ヴァン - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1975年7月号
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1. SFマガジン 1975年7月号

めた。中の二台は、まだわたしがそこまで行きっかないうちに、さりでふつくらした頬をもった頭をひっくりかえした。ジョコンダの っさと走り去ってしまった。食うに困るわけでもない退役空軍将校首は真下の車のほうへと墜落していった。容貌がみるみる崩れてぐ 7 3 が、こともあろうに、なぜこんな目くされ金を集めてまわらなけれにやぐにやと歪み、鼻とあごがとれて蒸気の中をころがる。まもな ばならないのかと自問しながら、足をためらわせていると、後ろか く二台の翼が軽くふれあった。ヴァン・アイクがノーランに向けて らヴァン・アイクが追いついてきて、わたしの手から〈ルメットをスプレ 1 ・ガンを発射すると、裂けた布地がばっと舞い散った。ヴ とりあげた。 アン・アイクは下降をはじめ、やがて危なっかしくグライダーを着 「いまはよそうよ、少佐。ほら、とうとうおいでなすったぜーーーぼ陸させた。 アポカリ・フス くの終末の黙示が : : : 」 わたしは彼のそばへ駆けよった。「チャールズ、なにもリヒトホ 純白のロ 1 ルスロイスが、クリーム色の縁どりのあるお仕着せを ーフェンの真似をすることはないだろうが ? 後生だから、同士討 着た運転手を乗せて、 ( イウ = イからこっちへ折れてくるところだちはよしてくれ ! 」 った。薄く色づいた通話窓をとおして、秘書の昼間の服装をした若ヴァン・アイクは手を振ってわたしをしりそけた。「それはノー い女が、運転手に話しかけている。その隣には、宝石を目に鏤めた ランにいってほしいね、少佐。やつの空賊行為はぼくの責任じゃな あま 白髪の女性が、手袋をはめた手でまだ窓の吊り革を握ったまま、空い」彼は操縦席の中に突っ立ったまま、あたりに舞いおりてくる布 翔けるグライダーを見上げている。その力強く優雅な顔は、リムジ地の切れはしには目もくれず、見物人のほうを眺めていた。 ンの暗いガラスの中に閉じこめられて、海底の洞窟に坐す謎めいた コーラルの雲の彫刻師グループも解散の潮時だな、と考えなが マドンナかとも見えた。 ら、わたしは自分の車へひきかえした。五十ャードむこうで、若い ヴァン・アイクのグライダーが地上を飛び立ち、コーラルの上女秘書がロールスロイスから降りたち、わたしを手招きしていた。 にうかんだ雲へと上昇していった。わたしはノーランの行方を空に開いたドアを通して、彼女の女主人が宝石の眼をこっちに注いでい 捜しながら、自分の車のほうへと歩きだした。頭上では、ヴァン・ るのが見える。その白髪が、真珠の鱗をもっ蛇のように、片方の肩 アイクがモナリザの模作を、石膏像のマリアとおつつかつつの真実でとぐろを巻いていた。 性をもった絵葉書のジョコンダを、生み出しているところだった。 わたしは飛行用のヘルメットを若い女のところまでかかえていっ そのつややかな仕上げが眩ゆいばかりの日ざしの中で、ある種の化 た。高いひたいの上で鳶色の髪が後ろになでつけられ、まるで彼女 粧用の泡で上塗りされたかのように照っていた。 自身の一部を隠そうとするかのように、防御的な束髪に結われてい と、ノーランが、太陽の方角からヴァン・アイクの背後へと急降る。彼女は、自分の前にさしたされたヘルメットを、けげんそうな 下してきた。黒い翼のグライダーを横揺れさせながらヴァン・アイ目で見つめた。 クを追い越すと、彼はジョコンダの頸すじへととびこみ、翼の一振「わたしは飛びたくありませんーー・なんですの、これは ? 」

2. SFマガジン 1975年7月号

いうのに」 ノーランが私道に姿を消すのと入れかわりに、レオ / ーラ・シャ 「ハーティーはもう終わったのさ。 ネルがテラスの中央へ歩み出てきた。彼女はメサの上でわきたっ暗わたしは彼女の腕をとった。 い雲を見あげ、それから片手で宝石を両眼からもぎとった。投げ捨ビアトリス、ここの契約がきれたら、コーラルへきてわたしとい てられた宝石は、足もとのタイルの上でちかちかと瞬いた。と、背っしょに暮らさないか。雲の彫刻のやりかたを教えるよ」 ヴァン・アイクとレオノーラは、それから半時間後に岸へ上がっ をまるめたプチ・マニュエルの影が、それまで隠れていた演奏舞台 の袖から跳びはなれた。曲がった脚をちょこまかと動かして、彼はてきた。ヴァン・アイクは、わたしの顔のどこか後ろを見つめるよ うにして、わたしとすれちがった。レオノーラは彼の腕にすがり、 レオノ 1 ラのそばを駆けぬけていった。 門のそばでエンジンのかかる音がした。レオノーラは、窓の下のその両眼のまわりに鏤められた昼の宝石は、テラスのむこうへ鋭い 砕けたガラスに映る自分の姿を見つめながら、別荘の中へもどりか光を散乱させていた。 けた。彼女が足をとめたのは、冷たく熱心な目をした背の高い金髪午後八時、最初の客が姿を見せる頃になっても、ノーランとプチ ・マニュエルはまだ到着しなかった。テラスの上は、暖かく灯 0 と の男が、書斎の外に並び立っ音響彫刻のかげから現われたからだっ もったタベだったが、空では嵐をはらんだ雲が、神経質な巨人のよ た。その音に心を乱されて、彫刻はすでに鼻声の哀訴をはじめてい うに、おたがいの先になったり後になったりしながら、横ににじり た。ヴァン・アイクがレオノーラのほうへ歩みよるのといっしょ に、彫刻は彼の足どりのゆっくりしたビートをとりこみにかかっ歩いていた。わたしは斜面を登って、グライダーのつながれている こ 0 場所にたどりついた。その翼が上昇気流の中で身ぶるいをつづけて 翌日の公演が、コーラルの雲の彫刻師たちにとっては、最後の 暗さを増した空へと舞いあがり、雨雲の巨塔の前でちつばけな姿 ものになった。その午後をつうじて、客たちが到着するまえから、 お・ほろげな光が湖の上空にみなぎっていた。巨大な層をなした雨雲に変えられてからものの三十秒とたたぬうちに、チャールズ・ヴァ ン・アイクは狂った風にグライダーを覆えされて、きりもみ状態で がメサの背後に積み重なり、どんな演技も不可能に思われた。 ヴァン・アイクはレオノ 1 ラにつきそっていた。わたしが到着し落下してきた。別荘まであと五十フィートというところで姿勢を立 たとき、ビアトリス・ラフアティ 1 は、ふたりを乗せた砂上ョットてなおすと、彼は雨雲の広がりつつある胸から遠ざかり、湖からの が疾風を帆にうけて湖上をぎくしやくと渡っていくのを、見まもつ上昇気流に乗って高度を上げた。それから、ふたたび彼は雲へ近づ いていった。レオノーラと客たちがそれそれの席から見まもるうち ているところだった。 3 9 「ノーランとプチ・マニュエルが、どこにも見あたらないのよ」彼に、グライダーは水蒸気の爆発に遭って彼らの頭上へ投げ返され、 3 女はそうわたしに告げた。「あと三時間でパーティ 1 がはじまると片翼をこわされて湖の方角へ落ちていった。

3. SFマガジン 1975年7月号

ぎかけて、羊毛に似た組織を刈りとっていった。煙を立てた細片が、ちの上に降りそそいだ。 こなごなに崩れた流氷のように、わたしたちのほうへ落下してき見物の車の一つから嘆声が上がった。ノーランはまるで自分の作 た。凝縮しはじめた霧の雫がわたしの顔にふりかかる頃には、ヴァ 品の除幕をするように、翼を横滑りさせて雲から離れた。午後の太 ン・アイクが巨大な馬の頭を作ろうとしているのが見わけられた。陽に照らし出されたのは、あどけない三歳の幼児の顔たった。まる 長いひたいにそって舞いあがり、舞いおりながら、目と耳を彫り上まるとした頬が、穏やかな唇とぼっちやりしたあごを縁どってい げているところだった。 る。一人ふたりが拍手するのといっしょに、ノーランは雲の上へと しんこ いつものように、車の中の見物人は、この空中の穆粉細工をおも舞い上がり、その頂きをさざ波立たせて、リポンと巻き毛を作り上 しろそうに眺めていた。馬の頭は、コーラルからの風に流されげた。 て、真上を通りすぎていく。ヴァン・アイクはそのまわりを旋回しけれども、ほんとうのクライマックスがまだこの先にあるのを、 ながらついていった。そのあいだに、プチ・マニュエルはつぎの雲わたしは知っていた。なにか悪性のヴィールスのたたりなのか、ノ いつもおなじ ーランは自分の作品を認めることができないらしく、 にとりかかっていた。彼がその側面にしぶきを立てると、渦巻くも やの中から見お・ほえのある人間の顔が現われた。マニュエルは一連冷ややかなユーモアでそれを破壊するならわしなのだ。プチ・マニ の巧みな動きで、高く波打った髪の毛と、たくましいあごとうらは ュエ . ルはすでにタコを投げすてていたし、ヴァン・アイクさえも らの弱々しい唇のカリカチュアを、雲に刻んでいた。その肖像からが、車の中の女性たちに向けた視線を空へ移しかえていた。 出たりはいったりするたびに、グライダーの翼のはしはおたがいに ノーランは、闘牛士が獲物にとどめを刺す瞬間を待ちうけるよう 触れ合わんばかりだった。 に、幼児の顔のあとを追ってその上を飛びつづけた。彼が雲を刻み はじめるとしばらく静寂がおりたが、やがてだれかがうんざりした 見あやまりのようのないヴァン・アイクの、それも最悪のスタイ ように車のドアをばたんと閉めた。 ルをなそった、つややかな白い頭は、ハイウェイの上を横切って、 ヴァーミリオン・サンズへと流れていった。マニュエルが空から滑わたしの真上にうかんでいるのは、白い髑髏のイメージだった。 ほんの幾彫りかで変貌をとげた幼児の顔はすでに消えていたが、 りおり、グライダーをわたしの車のそばへ着陸させたとき、ヴァン ・アイクがこわばった笑顔をこしらえて、操縦席から降りてきた。深く刻まれた歯ならびと、車が一台すつぼりはいるほど大きい眼窩 には、まだあのあどけない面立ちのこだまを見ることができた。妖 わたしたちは第三の展示を待ちうけた。コーラルの上に雲が一 ス・ヘクテイダー っ生まれ、数分のうちに初期の晴天積雲へと開花した。空にばっか怪はわたしたちの上を通りすぎ、見物人は眉をひそめて、駸り泣く りと浮かんだそれに向かって、ノーランの黒い翼のグライダーが太されこうべが彼らの顔に雨をふらすのを見上げていた。 7 陽から飛び出してきた。彼は雲の周囲を翔けめぐり、そのかたまり気乗りせぬままに、わたしは自分の古い飛行へルメットを後部席 を切りとっていった。柔らかい羊毛がつめたい雨となってわたした からとりあげると、それをかかえて見物の車のあいだをまわりはじ

4. SFマガジン 1975年7月号

し械た 1 ノ う と・ をた ほ 折 おた さ単 フ な の オよ おれそ 0 ら がだ光 っ あ っ イ に さ ほ た 。景 ト ナこ え ど め し ら あ た瘠 だ 、し の あるファン投票 た た し 、う じ っ 中 い、折 の 雲 う し 三強 ろ た ら でか、 ナこ ぎけ め 、か、 ゕ れ ま ネビュラ , ヒュ ーゴー両賞にさきがけて , 投 ら き 、ただ な て る 票者数では随一を誇る「ローカス賞」の結果が ド機 、がれ で あ て、ド し 発表された。毎年最初に前年の収穫を知らせて は械 か と小 は 、は ま は稲 くれる意味で貴重な資料だが , 今年はとくに , そか のす柄 じ ま う い、 げ妻 「 A11 Time Best Novel ( 全時代を通じて最 り 腕さ っ な次さ し、 だ ま しが 高の長篇 S F ) 」という項目があり , アメリカ じ手 って り た の に ろ 工 い り を ド瞬竜化 のファンダム・ファンの好みがうかがわれて面 し も ク ) う 偏 た 白いので , 上位作品を御紹介しておきたい。 いと 宙 の間車けや た の 頭 め ど 1 ・ の 砂の惑星・・・ に物無 に ・・フランク・ 痛 く も 2. 幼年期の終り・・・アーサー・ C ・クラーク 手 う だ戦 ま 向 の 3. 闇の左手・・・・・・アーシュラ・ K ・ルグイン 発 4 ・ 異星の客・・・ロート・ A ・ハインライン せ一対 、蟷 かお せ も 作そ、られ 螂 5. 黙示録 3174 年・・・・・・・・・ウォルター ま し昨 ナこ つ カ に 6. い、も 銀河帝国 3 部作・・・アイザック・アシモフ を り ま て : 友の か フ おつ、れ殴、な 7. 虎よ ! 虎よ ! ・・・アルフレッド・ベスター ま み そ たれ、カ 8. 月は無慈悲な夜の女王・・・・・・ハインライン は であ同 を の わ両 ら じ 絵 9. 人間以上・・・・・・・・・シオドア・スタージョン の か れ手 歯 。頸 10. Lord of Light ・・ に ま " ロジャー・ゼラズニイ - ー 1 を の狂と 11. Stand on Zanzibar ・・・ジョン・プラナー え みが ーヴン む カ ; 12. Ringworld ・・ っ い を ・・ラリイ・ っ層 ナこ き をた起ナ 13. The Dispossessed ・ し ・・ノレグイン いと重 出 へ 14. 破壊された男・・・ つ よ て ・・ベスター 15. 指環物語・・・・・・・・・ J ・ R ・ R ・トールキン 16. 重力の使命 ノ、ル・クレメント の足は 力、 17. 都市と星・・・ ・・クラーク 腕を チ ぎ と ヴ く 以下 , 20 位にウェルズ「タイム・マシン」 , ラ そ つ さ で 蹴めた と と っ 24 位に「宇宙戦争」と , プラッドベリ「火星年 へ のあ オ 代記」がはいっている , といったぐあい。編集 め き い り い瞬 自折 。首 く 事 側も「最近の作品に票があつまる傾向が強い」 う間や 分 っ右 オよ つ地 、れ と が雷 ことを認めている。なお , その票を作家別に集 サ のた手 し も 面 お鳴雲ー 計した結果のベスト 10 は , つぎのとおり。 胴 へ頭 が で - を . の ( り 1. ト・ A ・ハインライン 195 票 中地左 ・体 ス な冫 2. アーサー・ C ・クラーク つ 169 こニ . を面手で 、げカ ド 3. アーシュラ・ K ・ルグイン っ 121 た に つけ の て 4. は フフンク・ / 、一ノ、一ト 118 た く っそ、ク そ上樹声 けた 5. アルフレッド・ベスター 80 きず い、がた 力、 両 いを枝を 6. アイザック・アシモフ つれ の か 状は つ、ふ つ 7. ウォルター け は き お だ は け のげ で 8 ・ に ロジャー・ゼラズニイ 46 る れぬ自 出 。カ 、め電 9. ま ジョン・プラナー 43 を 身 の て き分 し ぐ光 10. し シオドア・スタージョン 42 ーヴ を も と のた つがて 以下 , シルヴァーハーグ , ディック , 。首 や り胴 た走と め も ン , ウェルズ , ディレイニ シマック , ト 、体 めそ、 だ の て つな ルキン , プリッシュ , ファーマー , クレメン ない、片を がも よ ト , ステープルドン , プラッドベリ , パングボ かっ、方ど 、げ自 世 う ーン , ヴァン・ヴォクト , の順である。 のかそ っ は た 分 に 0 二年前 , 同誌上でおこなわれた , 作家への人 ー界 、足んれ た あ の し リ ー 1 の 気投票にくらべ , アンダースン , ハリスン , ァ S ど で で と 頭 の て ィ・キャンプ , オールディスなどがぬけている れ、 も か 終かを F のが目立つが , これは彼らにズ , くぬけた傑作が を、 っ う イ ん り ら胴 ないため , 作品への投票では不利になったのだ 情 殺、 、体 た で ろう , と編集者は書いている。 (C ・ R) 報 せ、 一方たは お、 ラ コ 本 の き な チら 35

5. SFマガジン 1975年7月号

わたしはレオノ 1 ラのほうへ歩きだした。・ハルコニーのそばには彼は金色の椅子のあいだを走りだした。レオノーラは、彼に手首 ノ 1 ランと。フチ・マニュエルがたたずんで、三百ャード離れたグラをつかまれて、眉をひそめた。 「ミス・シャネル・ イダーの操縦鏖からヴァン・アイクが出てくるのを眺めていた。 ・ : 」マニュエルの締まりのない口が、彼女をカ ノーランに向かってわたしはいった。「なぜわざわざやってくるづけるような微笑を形づくった。「おれ、あなたのために彫刻しま 気になったんだ。まさか飛ぶとはいわないだろうな ? 」 す。いますぐ、あのでつかい雨雲に、ね ? 」 ノーランはスーツのポケットに両手をつつこんだまま、手すりに レオノーラは、孔雀の裳裾の百の眼のかたわらから彼女に秋波を もたれかかった。「飛ぶものか だから、ここへきたんだ」 送っているこの熱心なせむし男をなかば嫌悪しながら、まじまじと 今夜のレオノーラがまとった孔雀の羽根のイヴニング・ドレス彼を見おろした。ヴァン・アイクが、壊れたグライダ 1 をあとにし は、彼女の足もとにとほうもない裳裾を横たえていた。何百もの眼て、びつこをひきながら浜辺へもどってくる。おそらくマニュエル が嵐の前の電気をおびた空気の中で輝き、彼女を青い炎の鞘に包みは、ある奇妙なやりかたでヴァン・アイクと張りあっているのだろ こんでいる。 う、とわたしは推測した。 「ミス・シャネル、あの雲は気ちがい同然ですよ」わたしは演技が レオノーラは、まるで有毒な痰でものみこんだように、顔をしか めた。「パーカー少佐、この男に できないことを詫びた。「いまに嵐がやってきます」 」言いながら彼女はちらと目 彼女はおちつかぬ目でわたしを見た。「あなたがたには、危険をを上げて、腹黒い火山の発する療気のようにメサの上空で沸き立っ おかしてみる気がないのですか ? 」そういうと、わたしたちの頭上ている黒雲を見やった。「待って ! この小さな片端者になにがで に渦巻く乱雲にむかって腕をふった。「こうした雲には、空のミケきるか見たいものね ! 」彼女はマニュエルに向けて華やかすぎる笑 ランジェロが必要なようね : : : ノーランは ? 彼も怖じ気づいてい顔をこしらえた。「では行きなさい。おまえがつむじ風を彫刻する るの ? 」 ところを見せてちょうだい ! 」 レオノーラが彼の名をさけぶのといっしょに、ノ 1 ランは彼女を レオノーラの顔で、骨格の図面が殺人の幾何学を形づくっていた。 見つめ、それからくるりとわたしたちに背を向けた。ラグーン・ウ エストの空の光は、すでに変化を見せていた。湖の半分が薄暗い帳高笑いするレオノーラの孔雀の裳裾を踏みつけて、ノーランはテ に覆われていた。 ラスのむこうへ走りだした。わたしたちはマニュエルをとめようと わたしの袖をひくものがあった。プチ・マニ“エルが、狡猾な子したが、すでに彼は斜面を駆けの・ほっているところだった。レオノ 供の目でわたしを見上げているのだ。「レイモンド、おれ飛べる 1 ラの嘲弄に傷つけられた彼は、岩のあいだをはねまわるようにし よ。行かせろよ、おれに」 て、たそがれの中に姿を消そうとしている。テラスには、それを見 「マニュエル、冗談じゃない。自殺も同然だそー」 物しようと小さな人だかりができた。 394

6. SFマガジン 1975年7月号

かな気まぐれを満たす道具として使われているのではないか、と疑それから二カ月後、レオノーラ・シャネルに会うことになるあの ってはいた。 日にも、わたしたちはコーラルへでかけたわけだが、もう最初の 7 3 けれども、この頃のわたしは、彼らに飛び方を教えることで頭が頃のそうした胸おどる気分は薄れていた。すでにシーズンが終わっ 、つばいだったーー・最初は索を使って、まずいちばん小さい珊瑚塔て、ラグーン・ウエストへ足をのばす観光客もまばらになったい コーラルのいじけた先端を掃く上向きの風に乗ることを、そしま、わたしたちは閑散としたハイウェイを相手に雲の彫刻を実演す て、それよりも険しいと O の斜面を経て、最後にコーラルの強ることが多かった。ときにはノーランがホテルに残って、べッドの い上昇気流をマスターさせるのである。ある日の午後遅く、わたし上でひとり酔いつぶれたり、ヴァン・アイクがどこかの未亡人や離 が彼らをひきおろそうとウインチを巻きはじめたとき、 / ーランが婚女性と何日か雲隠れをしたりして、。フチ・マニ = エルとわたしだ 索を切り離した。グライダーは背面で急降下して、いまにも岩の尖けがでかけることもあった。 塔に刺しつらぬかれるかと思え、わたしがあわてて地面に身を伏せ にもかかわらず、その日の午後、四人のメイハーを乗せた車が砂 るのといっしょに、はねかえってきた索がわたしの車を鞭うち、風漠にさしかかって、コーラルの尖塔の上でわたしたちを待ちうけ 防ガラスをこなごなにした。見上げると、ノーランがコーラルのているいくつかの雲を見たとき、わたしの抑欝と疲労はことごとく 、ハイウェイ 真上のほのかに色づいた空気に乗って、高く舞い上がるところだっ消えていった。十分後、三台のグライダーは空に昇り た珊瑚塔の守護者である風は、たそがれの日ざしにべールをかけにはちらほらと車がとまって、見物をはじめた。 た積雲の島々のあいだへと、彼を運んでいった。 ノーランが黒い翼のグライダーで先頭に立ち、二百フィ 1 トの上 わたしがウインチに駆けよったとき、第二の索がはすれ、プチ・ にあるコーラルの頂きへとまっすぐに上昇していく一方では、ヴ トバーズ アニュエルが方向を転じてノーランに加わった。地上ではみにくい アン・アイクが低空を往復しながら、黄玉色のコイハーチ・フルに乗 蟹のような彼が、空中では巨大な翼をもっ鳥となって、ノーランやった中年女性に金色のたてがみを見せびらかしていた。ふたりの後 ヴァン・アイクをしりめの飛行ぶりを見せるのだった。見まもるうろからは。フチ・マニュエルが、キャンデー ・ストライプに塗りわけ ちに彼らは珊瑚塔の周囲を旋回し、それからいっせいに砂漠の上をた翼を、かき乱された大気の中で横すべりさせ、揺らしていた。彼 低くかすめて、砂鱆の群れを煤の雲のように舞い立たせた。プチ・ はねじ曲がった膝で操縦しながら、太い両腕を座席の外でふりまわ しゅうちん マニュエルは有頂天だった。袖珍版のナポレオンさながら、不自由し、たのしそうに悪態をついた。 なわたしの脚を小馬鹿にしたような足どりでそばを歩きまわり、両三台のグライダー、彩られた玩具は、コーラルの真上でくつろ 手にいつばいガラスの破片をすくい上げては、空気に捧げる花東のいだ鳥さながらに輪を描いて、最初の雲が上に通りかかるのを待っ ように自分の頭上へ投げ上げるのだった。 ていた。ヴァン・アイクが雲の一つを選んで、そっちへ向かった。 雲の白い枕のまわりを旋回した彼は、その側面に沃化物の結晶を噴

7. SFマガジン 1975年7月号

中に残されていた旋盤と材木を使って、わたしは最初の大凧の一つのギブスと色のあせた飛行用のジャンパーをちらと見やってから、 を、そしてのちには、操縦席のついたグライダーを、つぎつぎに製彼はグライダーのほうに手を振った。「あんたはあれに操縦席をつ 作していった。索につながれたこれらのグライダーは、人なつつこけたんだね、少佐さん」その言葉には、わたしの動機に対する完全 い暗号文字そのままに午後の空に浮かぶのだった。 な理解がふくまれていた。彼は夕暮の空へ見上げるばかりにそそり ある日の夕方、わたしがウインチを使ってグライダーをひきおろ立っ刑瑚塔の列を指さした。「沃化銀を使えば、あの雲に彫刻でき している最中に、ふいにコーラルの頂きで突風が発生した。急にるな」 逆回転をはじめたハンドルとたたかいながら、松葉杖を砂に突き立せむし男は天文学の一体系にも似た夢に目を輝かせて、わたしを てようと苦労していると、砂漠のほうから人影が二つ近づいてき励ますように首をうなずかせた。 た。その一人はせむしの小男で、子供のように明かるすぎる瞳と、 錨爪のように一方へねじれたあごの持ちぬしだった。小男はウイン こうして、コーラルの雲の彫刻師グルー。フは結成された。わた チへ駆けよると、たくましい肩でわたしを押しのけるようにして ハしもその一員のつもりたったが、自分でグライダーに乗ることは一 ンドルをまわし、すたすたになったグライダーを地上へおろしてく度もなく、もつばらノーランとちびのマニュエルに、そしてあとか れた。わたしが松葉杖を立てるのに手をかしたあと、彼は格納庫のら仲間入りしてきたチャールズ・ヴァン・アイクに、飛び方の手ほ ーミリオン・サンズの 中をのそきこんだ。そこには、これまでで最も野心的なわたしの作どきをする役にまわった。 / ーランが、ヴァ びようきん 品、もはや凧とはいえない、昇降舵と操縦索を備えた本格的な滑空カフェ・テラスの常連たったこの金髪の海賊、剽軽な目もととひょ 機が、工作台の上でその形をととのえつつあった。 わな口もとをしたこのぶつきら・ほうなチュートン人に目をつけてい 彼は大きな掌を自分の胸にあてて、「プチ・マニュエルーー・曲芸て、シーズンが終わり、金持の観光客と年頃の娘たちがレッド・ビ と力業師」そういってから、大声でどなった。「ノーラン ! 見ろ 1 チへ帰っていったあとで、彼をコーラルへひつばってきたの 「パーカー少佐ーーーチャ 1 ルズ・ヴァン・アイク。こいつは首 よ、これを ! 」彼の相棒は音響彫刻のそばにしやがみこみ、その声だ。 がもっとよく響きわたるように、螺旋をいしっているところだっ狩り族だよ」と、ひややかなユーモアのこもった感想を、ノーラン た。「ノーランは芸術家なんた」せむし男はわたしに打ち明けた。 は吐いた。 「ーー処女の首専門のね」わたしはふたりのあいだにわ 「やつなら、あんたにコンドルのようなグライダーを作ってくれるだかまる対抗意識に不安を感じながらも、ヴァン・アイクの持ち前 よ」 の華やかな魅力が、わたしたちのグルー。フに欠けたものを補ってく 背の高い男はグライダーのほうへやってくると、彫刻家の手であれることを、認めないわけにはいかなかった。 っちこっちの翼をさわりながら、ぶらぶらと歩きまわった。退屈し最初から、わたしは砂漠の中のアトリエがノーランのものではな 7 たゴーガンを思わせる顔に、狷介な瞳が宿っていた。わたしの片脚いか、そしてわたしたち三人は、この黒い髪の隠遁者に、彼のひそ けんかい

8. SFマガジン 1975年7月号

アルコープ わたしたちは書斎をあとにして、カクテルとカナッペの横を通り ちの行くところ行くところ、大理石の半円柱に挾まれた凹室にも、 マントルビースの飾り棚の上の金色に輝く細密画にも、また階段にぬけ、レオノーラが客たちを迎えているところへともどった。 / ー ランが、白いスエード革のスーツを着て、彼女のそばに立ってい そって上昇する壁画にさえも、美しく自尊心に溢れたおなじ顔が目 につくのだった。このとほうもないナルシシズムは、彼女にとってた。ときおりノーランは、この自己強迫観念にとりつかれた女性が の最後の隠れ家、世界から逃れようとするこの流浪者の唯一の避難彼の不気味なユーモアに屈する可能性と戯れるように、レオノーラ を見おろしていた。レオノーラは彼の肱にとりすがっていた。両眼 所かもしれなかった。 のまわりに鏤められたダイヤモンドから、わたしはなんとなく古代 やがて、屋上のアトリエで、わたしたちは画架の上に置かれた、 ごく最近ワニスをかけたばかりの大きな肖像画にでくわした。作者の女僧侶を連想した。等高線形の装身具の下で、彼女の胸乳は性急 は、当世風の社交画家の感傷的なパウダー・・フルーの色調をことさな蛇のように横たわっていた。 ヴァン・アイクは大仰な一礼で自己紹介をすませた。その後ろか らに真似ているが、その見せかけの下でレオノーラを死せるメーデ ィアとして表現していた。右頬の下の張りつめた皮膚、それに険しらプチ・マニュエルが、タキシードの群れを歪んだ頭で神経質にひ よいひょいとかわしながら、近づいてきた。 いひたいと弛んだロもとが、麻痺した、てらてらと光る死骸の外観 レオノーラの唇が、不快そうにきゅっとす・ほまった。彼女はわた を、彼女に与えていた。 「ノーラン、 しの片脚にはまった白いギブスにちらと目をやった。 わたしの目は画家のサインの上におちた。 あなたは自分の世界を片端者だらけにしているのね。この小びと 「ノーラン ! そうだったのか ! きみは彼がこれを描いたとき、 彼もやはり空を飛ぶの ? 」 ここにいたのかね ? 」 プチ・マニュエルが彼女を見上げたまなざしは、踏みにじられた 「わたしがくるまえにもう仕上がっていましたわーーー二カ月前に。 花を思わせた。 彼女はこの絵にとうとう額縁をつけさせなかったんです」 「むりもないよ」わたしは窓ぎわへ歩みより、日除けの後ろに隠れ 冫いたのか。じゃあ、 演技はその一時間後に始まった。暗く縁どりされた雲は、メサの ている寝室を見おろした。「ノーランはこここ コーラルの近くのあれは、やつばり彼のアトリエだったんだな」背後に沈みかかったタ陽に照らされ、きたるべき壮大な絵画の金塗 「でも、な・せレオノーラは彼を呼びもどしたのかしら ? どう考えりの額縁のような絹雲が、幾すじかたなびいた。ヴァン・アイクの グライダーは螺旋を描いて最初の雲の前面へと上昇していき、かき てもーー」 「もう一度彼女の肖像を描かせるためさ。わたしはきみよりもレオ乱された上昇気流が彼をほうり投げるのに応じて、失速と上昇をく ノーラ・シャネルをよく知っているよ、ビアトリス。だが、こんどりかえした。 彫り上げた泡のようになめらかで生気のない頬骨が空に現われる の絵は大空のサイズなんだ」 363

9. SFマガジン 1975年7月号

「喜捨を集めているんです」わたしは説明した。「ミケランジェロ 五十ャードむこうでは、ヴァン・アイクが壊れたグライダーをわ とコーラルの雲の彫刻師たたしの車のほうへひきずっているところだった。ノーランは、シラ と、エド・キーン十レノ ( アメリカの ) 、 ・ / 前衛彫刻家 / のカリカチュアを空中に置きざりにして、すでに着陸していた。 ちの魂の平安のためにね」 「まあ、どうしましよう。いまお金を持っていそうなのは、たぶんプチ・マニュエルは、びつこをひきひき往ったり来たりして、道具 運転手だけですわ。ねえ、あなたがた、よそでは芸をなさらないのを片づけているところだった。衰えかけた午後の日ざしの中で、彼 らはみすぼらしいサーカスの一座そっくりに見えた。 「芸 ? 」わたしはこのかわいい、好感のもてる女性からちらと目を「よろしい」わたしはいった。「条件をのみましよう。しかし、雲 移して、ロールスロイスの薄暗い車内の、蒼ざめた、宝石の眼をもはどうするんです、ミス ヒアトリス・ラフアティーと申します。雲でした っキメラを見やった。むこうは、首のないモナリザが砂漠の上を横「ラフアティ 1 。・ ーミリオン・サンズへと流れていくのを、眺めているとら、ミス・シャネルが提供なさいますわ」 切ってヴァ ころだった。「われわれは、あなたが考えておられるようなプロの わたしはヘルメットを持って、見物の車のあいだをまわり、集ま 一座しゃないんです。それに、ああいう晴天の雲がなくては、話に った金をノーランと、ヴァン・アイクと、マニュエルのあいだで分 ならんしね。どこなんです、はっきりいって ? 」 「ラグーン・ウエストですわ」若い女はハンド・ハッグから蛇皮の手けた。わずかな紙幣を手にした三人は、深まりはじめたタ闇の中に 帳をとりだした。「ミス・シャネルは、これから園遊会を何度か催立って、下のハイウェイを見まもっていた。 レオノーラ・シャネルがリムジンからおりて、砂漠の中へと歩き される予定があります。そこで、あなたがたに出演していただける ものか、お訊きせよとのことなのです。もちろん、多額の謝礼をさだした。コプラ皮のコートに包まれた白髪の姿が、砂丘のあいだを あてどもなくさまよっていく。この焼け焦げた午後の幽霊の気まぐ しあげるつもりでおりますが」 ・というと、あの・ : レオノーラ・シャネル・ 「シャネル・ れな動きにおどろいて、砂鱆がそのまわりから飛び立った。砂鱆の あからさまな毒針が両脚のそばをかすめるのを気にもとめずに、彼 若い女はふたたび防御的な姿勢に返り、この後になにがこよう女は空で溶けていく雲の動物寓話と、空をなすりながら横切って、 いまでは一マイルほどむこう、ラグーン・ウエストの方角にうかん と、自分は関係がないのだという顔をした。「ミス・シャネルは、 この夏のあいだ、ラグ 1 ン・ウエストにいらっしゃいます。あ、そでいる白い髑髏を、じっと見上げていた。 れから、一つだけ条件を申し上げておかなくてはなりません。彫刻 9 の主題を決めるのは、ミス・シャネルです。ご諒解いただけますはじめてレオノーラ・シャネルをーーーコーラルの雲の彫刻師た ちを見物している彼女をー、・・・見たときのわたしは、彼女についてま か ? 」

10. SFマガジン 1975年7月号

で、竜の調教師はちと荷が重いな」 舵手がヨットを棧橋へつなぐあいだに、ヴァン・アイクとプチ・ 「ご心配なく。あなたがたにお願いするのは、マニキ = ア以外のなマ = 、 = ルは、湖の百フィート 上空にうかぶ綿雲を使って、即興の 3 にものでもありませんわ」いたずら 0 ばい目でちらとわたしを見や演技をくりひろげた。まずヴァン・アイクが蘭の花を、つぎに ( ー いんこ って、彼女はつけたした。「あなたのお仲間もご承知でしようね、 ト形と唇を彫り上けてみせると、こんどはマニュエルが鸚哥と、二ひ 題材がたった一つなのは ? 」 きの瓜二つな二十日鼠と、・ o ″の頭文字を作りだした。二台 「ミス・シャネル自身かね ? もちろん」わたしは彼女の腕をとっ のグライダーが彼女のまわりで、ときには湖に翼が触れるほどの急 て、湖を見晴らすバルコニーへといっしょに歩きだした。「そうい 降下をくりかえすあいだ、レオノーラは棧橋の上に立ち、これらの えば、どうもきみはそのての皮肉たっぷりなわきぜりふを楽しんで 小品の一つ一つに礼儀正しく手を振ってみせていた。 プロンズプラズマ いるようだね。大理石、青銅、濃緑玉髄、それとも雲 , ーー金持に好ふたりが棧橋のそばに着陸したあと、レオノーラはノーランが雲 きな材料を選ばせてやれ、というわけか。そうだ、そうしてなにがの細工にとりかかるのを待 0 たが、ノーランのほうは彼女の前の湖 わるい ? 肖像画はつねに軽視された芸術だった」 の空を、警戒心の強い鳥のように舞いあがり舞いおりるだけだっ 「あら、困りますわ、こんなところで」彼女はテー・フル・クロスをた。ラグーン・ウ = ストのこの奇妙な女城主を見まもるうちに、わ トイレいつばいにのせた執事が通りすぎるのを待 0 た。「太陽と空たしは彼女が / ーランに視線を釘づけにしたまま、周囲の人びとの 気を材料にして、自分の肖像を空に刻ませるーー人によ 0 てはそれ存在を忘れたかのように、なにかひそかな黙想におちい 0 ているの を虚栄だとか、もっとひどい悪徳の名で呼ぶかもしれませんわね」 に気づいた。思い出が、帆のない軽帆船となって、彼女の燃えっき 「ばかに謎めかしたセリフだね。たとえば ? 」 た瞳の暗い砂漠をつぎつぎに横切っていった。 彼女はいたずらっぽく目で笑った。「あとひと月たって、わたし の契約が切れたらお教えしますわ。ところで、お仲間はいついらっ その夕方、ビアトリス・ラフアティーは書斎のフランス窓からわ しやるの ? 」 たしを別荘の中へと導いた。サファイアとオーガンディ 1 のトツ。フ 「もうきているよ」わたしは湖の上空を指さした。三台のグライダレスのドレスに着かえ、両胸のふくらみを等高線形の宝石細工で覆 ーが過熱された空気の中にうかび、一かたまりの綿雲がそのそばをつただけのレオノーラが、テラスに立って客たちを迎えているそこ 漂いながら通りすぎて、もやの中へ消えていった。グライダーは、 で、わたしはこの別荘を満たしている肖像画をはじめて目に入れ さくらんぼ いま桜桃色の砂塵をタイヤで舞い上げて棧橋に近づいてきた、一隻た。数えただけでもそれらは二十枚を越え、ロイヤル・アカデミー の砂上ョットを追っているのだった。舵手の後ろには、レオノーラの会長やアン = ゴ ーニの描いた、客間の中の型どおりの社交的ポー ・シャネルが、黄色の鰐皮のパンタロン・スーツに身を包み、黒い トレートから、ダリやフランシス・・ヘーコンの手になる、 ーや食 椰子繊維のトーク帽の中に白髪を隠してすわっていた。 堂の壁を飾った奇怪な心理学的習作までにおよんでいる。わたした カラベ