「あたしだっているじゃない。だけど、どうしてあんなひどい時代「そりや、もちろん、契約書にサインして、海にもどった」 のことを思いだしたいの ? 」 苦虫ジョンはあっけらかんとした顔をした。 「いい考えがあるよ、ポニイ。青魚亭を買いもどすんだ。あまり経「どうしてわかった ? おまえさん、また当てたそ。どういうこと 営状態もよくないようだし。そこに住んで、ぼくら二人でやろう。 になってるのか、わしにはさつばりわからん。まあ、とにかく、海 そうすれば、蛇や猿や鳥をおく場所もできる」 にもどっちまったわけだ。こりやどう見たって、美しい女房と子供 「ええ、動物たちをおく場所はできると思うわ。だけど、子供たちらとまっとうな生活を捨てて、きたない海に出ていったとしかいえ はどこに住むの ? あそこは子供たちを育てる場所じゃないわ。あんだろう。信じられんことだ」 たしが育ったんだから、わかるの。ねえ、あなた、あんまり無理は「今はどうしてるね ? 」 いわないで。この三びきを持っていって、どこかへおいてきて。そ「神のみそ知るさ。文字通りの意味でな。当然、死んだよ。もう一 れから、海なんかもうないんだということを忘れないでね」 年になる。海の男が片端の女と結婚して、いつまでも生きてるわけ ところが、この三びきを海の男たちに売りつけようと青魚亭に行にはいかんだろう ? 」 くと、海はまだちゃんとあったのた。むかし馴染みがたまたまそこ 「ポニイのほうは ? 」 にいて、ちょうどその晩、港を出る船の一等機関士をさがしてい 「きようの午後、会ってきたところさ。何もかもがおこったのは、 た。三びぎの買い手はなかなか現われなかった。 この港だからな。ポニイは世界地図と鉛筆と紐をひつばりだしてい 賞金でもつけないかぎり、引き取ってくれるものはいそうもなか た。この国で海からいちばん遠い町をさがしだす気なんだ。 った。だが、そんなことはできやしない。自分の子供に賞金をつけさびしそうにして、死んだモイシャを懐しがっていた、今までの ビアノ るよりなお悪い。子供より長いあいだいっしょに暮してきたわけだ亭主のだれよりもな。だが、なんとすばらしい女だろうー し、彼らはモイシャの分身みたいなものだった。とにかく買い手はの先生をしながら、子供たちを養ってるんだ」 モラル つかなかった。家に帰って売れなかったと妻にいうこともできん。 「この話には何か教訓があるのかね ? 」 ィモラル 「あるものか。これは不道徳な話だからな。わしには謎だよ。ふつ 「モイシャは店を出ると、このジレンマをどうしたものかと考えな うなら男は、りつばな家庭を捨ててまでして、あけっぴろげの墓場 がら、すわりこんで海をながめた。そのとき、むかし馴染みが ( そにいすわるものじゃない。子供たちを残して下水を下るようなこと れがたまたま、わしだったわけだが ) 」と苦虫ジョンはいった、「店はせんし、自分に首ったけの美しい妻をはらいのけて、汚物だめに から出てきて、その晩出港する船の一等機関士がいないんで困ってのりだしていくもんじゃない。取引の見返りとして、自分がまもな るといったわけさ。 く死ぬとわかっていればなおさらのことだ。 すると、モイシャはどうしたと思う ? 」 ところが、そのとおりのことをやっちまったんだよ」
に彼女が肘鉄をくらわせた連中のうち何人かの名前をきいてみるがもの。結婚のプレゼントに何をくれる ? 」 「ぼくにあげられるのは、胸ぐらの蛇だけだな」 モイシャが青魚亭にやってきた日は、ちょうどオグルズビイが海「まあ、格好つけちゃって」 に出ていった日だった。ハネムーンは終っていたし、もう海にもど そこでモイシャは、シャツの中から蛇をとりだした。 らねばならない時期だったのだ。ポニイは今では、だれにもかれに 「あら、ほんとの蛇だったのね。それをあたしに ? こんなすてき も愛想がよかった。ところがモイシャにだけは、相変らずトゲのあなプレゼントもらったのはじめてよ。なんという名前なの ? るいいかたをするのだ。 「うん、ただの蛇さ。ウラーだ、外国の蛇だから」 こうしてモイシャは、蛇を両手にかかえた娘を残し海に帰った。 「亭主を持って一週間よ。もう男なしじゃ、生きられそうもない だれもが予想したとおり、ポニイは十六の年にはやもめになって わ。町にいるあいだ、あたしのとこにいてよ。あんたが行っちゃっ いた。海の男が片端と結婚すると不幸になるという話は、冗談でも たら、べつの男をとっかえひっかえくわえこむから。そのうちオグ なんでもなかったのだ。結婚してから破減するまでに時間がかかる ルズビイが帰ってきて、そしたらまた一週間いっしょに暮すという わけ」 ことは、めったにないな。オグ・ハーン家の男がみんなそうだったよ 「そんないいかたするものじゃないよ、ポニイ、冗談なのはわかつうに、オグルズビイも海で死んだ。たあいのない病気で、気分がわ てるけど」 るそうな顔をする暇もなかった。モイシャの耳にはいったのは、何 週間もたってからだ。急いで母港に引き返した。 「でも冗談かどうかわからないじゃない。わかりつこないわ」 手遅れだった。ポニイはまた結婚しちまっていた。 「天使みたいな顔をして、どうしてそんな口がきけるんだ ? ー あ「来るだろうと思ってたわ。あんたならいいなという気はしてた 「対照の妙というやつよ。このほうがおもしろいと思わない ? の。でも、いつまでたっても来ないし、夏は半分終っちゃうし、だ んたが人妻を追いまわすような男だとは知らなかったわ」 「そうじゃないよ。だけど、ああ、ポニイ ! どうしたらいいんだ ? 」からポリカープ・メリッシュと結婚することにしたの。それでも、 「そうね、あんたに何もかも捧げようとしたことはたしかだわ・こ いくらかは後悔してるのよ。彼ったら、ウラーをいっしょに寝させ れ以上、あたしには捧げるものはないわ」 ないし、親指をかんだというだけで殺しちゃうんだもの。 でも、 いいこと教えてあげるわ。ジンクスとか何やかやで、ポリ それから何日かして、モイシャが港を出るとき、二人はまた話し あった。 カープは何カ月も生きてないと思うの。来年になったら、なるべく 「あんた、結婚のプレゼントもくれないし、しあわせにねともいっ早く来てよ。春のいちばんいいころに結婚したいから。そのころに てくれてないじゃない。あたしたちには、そういうものが必要なのは、ダブルやもめになってるわ」 こしても、そんないいかたってないぜー よ。海の男が片端の女と結婚すれば、不幸になるにきまってるんだ「ポニイ、冗談冫 、、 0 3 4
空間へ連れ込んだ。 物とその向かい側の > 字形にへこんだ前面をもっ建物・ : まったくここは変形建築物の見本市のようなぐあいであった。し着ていたのはパジャマだ。ホテルに入って仕事をするときはいっ も濃い・フルーの半袖のパジャマを持ってゆく。それは寝てもしわに かし全体は重厚である。 ことにその曲った道の辻々にある街路灯は濃い青に塗った八角のなりにくいきじでできており、室に来客があってもそのまま面会で きる重宝なパジャマであった。 鉄の柱で支えられ、ところどころに真鍮の金具が重い光を放ってい こ 0 たがルームシューズまでは持っていない。まして私は夜ふけにチ ャイムを鳴らした邦子を迎えるのに、べッドからドアまで素足で歩 「ヨ】ロッパの街だな」 いていった。 私がそう言うと、邦子は、 窓の外に浮いた円盤が緑色の光の板を私に放射したとき、だから 「そんなことないわ。だってあれ見てよ」 と曲った道の先を指さした。気がつくといつのまにか陽が落ち私は素足でいたのだ。それがなんと、いまこの街を歩くとコッコッ と靴が響くのだ。 て、夜の闇がしのび寄り街路灯に火がともっていた。 私はびったりと足に合った立派な靴をはいていた。歩くときの感 「どれ : : : 」 私は邦子が指さす方をすかして見た。いつも細かい文字を読んだ触と、街灯の光を受けた色つやで、その靴の皮はコード・ ( ンだとわ かった。おまけに濃紺で杉あや織りのスーツを着こんでいる。どこ 、悪い姿勢で長時間字を書きつづけている私より、邦子の方が目 といってとりたてて派手なところはないが、こういう石畳の重厚な 力いいらしく、そこからではまだ私にはよく見えなかった。 冫をしかにもふさわしい服装であった。ワイシャツは白。 街を歩くこよ、 「行ってみよう」 ネクタイはやや幅の広めの青色に近いものだった。 私たちは並んで道を歩いていた。 と、そこで私はまたまた奇妙なことに気がついた。小説ではいっ邦子は私の左腕を右手でかかえ込んで歩いている。彼女はワイン しさ実際に起こレッドのシックなワン。ヒースを着ており、靴の色も同じ赤だがドレ もそういう奇妙なことばかり書き並べているのに、 : スよりはやや暗い赤色であった 9 ってみると腹立たしいほどの理不尽さを感じるのだ。 着せ替え人形にされちまった・せ、と言おうとしたが結局私は言わ 「こんな馬鹿なことがあるか」 なかった。不可解なことが起こるたびにいちいち口に出していては 私はロのなかでそう罵った。たぶん、私の小説を読んだ人のなか に同じような呟きをもらして本を投げ出した人々がいるに違いな始まらない状況であった。 しや入ったらしい時点から一度失った薬、舗道はぬれたように黒く光り、私の好みにびったりの素敵な街路 、。私は亜空間に入って、、 指の第一関節を回復した。だがそのとき私はホテルの部屋にいてべ灯がそれにやや赤つ。ほい光を投げかけている。 : やつばりそうか」 ッドの上に横になっていたのだ。・そこへ邦子がやって来て、私を亜「ドレスデン。・ 3
られたというわけではありません。ただ、その贈り物が、そんな生わたしどもは苦労して馬車をもう一度上に出しました。まだ野営 得権を持たぬ人びと、わたしどもの飢えや、わたしどもの血となんしてまもないのに荷を曳かされて、どの馬も不機嫌に鼻を鳴らしま のかかわりもない人びとにも与えられるようになった、ということした。けれども、月は静かな場所ですし ( わたしどもは、このお耳 ざわりな年寄りのしわがれ声をはしめ、どんな声とも縁を切って、 です。 身ぶり手まねで話しあっていました ) 、石の上を木が転がっても、 そして、ジプシーは嫉妬ぶかい生き物なのです。 危難がわたしどもの上に降りかかったのは、海をなかば近くまでその音の聞こえる気づかいのない場所なのです。それなのに、ふり 横切ったときでした。わたしどもは海の、表面にすりばち穴を見つけかえってみると、宇宙飛行士の自動車はわたしどもを追ってくるで 大きな窪はありませんか。ちょうどそれは、狼が餌にありつきたさに、野良 て、そこに野営しました。馬車の中よりも寝心地のいい、 地なのです。月の上でのあの夜、だれも張り番に立つものはなかっ犬をまねてすりよってくるようでした。ほんの一口、食べ残しの一 た。そんな必要はないからです。けれども、わたしは眠りの浅い老ロでいいから、と狼は訴えます。そして、それをもらえないと知る 人なので、あなたがたがモジ = 1 ルと呼んでいるものがまっ暗な空と、いきなり前へ走っていって、馬のけづめに咬みつくのです。 月面車もそれとおなじでした。わたしどもの後を追いかけ、そし から降りてきたときは、そのほとんど一部始終をこの目で見てしま いました。巨大でずんぐりしたしろもの。それがしょぼしょぼと火て追いこすと、その金属を震わせながら、キャラバンの行く手を通 を吐きながら降りてきます。ぶざまな銀色の蛸にも劣るぎごちなさせん・ほしたのです。おどろいた馬。いっせいに声のないいななきを 上げます。 で。 わたしはすりばち穴の縁までよじ登り、痺れるような寒さの中先頭の馬車のルドルフォの隣にすわ「ていたわたしの両手の上に も、太ももの上にも、馬が蹴立てた砂・ほこりがふるいにかけたよう で、馬たちの中に混じってそこに立ちつくしました。 につもりました。巨大な月面車。それは、わたしどもの進路へ大石 モジュールは野営地からほんの数キロのところへ着陸しました。 わたしがジプシーの砦の胸壁に立 0 て、黒い空虚の中を見すかそうのように立ちふさが 0 ていましたが、その大石はいまにもばっくり としはじめてからものの三時間もたった頃ーー・ようやく銀色のしみ二つに割れて、肉体をもたぬ悪霊の群れを解き放っかのようでし こ。レドルフォの顔は地球の投げかける青味がかった光の中で土気 が一つ、お碗形の海底の縁を転がりおりてきました。それはなんとナノ 醜いしみだったことでしようか。とうとうガーゴは月面を走る自動色に見えたので、わたしは彼の膝をそ「と押さえました。 おちつけ、と目顔で知らせたのです。 車を発明したのです。その昔アベニン山脈を唸りながら登り降りし な・せなら、月面車の翼に似たドアから現われた悪霊どもは、すこ た装甲車のように、それは近づいてきました。わたしの一族はつね しも危険に見えなかったからです。どちらの男もかさ高な服とヘル にそうしたものを怖がります。そこで、わたしはみんなを起こし、 メットを着こんでーー、それを見たとき、わたしはくたびれた政府の そこを逃げ出すことにしました。
すから、アホらしくなってきます。でも、その時「宇宙船」がでてくるだけで、そのが、好きむけど、それよりの方が好きで、うちは年中 いっしょに書いた僕の作品 ( ? ) を紹介すると、 になってしまうんですから、われながら単純。さ本棚を作ってるのよ」って云うと、とたんに乗っ 「そのアンドロイドには、一つの欠陥がありましいきんは、視野が広くなり、ミ = ータントがでてて来て、「って初めは読み難いけど、面白い た。メダカという言葉を聞くと、狂い出すことでくるのも、好きになりましたが、やつばり、宇宙ネ = 。つい夢中になっちゃう」って話。これはこ す。ところが、彼の目の前にいる生物はメダカそ船がでてくるのが、好きなんです。 れはってんで、いろいろ花が咲いたけど、ついに つくりの生物でした。彼は、ついに狂いました。 宇宙船がでてきて、宇宙人がでてきて、そして誰だか判らずにうちへ帰ると、愛猫のシャムがギ 『ジョンジョロビ、ース ! 』」 ( ああ、首をくくなその星なんぞでてくると最高です。私がにヤオーンと出て来て、あっと思い出しました。 , 彼 って死にたくなったーーー ) さようなら。 ついては、何もしらないからだ ! もっと、もっ女ペット屋の小母さんだったんです。中年女の ( 宮崎県高鍋町六日町曾我部次夫方多田光 ) と、他のを読んでみろ ! なんて、他の人から、 C-V ファンなんて少いと思ったけど、いる事はいる おしかりをうけるかもしれませんね。そんな、私んですね = 。 私はいて座生まれの歳の少女です。宇宙につに、同意してくれる方、または、おもしろいそれと近頃口惜しい話を一つ。ローダン・シリ いて興味もっていたら、いつの間にか、フアを紹介してくださる方、お手紙ください。それとーズを、カッカッとして読んでいるのですが、三 ンのひとりになっていたのです。そのうち、星の形をした、砂をもってる方、ほんの少しでも週間許り待たされて、やっと本屋から「入りまし のうわさをきいて、買うようになっていて、私 いいですから、ゆずってください。 た」と云う電話。やれうれしやと、み方の買物序 はいつのまにか高校Ⅱ年生。 ( 北海道函館市深堀町絽の 3 遠藤しのぶ ) に寄ったら、「もう、とりに来られましたよ」と 私の好みとしては、「日本沈没」のようなもの 云うんです。「そんな。私が本人よ。本人が買っ よりも、宇宙をテーマにして、「宇宙船」がでて私、この頁を欠かさず読んで居りますけれど、ていないのに」って云ったんですが、帳簿を見せ くるのが好きなんです。それというのも、小学生近頃ずい分若い方許りのようで、いささか残念でて一歩もゆずらないのです。で、再びしつこく注 だったころ、読みかけだった「黒い宇宙船」これす。中学生迄いるのですからネ。それとも、一向に文出したら、今度は⑩は品切れでした。今、⑩を の結末が、今でも、気になっているしだいです。私が成長していないのかしら ? 何しろ創刊以来読んで了って非常に苛立っております。津田沼周 それで、宇宙船のでてくるが好きになったかの読者です。それを見つけてミステリーからあっ辺の人で、私の為にとってあった、⑩⑩を持って どうかは、さだかではありませんが、ほんとに、 さり転向した時は、某民放局のアナウンサーでし 広告 た。何でも知ったかぶりをする同僚に、「私、こ 広告ーーー 神戸大学研究会研究誌・発売中 んなの見つけたわ。面白いのよ」って自慢したら、 第十四回日本大会ニュース 「フン、マガジンね。前からあるよ」って云 ったけど、それが創刊号でした。以来、一年目位特集テイプトリー・短編 4 作 ( 計一〇〇枚 ) 神戸大会 (TÆ—zooz) 申込受付中。 に、この頁に投稿した為、二冊になって了った号付解説 \ 特集女流作家・ラス・マッキンタ 日時 " 8 月日 ( 土 ) ・日 ( 日 ) がある他は、毎月一冊ずつ殆んど欠ける事なく揃ィア・ Z ミッチスン・マカフリイ・ルヴ 場所】 - 神戸文化ホール イン ( 計一五〇枚 ) 付研究解説 \ 特集尺デ っているのです。 イレー一一ー・中編エンパイアスター完訳・短編 すでに決定した主なプログラムは、桂米朝師ところで、私の身辺には二人、マニアの女 ドリフトグラス ( 計二五〇枚 ) 付解説 \ ラ 匠ロ演「地獄八景亡者戯」 ( 四日 ) ・筒井康隆性がいるのです。一人は行きつけの美容院の女の フアティ・短編 2 作 ( 計六〇枚 ) 付解説 \ その 子、行くとの話許りしています。もう一人は、 作劇団欅上演「スタア」 ( 日 ) 等。 詳細は「案内書希望」と明記の上、円切手つい最近発見したのですが、或る日、おしるこ屋他・ショウ等 \ 謄写印刷 ( 印刷鮮明 ) 上下一一 分冊・計二六〇ページ ) \ 〒共六〇〇円 へ入ったら、顔はよく知っているけれど、誰だか ・同封、左記まで。 1 1 人 判らない中年女性に会ったのです。何となくあい \ 若干部頒布 \ 〒 673 の 03 ・三木市細川町 0 兵庫県姫路市大塩町盟の 2 252 ・米村秀雄 ( 書留・為替にて ) さっして、文庫本を持っているので、「何 ? 」と 南沢俊直方 TÄ—zooz 事務局 聞くとほん訳物のミステリー。「へエー、私も読
「海はみにくい」と苦虫ジョンはいった、「おかしなことに、それ等。植物は根もなければ、きまった形もない。岸はよごれ、すりへ に気づいたのはわしだけらしい。海をえがいた文章はごまんとあるっていく。生きているものが死んだものといっしよくたに横たわ が、そう書いているやつはひとりもおらん。自分の錯覚じゃないかる、あけっぴろげの墓場だ」 と思ってた時期もある、わしだけにみにくく見えるのかとな。だ「そりや、多少はにおうよ、苦虫ジョン、たしかにしまりもない。 が、よく検討したところ、ほんとうにみにくいのだとわかった。 だけど、みにくいとは思わんね。海がときどき見せる、あのとてつ あんなきたならしいものはない。汚水だめよりも不潔た。ところもない美しさは否定しないだろう」 が汚水だめにはつかろうとしないものでも、海には喜んでつかる。 「いや、わしは否定する。海には、見た目の美しさはない。単調 あのにおいは、ふたのない下水のにおいだ。ところが下水を旅するで、表情はせいぜい四つか五つ、その全部が下品だ。上にある空や ものはいなくても、海にはみんな出ていく。それに、しまりがな太陽は美しいかもしれん。それに接する陸地はきれいかもしれん。 この世であんなにしまりのないものも、おそらくないだろう。 だが、この古ぼけた下水だめそのものは醜悪だ」 改良しようにも、実際的な方法があるかどうか。汲みたすことはで 「では、どうしてそう思う人間が、あんたひとりしかいないんた きんし、ふたをすることもできん。見ないようにするだけだ。 海にある何もかもが、卑しいものばかりだ。動物は陸のより下「理由はいくつかありそうだな。一つは、これは前からそんな気が にが 5 3
り、深刻な様相を呈した。しかし、攻撃軍の大手門突破は不成功に 終り、翌二十五日は銃撃戦に明け暮れた。 二十六日。早朝より攻撃軍は大手門に対する攻撃を再開した。薩 摩、長州、宇和島、津和野、佐賀の藩兵よりなる攻撃軍主力八個大 隊は砲兵の援護射撃のもとに猛攻をつづけ、ついに大手門を突破し た。同時に各所で架橋に成功、堀を渡って城内に侵人した。 官軍の打撃力の中心は、その優秀な火砲装備にあったが、突入部 隊が城内に侵入するや、援護砲撃は味方に対する危険を考慮して発 砲をひかえた。このため、ふたたび戦況は混沌とし、城内に入った 官軍突入部隊はかえって敵の重囲の中に苦戦を強いられることとな った。この戦況下にあって民兵隊、および梁川、中村の藩兵は城外 に進出し、官軍突入部隊に対する増援、補給を断ち、突破口を閉鎮 する行動に出た。 戦いは昼夜を分たずつづけられた。二十七日、会津城本丸が焼け 落ちた。城内にあった官軍突入部隊は戦力のほとんどを喪い、城外 に撤退した。もはや会津城は砲撃と火災によって、要塞としての戦 術的意味を喪失していた。これ以上の籠城の困難を感じた防衛軍総 裁、会津藩主松平容大は城外における野戦を決意した。 しもり 二十八日。防衛軍は会津城を出て、会津の城下町を見おろす飯盛 山から背あぶり山にかけて布陣した。この移動を阻止し得なかった 官軍は、編成を整えるや、猛攻に移った。防衛軍総裁松平容大の本 営のある飯盛山をめぐる攻防戦は、屍山血河の肉弾戦となった。と くに藩主の親衛隊である白虎隊の奮戦はめざましく、数十回におよ ぶ官軍切込隊の猛襲を支えて、二十四時間にわたる戦闘で、隊員の 八割を失った。背あぶり山に陣を布いた新庄、山形、中村の各藩の 蕃兵四千はついに北麓に後退し、さらに大谷川方面へ転進した。 のだから、素数の知識さ えあれば因数分解して割 り出せるはずだ。これが 判れば、横二三、縦七三 の方眼用紙に 1 と 0 の列 を当てはめ、 1 だけを塗 ④①①① 機能をも持たせて遠距離送信を可能りつぶしてくれればメッセージが浮 にした。その記念行事の一環として、 かび上る。という仕組みである、 ( 図 この呼びかけ計画を実施したのだ。 を参照 ) 目標の一つに星団が選ばれた このメッセージは次の七項目が盛 理由は、計画協力者の一人、コーネルりこまれた。①二進法で表示した 1 大の宇宙生物学者カール・サガン博 からまでの数字②原子番号③ ZZ 士の計算によると、ここにはとくにの成分④ AZ< の構造⑤地球人の 星が密集し、惑星系をもっ恒星が三姿、人口、身長⑥太陽系の概念図⑦ アレシーポ電波望遠鏡の概略図。 〇万個はあり、二つに一つの割合で ただこれでも通信が成立するため 文明の存在する可能性があるからと には、いくつかの条件が必要だ。送Ⅷ いう。また 19 5 3 の方は、他の バルサーと異なり発信する電波の脈信出力四九 0 キロワットで到達可能 ⅲ 動が少しも減衰を示さず、知的発信かどうか、電波の波長をうまく合わ せてくれるかどうか、メッセージの の可能性もあるからだとのことだ。 最大の問題は情報を伝える言葉で意味が理解できるかどうかなど成功 への壁は厚い。そのうえは二万 ある。ドレーク博士らはコンビュ ターに使われる二進法 ( 1 、 0 の組一千光年、 JP1953 は二万四千 合せで全情報を表現できる ) の適用光年も彼方の遠い天体だ。首尾よく を考えついた。これなら地球人程度到達し、解読され、返事がもらえた の文明段階に達していれば理解されとしても、四万年以上も将来のこと である。 るはずだ。 こんな距離的時間的障害を克服す しかし、それでも宇宙人の受け取 るために、米国ポストン大のリチャ る情報は 1 と 0 が不規則に並ぶ暗号 ード・べレンゼン教授や、ソ連の生理 同然の信号だけ。それを解くカギを 学者エドワード・ナウモフ博士はテ 与える必要がある。そこで博士は数 レ。ハシーによる宇宙通信法をさえ、 字の数を一六七九個にすることで、 真剣に提唱しているほどだ。いずれ 解読のカギを与えた。この数は素数の方法にしろ、宇宙の知的生命との コンタクト計画は着実に進められて ( 一とその数自身以外に約数をもた 提供 ) ない数 ) のニ三と七三とを掛けたも いる。 世界みすてり・とびつく三 - -- , -- , , 一点 2
てしまった。ルースは暖炉のそばの椅子に身体を沈めた。少年たちが城主だから、・ほくは壁ぎわのペンチに寝られたんですけど」 「おれはわらに寝てました」スティーヴンが言った。マットレスに 9 は贈り物に大層なお礼を言って、窓ぎわの椅子に坐りこんだ。ステ ィーヴンはあくびをして、舟をこぎ始めた。むかいあった椅子に坐さわったり、腰かけたり、ねそべったりし、心地よさそうな嘆息を ついた。 っていたジョンは、彼をけっとばして注意をうながした。 「さて」と、わたしは彼らに言った。「台所の上に、息子が使って「子犬の寝床みたいだ。なんでこんなに柔らかいんです ? 」 いた小さな部屋があるわ。広間は大きすぎるし、ソウラは暖かすぎ「がちょうの羽がいれてあるの」 「さっき食べたやつの羽もマットレスに詰めこまれるんですね ? 」 るとあの子は思っていたの。ルースがペッドのしたくをしている間 「二羽いたわね」 に、あなたたちをその部屋に案内しましよう。ルース、あなたのべ ッドはその窓ぎわにおきましようね。ジョンとスティーヴンがむきわたしは息子が十三歳の時に自分で作った、小さな歪んだ押入れ あって坐っていたのも見たでしよう。あの椅子をくつつけてクッシから、絹の覆いをつけた熊の皮をもってきた。 「さあ、ルースの様子を見に行かなくっちゃ」 ョンを置けば、寝椅子になるわよ。それとも」と、わたしは言った が、不承不承といった様子があらわれてはいなかったろうか。「わ わたしは涙もろい人間ではないけれど、この少年たちを見ている と、涙がこ・ほれそうになった・ーー・スティーヴンはべッドに入って、 たしといっしょに天蓋付きのべッドで寝る ? 」 眠そうにおやすみの微笑をうかべ、ジョンはけなげにもペッドのそ 「寝椅子でけっこうです」 ばに立って、あまり行儀のよろしくない友達をうらやましそうにち わたしはアン・フリィーー鉄の渦巻細工のついた押入れを示して、 「鍵はついていません。扉をあけて、お好きなナイトガウンを着ならっと盗み見ていた。あなたたちがこの薔薇の荘園にいるかぎり、 さい。その間に、わたしはスティーヴンとジョンを部屋に案内して息子のべッドを使っていいとは、わたしには言えなかった。 わたしはただこう言ったのだ きます」 「好きなだけ朝寝をなさい。サラは何時でも朝食をつくってくれる 息子の部屋は砦の中の礼拝室のように小さく、窓も小さな四角い のが一つしかなかった。しかしペッドは天蓋付きのそれに負けぬくわ」 らい大きく広かった。疲れた少年たちには、さからうことのできな「御親切にありがとうございます」スティーヴンが言った。「で も、明日の朝早く、ロンドンへ発たねばと思いますから」 い魅力をもったべッドだろう。 「ロンドンですって ! 」わたしは叫んだ。「でも、あなたがたの傷 「あなたのべッドみたいですね ! 」ジョンが叫んだ。 はなおってないわ」 「もっと小さいわ。でも、柔らかさは同じよ」 「家では、ばく、壁にくつつけたべンチで寝ていたんです。それも「こんなの、ひっかき傷みたいなもんです。それに、あなたの薬で 八人の子といっしょにーーー父の騎士の子供たちです。それでも、父なおっちゃいましたよ。この館にいると、ロンドンへ行きたくなく
ーあれは、おれたちが犬を埋めたところだ。ちくしよう、神様のはと伸ばして、スティーヴンをつかみ、彼もろとも倒れた。植物の蛸 らわたでも喰らいやがれ ! 」これが、スティーヴンにと「て神の名だった。蔓のような触手で餌食をつつみこんだ。 スティーヴンとは反対に、ジョンは怒りで身体が冷たくなった。 をだす最高の呪いの言葉だった。「あのうす汚ねえ邪教徒め、犬を まっ赤にならずに蒼白になった。まるで、氷の割れ目から冷たい川 にりだしてーーー」 彼よしばし茫然となったが、やが にはまりこんだみたいだった。 / を 穴のまわりには、骨が散乱していた : : : 頭蓋骨 : : : 大腿骨 : : : 骨 て、凍りついたような頭脳が明晰に働き始めた。彼は、自分が稚 盤 : : : 肉のきれはしなどが草の上に無雑作に散らばっている。 身体も比較的弱いのを知っていた。この樹皮のような皮を素手 「スティーヴン」ジョンが友達の手をしつかり握って言った。「どく、 んな気持ちかわかるよ。犬を食べるなんて、ひどい奴だ。でも、はで殴りつけても、効果は望めないだろう。盲目的に武器を持たずに やくここをでようよ。・ほくたち、赤ん坊殺しの犯人と間違えられちぶつか 0 てい 0 たのでは、スティーヴンを助けることはできない。 ジョンはひざまずき、もぐらのように地面をひっかいた。小石、ま ゃうよ つかさ、ぶなの実。ーーまるで役に立たない。それなら石だ。大きな すでに、何かが二人を待ち伏せていたのたった。 とがった岩だ。血が流れはじめた頃、やっとのことで岩を手に入れ 最初は、木のように見えた。 いや、四肢に根をからみつかせたまま墓から掘りおさされた死体た。ジ , ンはその武器をもちあげ、そのまま立ちあがらずに、倒れ ぜいぜい息をしていた。よろめき、動いた。ゆらゆらと進ているマンドレイクめがけて突進した。 む , ・ー、・一一人のほう〈。ぶなの木の幹のような色をしている。少なく繊維性の頭蓋骨が割れ、岩の下から気味の悪い脳漿がとびち 0 とも、緑の髪の毛 ( それとも、小根か ? ) の間から見える肌 ( それた。さらに、ひき臼でキャベツをつぶした時みたいな緑色の樹液が とも、樹皮だろうか ? ) の一部は、そうだった。黒い穴の奥で赤彼にふりかかった。 「スティ】ヴン ! 」 い眼が燃えている ( 洞窟の奥から小さな火竜が覗いている、とジョ ンは思 0 た ) 。ロは一本の線のようだ「たが、 = ャッと笑うと、大ジョンは叫んだ。その答えは頭上から聞こえてきた。憎悪に燃え ふか たかん高い声った きく裂けて鱶のような三角の歯が見えた。叩きつぶし、引き裂き、 「人間め ! ちぎる歯た。 たくさんの指がジョジをとらえた 9 ぶどうの蔓で彼はしばりあげ 「逃げろ ! 」ジョンがスティーヴンの手をひつばって叫んだ 9 しか られ、スティーヴンといっしょにでこぼこの地面の上をいずこへと し、誇りたかいスティーヴンは戦いを選んだ。 もなく引きずられていった。 「犬喰らいめ ! 」 彼はマンドレイクに向かって叫び、頭突きをくらわせた。 マンドレイク族のすみかは、家というよりもむしろ、光のない地 マンドレイクは腐ったドアのようにぐらっと揺れた。四肢をぐい
「それほどでもないさ。ああ、城を出て以来、・おめえは変わってきそれより、彼女が月冫 ーこ入っているうちにちょっと探険に行かない てるんだ。昨日、おめえは騎士とにらみあった。あの時、おれなんか 9 泳いだら腹がへっちゃった。けど、川からあんまり離れるわけ 7 かおしつこをチビリそうだったんだぜ ! だけど、おめえはまばた 冫冫いかねえし きもしなかった。それに、おめえは賢そうな顔をしてる。いっか、 ぶなの若木の雑木林の向こうに、スティーヴンは香りのよい小さ おめえにもおれのような筋肉がつく。だけど、雷鳥をひとつがい賭な葉をつけた、ほっそりした木々を見つけた。 けてもしい、おれは、おめえのように頭がよくなりつこねえんた。「 「ウイキョウだ。ロンドンではやってる熱病の特効薬たぜ。何本か さて、ルースと交替するか」 持っていこう・せ。根っこからぜんぶ」 スティーヴが強く言い張ったので、一一人は上衣をまるめて、腰布しかし、マンドレイク族のことを考えていたジョンは、根っこと だけをつけることにした男なら誰でも・ーーー牧師さんで領主でも聞くとゾッとして、ハッカの花のほうを向いた。。 農夫でもーー・腰のまわりにねじってつける不格好な細長い布であ「きみのおかあさんが服の間にいれていたっていうのは、これか る。今や、二人は熱い日に仕事にでかける作男といった様子になっ た。この格好なら、ジョンの立派な上着を見られて疑いを抱かれる「ああ、食べてもうまいんだぜ」 こともないだろうし、泥棒の注意をひくこともないだろう。 二人はしめった土の上にひざまずき、その葉をむしりとって噛ん 「でも、肩が : ジョンが言った。「肩が白いよー でみた。甘く燃えるような汁が、まるで悪いワインをがぶ飲みした 「ロンドンに着くまでには日に焼けるさ」スティーヴンが言った。 みたいに二人の喉を刺激し、息をつまらせた。 「ルース 9 泳いでいいそお ! 」 小川はどっちの方向たつけ ? 道は ? 昨夜ねむった樫の木は ? ・ もう一度くり返してから、やっと返事が聞こえた。 「森は変わってないそ」スティーヴンが言った 9 「でも、あれは、 「なあに、スティーヴン ? 」 あの古いぶなの木は ? あんなの前に見たことあるか ? それに、 「もう泳いでいいよ 9 川に入っていいんだよお」彼はジョンに微笑ほら、地面にひびが入ってるーーー」 みかけた。「彼女、覗くなっていうおめえの言葉を本気にしたんだ 二人はふらふらと歩いて、マンドレイク狩りのあった場所に来て ・せ。けど、おれたちは覗かないって約東したわけじゃないー しまった。穴はまだ残っていた。なんとなく心がさわぐ、人の形を 「天使を覗き見するの ? した穴。あの不運な犬にひつばられた四肢のおさまっていた枝穴も ある。 スティーヴンは彼の背中をびしやりと叩いこ。 「もう誰も彼女を天使なんて呼んでやしねえじゃないか。いいや 「ねえ、帰ろうよ」ジョンが言った。衣装部屋のよどんだ空気をか 覗き見はしないよ。たた、覗いたらどうかなって考えてみただけ いだ時みたいに、吐き気がこみあげてきた。 さ。天使ってのはいつも女の子だろ、それが不思議たったんだよ。 「待ちなよ」と、スティーヴン。「穴がもう一つあるそ。あれはー