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検索対象: SFマガジン 1975年10月号
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1. SFマガジン 1975年10月号

造性ゆたかな判決に組みこまれた特別世話役として、ダイラだけが 〈死の鳥〉とともにあとに残った。 ダイラとこの任務を彼に委託したものたちの最後の会見は、記録 8 されている判決の解釈において無視できない事実が現われーー・・・現 に、それは裁く種族からただちにダイラの種族の長老たちに伝えら 彼らは、生まれ故郷の、油にぬれたような光輝く洞窟を根拠地と し、数百万年にわた 0 て進化し、宇宙〈とひろが 0 てきた。数々のれた , ー・退去の直前、〈とぐろの聖〉がダイラのもとを訪れたの 帝国の建設冫 こ飽きると、彼らの関心はうちにむかい、複雑精妙な知だ。聖者は、この世界を掌中にした狂える者と、その者がとるであ 恵の歌をつくることと他種族のためのよりよい世界の設計に、ほとろう行動について教えに来たのだ 0 た。 〈とぐろの聖〉ーーそのとぐろは、数々の美しい世界を設計した瞑 んどの時を過すようになった。 しかし設計する種族は彼らだけではなか「た。そのため管轄権を想と感性と優しさが、長い年月のあいだにたくわえた知恵の螺旋で ダイラの種族のなかでもっとも神聖な存在は、ダイラの あった めぐる対立がおこるようになり、仲裁裁判のしきたりが生まれた。 裁くのは、告訴と反訴のもつれあ 0 た糸をほぐすことにおいて、並召喚を命ずるかわりに、みすから到来してダイラに栄誉を与えた。 びない巧みさと公平さを発揮するある種族であ 0 た。事実彼らの種彼ラ = 残シテイケル贈物 ( 一ッシカナイ、と聖者はい 0 た。ソレ 知恵ダ。狂エル者 ( 来タリ、彼ラ = 偽ルダロウ、彼ラヲ創造シ 族的名誉は、その才能の完璧な応用に負っていた。数十世紀のあい 、、ワレワレハイナ タノ ( - 目分ダ、ト嘘ヲックダロウ。ソ / コロニ , だに、彼らはより高度な仲裁の方法をめざして才能に磨きをかけ、 ついにはその分野の究極的な権威とな 0 た。訴訟当事者たちは判決イ。狂 = ル者ト彼ラ / アイダ = 立ッノ ( 、オ「 = ダケダ。好機ガ到 に従うほかなか 0 たが、それはたんに判決がつねに賢明であり、公来シタトキ、狂 = ル者ヲ倒ス知恵ヲ彼ラ = 与 = ラレルノ ( 、オ「 = ヒトリナ / ダ。そして〈とぐろの聖〉は、愛の儀式にのっとってダ 正かっ創造的であったからではなく、判決に疑いが持たれた場合、 イラの肌をなでた。ダイラは深く感動し、言葉もなかった。こうし 裁く種族の自減がもたらされる危険があったからである。彼らは、 て彼はひとり残された。 種族のもっとも聖なる地に、宗教的な機械をそなえつけており、 0 たん作動すると、それは彼らの水晶の甲皮をこなごなに砕く音波狂える者は到来し、干渉を始めた。ダイラは彼らに知恵を授け、 を発するのだった。人間の親指ほどの大きさもない、コオロギに似時は過ぎていった。彼の名はダイラから〈蛇〉に変り、新しい名は た美しい種族だった。彼らはあらゆる文明世界で尊ばれており、そ嫌悪された。だが〈とぐろの聖〉の判断に誤りがなかったことを、 の減亡が大混乱を巻きおこすことは目に見えていた。だから、すべダイラは知っていた。ダイラは彼らのなかから一人を選んだ。うち に火花を秘めた一人の男を。 ての種族が彼らの下す判決に従うのだった。 このすべては記録としてどこかに残されている。これは歴史であ こうしてダイラの種族は一つの世界の管轄権を放棄して去り、創 5 2

2. SFマガジン 1975年10月号

同 , 插絵 こうして、おそろしい悪人は討伐せられました。世界世界中を地獄にするつもりだったんだろう。あゝ、おそ を舞台に悪いことをしようとした憎むべき怪人は、こうろしいことだった。みながすぐさま力をあわせて怪塔王 して遂に自減したのであります。 の逮捕にとりかかったから、ようやくあれだけの被害で くいとめることができたんだ」 怪塔王の最後 ! いかがであろう日本の父、海野十三の少年科 「ねえ、帆村のおじさん、なぜ大利根博士は、怪塔王な どと名乗って、あんな悪いことを働いたんでしようか」学冒険の世界は 読みかえしてみると、やはり海野の作家活動、業績な と、一彦少年は、ある日、帆村にそれをたずねてみま どなんにも書かずに作品だけ紹介するのはムリなような した。すると探偵はいいました。 「あれはね、こうなんだよ、大利根博士の一家には悪いので、次回はなるべくばくの解説・評論はさけて、各氏 精神病の遺伝があるんだ。実は博士も一年ほど前から気の評価などを引用してみたい。 がちがっていたんだ。しかし、そういう一家の人の中に今回の「怪塔王」には、多少不満を感じられたかたも は普通の人間にはできなあるだろうが、海野紹介のイントロダクションのつもり いほどの発明家や、立派で軽く読みながしていただければいいと思う。 なすごい仕事をする者が まだまだ暑い日が続きそうです。お互いガイハリまし 生まれてくることがあ ようねー る。つまり天才と狂人は 紙一重の差しかないとい われるのは、このこと古本屋買えず飛びこむ水の音 ( 読みびと知らず ) だ。大利根博士も、まっ たくそれだったんだね。 天才で、狂人で、そして 遺伝の悪い血を受けて凶 悪な人間となってしまっ たんだ。博士のまわりに は、だんだんと悪い者が 集まり、そしてあのよう なおそろしい破壊業を始 めたんだ。博士の一味は : 3

3. SFマガジン 1975年10月号

をない。だが、いつもの散歩道に似ていることもたしかだ。地形的今度はいくぶん激しく、彼は首を横に振る。 にはそっくりだという気がする。いや、地形ばかりではない。この人びとの微笑、かぐわしい大気、はしゃぐ子供 : : : おれは、何と それらを素直に受け入れていることだろう。 家々を見た記憶が、たしかにあったではないか。だが、どうして、 それらを何のうたがいもなく受け入れているおれ自身にこそ、お ちがう町だと思えてならないのだ ? れは、むしろ驚くべきではないか。 家々の標札を見た。 あの世界で、こんな微笑のさざ波に出会ったとしたら、おれは、 さまざまな名が記されていた。この場所にあった家は、何という かえって、いらだたしさを感じただろう。 家だったのだ ? こんな澄み渡ったかぐわしい大気、それらに包まれたとしたら、 どうして思い出すことが出来ないのだ。 むしろ家へ駆けもどってしまっただろう。 彼は軽く首を横に振る。 子供たちのはしゃぐ声 ! タナカ : : : そうだったかな ? おれは、それらに憎しみを感じたはずだ。 スズキ : : : そうだったかな ? だが、なぜだ ? しつもの坂道を、いつものよ やはり、いま、おれは、現実には、、 なぜ、そうだったのだ ? どうしても思い出せない。 うに、尾根道に向って歩いているのではないかフ 彼は歩く。 だとすると、これは幻影だろうか ? たしかに、この道は、あの世界のあの道にそっくりだ。このたく この彼岸花の咲き乱れるこの世界は。 そう思いながら。 だが、幻影と呼ぶには、何と鮮やかにみえる世界だろう。なしさんの彼岸花の群落をのそけば。 そのとき、並んでいた男が言った。 ろ、おれの住居のある、あの世界に薄い皮膜をかぶせるようなかた 「この町の方じゃありませんね」 ちに、この世界がある。そう考えるのが正しいかも知れない。 「ええ、まあ」 そして、いっか、おれはこの世界に足を進めてしまったのだ。 どちらから ? 彼は、歩を進めながら、ゆっくりと、あたりを見まわす・ そう男が訓いて来たら、どう答えるべきだろう。ふっとそう彼は 何という、おだやかな世界だ。 思う。だが、男はそれ以上訊こうとはせず、おだやかな微笑を浮か 人びとの微笑、かぐわしい大気・ : べたまま、彼と肩を並べて歩く。 いきなり、子供たちのはしゃぎまわる声・

4. SFマガジン 1975年10月号

に奥深く、たしかに存在していた。が、肝心の遺体安置室をふくむ 廟の内陣まで無事にはいれた外界の " つまり吾々の代表者がなかっ たのである。 今世紀にはいってから、前記文書の発見によって単なる伝説の域 ムムシュ王の墳墓は″謎の建造物″だった。 紀元前四千五百年、統一王朝からさらに十五世紀さかのぼる太古を脱したこの驚異の廟にたいし、何度も各国の手で探険や学術調査 に存在した驚くべき文明と、その最大の支配者だった王の墓陵の位が試みられたが、いずれも申合せたように奇怪な、ということは不 置とが知られたのはホンの偶然の記録発見からだったが、後期のよ合理で原因の分らぬ障碍と事故のために挫折しているのだった " うにビラミッドを積上げず、大きな山そのものをぶち抜いてその胎その第一は、現地で、発見文書の確認とともに組織された調査団 内に繰展げた、幾層もの大洞窟の七堂伽藍から成る霊域じたいはずが、カイロを出発したきり決してそこへーーそしてその他のどこへ っと未知と確認のあいだを浮游していた、というのは誰も見届けるも到着しなかった 第二には、第一大戦後世界の何にでも金をだして首をつつこんで 7 ことができなかったからである。 なるほど、陂は記録の示すとおり、シナイの「王家の谷」をさらくるアメリカの探険隊が、廟の外陣にはいると同時に全員気が狂っ 1 7 1

5. SFマガジン 1975年10月号

が、サイボーグ・トロイカか、ロポット・トロイカるので日本語にするのはひどくやっかいではなかろを探らせるつもりでいるが、・ほくたちの関心はその か、あるいはロケット・トロイカを手綱さばきもあうか、といってきました。日本語が堪能なアルカー階にあるといわれているプラック・ポックスと〈喋 ざやかに、美しいスラブ娘が星のかがやく大宇宙をジイが、やっかいだというだけあって、「トロイカ」る南京虫〉だった。七六階についてわかっているこ かけめぐるスベオペでもなければ、自走トロイカをが「三頭だての馬そり」式の訳をやったんではなにとといえば、科学技術と社会発展のあらゆる段階で かって、火星の大自然を探険するイワンの勇気をたがなんだかさつばりわからない話になってしまうよちゃんとした理屈にあう説明がっかないことはなん たえた大叙事詩でもないことはお察しいただけるとうな難解なです。それこそとんでもない意味のでもかんでもその階にほうりこんでおいて、よりよ き時代がくるまで保存しておくことになっている、 とり違いをやってしまいそうな代物です。 思います。 ということだけだった。昔はその階は二階にあった そうだとすれば、今までなんだかんだと手のこん だ思わせぶりな書きかたをしてきたことが気になり昔は、自由に行き来していた研究所の十三階よりから自由に出入りできた。ところが科学の殿堂がで だしました。気の早い読者のなかに、宇宙共産主義上は、現在は往来のかなわぬ未知の世界である。工つかくなるにつれそこへ入るのがむつかしくなり、 エレベーターが発明されるにおよんで、全く往来が 連邦かなんかに収容所惑星か収容所星雲があって、レベーターも境階である十三階までしか行かない。 悪逆無道なトロイカが連邦に都合の悪い有害かっ危だが研究所の歴史によると、エレベーターの操作になくなってしまい、その宝庫を学術的な目的に利用 険な分子 ( 惑星 ) を消してしまう話で、ソ連体制の巧みな連中のなかにはじようずに操って夢のようなオることはできなくなってしまった。 批判か諷刺をやってるんじゃなかろうか、と思う人高さまで昇った者もいないわけではないが、たいが二〇年ほど前、エレベーターが暴走して、都市管 いの者にとっては十三階から上の無限とも思える多理部の検査員たちが七六階にほうりあげられてしま がいてもしかたがないと思います。 残念ながら ( なにが残念なのかわかりませんが ) くの階はまったく未踏の地だった。そこは、こちらうという事故が起った。かれらはそれつきり降りて それは考えすぎで、直接政治批判につながるようなの世界とは行政的影響から完全に切り離されていこなかった。それでも始めのころは、エレベーター て、いろいろ矛盾した噂が流れていた。たとえば一の縦坑から、下水道設備の調査報告や高地出張手当 露骨な政治ではありませんでした。 この作品は、〈より若い世代の学術研究者のため二四階は、別の物理法則に支配されている空間とつの請求書類を落してきた。だがやがてそれは検査委 のおとぎ話〉といういやに長ったらしいサプタイトながっているとか、二一三階にはインドのアショカ員会の会議録に変り、ついでそれは状況調査特別委 ルのついた「月曜日は土曜日に始まる」の続編王の思想的後継者である錬金術師たちが住んでいる員会となり、突然ズボ市異常現象コロニイ司令官活 動調査臨時三人委員会の議事録になった。そして最 として書かれました。これらの作品を通して、出世とか、いろいろ噂があった。 主義者や無能な学者や官僚主義者がはばをきかせて今日はその境階を越えるエレベーターの試運転の後に、指令や命令書が送りつけられてくるようにま いる科学者の世界を諷刺しています。翻訳について日だ。若手研究者を代表して : ほくとエジークがそでなった。 作者の意向を問い合せたとき、学者仲間の隠語や疑れに乗って七六階に行くことになった。上役の線型そのトロイカの実態調査をするのが・ほくらが送ら 似学術用語や特殊なお役所式ないいまわしが多すぎ幸福局の局長は・ほくらをス。 ( イとして送りこみ様子れる目的だ。下との連絡は用心のためもつばらテレ 登 0 一 -0 4

6. SFマガジン 1975年10月号

′弋ン 時か実 の一 古田 ~ そド 一触即発という言葉が、このときほど 身近に感じられたことはなかった。なに かしようとしても、もしいま、この瞬間 にも、米ソいずれかの、あるいは双方の ここ数年間で、この十月末の二、三日 ミサイル発射ボタンが押されていたら、 ほど強い危機感を感じたことはありませ と思うと、やりきれない無力感に押しま んでした。もちろん、キュ 1 バをめぐる くられ、押し流されて手がっかない。 ~ 米ソの対立です。アメリカは、公海上で そういってしまっては身も蓋もないか キュー・ハ向け船舶を臨検し〈攻撃的武 ~ 器〉を積んでいる船は追い返すか拿捕すもしれないけれども、全世界が破減し るか場合によっては撃沈も辞さないと発て、放射能まみれの塵埃の塊と地球が化 してしまって、なんの、なんの 表し、一方それらの武器を積んでいるこ マガジンだと、思わずにはいられなかっ との明らかなソ連船が二十五隻も、アメ たのです。 リカの海空の封鎖線にむかって進行中で あの緊張の二日ばかり、なんど、ミサ した。 イルがこの空の奥にと思って、真昼の空 をまた夜空を見上げたかわかりません。 それだけに、フルシチョフの譲歩によ って一応の危機が去ったときの、あの途 方もない安堵感も、それまでのものとは 比較にならない真実味がありました。そ して、思ったことでした・ーー・世界と人類 とを救うものは、この恐怖の再認識しか ない、と。ボタンの一押しが世界の破減 につながるという、まさに的なシチ ュエーションの再確認しかない、と。 ぼくはこれを、一九六三年の年頭の辞 としたいと思います。いかにも意気あが らない年頭の辞ですが、これが現実。現

7. SFマガジン 1975年10月号

月は太陽の一部てあり、否定的て 暗い一俊の世界を表している。 + ☆十

8. SFマガジン 1975年10月号

かすかに記憶があるようだが、彼は軽く頭を振った。 庭先に茂る雑草に重なり、微風にゆれる一輪の花。 「尾根道のむこうに、たしか街が : : : 」 しばらくそれに目を凝らして、じっと彼は立ちつくしている。 「ええ。むこうの栗林を抜けると、街のあたりが全部見えます。あ どこかの家で乳児の泣き喫ジャズの音響、鳥の羽音 : ・ の風景は好きでしてね」 やがて彼はドアを開けて、暗い家に入って行く。暗さにしばらく 彼と男は歩きはじめる。 目をならしてから、彼は明りのスイッチを入れる。 尾根道を歩き、栗林を拠ける。 廊下の鏡にふっと目をやる。 いきなり、ひろびろ視界がひろがり、林立するビル、無数の家男の顔が、そこにあった。散歩道で出会った男の顔だ。 家、大きな街の全貌がみえる。 廊下のドアを彼はひらく。 澄み渡った秋空、蛇行する河、そして街の周辺、、平地という平地雨戸を閉ざした暗い部屋で、妻がじっとうずくまっている。乱れ を埋めつくした真紅の色彩 : ・ た髪、蒼ざめた頬。 作りかけのプラモデルが乗せられたままの子供机、散らばったマ ンガ誌、ぬぎ捨てたままの靴下 彼は坂を降りはじめた。 「散歩に行こう」 風にそよぐ真紅の花々、地下で固く結び合ったそれらを、ときど彼は言った。「いつまで、こうしててもしかたがない。彼岸花を き眺めながら。 見に行かないか」 坂の下の角のあたりで、彼はしばらく立ちどまっている。サイク リング車で降って来た子供は、むこうの角から出て来た車と出合い がしらにぶつかった。 ふたたび、彼は歩きはじめる。 いっか彼は歩いている。 いつもの町、いつもの世界。いつもの人々、 いつもの家。 だが彼の目はいま、その世界のむこう、紗幕に描かれた風景のよ うに、もうひとつの世界のたたずまいが見える。

9. SFマガジン 1975年10月号

た老人だ 0 た。今や片手のひとふりで、この神にとどめをさすことしたことを、そして自分の行為に何の誤りもなか 0 たことを知 0 て ができるのだ。だが、その理由は ? 復讐をするには遅すぎる。そ もそも最初から手おくれだったのた。彼は老人を見逃し、森をさま ようままにさせた。そんなことはさせないぞ、不機嫌な子供の声 2 で、老人はつぶやいていた。哀れつぼいつぶやきだった。いやだ、 〈死の鳥〉は地球をその翼につつみこんでいった。もはやそれは、 まだべッドにはいりたくないもっと遊んでいたい。 スタックは〈蛇〉のところにもどった。スタックがおのれの力に生命のない燃えかすの上にうずくまる巨大な鳥としか見えなかっ めざめ、人類の歴史を通じて崇拝してきた神を破 0 たとき、〈蛇〉た。そして〈死の鳥〉は、星をびっしりちりばめた空に顔をあけ、 の任務は終っていた。双方の手がふれあった。終焉を目前にして、最後の瞬間〈地球〉がもらした敗北のため息をくりかえした。そし て眼をとし、頭を注意深く翼の下に埋めるとともに、夜がおりた。 はしめて友情の絆が結ばれたのである。 はるかかなたでは、星々が、人類の最後を見とどけるため、〈死 そして二人は仕事にかかった。ネイサン・スタックが両手をひと ふりして注射をうった。果てしない苦痛が終っても、〈地球〉はたの鳥〉の叫びの到来を待ちうけていた。 いや、ため息は聞えた。そして、あらゆる め息一つもらさない : ・ 6 活動がとまった。融けた中心核は冷え、風はやみ、スタックの頭上 2 では〈蛇〉の最後の仕事が終ったことを示す〈死の鳥〉の降下の音 が聞えていた。 「あんたの名前は ? 」スタックは友人にきいた。 〈死の鳥〉は疲弊した地表におりると、翼を思いきりひろげておろ し、母親が疲れた子供をだぎかかえるように〈地球〉をつつんだ。 ダイラは黒い屍衣のおりた宮殿の紫水晶の床にすわり、満足げに眠 をとじた。終末が来たいま、とうとう眠れるのだ。 このすべてを、ネイサン・スタックは立ったまま見つめていた。 彼はこの世界最後の人間であり、本来彼のものであったはずの世界 をーーーわずか数瞬であれーー所有することになったいま、眠りは容 易には訪れなかった。終末を迎え、スタックは自分がこの世界を愛 マーク・トウェインに捧げる 8 4

10. SFマガジン 1975年10月号

発売後一年四カ月でアメリカ国内で一千万部以上を売り 世界三十カ国で翻訳出版された驚異の超ベストセラー ! ぜひ『ジョーズ』をお読みなさい どんなことがあっても ! ニューヨーク・タイムズ ピーター・べンチリー 平尾圭吾訳 ¥ 1000 ユニヴァーサル映画化 ンヨーズく顎〉