を。しるしのなくなった空間は、ふたたび初めもなけれっていたもう一つの惑星系に、 Kgwgk とかいうものが ば終りもない、吐き気をもよおすような、空虚な深淵に いた ( 名前はその後、ずうっとのちの名前時代になって 8 変ってしまい、し 、つさいがーーーわしをも含めてーーそのからできたものだ ) 、意地の悪い、恐ろしくやっかみの なかを当てもなくさまよっているのだった ( ある点をし強いやつで、野蛮な衝動にかられてわしのしるしを抹殺 るすのに、わしのしるしだろうと、その消し痕だろうし、その上、下品な細工でべつのしるしをつけようとや と、結局は同じじゃないかなどと言わないでもらおう。 ってみたというわけなのだった。 消し痕はしるしの否定であり、したがって、しるしては そのしるしが示すものは、わしのしるしの真似をしょ いなかった、つまりある点をそれに前後する無数の点か うという Kgwgk の意図以外には何にもあり得なかった ら区別する役には立っていなかったのだからな ) 。 ことは歴然としていたから、この二つを較べてみること 絶望に打ちのめされて、わしはまるで気を失ったようなど問題にもならないくらいだった。しかしそのときは、 になって、幾光年もの・道をただ引きずられてゆくにまか こんな相手にひけを取りたくないという気もちのほうが せていた。ようやく目をあげたとき ( その間に、われわ他のどんな考えよりも強かった。わしはすぐまたもう一 れの世界では視覚が生じていたし、したがってまた生命つ新しいしるしをーーーそれこそがほんとうのしるしとも も存在し始めていたのだ ) で、目をあげたとき、わなり、 Kgwgk を死ぬほど羨ましがらせもするようなや しはそこにまったく思いもよらないものを見たのだっ つをーーこの空間に描きだしてやろうと思った。あの最 た。そう、あれだ、わしのしるしを見たんだ。でも、あ初のしるし以来、わしはもうおよそ七億年ものあいだ、 れではない、よく似たやっ、もちろんわしのを真似てこしるしをつくろうと試みたことはなかった。わしは、全 しらえたんだろうけれど、わしのしるしなんかではありカを打ちこんでそれに取りかかった。けれども、今では 得ないっていうことがすぐにもわかるような代物、いか事情がまるで違っていた、というのは、さっきもちょっ にも不恰好で、まの抜けた、しかも滑稽なまでは勿体ぶと触れたように、われわれの世界は今ではそれ自身のイ ったやつなのだ。つまり、わしがあのしるしのなかにしメージを伝え始めるようになっていたし、またあらゆる るすつもりだったものの醜悪なイミテーションであつものはその機能に応じて形を備えるようになり、しかも て、あれのもっていたえも言えぬあの純粋さが今になっそのころの形は、すべて長い将来を約東されているもの てようやく コントラストのおかげだがーーー思い浮かのように信じられていたからだった ( もっとも、このよ べられるようになったほどだった。わしにこんな悪戯をうな考えは正しくなかった。例えばーー比較的最近の事 仕組んだやつは、・ とこのどいつなんた ? わしには、ど例を参照するならーーー・恐竜を見たまえ ) 。したがってま んなにしても思い当るところがなかった。やがて数千万だ、わしのこの新しいしるしにも、ものごとにたいする当 スタイル 年もの推理の糸目をたどった挙句、ようやくその解答に時のこのような見方の影響ー・・ーこれを「様式」と呼ぶこ ゆきついた。銀河の公転にしたがってわれわれの前を走とにしようーーーっまり、あらゆるものが何らかの具合に
存在するさいの、あの独特のあり方が、強く感しられた質時代の幾代にもわたってずうっと続いたのだ。わしは ものだった。もちろん、わしはこれに大いに気をよくしこの恥かしさをかくすために、噴火口の奥底ふかくにも たことを言っておかなくてはならない。もうわしには消ぐりこみ、また大陸の頭を覆う氷河の頭巾に悔恨の歯を されてしまったあの最初のしるしを嘆く気もちなど起らっき立てていた。あの Kgwgk のやつは、この天の川の なくなっていた。それほどこの新しいしるしのほうが較回遊ではいつでもわしの先を進んでいるのだから、わし べようもなく美しいものとわしには思われたのだった。 が掻き消してしまう前にあのしるしを見つけて、い力に しかしその同じ銀河年が終りもしないうちに、はやくも下司のあいつらしく、わしを馬鹿にするために、この も、この世界のものの形は、すべてまだ当時はほんの仮銀河をとりまく球面のいたるところに、へたくそな物真 りのものに過ぎなくて、いずれはつぎつぎに変ってしま似をしてあのしるしをかき散らすことだろうという考え うものばかりなのだということがわかりだした。それがに、わしは悩まされていたのだった。 感じられ始めると同時に、ふるいイメージにたいする腹ところが今度は、複雑をきわめる天体の時間装置がわ 立たしさも生まれ、思いだすことさえ我慢できないとい しのほうに味方をしてくれた。 Kgwgk の星座はしるし うくらいになった。わしはまたしても新しい物思いに苦にゆき会わすにすみ、われわれの太陽系がその第一周の しめられるようになったーー・ー宇宙のただなかにあんなし終りにはびったりそこへ帰りつき、わしは念入りにすっ るしを残して来てしまった、あのときこよ 冫をいかにも独創かりそいつを消し去ることができたのだった。 的で美しく、その機能にふさわしいと思われたのに、今こうして、わしのしるしというものは、もう宇宙には となってはあまりにも場違いな仰々しさで思いだされるたたの一つもなくなった。もちろん、もう一つべつのを あんなしるしを。それも、何よりもしるしというものに かいてみることだってできたわけだが、今ではわしにも、 しるしというものはそれをこしらえた人柄を判断する役 ついてのいかにも時代おくれな考え方のしるしとして、 またもっとはやく見切りをつけることができてもよかっ にも立つものだとわかったし、それに銀河の一年のあい たろうに、愚かにもわし自身が当時のもののあり様と共だには、趣味も考え方も変ってしまうことだってあり得 謀になっていたことのしるしとしてだ。要するに、わしるし、昔の人たちをどんなふうに見るかということも、 はあのしるしが恥かしくてたまらなかったのたーーーあれ結局はあとからやって来るもの次第だということもわか ったのだ。要するに、わしが恐れていたことは、今でこそ は幾百、幾千もの世紀にわたって、つぎつぎに飛び交い 近寄って来る天体に、たたそれ自体の滑稽な眺めばかり完全無欠のしるしだと思えるものでも、二億年あるいは か、わし自身と、またわしらのあの仮りの見方までも笑六億年もたっころには、わしに恥をさらさせるようにな いものにして示し続けているのだー これを思いだすたるかもしれないということだった。それにひきかえ、惜し びに ( しかもわしはこのことばかり絶えず思いだしてい いことにも、 Kgwgk が乱暴に抹殺してしまったあの最 9 っさいの形の始まりに先立って生まれ たのだ ) 、羞恥の炎がわしをとらえて、それがさらに地初のしるしは、、
ぶつかった。約八十五フィートはある、ほとんど垂直に突き立ってやってほしい わたしはつるつる滑るチムニーの、どこまで続くか知れぬ壁を、 3 た、かなりすべすべした岩壁である。 迂回する道はどこにもなかった。それでそこを登った。たつぶり何も見えないまま、文字通りの一インチずつじりじり登った。もし 一時間かかったが、その頂上には尾根があって、もっと楽な登り道もチムニーの底にはいった時、わたしの髪がもともと白くなってい なかったとしたら : に続いていた。だが、そのころには雲が襲ってきた。前進は楽だっ とうとうしまいに霧を突き抜けた。とうとうあの輝いた意地悪な たが、霧のため、ペースは落ちた。わたしは雲を登り越えようと思 い、まだ日の光がいくらか残っていたので、食事するのを延ばすこ空の一部を見た。意地悪な空め、当座のところは勘弁しておいてや ろう。わたしはそれを目ざし、目標の個所にたどり着いた。 とにしこ。 チムニーの穴から顔を出した時、十フィートほど上に小さな一つ だが、雲はいつまでもやってきた。どこか下の方で雷の音がし た。しかし霧は見た目には楽だったので、前進を続けることにしの岩棚を見た。わたしはそれに登り着いて、手足を伸ばした。筋肉 は少々震えていたが、それが軟かになるようにした。水を一口飲 ーを二本ほど食べ、また水を一口飲んだ。 そのあと一つのチムニーを試みた。その天辺ははっきり見えなかみ、チョコレート・ クレセン ったが、その左にあるギザギザした三日月形よりはかなり短いよう多分十分ほどしてから、また立ち上がった。もう地面は見えなか った。やさしい懷しい嵐の、柔らかい白い綿のような頂きが見える に見えたからである。だが、これは誤りだった。 岩の凝縮の度合いは、わたしの思ったより高かった。岩肌はつるだけだった。わたしは上を見上げた。 つるしていた。だが、わたしは頑固に登り続け、滑る靴と濡れた背驚くべきことだった。彼女はまだ頂上が見えなかった。そしてさ 中で悪戦苦闘して、ほ・ほ三分の一ほどを登りーーと思ったーーー息をつきのような一、二の個所 , ーーさっきのはわたしの馬鹿げた自信過 剰のせいだったーー・・を除けば、これまでのところはほとんど階段を ついだ。 その時、自分の仕とげたことを初めて知った。頂上と思ったとこ昇るぐらいのたやすい道のりだった。 だが、道の状態はこれからは多少きついようだった。実際にわた ィートほど登ったが、登らな ろは、そこではなかった。もう十五フ ければよかったと思った。霧はわたしの周りでわき立ち始め、わたしが調べにやってきたのは、まさにこのためだった。 わたしは。ヒッケルを揮って前進を続けた。 しは突然ずぶ濡れになっている身体を感じた。降りるのも恐ろし く、また登るのも恐ろしく、そしていまいるところにいつまでも留 次の日一日、わたしは着実に登った。不必要な危険は冒さず、定 まっているわけにはゆかなかった。 誰か人が、一インチずつじりじり進むといったのを聞いても、お期的に休み、地図を書き、広角の写真を撮った。午後、登攀の楽な かしな言葉遣いをすると責めないでほしい。善意に解釈して同情し個所が二つあり、短い時間に七千フィート登った。もうエベレスト こ 0
女たちの一人がやじった。 檻信頁より続く ) 「娘を持てればね」とマリイ。「この調子じゃあ、産めそうにない わー の候補生で、クレメンズの方は少なくとも六歳は年長であり、こう「それ、ゆけ ! 」と皆が叫んた。「それ、ゆけ ! 」 フェネットがまず動いた。まるで遠慮するかのようにおずおず前 した未知の世界の鉱山試掘師として知られた男だった。 「もし賭けるものでもここにあったら」と肥った男はうれしそうにに踏み出し、相手の無防備の顔に右手をつきだした。大して強くな ぐったわけではなかった。しかしそれは明らかに痛かったらしく、 いった。「・せったいにクレメンズの方に張るね。あんたの仲間の候 クレメンズは顔に手をあてた。それからその手をはなし、そこにつ 補生は百に一つのチャンスもないよ。だって彼は正式の戦い方しか いた赤い血を見つめた。彼は唸り、そして両手をひろげてつかみか 知らんがね、クレメンズの方はどんな汚ない手も知っているんだか かった、しかし候補生は軽々と後にさがりながら、さらに二つ右手 らな」 「フェネットの方が有利さ」とホーキンズがいった。「だって彼はを相手の顔に命中させた。 ずっと身体をきたえてるからね。ところがクレメンズはただ寝て食「候補生、もうちっと本気でなぐったらどうだい ! 」と肥った男が べて暮してたって所だ。ほら、あの腹の出た様子を見たまえ」 不平をいった。 「ちょっとばかり肉がついたって、別に何のこともないさ」肥った「そしてげんこをめちゃくちゃに砕いちまうのか ? 二人ともグロ 男は自身のたいこ腹を叩きながら言った。 ープははめてないんだからね」とホーキンズが答えた。 フェネットはちょっと腕をほこりたく思ったらしい。少し股を開 「眼玉を突かぬこと。噛みつかぬことド・」と審判が叫んだ。「では 勝負はじめ ! 」 いて立ったまま、例の通り右手で相手の顔をねらった。しかし今度 彼はスマートな身ぶりで二人の間からはなれ、若い女 ( ートと並はその顔をうつふりして、左のこぶしでクレメンズの腹を下から突 きあげた。ホーキンズの驚いたことに、クレメンズはこうした打撃 んだ。 広場に立った二人の男はやや困惑したような様子で、こぶしを下を、実に平気な顔をして受けていたーー・彼は外から見た様子よりも におろしたまま、ためらっていた。まるで、事がこんなところまで実際はよほど強健らしい ・ : と、濡れた草にすべった。 来てしまったのを後悔しているかのようだった。 候補生は軽々とわきに跳びはねた : クレメンズが、その上にどさっとのしかかった。ホーキンズの耳に ートが叫んだ。「わた 「かかんなさい ! 」と、しまいにマリイ・ハ しを欲しくないの ? あんたたち、ここで一生を送るのよ。年とるは、若い候補生の胸から出るウ 1 という呼吸が聞えた。鉱山師の太 い腕がフェネットの身体にまきついたーー・そしてフェネットの両膝 9 まで女なしでは、淋しいわよ ! 」 「マリイ、あの人たちはあんたの娘が大きくなるまで待っ気よ」とがガッとクレメンズの脇腹をけった。鉱山師は呻き声をあげたが、 や
ら背面に切りかえた。 雲一つない。さざ波一つ立たぬ空。みどりの翼をもったトビガマ なにかただならぬことが起こりかけているらしい の一群が、北にむかってレンズの視野を横切っただけだ。 わたしは一つのアイを、全速力で聖ステパノ山脈のほうへ送り出 もとどおりにカメラを切りかえたあと、わたしはべティの小ざっした。つまりこれは、アイが山脈をむこうへ越えるまでに、約二十 ばりした、手入れのいい街路に、ゆっくりと、なんの渋滞もなく、 分待たねばならないことを意味する。もう一つのアイは、真上に向 車が流れているのを見まもった。銀行から三人が出ていき、別の二けて上昇させた。こっちは、ロング・ショット・ ておなじシーンを撮 人がはいっていく。出ていくほうの三人は知った顔だったので、そるのに、たぶん十分ほどかかるだろう。そこでわたしは自動走査装 の上を通りすぎながら、わたしは心の中で手を振った。郵便局は静置に作業をあずけると、コーヒーをのみに下へ降りることにした。 かそのもの、製鋼所も、畜殺場の家畜囲いも、プラスチック工場 も、空港も、宇宙船の離着床も、ショッビング・センターの表面わたしは市長室にはいり、応接係のロティにウインクしてから、 も、正常な活動のパターンが息づいている。内陸輸送会社のガレー奥のドアに目をやった。 ジに出入りする車、そして虹色の森と黒いナメクジのようなそのむ「市長、いる ? 」ときく。 こうの山山から這いだした輸送車は、荒野の中を往き来して、トレ ロティはちょっぴりやぼったいが、ほどよく丸味をおびた、周期 ッドの跡を残していく。田野はまだ黄色と褐色のまだら、そのあち性ニキビの出る年齢不詳の女性で、ときたまわたしにも笑顔をみせ こちに散らばった緑とビンク。ほとんどが単純な字型フレ 1 ムのることがある。だが、きようは日がわるいようだった。 「ええ」それだけいって、ロティはデスクの書類に目をもどした。 田舎家は、のみの刃であり、鋸の歯であり、その一つ一つが大きな 避雷針のついた尖塔を持っている。わたしが手持ちのアイをめいめ「ひとり ? 」 いの受持区域で巡回させるあいだに、それらの風景はたくさんの色 ロティはうなずき、イアリングが踊った。黒い瞳と浅黒い肌、こ に染められ、わたしの目の前にすくい上げられては、また捨てられれで髪型をかえて化粧を厚くすれば、もっときりつとした感じにな ていく。それが、市庁舎の監視塔のてつべんにある警備センターのるのに。おせつかいかな : 大きな壁面、百三十枚の変化する絵を陳列したわたしのギャラリー わたしは奥のドアへ歩みよって、 / ックした。 ◆こっこ 0 「どなた ? 」市長がきく。 雑音はやんだと思うとまたはいり、とうとうわたしはごうを煮や「おれ」わたしはドアをあけながらいった。「ゴッドフリー・・ してラジオを切った。なまじとぎれとぎれの音楽よりは、全然きこ スティン・ホームズーー・・・略称″神さま″。コーヒ 1 をつきあってく えないほうがすっきりする。 れる相手がほしくてね、きみをえらんだ」 磁カ線に乗って一滑空をつづけている , アイが、またたきをはじめ それまで窓の外を眺めていた彼女が回転椅子の上で向きをかえる ・コツに 6 4
どんどんと進んでいって、ふるいしるしも新しいしるしぜなら、わざとっくったしるしの上に、たまたまその場 も後にとり残されて、ついにわしは自分のしるしを見つに生じたしるしがくつつくからでーー・幾度とも知れずく けだせもせずに終ったのさ。 り返されるしるしの氾濫 ) 、夕刊紙の粗いパルプの繊維 こう言っても誇張でも何でもないのだがな、その後にとぶつかってインキのつきが悪かったの文字の片脚、 メルポルンのドックの潜函のなかのタール塗りの壁にで 続いた数年の銀河年は、わしの人生で最悪のときだっ た。わしはなお探し続けていたけれども、空間にはますきた八十万本ものひび割れの一すじ、統計図表のカー ますしるしが増えるばかりで、しかもありとあらゆる惑ヴ、アスファルトに残ったプレーキの痕、一本の染色体 ・ : そしてときおり、はっとする。あれだ ! 一瞬わし 星世界からは、可能性のあるものならだれだろうと、空 間に何らかの痕跡をしるしてゆかないものはないといつは、わしのしるしを見つけたと思いこむ。地上であろう た始末だった。われわれのこの世界でさえ、どっちかへと空間にあろうと違いはなかった、なぜならこの無数の 顔をむけるたびに、一段と欝蒼としていることがわかっしるしを通じて連続性ができあがり、もはや分明な境界 たよ。どっちみち、世界と空間とはたがいに鏡のように線はなくなっていたからだ。 照らし合っていて、それぞれが聖刻文字や表意文字を徴この大宇宙には、もはや外形も中身もなくなってしま って、ただ重なり合い、群りあって空間の全体積を占め 細に刻みこまれている上に、しかもその一つ一つがしる しであるかもしれなかったり、そうでないかもしれなかるしるしの全体的な厚みがあるばかりなのだった。それ ったりするのだった。たとえばー・ー玄武岩上に抱懐されはどこまでも続く微細な点描画、線やひっかき傷や浮き た石灰石、砂漠の凝縮した砂の上に風が起こした波頭、孔だしゃ刻み目からできあがったスクリーンであって、こ 雀の羽根のなかの目玉の配置 ( しるしに囲まれて暮らしの大宇宙はどっちをむいても、あらゆる次元においても ているうちに、初めはただそれ自体の存在をしるすものごちやごちゃだった。もう原点の定めようもなかった。 以外の何ものでもなかった無数の事物をたんだんしるし天の川は相変らずむきを変え続けてはいたけれど、わし のように考えさせられるようになり、ついにはものがそにはもう到底その回転をかぞえることなどできやしなか れ自体のしるしに変貌して、しるしをつくろうとしてわった。どんな点だろうとそこが出発点になってもよいの ざとっくったやつらのしるしといっしよくたになってしだったし、またどんなしるしだろうと、その上にほかの まったのだ ) 、片岩の絶壁に刻印された火の縞模様、巨しるしがどれほど乗っかっていようと、それがわしのし いくらか斜めのるしであるかもしれなかった。しかし、もうそれを見つ 大墳墓の入口の軒蛇腹に彫りこんだ 溝の四百二十七番め、磁気嵐のさいちゅうにプラウけたところで何の役にも立つわけはなかったし、どっち や、恐らく ン管に生じた斜線のシークエンス ( しるしの連鎖はしるみち、しるしを離れて空間は存在しない、い しのしるしの連鎖となっていよいよ増殖し続けるばかりけっして存在しなかったのだということは、まったくは 9 たた、いつも同じでしかもいつもいくらか違う・ーーオ よっきりしていたのさ。
「だいじようぶか」どこか上のほうからく声がした。 ありだと思います」アーウイは精いつばい事務的な口調で言った。 ビーティは徐々に意識を取り戻した。彼はちょっとの間だが、頭「はあーーこ 蓋を割ってしまったのではないかと考え、ぎよっとした。だがそっ壁の時計は一時十七分を示していた。アーウイは言った。「われ とそれにさわってみて、べつにまだ割れ目ひとつないことを知り、 われは・フラインさんにどうしてもお目にかかる必要がありまして ほっとした。 ね、中へ通られる前に。非常に差し迫った用件なのです。ですから 「あの男、ばくを何で殴ったのかな ? 」と彼は説いた。 差し支えなければ、ここで・フラインさんを待たせていただきたい」 「舗道だろう、おそらく」とアーウイは言った。「助けてあげられ「お待ちになるのはよろしうございます」受付嬢は言った。「でも なくて済まなかった。やつの一撃で、あっと思ったときは行動力を・フラインさんはもう、中に通っておいでですわ」 失っちまっていたのでね」 「しかし、まだ一時半にはなっていないじゃなりませんか ! 」 ビーティは痛む頭をつかみながら起き直った。「なんてまあ喧嘩「プラインさんは早目にお越しになりました。そして・ハクスターさ の強いやつだろう ! 」 んはさっそくお会いになることになさったのです」 「軽く見過ぎていたな」とアーウイは言った。「やっこさん、ある「わたしはあの人とぜひ話し合わなければなりません」とアーウィ 種の訓練を積んでいたにちがいない。きみ、歩けると思うか」 は言った。 「ええ、たぶん」ビーティは言って、ア 1 ウイの助けるままに立ち「会見中は邪魔をしないようにと言いっかっておりますので」娘の 上がった。「今、何時です ? 」 顔に怯えの色がひろがり、その指が机の上のボタンの一つをさぐる ノクスター 「一時に近い。やつの約東は一時三十分だ。あるいは、べ ようにのびた。 の事務所で、やつを阻止することができるかもしれない」 ボタンはおそらく助けを呼ぶ目的のものだとアーウイは思った。 五分後には、二人はタクシーをつかまえ、・ハクスターの事務所の ・ハクスターのような人間はほとんどっねに身辺の護りを怠らないの 建物に向かって走っていた。 だろう。会見はもう、おこなわれているのだ、いまさら干渉してみ 受付は若い、きれいな娘で、びつくりしたように口をあけ、まじてもはじまらない。それにおそらく、彼のとった行動が、ことの成 まじと二人を見た。二人とも損傷を受けた部分はある程度、タクシ行きを変えてしまっているだろう。すでに、そのきざしが見えてい ーの中で処置してあったものの、とても完全にはつくろいきれず、る。あの事務室の中にいるプラインはべつの人間なのだ、朝からの ひどいありさまだった。ビーティは頭に間に合わせの繃帯をぐるぐ 一連の冒険で人間が変わってしまっているはずだ。 る巻いてあったし、アーウイの顔の色はほとんど緑に近かった。 「けっこうです」とアーウイは受付嬢に言った。「ここに掛けて、 「どんな御用件ですか」と受付嬢は訊いた。 待っことにしましよう」 「・ ( クスターさんは一時三十分にプラインさんと会われる約東がお 8
日冗 保良を 行夫 だかを放しや、しるしのほうはそれでもちゃんと残って 「《天の川》の外縁部に位置する太陽は、およそ二るってわけだが、そのころ道具なんてありやしなかった 億年を費してこの星雲を一周し終える。」 し、手だろうと、歯だろうと、鼻だろうと、みんなあと になって、それもずうっとあとになってできたものばか そうとも、それだけの時間はかかるとも、それ以下っりさ。それにそのしるしにくつつけてやる形だって、お てこたあない と、 Qfwfq が言ったーーーわしは昔、通前さんたちにや問題じゃない、だってどんな形をしてよ りがかりに宇宙のある点にしるしをつけておいたんだ、 うと、しるしはそれだけでしるしとして十分まにあう、 もちろん、二億年たってまたそのつぎに、そこを通りがつまりほかのしるしと違っているか、それとも同じかだ かったときに見つけられるようにつてわけでな。しるしからだってな。これもまたお前さんたちにや言うのは雑 って、どんなだってかい ? そりゃあどうも説明しにく作もないことだけど、当時のわしには、さて、同じしる いな、なぜって、お前さんたちは「しるしーって言えしにしようか、違うのにしようかと言ってみたところ ば、すぐに何かしらと区別できる何かだっていうふうにで、手本にできるものなんざ何にもなかったし、真似を 考えるだろうけどね、そのころあ何かから区別できる何するものだって、何にもありゃあしなかった。それどこ かなんてものあなんにもありやしなかったからさ。お前ろか、線ですら、直線だろうと曲線だろうと、何のこと さんたちがすぐにも考えるしるしってのは、何かしら道やら知りもしなかったし、点にしたって、でこ・ほこにし 具か手を使ってつけたもんで、それからその道具だか手たって、そうさ。わしはたたしるしをつけるつもりだっ MI ー
「イカン。来テハナラン」 「おれの覚えてるのだと」スタンがいった。「ーーー水の精たちとビ 「そばを離れずにじっと見てろ」わたしはいった。 1 ルの大海たったな。なんで人が火の鳥なんか見たがるかね ? 」 「帰レ」 「さあ、わからんね」 「そこに立って交通整理をしていたというんなら、お前さんの勝手 「たんと笑うがいいさ、このハイエナど」もわたしはいった。「だ だ」わたしはやり返した。「おれはまた寝るよ」 が、そのうちにきっと一連隊飛んでくるそ」 せんせい せんせい わたしはゴソゴソ這っていって、医者の肩を揺すったが、後ろを 医者がやってきて、あたりを見回した。 振り返ってみた時には、わが燃える訪問者は姿を消していた。 「ここが例の場所かい ? 」 「何だ ? 」 わたしはうなずいた。 彼はあたりの放射 = ネルギーや、その他五つ六つのことについて「遅すぎたよ」わたしはいった。「奴が現れて、また消えた」 せんせい 検査したが、何も変わったものを発見できず、・フツ・フッいって上を医者は坐り直した。 「鳥かい ? 」 見上げた。 「いや、剣を持ったヤツだ」 われわれも皆見上げた。それからそっちへ進んだ。 三日間はひどくきっかった。われわれはその間にやっと次の五千「どこにいた ? 」 「あそこに立っていた」わたしは手真似で示した。 フィート を登っただけだった。 医者は幾つか機械を引き寄せて、それを使って十分かそこらいろ 寝についた時、われわれは疲れ切っていた。眠りはたちまちゃっ いろなことをした。 てきたが、懲罰の神もまたそうだった。 彼はまたそこにいた。ただ今度はそんなに近くはなかった。二十「何も見つからん」彼はしまいにいった。「多分君は夢でも見たん フィートほど離れたところで、空中に立って燃えていた。その剣のだろう」 「そうだろうとも」わたしはいった。「ぐっすり寝ろよ」そしてわ 先はわたしのほうを指していた。 たしはまた寝たが、今度はそれ以上の火も騒ぎもなしに、眠りは夜 「クルナ」彼は抑揚のない調子で三度いった。 明けまで続いた。 「くそくらえだ」わたしはいおうとした。 彼は近くへ寄ろうとでもするような身ぶりをしたが、できなかっ 六万フィ 1 トに達するのに四日かかった。岩が時々砲弾のように 脇を通りすぎて落ち、空は白っぽい花が幾つも浮かんでいる大きな 「お前こそ向こうへ行け」わたしはいった。 涼しそうな池だった。六万三千フィートに達した時、前進はだいぶ 「山ヲ降リョ。立チ去レ。コレ以上来テハナラン」 楽になった。そしてそれから二日半かかって七万五千フィートの高 「だが、おれはこの先も行くんだ。ずっと頂上までな」 せんせい 5
できた。彼が頬杖をつき、写真をゆっくり引っくり返して、ポーカ唯一の男となった。ぼくの本にーー」 1 のプレーヤーのような顔つきをしようとする時は、いつでもその「知 0 てますよ」記者がい 0 た。「・ほくの名前はキャリーで通 節全体を見通すことができた。もしわたしが彼の視線の方向をたど信の人間。ここにいる友人は他の新聞チ = ーン二つの代表、ぼくら は、あなたがグレイ・シスターに登る計画だと聞いてきたんです ったなら、多分その本のカ・ハーさえ見ることができたろう。 そしてその週の終わりに、宇宙船が一隻、空から降り立ち、おそが」 ましい連中が何人かそこから出てきて、わたしの思索の流れを中断「君たちは不正確な情報をつかんだのさ」わたしはいった。 「へえ ? 」 した。連中がラウンジにはいり込んできた時、わたしは連中が何の 伝説他の二人も近よってきて、キャリーのそばに立った。 ためにやってきたかを悟って、黒眼鏡を外し、わが・ ( ジリスク ( 上の 動物で、それににらまれる 「・ほくらはあなたがーーー」とそのうちの一人がいった。 ) の目をもって〈ンリーをねめつけ、石に変え と死ぬと考えられていた ようとした。だが、いざというその時、彼の体内にはあまりにも多「もう登攀パーティを編成していると思ったんだけど」ともう一人 量のアルコールが摂取されていたので、魔力はうまく効かなかつが引き取った。 「すると、あなたはシスターに登ろうとしてるんじゃないんです か ? 」キャリーが訊いたが、その間にほかの二人のうちの一人がわ 「・フン屋にもらしたんだな」わたしはいった。 たしの前の写真を眺め、もう一人が自分の写真を撮る構えをした。 「まあまあ」彼はいって、身体を小さくし、かっこわばらせたが、 「やめろ ! 」わたしはカメラマンに向かって手をあげながらいっ それはわたしのこわい視線が彼の中枢神経の暗闇の中を手探りしな た。「明るい光はおれの目を痛めるんだ ! 」 がら登っていって、あの小さい腫物の先端、つまり前脳に達したか 「すみません。赤外線フィルムを使いましよう」彼はいって、カメ らだった。「君は有名だし、それに : わたしは眼鏡をかけ直し、飲み物の上に背を丸めて、遠くの方をラをいじくり始めた。 キャリーは質問を繰り返した。 見やったが、その時三人のうちの一人が近づいてきて、いった。 「失礼だが、あなたがジャック・サマーズか ? 」 「おれのいったのは、君たちが不正確な情報をつかんだということ だけさ」わたしは答えた。「おれは登るつもりともいわなかった し、登らないつもりともいわなかった。まだ決めてないのさ」 そのあとに続いた沈黙を説明しようとしてヘンリーがいった 「そう、これが気違いジャックだ。二十三の時にエベレストに登「もし決行するとなったら、いつごろになりますかね ? 」 り、それ以来名をあげるに足るありとあらゆる岩の堆積を登った男「悪いが、答えられないね」 リタン星のカ ヘンリーは三人を・ハーの方へ連れていって、身ぶり入りで何かを だ。三十一の時には、既知の宇宙の中で最高の山 スラ山ーー・海抜八九、九四一フィ 1 ト 約二万千四 ) ーー・を征服した説明し始めた。「 : : : 四年間の隠退からまた : : : 」というような言