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1. SFマガジン 1975年12月号

もっていてください ! ハンターとぼくが助けに行きます ! 」 だったのだろう。四時半にポトマック河から先のヴァージニア州全 ハンターをよびながら、彼は暗闇へとびこんだ。二人は下生えを部が消失し、そこが原生林になってしまったのだそうだ。彼は調査 7 かきわけ、現場へといそいだ。ミ / ットは不興げに顔をしかめ、拳のために飛びたった。一時間で帰投したが、そのときにはワシント 銃をひきぬいた。そして顔をしかめたまま、焚火のそばから立ちあンが消えていた。ワシントンがあるはずの場所には、雪がつもって がり、いまハンターが放棄した見張り役についた。 霧がたちこめていたという。ポトマック河にそってくだり、柵でか そこでは、闇のなかでガソリンタンクが爆発していた。炎の光はこった農場と、長いオールの舟が岸にひきあげてあるのが見えたそ たえがたいほどに生き生きとかがやいていた。下植をわけて二人のうだ」 学生がいそぐ足音はしだいにかすかになってゆき、そして途絶え 「ヴァイキングだ。北欧人の世界だ」ミ / ット教授が満足げに言っ こ 0 長い時間がたったーー待ちきれないほどであった。それから、茂「彼はそこに着陸はしなかった。下流のほうにむかい湾の縁にそっ みの枝が折れる音がひじように遠くからまた聞こえはじめた。ガソて飛んだ。・ハルティモアをさがしたが、それもなかった。彼は一度 リンの炎は弱まり、そしてそのあたりも暗くなった。人影がゆっく都市を見たようにおもったが、ちょうどそのときに気分が悪くな りともどってきた。とても重いものをかついでいる様子だった。キり、 気分がもとにもどったときには、その都市も消えていたのだ。 ャンプファイアの光がとどかないところで足音は立ちどまり、それもう一度機首を北にとり、ガソリンが底をつきかけたときに・ほくた ちの焚火の火を見たのだ。不時着をこころみた。照明弾はもってな から・フレークとハンターが、二人だけで姿を見せた。 「。ハイロットは死にました」そっけなく、・フレークが言った。「さかったそうだ。そして地面に衝突しーー死んだというわけだ」 いわいなことに、彼はガソリンタンクが爆発するまえに飛行機をぬ「かわいそうに」メイダが身をふるわせて言った。 けだすことはできたのですが、二分ばかり意識をとりもどし、そし「問題は」・フレークが言った。「今日の四時半ごろには、・ほくたち てーーそこで死にました。何時間も飛んだあいだで、人間が存在すがいまいる時の道筋にワシントン市が存在したということです。ぼ るしるしを見たのは、・ほくたちの焚火がはじめてだったそうです。 くたちには、かすかなものではあるにせよ、元の世界にかえれるチ 遺体はそこにはこんであります。朝になったら埋葬します」 ャンスがあるのです ! 時のあいだで震動している地域の端に行 誰も何も言わなかった。ミノットは焚火にもどったがそのしかめき、つまりミノット先生が『時の断層』とよぶところに行って、待 面は、なおはげしくなり荒々しさを増した。 っていなければならないでしよう。移動がおこったら、できるかぎ 「彼はーー彼は何を言ったの ? 」メイダ・ヘインズがたずねた。 りすばやくその向こうの世界を探検しなければならない。元の世界 「今日の午後五時にワシントンを発ったそうだ」・フレークが手短かそのものへかえる見込みは多分あまりないでしようが、いまいると に言った。「・ほくたちの元の世界が、あるいは似たような時の道筋ころにくらべればよほど元の世界に似た世界にいけるでしよう。ミ こ 0

2. SFマガジン 1975年12月号

と 0 宇宙船 ( 期松山市住吉一一・九、九越智誠 ) ~ かれの投書を読んで、はっきりいうと困ってし 8 7 まったのです。つまり、かれは私の文章をわざわ クリスマス 6 ざ引用して、私が言ったつもりもない意味にと マンガ・カーニバルのお知らせ り、あまっさえ「誤り」というふうに決めつけて いる。これが悪意の歪曲ならば、私としてもエリ 十一月三十日午前十時 ~ 午後四時 スンそこのけといった態で怒鳴り散らすのです 労音会館 ( 東京・水道橋 ) が、どうも誤解であるように私にはおもわれま 参加費用日五〇〇円 す。勿論、「マニア」という誤解を招きやすい言 題宇宙戦艦ヤマト展、少女マンガ・イラスト 展、幻の大パロデイ「サイボーグ 009 ( 葉を用いた私もわるかったわけですけれども。 マニアがかれのいうような存在であれば、私も ンマルク ) 」、アーサー・ラッカムのカラーの かれと全く同意見です。というよりも、そういう 世界、その他アニメなどもりだくさん。 連中が仮りに存在するとしても、私はかれらを・ハ 力とおもうだけで決してマニアなんそとはおもわ ■案内書は一一〇円切手同封の上左記まで。 ないでしよう。私がマニアという言葉に託したイ ー 6 田中泰彦方 川中野区弥生町 4 ー メージは、実はに能動的にかかわってゆく姿 クリスマス実行委 勢にほかなりません。といって、私はなにも小説 を書けのファンジンを出せのというつもりは毛頭 本当に現代、忙しすぎると思いますね。私は学ありませんし、ましてやに関する「知識」を 生ですが、なんだか明日へ明日へと追われてしま蓄積せよなどというわけではさらさらないのです っております。私が思うには科学にしろ何にしろ ( 第一、を理解するうえでそんな「知識」な 現代はちょうどスランプのようになっているのでど役立つはずがないではありませんか ) 。それは、 はないでしようか ? この先は外へ目を向けるこなによりもまず読者として自らの「」を築い とより内を見るべきではないでしようか。というていくための姿勢なのです。あるいは、自己と との接点を見極める行為といっていいかもしれ と論みたいだけど。 この先々、こういう小説ふえるかもしれませんません。実際、確固とした姿勢でを見極めて ・ね。がんば 0 て、みんながア , 驚くような小説書いないひとがについて発言しても、それはそ しいながらを読みつづけているひとはあま いてくれや、期待しとるでえ。 ( この方言がおものひとにとってもにとってもなんにもならと、 ぬ、また第三者の胸にもひびかぬ空虚な言葉に終りに多いのです。がわるいのでは決してな しろいのだなあ : : : ) 自ら視野を狭めて受動的にとかかわっ です。連載ず 0 と続くようにと祈 0 たば 0 かりだ「面白」からを読む」と」う姿勢がわるいわた、そ 0 姿勢が問題な 0 です。これはの不幸・ ったのに。真鍋さんのも残念だった。でも先々けではありませんが、そういうふうに明快に開きではないので、あくまで読者個人の不幸なので おもしろそうな企画もありそうです。期待してい直った上であぐらをかいていると、「面白さ」はす。 たちまちマンネリとおもえてきて、書架の書こういうことを、私は「高踏な立場」から発言 ます。 ( 八王子市大楽寺町四七四関陽子 ) はかっての面白さの茶いろ「ぼいしみと化してししているわけではありません。すべて自戒を含め まうものです。事実、そういう経過をたどってた言葉のつもりです。 もっともこの文章、柄にもなくお説教じみてい 本欄、先月号の岸本氏の投書についてひとこを軽蔑するに至ったり、面白くない面白くない 刀ヵ

3. SFマガジン 1975年12月号

した。早く死んでくれ、死んで俺達を助けてくれ。あなた方は、特げようともしなかった。視点の定まらぬ眼で、前を見つめているだ 別防衛選良隊なのだろう。名誉ある特防選士なのだろう。ならば、 けだった。 いまこそその責任を果してくれ。俺達を救うために、ニッコリ笑っ「終り」 て立ってくれ : ・ 中佐はそう言い、自ら敬礼をして、部屋を出て行った。 そして、その声が日に日にひろがり、大きく高まった四月の下その夜、出撃要を出した班ごとに、壮行会が行なわれた。将校 旬、特防選士達は所定の訓練課程を終了し、全員特防少尉に任じら集会所の一室に、影山達は集まった。十畳の和室、その上座に二人 れたのだった。と同時に第一次出撃が計画され、五月初頭に出航のが坐らされ、左に研修隊司令、右に稲垣中佐が坐っている。酒が並 食料輸送船団に乗り組みと決まった。隻数五十隻、特防選士百人。び、各人の前には膳が用意されていた。それ以外に、出撃の二人に かって伊東が立てた原案通りだった。その内訳は航空特防七十、魚は、大きな鯛もついていた。 雷特防三十である。 「私から一言、申し上げる」 一万人抽出のときと同様、第一次出撃要員の抽出が、コンビュー 司令が立ちあがった ターを使って行なわれた。一万人中百人、百分の一の確率である。 「祖国存亡の危機に際し、本日、特防選士第一次出撃命令が発せら その結果は、即刻、全国に散らばった特設研修隊に通知された。 れた。全隊から百人、鹿屋からはそのうち十三人。そして、この班 「特防少尉 x x 、出撃されたし」 からは二名がその任にあたることになった。めでたい門出、とは私 影山がいる鹿屋にも、十三通の命令書が届けられた。そして、彼は言わない。そんな口先だけの無意味な言葉は、二人に対して、ま の班では二名、その該当者が出た。二十一歳の大学生と、伊東瑞穂た他の諸君に対して、不遜であると思うからである。では、これは である。 不幸な門出なのか。 「技術面での心配はまったくない」 いや、決してそうでもない。何となれば」 命令書を読みあげてから、稲垣中佐は二人に言った。 司令の挨拶は、くだくだといつまでもつづいた。皆、黙って聞い 「必ず成功する。俺はそう信じている。落ちついてやってくれ」 ていたが、結局彼が荷を言おうとしているのかは、どうにもっかみ にくかった。 「 : : : しかし、現在の状況は決して楽観を許さず、まさに祖国存亡 二人は無言のまま立っていた。大学生はいまにも泣き叫びそうにの危機というべき」 「もういいよ ! 」 顔をゆがめ、伊東は蒼白の顔をひきつらせている。 「今夜、壮行会を行なう。以上」 突然、大学生が金切声をあげた。 中佐はそう言い、二人の敬礼を待った。しかし、どちらも手をあ「 : 4 4

4. SFマガジン 1975年12月号

リーズとして刊行された元々社の〈最新科春のさまざまな思い出と、分ち難く結びつ いていた いうなれば、荒さんは、その 学小説全集〉にも率先して興味をしめし、 当時の論壇における輝かしい旗手であった その意義を認めていた一人でもあった。 また、荒さんは、戦争直後に青春期を送と同時に、ぼくらにとっては、華やかなス 荒正人氏は、当時、影響力を持っ文壇人 った・ほくたちの多くにとって、一人の文芸ターでもあった : の中で、に好意的だった、数すくない そしてその思い出は、一九六〇年代にな 評論家という以上の、特別な存在でもあっ 人の一人であった。たいていが、を、 っても、ばくらに荒さんを、一種独得な存 、というだけで軽蔑し、一顧だに与えな いという風潮の中で、科学・技術が啓く新その頃、最後の旧制高校や旧制大学予科在として意識する習慣を残していた。 しい時代に、当然一つの役割りを果す文学の生徒だった・ほくやぼくの仲間たちは、花しかし、それだけにいっそう、荒さんの ジャンルになりうるものとして、その可能田清輝や、埴谷雄高などとともに、荒さんに対する考え方に、ぼくらは、より敏 ・性を進んで認めていた、初期の界にとの尖鋭な評論の数々をむさ・ほり読んだもの感に反応した。荒さんの理解には、限 〈って希有な〈味方〉の一人であった。荒さだった。若いぼくらの議論は、しばしば荒界があると感じていた。当時のぼくらから 一んはこれより先、一九五六 ~ 五七年に、わさんの評論のあれこれをめぐって闘わされみると、荒さんのについての知識は、 たし、なかでも彼の戦後論は、ぼくらの青かなり現象的なものだったし、それを、文 ~ が国最初のシステマティックな海外シ にスの当 未踏の時代 ー一回想の S F マ . ガ、ジン ' 63 福島正実 ゃー 。 V . ン

5. SFマガジン 1975年12月号

かじっさいは彼女の注目を引きつけることすらできないでいるのだ たかのようにおよぎまわったのである。 っこ 0 だが明らかに、のちにおこる出来事をそれほど明白に予言してい ミノット教授については、もっとくわしく説明しなければならな た数々の事件の真の意味を当時把握していたのは、世界中でミ / ッ 。何がおこるかを明確に予言し、しかもそれに対応した準備をと ト教授一人だけであった。ミ / ット教授は、ヴァーモント州フレド リクス・ ( ーグの戸ビンンン大学数学教授であった。のちに世界中とのえていたのは、世界中でミノット教授ただ一人だけだったから を、それも我々の知っている世界だけではないすべての世界を驚愕である。 させたあの出来事のほとんどすべてを、教授が事前に予知していた いまにのこされている彼のノートによれば、教授は、四対一の確 ことは、現在明らかである。けれど当時は、教授は自分の知識を公率であのような災厄がおこるはすだと考えていた。そこにいたる彼 開しなかった。 の計算の過程がのこされていないのは、じつに残念なことだ。いま ロビンソン大学は、小規模な単科大学である。「ーカル線大学」となってみても、我々は事件のすべてを完全には理解していないの などと馬鹿にされることさえあったが、それを聞いて怒る者もわずである。教授のノートはじつに貴重なものだが、それは断片的にし かに、大学自体と、神経過敏なささやかな同窓会があるだけであっ かのこされていない。教授がいまも健在で、どこかで多分大きな仕 た。たとえミノット教授が自分の理論を公表しようとしても、ロビ事をしているのもまず確実なことだが、どことも我々にはわからな の大部分を持 ンソン大学数学教授の肩書き以外に何ももたない彼の話など、ニュ いその場所に、もっとも重要な部分までふくな / ート ースになるはずもなかった。気がくるったと思われるくらいが落ちちさってしまったにちがいない。気にもとめずに書きちらした / ー だっただろう。そればかりでなく、もしその理論を信じた者がいた トの断片を、いまや、現代世界の最優秀な学者たちが夢中で検討 としたら、その者は恐慌をおこしてしまったにちがいない。そんなし、討論しあっていることを知ったなら、教授はきっと愉快に思うに わけで教授は、自分の理論を一人胸におさめていたのである。 ちがいない。また、やっとぬけだしたばかりのあの破局について、 ミノット教授が持っているものといえば、勇気と冷厳な心だった教授はナでに、その全体を見とおす名称を命名していたかもしれな 。事件を呼ぶ名称すら、我々はまだ決められずにいるのである。 が、富や世間にたいする影響力はまったく欠けていた。また、数理 物理学の知識は相当なもので、とくに可能性の法則に関して計算を 地球の減亡どころか、太陽系全体の破減、銀河系全体、我々の知 おこなえばその能力は遺憾なく発揮されたが、逆に倫理上の問題とっているかぎりの全宇宙の破減、いや、現在と未来のすべての時間 なると、つゆほどの忍耐力も持ちあわせていないのだった。もう一を破減させ、過去の歴史をも無に帰してしまう大災厄、それどころ つ、大学のロマンス語教授の娘である女子学生メイダ・ヘインズに か、今回はじめて我々が知った見知らぬ世界、多くの宇宙、多くの 強く魅かれていることがはた目にも明らかだったが、これもまた、過去、多くの未来ーーいまやそれらはふたたび・ヘールにとざされ、 7 若い男子学生たちとはりあうだけの力は持ちあわせす、それどころ接触はまったく断たれたのだがーーそれらすべての世界を減亡のふ

6. SFマガジン 1975年12月号

に許されているのだ。そしてただちに社会機能を回復させるために 強力に武装させられるのだ。しかし、その僭越な行為の代償とし トー第 全籍いらイスロンには 房 て、粗暴な死の触手の脅威にさらされるのだ。 ョ様ち 一、書てか′、、 シ皆た書 ラいぶし」ス学 ス占 優しく、しかし決然とクルランはミュータルの手をふりほどくと へ虫セさ呼占ズ ' 文テクを私ま 立ち上がった。その瞬間、フジッポの恐るべきむら気と冷酷で専横 スく題ョン 、、、、フのうお早 なことを忘れて、彼の目は社会への献身の念に燃え立った。一太陽 ~ ん話トで、ンルよて ャけ続 期前にひとりのフジッポが狂気におち入 0 たことがあ 0 た。そし乍ねカごれがのデ」ン て、食糧収穫者のひとりが標識により召喚され深海でのすさまじい 題っ刈目当 1 ンリスるたカ アてて第レ一サ、ゆい努 恐怖にさらされたのである。 べ。のト・スらみの 話をのト 月ス界すす位スインあ読 その任務は、実験室労働者、貝殻の番人、倉庫番人、食糧収穫者 行ーリ バ , 等豬 世はま 6 ・ に順送りにされているのだが、いまは食糧収穫者の番に当たってお 界一フ り、しかも一万人の下僕の中からクルランに白羽の矢が立ったので 世セ ある。小さなフジッポ社会の女帝に選ばれた清め人としての彼は、 深海の御殿に君臨して大陸沿岸を支配する二万のそびえたつ者より 00 物 0 0 0 ー 0 も、その許された瞬間においては、より強力で全知の存在となるの tn であった。 ミュータルはヒステリックな恐慌におそわれて叫びを上げると、 トンネルの入口に向かう彼のすそをつかんだ。気を強く持ってそっ と身をふりほどくと、彼女の額に鼻を押しつけ通廊へと出ていっ 6 - & 例 1 彼は突き出た鐘乳石をひらりと巧みに身をかわしてさけながら急 ぎに急いだ。彼が崖つぶちの開口部に近づくと、かん高いほえ声が 耳に入って来た。進んでゆくにつれどんどん大きくなってゆく。あ こ 0 7

7. SFマガジン 1975年12月号

「でもねえ : : : 調査局みたいな特別な組織に長くいた人がこの地球女は勢いよく口ッカーのとびらをしめた。かの女の食料はその音 とともに完全にかれとは無縁の状態になった。 連邦の、しかも市の一般市民になれるかしら ? 」 「なれるさ ! 調査局にいたといったっておれなんか資料部の奥の「戦争で物資が不足したって言うけれども、べつに戦争してくれつ てたのんだおぼえはないわよ。地下都市では健康管理がむずかしい そのまた奥の穴ぐらにいたんだ。こことたいして変りねえよ」 かれはみすぼらしい女の居室をながめまわしてからしま 0 たと思って言うけれども、そんなこときまっているわよ。じゃなぜこんな 地下で生活しなければならないようなことをしでかしたのよ ? 人 った。しかし女は少しも気にしたようすはなかった。 間というのは地上で暮すようにできているはずよ。土の中で暮して 「でも食料から衣類からちがうし、配給される量までそれはみじめ いるモグラという動物がいるんですってね」 なものよ。調査局などにくらべたら。ここは」 女はテー・フルに両手をついて体重をあずけ、シンヤを見すえた。 「そんなこと、かまわん」 「そんなこと、おれに言ったって : ・ : ・」 「それに自由も無いわ」 「しかたがない、と言うんでしよう。それもお役人のみんなが言う 「自由 ? 」 「かってに他の居住区へ出かけて行くこともできないし、いつでもことよ。さあ、わかったら出て行って。もう二度と来ないでくださ 居生局や保安部に見張られているようだし、地上には出られない 「まってくれ ! 」 し、食事も睡眠もきめられた時間できめされた量しかとれないし・ : 女は音もなく移動してドアを開いた。 ・ : あなたにがまんできるかしら」 「この前は親切にしてくれたじゃないか」 女はたれさがった髪を指でかき上げた。 「そうだったわね。でもあれはあなたが調査局の職員だったから、 ・ : どこだって同じことさ。戦争で物資が不足しているか 「それは : らな。それに食事や睡眠の時間がきま 0 ているのも、このような地私の夫の帰還を早くしてもらえるように計 0 てもらえるかもしれな いと思ったからよ。でも今のあなたは調査局の職員ではないわ。私 下都市では健康管理がいちばん大事だからさ」 女はくちびるの端をゆがめた。終りまで聞こうとせずにテー・フルにとっては何の役にもたたない不愉快な存在であるだけ。さよな ら」 の前へもどって行った。 「私が言っているのは、あなたがここの生活にたえられるかどう女は、早く出て行け、とあごで回廊を指した。 「いや。それなら大丈夫だ。おれは調査局をやめてもおれのなかま か、ということなのよ。あんた、調査局を脱け出してきたなんて言 ったって結局、らしいことしか言えないんじゃない。民生局の連中が運動してくれる。かならずおまえの夫の早期帰還を実現させてや る。おれ、自信があるんだ」 も保安部の連中もみんな同じごとしか言えないのね」 「いいから。もう」 「同じこと ? 」 シティ 225

8. SFマガジン 1975年12月号

者の持っとんでもない思い違いについて エンティフィックでなくなり、したがっ って、サイエンティフィックな小説など も指摘しておかなければならないでしょ て、価値が減少したということになる。 という妙チキリンなものは存在しないの う。彼らは、自分のが〈科学的〉だ だから、もしサイエンティフィックであ です。 から、科学者たちはみな味方だと思って ることがの必須条件であるとするな もちろん、科学的なアクチュアリティ いるかもしれない。しかし、一度、科学 ら、は、時代とともに、片端からそ を必要とするはあります。たとえば たいてい 者たちに聞いてみるといい 近い将来に月につくられるだろう宇宙基の価値を失っていくことになるのです。 の場合、科学者たちは、における科 また、その場合〈科学性〉ということ 地をめぐる物語であるとか、火星探検を 学が厳密にいって〈非科学的〉であると 自体についても、あらためて考えなおし 主題とするはそれにあたるでしょ 思っている。味方どころか、たいていは てみなければならないはずです。・ O う。そういった小説は、細部にいたるま 傍観者である以上に敵なのです。 ・クラークはその『未来のプロフィル』 で事実に近く、つまり、科学的に構成さ 繰り返していいます。は、科学を の中で、著名な天文学者や物理学者やロ れていなければなりますまい。しかし、 意識した心で思索し空想する小説です。 それとこれとは別問題です。は、すケット工学者が、嘗て、飛行機やロケッ アメリカのある作家は、を定義し トや恒星天文学の〈非科学性〉を、いか べてが、そういった、リアリスティック に〈科学的〉に証明してみせたかを、雄弁て、面白いことをいっています。彼は な宇宙小説である必要はないのです。 に語ってくれています。つまり、何が科を Whatif ~ の小説だというので 話は少しとびますが、サイエンティフ 学的であるかを決めることは、必すしもす。つまり、「もし何々が何々であった ィックであることをあまり強調しすぎる ならばその結果はどうなるか ? 」という それほどやさしいことではないのです。 と、必然的に、ひどくおかしなことにな それに関連して、科学的至上主義ことを考える小説だというのです。いい る、ということも、考えておかなければ かえればは仮説の文学、スベキュレ ならないでしよう。なぜなら、サイエン ーションの小説だということです。 イフィックなアクチュアリティを、い だとすれば、は、必ずしも、現代 かに厳密に演出しようとも、それが 氏になってはじめて現われたものともいえ である限りにおいて、類推の部分がなけ 司 なくなります。伝統的な幻想文字も、怪 ればならず、したがって、時代とともに 喬奇文学も、十八世紀のゴシックロマン 進歩する科学・技術によって、その類推 も、すべてその系譜の中に入るはずです。 の間違いが実証されてしまう場合がある からです。つまりサイエンティフィック を 0 ~ 、「 ) 石は、そうした、未知 0 も 0 を求める 人間精神の生んだすべてのイマジナティ 5 なの価値は、つねに相対的だという ヴ・フィクションにつながるものです。 0 ことになります。・ヘルヌもウエルズも、 それが、科学の曙光をあびることによっ その意味では、書かれた当時よりもサイ

9. SFマガジン 1975年12月号

だします。そして、先生が、その人々来たーー今までとはまったく違った新し です。 に、敢然と反撃されていたのを見て い時代が来たことを、ムードとして、一 8 では、科学と ( サイエンス・フィ 2 般の人々に感じさせはしました。そして クション ) とは、どんなつながりを持っ科学が、人間の問題に、重大なかかわり はしばしば、そうした未来について を持ちつつあるのだと主張されているの ているのか。 科学は、われわれが生きているこの現を見て、わがことのように快哉を叫んだ書いている。だから、と未来とは関 係がある。あえていえば、ただそれだけ 代を、認識するための必要不可欠な手段ものでした。 のことだと思うのです。 しかし、同時に私は、についての です。しかし、以外の文学ジャンル が流行しはじめていることには、 にあっては、科学は、個々の人間関係先生の意見が、科学偏重の傾きを見せて 行くことに、危惧の念をお・ほえないわけもっと別の、もっと本質的な理由がある に、本質的にはかかわりあわないものと はずです。科学・技術が世にひろまって ~ して捉えられます。つまり科学は、下手にはいきませんでした。しかも、スプー トニクがあがったから、宇宙時代が来た きたから、科学的な教養をたかめなけれ なアナロジーで恐縮ですがーー生物にと ばならないなどという、そんな理由では からが流行するのだという、あまり っての空気のようなものとして存在して に素朴な常識主義ーーー電気冷蔵庫が普及なく、もっと文学的な理由があるはずな いる。人間が生きているのは空気がある のです。 し、電気洗濯機が一般化したからが からだが、空気があるのは当りまえで、 誤解しないでください。 読まれるのだという、あまりにもっとも それが人間の内的関係にかかわることは 私は、科学ととが無関係だなどと ない、というふうにです。 らしい常識主義が、すでに世間では受け いっているわけではありません。そうい 入れられつつありました。 ところが、の場合には、科学が、 しかし、 v-k の流行は、洗濯機や冷蔵うことによって、の名を冠して、 つねに現実認識の手段として意識されて 庫や掃除機とは いや、誤解を恐れず「とは似て非なる宇宙西部劇なども、 いなければならないのです。 「寛大」に容認しようと謀んでいるわけ にあえていえば、スプートニクとすら、 かって、スプートニク一号がはじめて でもありません。 直接の関係はありません。 軌道に乗ったとき、また、・、 ホストーク一 は科学を意識した小説だと私はい 冷蔵庫や洗濯機は、機械の便利さを通 ) 号が人類初の宇宙飛行士ガガーリンを乗 いました。そのためには、あるいは宇宙 じて未来における生活の快適さをかいま せて大気圏外を飛翔したとき、わが国の 文化人と称する人々のかなりが、それで見せてはくれます。家内労働を減らし物理学の、あるいは生物学の、あるいは 相対性理論の、また不確定性異論の知識 て、時間とエネルギーを節約し、科学・ 人間の問題がどう解決するというのか、 も必要でしよう。 科学は人間内奥の問題には、なんのかか技術の有難さを教えてはくれます。そし しかし、だからといって、がすべ て、スプートニクやポストークは、、 わりも持たないのだと、軽蔑もあらわに てサイエンティフィックでなければなら 。しまだに、な しいはなったのを、私よ、、 まで痴人の夢とバカにされていたロケッ ーオしは小説であ ないという道理よよ、。 トや宇宙飛行が現実のものとなる時代が まなましいまでの苦々しさをもって思い

10. SFマガジン 1975年12月号

いということだったのだ。彼らのまきおこした破壊、彼らが殺した能的に、八頭の馬すべてがそちらに騎首をむけた。 死者は、みな三匹の不器用さとおろかさのみに原因があったのであ「気をつけよう」・フレ】クが静かに言った。「また中国人じゃあな る。 いだろうか」 明りは、たつぶり一マイルは先だった。八人は注意深く、耕地に そって馬をすすめた。 とっぜん、ルーシー・・フレアの馬のひづめが石にあたって音をた 先頭の馬は恐怖にもがいていた。かかとの上までやわらかいふわてた。その音はおそろしく大きくひびいた。彼女の馬につづき、他 ミノットがまた明りを下に向けた。六 ーサ・ケタの馬も大きな声でさわいだ。 ふわしたものにうまっていた。馬の揺れ方がかわり、 フィートから八フィートほどの幅の道路に切り石が敷かれていた。 リングは恐怖に叫び声をあげた。 暗闇から、・フレークがてきばきとした声で言った。「地面が耕作馬のなかの一頭がおびえて鼻をならした。馬はゆれるようにうごい たが、まるで道の上の物体をよけているようにすすんだ。細い路面 されているようです。明りをまたつけたほうがいいでしよう、ミ ノット先生」背後の空が白んでいた。山火事はまだ彼らを追っていをミノットはフラッシライトの光線で照らした。 「このような道路をつくった種族は」平静な声で言った。「ローマ た。いまや、数マイルの前方にも火花が散り、火炎をあげ、自らの 人だけだ。これに似たものを軍用道路としてつくったのだ。だがロ 煙雲を照らしてはげしい赤い光をはなっていた。 ーマ人は、わたしたちの元の世界では、アメリカを発見はしなかっ フラッシュライトが地面を照らした。地面はたがやされていた。 人の手によってやわらかくされていた。ミノットは明りをつけたまた。フラッシュライトが路上の何か暗い物をかすめた。光線はもど り、そこに固定された。女子学生が一人、おさえたような悲鳴をも ま、感謝するように小さな吐息をもらした。 それから皮肉な口調で言った。「この作物が何だかわかるか。レらした。光はいくつかの人間のからだを照らしていた。一人は絵に ンズ豆だ。ヴァージニア州にレンズ豆が植えられることがあるだろある古代ローマの兵士が身につけたような楯と剣をもちへルメット うか。ありえないことではない。どんな人びとなのか見にいこう」をかぶった男だった。死んでいた。頭の半分が吹きとばされてい た。その上に、奇妙な灰色の軍服を着た男がおり重なっていた。剣 畝にそってすすみはじめた。 で刺されて死んでいた。ライトはそのあたりを照らしまわした。死 トム・ハンターがあわれつぼく言った。 「もしこれが畑で、たがやされているのだとしたら、こんなに浅い体はもっとあった。その多くはローマ人風だった。四、五人の男 畝は見たことがない。一頭の馬で引くすきだって、これよりはもつは、南部諸州連合の兵士が着ているような軍服に極似した服装をし ていたーー南部連合の軍隊がまだ存在するとしてだが。 と深くほるもの」 遠くかすかに明りが見えた。全員が同時にそれをみとめてた。本「戦闘があったわけです」プレークが落着いた声で言った。「南部 5 8