知っ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1975年5月号
202件見つかりました。

1. SFマガジン 1975年5月号

った。「さあ、木に戻って眠ろう」 る名人だった。スティーヴンがマンドレイクの赤ん坊に同情するの しかし、スティーヴンも震えていた。自分の肩をだいてくれたそは、礼儀正しく気高いことであ 0 た。しかし、この無知な少女があ 6 の腕をとおして、スティーヴンの震えをジョンは感じと「た。犬のの人殺しの種族に同情をよせるのは許せない。 ことを悲しんでいるんだ、と思った。ぼくも元気にしていなくち ルースは叫び声をあげた。 ゃ。さもないと、スティーヴンを悲しませるだけだ 0 「知らなかったわー ルースは二人を待 0 ていた。その表情は、霧ににじんだ星の光で「知 0 てるはずないさ」と、スティーヴン。「少なくとも、。おれの は読みとることができなかった。 両親をやつつけた奴らは、人間のように戦った。闇にまぎれて忍び 「長いこと一人にしといてごめんよ」スティーヴンが言 0 た。「で足でや 0 てきたわけじゃないんだ。日暮れ時だ 0 た、奴らは気味の も、狩人たちがちょうど「ンドレイクを殺したところだ 0 たんだ。悪い腕で棍棒を振り回して森からとびだしてきた。おれた、ちには奴 そして : : ・・」 らと戦う余裕があった。お袋は別だーーーお袋は野良にいたおれたち 「そんな話、聞きたくないわ」 にビールを運んでくる途中だったんたその時、おれたちは干草を 「ンドレイクは木に登れないよね ? 」ジ ' ンが訓ねた。「あの赤つく「ていた。・だから、くまでが武器にな「た。奴らは「親父とお ん坊の親は、このあたりにいるのかなあ」 袋の他に人間一人を殺した。おれたちは奴らを四人やつつけた。け 「やつらだ 0 て木ぐらい登れるさ」スティーヴンが答えた。彼は森ど、本当に恐いのは、奴らの若い娘だ , ーー人間の娘と区別がっかな のことは何でも知っているのだ。知らないことは即席にでっちあげ いからだ。町にでて人間といっしょに住んでもわからねえんだ。男 た。「ある意味では、奴らは木なんだ。少なくとも根ではあるわけはそうはいかねえ。生まれた時から毛むくじゃらだし、、な、あんた さ」 も知ってるだろ。あれが大きすぎるんだ。だけど、娘は人間そっく 「ぼくたちがここにいるの見破られるかな ? ぼくらの姿は見えやりだ。少なくとも、外見はそ 0 くりだ。なかみは違うけどねーー・・体 しないだろうけど、臭いで・ほくたちをつきとめるんじゃないかな」内を血じゃなくて、樹液が流れている。それに、骨は茶色でーーほ 「マンドレイクの話はやめてもらえないかしら」ルースがびしやりれ、なんていったつけ、ジョン ? 」 と言った。「あなたたちは、彼らがわたしたちを取り囲んでいると「繊維でできているのさ」 考えているらしいけど、あの哀れな種族はほとんど絶減しているの ルースは黙って耳をすませていたが、そこで身体をちちこまらせ よ」 た。おにぐもみたいだとジョンは思ったーーー金色のきれいな模様を 「スティーヴンの両親はンドレイクに殺されたんだそ」ジ ' ンがつけたおにぐもだ。脚をひ 0 こめると、彼女、身体の大きさが半分 錏い口調で言った。 になっちゃうぞ。 ルースをひ「ばたきたか 0 た。彼女は無作法にも人の話の腰を折「あとはおまえが話せよ、ジ = ン」スティーヴンが言「た長いこ

2. SFマガジン 1975年5月号

がて彼はそろそろと、目の前に、見なれぬ狂大か野良猫に立ちふさた」 がられたときのように、恐るおそる立ちあがった。聞えるものは、 「みんなは、もう人間は一人もいないっていってたわー からだから滴る水滴の微かな音ばかり。それも束の間に消えると、 「ロポット 6 号とナーシイは間違ってた。ほかのやつらだってさ。 再び彼らはむかいあい、見つめあった。・ヘビイが、またからだを動だって、ここにきみがいたじゃないか。あいつらのところから逃け かし、今度はゆっくりと進みでた。その動物は彼よりも小さくて、 だして、ここへきてよかったな。きみの髪はどうしてそんなに長い 触わればこわれそうな気がした。 すると、その動物が後じさりしたので、ベビイはまた一歩、大急「これでちょうどいいのよ」 ぎで詰めよった。するとそれはくるりと後をむき、やにわに走りだ「それにきみの恰好は変だよ」 した。 が、ベビイが二足ばかり飛ぶと、わけなく捕えることができ「変なのはあなたよ。これがあたしの姿なのよ。あの石像のような た。二人の温かい柔らかなからだは、重なりあって地面に倒れた。姿が正しいのよ、あれがあたしなんだわ」 その感触が二人に激しい衝撃を与えた。二人はさっと離れると、石「知ってるさ。きみは女なんだ。何だか変に見えるけど、でも素晴 像のようにかたくなり、また黙って見つめあった。やがて、ベビイしい」彼は相手の顎を掌でしやくった。その柔らかな唇に指を這わ がその動物の柔らかな胸に指を触れた。不思議な感覚が、思わず彼せ、それから首を伝って、だんだんと下におろし、胸に丸くもりあ 彼女はびくっと の手をひっこませたが、手の動きはのろかった。「柔らかい」と彼がったものの、ふくよかな。ヒンクの先端に触れた。 , はそっとつぶやいた。「柔らかくて、温かい」そして彼は自分の胸からだをひいた。「くすぐったい」と彼女がいった。 に触れた。 「ぼくは人間が好きだ」とベビイはいった。「ナーシイや 6 号や大 「・ほくもだ」 や猫よりかずっと好きさ。好きになれるなんて思わなかったけれ 相手は一瞬静かに彼を見つめると、突然、ロを開いて、同じようど、ぼくは好きだ」 にささやいた。「あなたは : : : 人間なの ? 」 「あたしもそうよ」 ベビイは動物の腕を擱み、大胆に、だが軽く前後に揺すぶった。 そのとき、遠くに聞えた声に、二人ははっとからだをこわばら 「きみは感じがいし 、よ」と彼はいった。「ちょっとおかしいけど、 せた。「 ( ニイ、ハニイ。どこにいるの ? もうおねんねの時間で でもいい」 すよ」 「あたしは人間よ」とそれはいった。 二人は見つめあったまま動こうとはしなかった。 ハニイのナーシイが近くにやってきた。ベビイの耳に、あのぎ 「ぼくだってさ。・ほくはベビイだ」 じりじりという聞きなれた音が聞えた。生垣の角を曲って姿を 「あたしはハニイ」 「・ほくは新しいものを探しにやってきたんだ、そしてきみを見つけ現わしたのをみると、それは彼のナーシイそっくりだったをしか 6

3. SFマガジン 1975年5月号

よ爪 て 類でか人う がさてれ のみ ゴう先学じ 実 い話など学も スああ今ば の 糸占こ ? 物ま う ナこ ヴし、し なを部し 験いだく けし 不ム・ f 憂 アまか入論と う 部う チる出 ド眼打長ん えがちぞ長 カ : 秀 つをは いて グはて 0 よし ンせ と 、す れ き 、た下明 スすい言な ンでちは ん オよ 日 や は新 、つ てみをじ合驚がる違 よ あ し白 れて なた頭だ つ教」 フ はだっ メ 、てた授 、だ の 言蚫 っせいだぺい 立 ! オょ なし、 く らだをけ ア れ話き るてつきま の 達 ノレ たイ面と かな と んし上三 ち 仕く まを伏見音椅てだす 、げ三 上事れ ル 会ノ つけ と と ス の の す彼 つが子 、同 つを チヴをがう たれ 0 か今 ナこ 言平 . ァ引 終カ がるめ 1 ノ 0 ) 価 スじ も ナこし ク・ はは し、の ったた背 う が あ ン っ問 がたチ っネ し . ス " 寄た けも 、ま カ : グとた あ だ ゴ つ ス体 手・え いり た ス ス メ 、こ ス が 、かぶそぶ チれな ら・ の重 1 たと チを チ と ド ふ や書 。を グも 大要 り れ ル グ グるん よ し ど の る ら い読た スかだ スた ス う だ つに評 广っ L— はなネ のせ う 壮だ ぇ なて と し ゴ 学導三 意か て きなるた し価 語と 子 面て ま 1 よ部 図け やいしらてを 白あ でか すト け険 : の う をた と いれ な冒 る なた っ覧 上 う 推 の らろそ明 し 0 よ でほ ん し両 て固 はど に れは ん うれ日 たに を 量手 足 身 ばし 感 ネだに な の 書声、 を カ : い大 るの じ と つな グ介と し い早う 引にと 討お も 嫌者 にげ一学 冫こ のい明思て で近たま 頼いと彼く〇部 しそろ つな ス は平わ日 、回長 といいでみだは つはづそオ うす は て ロ う調 、凡れ ! 答だ て彼をとそオやもと き ! グめたな ゴ みだよ ま不なて 、が ま き 1 っ受話スてかく いう な よなう んっ で安男し 、が く 電 、ケと話をはく う たたほ し 、う も ド し 、考 でをる〇 。がん話て ダ器しそれし彼 の う ら ス ン え 、待人時 チが にも し持 く でく しイをた ん れの う の とな喋つ物 てヤ持後考かん名思グ生 ち 言尺れ の いがるてカ スき よをるただく ルち ん ら ゴだ っ ′ F ロ し、 △ 単っ説 う ら言 っ 。れ と を _E ゴてな権やたはて 確 、葉 て : 彼 にと明いた病た廻げー自威権 っ 信しを く 、間すう一気 をて 。した ド分 と威 大て がだひれ の度で をる 一一ナこり も物く ンを いと いと スれ 明おのだで、度 る 兀 う論し理れ に 、年で予も電気 て冫 のチる 日いを や争彼学ナ る絶とだグん てゴ 援をだ想と 言舌 づ が者な つし よ望 ひ 〇 ひ助と ! スだ をへをけ はな死のん う かと を 時 ドど 裏戻しナ し . 、きん郊て にらこそ てて正切しよ スン く に 絶や で外 、と の名 な 生 待チはせほい真 ったう彼 対ないに実 よ夜もけ っグ黙かして正てり るな にらたあに と は 、なる 、銘 、しし昨 んらる幸 てスっせい で も い伝 いはてかと交の すたて日 、住運 葉破 ス か 味 チー説 い際学ぐあ ま死聞 を目彼しオ と ノが : : : そのときもう一度検 8

4. SFマガジン 1975年5月号

話等々 : ・部下の雑兵を呼び集めたるに招きに応じて、味噌漉、米 ・ : 。・ほく揚笊、手桶、小桶の面々、われもわれもと馳せ集まる、 うそ たちがな ころは虚言八百年呑ン気の十三月三十五日の早天、猫の んとなく眼の変わるを合図として、板の間が原に軍勢を集い、座 断片的に敷の領分、備後表の畳ヶ原を指して出軍す。その意気す 知ってい でに満座の諸道具を呑まんずるの勢い見えたり。 かましきあ つづれ るトンチ さても勝手かた寄手の兵は襤褸の二色に黒く釜敷の痕 第噺が展開跡つきたる大雑布の旗を、椽の下風に翩翻と吹きなびか される。 せ、前衛先鋒第一陣には、割鍋野黒太夫綴蓋、炙りおど かぶと ところしの大鎧を着し、勝手胄の緒を堅くしつかと引き結び、 が、これお玉杓子の差物さし、鍋敷の駒に打ちまたがり、鍋蔓掛 らのエ。ヒけたる鉄弓を引きし。ほり、われに刃向う奴原は片つばし にえた ソードの中に、・ほくの知らないものが四つあった。そし よりヒシヒシと煮殺してくれんずと、その沸立っ怒りの て、この四つのエ。ヒソードがどれも的内容で、二五声、グリンガラングリンガランとそ乗りいだしたり。な ぬりぶたほぐ あかなべのつな 三ページの本の半分以上を占めているのだ。 お引きつづいて、赤鍋野綱の末葉鳥鍋五郎塗蓋、草紙 最初のエビソードは、ある秋の夜長、たいくっした秀張りのうちわの前立物に、五徳と名づけても二本不足な 吉に「なにか、おもしろい戦記話はないものか ? 」と、 しる三本足の駒に打ち乗り、菜箸の二本鞭をおっとりてそ われた新左衛門が、自分の家で正月二日に起こった大戦進みいでたるさま天貯れ勇々しく見えにけり。 争の話をする。こんな話だ。 てなぐあいで、台所道具と座敷道共が夢で大合戦を行 工工説き起こしまする、国土は無我有郷の初夢の里、 なうダジャレ擬人講談。ここには、とても紹介しきれな 西か東かはた南か北か、その方角さえもわからざる厄介 いが、両軍の登場人物の名前を読むだけでも、もうべラ i i 孟 長者の召使い釜元三助入道の配下に属する勝手台所のガ ポーにおもしろい。 t-0 ではないが、発想が的で、 ラクタ道具の面々、日ごろ座敷道具のために蔑視せられ しかもダジャレで、その上メチャクチャなのだからこた おるを深く残念に思い、遣恨十年菜切庖丁を磨しつつあ えられない。 りましたが、すでにその戦備も整えたれば、座敷道具の はカり 1 」と ぼくは、新左衛門がこんな話を秀吉にして聞かせたと 左奴原、いで踏みつぶしてくれんずと密々の謀を定めた = 新 いうェビソードは、これまで知らなかった。もし、これ かまど ひのもとっちぬり り、されば討手の大将竈将軍火元土塗公の指揮に従い が事実新左衛門の創作だとしたら、これはちょっとした かまわ いかけのすけしりすみ われな・ヘのくろだゅうとじぶた 失権職割鍋野黒太夫綴蓋、釜輪鋳掛之助尻炭ら各々その発見だ。場合によっては、後から述べるほかのエピソー ところ さいはし

5. SFマガジン 1975年5月号

ゾだっていうもつばらのうわささ。でも、ジョン、大小屋でどうやった衣服。彼の母は死後につくられた歌の中にのみ生きている そんなことしたら、おめえの親父高貴なる戦士と消えることのない愛の歌の中に っておれと暮らすつもりだい ? ごらん、この森を拓きし者 さんは誇りを傷つけられる。領主の息子が大の世話人といっしょに もっとすごい わたしに訓ねよと命する。 屋根裏に住んでいるなんてことがわかったら 刀打ちをうけることになるそ。おれの親父なんか、大鎌を折ったと 宝玉に飾られし君よ 想い出したまえーーー いうだけで両耳をそがれたんだからな。ところが、おれたちには天 あの昔の誓い : 使がいる。となりゃあ、やることは、たた一つ 「天使と別れるのかい ? 」 「すぐに、聖地に向かって出発するのさ。大小屋に少しは食料もあ「・ほくのお父さんの城をでるんだって ? 」ジョンは繰り返した。 る。着がえもある。城へ戻る必要はねえよ。おれたちは、ローマ人「そして、戻ってこないっていうのかい、永遠に ? 」 スティーヴンの顔は、かってのフランスの軍旗、赤色王旗のよう の道を通って、ウィールド地方を抜け、ロンドンへ出ればいいん だ。そして、マルセイユ行きの船にのる。マルセイユから大洋へでにまっ赤になった。 「おめえの親父の城だって ? 冗談じゃねえ、おめえらがこぎたね ればいい」 「でも、マルセイユはフランスのステファンが奴隷商人の手におちえヴァイキングだった頃には、この土地はおれの御先祖さまのもの だったんだそ ! おめえは、おれが犬の世話や羊の世話をしていっ たところだよ」 までもあの城にいると思ってたのか ? てめえの息子を刀で殴るよ 「でも、おれたちには案内人がついている」 うな奴にずっとっかえてると思ったのか ? 奴におれの育てたもの 「もし、彼女が本物の天使しゃなかったらーーー」 や、狩りでとったものを捧げて、妻をもらう許しを請うとでも思っ 「少なくとも、おれたちは城から逃げだすことにはなるな」 ていたのかい ? ジョン、この城にいたって、おれたちにはなんの 「つまり、永遠に城から出るのかい ? 」 とく 父から離れることができるという期待でジョンは陽気になった。得にもならねえんだよ 9 おれたちの前にはエルサレムがあるんだ」 フート スティーヴンにとって、その名は進軍ラッパであった。ジョンに 頭覆いをとってもらった鷹のような気分だった。だが、城には彼の 持物がみんな置いてある。彼が上質の皮紙に写して、象牙の表紙をとっては不吉な弔鐘だった。 つけた『イギリス列王史』、自分の手でいっしようけんめい写した「でも、ロンドンまでには森があるし、大陸との間には海峡がある。 お気に入りの詩、『梟とナイチンゲ 1 ル』などの羊皮紙もおきつば荒海は異教徒でいつばいだよ。彼らの船は。ほくらのより速いし、ギ リシャ火薬をもっている」 なしなのだった。もっと大事なものもある。母の魂ーー彼の思い出 だが、スティーヴンはジョンの肩をぎゅっとっかみ、その青い、 のすべて。母のの・ほりおりした階段。母の織った綴織。母のつくろ つづれおり 6 5

6. SFマガジン 1975年5月号

は年をくってた。もう何年も生きられねえ身体だづたのさ。この根 ないのだ。人は、愛を得、春をとり戻すためなら、金でも銀でも、 を精製して売った金で、おれたちは新しい犬舎が買えるって寸法 王地でも家畜でも惜しまないのだった。 狩人たちがその恐しい仕事を終えると、息子のほうが二人に微笑さ」 やがて男たちは、次の市のたつ日にこの宝を売る話や、そうして みかけ、マンドレイクのきれはしをさしだした。 「これを女に喰わしてみな。その女、おめえにべたべたへばりつく得た金を密かにどう使うか、どうすれば売りあげの三分の一を領主 に払わすにすむかなどという話をしながら去っていった。それか ことになるぜ」 「彼には、そんなものいらないんだよ」ジョンが言って、ことわっら、二人の少年は大を埋葬した。 「いつも女の子がくつついて離れないんだ。まるで砂糖にむら「この犬にも耳栓をしてやればよかったんだ」スティーヴンが苦々 しげに言った。「それに、むちを使ってこんなことをやらせるなん がるアリみたいなんだから」 「だけんど、おめえには必要だろうに」息子は笑って、片方しかなて ! 」 「大には蜜鑞はきかないよ」ジョンが言った。「少なくとも、そう い眼をつぶってみせた。 いう話を動物寓話集で読んだことがある。大の耳はとても敏感で、 フランスでもイギリスでも、片眼の農奴は珍しくなかった。たい てい、腹をたてた主人につぶされるのだ。喧嘩で眼をやられることマンドレイクの金切り声は蝋の耳栓を通りぬけて、や 0 ばり犬を殺 ・はめったにない。 この若者は、大ホールの暖炉にせっせと薪を運ばしてたよ」 「マンドレイク族がおれたち人間を喰うのは少しも不思議じゃねえ なかったのだろう。 「おめえのあれもそのうち役にたたなくなるぜ。それから砂糖をさな。おれたちがこんな風に、奴らの赤子をひ「ばりだし、切り刻ん だりするんだもの。親乂とお袋のことがなけりゃあ、おれはこの哀 がしたって、見つからねえよー った。「砂糖なんかどっさりあるんだ。一、二年もしてみなよ。彼が伊達男みてえに気取って歩き、女中たちの尻を追っかけまわすっ はまだ十二なんだからーそれから、スティーヴンは犬の死骸を指さてわけだ」 「・ほく思うんだけど」マンドレイクのきれつばしも犬といっしょに した。「あんたたち、グレイハウンドを使わなくっちゃならなかっ たのかい ? 自分じやできないのかね ? 耳に蝋をつめてんだろ埋めおえたジョンが言った。「問題は、どっちがどっちを先に食べ たかってことなんじゃないかな」 「誰でも知ってることだが、大のにうが力が強いんだよ。たちまそれから、彼はスティ 1 ヴンの手にすがった。 「ほく、気分が悪いよ」 ち、マンドレイクを引っぱりだしてくれる。歯をひっこぬくみてえ に、根からなにからす 0 かりとってくれるわけだ。それに、あの犬「だいじようぶだよ」ジョンを片腕でささえて、スティーヴンが言 一 7 6

7. SFマガジン 1975年5月号

ったりしたからではなく、スティーヴンの屋根裏部屋に集まった何 った。眼には見えないが、決して手にできないものではないのだ。 彼女の歯は、 階段をおりきると、泥壁の細長い横穴がある。この横穴には経か人かがしたような打算からだろうとジョンは思った。 , たびらをまとったキリスト教徒たちの墓があり、やがては、半円形身にまとっているリネンのロー・フのようにまっ白だった。そのロー の後陣に続いていた。今、その後陣には、神聖なる牛を生贄にする・フの腰のあたりに青い絹の紐が結んである。紫のビロードで飾られ た先のとがった上靴は一角獣の皮でつくられたものだ。まるで、天 ミトラも、幼きキリストを抱いたマリアさまもいない 彼女に欠けているものとい スティーヴンはそこにひざますいていた。手にした蝋燭がフレスの牧場で履かれているような靴たった。 , えば、翼だけ。それとも、翼はロー・フの下に隠しているのだろう コ画の天井を照らしている。キリストが水の上を歩いている絵だ。 パンや魚を増やし、めくらに見るようにと命じ、いざりに歩けと言か ? ジ ' ンはそのことを説ねてみたい誘惑にかられた。 ところが、スティーヴンがジョンの先をこした。 - っているところだった。・ 「ジョン」スティーヴンがあえぎながら言った。「見つけたよーー」「あいさっしろよ」と、ささやいたのだ。「歓迎のあいさつをする んだ」 「マドンナだ ! 」 彼女は一枚板のようになった蔓の上に横たわっていた。その顔は「何語でさ ? 」ジョンが賢明にも訓ねた。「天使の言葉なんか、・ほ く知らないよ」 蝋燭の火に照らされて、象牙の仮面のようだった。マドンナの彫刻。 フランスの聖堂の袖廊からもってきた彫刻だとジョンは思った。だ「ラテン語じゃないかな。それなら知ってるさ、きっと。だって、 牧師さんたち、みんなラテン語で賛美歌を歌うだろ」 が、間違いようのない生命の火でその身体は紅潮していた。 スティ 1 ヴンが言うことにも一理あった。粗野な英語など論の外 いや、違うーージョンは失望して見なおした。落胆した。彼女は ただの少女だ。 である。その点では、もとはといえば野蛮なヴァイキングの子孫で マドンナにしては若すぎた あるノルマン人の使うフランス語も同様だ。 「天使だよ」スティーヴンが言った。 「 Quo Vadis ~ 汝、いずこ 「天使ね」彼女の若さを恨みつつ、ジョンが嘆息をついた。 〈行く哉し」ジョンがぶつきらぼうに訊ねた。 天使は二人もいらないのだ。神が ( あるいは、聖母マリアさまが ) 彼女の徴笑はーースティーヴンにとっては間違いなく嬉しいもの スティーヴンを・ほくにつかわしてくれたのだもの。スティーヴンはであったがーーージョンの質問の答えにはなっていなかった。 天使のようだけれども、女ではない、柔弱でもない。その髪は輪光「ここで何してるの」ジョンがノルマン人のフランス語で訊ねた。 をもっかわりに、もじゃもじゃだ。その顔は。ヒンクというより、赤フランス語も少しならわかるスティ 1 ヴンが、力いつばいジョン に近い。竪琴をかきならすよりはラッパをふきならすミカエルやガを小突いた。 「天使に質問をしちゃいけないんだよ 9 あいさっしろよ ! 崇拝す ・フリエルに似ている。 しんげん 天使は身動きして、かわいらしくまばたきした。驚いたり、恐がるんだ ! 賛美歌か箴言でも言ってみなよ」 ライア 4 5

8. SFマガジン 1975年5月号

うなそぶりを見せたの。な・せって、あたしは男の人の欲望をいやつよ。はなから、おれのところに守護天使がやって来るはずはないと というほど見せつけられていたからよ。スティーヴンのうわさはい 思ってたんだ。それに、きみは普通の少女のようにおれをわくわく 8 のしし城にまで聞こえていたわ。あなたの娘を扱うやり方もね。けさせた。でも、おれには逃げだす口実が必要だった。おれには勇気 ど、あなたと知りあってから、あたしはあなたのやり方を望んだが欠けていた。農奴が主人から逃げだすのは恐しいことなんだよ。 ジョンの親父はおれをつかまえたら、殺すか、手足を切断するかし わ。あなたはうわさとは違っていた。やさしく、信頼できる人たっ た。でも、あたしは嘘をついていたと白状して、あなたの尊敬を失ただろう。で、おれは自分に嘘をついたんだ。天使がおれを導くた うことはできなかった。 めにやって来たんだってね。おれたちは二人とも嘘つきだったの マデレイン」 あたしがもってた十字架は伯父のところから盗んできたものなさ、ルース の。あれには騎士一人分の身代金と同じくらいの価値があるって彼「ルースよ。それが、あなたがつけてくれた名前だわ」 が言うのを聞いたことがあった。あの十字架を売って、仕立屋をひ「ルース、おれたちはまだロンドンへ行けるんだ。おれたちの門 らけれま 。いいなと思ったわけ。そして、靴下を直してくれと言ってに、もう嘘はなくなったんだ」 きたすてきな紳士と結婚するの。あれをマンドレイクに渡した出来身ぶりが彼に戻ってきた。彼はルースの肩を敬意をもって抱き 事については、前に話したとおりよ。彼らは約束を守ったの。あた ( そして、ジョンのほうを見た。「おれの手はもう一本あいてる しなんかよりずっと正直だったのよ」 せ」というかのように ) 、 スティーヴンはおとなしくしていた。彼はもともとあまりしゃべ 「でも、奥さま、こんな方法で真相を見つけようなんて、少し残酷 らないほうだが、身ぶりは休みなくとびだしたものだ。手をひろじゃありませんかー げ、うなずき、微笑し、あたしはその沈黙を破ろうとしたが、ルー 「ルースにはさわるつもりさえなかったんだよ」ジョンが言った。 スはスティーヴンのほうも見ていた。しゃべらねばならないのは、 「ただ試すだけだったんだ。彼女があやしいって奥さんに言ったの 彼であった。 は・ほくなんだ」 「さあ、あたしはあなたにとってただの娘になったわ」彼女はもの 「ジョン」彼に近づき、その腕に包帯を巻いた手をおいて、ルース ほしそうな声で言った。「最初から本当のことをしゃべっておけば が言った。「あなたがあたしを嫌っているのは知ってるわ。あなた よかったのね。あなたのやりたいようにやらせればよかったのね。 は最初からあたしの嘘を見抜いていたのね。あたしがスティーヴン これで、隠しごとは何もないわ」 をとりにきたと思ったんでしよ。ええ、あなたの考えたとおりよ。 スティーヴンは長いこともの思いに沈んでいたが、やがて口を開あたしのもとにロビン・フッドがいたら、あたし、マンドレイクに いた。それは問責の言葉ではなかった。 つかまった彼を救けやしなかったわ。けど、あたし、あなたを悪く 「おれも心のどこかでは、きみは天使じゃないと思っていたようだ思ったことは一度もなかった。あなたは彼の弟なんですもの。あな

9. SFマガジン 1975年5月号

1 一一人は屋根裏部屋に入って、スティーヴンの数少ない持物をまとめ 無情な眼でじっと彼を見つめた。 フート ー色の上着が二着、木靴、ふ 5 た。冬のための頭巾のついたクロー 「おめえを置いてくことは、おれにはできないんだ」 天使が二人の邪魔をした。二人の哀願と拒否、男同士の愛の交換くらはぎまでくる青い靴下一つ。小麦の。 ( ンとチーズでふくらんだ に少しイライラしている様子だった。自分が無視されたのがおもし皮の小袋。ビール一瓶。くねくねした羊飼いの杖一本。 「よくこ 「狼にむかって」と、スティーヴンは杖を示して言った。 ろくないのだ。 「聖地へあなたがたを案内するっていうことだけど、あたしは、ロれを使ったもんだよ」 「それに、マンドレイクにもね」ジョンが天使を恐がらせようとし ンドンへ行く途中にあるっていう森を抜ける道さえ知らないのよ。 でも、この洞穴は湿ってるし、ここへ来る途中で見たんだけど、おて、意地悪く言った。 「けど、女の子の服はねえなあ」と、スティーヴン。 城は気味が悪いわ。暗くて恐しい感じがするの。水のはいってない 「いいのよ」少女は微笑して、ビールをぐいと飲み、パンをむしゃ 堀があって、陰気な天守がたっていて、ガラスのはまってない狭い 窓が並んでいるでしよ。あれは家じゃなくて、砦だわ。もし、あたむしや食べた。旅が始まるまでに食料はなくなってしまいそうだ。 「ロー・フが汚れたら、川で洗うわ。そうすれば」と、いたずらつぼ しが本当に天使なら、この地上ではもっと気持ちのよい所に住みた いものね。あんなのしかなかったら、すぐにも天に帰るわ。それよくつけ加える。「あなたたちにも、あたしがほんものの天使かどう り、ロンドンへ行ってみましようよ。あたしが記憶をとり戻すまでかわかるでしよ」 は、あなたたちがあたしを案内してくれるわね」 みだらではないにしても、天使らしくない言葉だと、ジョンは思 三人は、天使をまん中にして階段をの・ほり、地上にでた。まだせった。まるで、ばくらがこの子の沐浴を盗み見するみたいじゃない 、刀 っせと草刈りをしているエドワードじいさんに見つからないように しかし、スティーヴンはこう言って彼女を安心させた。 共有地をぬけ、大舎に向かった。丁度正午で、領主も騎士たちもま だ城にいた。畑からあらわれた農奴たちはと・ほとぼと歩いて、水車「おれたちは、きみが天使じゃないなんてこれつばかしも疑ぐっち ゃいないよ。それに 」っかえた。彼はすばやく頭をまわして、 の影に集まり、パンとかゆを食べ始めた。十字軍志願の子供たちが 心の中でこの屋根裏を順々に見つめなおしているようだった。 風のように走りぬけたのを見た者がいたとしても、子供たちが鬼ご 「彼と大だけにしてやろうよージョンは天使に言って、階段をおり っこをやっているのだと思うだけだろう。そして、スティーヴンが 領主の息子といっしょに新しい娘を見つけたなと思い、こうつぶやた。 スティーヴンは黙りこくって、荒地にやって来た。その上着は大 いたことだろう。 になめられて湿っていた。顔もぬれていたが、舌のせいか涙のせい 「楽しそうだな」 かはわからなかった。 犬舎に入ると、スティーヴンのグレイハンドにとりかこまれたが、

10. SFマガジン 1975年5月号

は、ちゃんとわかったようだわ。ゅうべは、あいっといっしょに寝は、島々や、大陸のちぎれた部分なんかでよく見る大きな樹で、海 たの」 にむかってほとんど水平に成長してるんだ。風でそうなるんじゃな 「ポニイ、そんなの嘘だ、それにちっともおかしくないよ」 。地面にちょろっと生えた若木のときから、海の風を四六時ちゅ 「あたりまえじゃない、おかしいことなんていってないんだもの。 う受け・ているのに、それにさからって理屈も何もなく、海へとのび でも、嘘かどうか、どうしてわかるの ? あたしはしよっちゅう嘘ていくんだ。中には、幹の直径が九フィ ートぐらいになるやつもあ ついてるわけじゃないのよ。いっ嘘をついたか、わかるはずない るんだが、みんな海にかがみこんでるのさ。その樹がな・せそういう わ。今夜、部屋を教えてくれないようだったら、あそこにいる赤い ことをするのか、ほとんどの人間にはさつばりわからないんだけれ 顔した年寄りの泣き上戸か、あの黒人と寝るわ。あとをつけてい ども、モイシャにはその理由がわかりかけてきた。 わよ、どうせあたしがつければ逃げちゃうんだから。そいで、あの彼は、一羽のおそろしく器用な、もの言う鳥を手に入れた。一び 。しつもシ どっちかとあたしが行くのを見るのよ。通りに立って、部屋の明りきの尾まき猿と、一びきの蛇を手に入れた。そして蛇よ、、 を見てればいいわ。あたしは明りをつけとくのが好きなの」 ャツのふところに入れて持ち歩いた。そのころにはモイシャは、だ 「ポニイ、なぜそんな意地悪いうんだ ? 」 れにもひけをとらないしたたかな海の男になっていたからだ。 「あたしだって知りたいわ、モイシャ、あたしだって」 金まわりもよかった。金貸しの仕事を見限ったわけじゃなかった し、珍奇な品物や商品を買うことにかけては、実に抜け目なかった そんなことが一週間つづいたあと、モイシャはまた船出し、二年からだ。モイシャはそれらを港から港へと運び、しこたま儲けた。 ばかり母港に立ち寄らなかった。彼は、海にかがむ巨人族のことを彼は、海が果てしなくつづける大量殺人の冷やかな研究家とな ロっこ 0 り、この水の墓場に浮き沈みする死体やそのかけらについて思いめ 「この樹の名前は知らん」と苦虫ジョンはいった、「前には知ってぐらすのを趣味にするようになった。 いたんだが。ちょうど話のこのあたりで、ふつうなら酒を頼むとこ ものすごくこみいったある。 ( ズルに七カ月も取り組み、とうとう ろなんだ。ところが、わしにはひとっ困ったことがあってな。もう解きあかした。西洋人でそれだけの忍耐力を見せたのは、彼ひとり むかしからなんだが、近ごろじや自分の子供みたいになっちまった 寄生虫どもがいるんだ。ラムと安ウイスキーの規則正しい食事療法 が、連中によいわけがない。姉さん、すまんが、卵を二つ三つ焼い ・ホニイは十五の年に、ある海の男と結婚した。もちろん、モイシ てくれんかな。そのほうが、小さな相棒たちも喜ぶだろうし、わしャじゃない。これがおこったのは、モイシャが港に帰り、青魚亭に の体にだって、薬になりこそすれ毒にはならん」 立ち寄るたった一週間前のことだ。彼女の夫の名は、オグルズビイ とにかく、モイシャは、海にかがむ巨人族のことを知った。これ ・オグ・ハーンといった。これがおかしな名前だと思うなら、ためし