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検索対象: SFマガジン 1975年2月号
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1. SFマガジン 1975年2月号

「だって、。ヒエールさんが」 まり異分子的な部分が心理世界の構造に馴んでくるからである。同 ムンクの構図と同じポーズをとって彼女の腰にしがみついていた様のメカニズムは、流行現象についてもあてはまる。あの悪魔的発 ビールが、彼女の膚に臭い息を吹きかけたらしい 明といわれ、ついに文明世界を席巻し尽したミニスカートは、発表 私はビエールをたしなめる。彼は、真面目くさってつづける。 当初、疑問視されていた。ローマ法王庁は反対意見を表明し、アン 「赤髪は彼女にとって心理的な触媒作用を果している。うん、これ ドレ・ジッドは抜穴から顔をだした。ビエールは彼女の股ぐらをの は重要な個所だね。我々の議論は、物的な世界法則とは関わりがなぞきこんだ。が、やがてミニはその近代的合理性と近代的ェロティ いのだ。・実体のない心理の世界での化学反応について論じられてい シズムとによって社会に定着したのである。 る」 「赤髪とておなじことだリ」 ビエール自身、何を喋っているのかトンチンカンだったにちがい 。ヒエールは興奮してテー・フルをどんと叩いた。ワイングラスが跳 。ヒエールは酔っぱらっていたし、陽気のせいか、気も少し変びあがってひっくり返った。榛名真弓は「キャッ」といって椅子か ・こっこ。 ら跳ねのいた。彼女の鼻孔は黄色い鼻飾りをぶらさげていた。 どうやらこの期間、私はえせ哲学者ビエールの狂気に感染してい たとおもわれる。私と。ヒエールは、我々を練金術師とたみて、私の屋 6 根裏部屋を実験室とみたて、大変真面目に真理の探究に励んでいた。 その点、私自身の芸術的創造は別として、心理実験の方は極めつ 狂気ーーー。そう、理性は狂気に支配されていた。私の手本とした きの成功をおさめていた。傍からみれば、屋根裏部屋で二人の気狂ムンクも晩年狂気的傾向を強めていったが、彼はそれ以前にまず天 いが、何かやっていただけにちがいないが、少なくとも我々は楽天才的画家であった。 的陽気さでそう信じきっていたのだった。 私は、彼の暗い色調や外圧的に流れ込むような流動的タッチを模 事実、私とピエールはよく笑った。笑いにはモナリザのような笑そうとして失敗した。 たが いもあるけれども、我々のは顎の箍の外れたような大げさなものだ ムンクは感情に従い、内なる感性のおもむくまま、あの見事な裸 体を画きあげたのである。 笑いは、心理世界の整合的な構造のどこかの箍が一本外れ、異質最初の意気込みにもかかわらず、私の作品は惨胆たる結果に了っ な要素が侵入したとき発生するといわれる。無論、ビエールの学説た。俗つぼく、それは薄汚なかった。私の計画した古典的な気品は だけれども、彼女の赤髪は当初その意味で、彼女が丸坊頭になった遂にどこにも表われなかった。 くらい珍奇だっこ。・ その責任の大半は。ヒエールにある。ビエールは頼みもしないの 「しかし最初の感動が薄れると、もはや前ほどおかしくはない。 つに、私や彼女に作用し、全ての真面目な意図をぶち壊してしまった。

2. SFマガジン 1975年2月号

われわれの生きるこの現代世界が、人類史余りに情緒的であり、客観的であるよりは無 "A La Recherche Des Extra ・ Terrestres" 責任である場合の多いこと、終末論者によっ 上未曾有の重大な困難に直面していること、 ・ 73 ( 牧原宏郎訳・大陸書房・九五〇円 ) は 2 この種の研究の最新刊。つい一、二年 = ・そしてその困難が、なまなかなことでは回避て退けられようとしている人間的理性こそ、 まさに、そうした終末に陥らないため人間が 前までの最新のデータをはじめ、をめ ・できない、人類文明の本質そのものに由来す 拠り所とすべき唯一のものであることを強調 ぐるさまざまの歴史的現代的仮説を紹介して ・・るものであることはいまさらいうまでもない している。 いて、アツ・フ・トウ・デートな 0 入門書 - 一 ・し、そうしたさまざまの現象をとりあげ分折 終末論の流行に眉をひそめている読者のみとなっている。終りにつけられた研究》 . - した書物ーー・いわゆる終末論的立場に立っ書 ならず、現代文明の行方について考える者の家南山宏の〈解説〉は要領を得ていて 物は、いま枚挙にいとまないほど紹介出版さ . ・れている。それらの書物の多くは、われわれ胸に訴える多くのものを持っ本である。特に現象についての一見識を示している。 フィクションのスペースが足りなくなった 「・・ . を取囲む困難の性質をわれわれに認識させて破減ものを読む機会の多い読者に一読を カ 、ハエル・ハイムの『アスワン』 "Assu- ・くれるという意味でそれそれ有意義なものにすすめる。 最近興味ぶかく読んだ的ノン・フィク an ・ : 71 ( 松谷健二訳・早川書房・七〇〇円 ) ちがいない。しかし嘗て未来論が流行したと が、アスワン・ハイ・ダムの大崩壊と、それ ・きわれわれがその種の大量の情報にともすれシ , 三 = 冊。 ライアル・ワトスンの『スーパーネイチュ によって起こる洪水で、エジプトが壊減する ・・ば押し流されかけ、未来そのものの持っ怪物 性を見失いそうになったのと同じように、今ア』 "Supernature"'73 ( 牧野賢治訳・蒼樹有様をドラマチックに描いて迫真的。問題に 書房・一八〇〇円 ) は、科学の対象とならな なっている現実のマスワンの技術的欠陥が巧 日のあまりに大量な終末論的情報の氾濫は、 いわゆるオカルト現象ーー念動、念写、透みに小説中に生かされている。 ・われわれを、性急で杜撰なス・ヒステリー 視、テレバシーなどを多数の文献から研究し - に駆りたてる惧れなしとしない。 レイ・プラッドベリの『十月の旅人』 ( 伊 ・・◆人その意味でーー・現実認識のためには、情報て、その背後に、人間の未知の可能性という 藤典夫訳・大和書房・一三〇〇円 ) は、・フラ ◆・◆・◆人の・ ( ランスこそが重大であるということを知新しい次元を切り開こうとする、この種の本 ッドベリのデビュー当時から円熟期までの作 としては最も新しいシステマティックな研究 ◆・◆・◆よる上で、最近翻訳出版されたジョン・マドッ 品でまだわが国で本の形になっていないもの である。 ◆・◆・◆クスの『人類に未来はあるかー反終末論』 十篇 ( 『十月のゲ ・トンプキンス、 O ・ ハードの『サポテ ◆・◆・◆又 "The Doomsday Syndrome"'72 ( 中山善 ーム』『対象』『永 , ◆・◆・◆人之訳・佑学社・一三〇〇円 ) はきわめて重要ンが喋った』 "The Secret Life 。「 Plants" 実 遠と地球』『する ・ 73 ( 竹村健一訳・祥伝社・五五〇円 ) は、 な意味を持っ書物である。 と岩が叫んだ』そ 植物にも動物と同じような意識や感情がある マドックスは世界的に有名な科学雑誌ネイ の他 ) を収録した ということを、具体的な観察やポリグラフに ・◆・◆・◆ : チュアの編集長である。彼はこの本で、今日 ク一 0 田 よるデータから確かめたという、従来の生物訳者独自の編集に ・◆・◆・◆ : のいわゆる〈終末論的〉状況ーー環境破壊、 人口問題、食料危機、資源枯渇が、果学、植物学の常識を根底からくつがえす研よる短篇集。プラ ・◆・◆・◆ : して声高に叫ばれているほど終末的なもので究。記述や推論がやや奇嬌で説得力必ずしも ッドベリ・ファン 当 十分とはいえないが、未知の分野に分け入る あり、もう不可避的に人類を破減にまで追い 海 として嬉しい本の 日一 ・落すものであるのか、と問い返している。そスリルと迫力は十分。 一冊である。 【◆い◆い◆して、そうした声が実は科学的であるよりは ロべール・フレデリックの『追跡』

3. SFマガジン 1975年2月号

「どうしたの、あなたたち ? 」 ように振舞った。 と振向いた彼女の顔をみて、我々は再びおさまりかけた笑いを爆 「素適だ、マダム。見違るように素晴しい。おお、私の心臓は張り 裂けんばかりに、早鐘をうっておりますぞ。今日のマダムは妖精の発させていた。 ように若々しいー 思いつくだけのお世辞をべらべらとまくしたてると、私の方を振人が何故笑うか。この地上のあらゆる生き物の中で、笑うことの できるのは万物の霊長たる我々人間だけだそうだ。 り返って片目をつぶってみせた。 この笑いの心理的機構については、・ヘルグソンの研究がある。正 ( この方、何とおっしやっているの ? ) 早ロのフランス語だったため、意味がききとれなかったにちがい式に祥しくは、このどこか乾物屋の親爺みたいな風貌のフランス人 の論考にゆだねるとして、私と。ヒエールとは我々なりの議論を楽し 「。ヒエールは絶讃してるんですよ。あなたの前に膝まずきたいくらんだ。 それを、彼女がフランス語にうといのをいいことに、傍らでやる いだって : ・ : ・」 たち 「あら、そんなことをいったの : : : 」 のだから性質が悪かった。 「奥さん、許可してあげなさいよ」 興にのりはじめるととめどがなくなり、絵の方はそっちのけにな ってしまった。彼女はモデル台の上にいて、我々の会話をとても高 と私は推めた。 尚な絵画論とおもっているのだった。 「恥しいわ。そんな」 。ヒエールにいわせると、笑いとは一種の心理・魔術的化学反応な 「何も、恥しがることなんてないですよ。。ヒエールはロマンチスト なんですよ。さあ、あなたの靴にキスさせてあげるといってやりなのである。錬金術師が非科学的で迷信的確信に基づき様々な手段を 弄して鉛を金に変えようとしたのは、この笑いのメカニズムと良く 似ているというのである。 彼女は照れてしまい、真赤になる。 「だってそうじゃないかね。この御婦人だってさ、赤髪となったと 「まあ、あたし、どうしましよう」 。ヒエールは、道化に徹していた。よれよれのウールの上衣の裾をたん、性格が一変したではないか。卑金属が貴金属に転換したって 左右に跳ねあげ、びよんととびあがって彼女の前に膝まずくと、うわけよ。この際、赤い色素は、練金術的意味があるんだ・せ。な、ち ゃうやしく頭を近づけた。 がうかな。練金術的化学方程式は表徴的科学式なのである : : : 」 なんとも良くわからない、こじつけたような変な理論だった。 それは大いに感動的な光景だった。儀式が了ると、彼女は壁にむ 「あツ、奥さん、動かないでツ」 かって顔をおおってしまった。 と私は、モデル台にむかって叫ぶ。「「そのまま、その表情ッ : : : 」 とたんにピエールは、こらえきれなくて笑い転げた。私もだ。・

4. SFマガジン 1975年2月号

・卩イハ冖れ ・レ第ゞ諟、・を。す .1 をい、も : ふーイ・・ツレ : にグ . ・い気ト・ 太陽が星と見える地点での宇宙遊泳、及び、ではないだろうか。 その地点までの宇宙旅行となると話は別だ。我々は、その代表として、グロー 地球上での閉じた生態系から、確実に資源がイズの優勝者を宇宙へ送り出そう。 失われるのだ。 彼には、その資格があるのではないか。 次の反対は生物・生理学関係から。続いて大いなる宇宙への初代大使として、グロー 心理学・精神分析学界から反対の声が起った。・ハル・クイズの初代優勝者ほど相応しい者は いすれも宇宙遊泳における人間の、たったいないのではないか。 一人で無の空間にとり残される人間の肉体的と、感動的な演説を感動的に結んだ。 ・精神的な危険を心配する、という大義名分 を持ってだった。 超新星の爆発にも似た圧倒的な歓喜が静ま 親切めかした忠告であれ、個より全体をとる。 叫ぶ非難であれ、人類全体が反対しているこ汐の引いた砂浜に残された小さな貝殻のよ とには間違いなかった。 うな悲しみを帯びた安らかさに覆われる。 だが、せせこましい地球に、人類に、しばそして、いっしか瞑想へ。 られたまま一生を終える気には、とうていな無数の星々でも埋め切れない深い虚無の、 ーバル・ク宇宙の、その深淵の奥深くからのささやき れはしなかった。何のためにグロ イズの優勝者になったのだ。わすかな時間では、彼岸の彼方への誘いだった。 もいい、完全な静寂と孤独の中に身をおい深い静かな計り知れない広がりを持っ思い て、宇宙生物になりたい : が、ス。ヘース・スーツをものとかはせず、柔 幸い、似而非哲学者を気取る首席長官の鶴かく、浸み込んでくる。 の一声が全ての反対を押さえつけてくれた 0 ~ 心は、誘われ、四方へ、八方へ、とめども 彼は、自分の感情を抑え、 なく吸いこまれていく。 これは、人類が地球的生物から宇宙的大きく、大きく、 . 緩やかに拡散していく。 存在へ飛躍する予兆ではないだろうか。 まぎれもない涅槃の予感。 これは、進歩と飛躍を望む人類全ての無意宇宙が叫んでいる。 識のうちに秘められた意志の象徴的な顕われ無限の彼方へ、 0

5. SFマガジン 1975年2月号

脇の下を冷たく汗が流れるのが分った。マーキュリーは、全遠隔 は、すでに文化とは呼べない。後の質問に関しては否定的』 ネがテイプ 否定的だと ! この鉄くずが生意気な。 制御にセットされている。なんてことだ。・ほくは、こともあろう 5 ハラ / ィア 「文化について定義しろ」 に、偏執狂の所有する車を選んでしまったのだ。 『人間が本来の理想を実現していく活動の過程、その物質的所産で『これが最後だ。質問者の氏名と、車のライセンスナン・ハ 1 を伝え ある文明に対して、特に精神的所産を指す』 よ』 不ケール ぼくは言葉に窮した。どうすれば、精神的所産に規格を与えるこ どこかで、何かが外れるような、カチッという音がなったコン とができるか ? 巨大電子頭脳は、自家撞着に陥ることなく、文化ソールが、・フルプルと蠕動しはじめる。ふいに、・ほくの頭に、カー マガジンで読んだ最新型盗難防止装置の記事が浮かんできた。なん 人類学が確立される以前に観察された文化は、文化の名に価しない、 と結論づけようとしている。 でも、ガスを使うのだそうだ。 そういえま、・ カスをパイプに送り込む、溜息に似た音を、聞いた 「人間の本来の理想を定義しろ」半ばやけくそに、ばくはどなっ ような気がする。 た。また負けた、という苦い思いに、眼の前が暗くなる。 『理性によって想像できる、完全、最上の状態。具体的には、人類せめてライセンスナイ、 、′ーだけでも確かめておくべきだった。・ほ 全体の欲望総和に、マキシマックスポイントが存在しうる社会の実くは、自分のうかっさをののしった。 ・ままンート 現』 の上に、くるりと後転した。腰を浮かせ、ネをき かせて、思いきりサイドを蹴った。顔にふりかかるガラスを予期し 待て、とぼくの心に囁くものがあった。人類全体の欲望総和 ? て、ほとんど反射的に、腕をあげて顔をかばった。 なんだろう ? 一体、なにが気にかかるのだ 『質問者の氏名と、車のライセンスナイハーを伝えよ』と・ほくが考両脚がじーんと痺れて、背骨を物妻い鈍痛が走った。・ほくは歯を 喰いしばった。耐衝ガラスを破るには、多分、電気ドリルを持って えようとするのを遮るように、巨大電子頭脳が尋ねてきた。 ・ほくはためらった。もう二回もトライしているのだが、いずれのこなければならないだろう。 時も、この種の質問をされたことはなかった。選んだ車の型が特殊苦痛に涙までこ・ほしながら、シートにうずくまるぼくの呻き声に にすぎたのか ? 巨大電子頭脳はなにか感づいたのか ? 重なって『十秒待つ。十秒たって応えがない場合は、応える意志が 『繰り返す。質問者の氏名と、車のライセンスナン・ハーを伝えよ』ないと見なして、相応の措置をとる』と巨大電子頭脳が最終通告を その声がひどく威嚇的に聞こえた。・ほくの指は、苛々とダッシュ伝えてくる。 ポードの小物入れをかき回していた。なにもない。 相応の措置卩 ぐすぐずしている手はない。・ほくは体をねじってドアを押した。 ぼくは、獣のように奐きたてながら、肩を思いきりドアにぶつけ カチリとドアにロックがかかって、ぼくは閉じ込められていた。 た。一度、二度。だがドアは開かない。狭い車内でなにをあがいて ネガテイプ

6. SFマガジン 1975年2月号

『こちらロード サービス。停車している車が自動制御に接続するこ とは、許可されておりません』甘い女の声。 「ロードサ 1 ビス関係ない」・ほくは応えた。「インフォメーション サービスに用があるんだ」 『こちらインフォメーションサービス』合成されて、ことさらに無 個性にされた、金属的な声が返ってくる。 おかしな話だが、人は、インフォメーションサービスから聞こえ てくる声が、非人間的であればあるほど、満足を感じるものらし ロードサービスの女の声も、インフォメーションサービスの金 属的な声も、巨大電子頭脳にとってはなんの違いもないことに、気 づきもしないのだ。 しように人間をあやしている。 そう、巨大電子頭脳は、い、 「アイヌについて知りたい」 『日本北部にコロニーをつくっていた狩猟民族。アメリカインディ アンに類似した汎精霊的な世界観を持っていた。顔だちに、多くス ラ・フ系の痕跡がある、と言われてきたが確認されていない。起源、 しすれも、定説がない』 文化等、・ 信じられるだろうか ? 巨大電子頭脳にインブットされているア イヌに関してのデーターは、これで総てなのだ。オムレツについて なら、一時間でも講義できる巨大電子頭脳に、だ。 「文化についての定説がない、とはどういうことか ? 」 『アイヌが学問的対象にされた時、まだ文化人類学が確立されてい なかった』 「だがアイヌの文化は、かなりよい状態で保存されている。いや、 彼等は、まだ千のオーダーで生存している筈だ」 『主観、同情、敵意、これらのファクターを通して残された文化 七七ページのクイズの答 『太陽の黄金の林檎』は ある本の登場人物に捧げられます 「恋人たち』の舞台になる惑星の名は ある本にちなんでつけられています 「大いなる惑星』は ある本のプロットを下敷にしています 「ローガンの逃亡』は ある本に捧げられています 『未来惑星ザルドス』は ある本が謎を解く鍵です その本というのが 「オズの魔法使い』なのです 囹『オズの魔法使い』佐藤高子譚 ハヤカワ文庫 Z> ・二五〇円

7. SFマガジン 1975年2月号

無力な哺乳動物人を 駆逐し、減亡させました。 そして支配権は島類が握ったのであります。 それまで原始的生活を 余儀なくされていた鳥類は 特殊宇宙フード・ノルスモ四号の 搬布によって、知能が発達し 火を扱、つようになり ところがその後の 調査の結果 鳥人類は理想的な 地球のコントロールを す・るどころか これでは 支配層がかわっても なんら意味がないの であります なげかわしくも 哺乳人類とまったく同じ 社会形態をとるにいたりました。 幻 2

8. SFマガジン 1975年2月号

萩尾望都の幻の作品『ケーキケーキケーキ前編』 倉橋由美子を二冊だけとってあって、つい先日、その一冊『迷路 の旅人』に手をつけてしまった。今では筆を置いてしまったこの ( 、作家の = ッセイ集は、そのことの必然を水平的に物語る。巻頭の数 ( 〔一百枚『反小説論 ( 連載時『小説に関するいくつかの断片』の改題 ) 』 を、くすくす笑い通しで読んでしまうことを喜こびながら、まるで これは筒井康隆じゃよ、 オしか、と思ったものだ。とっておいてよかっ た、と思った。小説は神々のような精神によってだけ可能だという 冗談によって、″小説″ ( とくに現代小説 ) の″病気 ( 不健康 ) ″性 をやつつける ( という感じ ! ) このエッセイが、教えてくれるもの は、本稿で書きたかったことのひとつ、それをわたしは未熟さによ って散乱させてしまったが、健康であることの素敵さなのである。 例えばクラークやレムといった優れたサイエンス・フィクション の作家は、恐らく″健康″という観点を必要としない人間である。 《彼等の方法論と作物は、ある意味で他のすべての作家のそれよ じよ りカフカに近似している、と言える。『箱男』以来、決定的に″世 うきよう 界″と訣別した安部公房が、体育部の方法論によって″在る″もの を造りあげてしまおうとするのも、これに似ているかもしれない。 この愉しみが永久じゃない、 と気付かされる。いくら読みたくてもっとも安部公房の場合は、そうした観点を、作品の物質化によっ も、作品の数には限りがあると知らされる。だから、一冊、二冊とて洗い流せるものに変換してしまおうと考えているように思える。 とっておくのは、とても精神の健康に役立つ。まるで、煙草みたい そこで、所謂幻想的な小説群 (coæのほとんどが含まれるわけた なものだ。そんな嗜好品のような小説が、とても欲しい。泉鏡花が が ) は、これらと相をたがえた所に蝟集している。 沢山残っているのが心強い。平井和正や、筒井康隆は読みきってし誤解を恐れずに言えば、六十年代とは、青春という名の恥によっ まった。半村良を読んでみようと思う。チャ 1 ルズ・・フィニイて、その無自覚性をこそ武器に、恥知らずな世界を断罪しようとし を読もうか、と思う。 た極めて倫理的な時代だったと言えるのではないだろうか、そして 毎月の連載はとてもしんどくて、すっかり消耗してしまった。そその一瞬の光線によって照らしだされた世界とは、なんと無気味で れで、今、本を大量に読みだした。まるで病み上りのような気分。無意味だったことか。〈世界は意味もなければ不条理でもない、ま どれもが、とても面白い。すっかり読み方が趣味的になってしまっ ったくただ在るだけだ〉とアラン・ロプ日グリエは言ってみせたも た。それがひとつの力になるほど絶望を深めなくてはならないためのだ。そのストイシズムによって照射された世界にあって、正義は 常に倫理と、そしてすこしばかりの勇気のうえにあった。青春とい 8

9. SFマガジン 1975年2月号

だ。午後の時間が、彼女の本能的な警戒心を薄れさせてくれるだろ と渡して、パチンとハンド。ハックの金の留金をとじる。まだほと う。私の屋根裏部屋が、次第に旅情という名称の麻薬的作用を働かんど未使用の、部厚い五十ドルの小切手帳が、しまわれた。 せるにちがいない。 私はありあわせの紙に絵を包んだ。紐をかけながら、次の言葉を 私は、きたない壁際に沿って、幾枚となく絵を選びはじめた。相探がしていた。 手の顔色をうかがいながら、気に入りそうな作品を額に入れてみせ「奥さん、安物だけど割りといけるワインがありますが、一緒にや たりした。 りませんか」 この際、喋りすぎても駄目だし、寡黙すぎても駄目だ。外の風の 「まだ、外が明るいから : : : 」 冷めたさに較べて、日射しだけは空一杯だったから、光が私の部屋「じゃあ、コーヒーを入れます。カーマンべールと一緒に飲むと仲 に満ちて、サンルームのようにあったかだった。 仲乙なんですよ」 ( ぜんぜん駄目な絵だ ) 「それ、クッキーの名前 ? 」 と自分ではおもっていた。 「しいえ、チーズですよ。アイスクリーム状をした柔らかい。日本 ( おれの絵は一種の排泄物なのだ ) じゃ、ちょっと味わえない代物です」 なま チ = ー・フからしぼりだした生の絵具が、ただ感情的に踊り狂って彼女はやっと承知した。 いるだけだった。デッサンが未熟だから、絵として自立していない やがて、コーヒーのかぐわしい香りが、部屋の光と魔術的に化合 のである。 しはじめた。 赤と黒を主調とした、マチェールのむちゃくちゃな私の作品は、 私が二度も三度も使い古した手である。私は彼女を歓ばせる言葉 不快でさえあった。 をまた探がしていた。・ 「いかがですか」 ( 若い娘を誘惑するより手間がかかりそうだ ) と気がついていた。 と私は尋ねた。・ 彼女は小首をかしげる。 「お安くしときますよ」 はるなまゆみ とうとう私は本音を吐いていた。 「榛名真弓歳 ) は、結婚歴ちょうど十年目の主婦だ。 それから商談が成立した。丁度、私の一カ月分の生活費に当たる 金額だった。彼女は、私の差しだしたポールペンで、旅行者小切手なんだか実話雑誌みたいだった。 にサインし了えた。 「彼女は、ヨーロッパ観光の途次、パリでたちの悪い画家に誘惑さ 「じゃ、これ。 れた。・ おっ 8

10. SFマガジン 1975年2月号

というか、芝居気たつぶりに、やってみせた異常さがやりきれなか知らないは別として、商売として割り切っているとしてもーやは った。どうにも憂鬱だったのだ。 り彼らと同罪だし、もし少しでも信じているのだとすれば、その無 2 いや : : : どうも、舌足らずになりそうでうまくいえないのだが、知は結局より罪の深い背徳につながる。 神門が、いっそのこともっと異常だったのならー・ーーもっと典型的な「お前さんは悪なのか、それとも低能か、ほんとうはどっちなん 分裂症の症状でもみせていたのなら、私の気分もまた、・ へつのものだ ? 」 になっていたのかもしれない。なぜ私ばかりがこんな面倒を背負い 肺結核で入院するほんの少し蔔 いつものように私のおごりの酒 こまなければならないのかと、ぶつくさいいながらも、彼に精神科のに泥酔して、神門は、しつこく私に迫ったことがあった。彼の発病 診療を受けさせるためにもっと積極的に動いたりしていただろう。を知らなかった私は、酔っていたとはいえつい激昻して、神門をな しかし、彼の場合は、医学に素人の私にもそうでないことがはつじった。 きりわかった。彼はほ・ほ正気だったし、彼のあのナンセンスな話私にしてはごくごく珍らしいことだったが、傍目にはたぶん私が は、彼のつくり話にちがいなかった。だからこそすべてに鼻もちな大人気なく見えたはずだった。しかしその日、神門は、前の借金を らない芝居くささがっきまとっていたのだ。狂っていたなら、あん棚上げした上また新たに私に借金を申し込み、私も止むなく承諾し な芝居はうちたくてもうてないにちがいない。だが逆に、完全に正た。そして、なんとなくしょげている神門を慰めるつもりで一杯や 気ならーーー・・あんな話は、芝居にしろ大真面目にしろ、神門がロにすった、そのあげくからまれたのだ。 るはすはない。神門という男はこれまで、その種のうさんくさい話だから、私たちのことを古くから知っている者たちの目から見た を、生理的に嫌う方だったからである。 ら、悪いのは一方的に神門と見えたにちがいない。神門は長年高校 じっさい、ついこの間までの神門をよく知っている私にとっての地学の教師をしていて、かたわら市井の発明家でもあり、最近で は、その日の彼の変り様はグロテスクでさえあった。彼は私の出版はゴミ処理の研究をしていて、微生物による生ゴミの分解還元での 社で、そのての本を出していることを、あからさまに軽蔑してい 非常に効率的な方法をもうすぐ完成する、特許申請もしてあるとい た。彼にとっては、テレバシーとか透視とか、スプーン曲げとかい っていた。それはあるいは、借金のための口実かもしれなかった ったいわゆる超能力なるものは、要するに小手先のマジックでしか が、私はべつにそれを当てにして金を貸すことを承諾したわけでは ないものを、それ以上意味ありげに見せようとする詐欺行為の一種なかった。そんなつもりなら、いままでの経験から断わっていたに にすぎず、従って品性下劣な輩にしかコミットできない破廉恥な詐ちがいない。私が金を貸したのは、長いっきあいという、ただそれ 術にすぎなかった。 だけの理由からだった。だが神門にしてみれば、私のそうした態度 それを、もし私が承知で飯のタネにしているのであればー・知るのすべてが、何やら嫌味で、恩着せがましく思えたのかもしれな