その二つの事実を結び合わせると、結論は只一つしかない。 いつの間にか隣りの扉が開いて、おかみさんが顔を覗かせてい こ 0 二人は、青い作業衣を着て、青いペンキを身体中に塗り無の世界 に入り込もうとしたのだ。 「家族のかたは、いらっしやらないのですか」 あの日、カメラの写し出したクロマキーパネルは、電気回路の 「奥さんは二年ほど前に亡くなられたんですよ。それでお宅を引き 故障から、切り抜いた個所にカメラの映像が入らず、無の状態を はらわれて、このアパートに越して来られたと聞いています」 作り出していた。 「お子さんは ? 」 という事は、クロマキー・・フルーと同じ色の物体は、カメラの 「何でも、奥さんの葬式から一ヶ月も経たない内に、一人息子さん 前では同じように、無の状態になる筈だ。 が交通事故で亡くなられたらしいんですよ」 末松教授の晩年の私生活が、恵まれないものであることを、私は青い作業衣を着、クロマキー・プルーのペンキを身体に塗った二 人の人物は、カメラの前で、クロマキ 1 パネルに溶け込んでしま その時、はじめて知った。 冷い鉄の扉、乾いた階段。味気ない生活から逃れるために、末松った。 教授はここ二年ほど前から、急速に歴史へのめり込んで行ったのか無の世界の裂け目に、古代の難波津が見えていたとすれば、二人 もまた、クロマキー・ブルーによってタイムトンネルを通り抜け、 も知れない。 「先生は、よく家を空けられるんですか」 古代に足を踏み入れることが出来るたろう。 「調査や研究のために、一週間も二週間も療行に出られることは斉田と末松教授は、テレビスタジオの二メートル四方のクロマキ 度々あるようですよ。この間も奈良の方へ五日ほど行って来たとか 1 パネルから、古代へ旅立ったのにいない。 おっしやってました」 私はお礼を云って、待たせてあった車に乗り込んだ。 「歴史の謎」の収録以来、斉田も、末松教授も行方が解らない。 二人は、何処へ行ってしまったのだろうか。 翌日、私はいつもより二時間ほど早く局に着いた。 藤原鎌足の伝承を求めて、日本のどこかを旅行しているのだろう昨夜はとうとう熟睡出来なかった。 うとうとすると、難波津をさまよい歩いている二人の姿がちらっ いて来る。 いや、決してそうではない。 二人の現代人は、飛鳥人の好奇の目にとらえられ、兵士たちに追 斉田と、末松教授は、あの夜、青い作業衣に着がえていた。 そして同じ夜、大量の青いペンキ、クロマキー・・フルーが使わわれる。 あわてて逃げまどう二人。 れた。 、刀
く最新刊〉 遙かなる緑の地 ラリイ・マクマートリイ / 村社伸訳第 470 自由奔放に生きる女と二人のカウポーイの人生。荒野に生 る人々の故郷への深い愛着と青春への限りない郷愁を描く。 小さな恋のメロディ アラン・パーカー / 桐山洋一訳第 240 ダニエルとメロディの小さな恋。いつも一緒にいたいから結 婚するという二人に大人達は大騒ぎ・・ ・〔ヘラルド映画化〕 長な目者 第 300- 既刊 73 点 わんばく戦争 290 フレンス ギノレノヾーー 小さた撃者 ふたり 第 2 ー ー 2 月の . ズを 24 アガ 4 ・あスー 中村、訳 ′くノレコ。 春 ( して離れ 娘 ( 娘 男と / 、一シュフェノレド′ 220 あの日暑くなければ プリサック′ 300 260 へプデ 0 ′ ( 第 イ ポイド イ ジャイノ く 8 月刊〉 地獄島の要寒 呪われたオアシス J ・し十ンス H ・イネス ( 仮題 )
収録も無事終り、私と斉田、それに末松教授は、局に近い小料理何か面白い話を聞き込めば、とことんまで取材しないと気がすま 屋でタ食を共にした。 「今日のお話は面白かったですね。『歴史の謎』のシリーズの中で何も連絡もないままに姿を消してしまうことがよくある。そし て、二、三日してふらっと出局して来る。 も出色のものですよー どうしていたんだと聞いても、口元で笑って、だめでしたよ、と 「先生はどうして大化改新に興味を持たれたんですか」 事もな気に云う。しかし、彼はその期間、地を這うような取材を続 斉田も、ビールを末松教授にすすめながら尋ねた。 「それはね斉田君、大化改新が謎に包まれた事件だからですよ。とけているのだ。 サラリーマン化したディレクター達の中で斉田は、古き良き時代 に角、目撃者が極めて少ないために、真相がっかめないんです」 のテレビ人間の体質を受け継いでいると、私・は思う。 「目撃者は、先程の古人大兄皇子以外には何人いるんですか」 「いずれにしても、大化改新の真相をつきとめるのが、私の生涯の 「三韓からの使者のほかには、名のある人物は蘇我石川麻呂だけで すね。後は殺された蘇我入鹿、加害者の中大兄皇子、藤原鎌足、そ仕事です。 れに皇極天皇です」 その日の飛鳥板葺宮大極殿で、事件を目撃する夢を見るほどです」 末松教授は、美しい白髪をかき上げながら云った。 「とすると、第三者の目撃者は、古人大兄と石川麻呂の二人ですね」 「そんなことをしたら、先生も中大兄皇子によって殺されてしまい 「その通りです。ところが、面白いことに、二人の目撃者は、その 後、中大兄皇子によって減・ほされてしまうのです」 ますよ」 私は、そう云って笑った。しかし末松教授の異様なまでに真剣な 「ほう、二人ともですか」 「そうです。古人大兄皇子はその年の九月、謀反をはかったという表情に、笑い声は、ひどく場違いのものになってしまった。 理由で、中大兄皇子の軍勢によって斬られています。蘇我石川麻呂「それにしても斉田ちゃん。あのクロマキーに映っていた風景は一 の方も、大化改新から四年後、同じく謀反の咎を受けて自殺してい体何だったんだろう」 ます。しかし、二人の謀反に ? いては、どうも事実であったという場をとりなそうと、私は話題を変えた。 「クロマキー ? ああ、港ね」 確証がありません」 斉田が気のない返事をした。 「目撃者が殺されたと云うことは、事件の真相を知っている人間 「クロマキーの港って、何ですか ? 」 は、中大兄鎌足ラインのものだけになったということですね」 末松教授が尋ねた。 斉田は執拗に質問を続ける。 ねばりという点では、彼の右に出るディレクターは、私の班には「実は今日、テストの時のことなんですがね。クロマキー・ ( ネル、 あの先生の後に吊してあった青い板のことなんですが」 ちょっといない。
, 日・ REAKFNT AT. ー TWILIGHT ・ 薄明の朝食 いン ) : みないド、 フィリップ・・テ、 , ク 墾を社賀克雄 画キ加固弘史 、、、恥き、ゞ : ト当第 、い なてた て世か 〔 ~ , 二 ) 来の . な 来るな 未あば はに , ね 人極ら 四のな れ荒れ 「 ~ 」 3 豆、′「かて離 . 争れ 戦囃 朝核か しの人一「 . 、 探間四 の年子 77
あたかも、今まであった大ドーム な半球状の穴が生じている。 おれは、面白半分、面倒臭さ半分で、適当な価値系を登録 が、半転して地中に埋ったかのように。 し、それ以来、一度も変史なしで暮していた。それらが実際に地球 〈信していいのだろうか〉 系人類の運命を決める投票をしていたとは とうやら、極く標準的な価値観を持っていた 成功したーー・と言う漠然とした印象が確信にまで至るとーーー一気それにーー・おれは、。 口先では、標準的であることを殊 らしい。他の奴らもそうだ。 に気力が抜けていくような。 〈こうも簡単に破壊できたとは〉 更嫌い、奇を竸いあっていた奴らが。そして、人類など減亡してし まえとか何とか言っていた奴らの価値系の最高価値が〈人類の存 〈これを、おれが一人でやったのか〉 〈そうではない。地球系人類の全体がやってのけたのだ〉 続〉 「非常に面白い話たろう ? 「言っておくが、この作戦の遂行は、集団から離れた個人の恣意性見方を変えれば、人類もそれほど腐ってはいなかった、と言える を基礎に置いているが、作戦そのものは、地球系人類全体の意志にかも知れない」 君も、 よるものだ、と言うことを忘れないでもらいたいのだ。 ポイントはいくつ、地球側の ? , ーー・第一頭脳域では、とても 恐らく知らないうちにだと思うが、この・ O 作戦に賛成の票を投 じているんだよ。 評価しきれやしない。 反動からーー意識が呆然としだし / それに反応した第二頭脳域 君は全地球人の代理であり、かっ、代表であるーーと言うより、 は、直ちに覚醒剤を供給する。 全地球人そのもの、なのだ」 「それよ、 ししが、いつ、おれがそんな投票をした ? 」 ーー・敵側の学習能力は我々と同等、あ 時間をあけてはならない。 「君が登録した君の価値観が、だよ。 るいは、それ以上と考えられる。 , ーー第一のドームでの戦闘から、 君は、君の価値系の最高価値に、〈人類の存続〉を置いている。 有効な対第二頭脳域用防禦策を導き出しーーその上、・ O ー 1 自 そうだろう。 その次には、その最高価値に反さないと言う条件下における〈人身でさえ知らない、・ O の真の武器をも推定している可能性も、 少くない。 類の進化〉を。 このような君の価値系は、ほ・ほ、地球系人類の標準タイプと言っ第五手番は、相当な時間をかけて決定された。ーー第二のドーム を、第二頭脳域とサイボーグ機能の極限を尽して攻撃。もはや情報 もちろん、〈人類〉と言う集合の内包・外延、あるいは、 収集を考慮に入れる必要はない。 〈存続〉・〈進化〉の定義も、標準タイ。フそのものと言える」 ・ O ー 1 は飛び上るーー第二目標をめざして。 軽い驚きに似た感情に襲われた。 205
しる いる。 四日前、そこには確かに不思議な港の風景があった。クロマキー 局は、斉田が取材先で事故にあったものと考えられるという見解 7 アンプの原因不明の故障によって、突然姿を見せた世界。二人の現を発表した。 代人が、ク 0 「キー・プルーを全身に塗ることによ 0 て、その世界末松教授の失踪については、局からは何の説明も加えられなか 0 へ旅立って行った。 しかし、アンプが正常化してしまった今、クロマキー・プルー しかし、、私は、彼等一一人が、今も古代飛鳥に生きていると思えて は、無の世界を作り出す能力を失ってしまった。 ならない。 飛鳥時代へのタイムトンネルは、再び閉ざされてしまったのだ。 その確信を深めたのは、藤原家家伝について書かれた次のような どの位時間がたったろうか。私はゆっくり立上り、スタジオへの文章を発見したからである。 階段を降りはじめた。 「梅原」あれは何ですかね。鎌足の容姿についてへんなことが書い そして大声で吽んだ。 てありますね。 ちょっと待ってくれ」 「杉山」何か不思議な記述ですよね。「ひととなりが偉雅で、颯姿 私は、ころげるようにスタジオに駆け降りた。 がとくに秀れていて、前から見ると偃のようで、後から見ると スタジオ美術班の東野が、青い刷毛を手にして私を見た。 伏のようである」と。 何故私が慌てているのか見当もっかないという表情だった。 「田辺」その後につづく「或いは語りて日く。雄壮の丈夫一一人、恒 私は、クロマキーパネルへ走り寄った。 に公行に従うなり」という文との関連で理解すれば、前から見 斉田が長文の手紙を書き込んだ。 ( ネルは、クはマキー・プルーの れば誰かが後についているようだし、後から見れば誰かが前に 。ヘンキによって、すっかり塗りつぶされていたのである。 いるようだ。というふうに解釈した方が、し 、のじゃないでし よ、つ、 0 ( 批評日本史「藤原鎌足」梅原猛、杉山一一郎、田辺昭三の対談・ 思索社 ) 「そんな馬鹿々々しい話を信用出来ると思うかね」 部長も局長も、私の話に耳を貸そうとはしなかった。 前から見れば後に、後から見れば前に誰かが潜んでいるようだっ それも無理のないことだった。 たという藤原鎌足。 彼等二人が古代へ旅立ったという証拠は、何一つ無かった。 斉田青介と、末松喬教授が、お互いに助け合いながら二人三脚で クロキーに映 0 た港の風景も、斉田の手紙も失われてしま 0 て藤原鎌足を演じている姿を、私はそこに見たのである。 ふく えん 1
どうやら竹内峠から飛鳥に向っているようです。 しかし、僕は、彼等の言葉を聞いて愕然としました。 教授は、荷車を押しながら、僕に話しかけて来ました。 何を喋っているのか、皆目見当がっかないのです。 これでは、難波津へ来ても、当時の人々から話を聞くことが出来「さっき大和朝廷の人達が話し合っているで聞き耳を立ててみた ら、大体のことは解りましたよ。 なしばかりか、生活することも覚つきません。 この行列は、百済からの使節だという事を話していました。 しかし、末松教授は落着いたものでした。 日本書紀によれば、当時百済や新羅は、毎年のように大和朝廷に 「今のは多分古代朝鮮語です。ここは、朝鮮からの使節を泊める からひと 韓の館らしな。さっきのは、百済人か新羅人といったところだろ朝貢しています。この使節が第何次のものかが今れば、年代の見当 はくすきのえ うから、我々もこの衣服によって韓人になったということになりまはつくのですが。しかし、百済は、六六三年、白村江の戦いで破れ すねー て減びますから、それ以前であることは間違いありません」 やがて道路の両側には、周囲に水濠をめぐらした巨大な古墳が 韓の館は、朝鮮からの使節が難波津に着いた時、宿舎として利用 次々に姿を現して来ます。 出来るように、大和朝廷が作った施設です。 末松教授は、更にこう云うのです。 古墳は、大和朝廷の力を外国の使節に見せつけるために、巨大な 「古代日本語なら、十分解ると思いますよ。私は万葉集も研究してものが作られたという説がありましたが、こうして、完成間もない 古墳を見ていると、その学説もあながち間違ったものではないとい おりますから。 話し言葉の方は、余り変化していませんから、斉田さんの日本語う気がして来ます。 でも通用しますよ」 夕方、一行は大和飛鳥に到着しました。 こうして、僕達は、どこかの国の使節団に紛れ込んだのです。 折しも、二上山にタ陽が沈もうとしています。 使節団はその日、韓の館を出発、南に向って行進をはじめまし天香具山、敏傍山、耳成山。大和三山も燃えるような赤に染って います。 使節は五十人を越える大世帯の上、大和朝廷からの随行者も大勢僕も何度か飛鳥へはロケに来た事がありましたが、こんな素晴ら 混ったため、百人を越える行列になりました。 しい風景を見るのは、はじめてです。 二人の闖入者には、混成の使節団は、大変好都合でした。見知ら確かに飛鳥地方は、古都保存法によって、歴史的風土が守られて ぬ二人の人間は、使節団から見れば大和朝廷の、大和朝廷から見れはいますが、それでもずい分、近代化されてしまっています。 ば使節団の人物と考えられたからです。 電柱、舗装道路、コンクリートの家や橋。一切の夾雑物をとり除 みつぎ 調の車を連ねる行列は、やがて東に折れ、二上山に向って進みは いた飛鳥は、この上もなくおだやかで美しいところです。 じめました。 青垣山にかこまれ、清らかな飛鳥川の流れる飛鳥の中心部に、壮 こ 0 ー 70
うとした。その起き上がりばなを、もろに蹴りあげられる。強烈なの壁が、爆布のようになって落ちかかってきた。 サ / ド もうもうと渦を巻く砂シャワーに、ニックの体がはしきとばされ 4 一撃だった。ヘルメットで防禦されていなければ、彼の顎骨はガラ ス花瓶のように砕け散ったろう。すくい上げられたような形で、宙た。ギルはすかさずふみこんで、慌てて上体を起こそうとするニッ に弧を描いたギルは、そのまま二度三度と地に後転し、間合いを取クの腹に、膝蹴りを入れた。タイミングは絶妙だったのだが、軸足 が砂にとられた。苦痛に顔をゆがめながらも、ニックはしやにむに って立ちあがった。 ギルの腰にしがみついてきた。 再び、もつれて転倒した。 ギルは思わず声をあげた。自分の眠がとても信じられなかった。 四つんばいになったギルの身体に、ニックが馬乗りにのしかかる ( どうして、ニックが俺を襲うんだ ? 奴は、実力で火星。 ( イロッ という形になったのは、まったくの偶然だった。だが、ギルには不 トに選ばれる、と言ったはずじゃなかったか ) 混濁した思いで、一瞬、体の動きが鈍くなった。ハッと眼をみは運な偶然だった。ニックの体重は、はるかにギルのそれを上回って った時には、頭から突っこんでくるニックをかわす余裕はもう残さいるのだ。 ニックは、背後から、両手でギルの首を絞めつけてきた。ギルは れていなかった。とっさにギルは身を躍らせて、ニックの体にのし っこ 0 必死に指を伸ばして、ニックの頭髪を掴もうとした。 ・刀、刀ナ . 。胸板に、えぐられるような衝撃を感じた。猛進してきた強化プラ指は、届かなかった。 眼が昏み始め、しだいにギルの意識は遠くなっていった。灼けっ スチック製のヘルメットを、もろに受けとめたのだ。ギルでなかっ くような咽喉の痛みと、まったく裏腹に「 たら、間違いなく気絶している。 ( どうやら、死ぬらしいな ) 「ニック ! 一体どうしたんだ ? お互いに、こんなことをしてい る暇はないはずだぜ」 とひどく醒めた意識で、ギルは考えていた。ニックと対でわたり ギルは、ニックの上体を抱えこみながら、叫んだ。ニックは激し合って死ぬのが、ごく自然なことであるように思えた。 ふいに、首にかかっていたニックの指からカが抜けた。ニックの く頭を振って、ギルの腕からのがれようとする。ギルは歯をくいし 重い体が、ギルに折り重なってくる。ほとんど輝きを失った白濁し ばって、腕に渾身の力をこめた。二人の足がもつれた。 た意識のなかで、ギルは自分がなぜか助かったのを知った。 足場が崩れて、二人は転倒した。 そのまま、砂丘の傾斜面を、もつれあいながらズルズルと落ちて ぜい・せいと喘ぎながら、ニックの体を押しのけて、ギルはやっと のように立ち上がった。 いく。なんとか相手にダメージを与えようと身もがきをするため、 ヘルメットを脱ぐ。 かえって体勢を立て直すことができず、とうとう窪地の底に突っこ んでしまう。激しく喘ぎながら立ち上がろうとする二人の上に、砂夜の湿気を含んで吹きわたってくる風が、どす黒く充血したヒフ ショック
もともと、おれは、危険のあることを承知し、むしろーーーそ〈とんでもない〉ーー・例え、どうあれ、おれは、地球人ーーーなのだ。 ふふ、道化師の最後はこんな所 れを望んでいたのではないか。 全身は、ほとんど、 ・ O ー 1 は乾き切った笑みを覚える。 おれはーー何の為に / 敵はーー何だ / おれの望みは / この窮地を 安らぎと言っていい諦感に満される。 脱するのは 第二頭脳域が、逃げ出す寸前に記憶した敵の攻撃形態を呼び出し〈おれ〉を形成している物質を全てエネルギーに換えーーー今まで蓄 そのうちのい えた全情報を指向性なしに全宇宙へ送り出そう。 解析・ - モデル化・シミュレーション。 くらかは敵の妨害を越え、地球側の手に入るかも知れない。 完全、見事なまでに完全な布陣。ーー第一のドームでの << ・ して、いつの日か : 0 ー 1 の行動・第二頭脳域の機能を、完全以上に理解し切ってい 〈それがおれにできる唯一つのーーおこがましい言い方かも る。もはや、第二頭脳域を・・ーーエネルギーと精神力の限りを尽して 全開にした所で、生き延びるのはーーー不可能。 知れないが , ーー地球の為にできることらしい 敵は、人間の取り得る行動の全範囲に渡って、周倒な防禦策を打乾いた徴笑が、・の全身を覆うーーーどうやら・ O 作戦 っている。 たった一人の << ・ O ー 1 に対し、敵側は、その持ての最終兵器は、地球の為に個を捨て : その時 る力の全てを発揮しようとしている 第二頭脳域に巧妙に埋め込まれていた最後の秘密兵器が顕在 敵は、人間のとる可能性が、ほとんど零に近い行動に対してさえ 化した。 << ・ 0 ー 1 は初めて、地球側の真の秘密兵器の正体を 、十全な網を張り・罠にかかるのを待っている。 第二頭脳域と言う新兵器の利点も消え / 個人の恣意による非合理そして、自分の名の由来を知った。 意志は決った。 なーー・ー集団としてはーーー攻撃の利点も消えた。 このまま、ここに、 こうやってーーー隠れていたい : 人間でなくなること。 だめだ / もうだめだ。どうあれ いかに作為を排し、ランダムに行動しよう 人間の採る行動は 死ぬ。 エネルギーが切れて死ぬか / 敵の手に陥ち地球側に関する情報をともー・ー・ある一定の範囲に、ある一定の分布を持って収ってしまう。 ある人間が、ある時刻に、どの地点にいて、どんな行動をとるか 洗いざらい搾り取られた上ーーーなぶり殺しにされるか。 残り三つのドームはおろかーーー第一のドームで得た貴重な情報をはーーー統計理論で武装したラ。フラスの魔には、お見透しなのだ。 人間が、いかに〈意志〉を発揮しようとーー・人間であるからには 地球に持ち帰ることさえできやしない。 この檻から逃がれることができない。 〈いっそ降服 ? 〉 例え、目をつぶり、耳を塞ぎ、減茶苦茶に暴れようともーー・簡単 地球に関する情報の提供を条件に、生命の : 207
がなく冗長。 皿らしい、という感を強くしたのはうれしかである。、踊るなら踊るで、そこへ持ってい っこ 0 以上、悪口を書いたが、この予選通過作 くまでのテクニックが必要だし、メチャク チャをやろうとするなら前衛的な文体で書品十篇は、ぼくが想像していたよりもずつ 筒井康隆 と質が高く、どの作品にも一カ所は必ず、 かなければならない。 沖氏の『未来記憶』は、どうも綺麗ごとはっと驚かされる部分があったことは事実 一入選した二作品『クロキー・・フルー』 と『そして : : : 』は、ぼく個人としても、過ぎる。作者も書いているように、これである。この十人の筆者がそれぞれ自分の 銓衡委員全体の評価としても、総合点は高ではやつばり幼いわけであって、ばくな特異性を確実に表現できる手法をつかんだ かった。しかし今ひとっという感じがしなら、相原の息子の二回目の未来行きでは幸ら、の大きな勢力になることは間違い 一いでもない。 川田氏の作品は、文章もよ子と結婚させる。そして女のいやらしさをない。頑張っていただきたいものだ。 “く、センス・オプ・ワンダーもあり、総合突っこんで書いただろう。海上氏の『封印 福島正実 された書』は、・ほくの総合点では二位にな ”点では一位なのだが、いささか古めかしい っている。ペダントリイ過剰が、・ほくはさ最終審査に残った作品を読みながら、も という読後感が残り、それが気になった。 ほど気にならなかったのだが他の委員によう十年も前、はじめてのコンテストを 松崎氏の作品は、まだ手法が確立されてい す、文章に雑なところがある。しかし今回って指摘された。ストーリイに迫力の乏し行なったときのことを、しきりと思いだし ていた。そのとき、若々しい野心に燃えた いのが難点でもあった。 の予選通過作品の中で、将来性ということ 石川氏の『奇妙な民間療法』はアイデア作家志望者だった人々が、今では数多 ) を考えると、このひとがトップである。 ・ストーリイなので、途中でネタが割れるく、それそれに日本を代表する個性ある 以下、印 象に残ったと、まったく面白くなくなってしまう。中作家として活躍している・ー・ーそのことを 小説雑誌に掲載可能な程度には読ませる思うと、心はいっしか銓衡から離れて、過 作品の順 のだが。 去の歳月の懐しい重味の中を漂うようだっ ち長所を褒以下四篇に簡単に触れると、『夏の旅た。そうしながらも、非常に鮮明な印象を めあげず、人』は冗漫で、劇画にした方がよかったと受けたのは、応募作品全体のレヴェルがー ーっまりは志向を持つ人たちのレヴェ 暉悪口だけを書くことにする。かんべ氏の思わせる話であり、『天職』は雰囲気をラ ストの弱さでぶち壊しにしている。『仮面ルが平均的に著しく向上しているというこ 『決戦・日本シリ 1 ズ』はギャグでつない ( だドタ・ ( タだが、冒頭、会議の席上で全員舞踏会』はストーリイに起伏がなくて説得とだった。当時の応募者たちは、のま 腿がだしぬけに踊り出したりするのが困るの力に乏しく、『我が名は″フビト″』は新味ねごとが書きたいためにを書いた