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1. SFマガジン 1974年8月号

かれの顔にちらりと、軽蔑したような表情が浮かんだ。 片山少尉の顔はいた。 「水門が閉まっていて、それをあける方法がわからないんです」 「魚雷とトンネルの構造に気がっかなかったのは残念でした。さす 2 2 馬鹿な、それがわからなければ最初から通れるはずはない。なぜがに科学者ですな。大尉、一緒に行きましよう。こんどこそ成功さ そんなことがわからないんだ ? やはりみんなの心はアマゾンたちせるんです。なせばなるですよ ! 」 に支配されているのだろうか ? やつらの精神能力そのものを利用おれは首をふった。 する方法を考えなければだめだ ! 「おれにはまだやりたいことがある。この国の謎を、この国の科学 ヴィーナスたちがそ知らぬ顔で艦長たちを支配していることを、 をもっと調べて、地球の将来に役立たせたいんだ」 セレスは知っておりながらおれに黙っているのだとしたら ? おれ「でも、大尉 : : : 」 はかれらの冷たさに腹が煮えくりかえる想いだった。 「あの女たちに心の中をのそかれないようにするんだ。かれらの能 だが少なくともセレスはおれを信用しており、短い時間ではあっ力を逆に利用することを考えろ : : : 魚雷があることは知っているの たが、おれとル山少尉はふたりだけになれた。おれは声をびそめてだから、それで成功するとは思えない : ・ ・ : 魚雷を陽動作戦に利用す 早口にささやいた。 るんだ。この国の小型潜水艦を利用することを考えろ : : : 」 「水門の爆破を考えてみなかったのか ? それにおれたちがやって そこまでいったとき、セレスがもどってきた。片山少尉はいまま きたときトンネルに吸いこまれたときのことを考えてみると、反対での話を続けているような口調でいった。 側のトンネルでも水門をあける装置があるはずだ。それをあけるの 「水門の通過には失敗しましたが、おかげでこの国の端までゆっく 力いいか、爆破するのがいいか ? 水圧の変化を考えると、スビー り見てきましたよ : : : ほかにも町がたくさんあります。それそれに 、カ遅い - ほ・ら「刀しし 。となると、流入口がしまっているときに、流きれいな女たちが住んでいるんですがね」 出口の水門を爆破したほうがいいかもしれん」 片山が心の中をうまく隠しているかどうか ? おれはセレスの読 「でも、トンネルがこわれないでしようか ? 」 心力をそらせる質問をしなければいけなかった。 ? この町の長老だったベルセウスの 「かれらの科学は大変なものなのだそ。水門が破れるかどうかも疑「それで、老人は見えたかい 問た。きみも教育装置で知ったろう : : この海底大陸を支えているような人の姿は ? 」 球形カ場なるもののひとつで、トンネルは守られている。水門で二少尉は首をふった。 千メートルの水圧を支えているわけではない。だから水門はごく薄「、 しいえ。みんな若い娘さんばかり、若くてきれいで、川岸に走り いものでいし 。魚雷で爆破できるはすだ。水門を中心とするカ場か よって手をふっていましたよ」 い。だから、ト ら遠ざかるにつれて海水の圧力は増加しているらし とってつけたような話だったが、セレスは別になんとも思わない ンネルを出ても、圧力の急激な変化はおこらないと思われる : : : 」 のか、おとなしくうなずいていた。

2. SFマガジン 1974年8月号

り出したウミガメは、ついに海へ入ることのできなかったなかまの ことを偲ぶかもしれない。 ウミガメたちのこと 私は、海に棲むたくさんの動物たちの中で、とくにウミガ メは大 好きだ。日本の海岸 にあらわれるウミガメのなか まには『参イマイ』、『アオウミガメ』、 『アカウミガメ』、『オサガメ』の四種があるが、 『オサガメ』は四国や九州、それに紀州あたりま でしか来ない。 『タイマイ』というのは甲らがた いへん美しく、べっこう細工に使われる。これ らのウミガメは沖繩や台湾、小笠原諸島から インド洋にかけて棲み、黒汐の流れにのつ て、相模湾や房総半島の沿岸にあらわれ る。この頃ではほとんどなくなったが、 以前は肉は罐づめなどにされて賞味さ れた。『タイマイ』だけでなく、他のウミガメの甲ら も、べっこうまがいによく使われる。この頃ではプ ラスチックが多用されるようになって、かれらもい くらか難を逃れられるようになったらしい 水族館などでも、子供たちの人気を集め るのがこうしたウミガメだ。 かれらは人間を全く恐れない。人 間にさわられても平気だし、肢を つかまれても反撃してくるそぶ 0 。 0 といい変 もわ。卵らな 0 とれ野をぬカ 陸る犬うゆだ 0 上。にむつつ でし見たくた 0 はかつめり。と 身しけにし甲いん 動そら上たらうだ追 きれれ陸泳をよ。いは もでてしぎつうかっ向て 自いかて方かにれいき私肢 由てみきでん水はてををの で反ったそでをち、変見カ な撃かものい掻ょ手えただ 帽のか全が いしれのまたくつを 、 0 0 子とわくあっ かよ、でま手前とのかそか のこい大るてり れう血も遠を肢ふばれのれ よろいき。いも 、ざ離にりしのまは らとだ うを。な水たな のいら人かす力かてあま近 な泳水おの時い うけ間っとをえ後とすづ もい面も中 と気にをて っかをれくの くので下ちで水房 だもな少いカめてら追ちとは上くれガガし肢い見がい や見中総 かなるしつをた、甲いが丸ほもらもメメてをのる泳たメのるでの らい 。らかついと大べ前のだい大よといら一よウ出鯉 もたぬ 、らと のけて目んきる肢なつるぶう平で、トうミ会の 積しもわてれ端たゆをどいとはかたアりなたく向ルでガっ浦 、がを。く見こ 極いあが 。一後ま。オに四いるうぐとメたで 的。るら前意ーっす 9 開の泳倍肢はウウ動つ 。からてはこも にもとな に外こかぐ私い前ぐ以にど かのかよらいも、とぐ ー 73 0 0

3. SFマガジン 1974年8月号

だから、三二〇円のウイスキイと、生のままのインスタント・ラー メンをポリポリとかじりながら、意味のない紙くずと言葉を紡ぎつヴィアンは″判断″という名前の趣味について書いている。このま 0 づけていた季節。 しいものだけを残して醜い全てのものをよせつけない″感性〃につ いて書いている。だから彼は何も書かないことで、それを書かなく なにもかもがにせものーー軍隊からのお下がりの上着、すっかり ほこりをすった一本のプルージーンズしか持たない世代なので、ひてはならなかったのだ。 と箱の煙草を分けあうと、もう自由な少年を気取って、大声で労働ぼくらがファン活動と呼んでいたことの全てはそうしたことだ。 歌を歌った。「自転車が一台だ」どこへも行けないのを知ってい なにひとっ作りあげないための芒大な労働の集積。ぼくらが最後に る。「ほがらかに」と僕が言っ 出そうとしていたファンジン〈 e た。「くらしてきたのは、今日 、、 ~ ~ 募一食、 0 ( ~ 泓〉はそんな思想の結果で、数 までのぼくら Gentleman たち」 ) 冊発行された。 ( ンフットはいつも ・ほくらサイエンス・フィクシ 一一 ~ ~ 場宀 0 " 発刊準備号〈そ 0 = そ 0 内容 ョンの子供たちが愛したものは、 いったい何だったのだろう。べ ケットのナンセンス、プラッド べリの気候、ポルへスの不可解、 の昔、ファンはそうやって生活し ていた。 シマックの風土、スタージョン ア の白痴、夏への扉はもう閉じて 総体としてなにかを表明するこ ヴ いる。 と。・ほくらはそうやって生活するこ ・ほくらは即座に、最良のもの スとで、なにもかも必要なこと全てを だけを言いあてることができる TJ はま ポ表明していたに違いない。 だろう。ただ想い出すのが苦痛 た、資本主義の子供なのだ。 なだけだ。ポリス・ヴィアンは、そんな不思議な季節にとても良く ポリス・ヴィアンの存在そのもの、作家、トランペット吹 似ている。 き、伊達男、そうした彼の存在すべてがユーモアであったのた 彼の作品はどれをとっても、あるムードを伝えるにしか過ぎな と。それはつまり抗議、否定、脱出、ナンセンス、爆発、消失で 、。でたらめな。フロット、意味のない会話、なにもかもがひとつのあったのだと。 形のないものを運んでいる。 滝田文彦氏が『北京の秋』のしおりで言っている。ぼくらはちゃん お話は隅から隅まで・ほくが想像で作りあげたものだからこそと消失し終えたのだろうか。 全部ほんとの物語になっているところが強味だ。 人に知られるということは、誤解されるということに他なら 人生でだいじなのはどんなことにも先天的な判断をすること

4. SFマガジン 1974年8月号

独な旅をなしとげたことを、看護婦は知らなかった。星をちりばめした。母親がおこすと、それはミルクをカップにすくいとり、小さ ミスター・グレイ日ノ た暗い虚無を旅するヘレンに、 日モアの狂な歯のない口でちゅうちゅう吸いはじめた。 ロごもった。 ったイメージが二十年間ずっとっきそっていたことを、石護婦は知「お・ほえてる、ママ 」娘はいし らなかった。 「おばえてるって何を ? 」 「ヘレン・アメリカとミスター・グレイ " ノー 0 ししてくれたでしよう」 「ええ、そんなこともあったかもしれないわね」 少女はおとなになり、結婚し、自分もまた小さな娘を持っ身とな「全部は話してくれなかったじゃない」娘はとがめるようにし った。母親はすこしも変らなかったが、ス。ヒールティアはひどく年た。 老いてしまっていた。むかしの驚くべき適応力は失われ、ここ数「それはそうよ。まだ子供だったんですもの」 年、それは青い眼をした金髪少女の姿のまま凍りついていた。はだ 「でも、ひどい話ね。いやらしい人たち、船乗りのおそろしい生 かで放りだされているを見るにしのびなかったのだろう、母親はス活。どうしてあんな話を理想化して、ロマンスだなんていうのかわ 。ヒールテ材アにあざやかなプルーのジャンパードレスを着せ、それからない・ーー」 にマッチするパンティーをはかせていた。小さなおもちやは、、 さ「でも、そうだわ。今でもそう思うわ」 な両手両足でゆっくりとフロアをはっている。戯画化された人間の 「ロマンスなんかであるものですか。ママとそのすりきれたスビー 顔が盲いた眠をあげ、かなきり声でミルクをねだった。 ルティアみたいなものよ」彼女は、ミルクのわきで眠りにおちた、 若い母親がいった、 , 「ママ、そんなもの捨ててしまいなさいよ。 その小さな、生きている、年老いたおもちやを指さした。「気味が もう使いものにならないし、それが時代物の家具のそばにいるのをわるいわ。捨ててしまって。それといっしょに船乗りの話も、この 見ると気味がわるくなってくるわ」 世界から捨ててしまうべきだわ」 「あんなに好きだったのに」と年かさの女はいった。 「まあ、乱暴ね」 「それは、小さいころはかわいかったわ。でも、あたしもう子供し「ママのほうこそ、センチメンタルなおばあさんよ」 ゃないのよ。それに、そんなこわれたおもちゃ」 「もしかしたらね」と母親はいい、愛情のこもった小さな笑い声を スビールティアは懸命に立ちあがると、女主人の足首につかまつあげた。 た。年かさの女はそれをそっとどかせ、ミルクを入れた皿と、指ぬ そして眠っているス。ヒールティアをこっそりひろいあげると、そ きくらいの大きさのカップをおいた。ス。ヒールティアは、誕生時にれが踏まれたり傷つけられたりしないようにソフアにのせた。 動機づけされた会釈を行なおうとし、足をすべらせて倒れ、泣きだ モアの話を、、むか ー 04

5. SFマガジン 1974年8月号

だね ? 」 ヘルダはロをはさんだ。 : ヘル・アンドウ、ごめんなさい。おしゃべり 「そうよ、オサム : 「ヘル・アンドウ : : : お話の途中で失礼ですが、わたしのオサムの ために、ちょっと説明させてくださいな。新聞記者のくせに、何もして」 「とんでもない。でも、フロイライン・ヘルダ。よくわれわれのこ 知らないのよ」 とをご存知なんですねー 「くせにはないだろう、ヘルダ」 「ロンドン・タイムズの記事で知りましたのよ。それにわたしもジ 彼女は・ほくの抗議を無視した。 ャーナリストのひとりですわ。オサムと同じように。だから、あな 「オサム : : : 十年ほど前に、一隻の潜水艦が失踪したの。出動した たのお話が面白ければ : : : 」 まま、キールの基地に帰ってこなかったの」 「おいおい、ヘルダ ! 」 「 >< 101 だろ ! 」 「黙って聞いてて : ・ : ・だれだって潜水艦がもどってこなければ、沈ばくはあわてて彼女の手をおさえた。ほうっておけば、ヘルダは んだものと考えるわ。潜水艦のこをと知っていても知らなくても何をいいはじめるかわからない。特ダネを手に入れられたら、ポー ね。でも、その潜水艦は絶対に沈むはずがないものだったらしいのナスをたくさんもらえて、・ほくらはすぐに結婚できるんだぐらいの 出しかねない。 ね。それで話がおかしくなるの。そんな潜水艦があるはずはないでことは、いい 「安藤さん、お話を続けていただけますか」 しよ」 ぼくにうながされた安藤大尉は、また話しはじめた。 ヘルダの白い指がライターを取りあげ、黙って彼女の言葉を聞き 、つまでも話は続いた。やがて夜は、 そして、一時間、二時間し ながらタバコをつまんだ安藤の前でカチッと鳴らした。 「とにかく、その潜水艦がいなくなって数週間後、北海で警戒任務北海の霧の中に白々と明けてきた。 かれの話は信じられないほど奇怪なものだった。世界の耳目を驚 についていたイギリスの巡洋艦が、 101 の標識のついた救命ポ ートを拾いあげたの : : : もちろん、当時は軍の秘密で何ひとっ発表かすにたるニュースだった。ヘルダはすぐ、〈 X101 の謎ーー元 されなかったわ。世界の造艦技術にまだ知られていない特殊理論に乗組員の手記〉というタイトルのもとに、タイプを叩きはじめた。 安藤はソファーに横たわって、ぐっすりと眠りこんでしまい、ほ よって建造されたことも。デーニツツ元帥はじめ海軍上層部は懸命 くは日本に送る原稿を書き続けた。それがデスクに信じられよう になってその真相を追求したらしいわ。でも、どうしてもわからな かったのよ。もちろん、それに乗っていた三十九人の人々も : : : 」と、信じられまいとだ。 それは ・ほくはヘルダの手をおさえた。 「十年たって、その三十九人のひとりが姿を現わした。それが安藤新鋭潜水艦 X101 の出航に始まる。 さんで、当時の秘密がいま明かされようとしているということなん

6. SFマガジン 1974年8月号

想像していた以上の、たいへんな美形だった。 すかな翳を浮かべた。 番頭の忠助がバッタのように女に頭をさげた。 洗いざらしの朝顔模様のゆかたが肌になじんで、胸のふくらみを 「ええ、何回も、お邪魔して、さだめしうるさいとお思いでしよう 形のとおりに示していた。着くずれたえり元からそのふくらみの一 が、今日はてまえの主人葛屋重三郎がお願いにまいりました」 部がのそいている。その肌の白さと肌目の細かさが重三郎の目をひ ひざを深く折って、片手で重三郎を指し示した。重三郎は腹にカきつけた。君春はさりげなくえりをかき合わせた。 を入れた。 さすがは当代、女を描かせちゃ右に出る者のねえ市太郎だ。 頭の中では、歌麿にどうでも仕事をさせるためには、ここ一番、 こいつはどうあっても、ものに たいした玉に目をつけやがった ! 押すしかない、とそのことばかりを考えていた。 してやらなきゃなるめえよ。 重三郎は胸の中でつぶやいた。 「いいねえ ! 君春師匠。その言葉、わたしの胸にずうんときた しいえね、旦那さん。わたいがずうっとおことわり申し上げてい ちょう、も・ ( 、 るのはね、お鳥目がどうのとか、浮名がどうのとか野暮を言ってるよ。わかります。わかりますともさ。でもね、わたしも地本問屋一 んじやございませんのさ。歌麿師匠が、一枚絵にするからには、惚の株のなんと言われる葛屋ですよ。一枚絵を喜んで買って下さるお れぬいた上でなけりゃならない、とおっしやるのはしごくごもっと客さんが、こんどはどこの白梅か、こんどはどこのしやくやくか、 も。芸の道とはそうありたいものでござんすよ。でもねえ、しがなと首を長くし、うわさし合って待っていらっしやるんだ。なにも絵 い稼業でも常盤津君春。そう言われたからといって一枚絵の種子に師の歌麿がどうのこうのと言うんじゃねえ。あそこにこんな美形が なりに尻尾をふって出かけられるものじやござんせん。惚れた相手と、おっと君春師匠がと、教えてくだすったなあお客さん方だ。ね のためならば、絵具皿の前にでも立ちましよう。半日が一日でも息え、師匠。ここのところは曲げて葛屋の一枚絵になってやっちゃも を凝らしてすわりもしましよう近頃人気の歌麿のなんのと騒がれらえませんかねえ」 たって、わたいにはたたの他人。好きでも嫌いでもない男に、惚れ「ですからさ、旦那」 たのなんのと言われても、いっそ迷惑でございますのさー 「このとおりだ」 別に気負いもなければ思い上りもなかった。軽く、ちょんと紅を葛屋重三郎は、いきなり土間にびたりと手をついた。 打っただけのくちびるから出る言葉には、一人の女のふだんの意気「いやですよう。そんな」 がうかがえるだけだった。 「たのむ。師匠」 櫛巻きの横っちょに、落っこちるように水櫛一枚さしたえり足が「知りませんよう」 なんとも言えす仇つぼい。切れ長のひとえまぶたに、まっ毛が長く「 : ・ 反っている。三日月のような眉は、物を見つめるとき、その間にか重三郎は四角く張ったひじに、百万言の依頼をこめてすわりつづ ねた 9 3 一

7. SFマガジン 1974年8月号

「六十万」 けをかいつまんで話した。 名刀に出逢った興奮が、完全に古道具屋の心にすりかわった。 「これから、すぐ車で行きますからすみませんが用意しておいてい 2 「六十万では安い」 ただけませんか ? それではよろしく」 男も多少、刀の知識があるようだった。 あくまで事務的に会話を切り上げる。受話器の奥から、それをお 元はかたわらのそろばんを手にとって玉を動かした。別に何をは かしがるはなやかな笑い声がったわってきた。元はそっと受話器を じいているわけでもない。ただのポーズだった。 もとにもどした。 「そうですね。思い切って負けて七十万でどうです ? それ以上は「すみませんが、これからちょっと銀座までごいっしよしていただ ちょっと」 けませんか ? 同業者がおりよく七十万という現金を持っておりま 男は視線をちゅうに当てていたが、決心したか、よろしいと言っしてね。それを回してもらうことにしました。私が運転して行きま すから」 「即金でたのむぜ」 元は大いそぎで備前国包平を鞘におさめ、もとのように風呂敷に 即金と聞いて、元はあわてて腕の時計を見た。午後三時を十分以包んで男の手にもどした。 上過ぎている。 「銀座まで行くのか ? 」 「こいつはいかん ! 弱ったな。銀行はしまったし : : : 七十万とい 男は警戒の色を見せた。 うかねは置いてないんです。ちょっと待ってください」 「銀座に『青竜堂』という画廊がありましてね。画商の間ではもっ この機会を逃してはならなかった。ここでかねの受け渡しまでもとも信用のある画廊ですが」 ってゆかなければ、この手の客はほかの店へ逃げられてしまう。 『青竜堂』といえば、そうそうたる大家のものしか扱わないことで ったん品物を持って帰ってもらって、明日、かねを持って品物を引有名だ。若手にとっては、『青竜堂』の息がかかったということた き取りにゆく、などというわけこ、よ、 けで、前途が約束されたとみてよいと言われている。しかし男は 元は帳場のすみの電話器をつかんだ。いそがしくダイヤルを回『青竜堂』の名も知らないらしい す。 男はためらっている。 「もしもし ! 青竜堂さんですか ? 」 「それではいかがですか ? 大事な品物を持って知らない店の奥に 受話器の奥から聞き馴れた声が流れ出てきた。 入るのがおいやでしたら、『青竜堂』の近くに大きな喫茶店があり 「元さんじゃない。どうしたの ? あらたまって ? 青竜堂さんでますから、私がかねを受け取ってくる間、品物を持ってそこで待っ すか、なんて」 ていただくというのは ? 」 客がそばにいるので、日頃の言葉づかいは出せない。元は用件だ そこまで言われて男はようやくなっとくしたようだ。

8. SFマガジン 1974年8月号

まず挙げることができるのは、どの作品に 他にも、ジャック・フィニイや日本の佐藤さとる ( 彼の『誰も知らない小さな国』を読んでいる時、 も男と女 ( 正確に言えば、男と女にあたるも 9 5 僕はヤングのことが頭から離れなかった。外面的に の ) が登場することだ。今のところ、例外は黐 は、似ているところは少ないのだが ) との関係につ 『雪と冒ネ〈 0 贈りも 0 』だ ~ いても考えてみたいのだが、紙数がっきないうち けではないかな。その男女一一人の関係は、理朋 0 に、次の作品を紹介しておかねばならない。 想に近いものだ。「ヤングのは願望充足ーー 今度の作品は『ファンタシイ・アンド・サイエン の小説だよ」とお 0 しゃ 0 たのは伊藤典夫さー 0 ス・フィクション』七四年三月号にのった "The んである。つまり、読者が異性に対して抱く Star of Stars" という中篇だ。 夢のごときものが、彼の作品の中で、美しい 8 ものとして描かれているということだ。 ある意味では、この物語は、始まる前に終わって さて、その愛が展開される舞台はどこだろ いる。終わったのは遠い昔。場所は地球ーー・・チグリ う。ひとくちで言ってしまうと〈文明にあま解 ス日ューフラテス平野の〈シナールの地〉 り犯されていない世界〉である。『空飛ぶフ ライ。ハン』の、都会に働きにでてきているヒ 始まりは現在。〈失われた笑う者の惑星〉の死都 の載ったアメージング誌から発見された立体写真集が発端である。 ロインは、田舎に帰ることでその愛を成就す る。『魔法の窓』は、舞台が都会であるが故に、エの中で「カナダの風景はすばらしいが、カナダを見その立体写真の主人公は、ホワノニン。有史以前 。ながら小説を書くことはできない」と、彼は言っての宇宙旅行者だ。その立体写真と、同じ死都から発 イプリルという少女は五月が来ると去っていく 『わが愛はひとっ』の舞台は未来だが、二人が愛しいるのだ。さっき、〈文明にあまり犯されていない見された別の写真をもとにして、己れの星との連絡 合うのも、百年後に愛を完成させるのも、当時復活世界〉と、あまり、を強調したのは、そういうわけを絶ち切るまでの彼の人生が再現されたのである。 である。 しかけていた田舎だった。 彼が生まれたのは、彼の世界の文明の薄明期だっ 僕には、ヤングが文明とか機械といったものを嫌ャングの特徴を、もう一つだけあげておこた。彼の教育は機械の教師がおこなったが、九歳の 悪しているように思えるのである。といって、プラう。これがどういう意味をもつのか、まだわからな時、すでに彼は、機械について知るべきことをすべ ッドベリに見られるような機械憎悪はない。ャングいのだがーーー〈大女コン。フレックス〉である。『花て知っていた。 は機械が嫌いだが、かといって、機械・文明という崗岩の女神に』しろ、『いかなる海の洞に』にしろ、彼の星の文明は、十の惑星の十四の文明を監視下 ものを捨てきれないでいる。本誌七二年六月号の特近々訳されるという宇宙くじらの話にしろ、対象とにおいていた。九つの星には、それそれ一つずつの 文明、最後の一つの星には四つの文明圏があり、そ 集の解説にヤングの自己紹介文がのっているが、そなる女性にあたるものは、巨大である。 0 0 0 0 0 Redd を、・ 3

9. SFマガジン 1974年8月号

つを演奏して歌っているようなのだ。とても優しい衰弱感覚。多分は鋭利な大歯を用心ぶかく灰いろのやわらかな首筋に当てた。ハ 時代が変ったのだ。なにかがあればそれだけで良かった。″頭脳警ッカネズミの黒ひげが猫のひげとからんだ。猫はふさふさとした しつぼを延ばして歩道の上に置きつばなしにした。 察″はとまどい、立ちむかいあきらめてはカン違いして絶望し、た 歌をうたいながら、使徒ュリウス孤児院のめくらの少女たち め息をもらす。これは音楽ではなくて、なにかの証言のようなもの が、近づいてくるところだった。 だ。全ての軌跡が、まったく正しく表現する。ごめんなさい。 ひとつひとつが、一瞬ごとにレクイエムに変わって行く。本棚ひと ただひとつの規則はナンセンス、無意味であること、だった。 つがまるごと墓碑銘に見えてくる。奥深くかくしてある種々なファ ンジンが、タイムカプセルみたいな役割も持ちそうだから、決して と田う。 手を触れてはいけない、 9 鉄腕アトムの子ら ポリス・ヴィアン、その他の思い出話 森下君は最近久しぶりに彼の個人誌「いし」を僕等にとどけてく れた。「久し振りに出す『いし』ですが、やっていてとても疲れま と、き そして、たんぼ。ほの種子のようだった・ほくたち。とてつもない絶した。やつばり、季節ってのはあるんで、この『いし』は季節はず れなのでしよう」と〈あとがき〉に : ・どうしてみんな一斉にこうな 望。 いい本でぼくはデビュ 1 したんだ。純潔で、隅々まで情緒をのか、とてもさびしい気持ちです。と僕まで口調が改ってしまうの です。 つめこんで、・ほくにとっては執着のある本、『日々の泡』でね。 はどうしても少年の持ち物だ、と幾度も思い返してみること 『《ばからしさ》への至高点へ』 ( ポリス・ヴィアンとのインタビュ が大切だ。だから誰もが想い出話をくり返す。 1 ) でヴィアンは、絶望のあまりこんな風に言ってしまう。 ポリス・ヴィアンの『日々の泡』を先ず読むこと。そして『北京 素晴しいもの全てが無意味なものだったから、なにひとっ残って よ、よ、つこ。 の秋』や『心臓抜き』、ついでに『墓に唾をかけろ』読んでみても レイ・プラッドベリが書いた作品だから、良いものだった。サイいい。 ・フラッドベリやヴァン・ヴォートの翻訳者としても知られるヴィ エンス・フィクションだから、素晴しかった。伊藤典夫が訳したも 『日々アンは、やはりサイエンス・フィクションの子供のひとりだ、と思う。 のだから、最良のものだった。ファンだから、友達だった。 破減する少年の物語。気品。 の泡』のやるせない結末ーー ーーーみんな老人だ ! 一匹のハッカネズミは絶望のあまり猫のロのなかへ首をつつこん で自殺しようと決心する。しかし気乗りしない猫はひとつの提案をと森下君が吐きだしている。不思議な不思議な、の少年たち。 ハッカネズミに持ちかける。つまりネズミは猫の歯のあいだで頭を今、を読んでいるに違いない少年諸君は、確実に大人の顔をし 横にしている、猫は尻尾を歩道にのばして寝そべっている、するとているようだ。何故なのか、わからない。 7 空想することのナンセンスだけが、推力だったから、僕等は一晩 9 通行人がいっかそれを踏んづける、という訳だ。 そして小さな真黒な眼を閉じて頭をもとの位置にすえた。猫でファンジン一冊を作りあげた。意味のないことを話すのが、一番 たね

10. SFマガジン 1974年8月号

アメリカ S F 賞各種 アメリカ SF 作家協会 (SFWA) が選ぶネ ビュラ賞の結果が送られてきた。 ・長篇 RENDEZVOUS WITH RAMA ( アーサー・ C ・クラーク ) ・長中篇 THE DEATH OF DR. ISLAND ( ジーン・ウルフ ) ・中篇 OF MIST, AND GRASS, AND SAND ( ヴォンダ・ N ・マッキンタイア ) ・短篇 LOVE IS THE PLAN, THE PLAN IS DEATH ( ジェ ームス、・テ イプトリー Jr) ・映画演劇 SOYLENT GREEN (MGM) 映画演劇部門は今年から新設されたもの。 なおその授賞式は , 4 月 27 日 , ロサンゼルス 市のセンチュリー・プラザ・ホテルで行われ , 前後 4 日間にわたって , 作家・編集者・映画製 作者などが参加した。昨年までは国内 3 ヶ所で の記念パーティ同時開催という形式だったが , 今年はロサンゼルス以外ではニューヨークで非 公式な集会が開かれたにとどまり , そのかわり に本会場には 200 人近い参会者をあつめる盛況 であった。会場には , アポロ 15 号の E ・ ミッチ ェル船長と , A ・ウォードン操縦士も顔をみ せ , 講演を行なった。 長篇の A ・ C ・クラーク氏は欠席だったので 氏と受賞を争った TIME ENOUGH FOR LOVE の R ・ A ・ , 、インライン氏が代理とし て賞をうけとった。 昨年につづき 2 回めの「ジョン・ W' ・キャン ベル記念賞」授賞式が , カリフォルニア州立大 学 ( フラートン ) で , 4 月 20 日行なわれた。 こでも , RENDEVOUS WITH RAMA が 「イルカの日」の作者ロペール・メルル ( フラン ス ) の MALEVIL と同点で 1 位を得ている。 37 まず文句のない顔ぶれといえるだろう OCC ・ R) ーの名を冠したこの賞の第 1 回候補としては , ・トールキンの 4 氏。「指輪物語」のヒーロ ンプ , フリツツ・ライ / く一 , それに故 J ・ R ・ ポール・アンダースン , スプレイグ・ド・キャ 今年新設の「ガンダルフ賞」に推されたのは ンラインの 2 作がせりあう情勢のようである。 が , 前評判では , やはり , 前出のクラークとハイ ら発表された。長篇部門には 5 篇が並んでいる このほど実行委員会か 賞の候補作が出そろい , CON ・ 2 ) で発表される 1973 年度ヒューゴー この 8 月末の第 32 回世界 S F 大会 (DIS- 今 も う た ナこ っ た ん れ も 西 屋 さ に せ ・つ か れ て し あ ん た 描は 両て る自 息き誘周 歌冫 麿ほ つが の橋 のれ つが方あ のさ説れ 高な ぐき たた いら 。と たあ つ一い 待・ゴ女 に麿 にた 荒ん ち者 持と でそ そな れん ろ女承が 人れ が知 う描 気る は絵 か誰 いに いん おあ はね 士だ つれ茶原 重 - 時好 遊力、 弱ま 麿て屋だだだ ん郎 けん 。重 ゃんわ市 でか 。な 々ね 郎ね え何 る郎 、かれが ほ歌 先思 が麿 翳の いや 文て る鼻 んげ の下 。肉 が精 でせ たが だ立 に持 麿 は そ人け が ち よ う れ の ま だ ナこ 歌時どやて で 、かた 、に し て い る ら し、 だ ら は 、むな っ く に だ の 女 を と き め て だ め だ た は つ弱ん し 笑 た 笑 消 え て も ゆ が ん だ く ち び る そ 、国 。分柳そ り そ れ に 回 し、 か水な 茶 の 汲 み 笑せ 葛 さ ん か も わ か 、つ て し、 る の さ で も ど う に も な ら ぇ い も う そ う 気 の軽歌 承 、諾手 し て く の女枚 い の い く ほ つ て は 落 ち の う が 頃 名 し、 の に よ つ て な る の と わ ふ ら い ほ ほ に 不 ひ げ 目 た そ の ず ロ 説 ロ く 。亭 主 ち あ う と ど の 妾 で あ ろ う と い葛ね ロ も と 運 ん だ 盃 し に 固 い 目 を 歌 麿 の 顔 に そ ま た に 介 し、 そ 、絵 を に発囲 さ な る の ど の で っ て も か わ じ ん 界 F 情 報 は め の 者 ち の 言隍 も 、が よ く て た い市も 太 さ ほ て 「注 - し て お い た あ れナ も ま だ き て じそそ れ 、が女 ロ せ つ た しそけ で いなも と 屋 郎 よ う く 。か太 り つ も の も じ 、わあ な そ でれ気 な や い し、 。絵 て る や よ ね さ し、 し、 か ん に な よ ん 。た の 、ち