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検索対象: SFマガジン 1975年5月号
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1. SFマガジン 1975年5月号

面へ撤退する。 理の具体案と、今後予想される政体について要求を掲げるととも 四月。征東大将軍仁和寺宮嘉彰親王ひきいる征東軍は江戸に入っ に、薩長側の意向に関しての質問状を提出した。軍事同盟は、戦後 の政体については基本的に、共和国であり、諸侯を議員とする議会 東海道鎮撫軍副総督、西郷吉之助は東海道、東山道、北陸道の一一一制を主張しながらも、暫定的に初代大統領は薩長側から出すことを 方面軍に対し、奥羽進攻を命ずる。 容認していた。さらに現下の戦闘に関しては臨時協商会議をもって 江戸市内に潜伏せる幕軍彰義隊は、官軍の後方攪乱に猛威をふる公平に万事処理することとし、双方より監視委員を出して一時休戦 う。薩摩藩江戸屋敷焼打ち、両国橋爆破、汐留の官軍軍需品集積所することを主張した。奥羽進攻軍総裁西郷吉之助、征東大将軍府参 爆破など相つぐ。官軍特務、必死の探索の結果、上野寛永寺内に在謀吉田稔麿、長州藩京都総務古高俊太郎らは、検討の要ありとした りし彰義隊本拠を発見、急襲。幹部を逮捕するとともに多数の証拠が、京都側では岩倉具視、有栖川宮熾仁親王、中山忠能らが猛反対 し、それに加えて大村益次郎、大久保利通、中岡慎太郎、桂小五郎 品を押収した。これより彰義隊による破壊活動下火となる。 六月。奥羽進攻の準備成った官軍は、奥州街道、水戸街道より続らの態度も極めて硬化した。岩倉らは天皇に要請して密勅を得、征 続と北上を開始した。征東大将軍仁和寺宮嘉彰親王は江戸に征東大東大将軍仁和寺宮に、奥羽列藩軍事同盟に対し、解体降伏を要求せ 将軍府を開き、北上軍の総裁は西郷吉之助。全軍を三個兵団に分しめた。ここに西郷吉之助は、進攻軍全軍に北上を命じた。 七月。奥羽列藩軍事同盟は、郡山盆地に大軍を集結した。また会 け、武田耕雲斎ひきいる右翼軍は水戸より棚倉、三春をへて岩沼に 至る。また奥州街道を進む中央軍は主力で西郷吉之助が直率し、さ津城に会津藩兵を中心とする新庄、中村、山形、梁川の各藩の兵を らに左翼軍として高杉晋作のひきいる奇兵隊を中核とする遊撃部隊入れ、一大防衛拠点とした。別に新潟、長岡方面に本庄、下館、亀 が、新潟へ向っていた。 田などの藩兵より成る別動隊を送って、この方面よりする高杉晋作 総兵力五万五千。さらに予備軍として一万二千が板橋、千住に待麾下の奇兵隊の進撃に当らせた。 機していた。 七月十一日。奥羽列藩同盟軍と奥羽進攻軍の最初の戦火は、長岡 ふきんで開かれた。この遭遇戦はごく短時間で終った。高杉晋作の これより前、幕軍の江戸放棄が決定されるや、仙台主、伊達宗ひきいる奇兵隊はさすがに強く、約千二百の兵力をもって三千の同 基は盛岡藩、久保田藩、庄内藩、米沢藩、会津、白河藩等の奥羽盟軍を潰減せしめた。その余力をかって、奇兵隊は十三日には喜多 大藩に呼びかけ、新たに奥羽列藩軍事同盟を結成し、議長に会津藩方方面へ進出した。この報を受け、官軍の右翼軍と中央軍は強行軍 主松平容大を戴き、参事に白河藩主、阿部美作守正静、米沢藩主、 につぐ強行軍をもって岩代に入り、さらに右翼軍は海岸伝いに北上 上杉式部大輔茂憲を推し、薩長に対抗する構えを見せた。 し、相馬中村ふきんに進出した。この中村より内陸に入り、阿武隈 奥羽列藩軍事同盟は、文書をもって征東大将軍仁和寺宮に戦後処川沿いに南下、郡山盆地に布陣する同盟軍を、北上する中央軍とと こ 0 2 ー 4

2. SFマガジン 1975年5月号

先鋒とする官軍海兵隊は、突如小田原ふきんに上陸。腹背に敵を受 けた幕軍はついに防衛線より撤収、箱根の尾根伝いに相模国松田よ り厚木ふきんに後退。由って官軍は馬人川の渡河に成功した。 一八六七年。慶応三年。官軍は東海道、東山道、北陸道の三方面さらに東山道を進んだ官軍は、これと相前後して上州高崎辺に進 出。西北方より江戸に匕首を突きつけるに至った。 より江戸に迫る。 これにより、江戸周辺に在りし幕軍は江戸城守備の困難を感じ、 三月。河井継之助指揮する桑名、彦根、越前、高遠の兵を主力と する幕軍、箱根に布陣。七日八夜におよぶ猛攻をもってするも、官防衛軍総司令山岡鉄太郎は江戸城放棄を決意。将軍徳川慶喜は江戸 軍、箱根を抜くことあたわずしかして坂本竜馬ひきいる海援隊を城を脱出、水戸へ向う。幕軍約三万は荒川を越え、下総より常陸方 幻 3

3. SFマガジン 1975年5月号

巨弾連載第七回 征東都督府 光瀬龍画土石井三春 慶応三年、四月 官軍は江戸に入った 江戸城を放棄した幕府軍は常陸方面へ徹退し 奥羽列藩軍事同盟の結成を計った そして六月一一雌雄決すべく官軍は北へ向かう 幻 2

4. SFマガジン 1975年5月号

S F はあらゆる破減を描く ! 《 s F シリーズ》 3045 3056 3062 3064 3069 引 70 引 74 引 82 3 幻 9 3220 3247 3252 3258 3269 3277 3279 3302 3 引 4 巨目艮 宇宙戦争 マックス・エーノレリッヒ H ・ G ・ウェノレズ 第四間氷期安部公房 超生命ヴァイトン E ・ F ・ラッセノレ 破減へのニ時間ピーター・プライアント 太陽自殺工ドマンド・クーノヾー 人類皆殺し 大地は水に 鋼の荒野 コロサス コマンタ・一 海が、消えた時 1 トーマス・ M ・テ、イッシュ G ・ R ・スチュワート へノレベノレト・Ⅵ「・フランケ D ・ F ・ジョーン . ズ ピーター・ジョージ C ・ E ・メイン 地球地獄リヒャルト・コッホ ノ、リイ・ノ、リスン 人間カヾいっ ( よい 草の死ジョン・クリストファー 長く大いなる沈黙ウイルスン・タ ツ . カー 大破壊 山椒魚戦争 JA33 復活の日 《ハヤカワ文庫 JA 》 ジョン・クリストファー カレノレ・チャベック 小松左京 《日本 S F ノヴェルズ》 復活の日 小松左京 かれらの中の海眉本寸卓 《ハヤカワ・ノヴェルズ》 地球最後の男リチャード・マシスン アンドロメダ病原体マイクル・クライトン 見込みない重子アントニイ・ノヾージェス Y250 Y300 Y320 Y360 Y290 Y290 Y530 Y880 Y850 Y750 780 Y370 V 680 Y560 Y330 Y400 Y430 Y320 360 Y 420 Y350 Y290 Y450 Y270

5. SFマガジン 1975年5月号

虫のかたちの宇宙 のロープで、ぎりぎりと鉄球を引きあげていた。 その宇宙が目には見えないスビードで クレーンが大きく動き、鉄球が壁に叩きこまれた。 しだいしだいに膨張して行く あっけないもんだな。 それに気付いたことはないか 鉄筋もないしな。 遠巻きにしていた野次馬の中から、そんな声がきこえて来た。 夜の道 あ、じいさんの部屋だ。 轢かれた大の腹 何もないな。 ばっくり裂けた傷口のなか しいさん、どこへ越したのかね。 またたく星空を見たことはないか 知らないなあ。 そんな声々の中、黙りこくって眺めている人びと。 行きすりのホテル その人びとの目には、いま、崩れた煉瓦のむこう、くつきりと、 暗闇の部屋 立方体の星空の、姿を現わしはじめるのが見えていた。 大きくひらいたロ腔の中 鉄球が振られた。 星空を見たことはないか 星空を過ぎる。 あの星空の立方体の、ちょうど土台のあたり、あのあたりに道路 舗道を覆う星空の群を見たことはないか が延びるだろう。 野山を覆う星空の行進を見たことはないか そして、その道路の上を、星空を通過し、たくさんの車が走り抜 けるだろう。 そして、星空は、しだいに膨張するだろう。 空には、わずかな残照があり、古い煉瓦造りのアパートの影は黒この街に星空の巨大な立方体が林立するだろう。その立方体から 黒と浮かんでいた。 星空を詰めた人びとが流れ出るだろう。 人びとは黙りこくって、鉄球のスイングを眺めている。 その背後には、カープして延長して来た高速道路の影が、大きく のしかかっていて、舗道にどっしり腰をすえたクレーン車が、鋼鉄 幻 0

6. SFマガジン 1975年5月号

「どうしたんだ ? 友だちと喧嘩でもしたのか」 「ぼく見たんだ」 「ちがうよ。ただ : : : 」 「そうか。じゃ、知ってたんだな。お父さんが帰って来るときも、 道路いつばい、たいへんな血さ。近所の店の人たちがみんな、水を 「ただ、何なんだ ? 」 子供は、ちらっと母親を見てから、幾分、声を低めて父親に言っ流して洗ってたがね。あの、おじいさん、そんな犬を、大事に抱い て帰ったんだってな。だから、ずっとアパートまで、血の跡が続い てたいへんなんだが : : : 」 「あの、不思議な虫のこと」 子供は、じっと目を伏せていた。 「不思議な虫 ? ああ、例のじいさんがくれたやっか」 「うんー 「あの、じいさんと言えばな、さっき、ひどい目に会ったようだ な」 きみは老人に出会ったことがないか 「ひどい目って ? 」 老人の目を見たことがないか 「じいさん、雑種の犬を飼ってたんだが、そいつが車に轢かれたら老人から虫をもらったことはないか 虫を割ってみたことはないか 「うん」 虫のかたちの星空 「うんって何だ」 以好評重版出来 ! 工 ヴ ノ ワ カ ャ 地獄の家 ( 映画化名 / ヘルハウス ) リチャード・マシスン / 矢野徹訳 一面に立ち込める緑色の霧の中に、巨人のように そびえたつべラスコ・ハウス。過去に二度の調査 隊を受けいれ、一人を残して皆殺しにした地獄の 家 ! その謎を探る四人の男女は得体の知れぬ幽 。正統恐怖小説 霊現象に翻弄されるのだった・ : の傑作 ! 二十世紀フォックス映画化。九三 0 円 209

7. SFマガジン 1975年5月号

て、ぐっと胸に押しあてるようにした。ちょっと悲しそうな目をし ていたが、怒っているようには見えなかった。 はねた車は停っていたが、老人がそのまま人混みを抜け、ゆっく 翌日、子供は学校から帰ると、すぐに外へ飛び出して行った。 りアパ 1 トへ歩きはじめると、排気ガスをふかして走り去った。 昨晩、父親に教えられた、煉瓦のアパートへ行ってみよう。 「ねえ、大丈夫 ? 」 なぜか、自分では分らないが、また、あの虫を飼いたくなった。 ア′ 1 ト の前で、うろうろしたが、どこが老人の部屋か分らなか子供は言った。 老人について歩いていた。 そのとき、キキッとタイヤのきしみが、道路のむこうできこえて「うん、うん」 「ねえ、大丈夫かなあ」 来る。 「うん、うん」 キャン、と大の悲鳴がきこえた。 老人は、ただ軽くうなずき、はっきり答えを返さないまま、いく 向うの角に人だかりが出来る。 らか片脚を引きずるように、アスファルトの上を歩いて行く。 事故みたいだな ? 「ねえ、死んでるみたいだよ」 走って行って子供は見た。 茶色と黒の雑種の犬が、道路にべたんと倒れていた。あの老人が「うん、うん」 傍らにいて、じっとそれを見降していたが、やがて両手で抱えあげ「あ、ずいぶん傷がひどいよ」 本年度ノドベル医学・生理学賞受賞 コンラート・ローレンツの名著ー 日高敏隆訳 6 3 0 円 " ソロモンの指環 早川書房 207

8. SFマガジン 1975年5月号

あの、おじいさん、いつもモヤシね。 なところにとりついてたりしたが、部屋から出ることはないようだ そう言えば、そうだね。モヤシは安くて栄養がある。 何してる人だろ。 やがて一週間ぐらい経った頃に、虫はノートの上で死んでいた うん、最近、なんか、やってるみたいだね。まあ、趣味みた が、子供はそのまま棚の上に、虫の死骸を乗せておいた。 虫を買った翌日には、夜店は終ってしまったから、あの老人に出 いなもんだろうが。きっと年金かなんかで暮していて、ずっと、な 会うこともなく、子供も、むろん、その父親も、すっかり虫を忘れんにもしてなかったけどね。 てしまった。 通りをへだてた八百屋の前から、そんな会話がきこえて来た。 最近は何をやっているの ? うちにミカン箱、分けてくれって、ときどき来てね。虫カゴ それから、およそ、ひと月経った。 みたいの作っちゃって、ぶらさげて出ることが、たまにあるね。 土曜日で会社が早く終り、まだ明るさの残っている街を、父親は カプトムシか何か、ふやしてるのかな ? 家へ向っていた。 まあ、そんなところだろう。あれは、わりと、いい商売らし おや、あの老人だな ? いよ。ま、なんか、やってなきゃね。誰もたずねて来るわけでな 父親は思う。 高速道路がカー・フを切って、近くの川に向うために、取り壊しを あら、息子とか孫とかいるでしように。 いるだろうが、見たこともないな。ま、きようびは、年寄り はじめた街の一劃、古い煉瓦造りのアパートがある。いまでは、窓 に板を張ったり、雨のしみがひろがったりして、すっかり見るかげのめんどう見るの、はやらないしね。 あら、あれは、はやりすたりで、やるものなの。 もない建物だが、むかしは、きっと飛びきり洒落た、建物だったに ちがいないな。 八百屋の前で笑い声がはじける。 そう、ときどき思って眺めて通るアパ ートの中へ、小さな新聞紙ひどい話だが、それも真理さ。 父親も苦笑し、歩きはじめる。 の袋を、大事そうにかかえた老人が、道を横切り、消えて行った。 しかし、あの老人、あまり、さびしそうには見えないな。あのア 老人の後を茶色と黒の、尻尾の垂れた雑種の大が、とことこ歩い ートも、もう何日かすれば、きっと壊されてしまうだろうに。 て、ついて行った。 し。 2

9. SFマガジン 1975年5月号

「クソムシなんて、へんな名前」 じっさい虫が臭うわけでもないし、幸運の虫なら、持っててもい 「そう、動物のフンが好きだからね。エジプトならラクダ、そいっ のフンを、くるくるまるめて転がして集める。ああ、スフンコロガ ふたたび、父親が軽く笑う。 シっていうのも、そいつの仲間だ」 「それに、あの、おじいさん、催眠術師かも知れないぞ。なんだ 「ふーん ? なんだ糞虫かあ。でも、どうして、これが不思議なんか、じっと見つめられると、だんだん、虫が欲しくなったろ」 だろ」 「うん、そう言えば、そうだね。でも、ただなんだから、 しいと甲ル うな」 「灯りに向って飛ばないってのもフンを集めるには飛ぶ必要がな そういう理由かも知れないじゃないか ? 」 「うん」 子供はちょっと立ちどまって、掌の中の虫を眺める。やがて、ふ たたび、歩きはじめる。 %NW-SF 東京都杉並区堀ノ内 1 丁目 6 ー 6 柏倉マンション 3 0 4 NW—SF 社振替東京 114552 雑誌コード 7013 お待たせいたしました 、、 V—S F10- 号は 創刊五周年記念特大号なのです。 4 月 1 日一斉発売 / 10 万定価 450 円送料 100 円 ☆創作特集 黒井千次 真夜中のニュース 書評「加納信高」 半村良 猿と大日如来と蒸気機関車 中村宏 石川喬司 穴のなかの冒険 流れガラス S . R . ディレー ☆中篇ⅱ 0 枚一挙掲載 ラングドン . ジョーンズ レンス・の目良 虫 ☆ J. G . パラード第三特集 机をど 独占インタビュー パラード / 国領昭彦に放 国領昭彦いしが ・会見言己 たて不 評論 : ヴァギナを使え J G. パラード りお思 イ乍品 : 火山は踊る J G . ′くラード 壁たか 連載評論 透視あるいは物質界への射影幾何学く下〉い ら な 田中隆一た A. C. クラークと B. W. オーノレディス が く小説世界の . 小説ー 3 > 山野浩一 天 共産主義的 S F 論く 8 > 大久保そりや井子 連載長篇 は カ 時は乱れてく 4 > P . K . ディックレ 自 佐野美津男ン分 街の冒険者く 2 > の ☆′ヾックナンノく一は 4 号から残っております。 4 号 ( 250 円〒 100 円 ) 特集ーーー内宇宙の迷宮を さ 止な 5 号 ( 300 円〒 100 円 ) ノト説特集 6 号 ( 300 円〒 100 円 ) J. G ノヾラード再び / ロ 屋 7 号 ( 350 円〒 100 円 ) 英米ボーランド三人集た 画 8 号 ( 350 円〒 100 円 ) 特集ーーーいかに終るか 9 号 ( 400 円〒 100 円 ) 特集ーーー S F クリティク ☆ 4 号残部少。本社まで直接お申し込み下さい。 も ん 205

10. SFマガジン 1975年5月号

そう言えば、さっき、持ってけば分る、そんなふうに老人は言っ をあけ、小さな黒い甲虫を一匹、掌に乗せて取り出して来た。 こ 0 「何かな ? 」 「ふーん ? 」 二本の指で、つまみあげて、子供は父を振り返った。 「うん、甲虫類にはちがいないが、何ということもない種類だな子供は、しばらく首をかしげ、父親、虫、老人と見る。 「じゃ、・ほく、もらってくけど、どこが、いったい不思議かなあ」 あ」 「そうだね。まず、第一に不思議なことは、この虫は、ほかの昆虫 「クワガタのメスでもないみたいだし、ホタルでも何でもないんで のように、灯りに向って飛んではいかない」 しょ ? 」 「ほんとう ? 」 「ホタルなんかより、きれいな虫だよ」 「そう、ほんとうさ。何なら、掌に乗せててごらん。どこへも飛ん 老人が、そう声をかけて、じっと子供の目を覗きこんだ。 でいかないから」 「きれい ? この虫が ? 」 「ああ、ほんとうだ」 「そうさ」 「第二に : : : まあ、それはよしておこう。きっと、いまに分るから 「ふーん ? 」 いぶかしそうに首をかしげ、裏表、虫をあらためてから、子供はね」 「ふーん ? 」 ふたたび老人を見る。 子供は虫を掌に乗せ、父親と一緒に家路をたどる。 老人の目がじっと見返す。 どことなく深い、どことなく虚ろな、それでも陰気な感じはしな街灯の下を何度か通る。 たしかに虫は飛んで行かない。 、そんな感じの目の光だった。 いきなり軽く父親が笑った。 「いくら ? 」 「そいつはスカラベ・サクレじゃないかな ? 」 やがて子供が言った。 「スカラベって何 ? 」 「ただ」 「スカラベ・サクレって虫さ。エジプトなんかじゃ幸運をはこぶ神 老人の目がすっと笑う。 聖な虫で、その虫のかたちのアクセサリーが、すいぶん古代から、 「ほんとに、ただ ? 」 あるみたいだけどね。まあ、いうならば糞虫の一種さ」 「そうさ」 8 っ 4