わかっ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1975年8月号
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1. SFマガジン 1975年8月号

つまり、赤字を出さず ー″とか呼ばないように、細心の注意を払っていたからだ。・場所を売るか貸すかしなければいけない はときどき英語で″・フラザー″と呼ばれるがーー父親のジョウを意にここをやっていける買い手を見つけるってことだ。買いもどさな 味することは決してなかった。ミネルヴァ、ランドフォールに近親ければならないとなると、常に金がかかるものさ。 あそこにはそう多くの われわれはしかるべき場所に適当な物件を見つけなければいけな 相姦に対する罰則があったとは思わない 。買取りのオプションがある売り物が借家だ。・ほくなら買い取っ 法律はなかったんだ。だが、そのことに対する強いタ・フーがあった から、ぼくは注意深くかれらに教えておいた。いかなる文化と戦うて、会社に賃貸するね。その会社の資本をいちばん大きな買物に使 場合でも、その半分はそのタ・フーを知ることにあるのだ。 いすぎるというようなことを避けるためだ。物件を見つけたら、た ジョウは考えこんだ表情になった。「ぼくは料理できるよ。きみぶん改造することになるだろうし、改装は間違いなく必要だ。設備 費も要る。賄賂はそう大して要らない。・ほくはこの町のどこに死体 のほうはやっていけるかい シス ? 」 「やってみるわ。もちろん、あなたがたがお望みなら、わたしたちが埋められているか知っているから、法外なゆすりに対しては黙っ は努力してみます、アーロン。でも成功させられるかどうか確信がちゃいないさ。 だがね、 リータ、きみはレジについたりしないんだ。われわれは ないんです。それにわたしには、もっと仕事がふえるとしか思えま せん。愚痴をいってるんじゃないんです、アーロン、でもわたした人手を傭うし、盗むことのできない金庫を・ほくが据えつけるさ。き みは歩きまわり、きれいな格好をし、客に微笑みかけるーーーそし ちいまでも限度いつばいに働いているんです」 「わかっているさ。どうやってジョウがきみを妊娠させる時間を見て、あらゆるものに気をつけるんだ。しかしきみがそうするのは、 つけるのかわからないぐらいだよー 昼食とタ食のときたけだ。まあ、一日に六時間というところだね」 ジョウはびつくりした表情になり、リータは急いで話しだした。 彼女は肩をすくめて答えた。「そう長くはかかりませんもの。そ れに、わたしたちゃっと追いついたところですーーーわたしが休みを「でもアーロン、わたしたちいつでも、市場から帰るとすぐにお店 取らなければいけなくなるまで、まだ先は長いんです。・はもをあけるし、夜は遅くなってからしめるんです。そうしないと、お う大きくなりましたから、わたしが休んでいるあいだレジを扱えま客をずいぶんなくしてしまうんですものー 「きみたちがそれぐらい一生懸命働いていることはよくわかる。こ す。でも、大きな高級レストランになれば無理ですわ」 ・ほくはいった。「きみは軽食堂をやっていくのと同じように考えの小切手が証拠だ。それになぜきみたちが、妊娠することは″長く ているよ。よく聞くんだ、もっと楽しもうっと休みを取りながら、 かからない″と考えているかの理由だね。だが、それには″時間を 。しいかを覚えるんだ。 かける″べきなんだよ、リータ。仕事はそれ自体が目的じゃあない 金をもっと作るにはどうすれ・よ、 きみが赤ちゃんを生んでしまうまで、メゾン・ロングは開かない し、愛しあうためには常に時間をたっぷりかけるべきなんだ。どう ことにしよう。ひと晩で始められるものじゃないからな。まずこのだね ″リビイ″の中で・を妊娠したとき、きみはせかされ 2 け

2. SFマガジン 1975年8月号

「どうしてそういい切れるんです ? 」 「どうもありがとう、ドロレス。ここで話したことをほかの人に喋 「理由があってじゃありませんけれど : : : 」 らないでください」 なにかはっきりしかかってきた感じがするが、ほかの新しい質問 「わかりました。そうします」 にきりかえることにした。 彼女とわかれて自分の部屋に引きあげた。 「武器は持ってますか ? 」 こうなってくると、またべつの新しい解釈もできることになる。 : 。ヒストルを つまり、ドロレスが縦坑を爆破したとする。それをマイゼルになん 「こういうやつですか ? 」マイゼルの。ヒストルをポケットから出し かのひょうしにかぎつけられて、彼女はあわてて自分の。ヒストルで てみせた。 しまっする。死体から彼のピストルを取りあげて、犯行現場には自 分の。ヒストルを置いてくる。だが、この解釈をもっともらしくみせ 「どうしてこんなぶっそうな物がいるんですか ? メジには身を守るには、いささかこじつけが多すぎるきらいはある。 らなきゃならんようなものはいないと聞いてますが」 三月二十四日 「わたしにはよくわかりません。探険隊は規則で武器を携帯しなけ また、よく眠れなかった。夜中に誰かが、足音をしのばせて部屋 ればならないことになっているんです」 畜生 ! 書類には。ヒストルの番号かなんか、その種のデータは載の前までやってきて、しばらく気配をうかがってから、ドアを開け っていなかったそ ! マイゼルの拳銃だと思っていたこいつだつようとしたやつがいる。。ヒストルをかまえて、いきなりドアを開け て、誰かほかのやつのかもしれんじゃないか。 てやったが、廊下には人影がなかった。そのあとながいあいだ眠れ 「マイゼルのビストルがなぜ部屋にあるんだろう ? 」 なかった。並の臆病者ではないつもりだが、どういうわけかここで はひどくこわくなることがある。ここでの状況はなにもかもなんと 「わたしが縦坑のそばで拾ってきたんです」 「だったらなぜ、わたしがここへ現われたからといって指紋をふきなく不吉な感じがっきまとっている。 朝、縦坑を見にいくことにした。もっとも朝といっても、ここで とる必要があったんですか ? ー こごの生活は地球時間で測る。 はかなり相対的な概念でしかない。 彼女はびつくりした顔をした。 つも・ほんやりした薄暮の状態で しかし、現実には日も夜もない。い 「おっしやってることがよくわかりませんが : : : 」 「おとといの晩、アルコールでビストルを拭き取った者がいるんであり、地平線には昇るでもなければ沈むでもない、赤紫色の円板 が、照りつけるというよりはあっためているといったほうが当って すよ」 「わたしじゃありません。誓ってそう申しあげます」 いる、弱い光を放っている。マイゼルの詩を思いうかべた。『あお乃 こんどはどうやら嘘ではなさそうだった。 じろい死産の朝やけ』とは実にびったりの表現だ。

3. SFマガジン 1975年8月号

た。次長に休暇を願いでたそうだ。月曜日に出勤してくると、さもた。 ミ / イロヴィ 先日もグレーヴィチ次長がわたしのところへ来て、 満足そうににこにこしてわたしのところへ顔をだした。 「シーシ、ポスのようにへとへとに疲れましたが、結果は〈ラクレチが近ごろやたらとぶらぶらしている時間が多く、マッチのラベル の収集まではじめたらしい、と報告した。 スなみに上首尾でした。あるいは、無人島の tl ビンソンのように、 問題がわれわれの手にあまり、深夜まで残業しなくてはならなく といったほうがいいかもしれませんね。なにしろ、今までの・ほくは なると、結局だれもが、いやな思いはしてもミ ( イロヴィチがあっ 生き物がいない無人島みたいなものでしたから : : : 」 ーし、かと願うよ、つ さりと問題を解決してくれたころのようになれま、 その日と次の日、かれはやたら引用句やら比喩を使いたがった。 っそうやっかい ヴ = ルヌとドストエフスキーの主人公たちの比較考証をおつばじめにさえなっていた。わたしのところへ、緊急の、い たり、〈ミングウ = イの老人とサン・テクジ = ペリの星の王子さまな問題が持ちこまれたのは、本庁に報告書を書く用意をしていると がえらく気にいったらしく、その話ばかりしていた。黙って聞いてぎだっこ。 ミハイロヴィチには補助エンジンの設計図を引いてくれるように いたら、何時間でも喋っていた。それだけではなかった。シェイク たのみ、操縦装置の構造のほうはなんとかわれわれでこなそう、と ス。ヒア、エフレーモフ、べリャーエフ、その他たくさんの作家を引 いうことになった。 きあいにだした。 そこが、こんどの成層圏飛行の新鋭機の条件となっているかんじ わたしは文字通り仰天した。 「せいぜい詩を二、三知ってるだけだ、といってたんじゃなかったんなところだった。 と、わた 『これでミハイロヴィチとの関係も自然とかたがつく か」 しは思ったーーーそうなれば邪魔がはいらずに思うそんぶん働ける 「そうです、一週間まえまでは。その間に公共図書館にかよって、 そ』 ありったけの本を全部読みあげました」 「全部だと ? 全部たったら何十万冊もあったろう ? 」 2 「もちろんです」平然として答えた。「おっしやってたとおりでし た。読んでみてわかりました。わたしにも欠かせない大切なことで した。今では、読む前より人間のことがよくわかようになりましすでに仕事にかかってから三月ちかくた 0 ているというのに、問 題はいっこうにかたづいていなかった。そうこうしているうちに、 た」 い「しゅんシホムの可能性を想像して、なぜかいやな気持ちにな賞与はもらいそこなうし、わたしは首脳部に呼びつけられるし、 っこ 0 ろくなことはなかった。部の上にたれこめる暗雲が濃くなるにつれ そのことがあってから、かれに冗談をいうのはきつばりとやめて、シホムとの関係も変ってきた。一

4. SFマガジン 1975年8月号

しー がわたしで、その次が、次長のグレーヴィチだった。二人はなるべ っと、どころではすみそうになかったからだが くミハイロヴィチと眼があわないようにしていた。ところがやつは 「よくやった。目を通してから工場のほうへまわしておく」 てんで気にしているそぶりもみせずに、ほかの連中といっしょにな 呼びとめたときは、かれはもうドアのところまで行っていた。 ってそばへ来て祝いの挨拶をした。やつがさしだしたあったかいそ 「今日のパーティには出てくれるんだろうな ? 」 「おいやじゃないですか ? 」といって、かれは眼を伏せた。だがその手を握らないわけにはいかなかった。礼をいうかわりについ 「まもなくきみが呼ばれる番だ」といってしまった。それは見えす の仕種があまり素早くなかったので、一瞬わたしは息をのんだ。こ いた言いわけであり、その場のがれの言葉だったから、二人とも気 いつの大きな青い目を平然と見返せる者がはたしているのだろう づまりになった : うまい具合いにちょうどそのとき、やつが呼びだされ壇上へ表彰 「なにをいうんだ : : : 」わたしはあわてていった。 「ではパーティでまた。離陸角度の計算ができましたら持ってきま状を受け取りにいったので、こっちも早々にその場を離れられた。 次長がとんでもない間違いをやってくれた。というのは、受賞祝 す」ミハイロヴィチがいった。 かれが部屋から姿を消すと、わたしはやっと安心してため息をつ賀会にミハイロヴィチまで招待してしまったのだ。 すでにひととおり乾杯もすみ、最初に行きわたっていたワインの かれが置いていった書類を手許へ引きよせると、胴体最上部のグラスも飲み乾されていた。女たちの眼がきらきら輝きだし、ほほ ジ = ラルミンのたわみの計算式と図に眼をやった。それは、稀薄ながほんのり赤味をおび、男たちもようやくうちとけて口が軽くなり 空気の流れがなめらかに消えるよう、角度をつけて太くしてあっはじめていたが、ミ ( イロヴィチの席はまだ空いたままだった。妻 た。一級の設計者が十人がかりで二年もかかって苦労して出した答がさりげなく聞いた。 えは信じられないほど単純化されていた。だがどちらをとるべきか「今度新しく入ったとかいう人はどこ ? 」 は、確かめるまでもなく経験でわかっていた。前にかれが出した燃「まだ顔をみせてない。遅れるんだろう」とはいったものの、腹の ししが、と願っていた。 料と潤滑油の計算式を確かめるのにふた月も時間を無駄にしたこと中では気転をきかせて欠席してくれりや、 ところが機転をきかせてはくれなかった。女どもがびつくりした があるし、わたしの部局の者が総がかりで、つまり百人をこす設計 者と技師と組立工が、やつがたった三日で仕上げた翼の構造を四カ表情をして眉をつりあげ、急に首をのばしたのをみただけで、わざ 月あまりかかって調べなおしたが、結局はつまらんミスひとつみつわざふり返ってみるまでもなく誰がホールに入ってきたか、すぐわ けられなかった。計算は完璧だったし、設計図も線一本にいたるまかった。 ミハイロヴィチが席に着くと、やつの皿にたちまちいっぺんに何 で文句のつけようがなかった。 今でも表彰式の日のことをよく覚えている。表彰者名簿のトップ本もの手が紳びてきた。左右の席からたけで足りずに、向いの席の 3

5. SFマガジン 1975年8月号

「今のところはこれでじゅうぶんだ。明日、マドモワゼル・ローラるようなところじゃなかった。やたらにキーがくつついている白い ンと会って話をしたうえで引きうけるかどうかきめる。ロウに返事コンソール、立体スクリーン、わけのわからん仕掛けがごたごたく をするのはそれからだ」 つついた棚。これじゃ興ざめだ。こんなお固いものにかこまれてい 「彼はとっくに知ってるさ」 ても、マドモワゼルの魅力はいささかも損われてはいなかったが、 「どうしてそう言えるんだ ? なにかい、やっこさんテレ。ハスなのやはり、足を組んでソフアに坐っていたときよりは近よりがたかっ こ 0 「とんでもない。きみが引きうけるって俺がうけあったからさ」 「それじゃ、死んだ男からはじめてもらおうか」彼は答えた。 「はい」彼女はコンソールのキ】を押し、・とびだしてきたカセット 「そいつは面白い、どうしてあんたにそれがわかる ? 」 「ジャック、まさかきみがでつかい金を前にして引きさがるとは思を装置のスリットにさしこんだ。 「ほらこれがその人物です。よくごらんになってー えんからな。そら、前金だ。なんだったら今渡したっていいんだ ぞ」 クリンチは立体スクリーンに眼を向けた。そこには典型的な / イ ローゼ患者の顔があった。細いやせた顔にやつれた表情、すこしま シュナイダーはポケットから札東をひつばりだした。 がった長い鼻、はりだした耳、左がやけにつりあがって・ハランスが 「さっするところ、手元不如意とみたが、どうなんだ ? 」 くずれた眉、薄くなった髪を苦労してなでつけた頭。こういうタイ クリンチは笑いだした。 プの男なら自分のおでこに弾をぶちこむぐらいのことはやりかねま 「あんたはいつも少し必要以上に先を読みすぎる」 「しかたがないさ、刑事だったら必要以上に先を読まなきややって いけんたろう」 ローランが別のキーを押すと、スビーカーから抑揚のない声が流 れだした。 《エドワード・マイゼル。スイス人。四十二歳。独身。チ、 1 リッ ヒ工科大学機械工学科卒。コスモュネスコ上級研修所特別専門課程 「ではなにからはじめますか、ミスター・クリンチ ? 」マドモワゼ修了。鉱山採掘システム経営ライセンス取得。ウラニアにおいて実 ル・ローランが聞いた。 習二年間。メジには探険隊技術者とし派遣。係累なし。生命保険拒 否》声が沈黙した。 『まずキスをさせろよ、あんた。そうすりや最後はなにをやりやい いかってこともたちどころにわかるってもんだ』クリンチは腹のな「これで全部 ? 」クリンチが聞いた。 かで言った。 「これいがいになにかまだお知りになりたいことがありますの ? 」 彼はあたりを見まわした。とてもじゃないが気分をだしてキスすここでまた悪魔が、いささか度のすぎたことをクリンチの耳もと 4 ステレオ

6. SFマガジン 1975年8月号

しいえ、結構です。じぶんで眠れます」偵察員はあわてていっ ごろは、その広びろとした集会船室に乗員の半数が集まっているは「、 ずだ。話題はかれのことにぎまっている。正確にいうと、かれの偵た。 察カプセルが話題になっている。いまかれは、そのカプセルに乗「だったらいいんだが、どっちでもいいんだそ、無理をするなよー 船長の声には満足したひびきがあった。 って、あらゆる状況からみて知的生命が存在すると考えられるこの 星系に一個しかない、謎につつまれた惑星の衛星のまわりを飛んで偵察カプセルは本船から操縦されていた。その探険隊の司令部か らの操作で、立体思考放射装置と、異星から応答してきたらそれを いるのだった。 受信するスクリーン・システムにスイッチが入った。こうしてあれ もはや疑問の余地はまったくなかった。この惑星には生物がい て、連中は、宇宙のかなたからはるばるやってきた人間に、最初はば、必要に応じてただちにカプセルに、緊急軌道離脱指令と本船帰 マイに、続いて力。フセルのスクリーンを通じて探険隊全体に、時を投命令がだせる。ただ惑星表面へ降下する場合だけ、そう決定がく だればのことだが、偵察員が手動で操船しなければならなかった。 うっさずただちに応答してきて、その存在を知らせてよこした。だ が、偵察カプセルが、何百万キロもかなたに漂っている大型宇宙船だが、降下命令はもたついていてまだでていなかった。 マイは本船を呼びだす信号のキーを押した。 のたんなる先触れでしかないことを、連中はわかっているのだろう か ? マイ偵察員は、わかっている、と断言できた。そう結論せざ「船長、われわれはなにかへマをやったんじゃないでしようか ? どうもそんな気がしてなりません。いったいどうなってるんでしょ るをえなかった。つまり 「眠ったのか ? 」そんなことはめったにないが、眠っていたら起さう ? 」 フィルン船長はしばらく間をおいて答えてきた。だが、それはマ ないように気をつかった、低い声でフィルン船長が呼んだ。 思考の糸がいっしゅんとだえた。マイははっきりとした声で応じイがいったことに対してではなかった。 「心配せずに寝ろ、マイ : : : 」 しいえ。待機しています、船長」 その口調は、意識の底にしつかり根づいてしまった、宇宙服務規偵察員はふたたびじぶんのなかにこもると、もの思いにふけった。 船長は、心配せずに寝ろ、といった。どうしてあんなことをいっ 定のごくあたりまえのいいかただった。それが、反射的に、とっさ たんだろう ? これでも何十回も試験をうけてきてるんだ。しかも に口をついてでてしまったのだ。偵察員は、格式ばった規定にしば られて、しゃちこばった喋りかたをしなくてよいことを、マイは承ちゃんとそれにうかってきたんだ。偵察員になるには、何百人の中 からごく数人しか選ばれないんだから、たいへんな名誉だ。コンタ 知していた。だが、フィルン船長はことさらくだけたロのききかた クトでまず最初に接触を持つのが偵察員だ。数かぎりない、じつに をして、その点を強調しようとした。 「たいした用じゃない。強制睡眠が必要かどうかききたかっただけさまざまな、可能性の幅は考えられるかぎり事実上限界がないとい える、意外な事件が待ちかまえている。コンタクト、すなわち未知 だ。疲れすぎだぞ、マイ、なんだったら : : : 」 2 4

7. SFマガジン 1975年8月号

「でも、そう言って聞かないんだ。このふとどきな家族全員を展覧 「わかったわ、 に供して、それからおまえに甘い泣き声の一つもあげてもらいたい 「わかったらよろしい、はやく行きなさい。じゃ、おやすみ」 と言うんだ。さもないと、むこうからわれわれが揃っているところ 「おやすみなさい ハ」おさない足が階段を上へとって返し、おへ出向いてくるとさ。行ったほうがよさそうだよ、ルイーズ」 さない手が寝室のドアをばたんと途方もない音を立てて閉めた。階それだけ言うと、彼は向きなおって階段を上って行った。 下には、なによりもありがたい静けさがおとずれた。 「ああ、ようやくやって来ました」制服を着用した紳士は叫び声を 「どうだい」ドナルドは意気揚々と言った。「みごとにさばいちまあげた。そして丈の低い乗り物に坐って背後に待ちわびている一行 ったそ。言ったとおりたろう、こったよ。なにごとも、こつだよ」を振り向いて話しはじめた。 彼はふかふかと詰め物をした椅子にゆったり体を沈め、読みさしの 「さあ、これで、二十世紀の家族を構成する一つの単位が完全にそ 探偵小説のページをさがしはじめた。 ろいましたー彼はいかにも満足そうに、そう披露した。「かれらは ジュディの寝室から突如、《ャンキー・ドードル》を吹奏するサ大体十五世紀の頃から三十三世紀の末まで北アメリカ大陸に住んで キソフォーンの大きな音が聞えたした。 いた土着の一種族の血をひいております。ここに見らるるごとき発 ドナルドは椅子からとびあがって、部屋の向う側へ本を投げだし展の段階におきましては、かれらはみずから、『家』と呼ぶところ た。あやうく花瓶に命中するところだった。腹立たしげな手つきでの住居に、それそれが緊密なる家族単位を構成して集団生活を営ん ぐいと一気にズボンのベルトを引き抜くと、彼は階段の方へとんででおりました。この『家』なるものは一種の建物のタイプをいうの 行き、一度に二段すっ駈け上って行った。寝室のドアが開き、そしでありまして、いずれもここに見られますものに大同小異の数多く て閉まる音がすると、細君は眼を閉じ、さらに耳をもふさごうとしの小室から成っております。通常この単位の構成員は、寝るときは た。と、サキソフォーンの吹奏がびたりと止んだ。細君はパズルの各自別々の部屋にひきとりますが、しからざるときは、これら 嵌め絵一枚を指にもてあそびつつ、今にも殴り合いがはじまるので『家』をかたちづくる残りの小室に集まって生活を共にしたもので ありました。 ーないかと、気もそそろに階上の気配をうかがった ところが案に相違して、ドナルドは階段を下りてきた。彼は戸口 「さて、そこにおります男性に御注目ください。その男は、かかる に立ちどまると、言った。 歴史の初期の段階におきまして、早くもその家族単位における家長 の地位に就いており、そこで精神的にも肉体的にも己れをして指導 「どうなすったの、ドナルド ? 者もしくは頭目と認めしむるがごときさまざまなる特徴をば、好ん 「幽霊がおまえにも上ってきて欲しいと言うんだ」 で示そうとしております。あの顔をようく御覧ください。毛と申し 「まあドナルド ! ますか、けばと申しますか、 ( 一四九頁に続く ) 6

8. SFマガジン 1975年8月号

感さ、 「ちょっと待ちなさし 、、ルイーズ、このことはぼくが片 付ける」そう言って、。ハバはふたたび娘の方をかえりみ た℃「そいつにはおまえの家具が気に入らないんだっ て ? え、ジュディ ? どうしてそれがわかったんた 「そのひとの話し方でわかったのよ、 とかなんとか言ってね、手を振りながら鼻をつき出して さも軽蔑したようにじろじろ見るんですもの、ちょうど , ( がなにかが気に入らないときするように。ね、する でしよ、気にくわないものがあると ? 「うん、する、する。それで、ミラーリヤ、と言ったの 、力し え ? ふうむ、そいつはけしからんね。うちじ や、みんな気に人ってるんた、気に入らなけりや我慢し てもらいたいって、そう言ってやりやよかったのに。そ れから連中はどうしようというんだいフ 「この家にはあたしのほかにもまだ住んでる人間はいる かって、そのひとが訊くのよ」 「ほう、そんなことを説いたのか、え ? それなら ハたちが階下にいるって言ってやればよかったな」 。、 0 、 0 「いってやったわよ そしたら、その制服を着た ひとが階下へ行って。 ( 。ハたちに、自分たちがここへきて いることを伝えて欲しいって言うの」 「なるほどね」とパ。ハは抜けめなく頷いてみせ、さて丸 めこみにかかオ っこ。「いや、ジュディ、おまえの幽霊さ んをがっかりさせたくはないんだけどね、ざんねんなが らママも。ハバも、今はどうもわざわざ階段を上ってお目 4

9. SFマガジン 1975年8月号

アは大量に水素をだす。マイゼルにはまえに、気をつけろといってをした。 「まきこむつもりは毛頭ないが、それ相当の証拠があがれば話は別 8 警告したことがある」 だ。そうなったら気をつけることだな」 「ところが耳をかさなかった ? 」 「爆発が起ったんだから、まあそう言えるかもしれんー 「礼を言う、率直に言ってくれて感謝するよ」そう言うと、のどを 部屋の中がひどくむし暑かったから、俺はぐっしより汗をかいて見せて、ウイスキーのストレートをたつぶり半パイントも流しこん いた。このアル中患者の巣からいっこくも早く退散したくなっていだ。 たが、ミルンにはまだよくわからないことがたくさん残っていたの 「ところでもうひとつ。。ヒストルをこっちへ引きわたしてもらお う」 で、そうするわけにはいかなカった ほかの面から攻めてみることにした。 ミルンはすなおにズボンのポケットから黒光りするホーン拳銃を 「どうしてそんなにぐうたらになってしまったんだ、ミルン、わけだして、渡してくれた。安全装置がはずれ、撃鉄があがったままだ から を聞かせてくれ。地球に奥さんと子供が三人もいるんだろう。こんな った。弾倉が空になるまで俺の腹に弾をぶちこもうと思えば、たっ ざまを家族にみられたらどうするつもりだ。恥かしくないのか ? 」ぶりその時間があったことに気がっき、みそおちのあたりがうずき 顔でもひつばたかれたように、びくっと身ぶるいをした。 だした。ただポケットに手をつつこむだけでよかったんだ。だが・、 「恐ろしくてしかたがないんだ、酒でもやらなきやとてもたえられこうあけっぴろげではその決心がっかなかったのかもしれん。こう いう連中は物陰から撃っしか能がないんだ。 ん」 ちょっと間をおいていった。 立ちあがって、ドアのところまで行き、そこでふと思いついたふ りをして聞いた。 「恐怖がどんなもんかあんたにはわかるまい」 「わかるとも」 「それはそうと、マイゼルのビストルについていた指紋を、アルコ ールでふきとったのはきみじゃないのか ? 」 「いや、わかっちゃいないね。あんたは、こわくて死んじまうなん てことは絶対にない。気が狂いそうなほどこわいんだ。なにもかも「そうだ、俺だよ」 「な・せそんなことをしたんだ ? 」 恐ろしくてしかたがない。このくそいまいましい惑星もこわいし、 ロレッチも、ドロレスもこわい。それから : : : 」 「さっき言ったとおんなじ理由さ。俺の指紋もついているかもしれ なかったからさ」 「この俺も ? 」さきまわりして言った。 「そうだ、あんたもこわい。なんの関係もない殺人事件に、あんた 三月二十六日 がこの俺をまきこみそうな気がして、こわくてしかたがない」 また眠れなかった。考えることが多すぎる。あのミルンという男 壜をわたしてやると、むさばるようにのどを鳴らしてラツ・ハ飲み

10. SFマガジン 1975年8月号

ですか ? お祭り ? 」 からなくなってしまった。 「今じゃ毎日が祭りみたいなもんです。なんにもすることがないん お手あげの状態で、結論がでないままロレッチの部屋へ出むい 8 ですから」ミルンが応じた。 「それも人によるさ。・ほくなんかけっこう仕事がある」ロレッチが ミルンの部屋のドアがあいていた。ひょいと中をのそいてみる レ 顔をしかめて言った。 と、ドロレスがはだしにショートパンツ姿で床を洗っていた。ミ 「するときみは仕事を続けているのか ? 」これはニュースだった。 ンは、お行儀のいい子供みたいに、靴をぬいで、きちんとおおいの 「なんだかんだとやることはありますよ」 かかった・ヘッ・ トの上にあぐらをかいていた。窓はいつばいに開けは 「ところで、わたしたちはいっ地球へ発てますの ? 」ドロレスがまなしてあり、そこから見える空は、なじめない青味がかった色をし たきいた。 ていた。 「そりやロウがきめることだから、わかりませんね」 まことにもって、奇妙きてれつな日だー 「でもご意見はなにかおありなんでしょ ? 」 ドロレスは俺にきづいて、手の甲で髪の房をはらいあげながらに 「基地は閉鎖すべきだと思います。縦坑から水をすっかり汲みだすっこり笑った。 のはまずむりな相談だし、あれだけの厚味のある岩を掘りぬくのは 「ちがいますか、ミスター ・クリンチ、こんなにだらしのない人い 不可能ですよ」 ませんわ」 「そのとおりだ」ミルンがテー・フルをびしやりとたたいて言った。 ご婦人のおみ足をとっくりこうして拝見してみて、言うんだが、 「なかなかいいこと言うよ ! 話は聞いてみるもんだ ! 」 掛け値なしに最高だ ! だが、探偵なんて因果な商売だ、こうして ロレッチが立ちあがった。 人生が男にプレゼントしてくれる最高の贈物を犠牲にしなきゃなら 「仕事があるから失礼する」 んときがしよっちゅうだ。未練がましいことを言うのはやめよう。 俺もたちあがった。 重要な手がかりがっかめるかもしれない会談がまだひかえているの 「コーヒーをどうもありがとう、ドロレス。セニ チ、ちょっと話がある」 ロレッチのドアをノックした。 彼は驚いたようだ。 彼は顕微鏡にむかって仕事をしており、眼顔で坐れとすすめた。 「いいですよ、一時間あとなら。やりかけの実験をすませてからに部屋の中を見まわした。なにもかもきちんとしていた。すみのべ してほしい」 ッドの枕もとに娘の、というより女の子といったほうがあたってい メダモルフォーゼ その一時間を部屋で、この驚くべき変態が起きたわけをあれる、写真が貼ってあった。百万長者の未成年の娘の話をふと思いだ これ考えてすごした。臆測をたくましくすればするほど、わけがわした。 ヨール・ロレッ