めたい汗が噴き出した。崩壊の恐怖がわずかに遠のくと、かれは体がいかなるときにやってくるのかは工作員の一人一人についてみな を引き千切られるような苦痛にうめいた。もう這い回ることもできちがうのだ。今がそのとき、今がその待ちかまえていた死の陥穽な 2 そうになかった。左うでが奇妙な形にねじ曲っていることにはじめのだ。工作員の死はつねにもっとも工作員らしくない死にかただと し、つ・カ て気づいた。うでの角度は、とうていそれが自分のものとは思えな とつ。せん、わすかに残っていた体温のすべてが毛穴から放出して 。左のひじは肩のあたりに固定していた。ひじの関節が一ダース いった。みるみる体は氷塊のように凍って重くなった。 もなけれ、はそのような位置にはこないだろう。シンヤはしだいに思 ノ力「いやだ ! 」 考力が失われてゆくのを感した。一メートル。もう一メートレ。、 シンヤはさけんた。死の深淵から這い上ろうとして体を起した。 れは這いつづけた。 あけ放されたままの個室が目の前にあった。暗い非常灯の光工作員ならばそのような死でも甘んじて受け入れることができる に「つ、つ - 、刀 の中でふいに人影が動いた。 「おれは ! おれは工作員ではない ! 」 「調査局に連絡をとってくれないか。私は、私は 調査局員だからといってみながその不当な死を受け入れなければ シンヤは認識番号をくりかえした。たとえ深い眠りの淵にあると とばり シンヤのさけ きでも、また死の幕に閉されるその瞬間でさえも忘れることの許さならぬわけはない。不公平というものだ。それはー び声よりも高く悲鳴を上げて一個の人影がとびのいた。そのさけび れない一連の数字と記号をくりかえした。 声がシンヤのしびれた脳を目覚めさせた。とびのいた人影は部屋の 「ーー惑星間経営機構調査局。認識番号 <0 八〇一三・一一一。 コールサイン O 八〇一三、コ片すみで石像のように身をこわばらせていた。視力がもどってくる 認識番号 0 八〇一三・»-a Z 二一。 と人影は女、それもかなり若い女だった。 1 ルサイン 0 八〇一三」 起き上るとシンヤの全身から滝のように水が滴り落ちた。水は氷 急速に闇がシンヤの体をおしつつんだ。 のようにつめたかった。シンヤは自分の体がずぶ濡れになっている ことが信じられなかった。シンヤと女ははげしい視線をからませた 体の深奥からわき上ってくるひどい寒さにシンヤは全身を丸め、 歯をくいしばって必死に耐えていた。表層に近い組織や筋肉はまだままつぎにおこる緊張の破裂を待ちかまえていた。女の呼吸が耐え わずかに体温を保っていたが、深部の内臓や血管はもう死んでしまられないまでに早くなると、手にさげていた大きなプラスチックの って氷のように冷えきっているのだろうと思った。そのつめたさが容器がけたたましい音をたてて床に落ちた。新しい水が床に一面に ひふにまでおよんだときが生命の終るときなのだという意識がしだひろがった。 いにかれを絶望に追いやった。死が工作員を襲うときはつねに全く「その水をどうしようというのだ ? 」 ひろがる水から女の顔に視線を移した。 とっぜん、予想もしていなかった事態のもとでなのだ。いかなる死 コン・ ( ートメント
るのであろう。果して《 <<O 八〇一三・二一。現在位置より発「そうよ。今のは大きかったわ。そうとう被害が出たでしようね」 信の理由を言え。 <<0 八〇一三・二一。現在位置より発信の理「地震か。そんなにたびたびあるのか」 「三日に一度はあるわ。ときどき大きなのがあるの。今のもそう。 由を言え》 電子頭脳はシンヤが居住区から連絡をとったことに疑惑を持ってよくその体で逃げてこられたわね。あのドアの外に倒れていたのよ」 シンヤの体内をいつばいに占めていた不安が急速に蒸発していっ いるのだ。地球の、特にこの支局ではそうしたことはこれまでなか コノ・ハートメント ったことなのだろう。調査局の工作員が居住区の市民の個室にた。それとともに四肢が鉛のように重くなった。 とっぜん襲ってきたはげしい震動とそれにつづく爆風と崩壊は、 立ち入ることなどここではありえないことなのにちがいない。 「ひどい怪我をしています。早く手当てをしないと。被害地区からシンヤにはとうてい地震などとはとらえることができなかった。戦 いの結末に不満を抱く辺境星域の出先機関が各地でおこなっている たどりついたらしいの」 ふたたび二、三秒の沈黙があった。電子頭脳は今の女の言葉の意テロの一つであると直感したのだった。強烈な敗北感が自己嫌悪と なって脳天につき上った。 味を検討しているのだろう。 「大丈夫 ? もう少しがまんしてくださいね。間もなく救護班が来 《わかった。ただちに収容する》 るでしようから」 声がと絶えた。女はテレビ電話の前から離れた。 シンヤはこの女が調査局員でなかったことを心の底から感謝し 「すぐむかえに来るそうです」 た。たびかさなる失敗の記憶はこれからもしばらくの間はつねに胸 「ありがとう」 をかむだろうし、それをまた同じ調査局員に知られていたのではか シンヤは全身で息を吐いた。苦痛はいくらか薄くなっていた。 なわないと思った。 「おそらく時限爆弾だろう。戦いが終ったというのに」 「そうか。地震か。それにしてもひどかった」 女は眉をひそめた。 「時限 ? なんですって ? 」 「半年ほど前から急に地震が多くなったようね。それも大きな地震 が」 「時限爆弾だろうと言ったんだ。辺境側の工作員がしかけたものに 女はつぶやいた。 ちがいない」 シンヤはスクリーンの灯の消えたテレビ電話を視線で指した。さ 女はシンヤの上にかがみこんでひたいの血をぬぐった。 つきから気になっていることだった。 「地震でしよう。そんなんじゃなくって」 「映像が出ないようだが ? 」 「地震 ? 」 こたえるのが電子頭脳でも、スクリーンにはセットされた人物の シンヤは思わず女の手をはらった。 フィルムがあらわれるのだが。女は首をふった。 「地震 ? あれが ? 」 230
「どうしようというのだ ? 」 「大丈夫ですか。今、連絡をとってあげます。調査局と言ったわね」 女の顔からわずかに恐怖の翳が薄れた。 「ああ。すまない。認識番号 << 0 八〇一三。 Z 二一。わかった 「その水を」 か。もう一度言おうーーー」 シンヤは立ち上ろうとして電撃のように体をつらぬいてはしった女は部屋のすみのテレビ電話のスイッチを入れた。長方形のスク 苦痛に顔をゆがめた。 リーンに青緑色の灯がともり、さざ波のような輝線がゆれ動いた。 「ごめんなさい。そうしなければあなたは」 そのままなかなか通じない。装置は地球いがいの場所では見ること 女はなかばロの中で言って身をすくめた。 も少ない極めて旧式のものだった。 「そうしなければ ? 」 《こちら調査局。内線番号を回してください。こちら調査局。内線 「そう。気を失ったまま死にそうだったもの」 番号を回してください》 「そんなにびどいようすだったのか。おれは」 男の声とも女の声ともっかぬ電子頭脳特有の金属的な声が流れ出 「今だってそうじゃないの」 した。 シンヤはゆっくりと上体を起して床に坐った。 「内線番号は ? 」 「おれは調査局のものだが、連絡をとってくれたろうか。認識番号女がふり向いた。 とコールサインを告げたはすだが」 「認識番号をそのまま回してくれればよい」 女はだまって首をふった。 女の指の動きとともにダイヤルの回る音が断続した。継電器のか 「そんなことは言わなかったわ。なにかロの中でしきりにつぶやいすかなひびきが二、三度聞えるとふいに声が変った。 ていたけれども」 《 0 八〇一三・ Z 二一。現在位置を知らせよ。 0 八〇一三・ シンヤは胸の中で舌打ちした。工作員としては許されない失態だ =Z 二一。現在位置を知らせよ》 シンヤは首をねじってテレビ電話のスクリーンをのそきこんだ。 った。連絡がついたことを確認するどころか、声にならないつぶや きだけで意識を失ってしまうとは。これが重大な報告だったらどうしかしスクリーンに人影はなく、かがやく青緑色の波紋がせわしく する ? しかもなお工作員が自分の所在を本部に連絡するというこゆれ動いているだけだった。 「現在位置 ? 」 と自体がそもそも重大な報告ではないか。負傷しているならしてい 「この部屋の番号だ。早く ! 」 るで絶えず残っている体力について計算して行動しなければならな 女は送話器にくちびるを寄せた。 いのだ。 シンヤの惨澹たる思いの顔に目を当てて女はそっと近づいてき「第七居住区、セクション。〇四九一・」 二、三秒の沈黙があった。おそらく電子頭脳は声紋を照合してい た。 229
を第幸・を第第をを第を蹴第幸を蹴蹴、ダを幸をを幸を ダダを く最辛幵リ〉 日 S おのを蓼大成 半村良価ニ四〇円 月松左京価ニ六〇円 わがふるさとは黄泉の国 結品星団 人跡稀れな木曽の秘境に遺骨を抱いて訪れた青 石原藤夫価ニ八〇円 年が夢幻の冥界へと踏みこんでいくアルカイ / ハイウェイ惑星 ク・ファンタジーの傑作ほか、四篇を収録ー , 百 ( 当価ニニ〇円 復讐の道標 豊田有恒価三 = 〇円 星新一各価ニ六〇円 ワ】両面宿難進化した猿たち。 = , 飛騨高山祭の雑踏に、陽気なディキシーランド 幻覚の地平線 ジャズに踊り狂うカーニバルの幻影をダブらせ 眉村卓価三ニ〇円 て東西文化のせめぎ合いを描く表題作ほか、六篇 奇妙な妻 半村良価三〇〇円 予価ニ七〇円 、、山野浩一 亜空間要寒 安部公房価ニニ〇円 鳥はいまどこを飛ぶか 人間そっくり 既刊六十三点 鳥か眼前を飛ふたびに、二次元から三次元へと ・ウェ 異世界に転移する表題作ほか、ニュ ヴの旗手が織りなす力作短篇七篇を結集ー 女一言発売中
「浮かぶ飛行島」 ( 講談社・復刻版 ) 函 : 。などといって、自分の能 なことをいってスミマセン ) 好評論で、・ほくが途中までも、もう、しかたがない : 書きはじめた解説なんか、まるでお話しにならないことのなさをゴマかすこのずるい態度 が判明した。 ( いいわすれたが、海野十三については、現在、同 そうなれば、・ほくがいくら鉄面皮とはいっても、最初人誌「宇宙塵ーに連載中の島本光昭氏「概説日本 から歴然と差のついている解説なんか書く気にはなれな史」中に好解説があることをつけ加えておく。余談にな るが「概説日本史」は、この「こてん古典」など それに、考えてみれば、ばくが海野十三について解説とちがった非常にまじめな、日本で最初の本格的史 ・評論なんかしなくても、 ( ャカワシリーズの海野研究の労作であるので、系統的な研究に興味のある せひ一読をおすすめしておきたい ) の短篇集「十八時の音楽浴」には石川喬司氏の名解説が向きには、・ あるし、桃源社の「火星兵団」その他のリバイ・ハル版に さて、そんなこんなで、今月の海野の紹介作品はいろ も佃実夫氏らの名解説がある。それに今度の権田氏の評いろ迷ったあげく、戦前の少年向き科学冒険小説の傑作 論だ。 のひとつ「怪塔王」にした。海野には「地球盗難」 ( 昭 いくら考えてみても、ぼくにはこの諸先輩の十三論よ和十一年 ) 、「浮かぶ飛行島」 ( 同十二年 ) 、「海底大陸」 りも立派なものができるわけがない。ぼくはストーリイ ( 同十四年 ) 、「快鳥艇」 ( 同十六年 ) 、「火星兵団」 紹介をしているのが分相応なのだ。 ( 同 ) などの少年ものの傑作と呼ばれる作品が数多い が、いずれも数年前、桃源社、講談社からリ・ハイバル刊 そんなわけで、予定は急遽変更。海野の業績などは前 述の各氏の評論・解説を読んでいただくことにして、こ行されたばかりで、いまでも入手できるから、現在入手 しにくい「怪塔王」を選んでみた。 第「 1 こは今月と この作品は、海野の少年科学冒険小説の典型的作品 一来月の二回 にわたつで、主人公も海野が創造した最大の英雄帆村荘六探偵で て、海野のある点など、日本の父といわれる海野十三のの 作品紹介を世界 ( もちろん、その一部である少年科学小説のみだ ・・」してみよが ) を知るに絶好の一冊といえる。 ( 帆村荘六探偵につ いては、 tn 一四四号の拙稿「日本英雄群像・ 上」参照のこと ) う事情だか ただ、残念なことに、・ほくはこの戦前版を持っていな ら、読者も い。手元には昭和一三年の自由書房版、昭和二五年の東 異議はない 光出版社「海野十三全集第四巻」版、昭和三七年の普 、・・、だろう : 。あって通社版の各リ・ハイ・ハル版があるが、いずれも、かな使い . : に 5
もそうだった。市の地図が無いように、市のあらゆる街路から標識 第一章かれら常闇より をとり去ったのも政令のせいであった。潜入した破壊工作員は・この シティ 迷路のような市では目標の位置をさぐり出すだけでも多大の労苦を 1 ( 承前 ) 割かなければならないだろう。しかしそれとて出発前に知っておく ハイウェイをしばらく進み、それから背後からやってきた一台のことはできたはずであった。べテランの先輩たちなら当然それは誰 輸送車を停めて市の中心部まで乗せていってくれるようにたのんに言われるまでもなくしておくことであった。 シンヤは考えることをやめトンネルのひとつをえらんで足を運ん 調査局の近くまで運んでほしかったが、この輸送車はきまった地、でいった。それがあるいは逆に市の出口へ通ずるものであるかもし シティ 点の間を運行するルート・トラックだということでシンヤは市の中れなかったが、そのときはそのときのことだと思った。 心部に近いある一角で降ろされてしまった。 「調査局というのはたしかこの先のインターチェンジを下ってこの 下の階の西側だったと思う。まあ、聞きながら行ってみな」 トンネルを入ると、それまでの壮大な立体感はうそのように消え 運転手はそう言い残してタービン音をまきちらしながら走り去っ失せ、穴ぐらのように入りくんだせまい回廊が薄暗い照明の下で廃 ていった。 坑のようにのびていた。その奥から汐鳴りのような騒音が流れてく スロープ シンヤは時おり輸送車のゆき交う巨大な傾斜路を下った。下ったる。 回廊の両側の壁に沿って、天井にとどくほどさまざまの箱や鑵、 ところに複雑な幾何学的配列で幾つものトンネルが蜂の巣のように 口を開いていた。傾斜路はもつれた繩が解けるように八方に開いて。フラスチックのコンテナーなどが積みかさねられ、回廊は二人の人 その一つ一つがトンネルのロに結びついている。そのトンネルのど間がようやくすれちがうことができるぐらいの幅しか残されていな かった。下積みになった軽金属の箱がつぶれ、中から何ともしれぬ れが調査局のある階につらなるものなのかかれには見当もっかなか 黄褐色の徴粉があふれ出て床にひろがっていた。シンヤの足もとで だが最初からそう弱気を出していてもはじまらない。 シンヤは気それはけむりのように舞い上り、薄暗い照明を黄褐色のタ闇のよう に閉した をとりなおして歩き出した。腹もへっていた。行き着かなければな らない調査局は、火星よりももっと遠い所にあるようにかれには思 えてきた。 しばらく進むうちに、物資集積所ともまごう回廊はしだいに本来 の回廊に幅をとりもどした。 「標識ぐらい出しておいたらどうなんだ ! 」 目の前に雑然とひろがる一画があった。 だがわき上ってきた怒りも一方から急速にちちんでいった。これ フロア シティ スロー・フ シティ シティ シティ 幻 6
先頭の男はその階 目いには全く無関心に、彼女の体をこえて床にうあらわれた。光条に灼かれた部屋の空気は強烈なイオンの臭気を放 ずくまっているシンヤに水色の視線を当てた。ごく平几な東洋人のった。ふたたび鮮紅色の光の矢がおそってきた。危うくそれをかわ 3 2 して二度、三度、シンヤは床をころがった。女は、ドアのかたわら 顔に、その目だけがいやに執拗な光をたたえていた。 に立っている男に走り寄った。 「シンヤか ? 」 自然に垂れていた男の腕が動くともなく動いたとき、すでに熱線「おねがい ! 助けて ! 」 シンヤの頭上を越えて真紅色の光の幕がはためいた。二本の光条 銃のふくらんだ銃口がシンヤの体に向けられていた。 思わずかみしめた奥歯の不快なきしみがシンヤの脳天に衝き上っがからみ合った瞬間、人体の形をした火の塊がシンヤの視界を横切 って走った。ドアのふきんからほとばしり出た光の矢は大きくそれ た。そう毛立つように全身の筋肉が硬直した。いっ起るかもしれな いことが今起ったに過ぎなかった。そしてそれはきまって起るであてかれの背後のテレビ電話のスクリーンをほのほにつつんだ。女が ろうということを忘れた瞬間に起るのだ。シンヤは、二人目の男がなにかさけび、床を焼きながら低く回った真紅の輝線が、脱出しょ 部屋のドアを閉めたとき、残された最後の機会が去ったことを知っうとする男もろともドアを焼き崩した。鼻の奥を刺すようなプラス た。シンヤの目に、部屋の内部のすべてが一枚の絵のように鮮烈なチックの燃えくすぶる白煙がそのドアめがけて殺到し渦巻いた。 色調で飛びこんできた。 シンヤは女の手にあるのがドアのかたわらに立っていた男の腰に あった熱線銃であることにそのときはじめて気づいた。走り寄って 「だれだ ? おまえたちは」 シンヤはのどの奥から声をふりし・ほった。答えるはずもなく、答とりすがったその一瞬に男の腰のベルトからぬきとったにちがいな 。熟練した工作員に劣らない機敏な動きだった。白煙をくぐって えを求めてのことでもなかった。男の指にはっきりと力がこもった。 女はシンヤをかかえ起した。 「やめて ! 」 とっせん、女が気の狂ったようにきけぶとシンヤの体の上に跳躍「ありがとう。しかしなぜあのような危険なことをする ? 」 シンヤは女の手に上体をあずけて荒い息を吐いた。 してきた。あたたかく重い体をさけるひまもなく、シンヤはおりか 「かれが早く帰れるように計ってやる、と言ったでしよう。お礼の さなって床にのめった。 「どけっ ! あぶない」 先払いよ」 シンヤは全身の激痛の中で残った力をふりし・ほって、おおいかぶ女は指の先でほっれ毛をかき上げた。わずかに上気した女の美し さってきた女の体をはねのけた。その反動をばねに背を丸めて床をさがはじめてシンヤの目をとらえた。そのとき急速にわき上ってき ころがった。とび離れた二人の中間の床を正確に、一瞬、熱線銃のた落下の感覚がかれの五体をおしつつんだ。両手をのばして必死に 鮮紅色の光条が突き刺さった。天井までとどくようなほのほが噴き女の体をつかもうとしたが、すでにうでは石のように重かった。か 上り、けて沸騰したプラスチッ ' クの床材の下から軽金属の骨組がれは暗黒の中へ限りなく陥ちこんでいった。 ( 以下次号 )
て昼休みに食い込んだため、そのままタクシーを飛ばしてこのスタ そう言って走りまわっている。年齢や肩書きから考えれば、そう ジオに入ったのである。 ・ハタバタせずに仕事は若い者にまかせ、自分はチェックだけしてい しかし、ま、これ済ませて試聴テープをスポンサーに届けたても構わないのだが、彼は現場の仕事が好きで、忙がしい方が張り ら、今日の仕事は終りや。夕方からゴルフの打ちっ放しにでも行っあいがあって、山積した仕事をどしどし片づけていくことに快感を たろか。カッ丼をかき込みながら、彼はそう思った。何せ、今度の覚え、また、片づけていける自分に誇りを持っているのである。お 日曜は局招待のコンべやちゅうのに、長いこと振ってへんさかいな、 まけに、広告代理店の制作部門とは、忙がしい者に限って次から次 ナマコマラフ 勘鈍っとるはずや。あ、生 O> の原案考えないかんのか。明日提出へと仕事が持ち込まれ、暇な者は年中プラブラしているということ ゃ。ま、ええわ、家帰って一杯飲みながらやったろ。何せ、ここしがよくあるセクション。忙がしいのはそれだけ有能な証拠で、暇な きのう ばらくずっと遅うて、おまけに昨夜は帰ってへんねやさかいな。今のは無能とみなされて干されている、そんな見方もできる職種なの うち 日ぐらい早よ帰らんと、家の奴、またブツ・フッ言いよるやろ : : : 」である。原沢はそれをモロに受けている。いま本番を終えたラジオ Oäにしても、今朝出社して突然入ってきた仕事だった。 。ヒードンドン、笛と太鼓のがピシッと決まって、ミキサーが ふりむいた。 「頼んますわ、課長」 「ジャスト秒です」 担当営業マンが彼の前へ来て、手を合わせたのだ。 「、ええ感じゃった」 「セールスかけてたスポット枠、あかんと思てたら昨日の夕方電話 左の人差し指と親指で丸を作ってガラス越しに示しながら、彼はしてきよって、急に決まったんですわ。の局送り明日ですね ん、今日しかないんですわ。中味はまかせる言うてますよって、何 立ちあがった。 原沢は三十四歳、中堅広告代理店のラジオ・テレビ制作課長であとかひとっ : しゃあ く「仕方ない奴っちゃな」 る。背はそれほど高くはないが、肩が広く胸が部厚い。顔は浅里 ひきしまっている。新米で入社以来、ずっと制作畑を歩いてきてお彼は、営業マンが差し出した赤玉堂のパンフレットをパラバラと り、業界ではちょっとした著名人になっている。仕事熱心でスピー めくり、それからそれを丸めてパンと机を叩いて立ちあがった。 ドがあり、何をさせても水準以上にこなすという評判で、スポンサ 「やったるがな」 1 からの受けもいい。 「さすがア、誕まれながらの」 社内でも、「誕まれながらの制作マンーなどと称されている。彼「人、炭鉱夫みたいに言いやがって」 自身この称号を気にいって、こなしきれないほどの仕事をかかえて 宣伝部会議に出かける前にタレントと録音スタジオの時間を押さ も、 え、コメントはスポンサ 1 からスタジオまでの車の中、難波から梅引 「なあ、何せ誕まれながらの制作マンや」 田新道への二十分程で考えて、カッ丼かき込みながらその作業をい
わる奇怪事の数々も単なる作り噺ではないと考えるのです。という「そこで事件の性質をこの見地からもういちど考えてみましよう " のは伝説は一つで充分なのに、今世紀のいろんな報道がそれそれ古「第一に、太古クフの第一次探険隊は神馬のひく神殿に圧潰された 冊とおなじような事を伝えているからです。するとこれは、何かの 理由とカで、いかにも奇怪に見えはするが、少くとも云伝えに近い 第二は、ついでアメシュの派した取壊し工作班は火の雨で亡・ほさ 様相で現実に引起された事件に違いない ではどんなカかと云えれた ば、それは判りません。なにか現在のわれわれの科学以上の機械装第三。紀元前千年アッシリアの軍団はアヌビスの一ト矢で 置ということも考えられますが、この件におけるようにいろいろな 八世紀、第四次の西人侵入には岩が口をきき、大鳥が舞下りたー 場合に・気紛れなほど不統一かついろいろに働く万能な仕掛という ものはわれわれの機械工学では承認し難い。一つ一つの場合がまる現代では、第一次に現地の探険隊が完全に行方不明になり、第二 きり違った方法で処理されているのをみると、どうしても之は誰かにアメリカ隊が廟前で全員発狂した。そして第三 " 第一次国際調査 の意志で・人間が対応的に動いている色合いが濃い。一たいこの墓団は外廟内で忽然と雲散霧消した ト斯うですネ」 の主ムムシュという王は、私はかれの事蹟をできるだけ調べてみた かみ のですが、彼は前期上エジプトの濫觴期に君臨して並びない勢威と「思うに、近代装備を持った一学術団を『忽然と』消減したり、そ おぼっ 栄華をほこり、最初の神格に生前から餌した王です " ということはの全員を同時に発狂させたりするような芸当は我らには覚付かない つまり、それまでの原始的素朴な王朝から、民をして王が生人でかとしても、一つの銃器で一中隊を殲減することや、空から雨のよう ロケット に火箭ないし焼夷・ガス弾をふらすことは、現代人ならふつうにで っ神であると見做さしめる神権政体を確立した最初の王でもあるこ とで、君主としてより同時にむしろ権力者として非凡な器だったこきることではないでしようか。私は第二のアッシリア軍のばあい とは確実です。事実またあの農を伝えた神農伏羲ほどの神話的怪人異教徒の侵入から埃及を守ったアヌビスの一ト矢というのは、むし ではなかったにしても、数多くの人巧利器を発明して民に教えた肇ろ一ト弓というべき・扮装した兵士の機関銃にすぎず、貪欲なロド わき 国的首長だったらしいのです。しかしそれだけならただ英邁の王とリックにたいして岩が口をきいたというのは旁から拡声機をつかっ たか大型テレビを応用した手品ではなかったかと思うのです」 いうにとどまる。なぜ神格化されたのか、どこが・或はどれほど非 「貴方は何を言出すのだ ! 」 凡だったのかという事になると、もう記録が不充分で分りません。 とアルラフィーク博士が呆れた様子で叫んだ。「それらは今から ただ、したがってその墳墓も前代未聞の豪奢をきわめ、彼自身ある いはその崇拝者がその神聖を後世にたもとうとして、墓盗人どものそれそれ千年、二千年、三千年前の事なのですゾ ! どうしてその 土足や外異の好奇の目から守るために、我らの理解を越えた非凡な時代に、そんな : : : 」 「しかし、純粋な方法論としては可能なわけでしよう ? 」と阿兎の 方法を講じたということはごく自然に想像できます。
ーシケ、 所は大阪御堂筋ー淀屋橋の交叉点の上空に 空中軍鑑先頭にして奇妙な飛行物体の群れ 「よっしや、俺も誕まれながらの制作マン 何ぞ商売にしたろやないか〃」 9