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検索対象: SFマガジン 1975年3月号
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1. SFマガジン 1975年3月号

「ウイスキーもありますよ。飲みますか」 「じゃあどういう」 「亜空間要塞の秘密をどうやって知ったかって : : : 素直に白状すれ加藤が訓いた。 「当然 : : : 」 ば命だけは助けてやるだなんて」 私は威張って答えた。肉とビーマンと平貝。パンに・ ( ターにイン 私は大野を見てニャリとした。 スタントのコンソメ。飯田はコトコトと野菜をきざんでいる。サラ 「そんなこと、僕が言ったんですか」 ダを作っているらしい。 「そうだよ」 「ラウンド・ステーキ用の肉か。気がきいているな。肉の厚味と同 「白状したんですか」 「できるわけないだろう。陳腐な台詞を使うなと言ってやったよ」じくらいの幅に切れよ。そうや 0 て焼いたほうがうまいんだ」 「そうか、コックの経験もあるんでしたね。全部やってもらえばよ 「本当にそんなことを言ったんですか。大胆だなあ」 かった」 「大胆なんじゃない。やけくそだったのさ」 私は少しいい気分になった。なんとかそれで危機を切り抜けたの大野がコンロの火をつけながら言った。 だ。以前池袋でチンビラに襲われたときのことを思いだした。あれ「宇宙人に乗っとられていたにしては元気がいいな」 は女性自身のアンカーをやっている時だった。午前四時ごろ歩いて「いやだな、乗っとられたなんて言わないでくださいよ」 ジャックさ」 いると、いきなり若い奴が突っかかって来た。刃物を持っていたよ「だってそのとおりだろ。ボデー ・サークのキャップを外しながら言った。何はとも 私はカティ うだった。私は咄嗟に呶鳴った。 あれ、まず一杯というところだ。 「誰にたのまれたっ : 若い奴は多分それで誤魔化されたのだろう。くるりとうしろを向「ところでつかぬことをお尋ねするが」 三人は手をとめて私のほうを見た。 いて走り去ってしまった。あの時の気分と似ていた。 「君らは本当に亜空間要塞へ行って来たのかね」 「とにかく飯にしてくれないか。連中は当分やって来ないだろうー 飯田が口をとがらせた。 私はガラスごしに芝生を見た。もう緑色の光は見えなかった。 「今さら何を言うんです。だからここへ来たんじゃありませんか」 「そう言えば腹が減ったな」 三人はそう言い合い、食事の仕度をはじめた。私はソファーに坐「そうだろうとは思う。しかし、君らに宇宙人がのりうつられて見 って煙草に火をつけ、ちらちらとそれを眺めていた。案の定、。フロると、果して本当に行ったのかどうか疑問になったんだよ」 ( ン・ガスの栓にゴムホースがつながれ、テープルの上にコンロと「どうしてです」 9 3 鉄板が出て来た。ワインは二本らしい。四人で一一本 : : : まあまあだ「俺の立場で考えて見てくれ。君ら三人は宇宙人にあやつられ、亜 空間要塞へ行ったと思い込んでるだけじゃないのか」 ろう。

2. SFマガジン 1975年3月号

間、お母さんにきいたんだけど、やつばり、お父さんが帰ってからン。ヒュータの設計に関係した仕事をしている。お父さんは、プログ ラマーと言われてな、コンビュータの設計に役立つ、大切なお仕事 3 教えてもらいなさいってさ」 をしているんだ」 「けしからん話だ」植木は父親の貫録をみせて、重々しく言った。 「だいたい母親は甘すぎる。おい、お母さん、子どもの宿題にオヤ数彦は、また、もじもじしはじめた。 夕食のあとかたづけをおわった母親が、手をふきながらはいって ジをひつばりだすような、自主性のないしつけはよくないそ ! 」 きて、息子の援護射撃をした。 となりの部屋から、すぐに反応があった。 一九八五年になっても、やはり、母親は息子の味方につくのだ。 「だってあなた、今日の数彦の宿題は、あなたでなければ、どうし てもわからないことなんですもの : : : 」 「あなた、数彦にも、そこまではわかっているのよ。問題はその先 「ふうむ なんだわ」 植木は首をひねった。 「その先 ? 」 そばでは、からだの大きいわりに気の小さい数彦が、しきりにも植木は、やせた自分とは正反対に、すっかり中年ぶとりになっ じもじしている。 た、妻の顔を見あげた。 「じや「とにかく、どんな宿題なのか、言ってごらんなさい」 「そうよ、その先のことよ。さ、数彦、もういちど、ちゃんときい 植木は電送新聞をデスクの上に投げだして、坐りなおした。 てごらんなさい」 数彦は、ほっとしたような顔つきになって、テープレコーダのス母親にはげまされて、数彦は、質問した。 ィッチを入れ、たずねた。 「お父さんのお仕事のむずかしさとか、毎日の様子とか、そういう : なんといったらいいのかなあ : 「お父さんのお仕事をききたいのさ。今日の宿題は社会の時間に出ことはだいたいわかるんだけど : ・ てね、職業にはどんなものがあるか調べて、つしでに、お父さんの : その先の、つまり、ええと : ・・ : ああそうだ、目的ーー目的ね、そ お仕事をきいてきなさいっていうの。クラスの中には、お父さんもれが知りたいの」 お母さんもいない子もいるしするから、むりに全員が答えなくても「目的 ? 目的はコンピュータの設計に役立っプログラミングとい いいんだけど、・ほくはなる・ヘくちゃんと知っておきたいと思うもんうことじゃないか。まえに言ったろう ? 」 「そうじゃないんだ」数彦は、小さいなりにいっしようけんめいだ だから・ : : ・」 つまりね、お父さんが、プログラミングっていうお仕 「なんだ、そんなことだったのかーーー . 」植木は苦笑した。「ーーーそった。 れじゃ、オヤジにききに来るのも無理はない。しかし数彦、お父さ事をするでしよう ? そしてそれは、なにかコンピュ 1 タをつくる んの会社のことは、まえにも話したことがあるはずだそ。もう忘れことに役立つわけでしよう ? 」 「そうだ」 てしまったのか ? ソフトウェア会社といわれる中のひとつで、コ

3. SFマガジン 1975年3月号

んでいた。今夜もまた来るだろう。名田屋さん川鍋さんあたりはこ「新宿で会があったんだ。もうすぐみんな来るだろう。 のところ毎晩だ。それに角川の山本容朗さん。容朗さんはサッちゃ 「あら、ちっとも知らなかったわ」 んがお気に入りだ。あの子のざっくばらんなところがいいのだろ ママは不服そうに口をとがらせ、私ばこの分では安岡さんも来る う。容朗さんらしくていいや。カッパの伊賀さんもそろそろ顔を見な、と思いながらカウンタ 1 の中へ入った。 せるころだ。 私は二階をみあげながら店へ戻った。二階は洋裁店と設計事務所 -3 になっている。 「お早う」 酒と女の番人 : ・ 。それは私にとって物哀しくもあり、また甘い 入ると突き当たりのビアノの椅子に坐 0 て、鈴木八郎が手をあげ蜜の日々でもあ 0 たようだ。毎晩飲んで仕事をして、明け方近くま た。私と八ちゃんはこの店へ来る前、要通りの「馬酔木」で一緒だで遊んで、ろくに二日酔もせす元気に過していた。いつだ 0 てそう った。八ちゃんが先に「とと」へ来て、私を引っぱった。 なのだが、とにかくひとことで言えば無我夢中の日々であった。 「半ちゃん。ちょっと 「とと」へは梶山季之さんも見えたし、丸谷才一さんも見えたし、 いけねえ、ママが出て来てた。小肥り、丸顏、きかん坊、人はい 北杜夫さんもいらっしやった。来ないのは、わが作家クラ・フお いんだが少しおっちょこちょいなところがある。煽るとわりとかんよび早川書房編集部であった ~ たんにその気になる女性だ。 もっとも、生島治郎さんに会ったら、俺も行ったんだそ、と言っ 「ゆうべ誠子ちゃんをあんなに酔わせちゃって、ダメじゃないの。 ていたが、何しろえらい人ばかりだったから、まるで気がっかなか っこ 0 あの子、預かりものよ」 「いそがしくて誠ちゃんどころしゃなかったもの」 実を言うと、この「とと」時代のことを書け書けと人に言われ 「気をつけてよ」 る。でも、どちらさまもまだご存命中で、もう少し時間がたたない 「うん」 とうつかりしたことは書けやしない。 「愛ちゃん遅いわねえ。どうしたのかしら」 ふしぎでしようがないのは、そういう作家や編集者ばかり来る店 「来るよ、もうすぐ」 にいながら、私にまるで書く気がなかったことである。今になって するとドアが・ ( タンとあいて、長身の客が入って来た。 見れば、あの頃その気でいたら、ずいぶんいろいろと得るところが 「いらっしゃい。どうしたの、こんな早く」 あっただろうに、とそう思う。 吉行淳之介さんはニャニヤしながらスツールへ坐る。ママがその 忘れもしない。それは例の六〇年安保のデモさわぎがあった年の となりへ。 暮れである。 8 4

4. SFマガジン 1975年3月号

オ、テレビが、余すところなく伝えていた。大物、それが陰の大物長くでもすることができるんです。でも、役に立ちませんな」 「なぜだね」 ではあっても、あの連中が倒れたのに、騒ぎが起きないはずがなか 「距離が伸びれば、ビームの減表の度合も高まります。千メートル っこ 0 「 ウィリアム = ・スミスは、入 0 てくると、帽子を掛け、ぐるりと見とすると、毛根を暖めるだけでも、二十分かかります。それだけ離 れて、狙いをびたりと定めることができての話ですがね。できっこ 回した。全員いるな、と満足げな重役、まあそんな様子だった。 し力にも満足そうだった。「さっと真ないんです。机上のプランなんてのは、意味ないんです」 「完全だ」シュバイデルは、、、 直ぐに戻 0 て来たし、まさに完全だ。お前は・フーメランだよ。放り「迅速な結果を得るには、二メートルが最高限度です」ウルムザー が口を挾んだ。「それ以上ですと、効率は急速に落ちます。それで 投げても戻って来る。だから、何度でも使えるんだ。ウィリアム・ スミスに敵なし、ですな。これが千体もあれば、わが上層部としても何とかせよ、となりますと、二重の放射器をつけねばなりません な。放射器の大きさ自体が、奴の四倍になります。ですから、今度 も、いうことはないんではないですか」 「この連中を、どんな国へでも差向けることができる。処刑執行人は人間の形ではなくて、飼い慣らされた象とでもいった姿になるん としてですな」とウルムザー。「指導者たちは死に、大衆はあれよでしようか」 「皮肉はそこまでにしておけ」クルーゲは「固い調子でいった。 あれよと右往左往するばかり、といったわけですな」 。しナ「前にもいったが、わし「では、このロポット兵器の大量生産体制をとるよう、進言すると 口元をゆるめずに、クル 1 ゲま、つこ。 としては、今度のやり方の巧妙さはともかくとして、まだ完全だとするか」 「われわれが監督に当るんでしようね」シ = パイデルが釘をさし は認めておらん。例えばだ、奴が敵と顔を合わせないですむように なれば、奴がひょっとして敵の手に渡る危険も、ずっと少なくなるた。「秘密を握るのは、われわれ二人だけですし、ほかのものに引 んではないかね。いまの戦術でゆくと、偶然が積重ったあげく、頭渡す積りもありませんしね」 「それでいいさ」クルーゲは約束した。「機密を知る者は、少いほ の切れる男が勘付いて、調査を始めることもありうるしな」 「それはしようがないんです。彼は、焦点距離を正確にとり、放射どいいんだ。それだけ、敵の情報機関がかぎ回 0 た 0 て安全だし のためにほんのちょっとですが、時間がいりますからね。ほかにゃな」 「それが当を得たものの見方というもんです」シ = パイデルは、ウ り方があるでしようかー ィリアム・スミスの前に立って、話しかけた。「よくやったな。大 「焦点距離を伸ばして、百メートルぐらいにできんかね。上層部だ 佐殿も認めて下さっているそ。上層部は、お前に千人もの兄弟を与 って、そのくらいの研究費は出してくれるそ」 えてくれるはすだ」 シュバイデルは、やれやれこの石頭め、といった様子で、ウルム ウィリアム・スミスは、平板な、何の感情も混えない声で答え ザーと目を交した。「焦点距離は千メートルでも、あるいはもっと 7

5. SFマガジン 1975年3月号

んだね。ここに戻る前に、動力が切れかかることも、ありうるんでシュバイデルは、深くため息をついた。「何も見落していないはず ないかな。エネルギーを使い果して立往生なんていうことになつです。これ以上というのは無理ですね」 て、だれかに拾われるようなことはないかね。そうなったら、秘密「用意周到という点は、認めてやってよいが、わしはまだ、完全 だ、とは考えておらんそ」とクルーゲ。「殺害こそが、本当のテス むき出しの人形だそ」 「そんなことはありませんーシュバイデルは、断固としていった。 トなんだ」 「戻るにはもう時間がない、と分ったその時は、彼は実行不可能の 「ウィリアム・スミスは、個人的な権力というものを憎んでおりま 命令を遂行しなければならない事態に直面するわけです。解決不能す。精密機械に、ものを憎ませるぎりぎりのところまでやったんで の課題というやつです。あとは、自己破壊しかありません」シ、パす」とシ、パイデル。「でありますから、奴は、今度のような権力 イデルは、ああでもない こうで・もないと理屈をこねる相手に、大を打倒すには、理想的な道具というわけです。まあ ( 結果をご覧い 分うんざりした様子。「いずれにしましても、今度の仕事は、六十ただくとしましよう」 日もあれば十分なんです 9 彼は、その五倍もの期間、活動できるん です」 ニュートン・・フィッシャーは、大型車からでっぷりとした図 「諸君は、いろいろと考え抜いたようだな」クルーゲも認めた。 体をゆするようにして降りた垂れたあごを、ふくらませている。 いい、おとなしそうな若者が待っていた。フィッ 「人間にできる限りは、ですね」ウルムザーが口を挾んだ。「われ歩道には、身装の われは、奴を十回、旅行に出しました。短いけれどややこしい旅行シャーは、どろんとした目で、若者をねめつけ、うなった。「ノー コメント。行っちまえ」 にです。世間とうまくやっていけるか、試したわけです。旅行のた びに、改良を重ねてゆきました。いまでは、彼は、これ以上は無理「でもフィッシャーさん、僕には契約が : : : 」 というか、完成品というか、仕上っているわけです」 「解約するんだな。お前さんたち新聞記者に - は、俺はもう、あきあ 「そう希望したいね」クルーゲは、窓に近寄り、カーテンを開けきしてるんだ」 「そうおっしやらないで、フィッシャーさん。僕はスミス、ウィリ て、外を見た。好奇心さめやらず、といった面持。「奴がいるそ。 アム・スミスといいます」間をおかずにしゃべりつづけて、相手を あの・ハスの乗り方は、人間と変らんな」 放さない。視線からは、ほとばしるものがあった。「およろしけれ 「あんなのは、ものの数にははいりはしません」とシュバイデル。 「友達付合いが深みにはまりそうになったら、不愛想にしてみせるば、たった一分でもいいんですが : : : 」 こともできるんです。事情が許せば、夜だって昼間同様に歩き回れ「おいおい、聞いてなかったのかい。俺は、ノーコメント、といっ たんだそ」フィッシャーは、ぎらりと焼き付くような視線を交し るんです。夜に狸寝入りなどお手のもんですし、食べたり、飲んだ りはできないわけですが、それを隠しおおすのもうまいもんです」た。文字通り焼き付いているとは、露知らずにだった。ヒゲそり跡 ー 52

6. SFマガジン 1975年3月号

「その仕事は自然に反するとね。時間のむだだともいった。本当に ハリスも立ち上ると、二価値あることは、戸外に坐ってじっくり考えることだとさ」 部屋は静まりかえっていた。ドクター 「それで ? 」 リスは眉をひそめ、顎をこすっ 人は顔をつき合せる形になった。ハ 「そこで仲間が、どうしてそんな考えにとり憑かれたんだといて みた。するとかれは自分が植物になったと打明けたんだ」 「伍長、約束した相手はだれた ? 」 「もういちどかれと話してみよう。そうすればわかるかも知れん。 「それもいえません。失礼しました」 かれはパトロール隊から永久に解放されたかったんじゃないか ? ドクターは首をかしげた。やがてドアの方へ行き、開けるといっ どんな理由を挙げていた ? 」 た。 「その通りさ。かれは植物になってからは、もうパトロール隊に何 「わかったよ、伍長。もう帰っていい。手間を取らしたな」 の関心も払わなくなった。かれの関心事は、日なたで坐っているこ 「お役に立たずすみません」 リスはドアを閉めた。それからとだけた。こんな・ハカげた話は聞いたこともない」 伍長はゆっくりと出て行った。ハ ハリスは時計を見 オフィスを抜けて、テレビ電話の所へ行った。コックス司令官の名「そうか。いずれかれを宿舎に訪ねてみよう」 宛に電話をかけると、まもなく肉づきのよい、人の良さそうな基地た。「タ食後になるな」 「うまくやってくれーコックスはゆううっそうにいった。「植物に 司令官の顔が映った。 「コックス、こちら ( リスだ。かれと話してみたよ。結局聞きだせなった男の話など今まで耳にしたことがあるか ? そんなことはあ りえないといっても、やつはほほえんでいるだけなんだ」 たのは、かれが植物になったということだけさ。ほかに手がかりは リスはいった。 「わかったら知らせるよ」ハ ないかね ? 挙動はどうだった ? 」 「そうだな。最初に気づいたのは、かれが任務につかなくなったこ ハリスはゆっくりと廊下沿いに歩いて行った。六時の夕食も済ん ーグは駐屯所から とだ。駐屯地の司令官の報告では、ウエスター。ハ だ。お・ほろげな考えが頭をかすめる。たがそうだと決めつけるには ぶらりと外出しては日がな一日坐っていたそうだ。じっとね」 時期尚早だ。足を速めると、廊下のつきあたりを右へ曲った。二人 「日なたでか ? 」 ーグは同僚と同じ部 「そう、日なたで腰を下していたそうだ。夜になると、宿舎へ戻っのナースが急ぎ足で通りすぎる。ウ = スター・ハ てくる。仲間がジ = ットの修理工場で働かないわけを尋ねると、陽屋にいた。同僚はジ = ットの噴射を浴びて火傷をし、もう殆ど治り の当る戸外へ出ていなければならないのだと答えたそうだ。そしてかけていた。 ハリスは宿舎の外れで立ち止ると、ドアのナン・ ( ーを確認した。 コックスはロごもった。 かれがいうには 「ご用でしようか ? 」ロポットの受付係がするすると寄ってきた。 「ふふん、それで何といった ? 」

7. SFマガジン 1975年3月号

ハリス 「ところで、ウエスター・ハ ーグ伍長」ドクター・ヘンリー 「はい。ついこの間までは」 は穏やかな口調でいった。「きみが植物になったと思う理由は何か「植物になる前は何たったね ? 」 「ええと、ドクターと同じでした」 そういいながら、ハリスは机のメモにもういちど眼を走らせた。 ハリスはペンをとるとサラサラ走り 会話が途絶えた。ドクター 植物だって ? それは基地司令官からかれに宛てたもので、コックスのひどいなぐ書きした。手がかりになるようなものはつかめない。 り書きの筆跡はすぐわかった。 この健康そうな若者がー ハリスは鉄縁のメガネを外すと、ハンカ 『ドク、かれがきみに話した私の部下だ。かれと話して、その妄想チで磨いた。そしてかけ直すと、椅子の背にもたれかかった。 の原因をつきとめてくれたまえ。かれは新しい駐屯地、アステロイ「一服どうかね、伍長 ? 」 ド 3 のチェック・・スティションから送られてきた。そこでトラプ「けっこうです」 ドクターはタ・ハコに火をつけると、椅子の肘に腕をおいた。 ルを起したくない。特にこんな・ハカげた話では ! 』 ハリスはメモを脇にどけると、机ごしに若い伍長に視線を戻し「伍長、そう急に植物になる人間は珍らしいと思わんかね。そんな た。かれはもじもじしている。ハリスの質問に返事をしたくないそことをわたしにいってきた患者は初めてだよ」 ぶりだ。ハ リスは眉をひそめた。 「はい「 / 自分でも珍らしいと思ってます」 「それでは、わたしが興味を持つわけもわかるね。植物になったと ウエスター パトロール隊のユニ ーグは仲々ハンサムな青年で、 いうことは、自由に動きまわれないということなのか ? それとも フォームがよく似合う。乱れた金髪が片方の眼にかぶさっている。 ィートはあろうかという長身で、健康そうな若者だ。二年間の動物の反対としての植物という意味なのか ? どうなんだ ? 」 訓練課程を終了したとメモにもある。デトロイトに生まれ、九歳の伍長は視線をそらした。 ときハシカに罹っている。ジェット・エンジンとテニスと女の子に 「これ以上お話しできません」かれは小声でいった。「失礼します」 「まて、よかったらきみが植物になった方法を聞かせてくれない 興味を持っている二十六歳の青年。 「なあ、ウエスター・ハ ハリスはもういちどく ーグ伍長」ドクター カ ? 」 ウエスター・ハ りかえした。「どうして自分が植物だと思うんだね ? 」 ーグ伍長は迷っていた。床に眼を落し、そして窓か 伍長はきまり悪そうに天井を向いた。そして咳払いをするとやつらスペース・ポートをながめ、また机のハエに眼をやった。やっと としゃべりだした。「サー、自分ではわかりませんが、植物になっ立ち上るといった。 てしまいました。数日前からです」 「それ以上お話しできません、サー」 「うむ」ドクターはうなずいた。「それはずっと植物ではなかった「できない ? どうして ? 」 ということカ ? ・」 「それはーーそれは約束したからです」 3 6

8. SFマガジン 1975年3月号

ていた。「私には、なぜみんなが飛ばないで、つまらない遊びばかテイだとか、水泳たとか、服を取り替えっこしてみることだとか。 りしているのかわかりませんでした。私は思いました。もう、なわでも、そんなことはどうでもよかったんです。私は飛べたんですか とびなんてやっていられないって。それで、服を脱いで飛びはじめら ! 」 「しかし、そのうちとうとう人に見つかってしまった。そうだろ たんです」彼女は医師のほうを、一贅して、彼の唇がニッとゆがむの を見てとった。彼女はうなずいた。「確かに大騒ぎになりました」う ? 」と彼は優しく促した。 彼女はキッと彼を見すえた。どうして彼にそれがわかったんだろ 彼女は思い出し笑いをした。 、つかと。 「ぎみはどうしたんだね」医師は真顔でたずねた。 「そりゃあ、目に見えてるよ。きみのからだに腕をまわした男の子 「家に飛んで帰ったんです、もちろん」彼女はあっさりと答えた。 がびつくりするっていうことはね」と彼は言った。「それから、男 「私たちはその日のうちに引っ越しました」 ジ = ニーと彼の目が会って、ふたりして笑った。「私、その出来の子がきみに腕をまわしたがるってこともね」 事をおかしいって思わないようにしてるんです」やがて彼女はそう「私は男の子について知りました」と彼女は悲しそうに認めた。 言った。「おかしかったはずはないんです。でも、みんなの顔つき「私が十二歳で、もうすぐ十三になろうとしていたころ、はじめて や、金切り声をあげる様子ったら : : : 」 少年少女。 ( ーティに行きました」ため息をつきながらそのパーティ 「でも、そのときおかしいって思ったのかい ? 怯えたり、ひとりのことを思いかえした。「だれかがあかりを消したとき、その男の ・ローランドがいたんです。彼のことは決して忘れませ ・ほっちで淋しかったりしたことはなかったの ? 」 子ジョニ 「先生にはおわかりになりません」彼女はそう言うと、両翼をびんん。彼は十四でした。私のとなりに腰をおろすと、すぐさま手で探 とひろげてそれを見た。「もし飛べたら、ほかにだれもいりませりはじめたんです。私びつくりしました。でも : : : 」彼女はちょっ ん ) それに、私には。 ( プがいました。私たちはもちろん、あちらこと間を置いた。顔がほてるのがわかった。「とにかく」とあわてて ちらに移り住みましたけど、パプは気にしませんでしたし、私だっ続けた。「まわした彼の手が羽にとどくと、びたっと止まりまし た。私が片方の羽をびくっと動かすと、彼は叫び声をあげました。 てそうです。私がひどい風邪をひかないようにつて、私たち、いっ も南部で暮らしました。私は一日で何百マイルも旅することができそれでポーチからその家の子の両親がやって来てしまいました。そ ました。そして、空高く舞いあがったり、宙返りしたり、思いきりのあとあかりはつけつばなしにされ、私たちは卓球をやりました。 飛んだり、さもなかったら、ただ貿易風にのって滑空したりできたときどき彼のほうを見ましたが、ずっと彼の目は見ひらかれて、お んです。私にはほかの女の子のことはわかりませんでしたし、ほかびえていました」ジェニーはロをつぐみ、床を見つめた。 の女の子には私のことはわかりませんでした。あの子たちがするこ医師は席を立って、診察室のむこう側にあるあかりのスイッチを いれたそれからガラス戸棚のところでせわしそうにしながら言っ とで、私にはできないことがたくさんありました。泊まりこみ。′

9. SFマガジン 1975年3月号

と、まあ、無事平穏ないつものくらしに戻ったわけである。 「贈り物ですか」 とたんに電話が鳴る。 と訓かれた。 「はい半村です。なんだ君か」 「いや、自分で使います」 中央公論の横山である。ふしぎなことに彼と私は高校時代の同級「では」 生。横山と呼びすてにしては悪い。部長殿だ。 と言って手早く包んでくれたから、千円札を四枚だすと変な顔し 「判ってるよ。今月だろ。うん、きめたよ」 てる。しまった、と思って値札をもう一度見なおすと、 14000 彼の雑誌に書かせてもらうことにきまっている。その催促 : : : と だった。それなら買わなかったのに : いうか、だいたいどこでも注文をくれたあと、締切りのだいぶ前に そのローズウッドの箱へ書いた原稿を一枚すっ入れて行く。書き そういう確認の電話をいれて来る。書く内容はきまったかというおおわると = トコトゆすってやる。そうすると原稿がすぐ綺麗に揃 たすねである。 。机から立っときは、原稿用紙をいれておく。とても便利であ 「飲みに行こうか」 る。 私は眉の請求書を横目で見ながら言う。彼は仕事でいそがしいら その箱から原稿用紙を出して手前へ置いたのだから、これはもう 戦闘開始の合図のようなものだ。おもむろに箱の右にある木のペン 「それじゃまたにしよう」 皿から万年筆をとる。ペン皿もローズウッドだ。箱に合わせてあ 私は電話を切る。締切りに半月も間があって、編集者とそういうる。ただしこれは贈り物。万年筆のキャップを外し、インクの量を 電話をするときがいちばんたのしい。これがあと十日もしたら、借すかして見る。モンプランの 149 だ。私はとても図々しいところ 金の取りたてをくらっているような気分になるのだ。 があって、五年ほど前、。フロの小説書きになってやろうと決心した 「さて : : : 」 とき、いちばん最初に原稿用紙の紙質と万年筆の組合わせを研究し 私は机の上をかたづけて、前の箱から原稿用紙を取り、箱の手前た。たくさん書くのだから楽に書ける。〈ンと原稿用紙を持とうと思 へ置いた。その箱は多分重役室の書類入れに使う奴だろう。既決、 ったのだ。その研究の結果、紙は中質、ペンはこれときめた。中質 未決の書類をいれるあの蓋のない平べ 0 たい箱だ。材質は 0 ーズウ紙の原稿用紙など、今どきどこにも売 0 ていなか 0 た。みんなも 0 。いっか銀座の伊東屋でみつけて、 いいなと思った。私の原稿といい紙を使っている。でも、太めのペンでインクの吸いがいい紙 用紙の大きさにビ ' タリなのた。値札を見ると 4000 とある。しに書くのが一番楽だ 0 た。それで紙を買い、印刷屋に刷らせた。原 めたと思って、 稿用紙の隅に名前を入れるのは気がひけたから、「苺山人」と入れ 「これくたさい」 た。イチ、ゴ、サン。みな賽の目の半である。以前から俳句を作る と一一一一口うと、 ときその名を使っていた。そう言えば、俳人眉村卓はどんな名を使

10. SFマガジン 1975年3月号

「さあね。何しろ相手は宇宙人だ。判るもんか」 しいや信じにくいだろう。その上もし見に来てくれたとしても、 その時にはあるかなきかの大きさになってしまう。ひょっとすると 「焼けはじめたぜ」 4 消減してしまっているかも知れない。 私は箸を取った。 「うん。タレの味はまあまあだな」 私たちはそこで誰にも報らせずに帰ることにした。その決定でと 腹が減っていたし、肉は上等だった。ワインを飲み、肉を食い りわけほっとしたのがこの私である。理由はまず第一番に、私がそ パンをちぎって、四人はさかんに食べはじめた。 れを自分の秘密にして置きたかったからである。亜空間の存在を確 「こうなったら、もうどうにでもなれさ。人生のコツはそれだよ」 認した当初から、そういう気分が根強かった。この亜空間が奇現象 私は先輩ぶってそんなことを喋ったようであった。 の一種だとして、誰がわがいとしの奇現象を他人に手ばなすことが しかし、まんざら判ったふりのお説教ではないつもりであった。 できようか。好きならこの理屈抜きの気分を理解してくれるだ どうにでもなれと肚をきめる以外、どんな手だてがあるというのろう。 た。たいいち、警戒のしようもないではないか。それに、私につい しかしそれは第一にあげたけれど、あくまで気分のことであっ て言えば、なぜ自分が亜空間要塞の秘密を暴けたのか、まるで見当て、人に報らせたくない具体的理由はほかにあった。何しろ都合の もっかないのである。 悪いことに私は作家なのである。植物学者が山奥から出て来 て、新しい植物をみつけたと呶鳴れば誰でもああそうかと思うし、 天皇陛下がゴム長をはいて、新しいウニの仲間をみつけたと海岸で のたまえば、ああ畏いきわみと感心するだろう。でも、作家が 伊豆旅行から帰って来て、亜空間みーっけた、などと言ったところ 私たちは東京へ戻った。 例の小さな亜空間をそのままにしておいて、のんびり帰ってしまで誰が当たり前に思ってくれるものか。しかもちょっと調べれば、 ったことになるが、実際は翌日四人でさんざん議論をしたのだ。私それは私が小説で書いたのと同じ場所である。どんな冗談だろうと は真剣に森優を呼ぶことを考えていた。しかし、昼近くなって事情期待されるのが精一杯のところだ。 がかわった。フットボール型をしたあの小さな亜空間が体積を縮小 某作家が伊豆で亜空間を発見したそうである。そもそも亜 しはじめていたことに飯田が気付いたのである。そのために私たち空間なるものがいかなるものか、筆者はよく知らないが、ともかく は二時近くまで白浜で粘った。たしかに亜空間は縮小しはじめて いそれが事実ならビッグ・ニュースである。地球における自然現象の た。それもかなり急速に : 新発見であるばかりでなく、物理学にも大きな影響を与えずにはお 私たちは四人とも、はじめからこの問題を世間へ持ちだすことにくまい。またもしそれが今後拡大するとしたら、われわれ人類にと 悲観的な見方をしていた。当然だろう。恐らく誰も信じてはくれまって由々しい一大事である。しかし発見者は過去に今回の発見地と