まりにも無気味な声だ。そして彼は先を急ぐあまり、すべすべする クルランの肩に手を触れる者があった。彼は思わずぎよっとして 足元の石にすべってころびかけた。心臓は激しく打ち、息は切れそ振り返った。だがすぐにその緊張はほぐれていった。 うであった。 「クルラン、すぐ、わたしといっしょに来るんだ」小人の実験室労 近くのドーム型の貝殻に恐ろしい速さでいそぐ彼は、もはや崖っ働者が言った。ドームの上で彼は震えながら崖の方へ身を屈し、せ ぶちの波にもてあそばれる一小泳者ではなかった。彼はドームの頂つばつまった調子で懇願した。 ひとことも言わずに、クルランは彼についていった。二人は実験 上に立っと、足もとできらめく広大な水の広がりを見おろした。い 室へと通ずる入口をはいり、鐘乳石の低くたれた長い通廊を素速く までは、太陽はかなりしずみ、波は彼の血をたぎらせた。 数羽のかもめが、静かな波間をかすめ飛び鳴き声を上げた。気をぬけていった。突然通廊は広くなった。丸い天井が五百フィ 落ち着かせるために彼は紫がかった蒼穹を見あげた。いきなり見上空では湿気で見えないほど巨大な洞窟へと入ったのであった。 案内人に続いて入った巨室に、クルランは畏怖の念を覚え、信じ げたため彼は目まいに襲われた。奇怪な苦悩が同時に襲ってきた。 ; たい奇跡の産物の間を抜けていった。ーーー照明のついたダイアル ナイフで全身の神経を逆なでされるような気分だった。 彼の直下では、巨大殻の波に洗われた部分の海面は、彼の仲間ののある高さ百フィートの金属性の大なべ、そして薄明かりのなかで 死体で黒かった。何千もの小人の男女が海流に流されてただよって光り輝く水晶の円盤がゆっくりと回転している。半透明の栽培塔の いた。狂気にかられた巨大フジッポは、多くの幸福な泳者をその荒なかで多くの胞子が多彩な色で成長している。そのまぶしい色合い が、彼の感覚をゆさぶり、病的な環境が、彼の目をくらませ、頭を れ狂う怒りの魔手にかけたのだ。 このま下にあるフジッポこそ狂気におちいった女帝だった。殻のしびれさせた。胸のわるくなるような層をなす巨大なきのこの管は 頂上に開いた長い割れ目を通して、彼は馬鹿でかい、気分の悪くな内部に青い光りを浴びて蟻族の有害植物よりなおいっそう毒性の高 いものだった。数知れぬ装置や貯蔵物、隠微に成長を技術的に歪曲 るような巨体が不自然な動きをしているのをこっそりと見やった。 そして、見つめているうちにも、ほえ声が彼の恐怖を誘った。それされた巨大な植物、高い崖の内奥に千年がかりの実験の蓄積が集め は、耳を聾するばかりに高まったと思うと、また小さくなり繰り返られているのだった。 した。そして咆哮が弱まったところで身の毛もよだっ泣きわめく声クルランは、じようごをさかさにした形の、薄い見事な透明体が が内部から聞こえ、そしてクルランはずたずたに傷ついた泳者たち四角の台でかさ上げされた基部へとスラについてやって来た。えた いの知れない光を浴びてらせん状に上方へ登っているそれは、上の の体が深い穀の中を流れ無情に内部へ吸いこまれていくのを見た。 8
かり隕石がおちたことから考えて、あの街にも時折、隕石がおっこへ数歩ふみこんだ。通廊は巨大なホールへと続いていた。頭上高く ちているに相違ない」 には、小さな割れ目があり、そこから青白い陽光がさしこんでいた けど、そんな光では、このホールを明るくすることなどできっこな 「七つだよ」隊長が訂正した。「きみたちが出かけているすきに、 かった。ここの壁がどんな風になっているのかもよく見きわめられ 新たに三つおっこちた」 ないほどなのだ。でも、巨大だってことはわかった。・ほくはリロイ 「とにかく、流星による被害はたいしたことはないにちがいない。 に何かしゃべったが、たちまちまわりの闇の中から、何億というこ 大きなものは、地球同様ここでも珍しいんだろう。あの建物群は、 だまが返ってきたのだった。こだまがおさまると、・ほくらは別の物 小さな隕石の被害をだいぶうけていた。都市の年齢についてのぼく の推測ーー・間違っている可能性はきわめて大きいけれどーーそれに音を耳にした。ずるずるとひきずるような音、そしてささやき声ー ーおしころした息のような音だった。そして、黒っぽいものが音も よれば、一万五千年といったところだ。地球のいかなる文明よりも なく、光をよけて、・ほくらの間をすりぬけた。 数千年は古い。一万五千年前、地球では新石器時代だった。 ぼくらは、左手の闇のなかに輝く三つの点をみとめた。ぼくらは ・ほくとリロイは。ヒグミイになった気分で、巨大な建物に近づいて いった。畏怖におそわれ、ささやき声でしゃべった。死に絶えた通じっと立ちつくして、それを見つめた。突然、三つが同時に動い ス・ソ / ・デュー た。リロイが叫んだ。『あれは眼だ ! 』そうだった。それは眼だっ りを進み、影の中を歩くたびに、ぼくらの身体は震えた。それは、 影の中が寒いためばかりではなかった。侵略者になったような気分た。 一瞬、ぼくらは凍りついたようになった。リロイの声は壁と壁の だった。百五十世紀の昔から、この建物を造った偉大な種が・ほく らの侵入を怒っているように思えたんだ。そこは、墓場のように静間を何度もいったりきたりした。こだまが、・かすれた声で、眼とい う言葉を繰り返した。もぐもぐいう声、ささやき、つぶやき、そし かだった。でも、・ほくらの想像力は活発に働き、なにかいるのでは ないかと、ビルの谷間の薄暗い道をのそきこんだり、肩ごしにうしてふくみ笑いのような声がした。三ッ眼は再び動いた。ばくらはド アへと突進した。 ろを見たりし続けたものだった。ビルの大部分には窓がなかった。 太陽の下へでるとホッとした。ぼくらはおどおどと互いの顔を見 しかし、その大きな壁に入口が開いているのにぼくらは気づいた。 つめあった。二人とも、もう一度なかへ入ってみようとは言わなか 眼をそらすことはできなかった。なにか恐怖に満ちたものが、そこ ったーーあとで、もう一度あそこを見ることになるんだが、それは から外をのぞいているのではないかと思った。 ーの安全装置をはずし、這うよ つあとで話すよ。・ほくらはリヴォル・、 やがて・ほくらはアーチのひらいた大きな建物のそばを通りかか うにして、淋しい通りを進んでいった。 た。ドアは開いたまま砂に邪魔されてしまらなくなっていた。・ほく はビクビクしながら、なかをのそいたが、その時になって、カメラ道はカープし、ねじれ、枝分れしていた。この巨大な迷路の中で のフラッシを忘れたことに気づいたんだ。でも、ばくらは闇の中迷子になりたくなかったので、方角にはずっと注意を払っていた。
乱をゆるすことはできないから、異議のある者は、全員射殺する」断ち切られたのである。巨大な密林が魔法のように出現し、国道の 「でもーーー先生」びくびくしながら、・フレークが言いはじめた。 行く手をさえぎってしまったのだった。 「女の子たちは、家に帰してやらなければならないと思いますが」 ワシントンとの電信連絡がとだえた。ワシントンにある放送局も 「家に帰ることはできない」教授が静かに言った。「きみもだし、沈黙した。森林の奇怪な樹木は、町の住民の誰一人としていままで 全員がだ。わたしが銃をつかうのをためらわないことに全員の確信に見たこともないほど丈が高かった。まるで太平洋沿岸のほうには がいったら、そこで、おこった事態の内容と、その意味を説明してえている巨大樹セコイアの写真を見ているようだったが、いずれに あげよう。この事件に対処するために、わたしは何週間も前から準してもそんなことはありえないことだった。 備をすすめてきたのだ」 一時間半後、ミノット教授は学生たちをあつめ、探検隊を組織し た。そのメイハーを選択するのに教授は、寄妙な規準をもっている 背の高い樹々が一行のまわりをとりかこんでいた。巨大な樹木。ようだった。男子学生三名に女学生四名。男子学生の一人ががたが 壮大な樹木である。空にむかって二百五十フィ ートもの高さにそそたの自動車を持っており、全員がそれに乗ることもできたのだが、 りたち、年を経て静かにたたずむその様子は、秘められた生命力の ミ / ット教授はその提案をしりそけた。 たしかな証しとなっていたが、ヴァージ = ア州フレドリクう ( ーグ「道路は森のところで行き止まりになっており、自動車ではその先 の近郊には、そんな大森林がありうるはずはなかったのである。奇までは行けない」そう言ってほほえんだ。「それより、魔法の森の 怪な大森林の下でおののく馬に乗り、数人の人間たちがそこにい なかを探検するという考え方のほうをとりたい。馬に乗っていくと た。学生たちを値ぶみするように、 ミノットは視線をはしらせた。 いうのはどうだろう。なんとか馬の手配はつけられるのだが」 男子学生三人と女子学生四人で、全員ロビンソン大学の学生であ十分とたたないうちに、八頭の馬が出現した。女子学生はスラッ る。ミノット教授のいまの立場は、学術探検をおこなう調査隊員でクスにはきかえようと姿を消した。ふたたびもどってきたときに はなく、決然と無慈悲な頭目であった。 は、馬の背には鞍ばかりでなく、サドル・ハッグの準備までできてい 一九三五年六月五日午前八時半、フレドリクう ( ーグの全住民はた。もう一度、ミノット教授がほほえんだ。 一様に、奇妙なめまいを感じた。そのめまいはすぐに過ぎさった。 「わたしたちは探検にでかけるのだ」冗談めかして言うのだった。 太陽は赤くかがやいており、日々の生活にいつもとちがうような変「それらしい恰好をしていこうというわけだ。昼食だって必要だ 化は目に見えてはあらわれなかった。だが一時間とたたないうちにし、それに植物研究室の資料として、標本の採集などもできるだろ 大騒ぎがまきおこり、ねむたげな小さな町は、興奮につつまれた。 うから」 ワシントンに通じる道路が・ーーどんな地図にもかならず記載されて 行進がはじまった。女子学生たちは心ときめかせていたし、男子 いる国道一号線が、町の北方三イル行 0 たところで、突如としては興奮し、大喜びだ 0 た。そして、前方にそびえるありえないはず
祖先たちが初期洪積世の夜明けに焚火の跡の残るさびしい丘で恐怖警告した。 におびえながら姿かたちもわからずに語った強大な神々の名を繰り 気丈に、クルランはうなずいた。彼は腕をあげると力強く躍び、 返し語ったのと同じく、彼が聞いた通りにおうむ返しにつぶやいた。優雅な曲線を描いて下方の暗い海へと飛びおりていった。 「それは、海中の全生物に破減をもたらす。それは全生命を縮め、 彼の小さな体は、海面をつらぬいて深く潜っていった。水は、も 殺すのだ」 う暖くなかった。彼が紫色の深みで体の姿勢を立て直すと何か冷た スラは彼の腕をつかむと、先にうながした。「急がねばならない」くかたいものが、彼の手足にひっかかった。一瞬、彼は水を通し 彼は懇願した。 て、苦痛をあらわにした顔の視力の働くことのない目を見た。小さ クルランはまるで気を呑まれて茫然とした衝撃を振りちぎるよう な光沢のある甲殻類が、沈んだ死体の髪に群れており、ふくれ上が に震えた。彼は通廊に出てゆくと、先を急いだ。スラは、熱心に細った死体にすご味を加えている。 い震えるような声で忠告をつぶやきながらついてきた。 不本意ながら、クルランは足を上げ、彼の踵についた切除具で不 「ひと突きしたら、深くえぐれ。柔らかい部分はさけろーー直接か気味な障害物を突いた。切除具がっき通ると死者の体はちぎれた。 さの首の部分を狙うんだ」 その瞬間恐ろしさのあまり神経が麻痺したようになったが、その死 彼らが外界に近づくにつれて気の狂ったフジッポのほえ声は大き体は切断され二つになって沈んでいった。 くなってゆく。クルランが最初に出て来た。彼は素速く傾斜した崖 クルランは、自分が致死光線やキノコ胞子よりもさらに確率の高 の岩にそって走り、巨大貝殻の丸い頂上に飛んだ。 い高度な兵器で武装していることを知り、改めて自信がわきあがっ スラも続いた。降りた瞬間二人の姿はたそがれのなかでふらつい てくる思いだった。 た。そしてクルランは彼の掌をあげるとスラの額につけて心をこめ彼はそびえたっ殻の方へとゆっくり泳いでいった。近づくにつれ たあいさつを交した。 水は明るさを増し、やがて、くぐもった水を通して貝殻の四角く深 「さよなら、スラ」彼は言った。「あんたは誠実で寛大な友人だっ い開口部を見た。はるか下の深みにゆっくりと向かう彼の小さな顔 た」 にきびしい表情がうかんだ。そして、正確な運びで、殻の内部の狂 彼は素速く彼の半透明の外衣を脱いだ。その小さな体は、傾斜の った巨大生物へと泳いでいった。 頂上で赤く光りを放った。 内部の海水は渦を巻いていた。彼が貝の割れ目を通り抜けるさ 「大胆に突き、そして襲いかかる触手をよけなさい」スラは涙声で 、上昇する海流に上にもち上げられた。それは彼が発狂したそび
ね。それはわからない。・ほくはその本がまったく被害をうけていなジの本が何十万冊と並んでいた。いくつかの本には絵もついてい いのに気づいた。その本だけじゃない。・ほくが手にしたどの本も被た。そのうちのあるものは、トウィールの種族を描いたものだ。そ 9 がんもく 害のあとは見られなかった。でもぼくは、あのマントをはおった小 れが眼目た = ーこれは、彼の種族が都市を建設し、本を印刷したこ 悪魔の秘密がわかったら、この巨大な廃市の謎や火星の文化の衰退とを示している。でも、地球最高の言語学者であっても彼らの言葉 の秘密も解けるのではないかと、思ったんだ。 を翻訳することはできないと思う。われわれの心とはずいぶんかけ さて、しばらくして怒りがおさまると、トウィールはその巨大なはなれた精神からつむぎだされた言葉だからだ。 広間をすみからすみまで見せてくれた。そこは図書館だったのだろ もちろん、トウィ 1 ルはそれを読むことができた。彼はさえずる うと思った。少なくとも、白いのたくった字の印刷された黒いペー ような声で何行かを読んだ。それから、ぼくは彼の許しをえて、何 第 5 第三お学 冫らを、しこ・
て、かすかな日の光がさしこもうとしていた。風が霧をおしもど し、蒸汽船でさけんでいる男の顔が命令を無視されて怒りが紫色に大声でさけびながら、男の子が村に駆けもどってきた。「おー なるのが見えた。 おじいさん。おじいさん。あの鳥の群れを見て」はしりながら空を 指さした。 それから、あっというまに、霧の最後の一片が吹きとばされた。 サン・フランシスコの町のたたずまいがあらわれた。だが これ男がのろのろと顔をあげ、その場にたちすくんだ。女が立ちどま り、空をみつめた。西のほうにはスペリオール湖が青くきらめき、 がサン・フランシスコの町なのだろうか。サン・フランシスコでは なかった。木造の建築物のならぶ都市、小さな都市、うすぎたない 小さな村中の男女がいつも目をむける方向である。だがいま、小さ 町がそこにあり、通りはせまくガス灯がならび、港に面したところな男の子が自分の発見を大声でふれながらはしってくると、男たち には巨大な兵舎のような建物が四つ建っていた。ノ・フ丘はあった。 はだまってそれをみつめ、女たちは驚きの声をあげ、そして大人た だがそこには一軒の家もなかった。そして ちの注意をひくものでありさえすれば何にでも本能的に興奮するこ 「ばかな」フェリー ・ホートの運転士がさけんだ。 どもたちが、はしりまわり叫び声をあげ大騒ぎをはじめた。 彼はいま、石造の四角の巨大な建築物の上に大きならせん形の溝まばらな松林の上空を、鳥の群れが飛んでくるのだった。巨大な のついたドームの乗っているものをみつめていた。いくつかの建物暗色のかたまり。何十羽、何百羽、いや何千羽という数であった。 の上には、見なれない異国の旗がそよ風にひるがえっていた。通り何百万羽という鳥の群れが、厚い暗い雲となって空をおおった。最 には人影が見えた。自動車のはしるのも見えたがそれは、大きな不初に少年が駆けてきたときには、大きな群れが二つ見えていた。家 格好なかたちをしていた。 にたどりつき、家族に見に出てきてとあえいで告げたときには、群 運転士は、馬が引いている乗物に目をとめた。三頭の馬が横一列れは六つになっていた。そしてなお、村の上空をまっすぐに掃い にならんで引いている馬車で、訓練によってか馬具で固定されてい て、かそえきれないほどの数の鳥が飛んでくるのだった。 るのか、両側の二頭の馬の頭部は外の方向にむけて曲げられてお最初の群れが上空にいたると、とっ・せん薄闇がおとずれた。はば り、まるでロシア帝国の馬車を見ているようであった。 たきの音が耳を圧した。これほど大量の鳥がなぜとたずねかわすと だが驚きはそれだけにとどまらなかった。通訳がみつかると、船き、人びとは声を高めなければならないほどだった。一つの群れが 長と運転士は、ノヴォ・シェ・フスキー港入港にさいして、全ロシア通過するごとに、昼の光と薄闇とが交互におとすれた。それそれの ュケーズ 皇帝アレクシス陛下の勅令にもとづく命令に適正な注意をはらうこ群れの大きさは、フィートでもなくャードでもなく、マイルで表現 とをおこたった科により、荒々しい口調でののしられた。そこでわするしかなかった。二マイル、三マイルにわたる幅の鳥の群れが、 かったのだが、その勅令は、アラスカから南のアメリカ沿岸におけ四マイルもの厚みで巨大な一つの集団となり、そのかたちをくずさ ずに飛んでいた。そのような集団がまた一つ。もう一つ。もう一 る全ロシア領において、厳格に施行されているのであった。 4 7
小惑星の中には、火星の軌道より内側に入り込 時間十分遅れて気付いたすい星発見のべテラン倉ところに置いたとして比べると、超新星なら太陽 敷市の本田実さんは、直ちに同天文台に電報で知の約一億倍、新星なら太陽の数万倍の明るさになんでくるものがあり、地球に接近することがあ る。これまで地球に最も近づいたのは一九三七年 らせ、これが長田君の通報より早く天文台に届いるということでわかり、ス。ヘクトルでもわかる た。同夜のうちにあい次いで国内から計五人が同新星は毎年二、三個ずつ発見され、あまり珍しのヘルメスで、地球との距離は七八万キロ、月地 天文台に発見を報告している。東京天文台はこれくないが、今度の新星は、いきなり肉眼で見分け球間の約二倍。一九三六年にはアドニスが一六〇 を米スミソニアン天文台の国際天文電報中央局にられる明るさで発見され、わかりやすい星座に現万キロ、といった具合だ。地球へ運んで来ようと いうのは、直径一〇キロ級の小さなやつで、小惑 連絡したが、同中央局によると、長田君の発見かわれた点で珍しい。さまざまな観測を総合すると、 この新星は日本時間の二十九星群のなかではごく普通のもの。地球の近くにや らまる二十四時間の 日朝から増光を始め、日本がってきたときの軌道の適当なのを選ぶと、その就 うちに世界中でなん ちょうど夜を迎えたころ肉眼道を変えて地球へひつばってくるのにそれほど大 と六十一件もの独立 で見える明るさになったらしきなエネルギーを必要としない。 発見の通報があった AJ いう・。 。日本は運がよかったので 引き船には、ス。ヘース・タグが使われる。米国 ある。それと同時に、熱心に がスペース・シャトルに次いで開発を予定してい はくちょう座新星 根気よく空を観測していたかる宇宙作業船である。何隻かのスペース・タグで、 ( ノ・ハ・シグナス 1 一 らこそ、長田君は第一発見者小惑星を巨大な網にかけて″生け捕り″にし、は 975 ) と名付けら の名誉をかちえたのである。 るばる地球まで押したり引いたりして運んでく れたこの星は、翌三 九月中旬にはついに七等と、 る。直径一〇キロの小惑星だと、鉄四億トン ( 地 十日夜には夕刻一一等、 肉眼では見えない暗さになっ球上での年間鉄消費量の一年分 ) 、ニッケル四千 真夜中一・八等と急 てしまった。 万トン ( 同一〇〇年分 ) 、白金一万五千トン ( 同 速に明るくなったた め、一時は、一六〇 一五〇年分 ) 、金八〇〇トン ( 同〇・八年分 ) の有 四年のケプラーの発 用鉱物を含んでいるとみられる。極めて価値の高 ・小惑星を ″宇宙鉱山″なのだ。 見以来実に三百七十 ″国引き″して資源に 一年ぶりの超新星発 さて、地球に運んできた小惑星は、大気圏で燃や 見ではないかと騒が 火星と木星の軌道の中間にしてしまっては何にもならないので、適当に減速 れた。しかし三十一 は、無数の小惑星群が太陽のし、巨大な。 ( ラシ、ートをたくさんつけて太平洋 周りをめぐっている。すでに 日夜には早くも減光 のど真中に着水させ、巨大な浮き袋で浮かべて南 を始めて二等、九月 発見されて登録されているだ洋の無人の環礁まで運び乗っけてしまう。これに けでも千九百個近いが、ほ、 一日二・九等、三日 カタテョコから坑道を掘って鉱物を採掘、精錬する。 中央が新星、右端は 四・七等とどんどん に未発見のもいれて四万数千このためのエネルギー源は強烈な赤道直下の太陽 個はあるとみられている。 はくぢよう座デネプ 暗くなってしまい この小惑星を捕えて地球上へひつばって来て、 結局、スペクトル分析の結果でも超新星ではなく 次第に枯渇しつつある地球 -:-; の鉱物資源の不足 普通の新星ということに落ちついた。超新星は、 鉱物資源として利用しようーーーという壮大な計画は、こうして、宇宙からの補給で、永久的に解決 星の進化の末期に、内部の核反応が不安定となり が、日本の科学者によって提案されている。さしされるというわけである。 内部から大爆発を起こして飛散、瞬間的にものすずめ″宇宙時代の国引き物語″である。 いエネルギーを放出するものだ。新星では、同理化学研究所地球化学研究室主任研究員の島誠■ 東方へはみ出る中国 様な爆発が星の表面だけで起きたものとされてい博士が、このほど宇宙開発委員会の長期ビジョン る。超新星か新星かの違いは、太陽を同じ遠さの部会に提出した構想によると、こうだ。 中国はインドとソ連の板ばさみにな 0 て横〈押 - 7
大したようだった。落着きなくあたりを見まわし、周囲のビルディ ングが自分をとじこめてでもいるように感じている様子だったが、 Ⅸ おろかにも来た道をもどって逃げようという考えはおもいっかなか った。最初の一匹がゆれ動き見まわし、逃げ道をもとめてうろっき 暗色の巨大な物体が、グレディの銅像と郵便局の建物とのあいだ の空地を、よたよたと不恰好にあるいていた。アークライトに照らまわっているところへやっと警察自動車と消防車が到着したとき、 され、その正体がはっきりするとそれは、夜にしろ昼にしろどんな遠くで誰かが悲鳴をあげた。また二匹、最初のよりは小さい動物 時間にも、ジョージア州アトランタの市街をあるきまわるはすのもが、どっしりと音をたて後を追ってきた。それらは巨大な胴体に、 のではなかった。それを見たタクシーの運転手はタイヤをきしませ不似合に小さい頭がついているのは同様だった。おろかにもなかの 一匹が消防ハシゴ車につまずいた。はしご車と怪獣とはいっしょに 急カーヴをきって逃げだした。警官もそれを目にし、真青な顔にな って警察電話をにぎりしめ、報告した。その日、あまりに多くの奇たおれ、また最初の一匹と同じような羊に似た鳴き声をあげた。 それから、どこかで馬鹿な男が銃を射ちはじめた。ほかの馬鹿が 妙な事件がおこったために彼は自分の正気をうたがいはしなかっ た。「ジャーナル」もまた各地からのあまりに多くのニュースをつそのまねをした。鋼鉄の弾丸が、ぶくぶくした肉体の山に射ちこま たえていたので、警官は即座に自分の目を信じたのだった。 れた。警察のサ・フマシンガンが恐龍を縦射した。サ・フマシンガンの ィートの長さが 胸のむかっくような巨大な爬虫類だった。八十フ ほうを射っている人びとは、冷静に事態を考えていた。だからかっ あり、そのうちすくなくとも五十フ ィートは頭と尾、残りが肉のたてインマン公団があった場所に出現した大沼沢地から来た怪獣たち るんだ胴体であった。二十五トンから三十トンくらいの重さがあっ の、全くのおろかさに気づかずにはいられなかった。弾丸はあたっ ただろうが、頭部はやっと大きな馬の頭ほどしかなかった。その小 た。怪獣たちは傷ついた。三匹の巨獣は鳴き声をあげ、とまどい、 さな頭を馬鹿みたいにゆらしていた。そいつはとまどっていた。巨不恰好な様子で逃げ道をさがした。一番大きい一匹は五階建てのビ 大な足をふみおろすと、舗道の下の水道管が破裂して水がふきだしルにのぼろうとし、そのビルをこなごなに破壊してしまった。最後 た。そんなことに気がっかなかった。あてもなくうごきまわり、かの一匹が死ぬまでにーーーというより、翌日市の清掃車にのせられる びくさいじめじめした臭気を発していた。 ときもまだその尾はけいれんし、心臓も断続的に鼓動していたのだ 警察の自動車、消防車のサイレンが空に鳴りひびいていた。救急から、その巨大な四肢を動かすのをやめるまでに、というほうが正 車がいそいでくるのが見えたが、力強い尾が・ ( ランスをとろうと動確なのだがーー・・それまでに三匹の恐龍は、アトランタ中心部のビジ くのにぶつかり、ひっくりかえって衝突した。その生き物は悲しげネス街を三・フロックにわたって完全な混乱におとしいれ、十七人の 死者をだした。だが証言によれば、三匹の恐龍はけっして人間をお な叫びをもらしたが、自分の尾がおこした悲劇には気づいていない ようだった。その声は羊の鳴き声に似ており、それを一千倍にも拡そおうとはしなかったという。彼らの唯一最大の願いは逃げだした 4 8
えたつ者の大きな冠毛のある頭部へ動くのに都合がよかった。軟柔みへと沈んでいった。揺れながらそれは海底へ沈んでいった。狂気 な肉茎のついた頭部は、めくらめつ・ほうにもがき、むちうち、百フの元凶はなくなり、もはや巨体で残っているのはゆるやかに潮にも てあそばれる空虚な冠毛部分だけだった。 ィートの幅にふくらんで荒れ狂っている。 彼は円を描きながらその巨体へとすこしずつ近づいていった。二安心と喜びがクルランの小さな体いつばいに広がった。暗がりの つの長い触手がそのかたい触鞘から昇って彼を狙って来た。彼は軽なかで、彼は大喜びであった。そして、力強い泳ぎで水面へと向か 快に動くと、それらを彼の足で打った。一本がちぎれ、深みへと落った。 ちていった。もう一本はあっという間に結び目を作ってもちこたえ彼がドーム型殻の下の水面に出ると小さな黒い影が彼にするする なん た。まるで触手の死の罠から逃れるように彼は狂ったように下方へと向かってきた。巨大な殻の頂上直下のねぐらから出た小さな男類 のフジッポが、そのつれあいの冠毛の光がゆっくり薄れてゆくのを 向かった。 彼は何度も何度も回転した。水流がふたたび彼の体を急速度で押見つめ、その狂ったほえ声が高まり低まるのを聞いていた。 それは小さな食糧収穫者のすぐ上の岩のはしからぶらさがり、彼 し上げ、一直線にフジッポの頭へと近づいた。それは、暗い海中で 百フィートの幅に広がり、冠毛のある頭上ははるか上の大貝殻に固が暗い水を切り開いて進むのをしつかりと見つめていた。退化した 着している、血のように赤いその下部の体節は海水の流れのままにもの悲しい表情がしわのよった頭のはしばしに浮かび上った。 クルラレが小さな足をもがきながら進むと細い足で彼を水から上 振れている。彼が攻撃に出ると、それはふくれあがった。一直線に 彼が飛び込んで、間髪を入れずに腕を使って彼の小さな体を平衡をげてくれた。小さな叫び声と同時に彼はしつかりしている岩だなの 保っておいて冷酷な正確さで切除具を巧みにあっかった。二度ばか上に安全に坐らせられた。クルランは自分が危険ではないのを知っ なん りクルランの踵がそれに切りつけると巨体は麻痺したように大きく た。小さな男類は彼に害意を抱いてはいなかった。 はれ上がった。 その退化し、ほとんど心の働きもおとろえた体を感謝に痙攣させ 潮の流れが止まった瞬間、小食糧収穫者は回り込んだ。するとさていた。 らに、二つの触手が昇って来て、暗い水を渦まかせた。 / ー 彼よ、二つ 岩だなの上に坐ったクルランは、喜びにゆがんだ小さな生物を見 て、意気揚々とした彼の気持もすっかり失せてしまい、逆に大きな の長鼻のような触手の間を抜け、はれた頭部へともどった。 何度も何度も彼は踵を突いた。切除具が突くたびに頭部全体が震恐柿を全身に感じた。彼は思い出した。彼は理解したのだ。無情な えた。やがて、恐ろしいことに、下部の体節が切り離されて暗い深冷酷さで ) 彼ら小さな種族の男の身にふりかかる切迫した変異の運
けないので、ちょっと心配です。 やはり、・ほくの国はきみの国とちがいすぎて、すっかり驚かして お手紙どうもありがとう。 ・ほくは読みながらなんだか、ふるえるような、感動的というか しまったんじゃないかと心配です。きみの国はどんな国ですかフ 何というか、そんな気持でいつばいになりました。 しい感じの国だといいと心から願っています。 ほんとうですかー ちょっと、そのことが心配でもあるのです。じつは、きのう図書 室で一冊の本を借りて来ました。ずいぶん古い本で、棚のうしろに きみの国では、人びとが蝶化するんですね。あの美しいチョウチ 落っこっていたのを偶然みつけたやつですし、表紙なんかも取れてョウになるのか ! 巨大なチョウチョウに ! 鱗粉が空に舞い散っ いるので、誰が書いた何という本かまったく分りません。ただ、何て陽の光がかげるようになるとか、子供たちが、ときどきアレルギ となくパラ。 ( ラとめくってみると興味ぶかかったので借りて来たわ 1 性喘息になるとか、その程度のことはいいじゃないか。蝶化する けです。 のか ! すばらしいなあー いくつかの珍らしい話が載っている本ですが、その中に〈変身〉 そして、きみの国はやはり巨大な蝶のかたちをした島なんです という短い話があります。その話の主人公はグレゴール・ザムザとね ? 行ってみたいなあ。そして、きみがどんな美しい蝶に変身す いう父親なんだけど、ある朝、部屋の中で突然、巨大な毒虫 ( きっ るのか見てみたい。そして、ばくも蝶化することが出来たら ! で とムカデか何かでしよう ) に変身している自分に気がつくわけでも、ちょっと心配なことも、・ほくにはあるんだ。 す。ここんところは、ぼくの父が鰐化した場面なんかによく似てい 昨日、教室で、はじめて・ほくは地球がどんなかたちをしているか ます。しかし、その後がずいぶんちがうんです。その毒虫化した父教わったのだ。そいつは、まるでアド・ハルーンみたいにふくらんで 親は、その後、悲惨な眼に合うんです。暗い部屋の中に閉じこめらはいるが、どう見ても鰐のかたちだった。そして先生はこういった れたまま、家族はただ、なげき悲しみ、親戚にも上役にも秘密にしのだ。 て、まるで座敷牢に閉じこめたみたいにして、そのザムザ氏を扱う 地球が鰐である以上、世界じゅうの人びとが鰐化する時代も ちかいだろう。 だけなのです。 ますます凛とした自信に満ちた調子だった。教師鰐たちは それは、な・せかって ? 毒虫化したのは、その国じゅうでザムザ なんだか、最近 氏だけだったからです。・ほくはそれを読んで、鰐化したのが父だけや、父をふくめて最近の大人鰐たちのすべても でなくてよかったと、つくづく思いました。このザムザ氏の国にくすごく堂々と自分たちが鰐であることを誇示しているように思えて らべれば、・ほくの国はとてもいい国に思えます。世界には、いろん仕方がない。 な国があるんですね。まだ地理の時間には、鰐のかたちをした自分ゅうべなんか、団地の広場で、なんだか知らないけど大きな生肉 の国のことしか習っていないし、図書室にも、ほかの世界のことをを、鰐のツイストっていうのかな ? あの躰をぐるぐる横転させ、 書いた本は見つからないので、ただ、いろいろ想像してみるだけでねじ切るようにして、何頭かで食い切っているのを、ばくは目撃し 、、。まくはなんと すが、きみの国がすばらしい国であることを、心から願います。返たんだ。あれじゃあ、完全に鰐そのものじゃなしカ ~ 信待っています。 なく不安だ。背中がちょっとムズムズするし : 8