ジョー - みる会図書館


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1. SFマガジン 1975年10月号

やかなガゼルが、傾城の美女が住んでいたのだ。みにくいアヒルのと。彼女は正面に向いて腰かけ、ジャックをソケットにさしこむ。 子よ、がんばれ ! ェビのように曲がった背中の後ろで、ジョーが注意ぶかくドアを閉 5 とはいっても、軽やかに歩いたり、笑い声を上げたり、美しい髪める。中の彼女はなにも見えず、聞こえず、そして動けない。彼女 ークじゃない。あたり をゆすったりしているのは、正確には・。ハ はこの一瞬が大嫌いだ。しかし、そのあとをどんなに愛しているこ まえだろう ? p-«・・ハ ークがそれをやってるのはまちがいないが とかー ただしそれはあるものをつうじてなんだ。そのあるものとは、見た か制御卓につき、ガラスの壁のむこう側に明りがともる。 目にはまるで生きているような娘。 ( いっただろう、これは未来のそこは別の部屋、びらびらふわふわした飾りでいつばいの、若い娘 話だぜ ) の寝室だ。べッドの上には、まるく盛りあがった絹の小山があり、 大きな低温保存ケースのふたが開き、はじめてその新しい肉体をロープのような黄色い髪がそこから垂れさがっている。 見せられたとき、・・ハ ークはたった一言こういった。目を見は掛け布がうごめき、ばたんと急に平らになる。 り、唾をのみこみながらーー「どうやって ? 」 べッドの上に起きなおったのは、オタクがこれまでに見た最高の ークが、ぶかぶかのガウンにスリッ なに、わけはないさ。・バ カワイコちゃんだ。彼女は身ぶるいするーー・天使のポルノ。彼女は パをひっかけ、ジョーと並んで廊下を歩いていくのを見ればいし きやしゃな両腕をまっすぐ上にあげ、髪をゆすり、眠たげな媚びを ジョーは彼女のトレーニングの工学技術面を担当している男だ。ジ たたえてあたりを見まわす。それから、がまんできなくなったよう ークの醜さは気にならない。というより、気づ いに、両手で小さなおつばいからおなかのあたりを撫でおろす。なぜ てもいない。ジョーにとっての美は、システム・マトリックスだけって、わかるだろう、むこうに坐ったシコメの・ 1 ーク・か、非の なんだ。 うちどころない美女の体を抱きしめ、有頂天な目でおたくを見つめ ふたりは薄暗い一室にはいる。部屋の中には一人用のサウナ風呂ているんだよ。 やがて、小猫ちゃんはべッドからとびだし、そしてうつ伏せにぶ に似た大きいキャビネットと、ジョ 1 の使う制御卓がある。一方の 壁はガラス張りで、いまは真暗だ。ついでにいっとくと、この設備っ倒れる。 ぜんたいは、むかしペンシルヴェニア州カーポンデールだった土地薄暗い部屋のサウナの中から、押しころした音が聞こえる。・ ・ハークが、電線をつながれた肱をさすったはずみに、とっぜん二つ の、五百フィート 地下にある。 ジョーはサウナ風呂形キャビネットの扉をあける。大ハマグリのの肉体の中で息がつまりかけたのだ。ジョーが入力をいじり、マイ 貝殻を立てたようなかっこうで、中には妙な機械がぎっしり。われクにむかってあやすように語りかける。混乱がおさまる。これでよ らがヒロインはぶかぶかのガウンを脱ぎすて、すつばだかでキャビし。 ネットの中へ足を踏み入れる。なんの羞じらいもなく。いそいそ照明された部屋では、小妖精が起きあがり、ガラスの壁をかわい

2. SFマガジン 1975年10月号

4 目ルー / リこ彼女を保存していたのと、おなじ装置だ。ジョーはとうとうポ ぶるいがとまらない。 ールを説きつけて、彼がウォルドー室へはいるのを承知させる。デ 8 「さようなら」デルフィが明瞭な声でいう。ポールが彼女を抱きあ ルフィのそばにとどまったポールは、彼女の顔が恐ろしくも異質 げ、一同が廊下を歩きだしたところで、人波が押しよせる。 で、いやおうなく冷たいものに変わるのを見届けたあと、テスラの 本部の連中が到着したのだ。 オフィスに集った一同をかきわけて、よろめきながら暗然と外に出 ジョーは状況を一目見るなりウォルド 1 室へとびこもうとして、 てゆく。 ポールの拳銃にさえぎられる。 彼の背後では、ジョーが汗みずくの顔で、血液循環と、呼吸と、 「おい、よせ。そうはいかんぜー みんながわめきだす。彼の腕の中のかわいい娘は身じろぎし、悲内分泌と、中脳の動的平衡のすばらしい複合体、かって人間だった 流動パターンを、再構成しようとやっきになっているー・・ーそれは、 しげにいう。「あたしはデルフィよ」 コンダクターが途中で投げだしたオーケストラをまとめようとする そのあとにつづくてんやわんやの大騒ぎの中で、彼女はなおもも ークの亡霊か、それともほかようなものだ。ジョーはちょっぴり泣いてもいる。彼ひとりだけ ちこたえ、がんばりつづける。・・ハ ーク、いまテ カ P-«・ノ ークを本当に愛していたのだから。・・ハ のなにかが、狂おしく囁きつづけるのだ。「ポール : : : ポール 1 ・フルの上の屍肉となった彼女は、彼がこれまでに手がけた最高の おねがい、あたしはデルフィよ : : : ポール ? 」 「ここにいるよ、ダーリン、ここにいる」彼は養護べッドの中で彼人工頭悩系だ。彼は永久に彼女を忘れないだろう。 これで、ジ・エンド。 女をかきいだく。テスラがいくら説明しても、耳にはいらない。 よこ ? その先が知りたい ? 「ポール : : : 眠らないで : : : 」亡霊の声はささやく。ポールは苦悩オ冫 いいとも。デルフィはまた生きかえるぜ。あの悲劇的な大病への の絶頂にある。彼は事実をうけいれない、絶対に信じようとしな 同情を一身に集めて、翌年、彼女はヨットの上に返り咲くのさ。だ が、チリに現われるのは、べつの娘だ。なぜって、いくらデルフィ テスラは黙りこむ。 ークみたいな天才はめつ の新しいオペレ 1 ターが有能でも、・パ やがて真夜中近く、デルフィが荒々しく、「アグ・アグ・アグー ー」とロ走り、アザラシのように乱暴な音を立てて、床にずりおちたに現われるもんじゃないからーーーおかげで、はほっとして るよ。 る。 オタクのみそおちにドカンとこたえるのは、むろんポールだろう ポールは悲鳴を上げる。さらに何度かのアグ・アグと、何度かの な。若気のいたりで、彼は抽象的な悪とたたかっていた。いま、人 不気味な人格崩壊の痙攣がおそい、朝の二時頃には、もうデルフィ はたんなる植物的機能の、なま温かく小さな塊でしかなくなり、高生は彼に深い爪痕を残した。はらわたをかきむしられるような怒り 価よ、ードウェアにつながれるーーそれはデルフィの人生が始まると悲しみを経て、彼は人間の知恵と意志とをまなんだわけさ。あん

3. SFマガジン 1975年10月号

「いきなり交信をカットすると、リモートを殺すことになります」 逃亡者たちはカリプ・ウエストの上空の見えない金属音だ。 本部では、イタチ小僧が泣き声の報告をうけとる。最初のジョーが三度目の説明にとりかかる。「引上げはうまく同調させて 8 衝動で、彼は前回の手をむしかえそうとしかけるが、そこで脳が待やらないとだめです。リモートの自律神経に合わせて、徐々にしぼ ったをかける。こんどはちょっと剣呑だ。なぜなら、そう、長い目っていかなくては。でないと、心臓も、呼吸も、小脳も、いっぺん ークにどんなことだって ( たぶん生きることにパーです。・ハークをひき離せば、たぶん彼女もおしやかになるか で見れば彼らも・バ を除いて ) やらせることができるだろうが、さしせまった非常事態もしれない。とてつもなくよくできた人工頭脳系ですからね。そん なことはやれませんよね」 冫扱いがむずかしい。それにーー・相手はポール・アイシャム三世だ 「あれだけの投資を考えるとな」ミスター・キャントルが身ぶるい ぜ。 する。 「彼女にひきかえせと命令できないのか ? 」 イタチ小僧は制御卓オペレーターの肩に片手をかける。彼のため 彼らはタワーのモニター室に集っている。ミスター・キャ ・アイシャムお付きのにあのイタブリ効果をしたのは、この技術屋だ。 ントルとイタチ小僧とジョー、それに、。、。、 「あのふたりに、すくなくとも注意信号を与えることは、できると 目と耳である、ひどく身だしなみのいい男。 「だめです」ジョーが強情に言いはる。「こちらでチャンネルを読思いますよ」彼は唇をなめ、身だしなみのいい男に、とっときのイ みとることはできます。とくに会話は。しかし、有機的なパターンタチ的な微笑をうかべる。「それなら危険のないのは確かです」 が一対一のーー」 ジョ 1 は眉をひそめ、ミスター・キャントルは嘆息する。身だし を改変するのはむりです。それには、ウォルドー なみのいい男は、自分の手首に口を近づけ、なにか囁いているとこ 「あのふたりはなにをしゃべってる ? 」 「いまはなにも」制御卓のオペレーターは目を閉じている。「ふたろだ。やがて彼は顔を上げ、うやうやしい口調でいう。「わたしは いま、あー、信号を送る権限を与えられた。もし、それしか方法が りはどうやら、その、抱きあっているようです」 「まだ応答ありません」交通モ = ターがいう。「進行方向は依然となければ。しかし、最小限に、最小限に」 丿ー・ゼロ ほとんど真北です」 してゼロ・ゼロ・スー イタチ小僧は、オペレーターの肩をつかんだ手に力をこめる。 「ケープ・ケネディにはまちがいなく通告してあるだろうね、発砲チャールストンの上空をキーンと通過していく銀色の砲弾の内部 で、ポールは腕のなかのデルフィがのけそるのを感じる。じりじり するな、と ? 」 「はい、してありますー していた彼は、さっそくメッシュに手をのばす。彼女は白目をむ 「あっさり、あの女のスイッチを切っちまうことはできんのか ? 」き、めちゃくちゃに暴れて、彼の手を押しのける。苦悶しながら イタチ小僧がかんしやくを破裂させる。「あのブタを制御室からひも、メッシュを怖がっているんだ。 ( その考えはまちがってないが ね ) ポールはせせこましい場所の中でやっきになってたたかい、メ きずりだせ ! 」

4. SFマガジン 1975年10月号

が、エヘンと咳ばらいする。 ークの″″が″フィラデルフィア″の略だとわかって、 「さてと、お嬢さん、あなたはもういっからでも働く準備ができた 5 命名はいっそうややこしくなる。フィラデルフィア ? 占星術師が をしいコードネームだと思う。意味論の女性工かな ? 」 有卦に入る。ジョーよ、 てきました」小妖精のおもおもしい答。 キス。 ( ートは、連想観念をならべるーー兄弟愛、自由の鐘、ヘロイ「はい、。 ( 1 ラ ? プ「そうか。ところで、これからあなたになにをやってもらうかを、 ン、低い奇形生成率、などなど。愛称はフィリー ? 1 ティ ? デルフィ ? 好感を与えるか、否か ? あげくのはて、すでにだれかから聞いたかな ? 」 、え」ジョーとテスラがほっと息をつく。 ーク″もほかの名前と交「いし ″デルフィ″が慎重に OX される。 ( 「よろしい」キャントルは、壁のむこうの盲目の脳までを見とおす 換されるが、こっちはだれもお・ほえられない ) どうもお待たせ。さて、つぎのシーンは、地下の続き部屋での公ように、彼女を見つめる。 「あなたは広告とはどんなものかを知っているかね ? 」 式テスト。トレーニング回路はここまでしか届かない。ひげのテス ラ博士のほかに、二人の予算屋タイ。フと、一人の父性的な男が立ち彼はショックを与えるために、わざと汚らわしい言葉を使ってみ 会っている。この男に対するテスラの態度は、まるで熱いプラズマる。デルフィの両眼はまじましと見ひらかれ、かわいいあごがツン ともたげられる。ジョーは、 P-( ・・ハ ークがものにした表情の複雑さ をさわるようだ。 に有頂天だ。ミスター・キャントルは待ちうける。 ジョ 1 が大きくドアをあけ、彼女がはにかみながらはいってく る。 「それは、あのう、それは昔みんなに物を買わせるために使われた 方法です」っぱをのみこんで、「いまは許されていません」 彼らのかわいいデルフィ、芳紀十五歳、完全無欠。 テスラが一同にデルフィを紹介する。彼女はまじめくさった子ど「そのとおり」ミスター・キャントルは、椅子の背にもたれ、厳粛 な顔になる。「昔よく使われた流儀の広告は、法律違反だ。『製品 も、世にもすばらしい幸運をつかんだ美しいベビイ。その全身をく の合法的使用でない方法によゑ販売促進を目的とした表示』は すぐる感激はオタクにも伝わってくる。彼女はニコリともしない。 ークのー ね。古い時代には、あらゆるメーカーが、方法と場所と時間をえら 彼女は : : : 全身で表現する。あふれる歓喜、それが・。ハ ー隣室のサウナの中にいる忘れられた骸のーー見せるすべてだ。しばず、われがちに自分の製品をほめそやしてもよかった。しまいに かし、 A-4 ・バ ークは自分が生きているのを知らない。生きているのは、メディアのすべてと風景の大半が、猛烈な表示競争に占領され は、その肉体のぬくもりのすみずみまでを生きているのは、デルフてしまった。それはひどく不経済なものになった。大衆は反抗し た。そして、いわゆる〈ひろめ屋取締法〉このかた、売り手は、条 イなのだ。 予算屋タイ。フの片方が、うつかり好色そうに鼻を鳴らし、はっと文を引用すると、『製品の正当な使用または店内販売の間にのみ見 体を凍りつかせる。ミスター・キャントルと呼ばれる父性的な男ることのできる、製品そのものの表面または内部への表示』だけし

5. SFマガジン 1975年10月号

神がそこにいることだ。そこへ、の高い料金を払う能力のあ「おい、おい、よせよ」ジョーは彼女の金色の髪を軽くなで、偏光 る、カリ・フ・ウエストの幸福の島々も仲間入りする。ぶっちやけた検出器をしまいこむ。 話、その中の二つは e >< の子会社なんだな。 三千マイル北、五百マイルの下で、ウォルドー体の中の忘れられ しかし、このての″時の人″のぜんぶがぜんぶ、リモコンのロポた骸が顔をほてらせる。 ットだとは、後生だから思わないでくれ。配置さえうまく考えれ たのしくないのか、だって ? ・ ークである悪夢から目ざめ ば、そんなに大・せいは要らないんだからさ。実をいうと、ジョーがて、自分が妖精なのに、スター ・ガールなのに気づくことが ? 天 はるばるバランキャまで彼女の点検にやってきたとき、デルフイも国のヨットに乗って、自分を着飾り、おもちやで遊び、お祭り騒ぎ そんな質問をしたもんだ。・ ーク自身のロは、ここしばらくに顔を出し、大ぜいの友だちにあいさっしーーー彼女、・パークに ほとんどものをしゃべらない ) 大ぜいの友だちができるなんて ! ホロカメラが写しやすいよう 「あたしみたいなのは大ぜいいるの ? 」 に顔を向けるだけで、あとはなんにもしなくていいこの暮らしが ? 「きみみたいな美人は一人もいやしないよ、おぼこちゃん。それよ たのしい り、まだヴァン・アレン帯の雑音がはいるかい ? 」 その気持は全身ににじみ出る。デルフィを一目見るだけで、視聴 「あたしのいうのは、たとえばディビー。彼もリモートなの ? 」 ( デ者はさとる , ・・ーー・夢がほんとうになることもある、と。 イビーは、彼女が珍鳥をあつめるのを手伝っている青年た。きまじ見ろよ、中風のコンゴウインコを入れた銀の鳥かごをさげ、ディ めな赤毛で、もうすこし場慣れする必要がある ) ビーの水上オートバイのしりに乗っかった彼女を。″おお、モート 「ディビー ? やつは精神科医のマットの助手さ。やつはつながっ ン、この冬はあそこへ行きましよう ! ″それとも、片膝からプロー てないよ」 ・トーチが燃えあがっているように見えるドレスで、日本式のチン 「じゃあ、ほんものの人たちは ? ジュ ーマ・ヴァン 0 や、アリや、チョーナを神戸グループから教わっている彼女を。あのドレスはき ジム・テンは ? 」 っとテキサスでばか当りするぜ。″モートン、あれは本物の火なの 「ジューマは脳みそのあるべき場所に、の社則を詰めこんで ? ″しあわせなしあわせな、あどけない娘ー 生まれてきた女さ、退屈もいいところだね ! ジムジーは、占星術そしてディビー。彼はまるで彼女のペットか赤ちゃん。彼女はデ 師のいうことをハイハイ聞いてるやつ。なあ、。ヒーナツ、きみがほ イビーの赤味がかった金髪をとかしてやるのが大好きだ。 ( その巻 んものじゃないなんて考えを、いったいどこから仕入れたんだい ? き毛にデルフィの指をからめて見惚れる・バ ーク ) むろんディビ きみは最高にほんものさ ! どうした、たのしくないのか ? 」 1 はマットの助手の一人ーーまるつきりインボではないが、性衝動 「おお、ジョ ! 」かわいい両腕を、彼と彼の偏向検出グリッドに はものすごく低い。 ( 精神科医のマットがケチな予算の中でいった メ・グスト・ム チョ・ム 巻きつけながら。「ええ、たのしいわ、とてもたのしいわ ! 」 いなにをしているのか、だれも正確には知らない。だが、彼の助手 チシモ 6 6

6. SFマガジン 1975年10月号

ークも、まのびした口調でおなじ質問をする。 い横目でにらんでから、透明な小部屋へはいっていく。・ハスルー ム、きまってるじゃないか。テキは生きた娘なんだぜ。生きた娘が「連中が育てたのさ」ジョーは彼女に教える。彼にとっては、生体 ゲラセンダル 一晩ねむったあと、・ハスルームへ行かない法があるかい ? たとえ部門のことなどどうでもいい。「。胎盤デカンター。修正さ その脳みそが、となり部屋のサウナ・キャビネットの中にいるとしれた胚さ、わかるかい ? 制御装置を移植するのは、そのあと。遠 ート・オペレーダー てもさ。それに、・ ークはあのキャビネットの中にいるんじゃ隔操縦者がいなければ、これはたんなる植物人間なんだ。足をごら な、、・ハスルームにいるんだ。いや、ごく簡単な理屈さ。リモコンんーーーぜん・せんタコがないだろう ? 」 ( ジョーも、生体部の連中に で彼女の神経系を動かしている、あのトレーニング閉回路ーーーあの教えられて、はじめてそれを知ったんだ ) 性質さえわかっていれば。 「おお : : : おお、嘘みたいにすてき・ : ・ : 」 ークは、自分の脳がサ「ああ、うまくできてるよ。きようは一つ、歩きながらしゃべるの 一つだけ、はっきりさせとこう。・・ハ ウナ部屋にあるとは感じてない。あのかわいい肉体の中にあると感を練習してみるかい ? きみはすごく上達が早いぜ」 そのとおりだ。ジョ 1 の報告と、石護婦、医師、スタイル専門家 じてるんだ。オタク、手を洗うときにさ、自分の脳みそに水がかか むろん、ちがうよな。両手に水がかかってからの報告は、一段上がって階上のひげ男のところに届けられる。 ってると感じるかい ? ると感じるだろう ? その″感覚″なるものが、実はオタクの両耳この男は医学的人工頭脳技術者だが、おもな仕事はプロジェクトの / タ監督だ。この男からの報告は、一段上がって・ーーの重役室 ? のあいだに詰まった電子化学的ゼリ 1 の中の、ポテンシャル・。、 1 ンのまたたきにすぎないとしてもだ。しかもそいつは、オタクのとんでもない。オタク、これがそれほどの大計画と思ってたのか 報告はたんに一段上へ回されるだけ。問題はそれが青信号、 両手の先から、長い回路をとおって脳に届くんだものな。ちょうどい ? ークは有望なのだ。 それとおなじことで、キャビネットの中の p-« : ハ ークの脳も、バスとびきりの青信号であることだ。 A-4 ・・ハ ルームの中で両手にかかる水を感じてるわけ。その信号が途中で空そこで、ひげ男ーーーテスラ博士ーーは、一連の手続きに移る。た くノクにおさめる小猫ちゃんの調書。たんな 間をジャンプしたって、べつに違いはよ、。 専門語でいってほしけとえば、中央データ・ ( フェーズ・イン りや、偏心投射とか感覚の関連とか、とにかくオタクも生まれてかるルーティン。それから彼女を世に出す段階的投入スケジュール。 らずっとやりつけてるものなんだ。いいね これも簡単ーーーネットワーク外のホロ・ショウにチョイ役で出演さ それじやカワイコちゃんの・ハスルームの訓練にもどろう。いま歯せればいし ークは、まだ鏡にう つぎは、彼女を売りこみ、目玉にするイベントの計画。それには ・フラシでうつかり顔をひっかいたとこ。 : ハ ーク計画は、しだいに つる自分に慣れてないんだ。 予算会議と承認と協力作業が要求される。 だが、ちょっと待った、とオタクはいうね。その娘の体はどこか要員の数をふやし、成長しはじめる。あとはめんどうな命名の一件。 5 らきた ? いつもテスラ博士がもじゃもじや頭をかかえる問題だ。 リモ

7. SFマガジン 1975年10月号

いまや、完全な麻痺状態に陥っていた。東西南北に延々と車がつらて横断し、そのまま斜めむかいの東京銀行にスーツと音もなくめり なって、その中心が淀屋橋だった。遠くの車はまだクラクションを込むように頭から入って消えてしまった。と思ったら、全然方角違 3 鳴らしているが、現場ではもう誰も車に乗ってはいなかった。外に いの白洋舎ビルから、洗濯物をいつばいぶらさげてプルンプルンと 出て、次から次へと現われる飛行物体を、何が何やら分らないまま姿を現わし、土佐堀川上空を天満の方向へと飛んでいった。 呆然と見あげていたのである。はるか彼方でパトカーのサイレンが「わし、もう分らん」 鳴っているが、いつまでたっても近づいてくる気配はない。交又点警官が頭をかかえて、へたりこんだ。 の警官も、一人が警察電話にかかりつきり、二人が連絡に走り去っ「警察学校では習てまへんか」 ただけで、残りは通行人や運ちゃんと一緒に、空を見あげている。 「習てへん、習てへん」 「何ですねん、あれ」 あたり一帯が大変な騒ぎになっていた。いままでの三つなら、航 「さあ、警察学校では習わんかったからな、よう分らん」 空ショーとでも何とでも解釈できる。しかし、いきなりビルから飛 「三つとも、えらいのんびり浮いてますな。ゴト払いやちゅうのに」び出して、まためり込んだりする様子を見てしまえば、もう普通の 事件とは思えない。 「何その航空ショーかな」 「白黒ショーやったら、わても好きですけどな。こないだ、天満「異変やろ」 で、ホンマに : 「戦争か」 「忠告しといたるけど、わし天満署の人間やねんで。いらんこと言「仁輪加でないことだけは確かや」 うたら何そのときに参考人で来て貰わんならんようになるで」 交又点でも、橋の上でも、人びとが空を見あげて口ぐちにわめき 「ジョ、冗談ですがな。暑いのにご苦労はんですな、お巡りさん」あっていた。靴みがきのおっちゃんは、空を見あげた客の右足でア 「べんちゃら言い、わっ」 ゴを蹴りあげられてのびていたし、橋から身を乗り出しすぎた男 警官が叫んで、交叉点の東側、第一勧業銀行のビルを指さした。 は、しぶきをあげて土佐堀川に転落するし、どういう理由か、・フラ 通りに面した壁面を、全部水色のガラス窓にした明るい九階建てのジャーとパンテイだけになって銀行から飛び出してくる女の子もあ ビル。その壁面からプル・フルンと音をたてて珍妙なやつが飛び出しった。 てきたのだ。何と言えばいいのかーーー公園の池に浮かんでいる貸ポ 「倍に見えるスライドレンズ、幻燈コンデンサー。検査用虫メガ 1 ト、あのポートの両側にオールのかわりに二段重ねの回転円盤をネはネガを見るのに便利です」 つけ、尾部には一対の。フロペラをつけ、それをプル・フル廻して浮か マジックインキでこう書いたポール紙を立てかけ、いつも橋のた びあがり、前進するーーーこんな具合にしか説明できない飛行物体が、 もとで、レンズと竹の耳かきという妙な取り合わせの屋台を出して るおばちゃんだけが、商機到来とはりきっていた。 いきなり勧銀ビルから飛んで出て、御堂筋のイチョウ並木をかすめい

8. SFマガジン 1975年10月号

か、してはいけないことになったんだよ」ミスター・キャントルはれを使っているのを見て、きっといいものにちがいないと思ったん 膝をのりだす。「それでは答えておくれ、デルフィ。なぜ世間の人だね、ええ ? いいものでなければ、アナンガのような偉い人間が 5 たちは、ある製品をほかのよりも買いたがるのか ? 」 使うはずはない、と ? まったくそのとおりだよ。さて、それでは 「えーと、それは : : : 」デルフィは魅力的に首をかしげる。「あのデルフィ、 これからきみにやってもらう仕事を教えよう。それは、 う、やつばり、それを見て、こっちのほうがいいと思うからです。 いくつかの製品をみんなに見せることなんだ。どうだね、そんなに それとも、だれかから評判を聞くとか : : : 」 : ハ ークがちょっむずかしい仕事じゃなさそうだろう ? 」 びり尻尾を出す。友だちから聞く、といわなかったところがだ ) 「はい、あの、べつに : : : ー面くらった子どもの凝視。ジョーが快 「それもあるだろうね。じゃ、きみは、いま使っているボデー・リ心の笑みをもらす。 フトをなぜ買うことにした ? 」 「もう一つ、きみがしている仕事のことは、だれにも、絶対にだれ 「あたし、まだボデ ー・リフトを使ったことがありません」 にも、しゃべってはいけないよ」キャントルの視線は、このなまめ ミスター・キャントルは眉をひそめる。 しったい、うちの連中かしい子どもの後ろにある脳に鋭く食いこむ。 リモ は、どこのドプからこのての遠隔操縦者を拾ってくるんだ ? 「なぜわれわれがこんな仕事をたのむのか、きみはもちろんふしぎ 「じゃあ、きみがいつも飲んでいる水はどの・フランドだね ? 」 に思うだろうね。それには大きな理由がある。世間の人たちが使う 「ふつうの、蛇口から出てくるお水ですわー あのたくさんの製品ーーー食料品やヘルス・エイドやクッカーやクリ デルフィはつつましく答える。「それはあのーー煮沸したことは ーナーや衣料品や車ーーーあれはみんな大ぜいの人たちの手で作られ ありますけれど たものだ。だれかが何年も一所懸命に働いて、デザインし、製作し 「おどろいたな」彼はにがい顔になる。テスラが身をこわばらせ たものなんだよ。かりに一人の男が、いまよりもっといい製品を作 クッカ る。「それでは、なにを使って煮沸した ? 調理器か ? 」 れる新しいアイデアを思いついたとしよう。彼は、まず工場と機械 輝かしい金色の頭がうなずく。 を手に入れ、工員を雇わなくちゃならない。さて。もし世間の人た 「きみの買った調理器はどのプランドだ ? 」 ちに、その新製品のことを知るすべがないとしたら、どうなるか ークは、デルフィ 「買ったんじゃないんです」おじけづいた・・ハ な ? ロづてのでは暇もかかるし、第一たよりにならない。する の唇をつうじて答える。「でもーーあたし、どれが一番か知ってまと、わるくすればだれもその新製品を買わず、それがどれほどいい す ! アナンガは〈パ ーンベビイ〉を持っているんです。せんに彼ものかを知らずにおわるかもしれない。そうだろう ? すると、彼 女がそれを使っているのを見てー - ーー」 も、また彼のために働いた人たちもーーーみんな破産だ。そうだろ 「そのとおり ! 」キャントルの父親らしい笑顔が力強く復活する。 だとすればだよ、デルフィ、そのりつばな新製品を大ぜいの ーンベビイ〉の収支計算も好調なのだ。「きみはアナンガがそ人たちの目になんとか触れさせる方法が、どうしても必要になる。

9. SFマガジン 1975年10月号

ことをいう。ようやく彼は理解する。彼女は、あれほど無理をいっ ャビネットの外へ出すことができなくなり、彼女のみにくいおしり て招ばせた三人の歌手のことで、不平をいっているのだ。 には壊死ができる。さてこそ一大事 ! 「三人とも変わっちゃったわ ! 」彼女は目を見はゑ「ねえ、変わ さっそくデルフィはヨットの上で長い″眠り″におち、・バー ったでしょ ? とっても陰気。あたしがこんなにしあわせなのに クはその穴だらけの頭に、彼女がデルフィを危険にさらしているこ とを、みっちりとたたきこまれる。 ( この精神科医を疎外するよう いうと、デルフィはゴシック風のヴァルゲイニオ机にもたれかか なセリフを思いついたのは、フレミング看護婦だ ) るようにして、気を失う。 彼らは急いで地下にプールを作り ( このアイデアもフレミング看 アメリカ人の付添い婦人が駆けつけ、助けをもとめる。デルフィ護婦のもの ) 、・バ ークのしりをたたいて行ったり来たりさせる。 の目は開いているが、デルフィはそこにいない。デューエナはデル彼女は喜々として泳ぐ。むろん、彼らがふたたび彼女を接続したと フィの髪の毛の中をいじりまわし、彼女の頬をたたく。老王子は顔き、デルフィが喜々として泳ぐのはいうまでもない。毎日、真昼ど をしかめる。デルフィが頭の痛い税金問題の絶好の解決法だというきに、ヨットの水中翼のかたわらで、愛くるしいデルフィは、決し ことを除いて、その正体には気がついていない彼だが、若い頃にはて塩水をのむなと注意された青い海の中を、さっそうと泳ぐ。毎 鷹狩りをしたことがある。鷹を興奮させるために、風切り羽を切っ晩、世界の肩ロのあたりでは、暗い地下に棲な怪物が、無菌プール て空に投げあげられた小鳥たちのことが、彼の脳裏をかすめる。王の中をばちやばちゃと横切る。 子はある快楽を約東してあった、青すじの浮き出た手をポケットに まもなくョットは水中翼に乗って走りだした、ミスター・キャン しまいこみ、新しい鳥の檻を設計しに席を立つ。 トルが準備したプログラムへとデルフィを運ぶ。こんどのは長期計 そしてデルフもお供の一行といっしょに、インファンテが最近画だ。彼女のスケジ = ールは、すくなくとも二十年間の製品生命に 買い入れたヨットへと旅立つ。気絶騒ぎは、結局たいしたことじや合わせられている。第一段階で彼女に要求される任務は、・フリオニ ィートの下で、・・ハ よい。五千マイルのむこう、五百フ 1 クが張からジャカルタにかけての一帯を遊び歩いている、若い超富豪たち り切りすぎただけのこと。 の一団と近づきになること。その界隈では、と呼ばれる商売 彼女が目ざましい適性の持ちぬしなのは、技術者たちもよく知っ敵が、彼らを狙っているかもしれない。 ている。ジョーも、こんなに早く分身に乗り移ったリモートは見た早くいえば、よくある高級品販売作戦さ。そこには政治も政策も ことがない、という。見当識混乱も拒否反応も皆無。精神科医は自からんでないし、おもな予算項目は、タイトルと、どのみち遊んで 己疎外だと説明する。彼女は鮭が海を求めるように、デルフィにとるヨットだけ。筋書きは、デルフィが王子の代理として、ある珍鳥 けこんだのた、と。 かんじ をうけとりにーー筋書きなんそ、だれが気にするものかー 彼女は寝食を忘れ、技術者たちは彼女の血行をよくするためにキんなのよ、、 を′イチ地方の放射能がもう薄れたことと、見よ ! ーー神 4 6

10. SFマガジン 1975年10月号

「それと、わたしがいった一番だいじなことは ? 」 ギーの充満した場をつくりあげる。 「おおーーーだれにも知らせてはいけないってことです、あたしのこ その搬送場の中では、もしオタクがそれだけの信用度の持ちぬし の仕事のことを」 なら、の制御卓にすわったまま、・フラジルで同調された鉱石 「そのとおり」ミスター・キャントルは、相手が、なんというか、採取機を動かすこともできる。それともーー水の上を歩けるとでも 未成熟さを見せたときのために、別のセリフを用意している。しか いうような、単純な資格証明がオタクにあればーーーあらゆる家庭や し、彼女から感じとれるのは熱心さだけだ。大いにけっこう。もう寮や娯楽場へ昼夜ぶっとおしに送られているネットワークのホロカ 一つのほうのス。ヒーチをするのは、彼としても心外だから。 メラ・ショウに、好きなフィルムを流すこともできる。それとも、 「好きなだけたのしい思いをしながら、同時に人助けができると全大陸にまたがる交通渋滞を作りだすことだってできる。その入力 は、なんと運のいい娘じゃないか、ええ ? ー彼はにこにこ顔をまわ装置を、が宝物みたいに後生大事に守ってるのも、べつにふ しぎはないだろうが ? りに向ける。さっそく椅子をずらす音。テストは大成功。 ジョーはニヤつきながら彼女を部屋から連れだす。この哀れな阿デルフィの″名まえ″は、一つの微細な分析可能のノン・リダン 呆は、みんなが彼女の筋肉の協調運動に見とれていると、思いこんダンシイとして、この流れの中に現われる。それを彼女が知った でいるのだ。 ら、さそ鼻を高くするだろう。・バ ークには魔法に思えるだろ ークは、ロポット・カーさえ理解したことがないんだか いよいよデルフィが外の世界に乗りだすにあたって、上部チャンう。・・ハ な。たが、デルフィは、どの点から見てもロポットじゃない。ど ネルが使われる。経営面では独立口座が開かれ、副プロジェクトが 作業をはじめる。技術面では、リザー・フされた波長帯に使用許可がうしてもというなら、ウォルドー ンドの愛 ' ) と呼んでほしいね。 出る。 ( 例の搬送場だよ、おぼえてるかい ? ) 新しい名前がデルフ彼女はまさにふつうの娘さ。ただ脳だけがふつうでない場所にある だけの、血のかよった娘さ。すごいビット速度をもった、単純なリ イを待っている。彼女がこれからも決して聞くことのない名まえ。 つまり、オタクやオタ それは、あるビューティフルな人物が二度と目ざめなくなってかアル・タイムのオン・ライン・システム ら、 >< タンクの中で静かにサイクルしつづけていた、ある長いクとおんなじなんだぜ。 長い二進数だ。 これだけのハードウェアーー、といっても、この未来社会じやたい その名はまたたきしてサイクルから消え 、。ハルスから変調また変したハ ードウェアじゃないが がな。せ必要かっていうと、それは 調へと舞い踊り、唸りを上けて位相の中を飛びぬけ、ギガ・・ハンドデルフィが地下の続き部屋から外へ出られるようにするためだ。っ のビームとなって、グアテマラ上空の静止衛星へ突進する。そこでまり、彼女は、いたるところに充満したカ場を吸収して歩く、一つ 撥ねかえったビームは、二万マイルを逆もどりして地球に降りそその移動需要点なのさ。デルフィは門出するーーー八十九ポンドのたお キャンナム ぎ、加・米象限全域の同調された需要点に供給できる、構造工ネルやかな娘の肉と血、それに若干の金属部品が、新しい人生をもとめ