アイ おも一 ~ 0 ン・ こ冫 ~ : ヾル メサの頂上から百フィート上にうかんだそれら は、眠れぬ巨人の虐げられた枕たった。雲の内部で は何本もの乱気流が渦巻き、大釜の湯のように鉄床 の頭に向かって煮えたぎっている。これはコーラル の穏やかな、晴天の積雲とはまるでたちの違う嵐 の乱雲、グライダーをわしづかみにして数秒のうち ~ . に千 , →ートの上まで持ちあげる、過熱状態の不安 定な空気の塊だった。どの雲も、暗い帯でここかし こを縁どられ、その巨塔は大小の峡谷にえぐられて いた。雲の群れは夏別荘の上を横切って動き、頭上 のもやによって湖の熱気から隠されたあと、かき乱 された大気の中で一連の激しい変動を経て、しだい に消えていった。 、エーレ録音音楽と照明効 わたしがソン・エ ノ果および語りを用 いた大野 ) 用の装置を山と積んだトラックの後ろから 外ショ 1 私道へはいっていくと、十人あまりのスタッフがテ ラスに並んだ金塗りの椅子の列をととのえ、巻いた 日除けをほどいているところだった。 ビアトリス・ラフアティーが、ケ 1 ・フルをまたい で近づいてきた。「。ハーカー少佐・ーーあれがお約東 した雲ですわ」 わたしはもう一度上をふり仰ぎ、屍衣のように白 い別荘の真上にうかんでいるどす黒いうねりを見つ めた。「あれが雲だって、ビアトリス ? あれは虎 だよ、翼のある虎だ。われわれは空のマニキュア師
私が邦子に言うと、ノヤマは意外そうに私の顔をみつめた。 色の小屋があり、その前に兵士たちが並んでいた。灰色の小屋は、 「警戒 : : : 。連中がゲイトの向こう側へ行きたがっていると言うん何やらけものの巣じみている。形がまず異様で、底の丸い壺を伏せ ですか」 て置いたような形をしていた。私は、アフリカかどこかにある、原 「たって、街の連中は、いわば圧迫されているわけだろう。弾圧と始的な住居を連想した。 言ってもいい。見たところそんな風に思えるぜ」 オートパイの兵士たちは、壁そいに並んだトラックの列の間に自 「なぜそう思うのです」 分たちの車をとめると、ぎごちない歩きかたで灰色の小屋の前に整 「壁で仕切ってとじこめられているじゃないか。壁の向こうはもう列した兵士たちのほうへ戻って来た。私たちの車は小屋の前にとま 少しましな世界があるんだろう」 り、何かを待っているようだった。 「たしかに、街よりはましです。しかし、街の連中が壁を越えたが「見て、あの兵隊さんたち」 っているなんて、聞いたこともありませんよ」 制服を着ているし、多分兵士なのだろうが、ひょっとするとそれ 「でも、現に警備兵が。ハトロールしているんだろう。そのための中は警官たちなのかも知れなかった。とにかく、その兵士たちを指し 間地帯として、緑地帯が作られているんだろう」 て、邦子が怯えていた。 「街の者が壁に近づくのは許されていません。しかし、許可証があ「何がだ」 れば別です。現にマッカーティ氏は緑地帯に住んでいるではありま 私はそう言って邦子が指さす兵士たちを見た。 せんか」 私は言い敗かされたような感じで沈黙した。何かここには私がま 私は無意識に前のシートにいるノヤマの肩をつついた。 だ気付いていない、特別なことがあるのた。たしかに異常な世界だ「これは : : いったい」 が、それはそれなりに、全体を何らかの筋が通っているに違いなの / ヤマは振り向いて笑顔になった。 だ。その筋を発見すれば、どんな異常な考え方だろうと、私にも理「何に驚いているんです」 解できるものがあるはすである。 「人形じゃないの」 車はス。ヒードを落し、オ ートバイがまずゲイトを入って行った。 邦子が震え声で言った。 「人形 : : : 。アンド tl イドと言って欲しいですな」 3 / ヤマは私たちの驚愕ぶりを見てニャニヤしていた。 「向こうで見たときはちっとも気がっかなかったわ」 壁の切れ目を通り抜けたとたん、私と邦子は思わず息を呑んだ。 「そりやそうでしよう。こちら側は本当の世界ですからな」 ガラリと風景がかわっていた。ゲイトの内側に、泥でかためた天「本当の世界 : : : 」
「わかっているよ」ヒノもじきに真顔にかえった。そしてシオダに 「どうする ? あの山を越えてみるか ? 」 たずねた。「で、これからどうする ? とにかく調査はつづけなけ ヒ / がシオダにきいた。 ればいかんわけだが : ・ : ・」 「いや、ここでひとやすみしよう。岩に当たって車体をこわしでも シオダはこたえた。 したらたいへんだ」 「まずェア・カーに乗って、この平野を一周してみよう。なにかこ 「そんなへマなおれじゃないがね : ・ : ・」 の付近に異常なものがあるはずだ。なにがなんでもそれを発見する ヒノは不満そうだったが、結局シオダの意見にしたがった。そし んだ」 て、したがってよかったことがすぐにわかった。 「 OE ! そうときまったらいそごうぜ ! 」 シオダの計器をにらむ眼つきが、急にするどくなったのだ。 ヒノはフルスビードで調査艇にとってかえし、惑星探査用のエア 「なにかあったか ? 」 ・カーをひつばりだした。燃料を節約するため、いままでは使わな その気配をさっして、あくびをしかけたヒノが中腰になった。 いでいたのだ。しかし、前途に危険がまちうけているとなると、そ「待てーーー」 うはいっていられない。 シオダはヒノを腕で制し、慎重な手つきで、つぎつぎに計器をチ ヒ / は操縦席にもぐりこみ、シオダはその横にすわった。 ェックした。節約第一主義の会社のサラリーマン調査員だから、高 「よく行くぜ ! 」 価な自動測定器よりも、こういった原始的な半自動の扱いになれて ヒノのかけ声とともに、エア・カーは砂塵と虫たちをまきあげているのだ。 スタートした。 ややあって、シオダがうめくような声でいった。 「わかったそ、ヒノ・ : ・ : 」 この惑星の諸定数は地球とたいへんよく似ていたが、ただ自転周「なにがだ ! 誘惑の美女がいたか」 期たけは長かった。十倍はある。だから、昼の時間も長く、調査行「この近くに明らかに人工の建造物がある」 には都合がよかった。 「ふうむ」 ヒノはエア・カーをあやつり、渦巻型に円周を描く形で荒野をめ「しかもその中に水源があるらしい。超音波と重力波レーダで判明 ぐらせはじめた。シオダは車内に設けられた各種の測定器で、放射した」 能、熱線、大気成分の変化などを調べはじめた。 こうしたじみな調査が二時間ほどっづけられた。調査範囲はしだ ヒノはとびあがり、エア・カーの天井に頭をぶつけ、はずみで車 いに拡がり、やがて、平野のはずれにある岩山の多い地形にまで近外〈ころがりおちた。汚染された水しか知らないで育 0 た世代だか づいてきた。 ら、水源と聞いただけでショックをうけるのだ。
「一種の催眠術さ。このロポットはカで・ほくらをつかまえようとしちがいない、地球人によく似た体形の生物が、ちょうど胎児のよう たのではない。なにか特別な電磁波で、脳の働きをとめようとしたな姿勢をとって、閉じこめられていた。 そしてそのいちばん手前に、まったく同じような姿、形にさせら んだ。ぼくは電磁波検出器の信号を見てそれに気づいた。もう少し 気づくのがおそかったら、ふたりとも眠らされていたところだったれた地球人たちが、同じ形状の力。フセルに封入されていたのだ。 よ」 「これが冬眠中の連中なのか」 「そうだったのか。急にめまいがして動きがとれなくなったので、 五分もたってから、ヒノがかわいた声を出した。 びつくりした。これまでに来た地球人たちは、みんなそれでつかま「行方不明の地球人の人数もびったりと合う。さて、謎をとかなけ ったんだな。催眠術には気づかなかったの・でひとりのこらずやられればならない ちまったんだな」 うなずきながら、シオダも低い声でいった。 「だと思うね。そしてこのロポットは、近寄る生物をみんな冬眠さ透明な球状カプセルの中に裸体で胎児のごとく眠る無数の異星人 せてしまう機能をもっているにちがいない。それがわかれば、もうや、それと同じようにされた地球人を見せられては、元気のいいふ たりも大きな声を出す気はおこらなかったのだ。 大丈夫だ。ロポットが出て来た天井の上に昇ってみよう」 ヒノとシオダは、しばらく、そのあたりを歩きまわった。カプセ 危機を脱したふたりは、勇気百倍して、ロポットが降りてきた天ルの層は、むろんこのプロックだけではなく、延々とつづいている ようだった。 井の割れ目にむかって、ポータ・フル・ジェットで飛びあがった。 おそらく、広大な地下施設のすべてにこのようなカプセルがあ 「これはすごい ! 」 五十億の全員が眠っているのたろう。 割れ目を通ってド 1 ムの上に出たとたん、ヒノは頬をあかくしてり、 どなった。 一時間、二時間 : : : ふたりは考え、調べた。 「地球人も並べられているようだな・ : ・ : 」 そして、この惑星の長い昼もようやくおわろうとする頃、シオダ シオダも興奮を抑えきれないように、うなった。 は測定器類を床に置いて、ポンと手をうち、ヒノにむかって笑いか そこには、下のドームよりもさらに異様な光景がひろがっていたけた。 のだ。 「わかったのか ? 」 ヒノはシオダの顔をのぞきこんだ。シオダはうなずいた。 中央に近い所にコンビュータらしい装置が三台すえつけられてお り、その周囲に、透明な、直径二メートルほどのカプセルが、幾重「コンピュータが故障したんだ。隕石か宇宙気流による放射能か、 にも層をなして無数に並べられていた。 そういった原因にちがいない」 「ははあ、それで彼らは覚醒することができなくなっちまったんだ そしてその力。フセルのひとつひとつの中に、この星の知的種族に 6 6
彼らが今晩、ここで野営するつもりであることは明らかである。さたかのようにはね上がり、泡をふき、たがいに体をぶち当てたあげ く、暴走し始めたのだ。 して警戒しているふうもなかったーーー四人の追っ手が戻らなかった 1 一人の牧童が、おどろいた馬にふりおとされたのを私は見届け ことを、彼らはまだ知らされていないにちがいない。よしんば知っ た。残った三人は、なだれを打って河に落ち込んだ牛を追って、馬 ていたとしても、守りをかためていたかどうかは疑問だ。強大なヒ メネス王国に向かって牙をむいているのは、たかがインディアンのを水へ飛び込ませていた。 血がまじった老いぼれいっぴきにすぎない。真面目に相手にする気私は冷静に、まず右手の一人を射った。私の腕では外しようもな おごり にもなれなかったろう。そしてその彼らの驕慢が、私の唯一の味方い距離だった。私は、飛び立っシャコをライフルで射ちおとす腕を ムービング・ダーゲット 持っている。動く標的こそは、私のもっとも得意とする的だっ だったのだ。 「鞍つきの馬が、あそこで俺たちを待っているーーただしライフル のけぞって男は落ち、あざやかな水煙をあげた。狼狽してサドル と拳銃で武装した男たちを乗せてだ」私は囁いた。 ケースからライフルを抜き出したあとの二人に、私はおちついて銃 「あんたならどうするね ? 」 エナリーは小首をかしげた。彫像のように整った横顔が私の目前口を移動させた。弾の飛来した場所を、この修羅場で彼らがすぐに 見抜ける筈はない。 にあった。 数秒の間をおいて、私は空き罐でも払いおとすように、彼らを馬 「彼らは、あの動物たちの守り役のようですね」 なぜ牛をそのように抽象的に呼ばねばならないのか、私には呑みから射ちおとしていた : 牛の群れは、蜘蛛の子を散らすように、平原にばらまかれよ 込めなかづたが、エナリーはそう呟いた。 あるじ 「群れをパニックにおとし入れれば彼らに隙が生まれる。そこにつうとしていた。河のこちら側の岸に駆け上がり、主を失って所在な げにたてがみをふるわせている二頭の馬に向かって、私たちは斜面 け込めばいいでしよう」 を下っていった。 「お説のとおりだ。だがそんな真似が出来るかね ? 」 ・ : 」彼を見返って 「牛があれほどうろたえたのを見たことがない : 「出来ると思いますよ」 っこ 0 エナリーはかすかに微笑し、唇に二本の指を当てた。次の瞬間、 異様な鋭さをたたえたロ笛がその唇からほとばしった。思わず私も「あんたは魔術師かね ? 」 耳をおおいたくなるほどの、大気を引き裂くようにかんだかい叫び「いや、彼らに危険が迫っていることを知らせただけですよ。ロ笛 ・こっこ 0 にその情報を乗せてやったのです。それだけの話です」 牛たちが不安気に頭をもたげたのが一瞬見えた。それはたちまち私は眉をしかめた。このこむずかしい物のいいかたは彼の癖なの パニックに転じた。すべての牛が、突然サイドワインダーに噛まれだろう。が、私のような無学な老いぼれには荷が勝ちすぎるものだ ホイッスル こ 0 スダンビード かん 236
けれども、特徴的なのは、かれらの前頭部に角が生えていることは大陸とことなり、縦横に走る山脈によって、何十もの盆地やデ ルタ地帯を持っている。それがまた河流によって細分され、大小さ であった。男は、するどい十センチぐらいの長さのが一本、女には 四、五センチの丸い感じのが二本、突き出ているのである。それとまざまな区域に仕切られているんだ。区域というより、ゼクテアた もうひとつ、上級情報官の話によればこうした静止写真では分らなちにすれば領土と呼ぶべきなんだろうな。と、いうのは、ゼクテア たちは多くの部族国家に分れていて、その数は、大陸で約八十、 いが、かれらは自己の感情の動きが、そのまま皮膚の色の変化とな 0 大陸では約五十もある。これは、そのまま、両大陸の、今いった ってあらわれるというのである。いわば、感情体現の肌を持ってい 細分化された地域のうち、ゼクテアの居住可能なものの数に合致す るということであった。 それにもかかわらず、かれらはいかにも柔和だった。むしろ、愛るんだ。いや、正確にいえば、居住可能な地域の数が、ゼクテアの 嬌があるといっていいほどで : : : シゲイは、何となく、子供のころ部族国家の数を決定している、ということになる」 「つまり : : : 領土の数だけの部族国家があるわけだな」 伝説かおとぎ話で聞かされた、悪者扱いをされているが実は善良な 「その通り。ところがこの部族国家、な・せそうなったのか、われわ 鬼を連想したのだった。 「ごらんの通り、いわばかれらは、小型の鬼の一族という感じだ」れにはまだ分らないけれども、お互いの風俗・習慣の違いがはなは と、上級情報官は説明した。「そして、性質も、この印象通り温だしい。中でも顕著なのは食習慣だ。何かのタブーがあるのか、過 去の環境の差でひとりでにそうなったのか、ともかく、主食も副食 和で友好的だ。ーー、定期移動のときを除いてね」 物もがらりと違っている。かれらの部族間のメイハーの体質がそう 「定期移動 ? 」 異っているわけでもないのに、そうなのだ。いや、これは別にゼク シゲイは、手にした資料のページを繰った。 テアを解剖したりなんかしたわけじゃない、かれらの部族間の混血 「そう。その資料にも出ているが、かれらは、たいてい二年ごとに がそんなにまれではないことからの類推に過ぎないがね。従って、 もちろんゼクテンのだよ、二年ごとに陣取り合戦をやる」 上級情報官は立体写真像を消し、両手の指を組み合わせた。「陣かれらが耕作し、あるいは栽培する食用の植物も、それぞれ違うと いうことになる。まあこれは、ゼクテンに、かれらの食用となる植 取り合戦といっても、面白半分のゲームなどではなく、かれらゼク テアたちにとっては、宿命的な、かっ、生死を賭けなければならな物の種類が多く、しかも成長が速くて一一毛作が普通だという、あま りにも良すぎる条件が生み出した皮肉ともいえるだろうな」 い行動だが」 上級情報官は、ここで一息ついて、また喋りだした。 「つづけてくれ」 「ああ。話を進めるためには、まず、かれらの集団の特質からはじ「ーー・と、ここ迄の説明でもお分りの通り、かれらは、平素はおの おのの領土で農作をいとなむ平和な連中だ。ところが、これはきみ導 めなければならない。かれらゼクテアたちは、資料のその地図の、 大陸と O 大陸に住んでいる。もうお気一つきと思うが、この一一大陸もよく知っていることだが、ひとつの土地に同じ作物を何年も続け
た。次に、足音が若い男女のものでなく、男が二人であることがわた。その時、彼は後ろの方で木の葉のすれる音を聞いたような気が かり、ジョニ 1 は心の平和をとりもどした。 した。それが最後で、頭にずしんと衝撃があり、彼は意識を失っ 「自動車の自動操縦が : : : が : ・ : ・秘密なんだが、国民の保護た。 と : ・・ : 国民総背番号が : ・・ : プライ・ハシーがと反対・ : ・ : 自動車の自動 操縦しか : : : 車夫馬丁の輩・ : ・ : 労働力不足も解決・ : ・ : 」 脱獄囚ラスカル・・、 ノスタードは、じっと身をひそめていた。夜の とりとめもない単語が耳にとびこんできた。酔った頭と昔習った闇にまぎれて、運よくつかまらずに逃けてはいるものの、明るくな だけの外国語のため、話の内容はわからなかった。それからタクシる前になんとかしなければいけないことは、よくわかっていた。さ ーが来て、二人は乗って行ってしまった。 しあたって必要なのは、衣服と金と、それに指輪であった。 タクシー。そう、そろそろ家に帰らなくては。ジョニーは自分が 指輪がこれほど大切たとは、それなしで街を歩いてみるまでは、 どこか道の上にうずくまっていることに気がついた。歩道の上であまったくわからなかった。一人で道路を横切ろうとした時、彼は遠 ろうことは想像がついたが、車道でも同じことであった。自動操縦くから走ってきた自動車に、あやうく轢かれそうになった。無人自 自動車は、間違っても彼に危害を加える筈がなかった。 動車には、指輪をしていない・ハスタードの存在が見えなかったのだ。 ジョニ 1 はゆっくりと立上った。タクシーポストに歩みよって手それに、指輪なしではタクシーにも乗れなかった。指輪がタクシ を伸しかけたが、また気が変って歩きはじめた。歩きたくなる晩で ーを動かすキーになっていて、それがなくては、乗って走らせるこ あった。 とはおろか、呼ぶことさえできないのだった。 ゆっくりとした足どりで、彼は数プロック歩いた。いや、プロッ彼の指輪は刑務所で取上げられてしまっていた。誰か指輪を持っ クという表現は適当でないかもしれない。自動車も人も通らないそている人が一緒にいてくれれば、それほどの不自由はないのであっ の通りは、右に左にゆるやかに曲りくねり、灌木の茂った上に、樹たが、脱獄囚の身に、それは望むべくもなかった。 が大きく枝を拡げていて、再び公園に入ったようであった。 そして彼は人通りの少ない所に身を隠し、必要なものを手に入れ そこまで歩いてくる間、ジョニーは一台の自動車も見なかった。 るチャンスを待った。人通りは少なかった。強そうな男、アベッ 音さえ聞かなかった。一人の人間にも会わなかった。時どき頭の上ク、女ばかり三人 : : : 。できれば一人歩きの人間を狙いたかった。 で鳥が鳴いた。 犠牲者が酔って歩いてきたジョニーであった。・ハスタードは石で ジョニーはラジオの騒音とそれに象徴される不作法を忘れてい ジョニーの後頭部に一撃を加え、衣服をはぎとった。それを身につ た。むに平和が戻っていた。彼は家に帰ろうと思った。 け、靴をはき、忘れないで指輪を奪った。ぐったりとしたジョニー タクシーポスト。彼は捜した。それは五〇メ 1 トルほど先にあつの身体を灌木の陰に隠し、彼は足早にその場を去った。 た。彼は無意識のうちに指輪を撫で、タクシーポストに向って歩い 歩きながら、・ハスタードは指輪をはめた。少しきっかったが、薬 95
というのがふしぎな気がした。また大発見でもあった。この部屋へやる老フサがのそりと入ってきた。削いだようなほおと、落ち窪んだ ュニフ十ーム ってきたとき、女は O 級医務員の制服を着ていた。シンヤは医療眼窩が、老いの疲れを濃く宿していた。 部にはあまり縁がなかったから、そこにかの女のような看護婦がい かれはよれよれになった制服の上着をぬぐと、壁の釘にひっか たことなど、これまで知らなかった。かれらがこれまで相手にしてけ、冷蔵庫の後から、かれがウイスキーと呼んでいる自家製の飲料 きた女たちといえば、気象観測部や民生部、運輸部などにはたらくアルコールのびんを取り出した。 「また出たんだってよ」 技術者や作業員などで、胸の薄い、体全体にふくらみにかけた男の ような女たちだった。一応は欲望もありながら、ただ棒のように体アルコールを半分ほど満たしたコップに、水道の水を注ぎたしな がらシンヤをふりかえった。 を男の動きにあずけることしか知らない女たちだった。 「また出た ? 」 「ああ。今度はひでえや。死人が出た。地質調査班の連中はふるえ 壁のス。ヒ 1 カーに汐騒いのような騒音が入った。 《シンヤ軍曹。ただちに調査局長室へ出頭してください。シンヤ軍上っている。せ」 「冗談じゃねえや」 曹。ただちに調査局長室へ出頭してください》 マーシャン・ヘルメット 騒音の奥から、ふだん聞き馴れた声が流れ出した。かなりいら立「シンヤ。あの『火星人の兜』には、たしかに何か出るんたぜ」 っている。 「火星人の幽霊か」 「うるせえ ! 」 シンヤは体をゆすって笑った。そのたびに、シンヤの体の上に乗 シンヤは、それに向って罵声をあびせた。 っている女は内臓がし・ほり出されるような声を発してのけそった。 スビーカーはもう一度、同じことをくりかえすとぶつりと切れ「いったいどんなものを見たんだ ? 」 た。声がいら立っているのも当然で、すでに一時間も前から呼びつ「電話を受けたんだが、どうも一人一人、言うことがちがっていや づけているのだった。 がってな。結局、よくわからねえんだ」 「それ、もう一丁ゆくか」 シンヤは、動きは女にまかせて、あお向いた上体を老フサにねじ シンヤは、死んだようにべッドに体を投げ出して、笛のように息向けた。 をもらしている女の後へまわり、汗に濡れた量感のある腰を引き寄「おめえ、たばこ、あるか ? 」 せた。もうろうとなっている女は、握りしめているシーツもろとも「おれがやらねえのは知ってるだろう。よしなよ。あれはいけね 引き寄せられ、つらぬかれたとたんに、生命を吹きこまれたように え。見つかったらおめえ、禁固ぐらいじやすまねえぜ」 ふたたびはげしく動きはじめた。 「ふん ! おめえのそのウイスキーとかいうアルコール臭え水も、 そのとき、部屋のドアが開いて、この部屋のもう一人の住人であたしかご禁制じゃなかったのかい」 ュニフォーム 292
一五〇キロの地点にある。もし、べがセントラルから住倉建そう考えて、ラリー がほくそえんだのは、四時三〇分のことたっ 設に向かったとして、そのことに気がついた襲撃者が、ヤンキー エレクトリック・エクスチェンジに船首を向けてしまえば : : : 発送それが今、五時三〇分を過ぎようとしているのに、未だにべ }.-.q か 電複合体を麻痺される心配はなくなるが、襲撃者を逮捕できる可能らもべⅡからもなんの連絡も入ってこないのだ。ラリーは苛々と壁 性もまたなくなるのである。 時計を見上げていた。六時には、同僚のヘレナが交替にやってくる べ y-* はあくまでもセントラルに待機しているべきなのだ。 ことになっている。いつもだったら、情報工学の専門家で、若く ( まん中を取った方が、勝負を有利に進められるということは、三て、すこぶるつきの美人である彼女と会うのは楽しみなのだが、今 目ゲームを少しでもやった人間なら、誰でも心得ているきまりなの日に限って、〈レナが遅刻してはくれないか、と願うような気持ち になっている。 ーふ、り こ 0 蔦みドⅵい 旧 7
通話を見つめていた。 「やつばりだ : : : 」先方に別の緊急 電話がかかって来たらしいので、一 たん通話をきった・ほくは、ゆっくり 二人の方をふりかえった。「金曜日 午前中に工場を出荷されて、新規配 属された二十体のサービスロポッ トのうち、エリックをふくむ三体が 倫理回路。に、落雷 0 影響らしい 歪み″を生じているらしい事が、 今日の午後、発見されたそうだ エリックは、第一条項回路第一一条 回路に、若干の狂いを生じていた エドとキャロルの顔は、紙のよう 二人とも : : : いや、・ほくたちだけでなく、警察 が、ヴィジフォンの所からいった。「管理責任者が出ていますがに白くなった。 の誰もが、考えもっかなかった、おそろしい可能性が、ワン・ステ ップ、姿をあらわにするのを感じたにちがいなかった。 ・ほくはストウールからとびおり、ヴィジフォンの方へかけよっ ヒューマ ″ロポット倫理回路″ 一名「三原則回路」というものは、人間 ′イ・ト 「そんな : : : そんな事あり得ないわよ ! 」背後からキャロルが、か型ロポットが、人間のよきパ 1 トナーとして社会の中に共存しはじ すれた声で叫んだ。「 : : : 人を殺すなんて : ・ : ・ロポハトい、人間をめた当初から、何度も吟味され、ロポットの対人間・社会行動規制 プレイ / の根本原則として、どのロポット用電子脳の中枢にもくみこまれて 殺せないわ ! ーーー殺せないようにできているはずよの : : : 」 いる「規制回路」だ。 ぼくはかまわずヴィジフォンにとびついて、先方と話をはじめ キャロルはなぜか、ぼくの背後にこず、・ストクールの上に規制は、次のような三つの基本原則からなっている。 凍りついたようにすわって、こちらを見ていた。ナプキンに、しき 一、ロポットは人間に危害を加えてはならない。 りに何か書きつけていたエドも、顔をあげて、じっとぼくと相手の / か 3