ラーマ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1975年8月号
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1. SFマガジン 1975年8月号

える星です。その光度の変化する幅は、一から五十倍以上にも達す でぎなくなった。 るのです。これではいかなる惑星でも、数年ごとに丸焼けと氷漬け 「遠心力などというものはありはせん。あれは技術屋の妄想じゃ。 をくり返すことになってしまいます」 あるのは慣性だけですわい」 をしナ「たぶん 「お説の通りですとも、もちろん」と、ペレラは認めた。「もっと「思いっきだけど」と、プライス博士が割ってま、つこ。 も、回転木馬から振り落されたばかりの男を、その説明で納得させそれですべての説明がつくわ。きっとその星は、昔は普通の太陽だ るのは骨かも知れませんがね。でも、この際数学的な厳密さは必要ったのに、不安定になってしまったのでしよう。それで、ラーマ人 は新しい太陽を見つけなければならなくなったのよ」 ないようですし・ーー」 ペレラ博士は、この年老いた女流考古学者の頭に感心して、相手 「あいや、しばらく」ポース博士がいささかつむじを曲げて、ロば しを入れた。「おっしやることは、わかっております。わかっておを傷つけぬように優しくその間違いを正してやった。でも、もしか るつもりです。どうかわれわれの幻想をぶち壊さんでいただきたれのほうが彼女自身の専門分野では明々白々なことを指摘し始めた としたら、彼女なら何というだろう、とも思ってみた : ・ い」 「まあその、私としてはただ、概念的に見れば、ラーマにはさほど「それはわれわれも考えました」と、かれは穏かにいった。「し 目新しいものはないということを指摘したかっただけでして。もかし、恒星の進化に関する現在の理論が正しければ、この星は過去 っとも、その大きさは驚くべきものですが。人類はそのような物体も安定だったはずは決してないのですーーー生命を育む惑星をもっこ とは、決してできなかったはずなのです。ですからラーマは、少く を、すでに二百年前から想像していたのです。 ここで私は、もう一つの疑問に取り組んでみたいと思います。正とも二十万年、おそらく百万年以上も宇宙空間を旅してきたのでし 確にどの程度の期間、ラーマは宇宙空間を旅してきたのであるか ? いまわれわれの手元には、その就道と速度に関するきわめて正確現在それは、冷たく、暗く、死んでいるように見えますが、原因 な測定値があります。かりにラーマが、まったく航路上の変更をおはほぼ見当がっきます。ラーマ人としては、ほかに選択の余地がな こなっていないと仮定しますと、その位置を何百万年も以前まで辿かったのかも知れませんーーおそらくかれらは、ほんとうに何かの ることが可能です。われわれはラ】マが、どれか近くの恒星の方角災厄から逃れてきたのでしようが、とんだ誤算をおかしてしまった から来たのではないか、と期待しておりましたがーーそれはまったのです。 いかなる閉じた生態系でも、百。ハーセント有効ということはあり く的はずれでした。 ラーマが恒星の近くを通過してから、二十万年以上は経ってお得ません。つねに必ず無駄なロスが出てきますーー環境の劣悪化と り、しかも問題の恒星は、不規則変光星であることが判明したのでか、汚染物質の蓄積とか。一つの惑星を汚染し枯渇させるには、何乃 すーー・生命の存在する太陽系としては、もっとも適当な太陽ともい十億年もかかるかも知れませんーーだが、けつきよくいっかはそう

2. SFマガジン 1975年8月号

なさんは生体仮死保存について、いろいろご存じでしようが、 なるのです。海洋は干あがり、大気は飛散してしまうのです : ・ われわれの標準からすれば、ラーマはじつに巨大ですが、それでこの仮定は無視してよろしい。なぜ仮眠技術はほんの数世紀間しかけ も惑星としてはひどく小つぼけなものです。船体からの気体の洩出有効でないか、根本的な理由があるからですーーーそして、われわれ がいま扱 0 ているのは、その何千倍も長期にわたる距なので と、生物学的な世代交代率に関する筋の通った推量とに基づいて、 私が計算してみたところでは、その生態系はほぼ一千年しか生き延すから。 したがって、パンドラ主義者やそのシンパたちは、くよくよ心配 びられぬ、という結果が出ました。せい・せい高く見積もっても、一 する必要がありません。私としましては、じつに遺憾です。ほかの 万年というところでしよう 太陽が密集している銀河系の中心部でなら、恒星間を渡る時間と知的種族にめぐり会えたなら、どんなにすばらしいことでしよう。 しかし、少くともわれわれは、昔ながらの一つの疑問の解答を得 して、ラーマ程度の速度でも、それぐらいあれば充分でしよう。で も、星のまばらなこのへんの渦状肢内では、充分ではないのです。たわけです。われわれは孤独ではない。われわれにとって、星々は ラーマは、目的地に着く前に、貯えの尽きてしまった船です。星々二度とふたたび同じものではなくなったのです」 の間をさまよい流れる漂流船なのです。 ただしての臆説には、一つだけ重大な欠点がありますので、他人 第十章暗黒の降下 から指摘される前に、自分で申しあげておきます。ラーマの軌道 だが、艦長として は、あまりにもびたりと太陽系に狙いが定まっているので、偶然に ノートン中佐は痛いほどの誘惑にかられた そうなったのだという可能性は、除外できそうに見えることです。かれにはまず、自分の船に対する責任があった。もしこの初動探索 事実、ラーマはいまや、不安になるほど太陽すれすれめがけて突進で何かひどい手違いが生じたら、かれがその埋め合わせをしなけれ しており、そのためエンデヴァー号は、過熱を避けるために、近日ばならないのだ。 点のかなり手前で離脱しなければならない、と断言できます。 となれば当然の帰結として、二等航宙士のマーサー少佐というこ 私としては、その意味がわかっているふりをするつもりはありまとになる。 / ートンは、カールならこの任務に自分より向いている と、喜んで認めた。 せん。おそらく、一種の自動的な末端誘導装置がまだ作動してい て、建造者たちが死に絶えたあともずっと、ラーマを最寄りの適当生命維持システムの大権威であるマーサーは、この問題について いくつか、スタンダードな教科書を書いたこともあった。みずから な恒星へと導いているのでしよう。 そう、かれらは死に絶えているのです。私は名誉にかけてそう断無数のタイ。フの装置をテストし、それがときには命がけのときもあ 言します。内部から採取したサンプルはおしなべて、完全無菌の状った。かれの生体フィード・ ( ック・コントロールというのも、有名 態でーーただの一個たりとも、微生物が発見されておりません。みだった。あっという間に、自分の脈搏を半分に切り下げ、発汗を十 サス・ヘンデッ・ト・アニメーション

3. SFマガジン 1975年8月号

のである。以後、安楽死させる任務は、軍医長に委ねられることにする、ほんの少しのスリップにも情け容赦なく代償を求める、あの なった。それなら、感情を殺して遂行できるだろうと考えられたか無慈悲な力に屈服しつつあった。下りの旅はそれでもまだ実に容易 4 り・こ 0 だが、いずれこの何千段もの階段を登って帰らなければならないの この責任が、少くとも艦長の肩にかからなかったことを、ノート だ、という考えが、早くもかれらの心を蝕み始めていた。 ンは深く感謝していた。かれは、ゴールディーを殺すより、遙かに階段はもうだいぶ前から、その目くらむような急勾配をやめ、 とが 気の咎めを感じないで殺せそうな人間を知っていた。 まは次第になだらかに水平面へ近づきつつあった。その傾斜度は、 もう一対五程度しかない。それが最初は五対一だったのだ。いまや 肉体的にも心理的にも、普通の歩行が可能になっていた。ただ弱い 第十二章神々の階段 重力だけが、いま降りているのが地球上の大階段ではないことを教 ラーマの澄みきった、冷たい大気の中では、サーチライトの光束えてくれるのだ。一度ノートンは、アズテックの神殿遺跡を訪ねた ことがあるが、そのとき受けた印象が谺のように甦ってきた は完全に見えなかった。中央軸端部から三キロ下で、百メートル幅 の楕円形の光が、巨大な階段の一部分を照らし出していた。闇に囲だし、百倍も増幅されて。ここでもかれは、同じ畏怖と神秘感に打 いにしえ まれた中に浮かぶ輝かしい光のオアシスは、さらに五キロ下の彎曲たれ、呼べども還らぬ往昔への哀惜の念を味わった。それにして 平原の方角へ、ゆっくりと移動していく。その中央には、三人の蟻も、ここのスケールは時間的にも空間的にも、ケタはずれに大きか のように小さな人間が、前方に長い影を投げながら動いていた。 ったので、心はそれを素直に受けとめることができなかった。しば かれらがそう望み、予期した通り、それは完全に何の波瀾もないらくすると、反応すらやめてしまったのだ。遅かれ早かれ、自分は 下降の旅であった。最初のテラスで、暫時停止し、ノートンは狭く このラーマさえも当り前のものとして受けいれてしまうのではない てカープしたその出っ張りの上を数百メートル歩いてみてから、第か、と訝しんだものだ。 二階へと滑降を開始した。そこでかれらは、酸素装置を捨て、機械地球上の遺跡との比較がまったく不可能な側面が、もう一つあ の助けなしに呼吸するという、奇妙な贅沢を満喫した。これからる。ラーマは地球上に残っているいかなる遺跡よりも、ー・・・エジ。フト は、宇宙で人間が直面する最大の危険から解放され、衣服の気密性の大ビラミッドに比べてすら、何百倍も古い。それなのに、何も や酸素保有量などをいちいち心配せず、楽な気分で探険がおこなえ かもが真新しく見えるのだ。磨減とか破損の形跡が、少しもないの るのだ。 第五階に到達して、残すはあと一区劃だけとなったころには、 / ートンはこの謎をさんざんいじくり回したすえ、やっと一つの 重力も地球上での半分近くに達していた。ラーマの遠心性回転がっ臆説にたどりついた。これまで調査してきたものは、すべて非常用 ・ハッグアツ・フ いに、その実力を発揮し始めたのだ。かれらはあらゆる惑星を支配の予備システムの一部で、実際にはめったに使用されなかったの

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それはすでに、マーサーも気づいていた。つかんだ段から手を離 が、このような新事態のもとでは決して急いではならぬことを、マ すと、漂う体がはつぎり右によれようとするのだ。これはラーマの 1 サーは経験的に知っていた。 ィアフォーンを通して、二人の仲間の規則正しい息遣いが聞え自転による効果に過ぎぬことを、かれは百も承知であったが、見た 冫。いかにも、何か神秘的な力が、そっとかれを梯子から遠ざけ た。かれらに異常はないといういい証拠だったので、かれは会話に目こよ 無駄な時間を費すことをしなかった。振り向いてみたい気もしたるかのようだ。 ″下″という方向がはっきり物理的な意味をもち始めたからには、 が、梯子の終着点にある台地にたどりつくまでは、危険を冒さない どうやらこれから先は、足を先にして進んだほうがよさそうだっ ことに決めた。 た。かれは一時的に方向感覚を喪失する危険を冒すことにした。 段と段との間隔は一貫して半メートルで、登り始めた最初のう 「気をつけろーーー体の向きを変えるから」 ち、マーサーはほかに代りの手段はないものかと思った。しかし、 その段をしつかりつかむと、かれは腕を使って、体をぐるりと一 その数は注意深く数えていき、二百段に達したころ、初めて明らか 八〇度回転させ、仲間の照明灯の光に一瞬、目がくらむのを覚え な重量感を覚えた。ラーマの自転がようやく感じられ始めたのだ。 いまやまぎれもなく上だ・ーー険しい断崖の縁に 四百段目で、かれは見かけの体重を、約五キロと測定した。そのた。遙か上方の よよ体が上方へ強く引っぱら沿って、弱々しい輝きが見てとれた。その光を背に、シルエットに ことには何の問題もなかったが、いい れだしたので、それ以上は登っているふりをするのが困難になってなって見える人影は、じっとこちらを注視しているノートン中佐と ・ハックアツ・フ 予備チームの連中であった。かれらの姿はきわめて小さく、遠方 きた。 五百段目は、止まるのによさそうな場所だった。かれは腕の筋肉に見え、かれは安心させるように手を振ってみせた。 が、不慣れな運動で硬ば 0 ているのを感じた。たとえ、いまや移動マ 1 サーは段から手を離して、ラーマのまだ弱々しい疑似重力の の面倒を見てくれるのは、すべてラーマで、かれはただ方向を定め作用に、身をあずけた。次の段までの落下には、二秒以上も時間を 要した。地球上なら、同じ時間内で三十メートルは落ちてしまう。 さえすればよかったにしてもだ。 スキツ・ハ 「ただいま中間点を過落下の速度がじれったくなるほど遅いので、かれは事態の進展を 「すべて順調たよ、艦長」かれは報告した。 ちょっぴり早めるため、両手でぐいと押しやっては、一時に十数段 ウイル 問題はあるか ? 」 ぎるところだ。ジョー、 ・キャルヴほどの距離を滑り降りることにし、途中、これは早過ぎると思うた 「こっちは快調ーーなんで止まってるんです ? 」ジョー びに、足でもって降下にプレーキをかけた。 アートが答えた。 七百段目で、かれはまたもや停止すると、ヘルメット灯の光を下 「こっちも同じ」と、マイロン軍曹がつけたした。「でも、コリオ 9 発見者の方に振り向けた。期待通り、階段の降り口がわずか五十メートル下 力に気をつけて下さい。だんだん強くなっています」 ( 十九世紀 フランスの数学者 ()D ・・コリオリにちなむ。 にあった。 回転のため水平運動をそらす偏向力のこと

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数分後、かれらは最初の段の上にいた。宇宙に何カ月もいたあとる、とマーサーは考えた。となると、この弱い重力下でさえ、最終 で、堅い表面の上に立ち、その堅さを足の下に踏みしめるというの的な獲得速度は時速数百キロになりそうだ。おそらく、そのような は、奇妙な感じであった。かれらの体重はまだ十キロにも満たない 無鉄砲な落下には、摩擦のカで・フレーキをかけることも可能だろ が、それだけあれば、安定感を感じるには充分だ。目を閉じても、 う。それができるなら、これはラーマの内部表面に到達するいちば マーサーは自分がいま、ふたたび現実世界を踏みしめているのだとん簡便な手段になるかも知れない。だが、まず必要なのは、念には いうことを、信じることができた 9 念をいれた用心深い実験からとりかかることだ。 階段がスートするテラスというか、踊り場は、 ' 幅が約十メート 「艦長」と、マーサーは報告した。「梯子の降下には、問題がなか ルあり、両側が上向きに反りあがって、闇の中へ溶けこんでいた。 った。あんたが賛成なら、これから次のテラスに向って降りてみる マーサーは、それが完全な環状をなしていて、その上を五キロも歩よ。階段での降下速度を測ってみたいんだ」 けば、ラーマを一周して、ふたたびもとの出発点に戻ってくること ノートンはためらわず答えた。 を知っていた。 「やってくれ」蛇足だったが、つけ加えた。「くれぐれも慎重にな」 とはいえ、ここに存在する微弱な重力の下では、実際に歩くこと マーサーが一つの重大な発見をするのに、さほど時間はかからな は不可能だ。大変な大股で跳ねていくのがやっとで、それは何かとかった。少くともこの一の二十分の一のレベルでは、普通の足連 危険なのだ 7 びで階段を降りることが不可能だったのだ。歩いて降りようとする 階段はヘルメット灯の到達範囲の遙か下、暗黒の中へながながとと、じれったいほど退屈な、夢の中を泳ぐようなスローモーション 延びていて、見たところいかにも降り易そうだった。だが、両側に になってしまう。唯一の実際的な方法は、階段を無視して、手すり 走っている高い手すりにつかまって降りるほうが、無難だろう。あをこぎながら体を降ろしていくことであった。 まり不注意にどんどん歩を運ぶと、空中へ弧を描いて飛び出してし キャルヴァートも同じ結論に到達していた。 まわないとも限らない。その結果は、おそらく数百メートル下の表「この階段は、降りるためじゃなく、登るために作られたんだ ! 」 面に、ふたたび着地することになる。その衝撃そのものには、さほと、かれは叫んだ。「重力に抗らって動くときは、段を利用できる ど危険はないだろうが、とどのつまりは危険にさらされる恐れがあが、下りのときは邪魔になるだけです。あんまり格好はよくないか るーラーマの自転が、階段の位置を左へずらしてしまうからだ。 も知れないが、いちばんいい降りかたは、手すりを滑り降りる方法 そうなると、落下した体は、およそ七キロ近く下の平原まで切れ目らしい」 なく弧を描いて続いている、滑らかな彎曲表面にぶつかってしま「そいつは馬鹿げてますよ」と、マイロン軍曹は異論を唱えた。 「ラーマ人がそんなことをしたなんて信じられないー その結果は、トボガン橇も顔負けの猛烈な急滑降の始まりにな「そもそも連中が、この階段を使ったかどうかも疑わしいぜ スキツ・、 旧 0

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完全にひと巡りしている、十キロ幅の暗い帯です。氷のように見えしてかれこそ、これからくり出される探険隊の隊長となるべき男で るので、これには〈円筒海〉と名づけました。そのちょうど真ん中あった。 「ペレラ博士、何かおっしやりたいことがおありと思いますが ? 」 に、約十キロ長、三キロ幅の大きな楕円形の島があり、表面は高い ポース大使は、長老的な科学者であり、この場でただ一人の天文 構造物で覆われています。 . オールド・マンハッタンに似た感じなの で、 . これには = = ーヨークと名づけました。もっとも、これは都市学者であるデヴィッドスン教授に、最初の発言権をあたえるべきだ とは思えません。むしろ巨大な工場か、化学処理場のように見えまったかな、とちらりと思った。だが、この年老いた宇宙論学者はま だ、軽いショック状態から醒めやらず、明らかに平静を失ってい す。 しかし、都市ーーでなくとも、町のようなものはあります。少くた。かれはその全職業的生涯を通じて、宇宙を巨大で非人格的な重 とも六カ所あって、もし人間用に建てたものなら、それそれ五千人力と磁力と放射線とがせめぎあう闘技場と見なしてきた。自然の大 系の中で、生命が重要なひと役を演じているなどということは決し 北京、 は収容できそうです。われわれはこれらに、ローマ、 ・ : これらの町て信ぜず、地球や火星や木星などに生命が出現したのは、ほんの気 モスクワ、ロンドン、東京という名をあたえました : まぐれな偶然に過ぎぬと考えていたのである。 はハイウェーと、鉄道網のようなもので連結されています。 しかし、いまや太陽系の外には、ただ生命が存在するどころか、 この凍りついた死の世界には、その研究調査に何世紀もの年月が 必要なほど、研究材料がたくさんあるに違いありません。探険すべ人類がすでに到達した高みより、いや、今後何世紀もかかってよう き広さは四千平方キロもあるのに、それをやる時間はたったの数週やく到達できそうな高さより遙かに高い場所にまで登りつめている 間。これでは、中へ入ってからというもの、ずっと私につきまとっ生命が存在する、という厳然たる証拠が突きつけられたのだ。その て離れぬ二つの謎の答えさえ、得られるかどうかーーーっまり、これうえ、ラーマの発見は、教授が長年説いてきたもう一つのドグマに を造ったのは何者で、どこがどう狂ってしまったのか ? の二つのも挑戦した。問いつめられれば、かれとてもしぶしぶ、おそらく生 命が他の恒星系にも存在するだろうとは認めたが、それが恒星間の 疑問です」 記録はそこで終りだった ~ 地球と月の上で、〈ラーマ委員会〉の深淵を押し渡れるなどと空想するのは愚かなことだ、とつねづね主 面々は、からだを寛がせ、それから目の前に拡げられた地図や、写張して譲らなかったのである : おそらくは、さすがのラーマ人も実際には失敗したのだろう。か 真を検討し始めた。かれらはすでに何時間もかけて研究していたの だが、ノートン中佐の声が改めて、映像では伝達の不可能な一つのりに、かれらの世界はいまは墓場と化した、と信じるノートン中佐 奥行きをあたえてくれたのだ。中佐は実際にそこにいた , ーーこの異が正しければの話だが。しかし、少くともかれらはこの離れ業を、 常きわまる裏返しの世界に太古から続いた夜を、照明弾が照らし出その結果に強い自信を抱いていたことを暗示するスケールで、試み した短い数瞬の間だけとはいえ、じかにその目で見渡したのだ。そたのだ。一度おこったことならば、一千億の星を数えるこの銀河系

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ではないのか。かれはラーマ人がーーー地球上ではそれほど珍しくも ない、・肉体美崇拝論者でもなければーーこの信じられぬような長い 階段や、頭上遙かに見えないの字型をかたちづくっている他の二 つの同類の上を、登り降りしている姿を、どうしても想像すること ができなかっ、た。おそらくこれらの階段は、ラーマの建設の際にだ け必要だったので、遠いその日以来、何の役割も果していないのだ ろう。当座は、そんな仮説でごまかせそうであったが、それでもし つくりこない感じだった。何か、どこかが変だった : かれらは、最後の一キロメートルを滑降せずに、長い、ゆるやか な足どりで一度に二段ずつ跳びながら下っていった。これなら、も うじき使わねばならぬ筋肉の鍛練になるだろうと、 / ートンは判断 したのだ。そんなわけで、かれらはほとんど気のつかぬうちに、階 段の終点まで来ていた。だしぬけに、もはや段がなくなった だ、いまはだいぶ弱まったサーチライトの光の中に、鈍い灰色の、 平坦な表面が横たわって、数百メートル先の暗黒の中へと溶けこん でいた。 ノートンはその光を放っている、八キロ以上も彼方の軸端部の光 源を振り返った。マーサーが望遠鏡で注視しているのを知っていた ので、陽気に手を振ってみせた。 「こちら隊長」とノートンは無電で報告した。「全員、元気だ 問題はない。計画通り、先へ進むよ」 「けっこう」と、マーサーは応答した。「お手並みを拝見するよ」 短い沈黙があってから、別の声が飛びこんできた。「こちら、艦 ェクゼック 上の副長。ほんとのところは、艦長、こっちはあまりけっこうじゃ ありませんよ。知っての通り通信社の連中が、この一週間ぎゃあぎ ゃあわめきつばなしなんです。不減の名講釈は期待してませんが、 スキツ・、 ちょうど七十五年前、アメリカに新しい 童話が誕生しした。古代神話や伝説の ない国に生まれた、まったく新しい奇抜 なお話ーーそれが『オズの魔法使い』で した。病み、疲れた現代の大人たちに、 ひとときの夢とやすらぎを与える魔法の 薬だとも言えましよう。 でも本当は、おかあさんやおとうさん、 お兄さんやお姉さんが、ちいさな子供た ちに読んであげてほしいのです。 そう思って、この本をつくってみたので すから : ・ ォズの魔法使い ォズの虹の国 —l ・ LL ・ポーム / 佐藤高子訳 装幀・挿絵新井苑子 二五〇円 二八〇円 ハヤカワ文庫 9

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もうちょっと何とかなりませんかね ? 」 吸者である、ということを意味してはいないでしようか ? かれら 「やってみよう」ノートンは含み笑いをした。「でも、まだ何も見の仕事から判断しますと、ラーマ人はどうやらヒューマノイドのよ 9 えないんだ。まるでーーーそうだな、巨大な、照明を暗くして、ただ うです。ただおそらく、われわれよりは五割がた背が高そうです 一個スポットライトをつけただけの舞台といったところだ。階段のが。きみはそうは思わないか、 : 十リス ? 」 登り口の数百段が、そこから上へ延びていて、頭上の暗闇の中へ消 ジョーはポリスをからかっているのかな ? とノートンは自問し えている。目の前にある平原は、完全に真っ平らに見えるーーー彎曲た。かれはどんな反応に出るだろうか ? : ・ : ・ 率がひじように小さいので、この限られた範囲では、曲がり具合が艦員仲間全員にとって、ポリス・ロドリゴはいわば謎の人物であ 見えないんだ。といったところかな」 った。この物静かで威厳のある通信士官は、仲間に人気はあった 「受けた印象をいってくれますか ? 」 が、決してかれらの活動に完全には溶けこまず、いつも少し距離を 「そうだな、ここはまだきわめて寒いーーー氷点下だから、保温服が置いているように見えたーーまるで、別のドラマ 1 が叩くリズムに たいへんありがたい。それと、むろん静かだ。地球や宇宙で私の知乗って行進しているように。 コズモノ っているどんなものよりも、静かだ。どこでも、何らかの背景音と実際にもかれは、〈宇宙飛行士キリスト第五教会〉の敬虔な信者 いったものがつねにあるんだが、ここでは、あらゆる音が吸収されであった。それ以前の四つがどうなったのか、ノートンにはいまだ にわからなかったし、この教派の儀式や式典にも暗かったが、ただ てしまう。周囲の空間がとほうもなく大きいので、谺も響かない。 その信仰の中心教義はっとに知られていた。かれらはイエス・キリ うす気味が悪いが、そのうち慣れたいものだ」 ストが宇宙からの訪問者であると信じ、その前提に基づいて神学の 「どうも、艦長。ほかにだれでも・ーージョー、・、 十リス ? 」 話に窮したことのないジョー ・キャルヴァート中尉が、喜んで応大系を構築していたのである。 じた。 異常なほど多くのこの教派の信徒たちが、さまざまの資格で宇宙 「私がどうしても思いを致さざるを得ないのは、われわれが別世界で仕事をしていることは、おそらくそれほど驚くにもあたらない。 の上を、そこの自然の大気を吸いながら歩けたのは、今度が初めてかれらは例外なく、有能で、誠実で、無条件に頼りにできた。とり であるーーーかってなかったことである、ということですーーーもっとわけかれらは他人に改宗を勧めようとしないので、どこへ行っても 尊敬され、好かれさえした。それでもかれらには、どことなくかす も、このような場所に、″自然″という言葉を使うのは適当でない、 とは思いますが。それでも、ラーマはきっと、その建設者たちの世かに無気味なところがあった。ノートンには、高等な科学技術教育 界とよく似ているに違いありません。われわれ自身の宇宙船もみを受けた人間がどうして、この派の信者たちがよく口にする論議の な、ミニチュアの地球なのですから。たった二例ではあまりにも貧余地ない事実なるものを、いくらかなりとも信じこめるのか、その 弱な統計ですが、これは知的な生命形態というものが、みな酸素呼辺のところがどうしても理解できなかった。

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下れば、まったく問題がなくなるだろう。おかげで、探険がひじよ問題はまた別だ。 ほかにここでしなければならぬことは ? かれはまだ不慣れな弱 うにやりやすくなるよ。こりや大発見だーー呼吸装置なしで歩きま わる初めての世界ってわけだよ ! 実際は、これからひと嗅ぎ試し弱しい重力を楽しむこと以外に、何も思いっかなかった。しかし、 いまわざわざそれに体を慣らしたところで、どうせすぐまた、無重 てみるところだ」 軸端部にいるノートン中佐は、やや不安げに身じろぎした。だ力の軸端部へ帰るのだから、何にもならない。 が、マーサーは、自分が何をやるかをつねに弁えている点では、人「これより帰還する、艦長」と、かれは報告した。「もっと先に進 後に落ちなかった。かれはすでに、納得のいくまで充分試験ずみだまなきゃならん理由もないしーーずっと下まで降りる準備が整うま ったのだ。 ではね」 マ 1 サーは内外を等圧にすると、ヘルメットの留め金具をはずし「いいとも。帰りの時間を測ってみるが、気楽にやってくれ」 て、少し隙間を作った。用心深くひと息吸い、次にもっと深く吸っ 三、四段をひとまたぎに跳び上りながら、マーサーはキャルヴァ 1 トが完全に正しかったことを認めた。これらの階段は降りるため てみた。 ラーマの空気は死んでいて、かび臭かった。まるで、物質的な腐ではなく、登るために作られたのだ。うしろを振り返らず、また登 敗の最後の痕跡さえとうの昔に消減してしまった太古の墓から、漂りカープの目暈がしそうな険しさを気にせぬかぎり、この登攀は楽 しい経験であった。だが、二百段ほどを過ぎると、ふくらはぎに痛 ってくるかのような空気であった。生命維持システムのテストを、 命を張って長年続けるうちに鍛えあげたマ 1 サーの過敏すぎるほどみを感じ始めたので、スビ 1 ドを落すことにした。ほかの二人も同 鋭い嗅覚でさえも、これといって特別の匂いを嗅ぎつけることはでじだった。ちらりと肩ごしに見やると、坂のかなり下のほうにい きなかった。かすかに金属的な感じの香りがあり、かれは不意に、 ルナー・モジュール ただもう階段が無限に続 登りはまったく平穏無事な旅だった 月に降り立った最初の人間たちが、月着陸船を再加圧したときに、 いているように見えるだけだった。ふたたび梯子のすぐ下にある最 火薬の焦げるような匂いがした、と報告していたことを思い出し 上階のテラスに立ったとき、かれらはほとんど息切れもしていなか ったし、ここまで来るのに、十分しか経っていなかった。十分間休 月の塵に汚染されたイーグル号のキャビンの中は、むしろラーマ 憩をとると、かれらは最後の垂直の一キロを登りだした。 のような匂いがしたに違いない、とマーサーは想像した。 びよんと跳んでーーー段をつかみーー跳んでーーーっかみーー・跳んで かれはヘルメットを閉じ直して、肺の中から異星の空気を吐き出 つかみ : : : 簡単ではあったが、うつかりすると注意が散漫にな した。生命の維持に必要なものは、何一つそこから検出できなかっ た。これでは、エヴェレスト頂上の空気に順化訓練を受けた登山家る危険があるほど、退屈なくり返しであった。梯子を半ばまで登っ掲 でも、たちまち死んでしまうだろう。だが、もう数キロも降りれば、 たところで、五分間休憩した。このころになると、脚はもちろん、 こ 0 スキツ・ハ

10. SFマガジン 1975年8月号

思い出した。 と続いています。たった三本の骨を等角度でとりつけた傘を想像し おそらく、ここにあるのはさらに不思議な海だった・ーー・環状どこていただければ、ラーマのこちら端の光景が、よくつかめると思い 7 ろか、円筒形なのだから。恒星間の夜を飛ぶうちに凍りついてしまます。 うまでは、そこにも波が立ち、潮が満ち干き、海流が流れていたの これらの骨のそれそれが階段で、軸の付近ではきわめて急傾斜で だろうかーーそれに、魚はどうだ ? すが、眼下の平原に近づくにつれて、しだいになだらかになってい 照明弾はすうっとうすれ、そして消えた。黙示の時は終わった。 ます。これらの階段は、ーーアルフア、べータ、ガンマとそれそれ名 しかし / ートンは、これから一生涯、いま垣間見た光景が心に焼きづけましたがーー・連続的ではなく、途中五カ所で環状のテラスに区 ついて離れないだろうことを悟った。将来どのような発見がもたら切られています。われわれの見積もりでは、ステップの数は二万か されようとも、この第一印象は決して消し去られることはない。そら三万はあるに違いありません : : : たぶんこれは、緊急事態の際に して″歴史″はもはや異星文明の創造物を見た人類最初の男、とい だけ使用されたのでしよう。ラーマ人がーー何と呼んでも同じです う特権を、決してかれから取りあげることはできないのだ。 がーーー自分の世界の軸部分に到達するのに、もっといい手段をもっ ていなかったとはとうてい考えられないからです。 〈南半球〉のほうは、まったく様相を異にしています。一つには、 第九章偵察行動 階段がなく、中央の平面的なこしき部分がないからです。その代 り、巨大な尖塔ーー長さが何キロもありますーーーが軸に沿って突き 「われわれはただいま、円筒世界の軸沿いに、五発の長時間遅発照 明弾を発射して、端から端まで綿密な写真撮影をおこなっていると出ており、その周囲にもっと小さい六本の尖塔を従えています。全 ころです。おもな地形はすでにマツ。フしました。確認可能なものは体の配置が非常に奇妙で、これが何を意味するのかは、見当もっき ません。 ごく僅かですが、一応それそれに仮の名称をつけました。 空洞内部の長さは五十キロ、幅は十六キロです。両端はおわん型 二つのおわん部の中間に横たわる、長さ五十キロの円筒部分を、 ですが、かなり複雑な幾何学的設計になっています。われわれはこわれわれは〈中央平原〉と命名しました。明らかに彎曲しているも ちら側の端を〈北半球〉と名づけ、目下、ここ中央軸上に、最初ののに、″平原という言葉を使うのはばかけて見えるかも知れませ 基地を建設中であります。 んが、感じからすればそれで正しいと思います。そこに降り立って 中央のこしきからは、輻射状に一二〇度間隔で、三本の梯子がほみれば、実際平らに見えるでしようからーーー中を這いまわるアリか とんど一キロにわたって延びています。梯子はテラス、ないしはおら見れば、びんの内側も平らに見えるに違いないのと、同じ理屈で プラトー わんをぐるりと一周している環状の台地のところで終わり、そこかす。 〈中央平原〉のいちばん目立っ地形は、ちょうど中間点をぐるりと ら先は、やはり梯子と同じ方向に、三列の階段が下の平原までずつ はしご