「サム」彼女がいった。「三台後ろのあの青い車の頭脳用導線を引 デピル : 、・ほくの兄貴を殺 ぎ抜いてよ。補助の・ハッテリーからまだ多少のエネルギーを吸って「十年前、連中のリーダーであるあの悪魔カーカ した。兄貴のガソリン基地を襲撃した時にね」マードックがいっ いて、放送しているのが聞こえるわ」 「オーケー」 た。「・ほくはそれ以来あの黒いキャディャデイラ しをず 0 と追いか マードックはあと戻りして、導線を外した。彼はジェニーのとこけている。空からも探したし、歩いても探した。他の車も幾つか使 った。熱痕跡探知器やミサイルも積んで歩いた。地雷を埋めること ろへ戻って、運転席へ乗り込んだ。 までした。だが、いつでもあいつは・ほくにとって、あまりにも早す 「何か見つけたかい ? 」 ぎ、あまりにも利ロすぎ、あまりにも強すぎた。そこで・ほくは君を 「何本かの跡をね。北へ向かってるわ」 「それを追っていってくれ」 作り上げたんだ」 「あなたがそれをひどく憎んでいることは知っていたわ。何故かし ドアが・ハタンと閉まって、ジェニーはその方角へ向いた。 らって、いつも不思議に思っていたの」 彼らは黙ったまま五分ほど進んだ。それからジェニ 1 がいった マードックは煙草を吸いこんだ。 「あの自動車隊には八台の車がいたのよ」 「ぼくは君を、およそ車輪で走るものの中で一番強く、一番早く、 「何だって ? 」 一番利ロなものになるよう、特別にプログラムし、装甲し、武装させ 「ニュースでそれを聞いたばかりよ。どうやらそのうちの二台が、 スカーレット・レディ 規格外の波で野生の車たちと通信したようだわ。その二台は連中のたんだ、ジ = = ー。君は緋色の女約聖書「 = ( ネの黙示録」十七章に出 仲間にはいったのよ。自分たちの居場所をもらして、襲撃の時に他 乗。ていしだ。君は一台であのキャディとその仲間全部とを相手に の車に襲いかかったんだわ」 できる車だ。君は連中がこれまでぶつかったことのないような矛と 「乗客はどうしたんだ ? 」 爪を持っている。今度はきっと奴らをつかまえてやるそ」 「多分隊に加わる前に″処理″したんでしようね」 「あなたはずっと家にいてもよかったんだわ、サム。そして追跡は マードックは煙草に火を点けた。両手が震えていた。 あたしに任しておいても : : : 」 「ジェニー、車が野生になるのは何のせいなんだ ? 」彼は訊いた。 「いいや。そうできることは知っていたが、ぼくはその場に居合わ 「次の燃料補給をどこで受けるかも全然知らずーー・自動修繕ュニッせたいんだ。・ほくは命令を出したり、自分で幾つかのボタンを押し トの予備の部品を見つける当てもまるでないのに ? なんで連中はたり、あのデビル・カーが燃え尽きて金属の骨組になるのを見たい そんなことをするんだ ? 」 んだ。一体何人の人間を、何台の車をあいつは潰したんだ ? 数え 「あたしにはわからないわ、サム。そんなこと、一度も考えたこと切れないぐらいだ。どうしたって・ほくは奴をつかまえなきゃならな 5 はないもの」 いんだ、ジェニ
「オーケー、サム。ごめんなさい」 マードックは″大西部道路原″を車で飛ばしていた。 平原の無数にある小さな丘や起伏を、時速百六十マイル以上で次短い中断のあとの沈黙は重苦しかった。だが、彼女は優秀な車だ った。マードックはそれを知っていた。彼女はいつも彼のためよか 次に乗り越えてゆく彼の頭上高くには、太陽が火のついたヨーヨ 1 のように燃えていた。彼は何が来ようと速度を緩めなかった。そしれと気を使い、彼の捜索をはかどらせようと心を砕いていた。 てジェニーの隠された目は、あらゆる岩や穴をそれが近づく前に見彼女は心配のいらないセダンの″すてきな逸品″といった風な感 つけ出して、注意深くコ 1 スを修正した。時には彼が両手の下にあじに作られていた。明るい赤で、派手やかで、速かった。だが、ポ る操縦桿の微妙な動きに気づかない時さえもあった。 ンネットのふくらみの下にはロケットが幾つかついており、ヘッド ライトの下の奥の、ちょうど外から見えないあたりに、五〇ミリロ 黒っぽい色の風防ガラスと厚い防護眼鏡を通してさえ、溶解した 平原から発する光は彼の目に焼きっき、そのため時には輝く異境の径の銃口が二つのそいていた。また五秒および十秒セットの手榴弾 月のもとで、夜すばらしく速いポートを操綻しているとでもいうよの帯が、その下腹に巻かれていた。そしてそのトランクの中には、 うな感じゃ、また銀の火の湖をわたっているような感じがした。高高揮発性のナフサ油を収めた噴霧タンクが潜んでいた。 いほこりの波がその航跡から上がり、空中に漂い、暫くしてまた沈 : というのは、彼のジェニーは、とくに設計された″死の車 下した。 で、名門ジーイエムの最高の技師によって彼のために作られたもの 「あなたは体力をすり減らしてるわ」ラジオがいった。「そんな風だったからである。そうした偉大な名匠のあらゆる手腕が、彼女の にハンドルをにぎりしめて、前をにらんでいては : 。どうして少製作のために揮われていた。 し休もうとしないの ? あたしにガラスを曇らせなさい。眠って運 転をあたしにお任せなさい」 「今度は見つけるそ、ジェニー」彼はいった。「さつぎガミガミい 「いや」彼はいった。「このほうがいいんだ」 ったけど、あれは本気じゃなかったんだ」 「わかったわ」ジェニーがいった。「訊いてみたほうがいし 「いいのよ、サム」優しい声がいった。「あたしはあなたのことを ただけよー よくわかるようにプログラムされているんだから」 「ありがとう」 彼らは轟音をあげながら″大平原″を突っ切って行った。太陽は 一分ほどして、ラジオが音楽を流し始めたーーー柔かい、なよなよ西の方に落ちていった。夜も昼もぶつ通しで彼らは捜索を続けてお とした調子で続く音楽だった。 り、マードックは疲れていた。この前の燃料補給・休息用基地への 「止めろ ! 」 立ち寄りが、もうずいぶん前の、しかもはるか後方のことのように 「悪かったわ、 : ホス。気分がやわらぐと思ったの」 思われた・ : マードックは前によりかかって、目を閉じた。 「その必要がある時は、・ほくがちゃんと君にいうよ」 、と思っ 3 7
「あたしが見つけてあげてよ、サム」 が、あとからはどうしても奴をつかまえることができない。という 彼らは時速二百マイル前後で飛ばした。 のは、恐ろしく馬力をあげてあるからだ。いつもこの " 大平原。へ ゾェニー ? 「燃料の水位はどれくらいだい、 ) 戻ってきて、人をまいてしまう。中古車の展示場を襲ったことさえ 「たっぷりあるわ。そしてあたしはまだ補助タンクには手をつけてあるんだーー」 ないわ。心配ご無用よ。 痕跡がだんだん強くなってきたわ」彼女がつけ加えた。 ジェニーが急角度でコースを変えた。 「そいつはいい。武器系統はどうだい ? 」 「サム ! 痕跡がいますごく強くなったわ。こっちょ ! あの山の 「赤ランプよ、どこもかしこも。いつでも発射できるわ」 方へ向かってるわ」 マードックは灰皿にこすりつけて煙草の火を消し、また新しいの 「あとをつけろ ! 」マードックがいった。 をつけた。 それから長い間、マードックは黙っていた。朝の最初の気配が東 「 : : : 連中のうち何台かは、死んだ人間を中にくくりつけて走っての方にきざしていた。おぼろな明けの明星は、車の背後の青いポー るんだ」マードックがいった。「乗客の乗ったちゃんとした車に見ドの上に留められた白い画鋲だった。車はゆるやかな斜面を登り始 えるようにね。あの黒いキャディはいつもそれをやっていて、かなめた。 り定期的に中の人間を変えている。車の内部をいつも冷却してるん「やるんだ、ジェニー。 つかまえるんだ」マードックがせき立て どーーその人間がいつまでも保つようにね」 「よく知ってるのね、サム」 「そうできると思うわ」彼女がいった。 「あいつはにせの乗客とにせのプレートで兄貴をだましたんだ。そ斜面の角度が増した。ジ = ニーは地形に合わせるようにス・ヒード の手で兄貴にガソリン基地を明けさせた。それから全部の車が襲いを落とした。地面は多少でこ・ほこ道になりかかっていた。 かかった。あいつは時によって車体を赤や緑や青や白に塗り変える「どうしたんだ ? 」マードックが訊いた。 が、遅かれ早かれ、いつも黒に立ち帰る。黄色や茶色やツートン・ 「走るのがきつくなってきたわ」彼女がいった。「それに跡をたど カラーは好まない。・ほくはあいつがこれまでに使ったほとんどあらるのがだんだん難しくなってるの」 「どうしてだ ? 」 ゆるにせのプレートのリストを持っている。あいつは堂々と大きな 高速道路で町へ乗り込んで、普通のガソリンスタンドでタンクを一 「このあたりは地面自体の放射熱がまだかなりあるのよー彼女が答 杯にすることまでやっている。係り員が代金をもらいに運転手の席えた。「それがあたしの追跡システムを混乱させるの」 へ行くところで奴は人間を振り切って逃げるが、その時よくナン・ハ 「とにかく続けてみてくれ、ジェニー」 ーを見られる。あいつは十二、三種類の人間の声が出せるんだ。だ「跡は真直ぐ山の方へ行ってるようだわ」
贏い一 DEVIL CAR ーい、 3 を 悪魔の車 ・ゼラズニイ 訳 = 峯岸久画 = 岩淵慶造 俺の兄責を殺したあの黒いキャディ あいつは、この俺が必す仕止めてやる 野性化した車の群を率いる感悪魔の車を 愛車ジェニーを駆る彼はついに追いつめたが・・・ "DEVIL CAR" ◎ Copyright 1971 by Roger Zelazny. 72
それが彼らめがけて弾丸のように突進してきたーー・あのデビル・ 「サムーー彼は丘を降りて来ながら、あたしに話しかけたの : : : 」 カーが : 。それは速力でスカーレット・レディにかなわないこと彼女はいった。 マードックは待った。しかし、彼女は何もあとをいわなかった。 を見てとり、待ち伏せしていたのだが、いまや追手と最後の衝突を 「で、彼は何といったんだい ? 」彼は訊いた。 しようと突進してきたのである。 「彼はいったわ。″おい、君はその乗り手を処理しろ。そうすれば 金切り声のような音と煙の匂いとともに急プレーキがかかると、 「こうもい ジェニーは横にすべった。五〇口径が火をふき出して、フードが勢おれは君の横をすり抜けるから″って」彼女は答えた。 ったわ。″おれは君がほしい、スカーレット・レディ よく明き、前の二つの車輪が上がって地面を離れると、ロケットが っしょになれば、連中は決してお 泣くような音を立てて前方に飛び出した。彼女は後ろの・ハンパーで走り、いっしょに襲うためにな。い 塩分を含んだ砂の地面をこすりながら、三度旋回したが、最後の一一一れたちを捕まえられないそ″ってね。そしてあたしは彼を殺したわ」 度目の時、山腹で・フスプスくすぶっている残骸めがけて、残りのロ マ 1 ドックは黙った。 ケットを全部射ち込み、四つの車輪をすべて地面に降ろして停止し「でも、彼はあたしの発砲を遅らせるためにそういっただけなんで た。五〇口径の銃は空になるまで射ち続けられ、それから連続したしよう ? あたしをとめるために、自分も潰れる時にあたしたち二 カチカチいう音が、そのあとたっぷり一分は聞こえた。それからす人も潰せるように、そうったんでしよう ? 本気でそういったはず べてが静寂に戻った。 はないわね、サム ? 」 マードックは震えながら座席に坐って、朝の空を背景に、腸を抜「むろんそうとも」マードックはいった。「むろんそうだとも。彼 かれ、ねじ曲げられた残骸があげる炎を見つめていた。 が横をすり抜けるには、もう遅すぎたよ」 や 「ええ、そうだと思うわーーーでも、彼はほんとにあの山へ戻って、 「やったそ、ジェニー。君はやつを殺った。・ほくのためにデビル・ あたしに彼といっしょに走り、いっしょに襲撃してもらいたいと思 カーを殺した」彼はいった。 だが、彼女は答えなかった。そのエンジンがまたかかると、彼女っていたーー何より先にという意味よーーと思う ? 」 は東南の方に向きを変え、あの文明の方角に横たわる燃料補給・休「多分ね。君は装備の行き届いた可愛い子だからね」 息用基地をめざした。 「ありがとう」彼女はいって、またスイッチを切った。 だが、彼女がそうする前に、彼は奇妙な機械の音が、冒のこと 二時間というもの、彼らは黙ったまま進んだ。マードックは・ハー ばか、それとも祈りのことばか、ある一つのリズム音に変わるのを ポンとコーヒ 1 を全部飲み尽くし、煙草を全部吸い尽くした。ジェニ耳にした。 ー、何かいってくれ」彼はいった。「どうしたんだ ? 教えてくれ」 それから彼は首を振って、それを下げ、まだ震えの収まらぬ手で そばのシートをソッと叩いた。 カチリという音がして、彼女の声はひどく優しかった。
「前の方に何か明かりが見えるぞー彼がささやいた。 マードックが最初見た時にはガラクタと見分けもっかなかったひ 「わかってるわ」 飛び出して 7 どく古・ほけた車が一台、急に彼らの方へ五、六フィート 「空の一部だろう、多分」 きてガクンと止まった。リ べットの頭がプレーキの円盤にひっかか 彼らはそっちの方へじりじりと進んだ。ジェニーのエンジンは大る音が、彼の耳の中でひどい響きをあげた。その車のタイヤは全部 きな岩の部屋の中で、ほとんど溜め息をつくぐらいの響きしかあげ完全にツルツルになり、左の前のはひどい空気洩れがしていた。右 平 / 、力ー のヘッドライトが壊れていて、風防ガラスにはひびがはいってい 彼らは光の射し込んでいる一歩手前で止まった。赤外線のシード た。それはガラクタの山の前に立ち、その目を覚ましたエンジンが がまた下がった。 ガタガタ恐ろしい音を立てていた。 彼が見上げているのは、砂と泥板岩の深い峡谷だった。 「どうしたんだ ? 」マードックが訊いた。「何だ、あれは ? 」 斜に傾いたり、頭上におおいかぶさるように垂れたりした巨大な「彼はあたしに話してるのよ」ジェニーがいった。「彼はひどく年 岩が、向こう端の部分を除いて、そのあたり全体を空の目から隠しをとっているの。そのスビード・メーターがそれはもう何回も何回 ていた。向こう端のあたりの光は・ほんやりとしていて、その下には も回転したため、自分が一体何マイルの道のりを走ったか、忘れて 変わったものは何もなかった。 いるの。彼は人間を憎んでいるわ。機会さえあればいつでも自分を だが、もっと手前には : 虐待したっていってるわ。彼は墓場の番人なの。もう襲撃に出かけ マードックは目をパチパチさせた。 るには年をとりすぎているので、何年もスペアの部品の山の番をし ているんだって。若い連中がやってるように、自分で自分を修繕で ードックが生まれてこきる種類の車じゃないので、彼は若い連中のお情けと、その自動修 手前には、朝の薄暗い光と物影の中に、マ 繕ュニットとに頼らなければならないの。あたしが何しにここへ来 のかた見たこともないような大きなガラクタの山が立っていた。 たか、知りたがってるわ」 あらゆるメーカーとあらゆる型の自動車の部品が、小さな山をな 「他の連中がどこにいるか訊いて見給え」 して彼の前に積み上げられていた。。ハッテリやタイヤやケープル だが、そういった時、マードックは沢山のエンジ、ンが回転する音 や緩衝器があった。フェンダーや・ハンパーやヘッドライトやそのわ くがあった。ドアも風防ガラスもシリンダーもビストンも、気化器を聞き、やがて谷はその馬力の轟きで一杯になった。 「連中は堆積の向こう側にいるわ」彼女がいった。 「いまこっちへ も発電機も電圧調整器もオイル・ポンプもあった。 やってくるわ」 マードックは目を見はった。 「ぼくが射てというまで待てよ」最初の車ーーーっやつやした黄色の 「ジェニー」彼はささやいた。「ぼくらは自動車の墓場を見つけた ードック クライスラーだった が・積を回って鼻を出した時、マ んだ ! 」
窓という窓がゆっくり暗くなっていって、完全な不透明状態にな「現場よ」ジ = = ーがいって、スビードを落とし始めた。 った。座席ベルトが這い上がっていって、彼の身体を ( ンドルから彼らは荒らされた車のそばに乗りつけた。彼のシート・ ベルトの 7 引き離した。それからシートが次第に後ろの方へ倒れていって、し止め金が外れて、彼のそばのドアが勢いよく明いた。 まいに彼は水平に横たわった形になった。あとになって夜が近づ く「あたりを回ってみてくれ、ジェニー」彼はいった。「そしてタイ と、ヒーターがはいった。 ヤの熱の跡を探してくれ。ここには長くいないから」 朝の五時ちょっと前、シートが揺れて彼の目を覚ました。 「起きて、サム ! 起きるのよ ! 」 ドアが・ハタンと閉まって、ジェニーは彼から離れていった。彼は 「どうしたんだ ? 」彼はロの中でモグモグいった。 小型の懐中電灯にスイッチを入れると、めちやめちゃになった車の 「二十分前に放送をキャッチしたの。こっちの方でつい最近、車の方へ歩いて行った。 襲撃があったそうよ。あたしはすぐコースを変えたわ。そしてもう ″平原″は彼の足の下で、砂をまき散らしたダンス・フロアのよう そろそろそのあたりへさしかかってるわ」 固くてジャリジャリするーーーだった。車がスリップした跡が沢 「どうしてその時すぐ・ほくを起こさなかったんだ ? 」 山あり、ス。 ( ゲッティのようにもつれたタイヤの跡が、そこら一面 「あなたには睡眠が必要だったし、それにあなたにできることとい に走っていた。 ったら、緊張してイライラすることぐらいしかなかったわ」 初めの車の ( ンドルの前に、死んだ男が一人坐っていた。その首 「オーケー、多分君のいう通りだろう。襲撃のことを話してくれ」 は明らかに折れていた。その手首の潰れた腕時計が、二時二十四分 「西の方へ向かっていた六台の車が、昨夜のいっか、台数不明の野を指していた。四十フィ ートほど離れたところに三人の人間ーー二 生の車にどうやら待ち伏せされて襲われたらしいの。パトロール・ 人の女と一人の若い男 , ーーが倒れていた。彼らは攻撃を受けた車か 〈リコプターが現場の上空からそれを知らせてきて、あたしはそれら逃げようとして、轢き倒されたのだった。 を聞いたわ。六台の車はみんな裸にされ、ガソリンを抜かれ、頭脳 マードックは先へ進んで、他の車を調べた。六台の車はいずれも 部分は打ち壊され、そしてどうやら乗客も全部殺されたらしいわ。真直ぐ立「ていた。損害のほとんどは、そのボディに加えられたも 動くものの気配は何もないそうよ」 のだった。全部の車からエンジンの本質的部分はもちろん、タイヤ 「いまそこからどれぐらいの所にいる ? 」 と車輪が持ち去られていた。ガソリン・タンクは明いたままになっ 「もう二、三分のところよ」 ていて、サイホンで中身が抜き取られていた。スペアのタイヤも蓋 風防ガラスがまた透明になり、「ードックは強力な〈ッドライトのはね上が 0 たトランクの中から消えていた。生きた乗客は一人も よ、つこ 0 が切り裂く夜の闇の中を、できる限り遠くへ目をこらした。 し子′・カ′ 「何か見えるそ」ほんの少しして彼がいった。 ジェニーが彼のそばへ寄ってきて、そのドアが明いた。
三十分後、夜は山々の後ろで次第に溶け落ちて行っていた。彼の 「追ってくれ、追ってくれ ! 」 右の方では、朝が″大平原″の向こう端で爆発し、空を千々に砕い 彼らはまた少しスビードを落とした。 グッシュ・ー 「もうすっかり・わからなくなってしまったわ、サム」彼女がいって、秋の木々のあらゆる色に染めていた。マ 1 ドックは計器盤の 下から、かって宇宙飛行士たちが使ったような、絞り出し容器入り た。「たったいま跡を見失ったわ」 「奴はどこかこのあたりに本拠を持ってるに違いないーー洞窟とかの熱いコーヒーを引き出した。 そういったようなものだーー、・上から見つけられないようなところ「サム、何か見つけたようよ」 だ。ここ何年もの間、空からの発見を避けてこられたのは、それし「何だ ? どこだ ? 」 「前の方、あの大きな丸石の左手にある下り坂。その坂の突き当た か方法がない」 りには穴みたいなものがあるわ」 「どうしたらいいの ? 」 「できる限り先まで行って、岩に低い穴がないかどうか、くまなく「オーケー、いい子だ。そこへ向かってくれ。ロケット用意」 調べるんだ。用心しろよ。いつでもすぐ攻撃できるよう用意してる彼らは丸石の線まで来て、その向こう端を回り、下り坂へ向かっ こ 0 んだ」 彼らは山裾の低い丘並みの中にはいり込んだ。ジ = ニーのアンテ「洞窟だ、それともトンネルかな」彼はいった。「ゆっくり行けよ ナが空中高く伸びて行って、金属の布地でできた蛾のような羽がそ 「あった、あったわ ! 」彼女がいった。「また跡を見つけたわ ! 」 の先に開き、そこで踊ったり回ったりして、朝の光の中できらめい 「タイヤの跡まで見えるぞ、それも沢山 ! 」マードックがいった。 「まだ何もっかめないわ」ジェニーがいった。「それにもうあまり「間違いなくこれだ ! 」 彼らは穴の方へ向かった。 先へは行けないわ」 「入るんだ。ただし、ゆっくり行けよ」彼は命令した。「何でも動 「それじや横にゆっくり流していって、走査を続けるんだ」 くものがあったら、すぐ吹っ - 飛ばせ」 「右へ行くの、それとも左へ行くの ? 」 彼らは岩でできた入口をはいった。下は砂になっていた。ジェニ 「さあね。君が逃走中の裏切り者だったらどっちへ行く ? ー 1 は可視光線をすべて消して、赤外線に切り替えた。赤外線レンズ 「わからないわ」 が風防ガラスの前にせり上がってきて、マードックは洞窟の中を眺 「どっちかを選び給え。どっちでも構やしない」 「それじゃ右へ行くわ、彼女がいった。そして彼らはその方角へ向めた。高さは二十フィートばかりで、幅は多分三台の車が並んで走 れるぐらいの余裕があった。地面は砂から岩に変わったが、なめら 7 力学ー かでかなり平だった。暫くすると、それは上り坂になった。
く調べてみたいって : : : 」 力し / 「だが、 「そいつを受けるわけにはゆかん」マードックはいった・ マードックは頭をハンドルのところまで下げたが、目はゴーグル の陰で明けたままにしていた。 堆積を回ってみるんだ。向こう側を一目みたら、どうすれま、 「仲間にはいりに来た、運転手はもう″処理″してある、というんを教えるよ」 ビッグ・チーク だ。黒いキャディを射程内にくるようにさせるんだ」 二台のマーキュリーと″副大統領″がわきへ寄り、ジェニーはそ 「彼はそうしないでしようよ」彼女はいった。 「いま彼と話してるこをのろのろと通りすぎた。マードックは横目で上の方を眺め、通 わ。彼は積の向こう側からでも楽々と放送できるのよ。どうするりすぎてゆくガラクタの山を見上げた。両端にねらいをうまく定め か決めるまで、あたしを見張るために、仲間のうちで一番大きい車た二発のロケットを打ち込めば、こいつを崩すことができるが、結 を六台派遺するといってるわ。あたしにトンネルを抜けて、谷の中局は自動測定装置が多分その中に道をつけてしまうだろう。 彼らはの左手の端を回 0 た。 へはいってくるように命令したわ」 「それじゃ前進だーーーゆっくりとな」 四十五台かそこらの車が、右手と前方に、百二十ャードぐらいの 彼らはじりじりと前へ進んだ。 距離を置いて、こっちを向いていた。彼らは扇形に広がっていた。 彼らは堆積のもう一方の端をとりまいて出口をふさぎ、後ろの六台 いかにも力がありそうなポンティアクが一 リンカーンが二台と、 の見張りはいまやマードックの後ろの道をふさいでいた。 台、それからマ 1 キュリーが二台、クライスラ 1 に加わったーー・・・両 一番遠くにいる車の一番遠い列の向こうに、古い黒いキャディが 側に三台ずつ、前の車を小突くように並んでやってきた。 駐まっていた。 「奴は、向こう側にどれぐらいの車がいるかを匂わすようなことをそれは一年にわたる組立作業の中から打ち出されてきたもので、 もユ / ・カし ? ・」 当時見習いの技師たちが心から大きいなと思っていたものだった。 「いいえ。あたしが訊いてみたけど、教えなかったわ」 全く巨大で、ビカビカ光っていて、ハンドルの後ろで骸骨の顔が一 「よし、じゃとにかく待たなくちゃならんな」 っ笑っていた。黒くて、底光りのするクロームで、そのヘッドライ トはほの暗い宝石か、それとも昆虫の目のようだった。車体のあら 彼は死んでいるようなふりをして、ぐったりした恰好のままでい た。暫くすると、前から疲れていた肩が痛み出した。しまいにジェゆる面やカ 1 ・フが力強い光を湛え、その大きな魚の尾のような後尾 ニ 1 が話し出した。 は、一瞬の警告で後ろの物影の海を勢よく打って、殺しの獲物めが 「彼はあたしに、積の向こう端を回 0 てくるようにい 0 てるわ」けて飛びかかる用意をしているように見えた。 彼女がいった。「連中が道を明けたから、彼の指示する岩の割れ目「あれだ ! 」マードックがささやいた。「デビル・カーだ ! 」 の中へ向かえって : 。自分の自動測定装置で、あたしのことをよ「大きいわ ! 」ジェニーがいった。「あんな大きな車、一度も見た 9 7
ことがないわ ! 」 したためだった。彼らは前進を続け、八台ないし九台の車が彼らを さか 彼らは前進を続けた。 めがけて逆落としに突進してきていた。 「彼はあたしにあの割れ目〈はい 0 て行 0 て、そこで駐まれといっ彼女はもう一度 " = = ートラル。で回転すると、積の東南の隅を てるわ」彼女がいった。 回って、来た方角へまた突進した。その銃は、この時後退にかかって 「ゆっくりそこへ向かうんだ。だがそこにははいるなよ」マ 1 ドッ いた見張りの車に激しい銃撃を浴びせていたが、マードックは広い クがいった。 ・ハックミラーの中に、後ろで高く吹き上がっている焔の壁を見た。 「君はのがしたぞ ! 」彼は叫んだ。「あの黒いキャディをのがした 彼らは向きを変えて、割れ目の方へじりじり動いた。他の車はじぞ ! ロケットはあいつの前にいた車に当たって、あいつは逃げた っとしていたが、そのエンジンの音が高まったり低まったりしてい 「わかってるわ。悪かったわ ! 」 「すべての武器系統を点検しろ」 「君ははっきり狙えたはずだそ ! 」 「赤よ、どこもかしこも」 「わかってるわ。しくじったのよ ! 」 割れ目は二十五フィートほどに近づいた。 彼らはちょうど二台の見張りの車がトンネルの中〈消えた時、 「ばくが″今だ″といったら、ギャを″ニートラル″にいれて、積を回った。三台は煙を吐く廃物となって横たわっていた。六台目は 百八十度回転するんだーーすばやく。連中はそんなこと考えてもい 明らかに他の二台に先立って通路を抜けていったに違いなかった。 ない。自分たちにはそんな機能はない。それから五〇口径の火蓋を「あいつが来たそ ! 」マ 1 ド ' クが叫んだ。「積の向こう端を回 切って、ロケットをキャディめがけてぶつばなし、直角に回って来って ! 殺せ ! やつを殺せ ! 」 た道を引っ返しにかかり、進みながらナフサ油をまき散らし、そし墓場の老いばれた番人がーーーそれはフォードのように見えたが、 て六台の見張りめがけて射撃を加える : : : 」 はっきりはしなかった ガタガタ恐ろしい音を立てながら前進し 「今だ ! 」座席に飛び起きながら、彼は叫んだ。 てきて、火線の前に立ちふさがった。 車が回転したので、彼は後ろへ投げ飛ばされたが、頭がまだはつ「射線がふさがれてしまったわ」 きりしないうちに、彼女の銃のけたたましい響きを聞いた。そのこ ろには遠くで焔が吹き上がっていた。 「あのガラクタを粉砕して、トンネルをふさぐんだ ! キャディを ジェニーの銃はいまや外に突き出されて、台座の上で回転し、車逃がすんじゃないそ ! 」 の列に数百の鉛の ( ンマーを浴びせかけていた。彼女は二度身を震「できないわ ! 」彼女がいった。 わせたが、それは一部開いたフードの下から二発のロケットを発射「どうしてだ ? 」 0 8