女 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1975年7月号
440件見つかりました。

1. SFマガジン 1975年7月号

につれて、テラスにすわった客たちから拍手がわきおこった。その いる作品を朦朧と隠してしまった。意外なことに、やがて出現した 五分後、ヴァン・アイクのグライダーが湖に舞いおりたとき、彼が肖像は真にせまった出来だった。盛大な拍手とタンホイザーの数小 8 3 会心作を彫りあげたことがわたしにもわかった。サ 1 チライトに照節がひびきわたり、つぎにサーチライトがその優雅な頭を照らし出 らし出され、メサの斜面にとりつけられたス。ヒ 1 カーから、あたかした。客たちに囲まれたレオノーラは、ノーランのグライダーに向 もこの巨大な安びか物を膨らませるようにひびきわたるトリスタン かってグラスをさしあげてみせた。 の序曲に乗って、レオノーラの肖像は霧雨を降らせながら頭上を渡ノーランの寛容なふるまいを不審に思ったわたしは、光り輝く顔 っていった。運よくそれが海岸線を越えるまで雲は安定をたもってをよりくわしく観察した上で、はじめて彼がなにをやってのけたか いたが、やがて肖像は苛立った手で空からひきちぎられたように、 に気づいた。その肖像は、残酷な皮肉をこめて、気味のわるいほど タベの大気の中に散ってしまった。 生き写しに作られているのだった。レオノーラの唇の下向きのカー つつけんどん プチ・マ = = = ルが、突慳貪なおばさんに近づいていく腕白小僧・フ、のどに皺をよせないよう高くもたげられたあご、右頬の下の肉 のように、暗い縁どりのある雲にそって上昇に移った。この予測ののたるみーーこれらのすべてが、アトリエにあった油絵とおなじよ つかない蒸気の柱をどう料理したものか迷っているようすで、しば うに、雲の顔にもそのまま移されていた。 らく彼は往ったり来たりをつづけたが、やがてそれを女性の頭の大レオノーラのまわりで、客たちはいまの演技への祝辞を彼女にの ざっぱな輪郭に彫りととのえはじめた。わたしはこれほど固くなっ べていた。ちょうど肖像が湖の上でこわれはじめたとき、レオノー ている。フチ・マニュエルを見たことがない。彼が仕上げを終えるラは空を見上げ、はじめてそれをはっきりと目に入れたようだっ と、二度目の拍手がわきおこり、まもなく笑い声と皮肉な喝采がそた。みるみる彼女の顔に静脈がうきだした。 れにつづいた。 その瞬間、海岸で打上け花火がはじまり、。ヒンクと・フルーの爆発 レオノーラに媚びるように美化された雲の似顏が、攪乱された空で、これらの曖昧なイメージをかき消してしまった。 気の中で回転して、横に傾きはじめたのだった。あごがひき伸ばさ れ、つややかな微笑が痴呆のそれにかわる。一分たらずのうちに、 夜明けのすこし前、ビアトリスとわたしは、打上げ花火や火輪花 レオノーラ・シャネルの巨大な頭は、わたしたちの真上でさかさま火の燃えがらの散らばる浜辺を歩いていた。人気のなくなったテラ になってしまった。 スには、薄闇をすかして、まばらな明りが散らかった椅子を照らし わたしが機転をきかしてサーチライトのスイッチを切らせると、 ているのが見える。わたしたちがテラスの石段までやってきたと 観客の注意はつぎの雲に向かって翔けのぼっていくノーランの黒いき、どこか上のほうで女の声がなにやら叫んだ。と同時に、ガラス 翼のグライダーへと移った。たそがれはじめた空から溶けかかったの割れる音がした。フランス窓が蹴とばされて閉まり、白いスーツ 雲の花びらが降りそそぎ、そのしぶきは、ノーランが彫りすすめてを着た黒っぽい髪の男がテー・フルのあいだを駆けていった。

2. SFマガジン 1975年7月号

ンーをハヤカワ文庫で読んだけたが、映画た。「猿人ジョ ・ヤング」の方は小粒魔が夜来る」だけはタイトルにつられて見 とはだいぶ違っている。映画はもはや、・ハ で、翼手竜と戦ったり、エンパイア・ステ に行った。案の定恋愛場面がながくて退屈 ロウズの原作から独立したものであろう。 ート・ビルに登って戦闘機をはたき落すとした。今憶えているのは、フェルナン・ル 余談だが、ラフアテイか誰かがターザン いったスケールの大きさがなかった。キンドオの悪魔によって石像にされてしまった を書いたらしい。これはどうやら、いちい グ・コングにさらわれる金髪美人フェイ・恋人同士が、それでもなお心臓の鼓動によ ち・ハロウズにことわったり、使用料をはらレイのエロティシズムもよく、キング・コ って心を通わせ続け、悪魔が怒って石像を ったりしなくても、誰が書いてもいいものングはむろんこの娘に惚れたからさらった笞打つ、あの有名なラスト・シーンだけで らしいので、ぼくも近くタ 1 ザンを書くつわけであるが、いくらさらったって、あんなある。 もりだ。「思春期ターザン」「老年期ター 「赤い靴」はアンデルセンの亠当をもと に、舞台上 2 ハレー「赤い靴」と現実のひ ザン」などである。前者はジ = ーンに会う " までのターザンの、思春期の悩みを描くも とりの・ハレリーナの物語を結びつけたもの のであって、興奮したターザンがチータに である。エメリック・プレス・ハーカーとモ おカマを掘ったり、木のうろでオナニーを イラ・シアラーのコンビの作品では、二年 してペニスを血まみれにしたり、土人の女 後に封切られた「ホフマン物語」の方が・ほ を強姦したり、ライオンを妊娠させたり、 くは好きである。その赤い靴をはいている 花 鰐と格闘しながらセックスしたり、象と正 のと名・ハレリーナになれるが、いつまでも踊 常位でやったりする。後者はよ・ほよ・ほにな り続けねばならず、靴を脱ぐ時は死ぬ時た ったターザンの耄碌ぶりを描くものであっ というのを、現実の・ハレリーナに結びつけ て、木からは落ちるわ、入れ歯は落すわ、 るのはちと無理だった。その点「ホフマン ヒモは切れるわといったドタバタである。 物語」の方は無理がない。パ レーも装置も 老人で意地悪くなっているから、もはや正 よくなっているし、何よりも「赤い靴」は 義の味方ではない。道に迷った探険隊員 この映画のために作曲された音楽を使って に、底なし沼への道を教えたり、食人種の いるのに対し、「ホフマン物語」はオッフ 部落へ案内したりするのである。乞御期にからだの大きさが違ってはどうにもなるエン・ ( ッ ( である。むろんファンタジイと 待。 しても「ホフマン物語」の方がずっと面白 まいにと思い、恋人の男性が焦って追いか 「キング・コング」は戦後何度もリ・ハイ・ハ けるのがおかしかった。あわてなくったっ . ル上映されたからご存じのかたも多いだろて、犯される心配はないのだ。 「赤い靴」と同じ年に「虹をな男」が封 ) う。のちの「猿人ジョー ・ヤング」よりも メロドラマが嫌いなのでマルセル・カル切られている。梅田シネマで見た記憶があ 9 はるかに面白く、作品としても偉大たっネは減多に見に行かなかったのたが、「悪る。ジェームス・サ】 ー原作、ダニイ・ 第みッ

3. SFマガジン 1975年7月号

た。次に、足音が若い男女のものでなく、男が二人であることがわた。その時、彼は後ろの方で木の葉のすれる音を聞いたような気が かり、ジョニ 1 は心の平和をとりもどした。 した。それが最後で、頭にずしんと衝撃があり、彼は意識を失っ 「自動車の自動操縦が : : : が : ・ : ・秘密なんだが、国民の保護た。 と : ・・ : 国民総背番号が : ・・ : プライ・ハシーがと反対・ : ・ : 自動車の自動 操縦しか : : : 車夫馬丁の輩・ : ・ : 労働力不足も解決・ : ・ : 」 脱獄囚ラスカル・・、 ノスタードは、じっと身をひそめていた。夜の とりとめもない単語が耳にとびこんできた。酔った頭と昔習った闇にまぎれて、運よくつかまらずに逃けてはいるものの、明るくな だけの外国語のため、話の内容はわからなかった。それからタクシる前になんとかしなければいけないことは、よくわかっていた。さ ーが来て、二人は乗って行ってしまった。 しあたって必要なのは、衣服と金と、それに指輪であった。 タクシー。そう、そろそろ家に帰らなくては。ジョニーは自分が 指輪がこれほど大切たとは、それなしで街を歩いてみるまでは、 どこか道の上にうずくまっていることに気がついた。歩道の上であまったくわからなかった。一人で道路を横切ろうとした時、彼は遠 ろうことは想像がついたが、車道でも同じことであった。自動操縦くから走ってきた自動車に、あやうく轢かれそうになった。無人自 自動車は、間違っても彼に危害を加える筈がなかった。 動車には、指輪をしていない・ハスタードの存在が見えなかったのだ。 ジョニ 1 はゆっくりと立上った。タクシーポストに歩みよって手それに、指輪なしではタクシーにも乗れなかった。指輪がタクシ を伸しかけたが、また気が変って歩きはじめた。歩きたくなる晩で ーを動かすキーになっていて、それがなくては、乗って走らせるこ あった。 とはおろか、呼ぶことさえできないのだった。 ゆっくりとした足どりで、彼は数プロック歩いた。いや、プロッ彼の指輪は刑務所で取上げられてしまっていた。誰か指輪を持っ クという表現は適当でないかもしれない。自動車も人も通らないそている人が一緒にいてくれれば、それほどの不自由はないのであっ の通りは、右に左にゆるやかに曲りくねり、灌木の茂った上に、樹たが、脱獄囚の身に、それは望むべくもなかった。 が大きく枝を拡げていて、再び公園に入ったようであった。 そして彼は人通りの少ない所に身を隠し、必要なものを手に入れ そこまで歩いてくる間、ジョニーは一台の自動車も見なかった。 るチャンスを待った。人通りは少なかった。強そうな男、アベッ 音さえ聞かなかった。一人の人間にも会わなかった。時どき頭の上ク、女ばかり三人 : : : 。できれば一人歩きの人間を狙いたかった。 で鳥が鳴いた。 犠牲者が酔って歩いてきたジョニーであった。・ハスタードは石で ジョニーはラジオの騒音とそれに象徴される不作法を忘れてい ジョニーの後頭部に一撃を加え、衣服をはぎとった。それを身につ た。むに平和が戻っていた。彼は家に帰ろうと思った。 け、靴をはき、忘れないで指輪を奪った。ぐったりとしたジョニー タクシーポスト。彼は捜した。それは五〇メ 1 トルほど先にあつの身体を灌木の陰に隠し、彼は足早にその場を去った。 た。彼は無意識のうちに指輪を撫で、タクシーポストに向って歩い 歩きながら、・ハスタードは指輪をはめた。少しきっかったが、薬 95

4. SFマガジン 1975年7月号

て来たのか ? は、まったくあわれをとどめた。両頬に無数のみみす脹れをこさ それとも、やつはもともと町の人間か ? え、その幾筋かからは血がふき出して髯を赤くそめ、貧相な・ハルバロ 2 まだほかに、わけのわからない事はいつばいあった。たとえば ッサ ( 十二世紀の神聖 0 ー「皇帝、フリ ートリヒ一世のこと。「赤髯王」 ) みたいになっていた。おまけに、 一つかみで、壮者の頸椎をへしおれるほどの男が、なぜ、あんなその御自慢の髯が、キャロルの鋭い爪でむしられて、二つ三つ、ふ がら 鶏の骨みたいなエドのカラテのかまえなどを、あれほど警戒したのわふわした毛の球になってぶらさがっている、という有様だ。 か ? 最後にはまるで、おびえたように見えた。何かよほど、手痛「なによ、イシ。あなた嫉いてるのね」とキャロルが、ききとがめ い記憶でもあったのだろうか ? 知能程度はあまり高いという感じて唇をとがらせた。「だからあなたも早く、いし 、人見つけて、奥さ がしなかったから、「手痛い記憶」に、簡単に体がすくんだのかもんをもらいなさい、と言ってるでしよ」 知れない。 「ああ、なるべく早くそうするよ。ーー灰皿ぶつけない女性を見つ それにもう一つーーあの、最後に叫んだ、妙な言葉は、一体どんけてね。爪も短くしてる方がいいな」ぼくはちらばった書類をひろ な意味があるのか ? い集めながらいった。「君も顔をふけよ、キャロル。エドの顔中に 「さて : : : 」と警部は、かかって来たインターフォンのスイッチをキスするもんだから、ロもとが女ドラキュラみたいになってるぜ」 ラインナップ 切りながら言った。「もう少し、おっきあいねがうかな。面通しの ドアがあいて、警官が、新しい繃帯で、頭と半顔をぐるぐる巻 準備ができたそうだ。今日はこれで一応終りだ」 き、副木をあてた左腕を胸に吊った、三十歳ぐらいの男をつれては 「どこでやるんですか ? 」と、・ほくは腰をうかしかけた。 いって来た。 スナック″ベビイ″から七、八百メートルほどは 「いや、ここでい、。 あそこの壁面にアイドホールで投射されるか なれた所にある、町はずれの雑貨屋の店員だった。 実を言うと、彼こそあの凶暴な男の、被害者第一号だった。犯人 「でも、この部屋はずいぶんちらかってますよ」ぼくは背後をちらは、スナックをおそう前、もう戸をしめていた雑貨屋をたたきおこ と見てつぶやいた。「それにここには、ネズミがいるみたいです」し、宿直をしていた店員が戸をあけるや、一撃のもとにたたきのめ 部屋の隅で、チュッ、チュッ、という音がひっきりなしにした。 して、】店をめちやめちゃにかきまわし、服、帽子、レインコート、 喧嘩のあとで仲直り、というわけで、キャロルが、血だらけのサングラス、皮手袋、それに靴まで盗んで行った、というのだ。 顔をしたエドをやさしく抱きしめて、ひどい事しちゃってごめんな店へはいって来た時の服装は、「手首、足首まである下着上下」を さいね、でも、あなたの事、かけがえのない人と思ってるからよ、 つけていたように見えた、というから、やつは、それまで着ていた とか何とかいっては、甘ったるいキスの雨をふらしているのだつもの一切を、何らかの理由でぬいで、うばった新しいものを身につ け、それからまっすぐ、〃ベビイ″へやって来たのた。雑貨屋がお ぼくのあてこすりがきこえたのか、こちらをふりむいたエドの顔そわれてから、″ベビイ″へあらわれるまで、十分とかかっていな こ 0

5. SFマガジン 1975年7月号

「ううん、船長」 ら、ここへもどってくるようにしろ。だが、今回は遅れてもいいこ 「数学は ? 足し算はどうだ ? 」 とにする。慣れるまでには、しばらくかかるからな。時間を気にし 3 4 「ああ、はい、船長。足し算は知 0 てるだ。二たす二は四、二たすて風呂を抜かすんじゃないそ。ジ ' ウ、髪を洗え。 リータ、体をか 三は五、三たす五は九ーー」 がめるんだ。頭の匂いをかがせてくれ。ああ、きみも髪を洗うん かれの姉が口をはさんだ。「七だよ、ジョシー、九じゃねえだ」 「もうしい。こいつは忙しいことになりそうだそ」シェフィールド ( ヘア・ネットは積みこんであったかな ? 疑似重力を切って自由 はそうい 考えこんでロごも「た。「となると、どうすればい落下の状態にな 0 たら、子供たちは〈ア・ネ , トが必要になるだろ いか : : : 女ってやつは : いや、年寄りの船長でも : : : 」かれは大うーー・・さもなくば散髪するかだ。散髪してもジ , ウはい 0 こうにか きな声で言葉をつづけた。「きみたちは朝食をすませたら、それそまわんだろうが、姉のほうの長い黒髪は彼女のも 0 とも美しい財産 れ自分に必要なことをすませ、部屋を片づけろーーきちんときれい でーーーヴァル ( ラで亭主をつかまえるのにも役立つに違いない。ま にするんだそ。あとで調べるからなーー。それから・ほくの部屋のべッ あいいさ、ヘア・ネットがなければーー・あるとは思っていなかっ ドを整えるんだ。だが、ほかの場所はそのままにしておくこと。特た。かれ自身の髪は自由落下の時のために短く刈 0 てあ 0 たからだ に机の上はさわるなよ。それが終ったら風呂に入れ。ああ、そう 少女は髪を編み、何かでゆわえればいい。旅のあいだじゅう驕 だ、体を洗う 0 てことだ。宇宙船の中では、だれでも毎日風呂に入の重力を保 0 ているために重力を割けるだろうか ? 自由落下に る。何回でも入りたいだけ入 0 てかまわん。きれいな水はた 0 ぶり慣れていない連中は、筋肉が弱り、体をこわすことさえあるんだ。 あるからな。循環使用するから、この旅が終るころには最初より何その心配はあとまわしにしよう ) 千リットルもふえているだろう。なぜかは聞くな。そういうことに 「われわれの住まいをきちんとして、体をきれいに洗ったら、ここ なってるんだ。いずれ説明してやるさ」ー ( 少なくとも六、七カ月は にもどってくるんだ。いいな」 先のことだ・ーー三たす五の答すらおぼっかない子供たちが相手なん かれはリストを作った。 だからな ) 「全部すんだら、そうだな、いまから「時間半後だ 必要事項の予定を組むーーー注意、ふたりに料理を教えること ! ジョウ、時計の見かたは知ってるか ? 」 学校を始める " 課目は何にする ? ジョウは、隔壁にかかっている古ぼけた時計を見つめた。 算数の基本は当然抜かせない だが、・フレスドの混合方言の読 「よくわからねえだよ、船長。あれ、数字がたくさんありすぎるみ書きをわざわざ教える必要はない。あそこには二度と帰らないの ギャラクダ だからーーー一一度とだー とはいえ、銀河系標準語でしゃべることを 「ああ、そう、もちろんだ 0 たな。。フレスドとは違う読みかたをす教えるまでは、あの混合方言を使わなければなるまい。それからギ るんだ。あの短い針がまっすぐ横をむいて、長い針が上をむいた ャラクタ語の読み書きだーーーそして、英語も。あの子供たちの速成

6. SFマガジン 1975年7月号

それがかれの目的だと信じこんでいたのに。彼女はしやくりあはある社会をお・ほえている。そこでは、人目につかずにおこなわれる 性交は卑猥で、禁じられ、犯罪だったーーーところが、公衆の面前での 3 げ、かれの枕に涙を落とした。 4 女性の涙はシェフィールド船長に対して、常に強烈な媚薬のようそれは″なんでもオーケー″なんだ。ばくが成長した社会には、ま これまた、″神の命じられたもの″だっ な効果をもたらす。かれは即座に行動をおこしたーーー少女の足首をるで逆の規則があった 、、、・まくにはよくわからな つかんでべッドから引きすりだすと、船長室から追いだし、彼女のた。どちらのやりかたに従うのが難ししカ ~ 客室におしこんで鍵をかけたのだ。それからかれは自分の部屋へもいが、神さまがそうあっさり心変わりするのはやめてもらいたいも なぜって、性の習慣に無知であって安全なためしはないん どると、ドアに鍵をかけ、気持を落着かせるための手段を取ってかんだ だ。そして、無知が言いわけにはならない。馬鹿げた話だが、その ら眠りに落ちた。 ために・ほくは何度か射ち殺されそうになったことがあるんだ。 リータをこばんだからといって、・ほくが道徳的だったわけじゃあ ミネルヴァ、・ほくは何もリータに女として不満なところがあった わけじゃあないんだ。いったんきちんと風呂に入ることを教えるない。・ほくは、・ほく自身の性習慣に従ったまでだ。試行錯誤と山ほ と、彼女は実に魅力的になったーーー均斉のとれた肢体に気持の いいどの傷の結果、何世紀もかかって作りあげたものなんだ。・ほくに頼 顔と身のこなし、きれいな歯、そしてかぐわしい吐息。だが、彼女っている女性とは、結婚しているか、それとも結婚するつもりのな ェロス い限り、べッドを共にしない。これは道徳とは関係のない実際的な を抱くことはいかなる習慣にもあわなかった。すべての〈性愛〉は 習慣だ。性交それ自体には、あるいはそれ自体に属さない虚飾のい法則であって、状況に応じて変更され得ることが条件だし、ぼくに これはまた、完全に別の話だ。 〈性愛〉と頼らない女性には適用されない かなるものにも、道徳的非道徳的の区別はあり得ない。 は要するに、それそれがばらばらで違ったものである人類を保存すだがこの法則はどれほど変わった習慣を持っ社会にも、時間空間を 問わず、ほとんどの場合に適用できる保身の手段なんだーーーわが身 かれらを結びつかせ、幸福にしてくれる。 るための手段であり を守るための安全対策というわけさ : : : なぜなら、きみに話したポ それは長い進化の過程で発達した生存のためのメカニズムであり、 その繁殖機能は、人類を前進させている非常に複雑かっ普及した役ストン出のご婦人と違って、多くの女性は性交を正式な契約の申込 みと考えがちなものだからな。 割の最も単純な面でしかないんだ。 ぼくはすでに、衝動にかられてリータを一時的にもせよ扶養しな だがいかなる性行動も、他のいかなる人間行動も、まったく同じ 道徳基準によって、道徳的にも非道徳的にもなり得る。性についてければいけない羽目に陥っていた。彼女と結婚することで事態をこ の他の規則はみな、地域的時間的に限定されたただの習慣だ。性ののうえ悪くするつもりはなかったし、またその義務もなかった。ミ 習慣には、犬にたかる蚤の数以上の決まりがあるーーそして、どこネルヴァ、長命人種は決して短命人種と結婚すべきじゃないんだ。 でも共通しているのは″神の命じられたもの″ということだ。・ほく短命人種にも長命人種にも公平ではないからだ。

7. SFマガジン 1975年7月号

の・フレッシングをやろう。それとも、きみたちがそうしたいという警官は手をふって売渡し証を横へどかすと、その点については何 のなら、このまま船に乗ってヴァルハラへ行ってもいいぞ。 しい星の訴えもこなかったといった だが、レグリーの親父にいってや 3 4 だ。ここよりは寒いがーーー奴隷制度などという代物はないからな」」ろう、傷ものを売ったかどでの反訴を受けなくて幸運だった、とな リータ ミネルヴァ、・ほくは、 ィータに近い発音でいつもは呼 いやそれとも、あんたの船が離陸するまでわたしがあんたを見 ぶんだーーも、彼女の弟のジョウ、ーージョシーとかホセーー、も、奴つけられなければ、そのほうが話は簡単だな。というわけで百・フツレ 隷制のない土地という言葉を理解したとは思わない。それはかれらシングは消え、まもなく警官も消えたーーそして、午後半ばにはわ の想像できる範囲外のものだったからだ。しかしかれらも、宇宙船れわれも姿を消した。 が何であるかはで知っていた。そして、それに乗ってどこかへ行 だが、ミネルヴァ、・ほくはいつばいくわされたんだ。リータは料 くという考えは、かれらに畏怖の念を与えたーー到着すると首を吊理などまるつきりできなかったんだ。 るされるのだそといっても、かれらはこの機会を逃さなかったろ う。そのうえ、かれらの心の中ではぼくがまだ主人だったし、解放プレスドからヴァル ( ラへは長くて複雑な旅だったから、シェフ 証書などたとえかれらが何のことか知っていたところで、大したも ィールド船長 ( 注・ラザルス・ロングの別名。「地球脱出』でも使ってい のではなかったんだ。それは、年老いた忠実な召使に与えられるもる ) は、連れのできたことが嬉しかった。 ので、生まれ育った世界にこれからもとどまるが、ただこれからは恒星間飛行の旅をはじめる最初の夜に、ちょっとした思いもよら 雀の涙ほどの賃金をもらえるようになるだろうという、それだけのぬ出来事があった。その前夜、惑星軌道にいたときから始まってい ものだったのだ。 る誤解でおこったものなんだ。船には船長室がひとつに、客室がふ しかし、旅行とはー かれらが生まれてからこれまでにした最もたつあった。船長はふつうひとりで船を動かしていたから、客室は 長い旅というと、北の司教管区から首都へ、売られるため運ばれて臨時の荷物や軽い雑貨をしまうのに使っていた。客が使えるように きたときだったのだ。 はなっていなかったんだ。そこで最初の夜、かれは自分の解放女奴 あくる朝、ちょっとした厄介事がおこった どうやら、例の公隷を船長室に入れ、彼女の弟とかれは食堂の長椅子で眠ったんだ。 認奴隷商人のサイモン・レグリーカ ・、、・ほくを告訴したらしい。暴あくる日、シェフィ 1 ルド船長は客室の鍵をあけ、スイッチを入 行、精神的脅迫、その他もろもろの軽犯罪および麻薬吸飲というわれてそこに動力を通すと、子供たちに掃除をさせた。ごったがえし けだ。そこでぼくは警官を船長室へ招き、酒をつぐと、リータを呼た貨物の山を船倉に移し、ようやく自分の船にどれだけ空間があま び、せつかくの新しい服をぬがせて警官に彼女の尻の傷跡を見せてっているかがわかった。そしてふたりにそれそれ一部屋ずっ取るよ から、彼女に出てゆくようにといった。・ほくは売渡し証を取りに立うにいし そのことはすっかり忘れてしまった。貨物と最後の賄 ちあがったとき、テー・フルに百・フレッシングの紙幣をおき忘れた。賂に忙しく、さらに操縦コンビ、ーターに指示を与えなければなら

8. SFマガジン 1975年7月号

るりとうしろをむくと、少女に鋼鉄の鎧をふたたびつけろと鋭く命は処女の需要がある一方、訓練を受けたハレム用の女奴隷もだいた い同じ値を呼んでいたが、その娘はどちらにしてもハレム用におい 3 令した。 4 ・ほくは財布を取り出した。ミネルヴァ、きみは金というものを知ておかれたものではない。だから、その高価な別誂えの貞操帯には っているはずだ。きみは政府の財政を扱っているんだからな。だが何かほかの理由があるはずだったのだ。 たぶんきみは知らんだろう、現金というものがある人々に対して奴隷たちに背をむけるとかれは・ほくに、組合せ文字を教えた。 ・・・・・ *-Ä・・・・ << ーー忘れようのない文字を は、いぬはつかが悪魔に与えるのと同じ効果を発揮することを。ぼ くはそのべてん師の鼻の下で大きな赤と金色の紙幣を四千五百プレ選んだ自分の頭の良さが、えらく自慢のようだった。 そこでぼくはわざと無器用に手を動かしてもたついたあげく、よ ッシングまで数えーーーそこで手をとめた。かれは汗をかき、のど・ほ うやくわかったというふりをしてそれをあけた。【かれはふたたびそ とけをぐびりと動かし、やっと十分の一インチほど首をふった。 そこでぼくはさらに紙幣を数えた。おそろしくゆっくりとだ。五れを少女につけてわれわれを送り出そうとしたが、・ほくはいった。 「ちょっと待て。自分でちゃんと扱えるかどうか確かめてみないと こんどはさっさとそれをしまいこみにかかった 千までゆくと かれは・ほくをとめたーーーそこで・ほくは、自分がこれまでに初めてな。 , それをおまえにつけて、わしにはすさせてくれないか」 かれは嫌がった。そこで・ほくは腹をたて、おまえは・ほくを欺すっ 所有することになった奴隷を買ったことに気づいたんだ。 もりだなと、いってやったーー自分の財産の錠をあけるのにわざわ かれはあきらめたように表情をゆるめたが、証拠物件のぶんにい ろをつけてくれといった。ぼくはどちらでもよかったから、おいてざかれを呼んで、法外な金を支払わなければいけないように仕組ん いってもかまわないんだぞと二百五十出してやった。かれはそれをでいるの・だ、とね。ぼくは金を返せと要求し、取引証書を破ろうと した。かれは降参して、その道具の中に足を入れた。 取ると、ふたたび少女に鎧をつけはじめた。 鋼鉄のベルトがかろうじて合うという状態だったが、それでもか ぼくはかれをとめていった。 れはなんとかその中におさまりこんだ。かれは少女より腰まわりが 「その使いかたを教えてくれ」 実のところ・ほくは知っていたんだ , ー・ー十個の文字を使うシリンダ太かったんだ。・ほくはいった。「さあ、組合せをいってみろ」そし ストレリ ー型の組合せ錠で、一回ごとにその組合せは変えられる。組合せをて、錠の上にかがみこんだ。かれが「 *-2 —」とい うまどろばう うと、ぼくはと文字をならべてから、べ きめて、ウエストに巻く鋼鉄ベルトの端をバレルの端にさしこみ、 ルトの両端をカまかせにおしこんで文字盤をまわした。 シリンダーの文字盤をまわす。すると、任意に組み合わせたその十 「いいそ。たしかに動くな。それしゃあ、もう一度いってくれ」 字に合わせなおすまで、錠はあかない。高価な錠で、ベルトにはい かれが綴りをいうと、・ほくは注意ぶかく い鋼鉄を使っているーーー金鋸も歯がたたない合金だ。これまた、か れの話を本当と思わせるものだった。なぜなら、この野蛮な世界にと、文字を動かした。錠はかかったままだ。ぼくはかれに、最

9. SFマガジン 1975年7月号

ういう。ヒラミッド型社会では、その頂上近くにいるかあるいは少な まの機械を作っているんだ。 これを正しい方向へたどれば金持になれることうけあいだし、逆くともそう見えるほうが万事好都合だったからだ。ぼくのボディガ にまわれば身ぐるみはがれてしまうわけさ。 ードは奴隷だったが、ぼくの奴隷ではなかった。ぼくはかれを貸召 サー・ハント ・ほくは最初の航路を終えたところだった。ランドフォールから・フ使屋で傭ってきたんだ。 レスドへだよ。成功だった。積荷を売ってーーーさてと、あれは何だ ぼくは偽善者ではない。この奴隷の仕事といえば、・ほくのあとに ったろう ? くそっ、思い出せん。ずいぶんいろいろなものを扱っくつついてまわり、豚のようにむさ・ほり食べる以外、それこそ何も てきたからね。とにかくだ、ぼくはずいぶんいい値で売りさばくこないんだ。・ほくがそいつを傭ったのは、しかるべき身分の人間は、 とができたので、一時的にもしろ″ありあまる″ほどの金を手にし人前に出るとき必ず男の従者をつれていなければいけなかったから ていた。 だ。″紳士″たるものが・フレスドにいる限り、チャリティでもその ″ありあまるほど″とは、どれぐらいだ ? いくらだろうと、二度他のどの都市でも、おのれの身分のあかしとなる従者なくして、一 ししレストランで食 ともどってくるつもりのない土地を去る前には使い切れないだけの流ホテルに投宿することなど不可能だったし、、、 額のことだ。そのあまった金を後生大事にかかえこんでいても、あ事をするときは、従者をうしろに立たせておかなければいけない とでまたもどったときには、たいてい 万事この調子だ。ローマにいるときは、ローマの花火を打ち上 ・ほくの思い出す限りでは げろ、さ。一訪ねていった家の女主人と寝ることが義務になっている 例外なく インフレ、戦争、税金、政権交代、その他のせいで、 いや、ひどいもんだ。それにくらべり せつかく取っておいた法定通貨に、一文の値打ちもなくなっている土地にいたこともあるが ね。 や、この・フレスドの習慣は難しいもんじゃなかったよ。 ・ほくは船に荷を積みこむ予定になっており、宇宙港当局との条件貸召使屋ではやつに棍棒を持たせたが、だからといって安心はで きなかった。ぼくは六通りの武装をしたうえ、歩く場所にも気をつ つき証書にも積荷の価格を記入してあるので、ポケットにたぶつい ているあまった金はたった一日で使ってしまうほかなく、それも荷けた。プレスドはぼくが奴隷だったころ以上に物騒になっていた 物の積込時刻までだった ぼくはそれに立ち会わなければいけなし、″紳士は格好の目標だったのだ。例え、警官にわずらわされ なくてもだ。 かったんだ。・ほくは自分の船の事務長も兼ねており、人を信用しな ぼくは奴隷市場を抜ける近道を歩いていた。競売日じゃなかった い性分なんでね。 そこでぼくは小売屋街をぶらっき、何か装飾品でも買おうかなとから、宝石屋のならぶ通りへ行く途中だったのだが、ひとつだけ売 思っていた。 り出しがおこなわれているのを見て、・ほくは歩調をゆるめたーーー自 3 ・ほくはそこでの上流階級といった服装をしており、ボディガード 分自身が売られた経験を持つ者なら、奴隷の苦境に無関心で通りす を従えていた。つまり、・フレスドはいまだに奴隷経済の世界で、そぎたりはできない。自分が買おうなどというつもりは、これつばか レンタ・

10. SFマガジン 1975年7月号

た。かの女がうなずくと、車内にプ・ザーが鳴りひびいた。モーター して奈落へ下ってゆく。ふたたび道の両側は、見上げるような断崖 の回転音がにわかに高まり、地上車は砂を蹴って前進を開始した。 となり、道は右に左にたえ間なく屈曲しながら下りに下る。すでに 8 マーシャン・ロード 3 砂漠のかなたへ向かって頭部をふると、キャタ。ヒラ 1 に掃かれた《火星人の道》の深奥へ入っているのだった。 砂が、車体の底板をざっと打った。 「下方に灯が見えます ! 」 「調査班のキャンプで合図しています ! 」 前方を見張っていたクルーがさけんだ。 昼から夜へ、夜から昼へ、地上車は砂を蹴って走りつづけた。背地上車から射ち上げられた信号弾が、夜空をかけ上っていった。 後をふりかえると、まき上げた砂けむりが長く長く地平線の果まで つづいていた。一度、はげしい砂あらしに遭遇し、針路を見失っ 地質調査班のキャンプは、ひどく動揺していた。地上車をむか た。だが、砂に埋没するのを防ぐために、地上車はやみくもに走りえ、キャンプの人々は蘇生の色を浮かべてかけ集ってきた。そのほ つづけ、砂あらしが去ったときには二百キロメートルもコースをそとんどが頭に包帯を巻き、腕を吊っていた。その顔に、忘れ難い恐 れていた。それを回復するのにほ・ほ半日を要した。砂あらしが去っ柿がまだ翳を落していた。 たあとの夜空を巨大な流星が飛んた。遠い地平線のかなたに火柱が「幽霊が出たんだってな ? 」 立つのが見え、それからしばらくたって遠雷のようなとどろきがっ シンヤはおびえた顔をならべている作業員たちに向ってたずね たわってきた。 た。かれらが答えるより早く、頭部に、血のにじんだ包帯を巻いた 翌日、砂の海は岩だらけの荒れ果てた平原に変り、西方になだら長身の男がシンヤの腕をとらえた。 しったいここではどうなっているんだ ? 幽霊だかなん かな丘陵が迫ってきた。地上車は時おり岩にのり上げ、はげしくゆ「おい れた。丘陵が迫ってくると、滞電した砂の粒による電波の攪乱もおだか知らんが、こんな危険な場所へ、事前の調査もなしにわれわれ とろえ、通信席ではせきを切ったような交信がはじまった。 を送りこむとは ! 」 やがて地上車は岩石だらけの谷間へ入った。柱状節理の奇怪な岩「痛え ! その手を離せ ! この ! 」 壁が頭上にのしかかってくる。平原ではまだ陽が高かったのに、こ シンヤは悲鳴を上げた。おそろしい力だった。男は地質調査班の こではもうタ闇が谷あいを閉していた。ヘッドライトの光の輪が、 班長であるビン博士だった。かれはほとんど逆上していた。 レリーフ シティ 岩壁を不気味な浮彫のように浮き上らせた。谷は進むにつれてせば「わしの弟子が二人も死んだ。遺体を市へ運・ほうにも、このキャン たそがれ まり、しだいに傾斜を増し、急速に頭上が開けてきた。短い黄昏のプには砂漠をわたることができる地上車さえ配備されておらん ! あとの夜の闇が無数の星をちりばめ、広漠とひろがった所が無名のここを引き払うこともできない。調査局は何をやっているんだ ! 」 峠だった。地上車はがくりと頭をさけ、そこから急にスビードを増おそろしいけんまくだった。老フサも何人もの男たちに取り囲ま