あいだ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1975年8月号
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1. SFマガジン 1975年8月号

していたんだ , ーーそして、もし仮定のひとつにでも間違いがあれ「いいとも」と、・ほくは答えた。椅子を動かせばもうすこしいい位 ば、その事態がおこる確率はぼくの期待以上に高くなる 0 てわけ置に来させられるだろうが、それではジョウに抱いていてもらえな 8 2 くなる。・ほくはふたりに、他の方法があることなど話しておかなか やらなければいけないことになれば、・ほくはそれをちゃんとやっ ったのだ。「彼女にキスしてやるんだ、ジョウ。そのあいだにスト てのけたかった。 ラップをかけるから」 ぼくは彼女以上に心配していた ~ 彼女が心配などしていたはずは左膝用ストラップでふたりの左膝を一緒にくくりつけ、右膝も同 ない。・ほくは催眠暗示での準備を充分にやっておいたんだから。 じようにし、それから彼女の両足をにくが新しくつけ加えた支えに このそっとすることをしなければいけないなら、すばやくやらなあてた かれの胸と肩と太腿にきつくストラツ。フをかけたのは、 ければ。ふたりがほかのことに気を奪われているあいだにだ たとえ船がばらばらになって墜落しようとかれはきちんとその椅子 れらに決して見せず、悲しい遺体はすぐふたりの目のとどかないとに坐っているようにたが、彼女にはそうしたストラップはかけなか ころへやらなければいけない。それから、ふたりとも精神的に立ちっこ。 ナリータの手は椅子の握りをつかみ、ジョウの両手両腕は生き 直らせるという大変な仕事に取り組むのだ。夫婦としてか ? ・ほく たあたたかな愛情のこもった安全ベルトとして彼女の乳房のすぐ にはわからない。たぶん、彼女がはらんでいるものを見たあとでな下のふくらみを覆っているがおさえつけないようにしている。かれ ら、 . 意見を出せるだろう。 はどうするべきかを心得ていた。われわれは練習したんだ。彼女の ついに陣痛が短い間隔をおいてやってきたので、・ほくはかれらを腹に力を加えたいと思ったら、かれにそういうーーーそのとき以外 分娩椅子に坐らせたーー・・・楽な、四分ので。椅子は調節ずみであは、そのままじっとしているのだ。 り、ふたりとも練習していたのでその姿勢に慣れていた。まずジョ ・ほくの腰掛けは床にポルトでとめてあり、・ほくはそれにシート・ ウが坐りこみ、両足を大きくひろげ、両膝を足掛けにまたがせ、かべルトをつけておいた。自分にストラップをかけてから、・ほくはふ かとをふんばるーー・かれはリータと違って、 ズのように軟かな たりにこれからひと揺れ来ることを思い出させた こればかりは 体をしていなかったから、そう楽じゃなかった。それからぼくは彼練習するわけにいかなかった。流産の危険があったからた。 女を抱きあげて、かれの膝のあいだに坐らせた なんの困難もな「指を組み合わせろ、ジョウ。だが、彼女が呼吸できるようにして かった。この擬似加速のもとでの彼女は四十ポンドほどの体重しかおくんだそ。具合はどうだ、リータ ? 」 なかったからだ。十八キロといってもいい。 「ああーー」彼女は、息もたえだえになっていった。「おらーートお ら、また始まっただよ ! 」 彼女は両足をほとんど水平にひろげて前へおし出し、ジョウはか リータ ! 」 れの股のあいだからリータが落ちないように抱いていた。彼女は尋「がんばるんだぞ、 グラヴィスダヅト ねた。「これぐらい出ればいいですか、船長 ? 」 ばくは自分の左足が重力発生装置コントロールの上に乗っている

2. SFマガジン 1975年8月号

こうして、船長夫人にたいするわしの恋物語が始まっ てしまったよ、見かけはーー・注意して見ないものにはね たのだ。そして同時に苦しみも。というのは、夫人の頑 微かなほくろが散らばっているみたいだけれどね。 こういう具合に、地球と月とのあいだは、たがいにつ固な目差しがだれにむけて注がれているのか、遅からす り合う二つの力が相争っていたのだ。もっと言うなら、 してわしは気がついたからだ。わしの従弟の両の手がし ひと つかりと月面に置かれているあいだ、わしはあの女をし あの衛星から地球におりて来る物体は、少しのあいだ は、まだ月の引力を帯びていて、この地上の世界の影響っと見つめていた。すると彼女の目差しに読みとること 力を拒否するのだ。わしにしたって、もう大きな大人だができるのだーー・つん・ほと月との関係のあの馴れ馴れし ったにもかかわらず、上にいって来るたびに、この地球さが彼女の胸に呼び起こす想いのたけがね。あの謎の月 の天地の感覚に慣れるのに手間がかかって、仲間たちに世界探険に彼が姿を消すとき、彼女は目に見えて不安げ わしの腕をつかんでもらって、無理やり押さえていてもな様子になり、針の山に立っているかのように落着きを らわなければならなかったのだが、この連中はゆれてい失うのだった。もはや、わしの目にはすべては明らかだ る舟のなかでぶどうの房よろしくぶらさがっているじゃ った・・・ーー Vhd Vhd 夫人がどれほど月に嫉妬を感じるよ ないか。だってわしはそのあいだ、まだ頭を下にして脚うになっていたか、またわしがどれほど従弟に嫉妬して ひと ひと を空にむけてのばしていたのだからな。 いたことか。あの女のダイアモンドの瞳は、あの女が月 「つかまれ ! おれたちにしつかりつかまるんだ ! 」を見あげるとき、火のように燃えていた・ーーまるで挑戦 と、みんながわしに叫んでいる。で、わしはこのやっさするかのように、「あの人はあげないよ ! 」と言うかの もっさのなかで、ときとして Vhd Vhd の奥さんのおつように。そしてわしは自分だけが除け者になっていると ばいをつかんじゃったりしちゃうんだが、この女のはま感じていた。 こういうことをまるつきり気にもかけていなかったの るくて固くて、触ると気もちよくって安心感があって、 月と同じくらいの、いや、もっと強力な引力が働いたもは、つんぼだった。彼がおりて来るところをーーーもう説 の。とりわけ、まっ逆さまに落ちて来ながら、うまくも明したとおりーー・・みんなで脚をひつばって助けてやると う一方の手で彼女の腰を抱きしめることができたりするき、 Vhd Vhd 夫人はもういっさいの遠慮も気がねも忘 とね。、これでもう、わしはまたもやこっちの世界に通過れて、惜しげもなしに全身でやつの上にのしかかり、あ して来れたっていうわけで、どしんと舟底に落っこちる。の長い銀の腕を彼に巻きつけようと大童だった。わしは そこに VhdVhd 船長がざぶりと桶の水をかけて、意識それに心をえぐられる思いだった ( わしがしがみつくと ひと をとり戻させてくれるんだ。 き、あの女の体は、確かにいつも優しく柔順だったけれ ひと

3. SFマガジン 1975年8月号

装置なしで行動できる、という前提で。もちろん、これは信じられら、あたりを探るのもいいわよ」 たん ないくらいの意外な幸運で、兵站計画全体をすっかり変えてしまう「ありがとう、ローラーー私が知りたかったのは、それだけだ。あ ェクゼッグ ほどだわ。わたしとしては、酸素のある世界という考えに、まだど との細かいところは副長に任せよう。それから、全艦員に遠心訓練 うしても慣れることができないの : ・ : だから必要な補給品は、食料機行きを命じるよーー・一日二十分、半下の訓練だ。これで満足か と水と保温服だけですむし、商売繁盛、いうことなしだわ。下へ降ね ? 」 らく りるのは楽そうね。道中ほとんど、滑っていけばいいんだから。あ「、 しいえ。ラーマの下界はコンマ六よ。安全なゆとりを見こんで のとても便利な手すりの上をね」 おきたいわ。三回に分けてーーー」 「いまチッ。フスに、パラシート・・フレーキつきの橇を作らせてる「あいた ! 」 よ。人間を乗せるのは危険としても、荷物や機械の運搬に使えるだ「ーー・それそれ十分間ーー」 ろう」 「それを決めるのは私だ , ーーー」 「すてき。それがあれば、下りの旅は十分ですむわね。さもない 一日二回よ」 ひと と、一時間ぐらいかかるわよ。登りの時間は割り出すのが難しい 「ローラ、きみという女は残酷で、血も涙もない。でも、おっしゃ ナしふ食欲をなくさせる わ。途中、一時間の休憩を二回入れて、六時間ぐらい見ておきたいる通りにするよ。夕食の前に発表しよう。・こ、・ んだけど。でも、これは経験を積むにつれてーーーそれと、体力がつだろうがね」 くにつれねーーーかなり短縮できるでしよう」 「心理的要素はどうかね ? 」 ノートン中佐としては、カール・マーサーがそわそわと落ちつか 「評価が難しいわ、こんなぜんぜん新しい環境では。暗闇がいちば ないのを見るのは、これが初めてであった。いつものようにてきば たん ん問題かも知れない」 きと、十五分のあいだ兵站面の問題を検討していたのだが、明らか 「サーチライトを軸端部に取りつけるよ。下界の探険隊は自前の照に何かを思い悩んでいる様子なのだ。艦長はその悩みが何なのかを 明をもつほかに、い つも上から光を浴びているようにする」 すばやく見抜いて、相手がその話をもちだすまで辛抱強く待ってい こ 0 「いいわーーーそれはとても助けになるでしよう」 スキツ・ハー 「この探険隊の指揮は、ほんと 「もう一つ。われわれは安全策を取って、探険隊を階段の途中まで「艦長」カールはとうとういった。 ? もし間違いがあったとき、おれのほうが 行かせてから、戻すべきかーーそれとも、最初からいっぺんに下まにあんたが取る気かい で行かせてしまっていいか ? 」 犠牲としてはずっと軽いんだがなあ。それにおれは、だれよりもラ ーマの奥にはいってるし 「時間が充分あれば、慎重にいきたいところね。でも、時間は限ら たとえ、五十メートルばっちにしても掲 れてるし、べつに全部降りても、危険はないようねーーー降りてか

4. SFマガジン 1975年8月号

うのはやめろ、さもないと、頭を壁にぶちくらわして名前も思いだ用ずみの薬莢がころがっているのに気がついた。 せんようにしてやる。さあ、どっちにする ? 」 「やめてくれ ! 床にぶちまけるほど、手持ちがだぶついてるわけ 7 「と・ほけてなんかいるもんか、ただあの女がこわいだけだ」 じゃないんだ ! ひどいことをする ! 」ミルンは悲鳴をあげた。 や 「じゃ、マイゼルを殺ったのは彼女なのか」 俺は壜を置いて言った。 「マイゼルを殺った ? ああ、そう言えば、相当しつこくつきまと「ミルン、この薬莢はどうしたんだ ? 」 われてたからな。ドロレスが殺したのかもしれん。その可能性がま彼はぐっとひといきであおると、また自分で注いだ。とめない ったくないとは言えん。だが、あの腰抜けをまるでちいさなガキみで、やらせておいた。 たいに面倒みてたことは知ってるんだろ ? 縦坑がどかんといって「どうした ? ああ薬莢のことか。縦坑のそばで拾った」 からというもの、あいつは神経がいかれてしまったらしい。神経熱「いつのことだ ? 」 とかにかかったって話だった。だからあの女が夜っぴて面倒をみて 「忘れた。ずいぶんまえのことだ」 ? とんでもない た。それでも、彼女が殺ったって言うつもりかい 「どうしてここに転がってるんだ、説明しろ ! 」 話だそ、シャーロック・ホームズさんよ、あんた、見当違いしてい 薬莢を拾いあけた。表面がしめつぼく酸化している具合いからみ るよ」 て、相当ながいあいだ野外にあったはずだった。ミルンの部屋の机 「じやマイゼルは自殺したというんだな ? 」 の上にのったのは、せいぜい昨日というところで、それ以前という 「誰がそうだと言っている ! あるいはそうかもしれんさ。ただ ことはあるはずがない。 し、俺は立ち会ったわけじゃないからな」 「よし、遠征はとりやめだ。そこに坐れ ! 腹を割って話しあおう 「もういし さっさと服を着ろー じゃないか」 彼はどっちみち逃げられないと観念したらしい 「するとこれまで腹を割って話していないみたいに聞えるが ? 」 「キーを返してくれ、そうしたらでかけるよ」 また酔いがまわってきたらしい。かえってそのほうが都合がいい 「だめだ。もどってから好きなだけやれ」 かもしれない。酔払ってうつかり口を滑らす確率は高いからだ。 「ひとくちだけでいいんだ」 「よく聞くんだそ、ミルン。マイゼルが殺されたと思えるふしがあ かってにしろ」 「まったくあきれはてたやつだ ! るし、しかもその容疑はあんたにかかっている 根負けした俺は、戸棚を開け、彼が二本の指でつまむようにして彼は薄笑いで応じた。 ! こちと 持っている目盛りつきの実験用ガラスコップに注いでやった。そし「その手にはのらん。そんな手が通じると思ってるのか て、残っていた壜のなかみを足許にぶちまけにかかった。そのとらにはがっちりしたアリ・ハイってやつがある。あのときは二日も俺 ミかじりかけのパンきれと吸いかけの煙草にまじって机の上に使は基地から離れてないんだぜ」

5. SFマガジン 1975年8月号

もだめだ。この制度は、教会だの国家だのに管理されるはるか以前 ある主題による変奏曲Ⅶ から存在していたんだ。それが役に立つから、それだけのことた。 それにまつわるすべての欠点にもかかわらず、唯一の普遍的テスト ヴァルハラからランドフォールへ 生存ということーーーに照らしてみた場合、結婚は、ここ千年以 上のあいだ馬鹿な連中がそれに換えようと努めてきた無数の発明品 が、かれらのために・ほくのできる最善の策だったんだよ、ミ ネルヴァ。ときどきよく、どこかの馬鹿が結婚というものをなくしより、はるかに役立つのだ。 ・ほくが話しているのは一夫一婦制だけのことではない。あらゆる てしまおうとする。そういう企ての結果は、重力の法則を廃止した り、円局率をきっちり三・〇にしたり、あるいは祈りの文句で山を形態の結婚ーー一夫一婦制、一妻多夫制、一夫多妻制、いろいろと 動かしたりするのと同じことだ。結婚は、坊主どもが考えだして人変化をつけているにしろ複数あるいは延長した結婚のことについて 類に与えたというものじゃあない。結婚は目と同じように人類の進いっているんだ。″結婚。には、無数の習慣、規則、取決めがあ 化にともなう道具のひとつであり、目がそれそれの個人に役立つのる。だが、その取決めがもし、このもししかないのだが、子供を養 、大人にはそれそれが必要とするものを与えあうということであ と同じように結婚は種族にとって有用なものなのだ。 たしかに結婚とは、子供たちを養うため、母親が子供たちを産れば、それだけでそれは″結婚″だ。人類にとって、結婚の数ある み、育てるあいだ、その面倒を見るための、経済的契約だーーーしか欠点に対する唯一の唯一の歓迎すべぎ代償は、男と女がたがいに与 えあえることの中にある。 し、はるかにそれ以上のものなんだ。結婚とは、この動物、ホモ・ ・ほくは″性愛″のことをいっているのじゃあないよ、ミネルヴ サビエンスが、そういったなくてはならぬ機能を果たし、そうして いるあいだが幸福であるようにとまったく無意識のうちにーー発達ア。セックスは罠に餌をつけるが、セックスは結婚じゃあないし、 結婚をつづける理由でさえないんだ。牛乳が安いときになぜ雌牛を させてきた手段なんだよ。 なぜ蜜蜂は、女王、雄、働き手と分かれていながら、なおかつひ買うんだい ? とつの大きな家族として生きているのだろう ? なぜなら、かれら伴侶であること、協力しあう仲間であること、たがいに励ましあ 、ともに笑いともに悲しみ、欠点をも受け入れる信頼、ふれあう にとってはそれがうまくいくからだ。ほとんどうなずきもしないぐ さかな らいのつきあいで、ママ魚とパパ魚はなぜうまくやれるんだろう相手、きみの手をしつかりと握っていてくれる者ーーーそういうもの ころも な ? なぜなら、進化が与えた盲目の力が、かれらにはそれでうまが″結婚″であり、セックスはお菓子をくるんでいる衣にすぎな 。ああ、その衣は実にロあたりのいいものかもしれないがーー・・・そ くゆくとしているからだ。なぜ″結婚″という制度がーーどうよう れはお菓子じゃない。結婚がそうしたロあたりのいい衣を失い な名前で呼ばれようともだーーー宇宙いたるところの人類にあまねく 普及しているのだろう ? 神学者に尋ねてもだめ、法律家に尋ねてたとえば、事故によってだ , ーーそれでも、いつまでもいつまでもっ はんりよ 円 6

6. SFマガジン 1975年8月号

知ってのとおり、この地域ときたら、軍用地というよりは国立公園まわっていた。日よけ布をたたんでいるのだ。太陽面は地球のうし みたいになっちまってるんだーー理論のうえでは高度に防衛体制のろに沈んでしまい、荒ら荒らしいコロナだけが見える。青白い髪の 整った地区ということになっているんだけどね。おれとしちゃ、きような光が星空にたなびいていた。地球は一面暗い相ばかりになっ みのほうでこの一件をとどこおりなくすませてくれるよう、頼まなてしまった。ただ、大気によって屈折した日光の、かすかでアン・ハ きゃならんわけだよ。ぐっと分別をきかせてもらってだね」 ランスな円光と、ロサンジェルスとシカゴとニ、ーヨークをむすぶ 「大丈夫、そうっとめるよ、署長」ファッツは言った。「ヘイ、み線のうえに見える三つの光の点は別だ。村のなかではあちらこちら んな、さっさとやれよ ! 」 に柔らかい黄色の灯がともった。短い夜のためのものだ。透明な気 ゴムトが話をつづけた。その言葉っきがとてもはげしい 球は消え去ったように見えなくなり、一団の人間だけがとり残され 「わかってくれよ、おれは完全に公的な立場にいるんだ。公的にて、まるで星々のあいだに腰をすえているみたいに見える。 は、きみたち浮浪者たちの最後が見られてとても嬉しく思わなけり 局長代理が言った。「研究員たちゃ、たちまでも非公式には ゃならんのさ。よりによって、おれが手不足な折にこんなことになきみたちに多少同情していることは知っている。そんなものをあて にするなよ。新局長はこの退去命令を強制執行するために、特別代 るなんて」 理官を任命することもできるのだ」 「わかってるよーファッツは低くそう言ってから、声をあげた。 ファッツは熱をこめて言った。「そりやできるにきまってるさ。 「とぶんだ、みんな ! 」 だが日没になって、新局長代理は、こんどはいたけだかな態度をでもそんな必要はないよ。おれたち、目下、がんばってる最中なん とって、ビッグ・イグルーのなかでもう一度ファッツとあいまみえだもの。これでもできるだけ急いでるんだぜ。たとえばさ、おれた ちの地上服がまだぬいあがってないんだ。おれたちが半分はだかの ることになったのである。 「最初の立ち退き者五十人は、一時間前に乗船用チ = ー・フのところまんまで地上へ着いてさ、この衛星が悪評さくさくになっちまうな に集まることになっていたはすだ」局長代理はけわしい口調ではじんてのは、あんたもいやだろう ? だから仕事をつづけさせてくれ めた。 よ。おれたちのひじをゆさぶるようなまねはしないでさ」 局長代理は鼻をならして言った。「お互いの時間を浪費しないよ ファッツは同意した。「そのとおりさ、もう少し時間がかかるこ うにしようじゃないか。知ってのとおり、もしきみたちがそんなっ とになっちゃっただけのことだよ」 もりなら、きみたちへの酸素供給をやめることもできるんだ」 「なにがさまたげになってるんだ ? 」 「用意をしてるところなんだよ、局長代理さん。見てわかるだろ 一瞬、沈黙がおとずれた。やがて横あいから、トレース・ディヴ う、みんな大わらわなんだぜ」 スカ叫んた。「あれを聞いたか ! スラムへの水をとめちまっ 半ダースの人影が、ビッグ・イグルーのなかをリズミカルに飛びイ・、

7. SFマガジン 1975年8月号

こんできた だがぼくは汚ないトリックを使った。プーツを三足は真面目な顔で説明してやった。最初のときは足がふくれていたん 持ち帰り、彼女に選ばせたんだ。二足はあっさりした仕事用の・フー だから安心していいよ。今日は一時間、明日は二時間と、毎日すこ 8 2 ツだが、三足目のは派手な飾りがついているやつで、サイズがちよしずつ時間をふやしてゆき、一日中楽にはいていられるようになる っと小さかったってわけだ。 まで練習すればいいさ、とね。 そこで、地上へ連れていったとき、彼女はきっすぎる・フーツをは 一週間たっと、彼女はほかには何ひとっ身につけていなくても、 いていたし、天気はいつになく冷たく、それに吹雪の最中だった・フーツだけははいているようになっていた。素足でいるよりプーツ ・ほくは天気予報を前もって見ておいたんだ。トールハイムは宇をはいているほうが気持がいいからだ・ーー・驚くことはない、・ほくは 宙港のある町としては、きれいなところだったーーーしかし・ほくは、気をつけて、土ふ・まずにびったりあった靴を選んでおいたんだ そうした場所は避け、彼女の″観光〃にはなるべく薄汚ない場所を妊娠したことと、ふたつの惑星における地表重力の違いでーーー彼女 そり の故郷は〇・九五、ヴァルハラは一・一四だーーー彼女はそれま 選びーーーそれも歩いてまわったんだ。・ほくが手をあげて橇をとめ、 船へ連れてもどるまでに、彼女はすっかりみじめな気分になってしでにくらべて二十キロほど重くなっていたから、足の支えとなるも まい、着心地の悪い衣服、特にプーツをぬいで、熱い風呂に入りたのが本当に必要だったってわけだ。 ・フーツをはいたままでべッドに入らないようにと、・ほくは注意し いとこ・ほしていた。 なければいけなかった。 ・ほくは彼女をあくる日も町へ連れていってやろうか、断わるのは 自由だがといっ・た。彼女は丁寧に断わった。 積荷を選んでいるあいだに二度、ぼくはリータを町へ連れていっ ( 省略 ) たが、彼女を甘やかした , ーーあまり歩きまわらず、長いあいだ立た それほどひどいことをしたわけじゃないよ、ミネルヴァ。・ほくはしておきもしなかった。彼女は・ほくが誘えばついて来たが、いつも ただ本人に疑惑をおこさせることなく、彼女を人目にさらさないよは船内でもつばら読書に精を出していた。 うにしておきたかったんだ。本当をいうとぼくはその派手な・フーツ いつぼう、ジョウは長時間働き、七日に一日しか休みを取らなか を二足買ってあり、一足は正しいサイズだったんだーーーそして、初った。そこで出発の直前に・ほくはかれに仕事をやめさせ、その日を めての外出が終り、彼女が疲れきった両足を湯に浸しているあいだまるまる休みにしてふたりを連れ出した。橇を一日借りきって、本 に、その両方を取り替えておいたのだ。そのあとで・ほくはこう話し当の見物に出かけたんだ。橇は動力ではなくトナカイに引かせるや つだし、その日はよく晴れて明るく、暖かいといってもいいくらい た。彼女がそんなひどい目にあったのは、これまで一度も靴をはい たことがなかったからだ だから、そのこつを知るまで、船の中だった。田舎の洒落たレストランでヨッンハイメン山脈の切り立っ と。 ではいていたらどうだい、 た岩塊が雪をかぶっているのを眺めながら昼食を取り、夜は市内に さっそく試してみた彼女は、あまり楽なのでびつくりした。ぼくあるもっとも高級なレストランで最高の食事と、それにふさわしい

8. SFマガジン 1975年8月号

ら見ると、頭を下にしてぶらさがってるように見えるん ぎざぎざに切りさけたのやら、いろんな凸凹ができてい るやつが、すぐま上に見えているんだからね。今じゃもだが、ところが御当人にはいつもと同じの当り前の姿勢 さ。ただ、奇妙なことって言えば、目をあげるとね、頭 う違っちゃってるだろうがね、そのころの月はーーー・とい の上にはきらきら光る海の大空が、舟も仲間たちも逆し うよりもむしろ月の底というか腹というか、要するに、 こすり合わさるぐらいにすぐそばを地球と並び合って通まにして、まるで蔓からたれているぶどうみたいにぶら ってゆく部分のことだがねーー、とがった石くれで鱗みたぶらさせているのが見えるってことだった。 このとんぼ返りに特別の才能を発揮したのは、わしの いに覆われていたんだ。何だか魚の腹に似ていたね。お まけに匂いまでが、まるつきり魚くさいってわけじゃな従弟のつんぼのやつだったよ。武骨なそいつの手がね、 いにしろ、せい・せい、ほんの少しましな、鮭の燻製って ( 彼がいつもいちばん先に脚榻からとびあがる役だっ た ) 、急にしなやかで、しつかりした手つきになっちゃ ところだった。 実際、脚榻の上からだと、いちばん上の台にのって平うんだ。手がかりになる場所をたちどころに見つけてし 均を取りながら、まっすぐ腕をのばせば、ちょうど手がまう、というより、掌でちょっと押しただけでは、あい さわるくらいにはなった。わしらはきちんと寸法を測っ つは月の表層とくつついちゃうっていうふうだった。一 てやって来たとも ( 遠くなってゆくなんてことは、まだ度なぞは、やつが手をのばすのと同時に、むこうから近 思ってもみちゃいなかったさ ) 。一つだけ、・ すいぶん用づいて来たんじゃないかとさえ、わしには思えたよ。 やつは地球におりて来るときも、やつばり同じように 心しなければならなかったのは、手のつき方だった。わ しは頑丈そうな岩を選んで ( 全員が五、六人ずつの班をうまかった、こっちのほうがずっとむずかしい仕事なん 組んで、交替であがることになっていたんだ ) 、で、片手だがね。わしらなら、これは両手を上にのばしてとびあ でそいつにしがみつき、それからもう一方の手をのばすがるってことになるわけで、それもできるだけ高くだ ( ただし月から見ての話で、地球から見りゃあ、あべこ と、たちまち脚榻も舟もわしの足の下から離れてゆくの がわかって、月の動ぎがわしを地球の引力からひっぺがべに跳び込みか、深いところへ腕をたらして泳いでゆく ってとこが、ずっと似合っていたね ) 、要するに地球か すって感じだった。そうとも、月には強い力があって、 ぐいっと引っこ抜くんだよ、それが両方のあいだを通っら跳びあがるときとまったく同じことだったけれど、た てゆくときわかるんだ。とをほ返りの要領で、ばっとまだ今度は脚榻がないってわけだ、月には台にするものは ノ ) っすぐ跳びあがって、岩をつかんで、両脚をはねあげ、何もなかったからね。ところが従弟は、腕を前につきだに 月の表面に立つようにしなければいけないんだ。地球かして跳び込むんじゃなしに、月面で、とんば返りをする

9. SFマガジン 1975年8月号

時間などなかったのだ。 かったのと同じように、・ほく自身の問題で忙しかったんだ。スカイ おそらくさらに悪かったのは、移民であったがために、かれらがヘヴンは、進物用に包装されて・ほくのところへ届けられたものとは その世界における近親相姦のタブーにさらされることなく成長した違うんだよ」 ことだろうな。ふたりがそれに気づいたのは、・ほくが警告したから でーー子供時代からはぐくまれ導かれたものではなかったのだ。・フ「レストラン経営についての話をすませたあと、ローラから子供た レスドにはいくらか異なるタ・フーがあったがーーしかしそれは、家ちへのプレゼントを取り出し、かれらの子供たちの最近の写真を鑑 畜には適用されなかった。奴隷には適用されなかったんだ。奴隷は賞すると、つぎはローラと・ほくの子供たちの写真を見せ、というぐ 命令されたとおりに繁殖するか、それともうまく逃れながら繁殖あいに大昔からの儀式をぜんぶすませたあとでやっと、ぼくはその するかのどちらかでーーーそしてぼくのふたりの子供たちは、最高権ことに気づいたんだ。妖精はもちろんのこと。この背の高い少年が 威者たちに かれらの母親と祭司にいわれたのだーー、ふたりは ・。手足がやたらに長くて、この前やってぎたときに会った小 〃繁殖用のつがい″なのだぞ、と : : : だからそれが悪いもの、タ・フさな坊やではなくなっていた。リビイはローラの長男より一歳ほど ーでも、罪深きものでもあり得なかったのだ。 下だし、・の年齢は分秒のところまで知っているー。ーっまり、 ランドフォールでは、それは単に口をつぐんでいるべきものだっ いうなればかれは、千年ほど昔に、故郷にあった教会の鐘楼である た。なぜなら、そこの住民はそういう問題を持ち出されると頭に来少女との現場をおさえられそうになったときのぼくの年齢と、ほ・ほ てしまうからだ。 同じだったのだ。 だからぼくは、もっと早くそのことに気づくべきだった。そう、 ・ほくの名づけ子はもう子供じゃあなかったんだ。かれは一人前の そのとおりだったんだ ! だがミネルヴァ、ぼくにはまだほかの責若者で、その睾丸はただの飾り物ではなかった。かれがまだ試して 任があったんだ。その年月のあいだ、リータとジョウの守護天使の いないとしても、すでに射精を経験しており、そのことを考えてい 役をしてすごすことはできなかった。ぼくには自分の妻子と、使用ることは確かだった。 人と、二千ヘクタールの農地と、その二倍ものピンクウッドの処女人は死にぎわにおのれの生涯を見るという・ー・ーっいでにいってお 林があったーー・そして、ずっと遠いところに住んでいたんだ。たとくと、それは嘘なんだがーーーいずれにしても、それとそっくりの形 ハイ・オーピット え、高軌道ジャンプバギーを使ってもだ。イシュタルとハマドリで、一さまざまな可能性が・ほくの脳裏を横切っていった。そこで・ほく ャド、そしてある程度まではギャラハドも、だれもかれもがぼくはその問題に、そっとぶつかっていった。外交的手腕をふるって を、一種のスーパーマンのように考えている。理由はただ、・ほくがね。 3 長生きしたからだ。・ほくはそうじゃない。・ほくにはほかのだれとも ・ほくはいったよ。『ジョウ、夜はどちらの子供を閉じこめておく 3 同じ限界があり、何年間も、リータとジョウがかれらの問題で忙しんだ ? リビイか ? それともこの若い娘のほうか ? 』

10. SFマガジン 1975年8月号

′なみ だった。こんなふうに、やつはどんどん先へいってしま んで、まるで月に悪戯をして驚かせてやるか、むしろく すぐってやろうってしているみたいだった。やつが手をつて、やがてふっと見えなくなってしまった。月の上に かける場所は、たちまち山羊の乳房みたいにミルクが湧は、わしらに探険して来てみようなどという好奇心も、 き出て来るんだ。だから、わしらみんなにすれば、やつまたそんな必要を一度だって感じさせたりしたことのな のあとについていって、やつがあっちこっちとし・ほり出い地方が、いくらだって拡がっていた。ところが、従弟 してゆくその乳液を集めるだけでよかったんだ。ところが姿を消したのは、そういう所なのだ。例のとん・ほ返り ジャンプ にしろ跳躍にしろ、わしらの目の前であんなふうにふざ がそのやり方は、まるででたらめなんだ、つまり、やっ の進んでゆく道すじは、どう考えたって、はっきりした実け狂ってみせていたのはみな、隠れた場所でやがて起こ るに違いない何かしら秘密のできごとの序奏、たんなる 際的な目的があるようには見えなかったのさ。例えば、 ただ触ってみたいから触ってみただけだっていうような準備にすぎなかったのではないかと、実は、わしもすで 場所だってあった、岩と岩とのすきまとか、露わにのそに考えていたことだったのだ。 けて見えている柔らかな月の地肌のしわのあいだとか《亜鉛》礁沖のそうした夜は、一種独特の気分がわしら を捉えていたものだった。陽気な、それでもいくらか不 ね。ときには、手の指を押しつけるんじゃなくって ジャンフ じゅうぶんに計算された跳躍の動作を利用してねー・・ー足安な気分だったよ、まるで頭のなかには脳みそのかわり に、魚が一匹、月の引力にひかれて浮かんでいるという の親指を使うんだ ( やつは月には裸足であがったんだ ) 。 そのとき、やつののどから出た声と、またそのすぐあと感じだったな。こうして、わしらは歌をうたい、楽器を 鳴らしながら漕いでいったものさ。船長夫人はハープを に始まった新しいジャンプとから察すると、どうやら、 ひと やつにとってはそれはよほど愉快なことだったに違いな弾いてね。あの女の長い長い腕は、そういった夜の光の なかでウナギのように銀色に見え、また腋のく・ほみはウ 、カュノ ニのように黒々と神秘的に見えていた。そして竪琴の音 月の地層は一面が鱗のような石ばかりで覆われていた というわけじゃなくて、つるつると滑りやすい、白い粘は甘く鋭く、飽くまでも甘く鋭く、じっと立ってもいら 土をむきだしにした不規則な区域も、ところどころで見れないくらいで、やむなくわしらは長い悲鳴をあげたも せていた。このふわふわした場所が、つんぼのやつにとのだ、楽の音にあわせるというより、聴覚を保護するた んぼ返りや小鳥のように飛びまわったりの気まぐれを呼めにな。 てび起こさせるのだが、その様子ときたら、まるで全身で透きとお 0 て見える無数のクラゲが海面に姿をあらわに 月のしんこ餅に自分のしるしを残しておこうというようしては、少しのあいだ震えているが、やがて体を波打た チンク ね