなナなどの浅海魚ともちがう。大洋の魚にはすばらしい游泳力が、浅 い目にはおそろしくギラギラとまぶしいはずだが。動物学雑誌の報海魚にはびんしようさと警戒心が与えられているのにマンボウには 告によると、浜に打ち上げられたマンボウの死体はよく目がつぶれそのどれもがない。 ライフルの弾丸も通さないような丈夫なひふを ているという。その原因ははっきりしないのたが、それはどうもマ持っていたとしても、しよせんそれは生きぬいてゆくための強力な

2. SFマガジン 1974年7月号

「それに、だ」・ほくは駄目押しのように言った。「ばくがこいつを「ききま ! 」 エレをトロ」ニッス 調べている、と推測することはできても、そのために電子装置を欲・ほくはようやく事態を覚ったのだった。 コーヒーだ ! しがっている、とまでは分らないはずだ。素人には、な」 ・ほくは、テープルごしに、及川につかみかかろうとした。彼の白 「飲んでください、と言ったんですよ」及川は笑った。「ビジネス い顔がフッと外れて、入れ替わりのように、リノリウムの床が視界 の話は、その後だ」 を覆った。床は、波のようにうねっていた。 ・ほくはコ 1 ヒーに口をつけた。ビジネスは後なのだった。そのい ・ほくを待ちうけていたのは、闇だった がらっぽい味が、ぼくのささくれだった神経を静めるのに、いかほ どかの効果はあったようだった。 ・ほくには分っていた。 臉を開けるだけで、そこにはもう、現実がその猛々しい貌を見せ 川・、、・ほくの気持ちを代弁するように言った。 「事態の解決にはならなくても、解決の引き伸ばしにはなってくれていることを 長い夢の記憶が、けだるい熱になって、・ほくの体にたゆたってい ばくは、甘くはない、と言った。が、やはり、学者先生相応に世た。その記憶は、今となっては、ひどく頼りないとりとめのないも 間知らずなのだった。及川の言葉に隠されている意味に、気づきものだったが、夢見ていた時のぼくにとっては、確かな手ごたえのあ る現実だったのだ。 しなかったのだから 実に、幸福な夢だった。 ぼくはふと気がついて、「君は飲まないのか ? ーと及川を見た。 ・ほくは、観念して瞼を開けた。 突然、うねるような衝撃が、体の内深くから噴き上がってきて、 つるつるとした感じの天井が、眼に入ってくる。 ・ほくをゆさぶった。カップが・ほくの手から落ちて、床に割れた。 間接照明の白い明りが、部屋を影のないのつべりとしたものに見 「失礼ーぼくはつぶやいた。「なにか、体の調子がおかしい : 視界がぶれた。慌てて焦点を定めようとした・ほくの眼の前に、赤せている。小さな部屋だった円窓はびとつもない。 にくは体を起こした。 く霞がしぶいた。体がおこりにかかったように慄えだした。ぼく ・ほくが寝ていたべッドは、簡素なものではあったが、充分に清潔 は、懸命に立ち上がろうとした。膝にまったく力が入らない だった。頭のうえには、複製の名画さえ架けられてある。 「どうしたんだろう ? 」 確かにそれは、牢獄と呼ぶのがためらわれるような部屋だった。 ・ほくは照れ隠しに笑ってみせようとしただが笑いだしたのは、 が、睡眠薬を呑まされて、意識のないままに連れてこられた人間圏 ・ほくではなく、及川の方だった。・ほくは、クックッと咽喉を鳴らし ・ほくは知らな を収容する部屋を、他のどんな名で呼んだらいいか ながら、笑い続ける及川を、かすむ眼で必死にとらえようとした。 る」

3. SFマガジン 1974年7月号

さ。ミュータントどもはおれたちを侵略しようとたくらみ、おれた ならなかったんだぜ」 「鈍いな。スパイはみな英語を話せるように仕込まれてるのさ。こちはその逆を計画してる。しかし、おれに言わせりや、計画だけ 9 の世界のミュータントが使ってるのが、英語なんだ。本当の世界でで、本番にはいる気づかないはないね」 「ほんとう ? 」 は、おれたちももちろんヴォーク語を使っている。これは、 ノをしナ「いまの状態だと、どっち側も自分 タント戦争のあいだに、ノーマルたちが意思伝達のため発明した言「そうさ」フェレプよ、つこ。 語だ。あんたのいった″語学の専門家″とやらは、おそらくおれたの手の届かないところに絶好の敵を持っている。だが、実際に血な まぐさい戦争をはじめるのはもうごめんだし、といって防備をゆる ちスパイ組織のなかのトップクラスのひとりだよ」 め、平和にもどれば、経済が成り立たなくなる。そこで両方ともス 「それで、この世界ではミュータントが戦争に勝ったのか ? 」 「完全にな。三百年前、この連続体の中でミ = ータントどもは往復。 ( イをせっせと送りこんで、戦争の準備をしてるのさ。なかなかう 可能のタイムマシンを発明した。やつらはそれを使って行ったりきまくできたシステムだが、おれみたいに、敵にとっ捕まったやつは たりしながら、ノーマルの指導者たちが生まれてくるまえに、片っ災難だな」 「きみはこの先どうなるんだね」 ばしからその芽を摘んでいった、というわけさ。一方、おれたちの フェルプは肩をすくめた。「連中のことだ、・ここへ二、三十年ほ 世界、本物の世界のほうでは、往復のタイムトラ・ヘルは不可能だっ うりこんどくつもりだろうよ。それとも、おれを心理矯正した上 た。そのへんから、連続体の分離がはじまったんだ。おれたちノー マルは、自分たちの四次空間の中でミ = ータントと激戦を演じ、やで、逆スパイとして送り返すつもりかもしれん。やきもきしたって つらの超能力にうち勝って、とうとう全減させた。それが二三九〇はじまらんよ」 「きみはそんなにあっさり敵方へつくのかい ? 」 年のことだ。これでわかったろう ? 」 いったん心理矯正されちまえば 「多少はね」ほんの少少というのが正確なところだけど、とアルは「ほかにどうしようもないんだ な。しかし、そのことはあんまり考えないことにしてる。スパイに 腹の中でつけたした。「すると、この世界はミュータントだけで、 志願したときから、その危険はわかってたんだし」 きみの世界はノーマルだけなのか ? 」 アルはそくっと身ぶるいした。この次元移動とミュータント戦争 「そのとおり ! 」 のゲームに、みずからすすんで関わりあいになる人間がいるとは、 「それで、きみはあっち側からきたスパイということか」 「やっとわかったようだな ! いいか、厳密な意味ではこの世界はおよそ彼には考えられないことだった。しかし、十人十色、一つの たんなる幻なんだが、けっこうリアルな性質も持ってる。たとえば連続体の中にはそうした酔狂な人間もいるのだろう。 だぜ、もしミュータントがここであんたを殺せば、あんたは死ぬ。 永久にだ。だから、 , 次元の門をめぐって、いつも抗争が絶えないの半時間後、三人のまるまるしたミュータント警官が、彼を連れに

4. SFマガジン 1974年7月号

宗と彼女が並ぶと、まったくの美男美女だった。ばくは、自分 と宗は短く応えて、扉脇にとりつけられているインターフォンの スイッチを押した。しばらく間があって、「どなた ? 」と女の声がを、闖入してきた山猿のように感じた : 「芳村さんは ? 」宗が苦笑しながら、理亜に説いた。 聞こえてきた。 「奥で待ってるわ」 「宗」 と応えると、理亜は宗の肩ごしに、ぼくを見つめた。 と彼が名を告げるのと、扉のロックが外れる音がするのが、ほと 「島津さんね ? ー んど同時だった。リモコン・ロックだった。 「そうです」ぼくはうなずいた。「つい最近、お会いしましたね」 ・ほくたちは中に入った。 間ロの狭さから考えると、想像もっかないぐらいの奥ゆきがあっ 彼女は、どぎまぎと・ほくから眼を外らした。「夜間飛行」の香り た。テー・フルの数はごく少なく、互いのスペースがゆったりととれ るように、配置されてある。高い所に開けられたステンドグラス「感違いじゃないかしら。初対面よ」 が、うっすらと朝の陽を透かしている。そんな光のなかで、かし材消えいるような声で、それだけを応えると、彼女はカウンターを に総張りされた部屋は、燻んでいるように見えたーーー二階建てだと離れた。 ひどく脆い感性を持った女だった。朝から飲んだくれなければな 思ったのは・ほくの早とちりで、吹き抜けのフロアになっているのだ らないほど、脆い感性を、だ。 理亜は、カウンターのすぐ脇にあるドアを開けて、 奥に円形のカウンターがあって、その中から、ひとりの女が・ほく 「芳村さんがお待ちかねよ」 たちを見つめていた。手にグラスを持っている そのまま、ドアの向こうにある小部屋へ、入っていく。 宗が美しい眉をひそめて、「また、朝から飲んでいるのか ? 理 ・ほくは宗の眼を覗きこんだ。眼で、あの女か、といたつもりだ 亜、体に毒だそ」 ったが、宗は気がっかないふりをして小部屋に入っていった。 「ガミガミ爺さんのご到来に、乾杯」 理亜と呼ばれた女は、グラスを眼の高さにあげて、宗の言葉に応黙って、従うしかなかった。 えた。 「なにから、話したものか : : : 」 二十代も半ばに達していないだろう。 と芳村老人は言った。 髪をまん中からきっちり分けて、後ろにたばねている。細くて白 い顔に、大きな瞳がぎよっとするほど魅力的だった。首まである紫銀髪の、ひどく若ゃいだ笑いを見せる老人だった。、がっしりとし のベルべットのドレスが、吐息がもれるぐらい見事な体の線を強調た体驅に、チ = ックのプレザーがよく似合う。その柔和な眼に溢れ るキラキラした輝きは、彼の知的活動がまだまだ衰えていないこと している。 ュリ

5. SFマガジン 1974年7月号

る。だから、・ほくが気絶してしまったからといって、臆病者呼ばわい男の看護など、ねがいさげにしたいだろう。東京にはめずらしい 秋日和なのだ。 りは許さない。 「ああ」・ほくはうなずいた。「・ほくのことはかまわないから、ドラ 誰にも、・こ。 イ・フでもしてきたらどうだい ? 」 ・まくま、ペ ーバックのスパイ小説に、・ほんやり眼をおとして彼女は、・ほくの言葉が聞こえなかった、とでもいうように、あい いた。読んでいるふりをするのさえ、面倒だった。べッドの脇に立かわらず窓の外を眺めていた。父親から、ぼくの看護を、強く言い ー・ハックつかっているのだろう。・ほくはこっそりと溜息をついた。ぼくたち って、・ほくをねめつけている河井良子に比べれば、ペ が式を挙げるのは、来月なのだ・ のセミヌードの娘の方が、まだしも現実的に思えた。 良子の名誉のために言わせてもらうのだが、彼女はひとりの女と 彼女がぼくの婚約者であっても、同じ部屋にいるのが気づまり して見れば、かなり上等の部類に属する方だと思う。大学きっての だ、という事実に変わりはない。 良子がおざなりのように活けてくれた菊の花が、むせるように病才媛だったということだし、器量だってまあ悪くない。その気にな こ・こ、・ま ~ 、、カ相 室に匂っていた。キーンと張った秋空に大きく開けられた窓から、れば、愛らしくも、やさしくもなれる娘だろう 手では、一生その気になることはあるまい。 看護婦たちのバレーポールに興じる声が聞こえてくる。 「なにかして欲しいことある ? 」 ドアが乱暴にノックされて、ぼくがどうぞと応える前に、河井啓 三が部屋に入ってきた。 と良子が訊いた。 「ありがとう。なにもない」 「どうかね ? 体の調子は : : : 」 ー・ハックから顔も上げずに「 . 応えた。その実、早でつぶりと太った彼の巨体に、部屋が息苦しく感じられた。 ー・ハックを閉じて、体を起こ 「悪いはずないですよ」ばくはペー く一人にしてくれ、と頭のなかでつぶやいていたのだ。 そう、と彼女はうなすいて、つまらなそうに眼を窓の外へやっした。「ぼくは病人じゃないんだから : : : 」 、ツ、ツ、と河井は体をゆらして笑い、椅子を自分に引き寄せ まったく、ぼくたちはたいしたカップルだった。彼女は、技術工た。 「ま、後遺症ということもあるんだ。この際、精密検査を受けてお 学の大御所、河井啓三の一人娘で : ほくは情報工学若手ナイハーワ いた方がいい。こんなことで、日本有数の頭脳がおしやかになって ンだ。政略結婚もここまで露骨だと、ばかばかしくて反抗する気に もなれない は泣くにも泣けんからな」 それに、反抗する理由もなかった。 彼は好好爺然とした顔を崩して、なあ、と娘に同意を求めた。良明 「静かな所に在るのね。この病院 : : : 」 良子は独言のように言った。彼女にしても、たいして好きでもな子は、曖昧にうなずいて見せた。

6. SFマガジン 1974年7月号

車で海岸へ行 りと夜空を移動した有様が長第ニ図 そっけない声がいった。「おい、そこのおまえ。 いつまでぼやっ い一本の線となって画面に現 き、そこで車を れている。 ( カメラはトップ と寝ころんでる気だ。さっさと立ってこっちへこい」 停めて、車の外 コン一眼レフ、二〇〇ミリ へカメラを三脚 アルがおぼっかなげに目を上げると、サイズはふつうだが、とほ 4 、八分間露出、フィルムは で立て、車の中 . うもなく銃ロの大きい拳銃が、こっちを狙っていた。それを構えて ネオバン ) ところで、 へ戻って、車内 のヒーターをフ その直線の丁度まん中のあた いるのは、背の低い、肥った、つるつ禿げの男だった。そのそばに りで、光点がくつづき合って ルにして、ジー は、おなじ形容詞でまにあう仲間が四人、腕組みをして突 0 立 0 て金米糖のようにな。ている所 ッと待ってい いる。彼らは、モ 1 デカイとワルデマ 1 とジョ・ハンニおよびその一 がある。これがどういうものかよく る。そして、何か現れると、早速車沖 の扉を開け、照準を合わせてシャッ 党に酷似していたが、ただちがうのは、こっちのミ = ータントたち ( わからない。 それを聞きつけて取材に来た現地ターを切る : : : というわけである・ が、派手な金色の縁飾りと宇宙船の記章をくつつけた、未来風な衣ハ紙、静岡新聞の記者がそのフィルム そんな風にして、これまで相当の のネガを借りて東京へ送り、写真鑑数の写真の撮影に成功して来た。そ 服を身にまとっていることだった。 〔定の専門家や天文学者などに見せて の大部分は、単なるポツンとした光 アルは両手を上にあげた。「ここはどこだね ? 」と、おそるおそ意見を聞いたところ、この写真では点が、士一日の写真のように両側に るきいてみた。 ( その後の写真でも ) 太い真線の両ぼーっとした光芒をしたがえた長短 側に、何かほーっとした光がごく接様々の直線状の映像であるが、時に 「地球にきま . っとる。おまえはたったいま、ノーマルどもの世界か 近して平行に写っている。これは星はそういう光体があっという間にも ら次元の門をくぐってここへきた。さあ、くるんだ、スパイ。護送 の軌跡の写真などでは絶対に起らぬ のすごい曲線を描いて飛行すること ことで、したがって、これは星では がある。第二図はそういうもので、 車の中へはいれ」 あり得ないーーーということであっ 自宅近くで二月十六日の早朝キャッ 「ちがう、・ほくはスパイじゃない」アルは抗議しかけたが、たちま た。 チしたものである。同日の朝、午前ホ ち五人の小男にひったてられて、青と赤に塗りわけた、小型ョット とも角、これが病みつきで、以来五時ごろ、息子の伸尚君が新聞配達 同親子は、毎日のように自宅の近く中、その光体を見つけ、あわてて家雌 ほどもある護送車に押しこまれてしまった。 や近くの海岸べりで長時間辛抱強くに帰 0 てカメラをセットし、撮影に 「すくなくとも、きみたちをスパイしにきたわけじゃない。つまり 夜空を観測してそういう光体を見つ成功したものだ、という。 け、何度もそれを写真に撮すように 果してこれらの光体の本体は何で なった。それにしても、二月といえあろうか ? 「説明は超越皇帝に申し上げろ」と、にべもない返事。 近頃は、山梨県とこのあたりで何ⅷ ば冬の一番寒い時期である。そんな アルは、目を光らしたふたりのミュータントに挾みつけられるよ 時によくそんなことが出来たものだ か空飛ぶ円盤らしきものの目撃が多 ようであるが、どこかこのあたり うにして、しょん・ほりとうずくまり、そのうしろに残りのふたりがなあ、と思うが、何しろ同家は新聞い 販売業だから、朝早く起きるのは慣に基地でもあるのであろうか ? : : : 乗りこんだ。護送車は、まるで自分の意志を持っているかのよう ( 近代宇宙旅行協会提供 ) 新れている。そこで、毎日のように朝 一時ごろに起きては、親子そろって に、猛スピードで走りだした。ミュ 1 タントの超能力だな、とアル は思 0 た。しばらくた 0 てから、彼はきいた。「せめて、いまが何、 世界みすてり・とびつく・ - 三・ : 三 : 三え 7 8

7. SFマガジン 1974年7月号

だれかがスイッチを入れた。アルは旋回をはじめた。やがて、 がないようだった。たぶん、留守のあいだに修理されたのかもしれ 1 ンという時間マトリッグスの破裂音。シャン。 ( ンのびんからはじない。彼は受話器をとりあげた。きようのうちにローンの延期の話 けとんだコルクのように、アルは弧を描いて時を遡り、一九五九年をつけておかないと、えらいことになる。 へと向かった。 友愛融質商会の電話番号は、わざわざ調べるまでもなく、頭の中 にちゃんとしまいこまれていた。彼はダイアルを回しはじめた。 ・ヒル 彼は二十三丁目の自分の部屋で目ざめた。こめかみがズャズキす MUrray HiIl の 4 る。頭の中は、時間遠心分離機たの、次元変換発生機だのといっ受話器に奇妙な接続音がはいり、男の声がいった。「オ。ヘレータ た、妙な言葉でいつば、だ。 ー 9 号どうそ。きこえるか、オペレーター 9 号 ? 」 アルは床から起きあがり、こめかみをさすった。 アルのあごは、恐怖にがくんと開いた。ここでおれはうかつに返 なん・てこった、と彼は思った。きっと、急にくらくらっときて倒事しちゃったんだ、と彼は狼狽の中で思った。受話器をもどそうと れたんだ。おかげで、まだ頭の中がおかしいぞ 9 した。だが、筋肉が動いてくれない。連続体の進路を変えるのは、 サイドボードへ行って、彼は半分に減った・ハーポンのびんをとり太陽の就道を曲げるよりもむずかしいのだ。アルは自分の声が答え だし、指福二、三本ぶんの分量をはかって、グラスについだ。それるのを聞いた。「交換手を呼んだんじゃないよ。おかしいな。この をあけると、いくらか神経がおさまってきた。しかし、頭の中には電話、故障してるらしい 依然として不可解な考えやイメージがちらついている。いじわるな 「ちょっと待て。きみはだれだ ? 」 デ・フの小男たちとややこしい機械、ピカビカの街路と派手なチュニ アルは必死に接続を切ろうとした。しかし、彼はすでに心の片隅 ックをきた男女が。 へ閉じこめられており、そのあいだにも彼の声はしゃべりつづけて いるのだったーーー「それはこっちが聞きたいね。なんだって・ほくの わるい夢を見たんだ、と彼は思った。 とっ・せん記憶がよみがえった。夢じゃない。彼は実際に二四三一電話のじゃまをするんだ ? こっちはまだダイヤルを回しおわって 年への旅をし、どこか別の連続体を通って帰ってきたのだ。正しい ないんだそ。局の 4 まで回したらーー」 瞬間に発生機のボタンを押して、やっとぶじにここへ帰れたのだ。 アルは悲鳴をあげたかった。だが、その悲鳴はついに出てこなか もう、二つの勢力のあいだでサッカーのポールなみに扱われなくてった。この連続体の中で、過去 ( 彼の未来 ) を変えることはできな 。この懐しい、ささやかな四次空間だかなんだかで、ゆっく いのだ。彼は歴史の軌道にとらえられてしまい、そこから脱出する りとくつろげる。 道はない。なにひとつない。そしてーーーと、彼は絶望の中でさとっ たこれからも永久にありえないのだ。 彼はふと眉根をよせた。モーデカイが電話のコードを切ったこと を思いだしたのである。しかし、いま見ても、電話はどこにも異状 十べレーター 3 9

8. SFマガジン 1974年7月号

・ ( などのむれが集っている。ジンべ工ザメはこれらの魚にとり巻か れ、うるさそうなようすもなく、ゆうゆうと泳いでいる。その姿は 魚族の長老というにふさわしい。漁師たちはそうしたジンべ工ザメ をよく知っていて決してかれをおどろかしたりするようなことはし ない。そればかりでなく、《ジンべ工さま》と呼んでうやまう。 《ジンべ工さま》は大漁をもたらす海の神なのた。それにしてもで 4 かい魚だ。私は四国の沖でクジラを見たことがあるが、波を押し分 を 0 けて泳ぐクジラは動物というよりも何か巨大な怪物という感じがし ・、ティア・ド戸ップ・ハル た。それはどちらかといえば涙滴型の潜水艦に近い。ところが わがジンべ工ザメは体はいかに巨大でも、これはどう見ても魚なん だなあ。怪物でもないし、潜水艦でもないし、クジラでもない。な 4 めし皮のように厚いびふの下にかくされているものはやはりいきい きとした魚そのものなのだ。私はジンべ工ザメに出逢ったのはこれ までただ一度だけだが、その印象はおそろしく強烈で魅力的であ 、尊敬すらお・ほえたほどだ。 ジンべ工ザメというのはそういう魚た。 る。まるで大きな魚の頭だけを切り落しそれに上下にひれをつけた ような形をしている。もちろんたてにひらたく、後端には舟の舵を マンボウ とりつけたような尾びれがある。実はこれは上半分が背びれの半分 いっか生きているマンボウを見たいものだと思っていた。マンポが後へ移動した部分、下半分がしりびれの半分が後へ移動した部分 ウという魚はその名がよく知られているわりに生きている実物にはでそれがくつついて尾びれのような形とはたらきをしているのだ。 なかなかお目にかかることができない魚だ。魚にはたくさんの種類胸びれはほんの申しわけ程度のものがえらぶたのうしろにある。マ ンボウにはかなり大きなものがいて体長一メ 1 トル以上、上に突き があるが、形が変っているという点ではマンボウとタッノオトシゴ ーツーだ。だがタッノ出した背びれ ( ほんとうは背びれの前半部 ) と腹側に突き出したし がいずれおとらぬナン ' ハ 1 ワンでありナン・ハ オトシゴは体も小さく比較的飼育しやすいので水族館や愛好家の水りびれ ( これもしりびれの前半部 ) とのいただきの間が三メートル 以上に達するものがある。マンボウの卵からかえったばかりの稚魚 槽でよく見ることができる。ところがマンボウとなると体は大きい は体長一一ミリメ 1 トルほどだからずいぶん大きくなるものだ。この し、えさが難かしいせいもあって水族館でも飼育は容易ではない。 マンボウの稚魚も、ヒラメやカレイの稚魚と同じようにごくふつう まして常時展示となるとほとんど不可能だ。 マンボウはフグに近い魚で分類学的にはフグ目マンボウ科というの魚の形をしているが、成長するにつれてしだいに形が変ってついに グループを形づくっている。マンボウはたいへん奇妙な形をしていに親マンボウのスタイルになる。ヒラメやカレイの場合にはそもそ マンボウ 4 薄ノロの感じ

9. SFマガジン 1974年7月号

生物学者シュミット 博士の研究により、ヨーロッパやアメリカのウ ナギは産卵期になると太西洋へくだり、さらにサーガッソー ふきんの深海へもぐっていってそこで産卵することがあきらかにさ れた。卵からかえったウナギの稚魚は、親のたどってきた道をたど って陸地へ泳ぎつき、川をさかのぼって湖や沼に入り、そこで成長 するのだ。日本やアジア大陸のウナギも同じように日本海溝やフィ リビン海溝のかなり深い所まで出かけて産卵するらしい。ずいぶん つらい旅だろうと思う。目的地までたどり着かないうちに、海の魚 族に食べられてしまう親ウナギもたくさんいるだろうし、それにも 増して卵からかえった稚魚が陸地にたどり着くまでにどれたけの数 が喪われるか見当もっかない。なにせウナギの稚魚というのは知ら れているものでも体長一センチ五ミリ。体の幅は数ミリ。半透明の ような白っ。ほいようななんとも頼りない生き物なのだ。 どのような理由で求めてそんな旅をするのだろうか ? 淡水魚は すべてその棲息場所に産卵する。各年代のものが同じ場所で生活 しているわけだ。つまり種として安定した生活圏と一定した自然環 境を持っことになる。そもそも淡水魚と海水魚とでは塩分濃度に対 する適応力がまるで異なる。このことは体内器管の根本的な機能の 違いでもあるので、淡水魚がいきなり海へ泳ぎ出したら時間にして 何分もたたないでおだぶつになる。海水魚を淡水に入れても同しこ とた。その淡水魚のウナギが何十日もかけて海の族をするのだから その間の生理的メカニズムはいったいどうなっているのだろう ? 河口などでしばらくの間とどまって淡水から汽水へ、そして海水へ と体を馴らしてゆくとしても簡単なことではない。海で生活してい るサケが産卵のために川をさかのぼるのも同じように生理的にはげ しいダメージを受けるはずだ。ことにウナギの場合はたかだか水深 二メートルの棲息場所から三、四千メートル、もしかしたら 五、六千メートルの深海までもぐってゆくのだから水圧の変化だけ でもたいへんなものた。そのせいもあってか、 ( 一四四頁に続く ) 柳の葉のような ウナギの稚魚レプトセファラスが 親うなぎになるまて 何故か 一どちぢむ のだ 原因は 俺にも わからない 6

10. SFマガジン 1974年7月号

宗が・ほくに向かってうなずいて、グラスを受け取った。膝に力なに片膝をついた。ひとわたり、体に触れてみる く垂れている理亜の手を取って、抱み込むようにしてグラスを持た「どうだね ? 」 宗が説いた・ せる。 「外傷はまったくない。内出血しているような様子も、なさそう 、と言ってるんだ」 「飲みなよ : : : 俺が、いし 彼女は、ばんやりと宗の顔を見上げて、その眼をグラスにおとしだ」 「じゃ、なんで死んだんだ ? 心臓麻痺でも起こしたんだろうか 一気に飲む。 ・フルツ、と体を震わせて、理亜は固く瞼を閉ざした。強く噛まれ「さあ、なんとも言えないが : : : 」 顔にかぶせてあるハンカチを、とる。 た唇から、熱く長い息が洩れた。 しばらくその姿勢を保っていたが、やがてこころもち顎をしやく激しくゆがんだ死に顔だった。 いや、それは怒りの表情なのだった。志半ばにして、思 怯え ? るようにして、 いがけず死んでいかねばならなかった芳村老人のくやしさが、・ほく 「もう、大丈夫よ」 には痛いほどよく分った。彼は、筋金入りの闘士だったのだ とかすれた声で言った。 し / し 宗が歩いてきて、ぼくの頭ごしに、伸び上がるようにして芳村老 「きついかもれないが、説明してくれないだろうか ? 芳村さんはどうしちまったんだ ? なぜ、こんな所で死んでいるん人の死に顔を見た。 「ちくしよう」 とうめき声をあげる。「ジャクスンの野郎 : : : 華僑を総動員して 「なぜ ? 私に分る訳がないわ。今朝、 / ックもしないで、芳村さ んが私の部屋に入ってきたの。どうしたんですか、と説いたら、なでも、ひつつかまえてやる。この人に、こんな死に方させやがっ にか言いかけて、そのまま倒れてしまったのよ。私が駆け寄った時て」 「とにかく、上着をぬがせよう。これじゃ、死因を調べようがな には、もう : : : 」 「今朝って、何時ごろだね ? ーと・ほく。 ・ほくは立ち上がって、死体の胴に両腕を回そうとした。死体が僅 「 : : : 分らないわ。本当になにも分らないのよ」 かに揺らいで、その背広から、ヒラリ、と一枚の紙片が床に落ち 「大体でいい」 「そう : : : 六時にはなっていなかったと思うわ。外が、まだ暗かっ 拾いあげる。 たから。 六時か、と・ほくはうなずいて、死体の方へ歩いていって、その脇「手紙だ」 幻 6